『時空を越えた黄金の闘士』

第三十三話 「闇の書の闇」

 

『ギャラクシアン・エクスプロージョン』がぶつかり合い、中間で燻っていた。

「クッ……先程と同じ様に互いのパワーが中間で燻っている……」

「このままでは、双方力が抜けん……。一瞬でも気を抜けば、お互いのパワーを纏めて喰らうことになる……」

先程と違い、今回はお互いの最大の奥義のぶつかり合いである。

一瞬の気の緩みが死へと繋がるであろう。

 

 

 

『ギャラクシアン・エクスプロージョン』のぶつかり合いで生じた余波は、フェイトたちの方にも届いていた。

皆、魔法の障壁を展開し防御するが……それでも伝わってくる衝撃はそこらの魔法と比べものにならない程、ケタ違いの威力であった。

余波でこのレベルなのだから、まともにぶつかれば……障壁などあって無きが如しであろう。

「……衝撃が此処まで来るとは……不味いな…」

「……急いでこの場から離れないと危険だよ!」

シグナムとユーノが危惧の言葉を発するが、フェイト達は動こうとしなかった。

フェイトにすれば、大好きなカノンが心配であり、はやて達はサガの肉体が『闇の書の防衛プログラム』であるので、それが滅びるのを確認しなければ気が済まなかったからである。

「カノンはどうなるんだい?」

フェイトと同様カノンの事が心配なアルフがムウに問う。

「先程も話したとおり、このままではお互いが消滅する可能性が高いです……」

「じゃあ、さっきフェイトが言ったようにアンタ達が協力すれば……」

「今、介入すれば逆にカノンの身は元より俺たちも危なくなる……」

あれほどの力のぶつかり合いに下手な横槍を入れれば、それこそこの辺り一帯が吹き飛ぶ可能性があるのだ。

「あれ!?」

その時、なのはが素っ頓狂な声を上げた。

「どうしたの……なのは?」

「何か、カノンさんの方が押し始めたみたい……」

「何!?」

視線をアルフからカノン達の方に戻したムウとアイオリアもそれに気付いた。

「……確かに、小宇宙といい、威力といい間違いなくカノンの方が押し始めている…」

 

 ★☆★

 

「ば…馬鹿な……何故…私の小宇宙がこれ以上高まらないのだ?」

サガに焦りが浮かび始めた。

カノンの小宇宙が増大しているのに、自分の小宇宙がこれ以上上がらないのだ。

これほどの極限状態なのに……まだまだ上がるカノンの小宇宙。

にも関わらず何故、自分の小宇宙が上がらないのか……。

中間で燻ってる力も、徐々に押され始めている。

その時、サガの体に変調が起こった。

サガが吐血したのだ。

そして、その隙を見逃すカノンではなかった。

「今だ!くらえサガ!!」

「し…しまっ……ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

中間で燻っていた力が全てサガに襲い掛かり、サガは『ギャラクシアン・エクスプロージョン』の奔流に飲み込まれた。

 

 

 

「決まった!」

「ああ」

「あれほどの力を喰らったのだ……如何に防衛プログラムと言えども……」

再生など間に合わなかった筈……。

「……いや…流石はサガというべきか…」

しかし、ムウとアイオリアの顔からは安堵の表情は浮かんでいなかった。

「先程のカノン同様、なんとか直撃を避けたようでした……」

「そ……そんな…」

「あのタイミングで……避けたというのか?」

シグナム達は改めて、サガという男の恐ろしさを痛感した。

「しかし……」

「何故、サガが吐血したのか……」

 

 

 

全身から血を流しながらも、サガは生きていた。

再び『防護服』は粉砕されていた……。

カノンは、サガが再び再生すると思い、構えた……が…。

「ば……馬鹿な…何故…何故、再生が始まらないのだ!」

それどころか、出血が酷くなってきていた。

 

 

 

「サガの様子がおかしいですね……」

「ああ。何かあったのか?」

ムウ達もいぶかしんでいると、はやてと融合していたリインフォースの念話が皆に届いた。

【原因が分かりました……】

「えっ…どういうことやリインフォース…?」

【サガは……未完成だったのです】

「未完成……って?」

【サガは、本来なら『闇の書』の主である貴女と管制人格である私も取り込むつもりだったのです。改変された『防衛プログラム』を御することなど歴代の主も私も出来ませんでした……。サガはその強大な精神力で無理矢理プログラムを支配しました……。しかし、やはり『闇の書』の主は『八神はやて』であり、その管制を行っているのは私です。私達を取り込んでいれば、サガは完璧にプログラムを支配できたのでしょう……。しかし、カノンにそれを邪魔されてしまい、未完成の状態で実体化しました】

「成程……私も理解出来ましたよ……」

今の説明を聞き、ムウも理解した。

サガの『悪の人格』の精神力は強大である。

最初は小さかった『悪』だったが、覚醒したと同時にそれは途轍なく巨大な力と化した。

星矢と闘っていた時、本人格であるにも拘らず『善の人格』は星矢が『アナザーディメンション』で異次元に跳ばされそうになった時、邪魔をすることが出来たが、闘いの最中に『悪の人格』から体の主導権を取り戻す事が叶わなかった。

それほどの強大な精神力なので、歴代の『闇の書』の主が御せなかった『防衛プログラム』を御することが出来ていたのだ……。

「ですが……。流石のサガも、自分と同格の力を持つカノンと闘っていれば、当然、精神力も消耗します……。そして、先程の『ギャラクシアン・エクスプロージョン』同士のぶつかり合いで更に消耗したのでしょう……。『防衛プログラム』を御することが不可能なくらいまで……。そして、所詮『借り物』肉体では、小宇宙を限界以上まで高められる筈がありません…故に追い詰められることにより、どんどん高まっていったカノンの小宇宙を超えることが出来なかったのでしょう……」

もはや、時間の問題であった。

 

 

 

ムウとリインフォースの解説は念話として、カノンとサガにも届いていた。

「……どうなら此処までのようだな……。所詮、お前はサガに巣食っていたヤドリギに過ぎなかったようだな……。サガという完全に適合する『宿主』を失っている今のお前ではそれが限界……結局、お前はどう足掻いても、『神』になることは出来なかったのだ!」

サガの支配から解放されつつある『防衛プロクラム』は徐々にサガの姿を崩し始めていた。

「……よかろう…。ならば『闇の書の闇』よ!『私』をくれてやる!!そして、全ての世界を呑み込んでしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

サガの体が再び澱みに包まれた。

今度こそ、『闇の書の闇』の暴走が始まる。

満身創痍のカノンは何とかムウたちのいる所まで退がった。

「カノン……大丈夫?」

傷だらけのカノンを見て、泣きそうになりながら訊ねる。

「シャマル……カノンさんの治癒を…」

「はい、はやてちゃん……。でも流石に傷が深過ぎますので、直ぐに完治は出来ませんよ…」

「いや、応急処置でもしないよりはマシだ。シャマル…やってくれ!」

「分かりました。静かなる風よ、癒しの恵を運んで……」

アイオリアに促され、シャマルは回復魔法『静かなる癒し』を使い、カノンに治癒を施した。

「……少しは楽になった…。シャマル…礼を言う…」

普通の傷ならば完全回復するのだが、今のカノンの傷は普通なら死んでもおかしくないほどの重症であるので、完全には回復しなかった。

しかし、それでも身に見える傷は塞がったようである。

その時、リンディから通信が入った。

【カノンさんが戦場を変えてくれたお陰で、躊躇いなく『アルカンシェル』を使えます。クロノ、皆さんをアースラに帰還させます】

「了解です。艦長…」

 

 ★☆★

 

アースラのブリッジに来たカノン、ムウ、クロノ、なのは、フェイト、ユーノ、アルフ、そして、はやてと融合を解いたリインフォース、守護騎士たちとアイオリアはモニターで『闇の書の闇』を見ていた。

なのは達の意向で、はやてとアイオリアは勿論のこと、リインフォースと守護騎士たちは拘束されていなかった。

「初めましてはやてさん、アイオリアさん……そして、リインフォースさんと守護騎士の皆さん。アースラ艦長のリンディ・ハラオウンです……」

「はい…初めまして…」

いきなり笑顔で挨拶されて、はやてとアイオリアは普通だが、守護騎士たちは罰の悪そうな顔していた。

一応、管理局と敵対する立場を取っていた負い目からであるが……。

「艦長。『アルカンシェル』の発射準備が整いました!」

「では、澱みが晴れ次第、発射します」

「了解。カウントダウン十秒前」

時間がカウントされているのを横で聞きながら、皆、『闇の書の闇』を見つめていた。

「これで終わりか?」

「聞いたところによると、『アルカンシェル』とやらは、カノンの『ギャラクシアン・エクスプロージョン』と同レベルの破壊力で、その効果範囲が百数十キロに及ぶそうですよ……」

「成程……並の者ではどうすることも出来んな……」

等と話している内にカウントが終わり、澱みが晴れ、『闇の書の闇』が姿を現した。

下半身が獣の牙と前脚、甲殻類の様な四本の足、黒い六枚の羽を持ち、その周りに触手の様なモノに囲まれていて、上半身は人の姿をしており、その容姿はサガであった。

「…『アルカンシェル』、バレル展開!」

「ファイアリングシステム、オープン!」

リンディの前に火器管制機構が現れ、そこにトリガーとなる鍵を差し込む。

「…『アルカンシェル』……発射!!」

赤くなったトリガーを回し、『アルカンシェル』が発射された。

アルカンシェルとは、弾体自体にはそれほどの攻撃力はないが、着弾後に一定時間の経過によって発生する空間湾曲と反応消滅で対象を殲滅する魔導砲である。

直撃すれば、黄金聖闘士であっても無事では済まないだろう……。

『直撃すれば』であるが……。

その時、『闇の書の闇』が雄叫びを上げながら、両手を頭上でクロスした。

「何!?」

「あ……あの構えは!?」

 

ギャラクシアン・エクスプロージョン!?

 

『闇の書の闇』から放たれた『ギャラクシアン・エクスプロージョン』は、そのままアルカンシェルと激突し、その影響で凄まじい衝撃が拡散した。

「急速離脱!」

「間に合いません!!」

「総員、対ショック姿勢!!」

衝撃は、退避していたアースラにも襲い掛かってきた。

「「「「「「「「「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」」」」」」」」

ブリッジに居た者たちはそれぞれショックに備え、近くにある物にしがみ付き、カノンはフェイトを、ムウはなのはを、アイオリアははやてをそれぞれ庇う。

艦内にアラートが鳴り響く。

「……クッ…被害状況は?」

「…『アルカンシェル』のシステムに損傷を確認。これではもう撃てません」

「ま…まさか…『アルカンシェル』に『ギャラクシアン・エクスプロージョン』をぶつけてくるなんて……」

クロノは戦慄した。

サガを取り込んだ『闇の書の闇』は、『アルカンシェル』に対抗する手段を得てしまったのだ。

あの巨体から発せられた『ギャラクシアン・エクスプロージョン』は、威力はそのままだが速度は『光速』どころか『音速』にも満たない。しかし規模が『アルカンシェル』級になっているのだ。

「……クッ…状況は…最悪だ…」

 

〈第三十三話 了〉


 

真一郎「事態は終息を迎えると思いきや…」

そうは問屋がおろさなかった

真一郎「どうするの?」

もはや、あの『手段』しかないね…

真一郎「ま…まさか…『アレ』!?」

では、これからも私の作品にお付き合い下さい

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」




いや、無事に終了かと思ったら。
美姫 「かなり厄介な事になっちゃったわね」
だな。まさか、取り込んだ対象が聖闘士でもその技を取り込めるとは。
美姫 「かなり速度は落ちているみたいだけれどね」
その代わりに広範囲となっているし、厄介なのは厄介だな。
美姫 「まだまだ終わりそうもないわね」
ああ。一体どうするんだろうか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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