『時空を越えた黄金の闘士』

第三十二話 「双子座対双子座」

 

「さて、それでは我々もカノン達の転送された世界に行きますか」

「そうだな…」

皆、それぞれ頷いた。

ムウは、今まで自分が護っていた少女達―――アリサとすずか―――に視線を向けた。

「もう、大丈夫です。我々が此処を離れれば、貴女たちは日常に戻れますよ……」

そうしている間に、クロノはエイミィに自分達も転送する様に指示していた。

「ち……ちょっと待ちなさいよ!」

納得のいかないアリサが叫んだ。

「何が起こったのかちっともわからないままじゃない。さっきのアンタたちの会話もわけが分からなかったし……」

「それは後でなのは達が説明してくれますよ……。もうこの3人も貴女達に全て話してくれるでしょう…。でも、今は部外者の出る幕はありません…」

「部外者ですって―――っ。なのはとフェイトが関わっているのに……」

親友が何か妙な事に巻き込まれているのに、部外者扱いされたことに立腹する。

「……貴女の理屈に付き合うつもりはありません。貴女達2人は立派な部外者です」

「何でよ!」

「それは、貴女達2人は戦う力を持たないからです!」

ここに居る者は皆、小宇宙や魔法という戦う力を持っている。

アリサは確かに頭脳は優れているが、それはあくまでも一般人としての頭脳に過ぎない。

すずかも運動神経はかなりの高スペックだが、だからといって戦うことができるわけではない。

「戦場において、戦う力を持たぬ者を部外者と言わずなんと言うんですか?先ほどまでは、貴女達は戦いに巻き込まれた民間人でしたから、私が貴女達を護っていました。ですが、戦場を移動するに際し、戦えない者を同行させる必要がありますか?それとも……貴女達は自ら足手纏いになりにいくつもりですか?」

ムウの正論の前では、いくら頭脳明晰なアリサでも反論など出来なかった。

確かにアリサは天才的な頭脳を持っているが、やはりまだまだ9歳の小娘に過ぎないのだから……。

「アリサちゃん、すずかちゃん。帰ったら全部話すから……今日のところはこのまま…」

「お願い。アリサ、すずか…」

「ごめんなぁ…」

なのは、フェイト、はやてからも懇願され、アリサとすずかは不承不承ながら承諾した。

「帰ってきたら全部話しなさいよ!」

「なのはちゃん。フェイトちゃん。はやてちゃん。気をつけてね…」

「それじゃあ、エイミィ……。僕達も転送を…」

【了解!】

 

 

 

ムウたちが転移した先は、廃墟と化した世界であった。

「この世界は?」

「管理局が設立される以前に滅びた世界です。異常気象により農作物も育たなくなってしまい、この世界の人々は他の世界に移住したそうです……。これといった資源もなく、僅かにあった資源も全て掘り尽くされているので、管理局もこの世界を開拓してまで復興する必要性がなくそのままのようです…」

「ゴーストタウン……いや、ゴーストワールドとでも言うべき世界というわけか……」

「カノン達は何処に?」

フェイトがカノン達を探そうと辺りを見回すと先の方に光がちらちらしているのを見つけた。

ムウとアイオリア以外は、それを見て唖然とした。

光ったと思えば、辺りの瓦礫が次々と粉砕されているのだ。

間違いなく、そこにカノン達はいる……。

しかし、フェイトたちにはその闘いを視認することさえ出来なかった。

カノンとサガ……2人の双子座の高速戦闘……否、光速戦闘というべきか……。

「見える……クロノ?」

「無茶言うな!漸く音速の域に達したばかりの僕が光速の動きを見切れるわけないだろ!」

今、この場で2人の動きを視認できているのは、ムウとアイオリア……あの兄弟と同格である黄金聖闘士だけであった。

「今、2人は秒間に一億発の攻撃を応酬をしています」

「一秒間に一億発!?」

「そうです。音速《マッハ》1の速さを持つクロノは一秒間に百発の蹴りを撃てますが、我々、光速の速さを持つ黄金聖闘士は一秒間に一億発の拳を撃てるのです」

しかも、その一つ一つが破壊の究極である「原子を砕く」威力である。

聖闘士という存在を今まで知らなかった守護騎士たちは言葉も出なかった。

「我々が勝てんわけだ……」

「ギガ凄ぇ……。本当に化け物かよ。黄金聖闘士っていうのは……」

「人間がそこまでの領域に辿り付けるモノなのか?」

「いや、普通じゃ無理……」

感歎する守護騎士たちに、聖闘士の修行を受けていたクロノがそう答える。

よく生き残れたものだ……と、今までカノンに受けた修行を思い出し、背筋が冷えた。

 

 

 ★☆★

 

「ほう、やるな……カノン!」

「貴様もな……」

光速拳の応酬を止め、足を止めた。

「では、これならどうだ!」

「クッ!」

2人は同時に攻撃を仕掛けた。

お互いのパワーが中間でくすぶっていた。

「むう……押しきれんか?」

「どうやら、俺たちのパワーは完全に互角のようだな……」

「フッ…この私と互角とは……さすが我が弟というべきだな…カノン!このままいけば……千日戦争になるか…」

サガとカノンが、互いに動きを止めて拳を放った為、どうにかクロノ達にも視認できるようになっていた。

「……あの2人の中間に凄いパワーがくすぶっている……」

「不味いですね……」

「ああ…」

「えっ、どういうことですか?」

ムウとアイオリアの危惧を察し、ユーノガ訊ねた。

「実力伯仲の黄金聖闘士同士の戦いは、二通りの結末が予想されます……」

「お互いが一瞬の内に消滅するか……千日戦争に陥るかのどちらかだ」

千日戦争とは、実力が伯仲している為相手に決定的な攻撃を加えられず、千日間戦っても決着がつかない状態のことである。

サガは言うに及ばす、カノンもそのサガと瓜二つの実力を持っているのだ。

正面からぶつかりあえば、こうなるのは自明の理であった。

「千日戦い続ければ、どちらもタダではすまん…」

結局、2人のパワーはお互いを相殺し合い消滅した。

「このまま戦っても埒があかんな……」

しかし、『ギャラクシアン・エクスプロージョン』を撃ち合うわけにはいかなかった。

間違いなく、その結果はお互いの消滅である。

再び、お互いの光速拳の応酬が始まった。

 

 

 

何度目かの応酬が過ぎた頃、目に見える変化が現れ始めた。

カノンが押し始めたのだ。

「カノンが押しているな……」

「2人の実力は互角……そうか!」

ムウが思い当たった。

「2人の実力は互角ですが……2人の纏っている聖衣に差があるのです…」

形こそ似通った聖衣を纏っているが、カノンが纏っている聖衣は、黄金聖衣なのに対し、サガが纏ってるのは……。

「……そうや、サガが着とるのは形こそ『双子座』の聖衣やけど、あれは『騎士甲冑』や!」

はやても思い当たった。

そう、サガの肉体はあくまでも『闇の書の防衛プログラム』であり、サガの『悪心』が乗っ取っているだけに過ぎない……。

つまり、サガが纏ってるのはなのは達が着ている『防護服《バリアジャケット》』。

ベルカ式で言えば、『騎士甲冑』なのであった。

如何になのは達のよりは桁外れに防御力の高い『闇の書の防衛プログラム』の『騎士甲冑』とはいえ、それでも『聖衣』とはその防御力は鋼鉄とダンボール紙くらいの差がある。

しかも、原子を砕く聖闘士の拳を防ぐ事は、いくら聖衣に形を似せていても、『防護服』でははっきり言って不可能である。

実力が伯仲している為、その装備によって差が出始めたのだ。

聖衣を纏った黄金聖闘士と聖衣を纏っていない黄金聖闘士。

そのハンデは、思ったよりも大きかったようである。

「これで終わりだサガ!」

カノンの渾身の一撃がサガの『騎士甲冑』を完全に粉砕した。

「グハァ!!」

完全にヒットした一撃を受けたサガが吹き飛び、壁に叩きつけられ、崩れてきた瓦礫に埋もれた。

「よし、決まった!」

「確実にヒットしました……」

「カノンか勝ったんだね…」

フェイトがホッとしてカノンに近づこうとした時……サガを埋め尽くしていた瓦礫が吹き飛んだ。

ウワーッハッハッハッハッ!残念だったなぁ……カノン…」

傷だらけになったサガだが、その口は笑みを浮かべていた。

「そんなダメージを受けていて、口が減らんなサガ……」

「フッ……忘れたかカノン…?私のこの肉体は『闇の書の防衛プログラム』なのだということを……」

「何ッ?……バ…馬鹿な……き…傷が…!?」

サガの傷がみるみると癒えていった。

「そうか……『闇の書の防衛プログラム』は無限の再生を繰り返し、周りのものを侵食していく……。つまり、いくら奴にダメージを与えても…瞬時に再生してしまうんだ……」

ユーノが防衛プログラムの特性を思い出し、それを口にすると皆もそれを思い出した。

「つまり、奴を倒すには……」

「『アルカンシェル』級の破壊力を用いて、塵一つ残さず消滅させるしかない……」

つまり、『ギャラクシアン・エクスプロージョン』でサガを跡形もなく消滅させるしかないのである。

「だが……サガも当然『ギャラクシアン・エクスプロージョン』を撃てる……」

もともと『ギャラクシアン・エクスプロージョン』はサガの技である。

黄金聖闘士同士の決着のもう一つの可能性である「お互いの消滅」が皆の脳裏に閃いた。

「そ……そんな……」

いくらサガを倒しても……カノンまで死んでしまったら……。

今のフェイトにとって、カノンを喪うことは耐えられなかった。

「フッ……確かに防御力は黄金聖衣を纏っている貴様の方が上だが、無限の再生を繰り返す私相手にいつまでもつかな……」

無限の再生能力があるサガは、体力も無限なのである。

つまり、サガには千日戦い続けられる余力があるということである。

千日戦争に陥ったら、カノンが圧倒的に不利であった。

「フッ……。もはや勝負は決したな…」

そう言うとサガは構えをとった。

「……しまった!」

カノンは慌てて回避行動に入るが、間に合わずサガの攻撃を喰らった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ……!」

サガから放たれた凄まじい力により、カノンは吹き飛ばされた。

「カノォォォォォォォォォォン!!」

フェイトの絶叫の声が響く。

「今のは……!?」

「サガ必殺の……『ギャラクシアン・エクスプロージョン』…!!」

「あ……あれが『ギャラクシアン・エクスプロージョン』!?」

「な……何という技だ…。あれが一個人が放った技だというのか……」

この技を始めて見る守護騎士たちは、そのあまりの破壊力に戦慄した。

まさしく、「銀河を砕く」というに相応しい技であった。

直撃は避けたモノの、カノンはかなりのダメージを負ってしまった。

カノンの纏ってるのが黄金聖衣でなければ、如何に直撃を避けていてもこれで終わっていたかもしれなかった。

立ち上がったカノンに、サガが攻勢に出た。

サガの光速拳が次々とカノンにヒットしていく……。

「フッ……所詮、お前はこの程度……。私に敵う筈が……なかったのだぁ――――――っ」

サガの右ストレートがカノンの左頬に直撃する。

もはや一方的な展開になっていた。

「……や……やめて……やめて……やめて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

フェイトは、なす術もなくサガの攻撃を受け続けるカノンを見ていられなくなっていた。

「ムウ……アイオリア……お願い…カノンを助けて……」

フェイトがムウとアイオリアに懇願するが……2人は動こうともしなかった。

「ムウさん……このままじゃカノンさんが……」

「リア兄ぃ……!」

なのはとはやての言葉にも2人は反応しなかった。

「ムウ……アイオリア!!」

動かない二人に、フェイトが激昂しかけたが、それをクロノが制した。

「クロノ!?」

フェイトは、クロノが冷静な表情でいるのを見て、今度はクロノに喰ってかかろうとしたが、その前にムウがクロノに語りかけた。

「クロノ……気付きましたか?」

「はい……。一見すればカノンさんはサガに手も足も出ない状況ですが……カノンさんの『小宇宙』は衰えるどころか……」

「ますます高まっている……既にカノンの『小宇宙』はサガを上回るほどに……な…」

 

 

 

「…バ…馬鹿な……カノン…貴様は…!?」

自分の猛攻を受け続けながらも、小宇宙が増大しているカノンを見て、サガは戦慄していた。

「……忘れたか…サガ…」

「何!?」

「星矢は、貴様によって五感を絶たれ、傷だらけになっても……生命の炎が燃えている限り……何度も立ち上がり…貴様を倒したことを……どれだけ追い詰められても…諦めさえしなければ……最後に勝つのは……この俺だ!!」

カノンの小宇宙は、サガを凌駕し始めていた。

カノンが反撃を開始した。

満身創痍とは思えぬ程の光速拳が繰り出され、サガは避けきれず直撃した。

「グオッ!き……貴様…。ならばこの一撃で終わらせてくれる!!」

サガは、『ギャラクシアン・エクスプロージョン』の構えを取る。

そして、カノンも…。

「ま……まさか…。やめろカノン…!自ら消滅を望むつもりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

アイオリアが叫ぶが、2人には届かなかった。

「「『ギャラクシアン・エクスプロージョン』!!」

 

〈第三十二話 了〉


 

やはり、戦闘描写は難しい……。

真一郎「……愚図だな…」

うっさい。

真一郎「とにかく、二つのギャラクシアン・エクスプロージョンがぶつかりあいました」

さて、どうなるのでしょうか……。

では、これからも私の作品にお付き合いください。

真一郎「お願いします。君は小宇宙を感じたことがあるか!?」




やっぱり黄金聖闘士同士の闘いは凄いな。
美姫 「目に見えない速さで繰り出される拳の応酬。燃えるわね」
はいはい。一方はクロスに差があるものの、回復してしまう、か。
美姫 「カノン不利のままかと思ったけれど、やっぱりこういう展開は良いわよね」
互いに技を繰り出し……ああ、その先が気になるな。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。



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