『時空を越えた黄金の闘士』

第三十話「明らかにされる過去」

 

WHO ARE YOU?

お前は誰だ……。

正義か悪か、神か邪悪か。

答えろサガよ。お前は誰だ。

 

「う…う…うう…」

 

WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU?WHO ARE YOU

 

「ええーい失せろ!これ以上私の邪魔をするなぁ――――っ。お前がいなければ、この大地はとっくに私のものだったのだ!お前は十三年間悉く遮ってきた。もう邪魔はさせん!」

 

よせ、お前こそこれ以上罪を重ねるな。アテナは決して死にはしない。アテナに詫びろ、そして罪を償え!

 

「だまれ〜〜〜〜!何度も言ったはずだ。この私こそが地上の救世主なのだ!!」

己の内から聴こえる『声』と言い争いながら、サガはアテナ神殿へ駆けていた。

先にアテナ神殿に向かった星矢を止める為に……。アテナの命を救う『アテナの楯』を星矢に使わせない為に……。

「うっ」

サガがアテナ神殿に辿り着いたとき、巨大なアテナの神像がサガの眼前に現れた。

「ア…アテナ…」

まるで、カノンを見つめているように……。

「むっ、星矢!!」

我に返ったサガは、目前で『アテナの楯』に触れようとしている星矢を発見した。

「お…おのれ!楯に触らせるか―――――――――っ」

 

 

 

星矢!

星矢!

星矢!

星矢!

星矢!!

刻一刻と過ぎる時の中、邪武達青銅聖闘士が、アルデバランが、アイオリアが、シャカが、ミロが、ムウと貴鬼が、魔鈴とシャイナが……消えようとしている火時計を注視していた。

 

 

 

「アテナよ!我に正義の楯を与えたまえ!!」

星矢の声に応え、アテナの神像から、楯が変形縮小し、星矢の手に収まった。

「死ね星矢―――――――っ」

「楯よ女神を救え――――――っ」

沙織が倒れている方角に楯を翳す星矢。それは、襲い来るサガと同じ方角だった。

 

 

 

火が消えた―――――っ!!

 

 

 

『アテナの楯』から発せられた光がサガに浴びせられ、さらに倒れている沙織の傍らの黄金の杖がその光を受け、反射して沙織の照らした。

沙織の胸に刺さった黄金の矢が跡形もなく消え去り、沙織は目を開けた。

それは光の速さをも超えた、まさしく一瞬の出来事だった。

「う…く…」

『アテナの楯』の光を浴びたサガは、髪の色を紫から金へと変化させながらその場に倒れた。

 

ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

断末魔の叫びと共に、サガの体からオーラが立ち上り消えていった。

「な…何だ、サガの体から抜けていった今のオーラは…?」

星矢は倒れたサガの顔を確認した。

「サガの表情が元の優しく清らかな顔に戻っている…。『アテナの楯』の光を浴びたことにより体内に潜む邪悪も消し飛んだのか……よ…よかった…本当に…」

星矢は安堵の笑みを浮かべ……

「こ…これで…、も…もう…」

その場で力尽きた。

 

 

 

しかし、この『邪悪』は決して消滅したわけではなかった。

サガの悪心は、エデンの結界と時空を越えテラに……。

そして、その地に転生していた『闇の書』の中の最も忌むべき部分。『闇の書』を暴走させる諸悪の根源である『防衛プログラム』に取り憑き、書の起動と共に侵食していき、新たなる活動体にしようとしていたのだ。

 

 ★☆★

 

「……弟!?」

「……兄さん!?」

サガとカノンから発せられた単語に、なのは達は戸惑った。

「あの人……カノンのお兄さん!?」

「……正確には、カノンの兄に巣食っていた邪悪な心……と、言ったところですね…」

語りだしたムウに、皆の視線が集まった。

「カノンの双子の兄であり、真の『双子座』の黄金聖闘士であるサガは、俗に言う『二重人格者』だったのです。人間は誰でも心に『善』と『悪』を持っているのです。なのは、フェイト、はやて……貴女たちも当然持っています。人間は理性によって悪を抑えているときは善人となり、欲望に負けたときは悪人となる……。サガは、その『善』と『悪』のまったく相反するものがとてつもなく強すぎたのです…。だから、『悪』が心を支配すれば、今、私達の目の前に居るような巨大な邪悪となり、『善』の心が支配すれば神の様な男になる……。アレはそのサガの『悪』そのモノの様ですね……」

「……神!?」

「ええ、十三年前、サガは神の化身ではないか……と、言われるほど心が清らかだと認識されていました。どんな者にもわけ隔てなく優しい男でした。故にまるで『神』のように多くの人たちから慕われていた男でした……」

話を聞いても、皆とても信じられなかった。

カノンと対峙している男は、誰が見ても邪悪……。

サガから発せられる禍々しい気配は、なのは達の心胆を震えさせるに十分な程の悪意に満ちているのだ。

永き時を生きてきたヴォルケンリッターでさえも、これほど邪悪なる存在を見たことがなかった。

彼女達は、かつてカノンから感じた恐怖以上のモノをサガから感じていた。

はやても『闇の書』に潜んでいたモノが、想像以上の代物だったことに怯え、無意識にアイオリアの腕にしがみついていた。

不安に駆られ、アイオリアに視線を向けたとき、はやては見た。

兄の憤怒の表情を……。

アイオリアが怒ったところを見るのはこれが初めてではない。

時折、ヴィータやシャマル相手に叱っているアイオリアを何度か見たことがある。

しかし、これほどの怒りを見せるアイオリアなど、はやては見たことがなかった。

「…リ…リア兄ぃ!?」

「……アイオリア!」

「分かっている!!」

不安げなはやてと、諌める様なムウの口調にアイオリアは荒々しく返事をした。

「カノンに譲ると言ったんだ。手を出すつもりはない……だが……」

アイオリアは自制するのに必死だった。

しかし、あのサガを見ているとアイオリアの心に激しい怒りが噴き出してくるのだ。

「…リア…いったいどうしたんだよ……」

「アイオリアさんが、これほど怒るなんて……」

ヴィータもシャマルも困惑していた。

彼女達にとってアイオリアは、叱られるときは怖いが、普段は優しく暖かな男だという認識を持っている。

だからこそ、ヴィータははやてと同じ様にアイオリアにも甘えたりしていたのだ。

そんなヴィータにアイオリアは、優しく接してくれていたのだ。

ヴィータは、そんなアイオリアをはやてと同レベルで慕っていたのだ。

「確か……ムウと言ったな……。アイオリアのあの怒りは、いつものアイツに比べれば、はっきり言って異常だ…。何かあったのか?」

シグナムが皆を代表し、ムウに問う。

なのはとフェイトも、先程の『仮面の男』に対する以上の怒りを見せるアイオリアに戸惑っていた。

「……あのサガは、アイオリアにとっては……『兄の仇』に等しい存在……」

「「「「「ッ!?」」」」」

アイオリアを家族として見ている八神家は、この返答を聞き絶句した。

 

 ★☆★

 

アテナを補佐し、聖闘士を統括する権限を持つ『教皇』。

その気になれば、大地を征服することも可能な存在である。

故に、教皇になる者は『心・技・体』ともに優れた者でなければならない。

だから、教皇は代々、黄金聖闘士の中から、アテナもしくは前教皇自らの指名によって決まる。

アテナか前教皇が、これこそ聖闘士の頂点に立つに相応しい認めた者に次の教皇の座が与えられる。

十三年前、教皇と共に前聖戦の生き残りである『天秤座』の童虎を除く十一名の黄金聖闘士の中で、次期教皇候補に選ばれたのは、『射手座』のアイオロスと『双子座』のサガの二名だった。

他の黄金聖闘士はまだ歳若く、教皇に選ばれる程ではなかった。

 

 

 

数百年ぶりアテナが、人の姿を借りて降臨した。

それは、次の聖戦が近づいてきている証拠である。

聖戦に備える為、教皇シオンは、教皇の座を退き、候補のどちらかに譲ることを決めた。

教皇はアイオロスとサガを呼び出し、次期教皇を指名した。

「仁・智・勇を兼ね備えた『射手座』のアイオロス。これよりはお前に教皇の座を任せることにする」

「は?わ……私がですか…」

指名されたのは、神の化身と呼ばれるサガではなく、アイオロスだった。

「サガよ」

「はっ」

「聞いたとおりだ。アイオロスに力を貸して、これからも聖域の為に尽くしてくれ。よいな」

「はい。アイオロスこそ次期教皇に相応しい立派な聖闘士だと私も思っていました。アイオロスに協力を惜しまず、アテナの為、正義の為に、このサガ、これからも一命をかけて尽くしましょう」

 

 

その後、教皇がアテナに代わり、星の動きで大地の吉兆を占う『星見』を行う場所、教皇以外立ち入ることが許されない禁区『スターヒル』において……その禁を破り侵入したサガが教皇に問うた。

何故、神の様に慕われている自分が次期教皇に選ばれなかったかを……。

仁・智・勇においても、いや全てにおいて、アイオロスより自分の方が勝りこそすれ劣っている筈がないのだから……。

「よかろう。それほど言うのなら教えてやろう」

教皇は、サガの心の奥底から不気味なモノを感じていた。

確かにサガは、神の化身と呼ばれ、サガ自身も清らかに生きている。

それは、教皇も認めていた。

しかし、サガの魂にとてつもない悪魔が住んでいる……そう感じていたのだ。

教皇の返答を聞いていたサガが突然苦しみだし、その金髪が暗い紫に変化していった。

「み…見抜いていたのか、私の秘密を…。さすが教皇…老いたりといえども前の聖戦の生き残りだけのことはあるようだな…」

髪の色が完全に変わると傅いていたサガが立ち上がり……。

「死ね教皇!!」

その拳が、教皇の胸を貫いた。

「ぐ…うう…や…やはり私の目に狂いはなかった…。お…お前は神などではない…。じ…邪悪の化…身…」

全盛期の頃の教皇なら、いくらサガが強大であろうがこれほど容易く殺されなかっただろう。

だが、老い衰えた今の教皇では、サガの不意打ちに対処することが出来なかったのだ。

教皇は、その場で息絶えた。

「老いぼれめ。なまじ私の正体を見抜くからこんなことになるのだ」

教皇を暗殺したサガは、教皇のマスクと法衣を身に纏った。

教皇の素顔は、マスクに覆われている。

顔を見たことがあるのは、五老峰に居る老師……『天秤座』の童虎以外みたことがないはず……。

実はもう1人、教皇の素顔を知る人物が居るのだが……。

「こうなった以上、私がこのまま教皇に成りすまして聖域を掌握する」

降臨したばかりで、まだ赤子であるアテナをくびり殺すなど、造作もない。

「このサガが、アテナに代わり大地を支配するのだ!!この世の『神』そのモノになるのだ。ウワーハハッ!!

 

 

 

アテナ神殿に赴いた教皇は、幼子のアテナを黄金の短剣で刺し殺そうと振り下ろした。

しかし、その凶行を止める者がいた。

「き…教皇。正気ですか……?」

『射手座』のアイオロスである。

アイオロスは、教皇の今の行いがとても信じられなかった。

教皇は、アイオロスを振り払い、黄金の短剣を振り下ろした。

しかし間一髪。アイオロスがアテナを抱きかかえ、その刃はアテナを貫くことは出来なかった。

「教皇!!貴方はご自分のなさっておられることが分かっておられるのか!この子は数百年に一度、神がおくだしになるアテナの化身。それを…」

「邪魔をするなアイオロス!」

なおも、アテナを殺そうとする教皇にアイオロスは一撃を加える……が、その時、教皇の顔を覆っていたマスクが落ちた。

「何ぃ!?き…教皇。貴方は…!?」

その素顔は、髪の色と形相が違っているが、アイオロスが見知っている男の顔であった。

「う…うう…見たなアイオロス…。私の素顔を見たものを生かしておくことは出来ん!お前もアテナと共に死ね〜〜〜〜〜〜〜っ」

教皇……いや、サガの光速拳がアイオロスに襲い掛かる。

間一髪、避けたアイオロスはアテナを抱きかかえながら、その場の離脱に成功する。

「誰かであえ――――っアイオロスが反逆を試みたぁ――――っ」

サガは、あろうことがアイオロスにアテナ殺害未遂の罪をなすりつけ、逆賊に仕立て上げたのだ。

 

 

「ア…アテナ…。こ…このアイオロスが一命に代えても御護りいたしますぞ」

アイオロスは、アテナを抱き、『射手座』の聖衣櫃を背負い、聖域から脱出を試みた。

その後、アイオロスは黄金聖闘士、『山羊座』のシュラの襲撃を受け半殺しの目に遭うが、聖域からの脱出に成功。

日本から旅行に来ていたグラード財団総帥、城戸光政翁に幼いアテナを託すと力尽き、この世を去った。

 

聖域に残されたアイオロスの弟、『獅子座』のアイオリアはその後の十三年間、『逆賊の弟』という不名誉を背負うこととなった。

アテナが聖域に戻り、真実が明らかにされるまで……。

 

 ★☆★

 

「……リア兄ぃ……」

「……リア〜…」

話を聞き終えたはやてとヴィータは泣きながらアイオリアに抱きついた。

シグナムも、シャマルも、ザフィーラもアイオリアの兄を殺された哀しみと、受けた屈辱を知り、涙を流していた。

そして、十三年もアイオリアを苦しめたサガに対し、怒りを向けた。

もはや彼女達のサガに対する恐怖は、それ以上の怒りにより吹き飛んでいた。

はやて達に抱きつかれ、冷静さを取り戻したアイオリアは、憤怒の表情を和らげ2人の頭を撫でていた。

「……それで、カノンさんはアイオリアさんにも、サガを討つ権利があるって言ったんですね…」

ユーノが、先程のカノン達の会話を思い出しながら呟いた。

「あれ。でもカノンさんはムウさんにも権利があるって言ってなかったっけ?」

なのはの疑問にアイオリアが答える。

「それはムウにとっても、奴は『師の仇』だからだ…」

「「えっ!?」」

アイオリアを除き、ムウと付き合いが長い(といっても約半年余りだが)なのはとユーノが驚きの声を上げる。

「……十三年前、サガに暗殺された『真』の教皇こそ、二百数十年前の聖戦の生き残り……先代の『牡羊座』の黄金聖闘士にして、ムウの大恩ある師、『牡羊座』のシオンなのだ……」

なのはとユーノがムウに視線を向けた。

ムウは、一瞬哀しそうな表情になったが、すぐにいつもの笑みを浮かべ、なのはとユーノに応えた。

「……カノンは、弟として……お兄さんの心に巣食った『悪』を退治しようとしているんだね。弟としての義務を果たす為に……」

フェイトが、先程カノンが言った『義務』をそう解釈したが、アイオリアとムウは頭を振った。

「確かにそう言う側面もありますが………」

「その程度の理由なら、いくら手を出さない約束をしていても、そんなものは反故にしている……」

『弟』としての義務程度なら、アイオリアとムウの権利の方が強い……だが……。

「カノンが奴を滅さなくてはならない義務……それは……」

「カノンこそが、サガの邪悪を目覚めさせた張本人だからだ!」

「「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」」

 

〈第三十話 了〉


真一郎「今回はサガ対カノンの対決の話しになる筈だったのに…」

結局、過去話で終わってしまいました

真一郎「しかも、まだ過去話自体は次回に持ち越して……」

思った以上に回想が長引きそうですね

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。

真一郎「お願いします。君は小宇宙を感じたことがあるか!?」




今回は過去の話だな。
美姫 「そうね。初めて事情を聞く事になるなのはたち」
しかも、最後にはまた驚きの真実が出てきたしな。
美姫 「次も過去の話からかしら」
どうなるのか、楽しみです。
美姫 「次回も待ってますね」



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