『時空を越えた黄金の闘士』
第二十九話 「復活」
「さあ、お眠り下さい……主…。『あの男』に乗っ取られる前に眠ってしまえば、『主』は苦しむことなく『夢』の中で……愛しい者たちと安らかに……」
『闇の書』の意思は、はやてに眠りを促す……が…。
「そやけど……『夢』は『夢』や!」
はやては、それをはっきりと拒絶した。
★☆★
沙織が去り、その場にはカノンとサガの2人が残った。
今まで沙織が居た場所が光を放っていた。
「あの光に入れば、この『夢』は終わる……そして、『闇の書』の主の下に行けるだろう」
「……そうか…」
カノンは、そのまま光に入ろうとする。
「カノン!」
それをサガが呼び止めた。
「何だ?サガ…」
「……気をつけろ!ヤガミハヤテを『闇の書』の呪縛から救っても、この戦いは終わらない……『闇の書』に巣食っている『邪悪』を倒さなければ……な…」
「邪悪……だと!?」
何時の頃からか『闇の書』に取り憑き、内部から乗っ取ろうとしている邪悪なる意思…。
その正体は……。
…………………………………。
「何だと!?それは本当か?」
信じられないカノンは、サガに問い詰めたがサガは静かに頷いた。
「……バ……馬鹿な……それが本当なら……他人事では済まされない……」
「……『アレ』を倒す『権利』……それは、アイオリアにもムウにもある。だが……お前が倒すことが『義務』だと私は思っている…」
「………確かに……俺の『義務』……だな…」
カノンは決意した。
『アレ』は自分が滅ぼす……と。
これが、本当の『清算』だと…。
「……カノン…。私達が13年ぶりに双児宮で再会したときの事を覚えているか?」
「……ああ…」
それは、ハーデスとの聖戦が始まったばかりの頃、サガが山羊座のシュラと水瓶座のカミュと共に、ハーデスの尖兵を装い十二宮を攻めた時のことである。
「お前が……私に代わって双児宮を護ろうとしてくれたこと……まさか夢にも思わなかった」
「………」
「お前か改心し、双子座の黄金聖闘士として闘ってくれたこと……そして、お前のアテナへの忠誠が上辺だけではないことを……お前は証明してくれた。ハーデスとの聖戦を戦い抜いてくれたこと……とても嬉しかったぞ…」
「………サガ…」
サガは涙を隠そうともせず、カノンを抱き締めた。
「……もうお前が正式な双子座の黄金聖闘士だ……。私の予備ではない……。今後のお前の武運を……祈っているぞ…」
「……兄さん…」
サガとカノン。
この行き違ってしまった兄弟は今、本当の和解をした。
「もう……会うこともあるまい…。後の事は頼むぞ、双子座のカノン!」
「……さようなら……兄さん!!」
カノンは、光の中に飛び込んだ……。その目からは一粒の涙か零れ落ちていた。
★☆★
「名前をあげる。もう『闇の書』とか、『呪いの魔導書』とか呼ばせへん……。わたしが呼ばせへん!」
はやてから伝わる温もりに、『闇の書』の意思は涙が溢れていた。
「私は管理者や……。私にはそれが出来る!」
「……無理です!自動防御プロクラムは止まりません。そして、『邪悪の化身』の侵食も……外では管理局の魔導師が戦っていますが…それも…」
「……止まって…」
はやてが念じると、外でなのは達と戦っている『闇の書』が停止した……。
………小娘ぇぇぇぇぇぇぇ!邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
『邪悪の化身』の禍々しいオーラが、はやてと『闇の書』の意思に襲い掛かった。
「……やらせん!!」
はやてを庇うように、一人の男が立ちはだかった。
「……カノンさん!」
「はやて……『奴』は俺が押さえる……。その間にやれ!」
カノンは『小宇宙』で作った防護壁をはやてと『闇の書』の意思の周囲に張り巡らせ、『邪悪の化身』の侵攻を防ぐ。
………邪魔をするなぁぁぁぁぁぁ…!カノォォォォォォォォォン!!
「お前の好きにはさせん!」
【外の方……。えと……管理局の方!……其処にいる子の保護者……『八神はやて』です】
「「「はやて(ちゃん)!?」」」
【なのはちゃん……フェイトちゃん……それにリア兄!?】
【うん……いろいろあって『闇の書』さんと戦っているの!】
【はやて……無事なのか!?】
なのはは念話で返答し、アイオリアがテレパシーではやてを気遣う。
【うん。私は大丈夫や……。ごめん、なのはちゃん、フェイトちゃん、リア兄……何とかその子…止めたげてくれる?…】
魔導書本体との制御は切り離したのだが、『闇の書』の意思が出ていると管理者権限が使えないのだ。
今、外に出ているのは『邪悪の化身』に乗っ取られた防御プログラムだけである。
ユーノは驚いていた。
『闇の書』の完成後に管理者が目覚めていることに……。
これなら、活路が見出せる。
【なのは、フェイト!解りやすく伝えるよ。今から言うことを2人が出来れば、はやてちゃんもカノンさんも外に出られる!!どんな方法でもいい。目の前の子を魔力ダメージでぶっ飛ばして!全力全開、手加減無しで…!!】
「さっすがユーノ君!」
「うん……凄く解りやすい……」
なのはは『エクセリオンモード』のレイジングハートを構え、フェイトもバルディッシュの『ザンバーフォーム』を起動させた。
「『夜天』の主の名において、汝に新たな名を贈る」
その名は…祝福の風『リインフォース』。
アイオリアが牽制の拳を放ち、その隙を突き、ユーノとアルフが『チェーンバインド』を使い、『闇の書』の動きを封じる。
ダメ押しに、ムウの『念動力』による拘束……。
「『エクセリオンバスター』フォースバースト!」
「疾風迅雷!」
「ブレイクシュート!! 」
「『スプライトザンバー』!!」
【新名称『リインフォース』認識……管理者権限の使用が可能になります】
おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
己のモノになるはずだった力が離れ……『邪悪の化身』は呪詛の声を上げる。
「貴様の始末は後だ…!」
カノン!……必ず……必ず殺してやるぞ!!
「それは此方の台詞だ…。忌まわしき過去の悪行を清算する為に……貴様を滅す!」
そう返答するとカノンは『闇の書』から脱出した。
「……カノン!」
カノンの姿を確認したフェイトは、泣きながらカノンに抱きついた…。
「ごめんなさい……ごめんなさい…」
カノンは、泣きじゃくるフェイトの頭を撫でる。
「お前が無事なら、それでいい。だが……少しは慎重になるようにな…。勇気と無謀は全然違うのだから……」
「……うん…」
【ですが……コントロールを切り離した為、防御プログラムは完全に『あの男』に乗っ取られました】
「うん…まあ、なんとかしよう……」
そこへカノンからの念話が届く。
【いや、『奴』は俺が滅す………】
「……なんでカノンさんが?」
【『奴』とは……因縁があるのでな……】
カノンと『邪悪の化身』との因縁とは……一体…!?
「守護騎士システム……破損修復……」
はやての呟きと共に、はやての周りに四つのリンカーコアが現れ、その光が魔方陣を描く。
魔方陣から、守護騎士……『湖の騎士』シャマル、『盾の守護獣』ザフィーラ、『鉄槌の騎士』ヴィータ、そして烈火の将『剣の騎士』シグナムが再生された。
「おいで……私の騎士たち……」
『闇の書』からの光が収まり、なのは達の前に再生された守護騎士たちが姿を見せた。
「我ら、『夜天』の主に集いし騎士……」
「主ある限り、我らの魂尽きることなし……」
「この身に命ある限り、我らは御身の下にあり……」
「我らが主、『夜天』の王……『八神はやて』の名の下に……!」
そして、はやての手に魔法杖『シュベルトクロイツ』が握られ、騎士甲冑のアンタースーツが身を包む。
「『夜天』の光よ、我が手に集え!祝福の風『リインフォース』セッートアッープ!!」
先程の『闇の書』ではなく、はやての姿をベースとした『融合』が完成する。
『夜天』の主、八神はやてが完全に覚醒した。
★☆★
シグナムたちは、はやての意思に反し蒐集活動を行っていたことに対する負い目で、はやての顔をまともに見れなかった。
だが……そんなシグナムたちを笑って許し、「おかえり、みんな」と言って迎える。
感極まって泣き出したヴィータがはやてに抱きつく。
その五人に、もう1人の家族であるアイオリアが近づいた。
「……シグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータ……そして、はやて……。おかえり……」
「うん…只今や…リア兄…」
「アイオリア。ただ…い…!?」
「アイオリアさん……エッ!?」
「………!?」
「……エッ……リア…!?」
素直に返事をするはやてと、アイオリアの姿を見て驚愕に染まる騎士たち……。
「どうした……お前たち…」
「……アイオリア……その格好は……」
シグナムたちが驚愕している理由。
それは、アイオリアが装着しているプロテクター……。
形こそ違えど、それは自分達がまったく歯が立たなかった存在。
『黄金の鎧の男』双子座のカノンが装着しているモノと同じモノを纏っていることである。
「相変わらず、獅子座の聖衣を纏ったリア兄は格好ええなぁ……」
事情を知るはやては暢気にそう言うが、シグナム達は混乱する。
「フッ!久しぶりだな…」
其処に、カノンが近づいてきた。
ヴィータとザフィーラが1歩下がる……。
「……おい、カノン…。お前、こいつ等に何かしたのか?」
「……何、喧嘩を売ってきたから返り討ちにしただけだが……」
アイオリアも事情を悟った。
大方、蒐集しているときに、カノンが邪魔をしたので排除しようとしたら、逆に叩きのめされてしまったのだろう……と。
「……お前等……。カノン相手によく無事だったな……」
アイオリアが苦笑しながら、ヴィータの頭を撫でる。
「一応、お前らに言っておくが……このアイオリアは、俺と『同格』の存在だぞ……」
その一言にギョッとなってアイオリアを注視する。
そして、シグナムは理解した。
初めて会ったとき、シグナム達はアイオリアの眼光に怯んだ。
『闇の書』いや、『夜天の魔導書』の守護騎士たる自分達が……である。
しかし、アイオリアが目の前の規格外と『同格』だというのなら、話は分かる。
理解できず、あれほど恐怖した存在だが、それがアイオリアだと逆に頼もしく感じる守護騎士たちだった。
なのは達もはやて達に近づいてきた。
はやては、シグナム達がなのは達に迷惑を掛けたことを詫びるが、なのは達はそれを笑って許した。
その時、本局に『仮面の男』達―――リーゼ姉妹―――を連行したクロノが戻ってきた。
「すまないな…水を差してしまうんだが……。『時空管理局』執務官クロノ・ハラオウンだ…。時間がないので簡潔に説明する」
もうすぐ、『闇の書』の防御プログラムの暴走が始まる。
それを押さえる方法は、クロノがグレアムから預かった氷結の杖『デュランダル』で凍結するか、それとも『アースラ』に装備されている魔導砲『アルカンシェル』で蒸発させるか……。
それ以外の方法がないか。
それを『闇の書』の主であるはやてと守護騎士達の意見を聞いてきたのだ。
「……暴走は起こらへんよ…」
はやての返答に驚くクロノ達。
そして、はやての口から驚愕の事実を聞かされる。
『闇の書』の防御プログラムは何時の頃からか侵入してきた『邪悪の化身』に完全に乗っ取られたこと。
そして、その『邪悪の化身』をカノンが対処することを……。
クロノは、師であるカノンを見つめた。
協力はしてくれるとは思っていたが、まさかここまで積極的に関わってくれるとは思ってもいなかったのだ。
「……アイオリア、ムウ……。お前たちにも『奴』を討つ『権利』がある…。しかし、『奴』は俺が滅す『義務』がある。すまないが手を出さないでもらえるか?」
突然のカノンの申し出に戸惑う二人。
「……どういう意味だ…。『奴』とは一体……」
「………分かりました。よく分かりませんが貴方ほどの男がそこまで言うのなら……。いいですねアイオリア!?」
「……分かった…」
「……感謝する……」
その時、防御プログラムに変化が起こった。
黒い澱みは、縮小していき、人の姿に形取り始めた。
そして……。
「な……何だ!?」
クロノは驚愕した。
『闇の書』の防御プログラムから『小宇宙』が発せられたのだ。しかも……。
「な……何て……邪悪に満ちた『小宇宙』なんだ……」
『小宇宙』に目覚めたばかりのクロノにとって、こんなにも邪悪に満ちた『小宇宙』が存在することに、恐怖を感じていた。
「こ……この『小宇宙』は……!?」
「ま……まさか……!?」
防御プログラムから立ち込める覚えのある『小宇宙』は、アイオリアとムウに……敵の正体を悟らせた。
そして、澱みが晴れ『邪悪の化身』がその姿を顕わにした。
「エッ……!?」
「あ……あれは!?」
「……カノン!?」
そう、『邪悪の化身』の姿は、闇色の双子座の聖衣を纏い、髪の色は紫でまるで充血している様な眼をしているが、その容貌はカノンと瓜二つだった。
「ハァーッハッハッハッハッ!ついに得たぞ。新たなる肉体を!!」
そして『邪悪の化身』はカノンを睨む。
「先程はよくも邪魔をしてくれたな……愚かなる弟、カノンよ!」
「貴様もとうとう姿を現したな……兄さんの心に巣食っていた『悪心』……!」
『邪悪の化身』の正体は……サガに巣食っていた『邪悪の心』であった。
〈第二十九話 了〉
真一郎「ついに正体を現したな」
そう、この話を書く当初から決まっていた設定なんだな……これは…
真一郎「通称『黒サガ』だな」
さて、ついに始まる2人のジェミニの戦い
真一郎「どうなるのでしょうか?」
では、これからも私の作品にお付き合いください
真一郎「お願いします……君は『小宇宙』を感じたことがあるか!?」
……気に入ったのか、その締め……
遂に正体が判明。
美姫 「まさか、サガについてた悪心とはね」
いや、本当に驚いたよ。しかし、そうなると黄金聖闘士クラスのぶつかり合いか。
美姫 「どうなるのか、ちょっと楽しみよね」
ああ。次回も待っています。
美姫 「待ってますね」
ではでは。