『時空を越えた黄金の闘士』
第二十五話 「眠れる獅子は怒りで目覚める」
無限書庫において、『闇の書』についての調査が始まった。
前述したとおり、中は殆ど未整理で放置されている。
しかし、遺跡調査が得意なユーノと、空間操作の能力を持つカノンには造作もないことだった。
リーゼ姉妹は自身が受け持つ仕事があるとのことで、今は2人だけで調査していた。
「……ん!?」
カノンがある一つの書を手に取った。
「何か重要な情報がみつかりましたか?」
「………いや、『闇の書』には関わりないものだ……が、どうやら俺たちの世界の事が記録されているようだ…」
タイトルは『二つの地球』と記されていた。
「……すまんがユーノ。少しの間、ひとりで調査を頼めるか?」
「……いいですよ。もともとカノンさんが無限書庫の調査に付き合ってくれている理由は、『闇の書』の件だけではなく、自分達の世界に戻れる手段を探すことが目的だったんでしょう?」
「……気付いていたか?」
苦笑しながら、カノンは目の前の情報に目を通し始めた。
★☆★
流石に集中力が切れ、本日の調査は終了することになった。
宛がわれた部屋に戻ろうとすると、突然、エイミィから通信が入った。
「カノンさん!」
「………どうした…血相を変えて…!?」
「フェ……フェイトちゃんが…!」
アースラの医務室でフェイトは休んでいた。
リンディ、クロノが本局に戻って留守にしていたとき、エマージェンシーコールが鳴り、近隣世界で守護騎士たちが見つかったことが報告された。
すぐさま、現場に急行したなのはとフェイトは、それぞれヴィータとシグナムと対峙した。
なのはは相変わらず話し合いの姿勢を崩さなかったが、管理局を信用出来ないヴィータと戦闘になった。
戦況はなのはが優勢だったが、例の『仮面の男』が現れ、なのはを『バインド』で拘束し、ヴィータを逃がしてしまった。
一方、フェイトはシグナムと、互いに拮抗した勝負を繰り広げていた。
しかし、やはり経験の差は埋められないのか、まだまだ近距離、中距離の戦闘力はシグナムの方が上であった。
フェイトは、禁じられている『フルドライブ』のザンバーフォームを使おうとした……その時、フェイトの胸からリンカーコアを掴んだ腕が生えていた。
此方でも『仮面の男』が現れ、フェイトのリンカーコアを奪ったのだ。
勝負を邪魔されたことに怒るシグナムだが、彼女達の事情を知っている風の『仮面の男』にやり方を選べる余裕がないことを指摘され、シグナムはフェイトに謝罪しながら、リンカーコアから魔力を奪っていった。
フェイトの救援に駆けつけたアルフにフェイトを託し、謝罪してシグナムは去っていった。
アースラの整備が終わり、試験航行中だったのが幸いして、すぐに迎えに来れたので、フェイトはすぐさま収容されたのだ。
扉が開き、医務室にカノンが入ってきた。
付きっきりで看ていたリニスとアルフは、カノンに容態の説明をしていた。
魔力を奪われたフェィトは、前のなのはと同じ状態になっているが、命に別状はないとのことだった。
「……大丈夫のようだな?」
「………」
フェイトは落ち込んでいるようだった。
「………失敗しちゃった。こんな事で……これから上手くやっていけるのかな?」
自分は役立たずの存在なのではないか?
こんな自分が存在していいのか?
そんな風に考え込んだフェイトに、カノンが拳骨を落とした。
「ッ痛!」
「お前は何様のつもりた!」
珍しくフェイトに対し、声を荒げたカノンにフェイトはおろか、アルフも仰天していた。
「たかだか9歳の小娘が、失敗もせず完璧にこなせるとでも思っていたか!」
「ご……御免なさい!」
カノンは表情を和らげた。
「……リンディも、クロノも、なのはたちも、お前に完璧など求めていない。『ヒト』である以上、ミスは必ず犯してしまうものだ。俺たちの世界に『失敗は成功の母』という諺がある。失敗したことにうじうじ悩む暇があるなら、今回の失敗を糧にしてそれを次回に生かせ!」
最初から失敗することを前提に行動するのは問題外だが、今回のはそれほど致命的なモノではない。
未熟な内は失敗もまた成長の為の糧である。
失敗は早いうちに経験しておくべきなのだ。
長いこと失敗の経験がなく、大人になってから大失敗をやらかすと、耐性が付いていない為、再起不能になりかねない。
「とにかく、失敗したならそれを次で挽回するよう心がけろ。そうやってうじうじと落ち込まれるほうが、他のみんなに迷惑だ!」、
「……うん…。ありがとうカノン…」
「だからと言って、『人間だからミスはする』……と、開き直るなよ!」
と、最後に釘を刺すカノンに、フェイトは苦笑しながら頷いた。
「流石ですね。あのフェイトをあっさりと立ち直らせるなんて……」
育ての親であるリニスは、フェイトの気質をよく知っていたので、あっさりと立ち直らせた今の主に賛辞を贈った。
しかし、カノンは考え事をしていて生返事を返すだけだった。
(『仮面の男』……、もし、クロノの予想通りあの『猫』共ならば……正体がはっきりした時、報いをくれてやる!)
何だかんだいっても、フェイトを卑劣な手で追い詰めた『仮面の男』に怒りを燃やしているカノンだった。
★☆★
一方その頃、八神家においても『仮面の男』についての対応を話し合っていた。
今のところ、自分達に協力的な『仮面の男』だが、その目的が分からない以上、警戒しなければならなかった。
もしかしたら、『闇の書』を利用することが目的なのかもしれないからだ。
しかし、完成された『闇の書』ははやてにしか扱えない。しかも『真の主』となったはやては、絶大な力を手にする。
洗脳や脅迫など通用しなくなるだろう。
そんなはやてを、どう利用するというのか?
疑問が晴れることはなかった。
「なあ、『闇の書』を完成させてさ……はやてが本当のマスターになったらさ……それではやては幸せになれるんだよな?」
「何を今更…」
「『闇の書』の主は大いなる力を得る。守護者である私達が誰よりも知っていることでしょう?」
突然のヴィータの疑問に、シグナムとシャマルが一笑に付した。
「そうなんだよ……そうなんだけどさ…。アタシ…何かさ……大事なことを忘れている気がするんだ……」
ヴィータが何か引っかかっている様だが、しかし蒐集を止めるわけにはいかない。
蒐集を止めてしまったら、待っているのははやての『死』のみ…。
「はやて!!」
その時、アイオリアの叫び声が聴こえた。
慌ててはやての部屋に向かうと、アイオリアに抱かれながら胸を押さえて苦しんでいるはやての姿があった。
「シャマル!救急車を呼べ!!」
「は……はい!」
アイオリアの指示にすぐさま従うシャマル。
「……はやて!」
「主・はやて…しっかりして下さい!」
「……主!!」
病院に到着してしばらくして、はやては何事も無いように振舞っているが、念の為そのまま入院することになった。
もう一刻の猶予も無い。
『闇の書』の侵食の速度が速くなっている。
はやての体は持って後、一ヶ月。
守護騎士たちは疑問を押さえ、決意を新たにした。
シグナムたちは蒐集する為に病院を後にしたが、アイオリアは面会時間ギリギリまで、はやての傍にいた。
自分に出来ることはこれくらいしかない……表情には出さないが、アイオリアの心は悲痛に苛まれていた。
★☆★
12月24日。
アイオリアがいた世界同様、この世界もクリスマス・イヴ。
本来なら、イエス・キリストの降誕祭前夜であり、家族と過ごす日なのだが、日本では何故か恋人と共に過ごす日になっている。
「以前、星矢達に聞いた事があったが……、本当に日本ではこの日は恋人達だらけだな……」
日本の独自性という奴なのか……アイオリアにはよく分からないが、ただのイベントと化している聖なる日の前夜を呆れながら眺めていた。
「まあ、俺の信じる神はアテナだし……聖域では12月24日も25日もただの平日に過ぎないからな…。どうでもいいことだが……俺たちは本来の趣旨どおり家族と過ごすとするか……」
聖域では、別にキリスト教の祭りなど関係が無い。
だから、ほとんど聖域で過ごしていたアイオリアにとって、クリスマスを祝うなど初めての経験である。
今日は、病院でささやかに祝うことになっていた。
自分と、シグナムたちと、今年になって出来たはやての友人、すずか、なのは、フェイト……そして、3人のもう1人の友人達ではやての病室に集まることになっていた。
無論、アイオリアはなのは達が、シグナム達と敵対していることなど知らない。
急な仕事が入り、遅れてしまったアイオリアは、稼いだ金のうち自分の小遣い分をはたいて、はやてたちへのプレゼントを買い、病院に到着した……。
病院に1歩入ったその時、アイオリアは違和感を感じた。
ムウほどの異能を持ち合わせていないが、それでも常人よりは強力な念動力を持つアイオリアは、病院に張られていた結界に侵入したのだ。
胸騒ぎを感じ、なにやら騒がしくなっている屋上に駆け出した。
そこでアイオリアが見たのは、『なのは』と『フェイト』によって破壊されるヴィータの姿と、絶叫し黒い光に包まれるはやての姿だった。
「ヴィータ!?……は…やて…!?はやて〜〜〜〜〜!!!」
ヴィータを破壊した『なのは』と『フェイト』は、仮面を被った『男』へと姿を変えた。
「……闇の書の主と暮らしていた男か?」
「魔力に目覚めてもいないなど、問題にもならない……無視するぞ!」
アイオリアを一瞥した『仮面の男』は、そのまま無視を決め込み、『仮面の男』の1人がカードを取り出し、構えたその時……凄まじい殺気が2人に襲い掛かった。
「な……何!?」
「こ……これは!?」
視線を向けるとそこには、先程の男が存在していた。
凄まじい怒気と殺気を放ちながら……。
「貴様ら……寄りにも寄って、はやての友人の姿で……はやてを苦しめるとは……」
アイオリアは怒りを覚えながらも、周りの気配を探った。
そして悟った。
ヴィータだけではなく、シグナムも、シャマルも、ザフィーラも……奴らに消されてしまったことを……。
兄、アイオロスを喪って13年……新たに出来た『家族』を再び喪ったアイオリアの怒りが爆発した。
「許さん…!絶対に許さんぞ!!」
アイオリアの小宇宙に反応して、八神家から獅子座の聖衣が飛来し、その身を包んだ。
「な……何だと!」
「…ま……まさか…この男も『聖闘士』!?」
驚愕する『仮面の男』に拳を向けるアイオリア。
「さあ、受けろ!獅子の牙を!!『ライトニングプラズマ』!!!」
〈第二十五話 了〉
真一郎「話が飛んだな」
飛んだね……でも、飛んだ内容はアニメと殆ど変わらないのでそちらを参照してください
遂にアイオリアが聖衣を纏い、戦いに参戦しました。
真一郎「仮面の男―――リーゼ姉妹―――死んだな……」
どうでしようかね…。彼女達の運命は次回で確かめて下さい。
では、これからも私の作品にお付き合い下さい。
真一郎「お願いします」
姉妹に関して何となく違和感を抱いていたけれど、確証を得るまでには至らなかったみたいだな。
美姫 「その事がかえって仮面の男たちにとっては不幸だったかもね」
少なくともアイオリアは完全に敵として見なしただろうしな。
美姫 「正体がリーゼ姉妹だと知られたら、カノンまで敵になる可能性もあるしね」
二人がどうなるのか気になる所。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。