『時空を越えた黄金の闘士』

第二十四話 「疑念」

 

管理局の包囲網からの脱出に成功したシグナムたちを待っていたのは……アイオリアの拳骨だった。

「……せっかく、寒い中帰ってくるお前らのために、鍋を作って待っていたはやてとすずかに悪いとは思わなかったのか?」

「「「「すいません!」」」」

シグナムたちは何度も頭を下げて謝っていた。

「余りにも帰りが遅いから、やむを得ずはやてはすずかの家で夕食をご相伴に預かった……。今日はすずかを招待していたのに…その逆にする破目になるとは……」

アイオリアはシャマルを睨みながら、説教を続けた。

何故、シャマルが睨まれているというと、みんなを迎えに行くという名目で出て行ったシャマルが余りにも遅すぎたからである。

「……すいません…アイオリアさん……」

「まあ、いい……。とにかく俺が鍋を温めておくから、お前らははやてに連絡して謝っておけ!」

アイオリアの一喝に、背筋を伸ばし回れ右をして、電話に向かう四人だった。

はやてに謝罪の電話を入れたシグナムたちは、アイオリアが温めた鍋を食べていた。

「……もしかして……リアは、あたし達が来るのを待っていたのか?」

「ああ、すずかを遅くまで待たせるわけには行かなかったから、はやてをあちらに預けたが……お前たちを迎える者がひとり居た方がいいだろうから、俺がお前たちを待つことにしたんだ!」

空腹を我慢し、自分達を待っていてくれたアイオリアに、恐縮する四人だった。

 

 

食事を終えた後、シグナムとシャマルは庭に出て、夜風に当たっていた。

「お前を助けたという男は、何者だ?」

「分からないわ!?少なくとも……当面の敵ではなさそうだけど……」

あの男のお陰で、管理局の執務官の注意が逸れ、戦場の離脱に成功できた。

「管理局の連中も、これで本腰を入れてくるだろう…」

「あの砲撃で、大分『頁』も減っちゃったし……」

結界を破る為に使ったせいで、先に白い少女から蒐集した分を、殆ど使ってしまったのだ。

「だが……あまり時間も無い!一刻も早く、主はやてを『闇の書』の真の所有者に……」

「………うん。そうね……」

「……ところで、お前とその『仮面の男』を追い詰めたという執務官は、それほどに手強いか?」

「ええ。あの『黄金の鎧の男』に比べれば劣るけど……似たような力を持っていたわ!」

あの『仮面の男』はシャマルの目から見ても只者ではなかった。

しかし、あの黒い防護服の執務官は、その男を圧倒していた。

しかも、あの『黄金の鎧の男』のように、魔法を殆ど使わずに……。

手強い相手が増えたことに、戦慄を禁じえないが……しかし、ここでやめるわけには行かなかった。

すべては、はやての為に……。

 

 ★☆★

 

作戦本部の置かれたマンションに戻ったなのはとフェイトは、リニスからカートリッジシステムの説明を受けていた。

「本来、カートリッジシステムを組み込むには、『バルディッシュ』や『レイジングハート』の様な繊細なインテリジェンス・デバイスとは相性が悪いんです。本体の破損の危険性が高いから……。しかし、この子たちは、自らシステムを搭載することを望みました……。貴女達を護れず、そして貴女達の信頼に応えることが出来なかったのが、悔しかったんでしょう…」

なのはとフェイトは、自らの相棒を見つめた。

「ありがとう……レイジングハート!」

《All light!》

「バルディッシュ!」

《Yes sir!》

モードはそれぞれ三つ。

『レイジングハート・エクセリオン』は、中距離のエクセルモード、砲撃のバスターモード、フルドライブのエクセリオンモード。

『バルディッシュ・アサルト』は、汎用のアサルトフォーム、近接特化のハーケンフォーム、フルドライブのザンバーフォーム。

破損の危険がある為、フルドライブのエクセリオンとザンバーはなるべく控えるように注意を受けた。

特に、なのはの『レイジングハート・エクセリオン』は、フレームの強化が済むまで、フルドライブは絶対に禁止と念を押されていた。

 

 

一方、クロノとリンディ達は守護騎士たちの目的について話し合っていた。

クロノの頭にタンコブが出来ているのは、先程、カノンから『仮面の男』にかまけてシャマルを逃がしたことで説教を貰い、拳骨を見舞われたからである。

同時刻、守護騎士たちが、アイオリアの説教を受け拳骨を見舞われたのは偶然である。

守護騎士たちが自らの意思で『闇の書』の蒐集をしている様に感じられることに違和感を覚えていたのだ。

『闇の書』は『ジュエルシード』とは違い、完成前も完成後も、自由に制御することが出来ず、破壊にしか使えない。

しかも、守護騎士たちは、『人間』でも『使い魔』でも無く、『闇の書』を完成させる為に作られた擬似人格……主の命令に受けて行動するプログラムに過ぎない……筈なのだ。

「使い魔でも人間でもない擬似生命……って。私みたいな……」

「違うわ!」

フェイトの言葉をすぐさまリンディが否定し、フェイトを叱った。

フェイトは、特殊だがそれでも『命』を受けて生まれた『人間』だ!と断言する。

守護騎士たちは、『闇の書』に組み込まれたプログラムが人の形を取ったモノでしかなく、対話能力はあっても、感情は無い……。

その筈なのだ……。

それについて、カノンが異議を唱えた。

「あのなのはを襲った……確か…「ヴィータちゃんです」…そのヴィータとかいう小娘と、シグナムという奴らの将……。この2人は俺に対し、間違いなく恐怖を感じていた……。感情が無いというなら、当然『恐怖』など感じるはずが無い……。『プログラム』だから……と、お前らが偏見からそう思い込んでいるだけではないのか?」

カノンの意見に、なのはとフェイトも同意を示した。

接してみて分かる。

ヴィータにも、シグナムにも間違いなく人格と感情が存在していたことを……。

 

 

結局、『闇の書』に関しては情報を洗いなおす必要を感じ、クロノはユーノに明日、本局に共に来てくれるよう頼んだ。

 

 ★☆★

 

皆が寝静まった深夜……。

目が覚めたクロノは夜風に当たる為、ベランダに出ていた。

「……どうした…クロノ…!?」

同じく目を覚ましたカノンが、背後からクロノに声を掛けた。

「ええ……実は……僕の邪魔をしたあの『仮面の男』なんですが……」

クロノは、迷いながら自分の中に生まれた疑念を打ち明けた。

「あの男の動き……何処かで見たことがある動きなんです……。奴のクセ……慣れ親しんだ……そんな感じがするんです!」

恐らく、カノンに師事していなかったら気付かなかっただろう。

カノンと出会う前のクロノでは、あの『仮面の男』に成す術も無くやられてしまった筈だから……。

聖闘士としての力を身につけたからこそ、クロノはあの男を圧倒できた。

故に、相手の動きに覚えがあることを感じ取れたのだ。

最も、誰かはまだ思い出せないようだが……。

 

 ★☆★

 

翌朝、すずかの家に泊まったはやてを迎えに行ったシグナムとシャマルは、これまでのはやてとの生活を思い出していた。

 

 

はやての誕生日に『闇の書』が起動し、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラら守護騎士『ヴォルケンリッター』ははやての前に姿を現した。

しかし、新たなる主となったはやては、これまでの主の様に、『闇の書』の絶大な力には興味が無かった。

アイオリアという『兄』を得ていた彼女は、既に願いは叶えられていたのだ。

それに、シグナムたちが新しい家族として加わる。

それだけで充分だったのだ。

魔力を蒐集し、『闇の書』を完成させる必要性がなく、はやての望みはこのまま家族6人で、楽しく暮らしていくことだった。

アイオリアにしても、シグナムたちの存在はありがたかった。

アイオリアはこの世界の人間ではない。

確かに、このままはやての兄として暮らしていくことも悪くないが、元の世界に戻ることができるようになれば、そして再びアテナが邪悪と戦わなくてはならなくなったとき、彼は迷わずアテナの下に駆けつけるだろう。

しかし、彼女達がいれば、自分が居なくなってもはやてが一人ぼっちになることはない。

憂い無く、戦いに身を投じることが出来るだろう。

 

家族6人の穏やかな暮らしが続いた。

しかし、それも長くは続かなかった。

はやての病状が悪化したのだ。

足の麻痺は、内臓にまで侵食しつつあったのだ。

原因は不明だがこのまま麻痺が進行すれば、やがてはやては……。

石田医師の言葉に、アイオリア、シグナム、シャマルは青褪めた。

アイオリアは、はやてが不憫で仕方が無かった。

神を護る闘士とはいえ、医者ではない。

アイオリアには彼女を救うことは出来なかった。

近いうちにこの世を去ってしまうかもしれない、妹の傍にいてやることしか出来ない自分が歯痒かった。

 

シグナムとシャマルには原因が分かっていた。

それは、『闇の書』の呪いである。

守護騎士たちの生命維持の為、『闇の書』がはやての魔力を吸い続けているのだ。

彼女達は悩んだ末、はやてとの誓いを破り、蒐集を始めることにした。

魔力を蒐集し、『闇の書』を完成させ、はやてが真の『闇の書の主』となれば、はやては助かるのだから……。

今までの主のように、高圧的でも、自分達を道具扱いせず『家族』として接してくれた小さな『主』を救う為に……はやての未来の為、『殺人』は行わないが……それ以外のことなら、はやてとアイオリアと自分達がこれからも、静かに暮らしていく為になら、何でもする。

その決意の下、彼女達は『闇の書』の蒐集活動を開始した。

 

 

「あの『黄金の鎧の男』の魔力を蒐集できれば、それで済むんだけど……」

「無理だな……。実力が違いすぎて、到底歯が立たないし、高町なのは―――だったか?―――の様に隙を突ける相手でない…」

それに、口には出さないがヴィータも、ザフィーラもあの男には恐怖を抱いている。

「だからと言って、アイオリアさんの魔力を蒐集するわけにはいかないし……」

実は、目覚めてはいないがアイオリアにも高い魔力が眠っていた。

『黄金の鎧の男』程ではないが、恐らくは、あの『高町なのは』と『フェイト・テスタロッサ』と同レベルの魔力が……。

いくら、はやての為に何でもやるといっても、『家族』であるアイオリアは対象外である。

「アイオリアさんは私達が蒐集していることに気付いているんでしょう…?事情を話して蒐集させてもらえないかしら?」

「……駄目だ。アイオリアは気付いているが、気付かぬ振りをしてくれているんだ。私達から告白してしまうと、彼は我らを止めざる得なくなる…」

アイオリアとて、はやてを救いたいとは思っているだろう。

アイオリアの魔力だけで『闇の書』が完成するなら、喜んで彼は魔力を蒐集させてくれるだろう。

しかし、残念ながら彼の魔力だけでは完成しない。

彼と同レベルの魔力の持ち主を後2人くらい、蒐集しなくてはならないだろう。

アイオリアは、基本的にはやての意思を尊重するつもりなのだ。

はやては、『闇の書』が完成したら、自分の病気が治ると知っても、決してそれを容認しないだろう。

『闇の書』の完成させるためには、他人に迷惑を掛けなければならない限り……。

相手を殺す必要は無い為、はやてが望めばアイオリアも蒐集に反対はしないだろうが……。

しかし、はやてが望まない以上、アイオリアも蒐集には反対するだろう。

それでも、やはりはやてには死んでほしくないので、シグナムたちがはやてに黙って蒐集しているのを黙認しているに過ぎないのだ。

「アイオリアの厚意を無駄にしない為には、彼に事情を話すわけにはいかない!」

なかなか上手くはいかないことに、シグナムもシャマルもため息を吐くしかなかった。

 

 ★☆★

 

一方その頃、本局に赴いたクロノ、ユーノ、エイミィ、カノンの四名は、クロノの魔法の師匠に当たるグレアム提督の使い魔、リーゼロッテとリーゼアリアという双子の姉妹と面会していた。

リーゼロッテに、散々おもちゃにされたクロノは辟易しながら、用件を伝えた。

『闇の書』の事を詳しく調べる為、無限書庫でユーノの手助けをして欲しいと…。

無限書庫とは、本局にある超巨大なデータベースで『世界の記憶を収めた場所』と呼ばれている。

ただし、あまりにも巨大すぎるので、中は完全な未整理で、本来はチームを組んで年単位で調査する場所なのだ。

しかし、ユーノは遺跡発掘を生業とする『スクライア』の一族である。

そして、空間を操ることの出来るカノンがサポートするので、早い段階で『闇の書』のことを調べられるはずであった。

リーゼ姉妹は――ある意味、鼠(フェレット)であるユーノを見たロッテが目を輝かせながら――承諾した。

しかし、ロッテが一瞬だが、クロノを睨んでいたことに、カノンは気付いていた。

 

 

無限書庫の使用の手続きに向かったユーノ達と別れ、クロノとカノンが話していた。

「……思い出しました。あの『仮面の男』の動き……ロッテの動きに似ているんです」

クロノは、先日戦った『仮面の男』の正体がロッテではないか……と、疑念を持ち始めていた。

「それでか……あのロッテとかいう猫……一瞬だったがお前を睨んでいた…。弟子であるお前にいいようにやられたんだから、悔しかった……というのなら理解できる」

「しかし、ロッテが『仮面の男』だとすると……」

クロノは、信じられない…という表情をしていた。

「無論、『主』であるグレアムとかいう男が裏にいるだろうな…」

「それが、信じられないんです。グレアム提督にとっても『闇の書』は……因縁の相手です。なのに……何故、『闇の書』の守護者に協力するのか…?」

グレアムはクロノの父、クライド・ハラオウンを息子の様に思っていた。

そのクライドが亡くなった原因である『闇の書』を憎みこそすれ、何故、協力するのか?

「あの『仮面の男』がロッテだというのは、僕の思い過ごしなのでしょうか?」

そうあって欲しいと願うクロノであった。

「とりあえず、ユーノの事は俺に任せて、お前はその方面で調査しろ」

グレアムが、何か裏で動いているのかそうでないのか?

クロノは、グレアムの潔白を信じたい。

なればこそ、調べるべきなのだ。

潔白が証明できれば、それに越したことはない。

しかし、もし、彼が関与しているのなら………。

クロノには、辛い結末が待っているかもしれなかった。

 

〈第二十四話 了〉

 


真一郎「おいおい、クロノがあっさりと看破しているぞ」

確信してているわけではないぞ

真一郎「でも、推測は当たっているだろう?」

まあね。他の方の二次小説でよくクロノを無能にしているけど、実際、クロノは優秀だからな。原作と違い、仮面の男をあっさりと退けたクロノならすぐ気付いてもおかしくないからな

真一郎「なんか、なのはやフェイトはおろか、カノンよりもクロノの方が目立っているんじゃ?」

次回は、クロノの出番はあまりないから……

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。

真一郎「お願いします」




はやてサイドは特に大きな進展はないみたいだな。
美姫 「はやての症状がちょっと心配ではあるけれどね」
なのはサイドではクロノが頑張っているな。
美姫 「そうね。怪しいと思った所から調査していくのなら、少しは早く真相に辿り着けるかしら」
どうなるだろうか。ちょっと楽しみです。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます。



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