『時空を越えた黄金の闘士』
第二十一話 「引っ越し」
今回の事件が「アースラ」の担当になったため、そのための会議を開くべく、主要メンバーがユーノたちがいる休憩室に集合することになった。
肝心のアースラがしばらく使えない為、事件発生地点周辺に置くことにしたようである。
『魔導師襲撃事件』は、なのはの世界――――つまり第97管理外世界を中心に個人転送で行ける範囲に集中していた。
つまり、アースラが使えない以上、本局からでは遠すぎるのだ。
「分割は、観測スタッフのアレックスとランディ!」
「「はい!」」
「ギャレットをリーダーとした、捜査スタッフ一同!」
「「「「「「はい!」」」」」」
「司令部は、私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん……あと、カノンさんとムウさん……以上三組に分かれて駐屯します!」
「「俺(私)達を含めるな(いでください)!!」
話を続けようとしたリンディは、カノンとムウに即答で断られたので、言葉を飲み込んだ…」
「……あの…手伝って頂けないのですか?」
「当たり前だ!」
「私達は管理局の局員ではありませんし、フェイトの様に嘱託でもありません……何故、当たり前のように戦力に加えているのですか?」
クロノ、フェイト、リニス以外の他のメンバーも唖然とした顔でカノン達を見つめていた。
「で……でも、カノンさん達が手伝ってくれれば、この事件も簡単に解決できるし、何よりフェイトちゃんの助けに……」
エイミィが、恐る恐るそう言ってきたが、カノンはあっさりと切り捨てた。
「何故、フェイトの手助けをしてやらなくてはならないんだ?」
「これは、彼女の仕事でしょう?」
エイミィは絶句した。
まさか、カノンがフェイトの手助けをしようとしないとは思わなかったらしい。
「フェイトは、自らの意思で嘱託魔導師になった……嘱託だからお前ら管理局の人間と協力しあうのはいいが、俺が常に手助けしていれば、俺が居なくては何も出来ない魔導師になってしまうだろう」
「それじゃあ、意味がないでしょう?裁判を有利にする為に、嘱託試験を受けて、嘱託魔導師になったんですから、彼女は自分の力でそれに応えなくてはなりません……私達が手を出すのなら、フェイトの力は重要視されなくなります」
「と、いうか……お前らも俺たちをあてにするな!俺たちが管理局が気に喰わないことは知っているだろう。少なくとも、クロノとフェイトもその事は了解済みだ!」
「じゃあ、何で前はなのはちゃんを助けてくれたんですか?」
「あれは、フェイトが嘱託魔導師としてではなく、個人的に大切な友達であるなのはを助けようとしたからだ。なのはも訳も分からず襲われたみたいだしな……管理局の仕事じゃないから協力した。しかし、なのはもPT事件同様、現地協力者として、この事件に首を突っ込む気なら、次回からは彼女も助けん!」
皆からの協力要請を突っぱねる2人に、リンディが再び協力を請おうとしたとき、クロノとフェイトが口を挟んだ。
「母さ……いや、艦長!カノンさんとムウさんの意見は最もです……第一、先のPT事件の時は、管理局の仕事だからといって、なのはとユーノに事件から手を引く様に言ったのは艦長じゃありませんか?カノンさんも、ムウさんも、今回は積極的に協力する気はないんですし、2人は局員じゃありませんから、強制は不可能ですよ!」
「それに、確かにカノンの言うとおり、『カノンに頼るしか能のない嘱託魔導師』なんて言われたくありませんし……」
恐らく、カノンが管理局の関係者の中で最も心を許している二人であるクロノとフェイトからも、反対意見を出されてしまい、リンディも流石にそれ以上は口に出すことが出来なくなった。
「まったく手を貸さん……とは言わん!リニスは引き続きお前たちに協力させるし、なのはに関しても魔力が戻るまでは護ってやる……。そして奴らの行為が、魔法などとかかわりの無い者たちにも及びそうになれば、俺たちも独自に行動する……だが、恐らくそれは杞憂だろうな…どうやら奴らは相手を殺すことは禁じている風に感じたからな…現に、今までの事件の被害者の中に死者はいないのだろう…?」
シグナムと名乗った女も、ハンマーを持った少女も、獣人の男も、闘志は感じられたが、殺意は感じられなかった。
「……分かりました…では、貴方達は我々の切り札……いえ、我々の手に負えなくなった時に、改めて協力を要請させてもらいましょう…それまでは、管理局員と嘱託魔導師、現地協力者でこの事件の捜査にありましょう……それでいいですね?」
リンディの問いに、2人は頷いた。
「それでは、話を戻します……。司令部は、なのはさんの保護を兼ねて、なのはさんの御家のすぐ近所になりま〜す!」
リンディのその言葉を聞き、なのはは、嬉しさの余り声を上げて喜んだ。
★☆★
アースラの臨時司令部が置かれるマンションのベランダから、なのはとフェイトは街を眺めていた。
確かに、なのはの家の近所であり、ここからなのはの家が見えるくらいである。
家の家具などの配置は、エイミィを中心に行われていた。
ムウが管理局の精密機材以外の生活必需品などを運んだ(主に念動力を使って)ので、思った以上にあっさりと終わった。
「ムウさんのお陰で助かりました…」
「まあ、これくらいの手伝いはしませんと…ね」
「横着しただけだろう…」
等と、話していると3人の足元に小動物二匹―――子犬とフェレット―――が居るのに気付いた。
「ユーノ君とアルフは、こっちではその姿か!?」
「新形態、『子犬フォーム』!」
「なのはやフェイトの友達の前では、この姿でないと……」
そんな2人(二匹!?)を見て、なのはとフェイトが驚きと嬉しさが混じった顔で2人に近づいてきた。
「うわぁ、アルフちっちゃい……どうしたの?」
「ユーノ君もフェレットモード久しぶり〜〜〜!」
子犬姿のアルフを抱き上げるフェイトと、フェレット姿のユーノに頬擦りをするなのは。
ユーノが自分と同年代の人間の少年だということを忘れているかのようななのはであった。
【……可愛い女の子に頬擦りされて、気分はどうだ…エロ餓鬼!】
【……役得…とか、思っているんだろうな……この淫獣もどき!】
カノンとクロノの師弟コンビの冷たい視線と念話が届き、固まってしまうユーノであった。
早速、なのはの友人であるアリサ・バニングス、月村すずかの両名が遊びに来た。
彼女達は、フェイトのことはビデオメールで知っていたが、直接会うのは初めてであるがすぐに打ち解けていた。
そこへリンディが現れ、一同はなのはの両親が経営している『喫茶翠屋』でお茶をすることになり、リンディもなのはの両親に挨拶する為に、ムウも明日から復帰するすることを伝えに同行することになった。
なのは達が外の席で歓談を楽しんでいる合間に、リンディはなのはの両親に挨拶を済ませていた。
「あら、ムウさん……帰ってこられたんですね」
桃子が、リンディの後ろにいたムウに気付き話しかけた。
「すいません、長い休みを頂いて……以前に話したとおり、明日からは出られますので……」
「そいつは助かるよ。最近少し忙しくなってきたからね……」
士郎も、ムウの帰還を喜んでいるようである。
「ところで、フェイトちゃん三年生ですよね……学校はどちらに?」
士郎が尋ねると、聖祥付属小学校の制服の入った箱を抱えてきたフェイトが入ってきた。
どうやら、リンディが前もって手続きをしておいたらしく、フェイトは来週からなのは達のクラスメートになる予定であった。
★☆★
一方、その頃。司令部では、クロノとエイミィ、カノンが『闇の書』について話し合っていた。
ロストロギア『闇の書』の特徴は、そのエネルギー源にある。
魔導師の魔力と魔法資質を奪うために、リンカーコアを喰うのである。
先日、なのはのリンカーコアもその被害にあってしまった。
そして、蒐集した魔力の資質と量によって、頁が増えていき、最終頁まで全て埋まれば完成するのだ。
「完成すると……どうなるの?」
「少なくとも……碌な事にはならない……」
いつも明るいエイミィには珍しい不安げな表情で問われ、クロノは答えた。
クロノの脳裏に、11年前の出来事が思い浮かんだ。
自分の前では、気丈に振舞っているが、ひとり隠れて涙を流す母の姿を……。
そして、もう二度と会えなくなった父の事を……。
「……しかし、あの騎士たちは本当に邪悪な気配はこれっぽっちも感じなかったんだがな?」
襲撃などをしているようだが、直接対峙したカノンには、どうしてもあの連中を悪だと断じることが出来なかった。
彼女達など、かつての自分に比べれば遥かに清廉な者たちだと……。
「彼女達に関しては、今度のブリーフィングで説明します……『闇の書』の守護騎士たちについては……」
「……まあ、俺は直接出張らんからな……。さて、クロノ…今日の鍛錬は一時間後に始めるぞ!…」
「はい!エイミィ……ユーノに連絡して結界の準備を頼んでくれ」
「はいなぁ〜」
★☆★
はやてはアイオリアと一緒に昼食を食べていた。
シグナムは剣道場で非常勤講師をしており、今日も行っている。
ヴィータは近所の老人会のゲートボールチームに入っているおり、そこのお爺ちゃんたちに連れられ、海釣りを楽しんでいるそうである。
シャマルはすっかり主婦と化し(独身なのに)、今日は近所の奥様方と共にデパートのバーゲンセールに行っていた。
故に、今、家に残っている守護騎士はザフィーラだけである。
今日の昼食は、タラモサラタ、スブラキなどのギリシア料理である。
アイオリアも、実はそれなりに料理が出来るので、作り方などを教えてもらいはやてが作ったのだ。
タラモサラタは、塩漬けの魚卵をほぐして、マッシュポテト、オリーブオイル、レモン汁、刻んだ玉葱を混ぜたものである。魚卵はギリシアでは、鯉や鯔の卵(タラマ)を使うのだが、日本ではタラコで代用することが多く、はやてもタラコを使った。
スブラキは、グリルで焼いた肉の串焼きであり、ギリシアでは鉄道の売店や車内販売でも買える一般的なファーストフードである。
2人しか(ザフィーラを入れても3人!?2人と一匹!?)いないので、簡単な物にしようということで、こうなった。
「そういえば、明日もシグナム達はでかけるんやったな?」
「ああ、そう聞いている……」
「リア兄は、今のところ仕事は休みなんやろ?」
「ああ。年内にはもう無いらしい……。年が明けて七日かららしいな…」
アイオリアも、流石にタダで居候する気はなかったので、ヴィータの知り合いのお爺さんに仕事を紹介してもらっていた。
非常勤の仕事なので、毎日…というわけではないが……。
「みんな最近、やりたいことを見つけ、家を空けることが多いなぁ…」
やはり、少し寂しそうに呟くはやて。
「ここが皆の帰る場所です……。帰ってくる場所があるから、皆も気兼ねなく出掛けられるのですから…」
狼形態で、食事をしていたザフィーラがはやてにそう答えた。
「そうやね……皆がやりたいことやって、そして、ウチの所に帰ってくる……。家族っちゅうのはそんなモンなんやな…」
はやての表情に笑顔が戻る。
「リア兄は、明日も暇やろ?」
「ああ」
「だったら、明日…ウチ行きたい店があるから、付き合ってもらえるやろか?」
「ああ、いいよ…」
「留守はお任せ下さい…」
★☆★
本局でリニスは、レティ提督の部下である本局メンテナンススタッフのマリエル・アテンザと共に傷ついたデバイスの修理をしていた。
「さて、バルディッシュ……、そして、レイジングハート…貴方達が希望した…“CVK‐792”に含むシステムを組み込んだわ……」
【All light!】
【Yes sir!】
「……リニスさん…この子達…本気なんですか?」
「今更何ですか…マリーさん?」
『インテリジェンスデバイスであるこの二機に、『コレ』を組み込むなんて……」
「この子達は、先の戦いで己の力不足を痛感したんです……。解決策はこれしかありません……」
そう、レイジングハートとバルディッシュに新たに組み込まれたのは……『ベルカ式カートリッジシステム』であった。
〈第二十一話 了〉
う〜む…
真一郎「どうした……バカが真面目な顔をしてもバカが治るわけじゃないぞ!」
失敬な!ただ、この話ももう二十一話……後、少しで「真一郎、御神の剣士となる」の話数を超えるな…と、思って…
真一郎「そういえば、アッチの話はいつ再開するんだよ!俺が主役なんだから、さっさと続き書けよ!」
そろそろ、書こうと思ってるよ…
さて次回ですが、フェイトの学校生活……は、原作どおりなので、簡単な文章になりますね
真一郎「じゃあ、どうなるんだ」
そうですね……すこし原作と違う話になると思います…
では、これからも私の作品にお付き合い下さい
真一郎「お願いします」
フェイトの引越しとデバイスの改良。
美姫 「この辺りは大きな変化はないわね」
カノンたちをさり気なく戦力として数えていたみたいだがな。
美姫 「それはきっぱりと断られたわね」
まあ、カノンたちの言い分は確かにだしな。
美姫 「シグナムたちにすれば良い事なんでしょうけれどね」
さてさて、どんな展開が待っているのかな。
美姫 「次回を待ってますね」
ではでは。