『時空を越えた黄金の闘士』

第十八話 「新たなる闘いの始まり」

 

時空管理局艦船『アースラ』。

そこの食堂において、カノン、フェイト、アルフ、ユーノ、クロノの五名は、フェイトの裁判においての受け答えの確認をしていた。

先のPT事件においての裁判も明日が最終日。

事実上の判決無罪、数年間の保護観察はほぼ確実であるが裁判員達の心証を害すれば、不利になる可能性もあるからである。

フェイトとアルフは被告席、クロノとユーノとカノンは証人席である。

カノンは当初、フェイトに協力していたが、彼の立場は『次元漂流者』である。

そして、行ったことと言えば『執務官に対する暴行』であるが、管理外世界の人間であるカノンを管理局の法では裁けないし、何よりクロノ自身が訴えを起こしていないので、被告者にはならなかったのだ。

そして、彼の後ろに立っている事件の首謀者であるプレシア・テスタロッサの使い魔であり、フェイトの育ての親であり、そして現在はカノンの使い魔であるリニスは、事件そのものには関わっていないので、裁判で発言することは出来なかった。

さて、カノン達に説明をしているクロノだが、その姿は実に痛々しかった。

体中至る所に包帯やら絆創膏等が目立っていた。

『小宇宙』に目覚めたクロノは、既に聖闘士の基本修行は全てこなしたので、最近はカノンとのシュミレーションが主である。

青銅聖闘士レベルに力を抑えたカノンとのシュミレーションだが、それでもクロノはカノンに一撃を入れることも敵わなかった。

「それにしても、ズタボロだな……クロノ」

「カノンとの模擬戦を見学したけど、クロノ……相変わらず歯が立たないね」

「まあ、それだけカノンが強すぎるんだけど……」

クロノの姿を見ながら、ユーノ、フェイト、アルフの順でそう言った。

「正直、本当に自分が強くなっているのか……よく分からないんだよな……」

カノンに一撃も入れられないクロノは、自分の成長具合がいま一つ分からなかった。

「心配するな……確かに『小宇宙』を扱えるようになったとはいえ、まだまだお前の力は青銅レベルに後一歩というレベルだが……少なくともお前よりも上位ランクの魔導師を上回る実力は付いている。既に聖闘士の破壊力は身につけているのだからな……。まあ、スピードはまだまだだがな……」

「エッ……でも、クロノ……相当速かったですよ…!?」

シュミレーションをフェイトたちと見学していたユーノが疑問に思った。

先程のシュミレーションで、クロノは一秒間に85発の蹴りをカノンに放っていた。それはユーノから見れば目にも留まらぬ速さだった……が、たった85発では聖闘士相手には通用しないのだ。

「確かにお前たちが、あの蹴りを見切るのは難しいだろうが……俺にはクロノの繰り出す蹴りの一つ一つがはっきりと見えていた……一秒間に85発程度では、真の聖闘士には歯が立たん……。最低でも100発は繰り出せないと一人前とは言えんな。まあそれには最低でも音速を超えなくてはならんが……」

カノンの話を聞き、フェイトは以前聞いた話を思い出した。

聖闘士は最下級の青銅聖闘士でも音速……つまりマッハ1。

白銀聖闘士で、マッハ2からマッハ5。

カノン達黄金聖闘士は、音速どころか光速……つまり光の速さで動くことができるという。

恐らく管理局のスピードタイプの魔導師の中でもトップレベルの速さを誇るフェイトでも、音速が限界である。

その速度が、聖闘士にとっては最低条件……。

更に恐ろしいことに、聖闘士はそれほどのスピードを見切ることが可能なのだ。

いくらスピードタイプの魔導師でも、音速の速さを目視で見切るなどはっきり言って不可能。

魔法で身体強化を施して、動体視力を上げてもそこまでは見切れない。

戦闘において、魔導師が聖闘士の相手にならないのはそれが理由の一つである。

魔法の中には、聖闘士の破壊力に匹敵する物も、当然存在する。

なのはの『スターライト・ブレイカー』などは、いくら聖闘士といえども、まともに直撃すれば無事ではすまない……。無論、黄金聖衣を纏った黄金聖闘士は別だが……。

しかし、威力はともかくスピードは聖闘士からすれば、余りにも遅すぎるので躱す事も防ぐことも造作ないのだ。何よりも『スターライト・ブレイカー』には聖闘士を相手にするには致命的とも言える欠点がある。それは発動まで時間が掛かりすぎることである。

それを補う為にバインドなどで拘束しても、聖闘士の力ならばその拘束はあっさりと解くことなど造作もない。

以前、フェイトにどうしてもと頼まれ、模擬戦の相手を務めたことがあった。

フェイトとしては、クロノの修行が原因で最近カノンとの時間が少なくなっていたことが少し不満だったので、自分にも修行して欲しいと頼んできたのだ。

無論、聖闘士になりたいとは言っていない。

残念なから、フェイトの資質は聖闘士向きではないからである。

しかし、聖闘士にはなれなくても、戦術面に関して教えて欲しいと言ってきたのだ。

聖闘士は一部の例外を除いて、無手で闘う。

しかし、だからこそ武具の扱いにも長けているのである。

何故なら、無手で武器を持った敵と対峙した時、その武器の特性を知っていなければ対処しえないからである。

故に、実戦では無手とはいえ、基本的な武具の扱いは完全にマスターしているのである。

フェイトのデバイスであるバルディッシュは『杖』であるとはとはいえ、デバイスモードは『戦斧』、サイズモードは『大鎌』、シーリングモードは『槍』の形を取っているので、武具としても使用が可能である。

そこで、一度模擬戦をすることになった。

無論、クロノとのシュミレーション同様、カノンは青銅聖闘士レベルまで手加減しているが……。

その模擬戦で、フェイトはカノンにバインドを仕掛けたが、カノンが『小宇宙』を燃やすとその力に耐え切れなかったのか、あっさりと霧散してしまったのだ。

つまり、聖闘士は『バインド』などに簡単に拘束などされないのである。

しかも『スターライト・ブレイカー』は射程距離が離れれば離れるほど威力が弱くなってしまう。

聖闘士の攻撃が届かないところから攻撃したとしても、それほど距離が離れてしまえば、黄金聖衣でなくとも、たいしたダメージを与えることが出来なくなってしまうのだ。

このことからもわかる通り、なのはの最強魔法は聖闘士相手にはまったくの無力なのであった。

「やっぱり闘いに関しては、魔導師は聖闘士より弱いんだね……」

「だからといって、魔導師が聖闘士より劣るわけではないぞ」

フェイトの呟きに、カノンが答える。

「前にもいったが、次元を渡る事や、重力に逆らい空を自在に飛びまわれることや、回復魔法などは並みの聖闘士には出来んからな……」

魔法に良く似た力である『念動力《サイコキネシス》』を持つ者ならばともかく、そのような力を持たない青銅聖闘士と白銀聖闘士などには不可能である。黄金聖闘士は力の大小に差はあるが、ほぼ全員『念動力』を持っているが、白銀聖闘士や青銅聖闘士の中では、その力を持っている者は数少ないのだ。

黄金聖闘士でも、自らの身体を飛翔させるほどの『念動力』の持ち主など、『牡羊座』のムウ、『乙女座』のシャカ、『双子座』のサガ(カノン)、『天秤座』の童虎くらいである。

後の八名には其処までの『念動力』はないであろう。

「戦闘が強い弱いかだけで、どちらが優れているか……などと考えるのは愚かなことだ……。無論、魔法が使えるか使えないかで差別することも愚かだがな……」

最後のカノンの皮肉に、クロノとユーノは苦い顔になった。

カノン達聖闘士の存在を知るまでは、クロノもユーノも『魔法』こそが最も優れた力だと信じていたし、『魔導師』が魔法の使えない『一般人』に敗北するなど、余程のことがない限り有り得ないと考えていたのだ。

「本局に暫く居て気付いたが、魔導師という連中は、全員とは言わんが、自分達の『魔法』が使えるか使えないかで、相手の価値を決める輩が多いようだな……」

カノンが本局で目にした事柄のうち、魔法が使えず、デスクワークが主な仕事の管理局員に、BかC位のランクの魔導師が横柄な態度で接していたのを何度か見かけていた。

そのような輩に対し、警告というか、説教をしている高ランクの魔導師の姿も見たが、しかし、その魔導師も僅かながらその魔法資質の無い局員に対する優越感などが薄らと感じ取れていたのだ。

つまり、上から目線なのだ。

彼らの驕りを見ていると、かつての兄と自分を思い出し、不快になる。

サガは、黄金聖闘士の中でも『最強』と言われるほどの実力があった。

それゆえにアテナに代わり、地上を支配するに『神』となるに相応しい存在であると、思い上がっていた。

力こそ正義。

最も優れた力を持つ自分こそが、地上を支配するに相応しい……と。

カノンも同様である。

『神』であるポセイドンを誑かし、上手く立ち回って『地上』と『海界』を支配しようという野望を抱いた。

それはサガ同様、自分の力に驕っていたからである。

そして、サガもカノンも、その野望は果たされなかった。

アテナと、真の聖闘士たる星矢達の活躍により、その野望は打ち砕かれたのだ。

2人して『神』になりそこなった哀れで愚かな兄弟。

そんな自身の過去を思い、カノンは危惧しているのだ。

管理局も、自分達と同じ過ちを犯すのではないか……っと…。

世界の管理者を気取り、いつの間にか『神』をも恐れぬ野望を抱くのではないか……。

もし、そうなったとき、フェイトやクロノたちが苦しむことになるかもしれない。

カノンは、自分が保護している少女と、弟子である少年の為にも、自分の危惧が気のせいであることを願っていた。

 

 ★☆★

 

月村すずかは親友のアリサ・バニングスの家のリムジンで行きつけである風芽丘図書館に送ってもらった。

アリサとなのはと別れ、図書館に入り、借りたい本を探していると、本棚の本と本の隙間から、車椅子の少女が必死に手を伸ばしていた。

車椅子に座りながらなので、中々届かないようである。

見るに見かねたすずかは、少女の下に駆けつけ、彼女の取ろうとしていた本を取り差し出した。

「これ……ですか?」

「はい。有難うございます」

 

 

 

 

 

 

 

すずかと車椅子の少女……八神はやては直ぐに意気投合した。

同い年であること、時々この図書館で見かれていたことなどを語り合っていた。

「……はやて。待たせたか?」

「あっ、リア兄!」

「すまんな。トイレが清掃中だったから、少し時間が掛かってしまった」

八神家の居候……アイオリアであった。

ちなみに一階のトイレが清掃中でも、光速の動きを持ち、さらにテレポーテーションが使えるアイオリアには大した距離ではないが、いくらなんでも図書館でそんな動きが出来るはずがないので、ゆっくり歩いて行ったのだ(当たり前だ!)。

アイオリアはすずかの方に視線を向けた。

「はやての話相手になってくれていたのか?ありがとうお嬢さん」

「あっ、私、月村すずかと言います」

「すずかちゃん……。八神はやてと言います。平仮名で『はやて』……変な名前やろ?」

「そんなことないよ!綺麗な名前だと思う……」

「俺の名前はアイオリア…。今ははやての家で厄介になっている」

「ウチの優しいお兄さんや!」

自慢の兄を紹介するはやての顔は、とても輝いていた。

 

 

 

 

 

談笑しながら廊下を歩いていると、金髪の女性……シャマルの姿が見え、はやてとアイオリアはすずかに別れを告げた。

シャマルと合流し、図書館の駐車場で待っていたシグナムと合流する。

「晩御飯……シグナムとシャマルは何食べたい?」

「ああ、そうですね……。悩みます」

「リア兄は?」

「……シャマルの味付けじゃなければ何でもいいぞ!」

「アイオリアさん……酷い!」

アイオリアの意地の悪い返答に、シャマルは涙目で抗議する。

シャマルは料理が出来ないわけではないが……たまに味付けに失敗する。

食べられないわけではないが、微妙な味付けで何とも言えなくなるのだ……。

「そう言えば、ヴィータは今日も何処かにお出かけ?」

「あ……え〜っと…そうですね……」

「外で遊び歩いているようですが、ザフイーラが付いていますので、あまり心配は要らないですよ」

はやての言葉に一瞬動揺するシャマルだったが、シグナムが冷静に返答する。

そんな2人に、アイオリアは何か言いたそうな視線を向けるが、直ぐに逸らした。

ここ最近、彼女達が自分とはやてに何か隠し事をしていることに気付いているし、大体想像が付いているアイオリアであるが、あえて訊かない事にしているのだ。

シグナムもシャマルも、アイオリアが自分達に疑いを向けていることに気付いているが、何も言って来ないアイオリアに感謝していた。

 

 ★☆★

 

裁判が終わり、無罪が確定したフェイトは、ようやく大手を振ってなのはと会う事が出来るようになった。

そのことに喜びを覚えるフェイト達だったが、緊急事態が発生した。

そのなのはが、何者かに襲われているという報告が入り、フェイトとユーノの顔が蒼褪めた。

 

 

 

 

 

何者かが張った結界に気付いたなのはは、その何者かのいきなりの襲撃を受けた。

理由を問うが、襲撃者……ヴィータは何も聞かず波状攻撃を繰り返してきた。

「話を……聞いてってばぁ〜〜〜〜!」

《Divine・Buster!》

やむを得ず反撃したなのはの『ディバイン・バスター』をヴィータは何とか避けるが、帽子を飛ばされてしまう。

大好きなはやてがデザインした帽子を破られ、怒りにかられたヴィータは目の色を変えた。

「アイゼン!カートリッジ・ロード!!」

ヴィータの持つアームドデバイス『グラーフアイゼン』は長柄のハンマーの形をした『ハンマーフォルム』から『ラケーテンフォルム』に変化する

「『ラケーテン・ハンマー』!」

ヴィータの『ラケーテン・ハンマー』はレイジングハートを破損させ、なのはをビルの窓に叩きつけ、さらに追撃をかけた。

《Protection!》

なのはを護るために、レイジングハートが防御するがそれも破られ、更には『防護服《バリアジャケット》』まで破られてしまった。

座り込んだなのはは、レイジングハートをヴィータに向けるが、もはや抵抗できなかった。

ヴィータが無表情でグラーフアイゼンをなのはに振り下ろすが、その間に入りそれを遮る者が現れた。

「仲間か!?」

「……友達だ!」

なのはを庇うように、『サイズフォーム』のバルディッシュを構えるフェイトと、なのはに寄りそうユーノ。そして、3人から少しはなれた所に、黄金聖衣を纏ったカノンが腕を組みながらその場に現れた。

 

〈第十八話 了〉

 


遂に始まったAs編

真一郎「さて、これからどうなるんだ?」

以前にも言ったが、基本的には原作通りの展開になりますので、その辺りは簡単な文章での説明になります

真一郎「つまり原作どおりじゃない所はきちんと描写するんだな」

そういうことになります。

真一郎「ところで……管理局が昔のカノンと同じ過ちをするのか?」

既に現在進行形で行われているだろ……脳味噌たちに……。

真一郎「そういうことか」

さて、予定ではこの話の前に設定を公開しようと思いましたが、今回は見送らせてもらうことになりました。

真一郎「作者が愚図なので、作成できなかったのが原因です」

余計なことを言うな!

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。

真一郎「お願いします」




はやてたちが登場し、いよいよA’s編が。
美姫 「聖闘士たちが存在する中、事件がどのように進むのか楽しみよね」
だな。一体どうなっていくのかな。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。



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