『時空を越えた黄金の闘士』
第十七話 「その頃」
「はい、ミルクパイにカスタードシュークリームをそれぞれ6個ずつ……お持ち帰りですね……。少々お待ち下さい…」
喫茶翠屋。
高町家が営むケーキとシュークリーム、紅茶の美味しい地域密着店。
現在、その喫茶店に少し変わった店員がいた。
「はい、ムウさん……そろそろ休憩に入って下さい」
「分かりましたマスター」
『牡羊座』の黄金聖闘士、ムウ。
元来、人嫌いでジャミールに篭もりっきりであった彼が、よもや客商売をしているなど、彼を知る他の聖闘士からみれば信じられないだろう。
いくらムウといえど、いつまでもタダで居候させてもらうつもりはなかったので、店を手伝うことにしたようであった。
今時珍しく眉毛を剃り、額に眉を書くという、昔の公家のようなことをしているとはいえ、ムウはかなりの美青年である。
只でさえ女性向けの喫茶店なのに、彼目当てに足を運ぶ女性客が増え、士郎や桃子は、嬉しい悲鳴をあげていた。
★☆★
高町なのはは、親友のアリサ・バニングスと月村すずかと一緒に先のPT事件の折に仲良くなったフェイトからのビデオメールを見ていた。
最初になのはが贈ったのは、自身の家族と親友である2人を紹介した内容のDVDである。
それ以降、家族や友人達と一緒の物と魔法関連に関する物とに分けてやり取りするようになった。
今、現在見ているのは、前者の方である。
アリサもすずかも、なのはが新しく作った友達であるフェイトのことが、気に入ったようで早く直に逢いたいようであった。
2人と別れたなのはは自宅に戻り、ユーノと仕事を終えたムウと一緒に魔法関連の方のDVDを見ることにした。
何故か今回は魔法関連のDVDは二枚あるようだ。
【それでね。クロノがカノン達と同じ『小宇宙』に目覚めたの……。それからクロノ……執務官の仕事の合間にカノンに修行を付けて貰っているんだけど……その修行……はっきりいってどれもこれも厳しすぎて……私なんかじゃとても耐え切れそうに無いものばかりで、よくクロノは耐えられるな……って思うよ……やっぱりクロノが男の子だからかな?】
これには流石のムウも驚いたようである。
「……まさか……彼が『小宇宙』に目覚めようとは……。上手くいけば彼が見つかった聖衣を纏う新たな聖闘士になれるかも知れませんが……」
「へぇ〜、クロノ君が聖闘士に……」
「……聖闘士の力は、魔導師よりも優れた部分がたくさんありますから、魔導師と聖闘士の力をクロノが持てば、かなり凄い事になりますね…」
それがどれだけ難しい問題を孕んでいるのか理解できないなのはとユーノは、気楽にそう答えたが、ムウは難しい顔をしていた。
「しかし、彼が聖闘士になるというのなら、管理局員としては常にその力を使うことを認めるわけにはいきません……」
「えっ、どうしてですか?」
「確かに管理局の仕事は、平和に暮らしている人々を護ることのようですので、その為に聖闘士の力を使うこと自体は問題ありません。しかし、その働きにより、クロノが昇進でもすれば、非常にきわどいですが……出世の為に聖闘士の拳を使ったことになってしまいます……。つまり、私利私欲の為に聖闘士の拳を使ってならないという、聖闘士の掟に反してしまうのです。つまり、クロノが聖闘士の力を使って事件を解決しても、それを彼の手柄にしてはいけないのです……。いくらこの世界にアテナの目の届かないとしても……例外を除き、掟破りを見過ごすわけにはいかないのです……」
ムウの言う例外とは、『銀河戦争』に参加した10人の青銅聖闘士達のことである。
あのイベントは、聖域に潜む悪を引き摺り出す為の囮であり、アテナ本人であるグラード財団総帥、城戸沙織が主催した大会である為に、これに参加した星矢達は、例外として処理されているからである。
如何にクロノ自身が、事件解決のみの為に、聖闘士の拳を使ったにしても、それにより昇進してしまえば、動機はともかく結局は、クロノの利になってしまう……。
クロノが正式な聖闘士になってしまえば……であるが……。
「まあ、クロノが正式な聖闘士にならないのであるならば……大目に見れますけど……ね」
どうやら、今のところカノンもクロノを正式な聖闘士にするつもりはないようなので、その問題はとりあえず保留にしておくことにした。
そして、もう一枚のDVDを再生する。
それには、クロノが断崖絶壁の上で、泣きじゃくりながら腹筋千回している様子が映っていた。
どうやら、アルフとエイミィが悪戯心でなのは達にも、この泣きじゃくっているクロノを見せてやろうとこっそり忍ばせたようであった。
主にクロノの泣き顔がメインに映っていたので、なのはとユーノはこれがどれだけ危険な修行なのか……というのを余り考えず、思いっきり笑っていたが、後でムウからこの修行内容を聞かされ、顔を青くした。
★☆★
それから暫くして、なのははユーノの指導の下、魔法訓練を続けていた。
午前4時30分に起床し、5時に野外で魔法の練習。
指導者見学のもと、朝食の時間まで約二時間のトレーニング。
朝食中や通学、体育の時間などは、レイジングハートがなのはの魔力に強い負荷をかけていて、日常を過ごす中で魔力を消費するという「魔導師養成ギブス」的な効果を発揮しているのだ。
授業中などは、真面目に聞いてはいるが、実はその間も訓練をしていた。
二つ以上のことを同時に思考、進行させるマルチタスクは戦闘魔導師には必須のスキルであり、これに関しては聖闘士でもそう簡単に出来ることではないので、魔導師の方が優れている部分である。
最も、魔導師としての才も並外れたカノンは、なのは同様、簡単にこなしているらしいが……。
レイジングハートが送信する仮想戦闘データを元に、イメージファイトを行い、限りなく実戦に近い経験をなのはに与えているのだ。
友達や家族とのひとときは流石に休憩しているが、暇さえあればなのははこれを行っていた。
塾や家の手伝いが無い日は、夕方も鍛錬を行っていた。
防護服《バリアジャケット》を纏い、上空で魔法の実践使用。
夜間は、高速機動の訓練。
ぐったりするまで練習して、入浴して、午後8時には就寝。
以下、日曜日以外はこれの繰り返し……。
聖闘士の修行ほどではないが、並の魔導師ならへたばってしまうほどハードな鍛錬を行っていた。
「ユーノ……私は魔法の事はあまり詳しくないのですが……なのはの訓練は少しやり過ぎなのでは?」
それ以上の修行を行う聖闘士のクセに、なのはの基礎身体能力を把握しているムウは少し心配のようである。
「僕もそう思うんですけど……なのはは魔法の練習がどうも楽しいらしくて……」
「小宇宙を扱う聖闘士と違うんですから、余り疲労が溜まりすぎると、取り返しの付かない事態を招くかも知れませんよ…」
『小宇宙』は、たとえ疲労していようが、五感が薄れていこうが、命の炎が燃えている限り高まっていき、聖闘士に奇蹟の力を与えてくれるが、『魔力』はそうではない…。
疲労が溜まれば判断力が落ちてしまい、大きなミスに繋がる可能性があるのだ。
ムウの懸念は将来、なのはに深刻な事態を招いてしまうのだが……。
「とりあえず、僕もそのことは気にしていたんですが、どうやらクロノが管理局の教導メニューを送ってくれるとの事なので……それに従った訓練に切り替えるつもりですけど……」
後日、そのメニューが届く前に、なのはは自身の最強の放射系魔法である『スターライトブレイカー』の改良を試みるのだが、無意識の内に結界機能の完全破壊という能力を付与した為、自爆してしまい、全治一日半の魔力エンプティに陥ってしまった。
★☆★
それから暫くして、ユーノはフェイトの裁判の証人として、本局に赴き、ムウも以前発見した、聖域の一部の管理の為に、高町家から離れ、なのはは暫く一人で訓練をすることになった。
そして、フェイトから近々、逢いに来れる事になったという知らせを聞き、喜んだのも束の間……なのはは、新たな魔法の事件に巻き込まれることとなる。
〈第十七話 了〉
はい。今回はなのは達の話ですね
真一郎「今回はちょっと短いな……」
まあ、なのはサイドは余り書くことがなかったし……。
真一郎「とりあえず、次からA’s編が始まるわけだな」
予定ではそうなっていますので、これからもよろしくお願いします。
では、これからも私の作品にお付き合い下さい
真一郎「お願いします」
なのはの日常って感じかな。
美姫 「こちらは特に大きな問題もないみたいね」
みたいだな。普通、よりは少し過酷な鍛錬をしている以外はな。
美姫 「話としては次回からいよいよA’s編に突入みたいね」
一体どうなるかな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。