『時空を越えた黄金の闘士』

第十三話 「聖衣」

 

ムウが、楯座のイージスの亡霊と邂逅していた頃、カノンはフェイトから使い魔との契約の方法のレクチャーを受けていた。

今現在、アースラの乗員の中で使い魔持ちの魔導師はフェイトだけだからである。

その間、護送室から出されているのだが、リンディもクロノも文句の一つも言わなかった。

リンディにしろクロノにしろ、フェイトが今更逃げるなど思っていないし、彼女に好意を抱いている。

実は、リンディは彼女の裁判が終わったら、自分の養女になるよう申し出て見るつもりだった。

リンディは、フェイトが無罪になる公算が高いと思っているし、例え無罪にならなくても、執行猶予付きの軽い罪で済む筈だと確信している。

プレシアが管理局の幹部に冤罪を押し付けられたので、その罪を隠す為にその幹部がフェイトを重罪にする様、裏工作をしてくるかも知れないと思っていたが、実はその幹部は数年前、汚職が発覚して失脚し、懲戒免職になった男だったらしく、管理局も今更、その男を庇うとは考えられなかった。

下手に庇うより、むしろその男に全ての責任を擦り付けようとするだろう。

それはそれで問題だと思うが……フェイトの裁判が公平に行われる為には、むしろ都合が良かった。

 

 

 

 

 

「……リニス……」

「貴方が新しいマスターですか?」

プレシアのデバイスに保存されていた山猫が人型の女性の姿になり、カノンと契約を交わした。

僅か一晩で完全に理解してしまったカノンの才に、アースラの乗員達は舌を巻く。

「………リニス……」

「アタシ達のこと、覚えてるのかい?」

恐る恐る聞くフェイトとアルフに、リニスは暖かい微笑を向けた。

「大きくなりましたね、フェイト。そして、アルフ……。プレシアから契約を解除され、もう貴女たちとは逢えないと思っていましたが……人(猫?)生とはわからないものですね」

間違いなく、彼女はフェイトとアルフにとって、育ての親であったリニスそのものだった。

「うわ〜〜〜〜〜ん、リニス〜〜〜〜!」

「……グスッ!……リニス…。逢いたかったよ……」

泣きながら、リニスに抱きついた。

「……マスターと契約して、精神がリンクしましたので、大体の事情は把握しています……。プレシアが逝った事も……彼女が最後までフェイトの母になれなかった事も……」

「……でも、母さんは……リニスを私達に還してくれた……。それだけでも、私は母さんに『有難う……』って言いたい……」

「アタシも、アイツのことはまだ許せないけど……リニスの件に関しては感謝しているよ……」

「……リニス…」

カノンがリニスに語りかけた。

「はい。何でしょうマスター…」

「俺のことは、『カノン』でいい……。暫くお前はフェイトと共に居てやれ……。それがお前に対する最初の命令だ…」

「畏まりました。有難うございますマスター……いえ、カノン」

フェイトとアルフは再び護送室に戻されたが、手錠代わりのバインドは外され、リニスも一緒の部屋に入った。

暗かった部屋も明かりを点けることを許され、3人は今まで離れていた時間を取り戻すかのように、語り合った。

リンディとクロノ、そしてカノンはそんな三人を微笑ましく、見守っていた。

 

 ★☆★

 

ムウがアースラに帰還したので、カノン達は調査の報告を受けていた。

「……2000年前の聖戦で、次元の裂け目からこちらの世界に現れた聖域の一画と…その地を護りし聖闘士の亡霊……か…」

ムウの話を聞き、カノンは目を瞑り、その聖闘士の為に黙祷した。

「……それで、そのアテナという神の遺産というのは?」

リンディが身を乗り出して聞いてきた。

「聞いてどうするのですか……言っておきますが、貴方達管理局に渡す気などまったくありませんよ…」

「それは諦めています……貴方達を敵に回す事に比べれば些細な事です……。それに、確かに貴方達の言うように、神の遺産など公になれば、それを悪用しようとする者が確実に現れるでしょう。むしろ、聖闘士と一緒でないと入れない結界の中の方が管理局で管理するよりも安全なのは確かですし……」

リンディも、管理局の裏側に関しては警戒していた。

どのような組織にも人が作ったモノである以上、闇の部分が存在している事を彼女は理解していたのだ。

「それで、その遺産とは何だったのだ?……ムウ」

「……まずは、あのアテナの結界を張るための神具や、危険すぎる為に封印されたアテナ以外の神々の力を宿した様々な神具……そして、大量のオリハルコン、ガマニオン、銀星砂《スターダストサンド》がありました」

オリハルコン、ガマニオン、銀星砂とは聖衣の材料である。既存のどのような金属、鉱物などよりも優れた武具などを作れるだろう。

「確かに、悪用されればかなり厄介だな……流石に聖衣を作る事は出来ないだろうが……」

「はい、並の技術ではあれを精製することさえ不可能ですが、精製方法などが書かれた文献もありましたので、解読されれば、不味い事になるでしょう……」

文献は古代ギリシア文字で書かれているため、『第97管理外世界』で学べば簡単に解読出来てしまうだろう。

小宇宙の概念は理解できないだろうから、聖衣の様な『神の奇跡』のようなモノは無理だが、それを差し引いても強力な武器などが作ることが可能になるだろう。

例えば『時の庭園』にいた傀儡兵などを、オリハルコンで作り出せば、いかに強力な攻撃魔法を駆使しようが、簡単に破壊など出来ない。

神の奇跡を宿していないので、黄金聖衣程の防御力はないだろうが、それでもSランク以上の攻撃魔法でも傷を付けるのがやっと……などと言う事も有り得るのだ。

「オリハルコンが神の金属と言われる所以だな……それで、他には何があった…?」

「………カノンは『氷戦士《ブルーウォリアー》』と呼ばれる存在をご存知ですか?」

「……俺にそれを聞くとは…愚問だな。北極圏に近い東シベリアの極寒の地に住むブルーグラードの戦士……封じ込めた『海皇』を監視する為に派遣された聖闘士が祖とも言われている者たちのことだろう…」

海皇関連に関しては、カノンの知識は並ではない。

かつて、その海皇を誑かし地上と海界の派遣を目指したのは伊達ではないのだ。

「はい。現在のブルーグラードの王はアレクサーという男で、前国王である父、ピョートルを殺害し簒奪しました。世に出て、世界を支配しようと企んだそうですが……氷河の手によって、それは阻まれました。現在、彼は自らの過ちを悟り、妹と共にブルーグラードの民を護っているとの事です…」

「それが、何か関係あるのか?」

「いえ、話が逸れました。その氷戦士達の纏うプロテクターは私達の聖衣に近い……というのは無論知っていますよね?」

「ああ。故に、彼らの祖が聖闘士ではないか……という説だからな……って、まさか!?」

カノンは、思い当たったのか目を見開き、ムウを凝視した。

「はい。そこにあったのは、私達、正規の聖闘士が纏う、青銅、白銀、黄金……そのどれにも分類されない『聖衣』でした……」

『聖衣』は星座をモチーフにしているので、52体の青銅聖衣、24体の白銀聖衣、そして、12体の黄金聖衣の合計88体しか存在していなかった。

最も『ケルベロス座』のように、国際天文学連合が定めた現在の星座には含まれない星座をモチーフにしたモノがあるが……。

「そこにあった聖衣は、星座ではなく、精霊《エレメンタル》などをモチーフにしたモノでした……強度的には青銅聖衣と大差ないモノばかりでしたが……」

「何故、そのような聖衣が作られたのだ?」

「それに関しては、文献が残されていました……」

文献では、聖闘士は88人しかなれない。

その為、聖闘士の素質を持っているのに、守護星座の聖衣の聖闘士が既に存在している為、聖闘士に認められずにいた候補生達が数多く存在した。

カノンも、かつてはそのような立場だった。

アテナの為に、地上の愛と正義の為に戦う事を望んでいるのに、そのような理由で聖闘士になれなかった者たちの哀しみを知った当時のアテナは、そのような者達の為の聖衣を作るように指示を出したのだ。

それが、あの地に安置されていた聖衣であったのだ。

余談であるが、この聖衣がアレスとの聖戦で失われたので、新たに作り出された聖衣こそがデスクィーン島で発見された既存の聖衣と似た形の黒色の聖衣である『暗黒聖衣』であった。

最もこの暗黒聖衣は、聖闘士の資格を剥奪された者達や、表面的な力しか身につけられずに聖闘士になれなかったハンパ者達が纏い、その聖闘士としての拳を己の私利私欲の為に使用した為、アテナにさえも見捨てられてしまったという『暗黒聖闘士』の誕生に繋がってしまったが……。

「……そうか……しかし、紛いなりにも聖衣なら、小宇宙を持たぬものにとっては只の重いプロテクターに過ぎん。簡単に悪用されるとは思えないが……」

カノンの言う事も最もである。

この聖衣たちに関しては、魔法文明が主流であるこの次元世界においては悪用されるとは考えにくかった。

「私も同意見ですが、イージスたちが心配したのは、むしろ封印された神具や、オリハルコンが悪用されることだったのでしょう。様々な神具がありましたが、その中には別に小宇宙など持たなくても、簡単に使用できるモノも存在していましたから………」

そしてイージスが役立ててくれと願ったのは、その聖衣達だろう……。

「……確かに、その聖衣は使えるかもしれんな……」

カノンがそう呟き、ムウも思い当たった。

「……あのフックなる海闘士に関連する事ですね?」

「ああ。この世界にいる海闘士が奴だけとは限らん。俺たちや、そのイージスなる2000年前の聖闘士が存在するのだ。もしかしたら……フックの言っていた『主』とやらも、その類の奴かも知れん。そもそも海将軍に次ぐ実力を持っていた奴が、この世界の魔導師等を主と仰ぐとは、どうしても思えん……。その主とやらが、海闘士や冥闘士、あるいは狂闘士所縁の者である可能性が高い」

自分達の力には自信があるが、今のところ二人しか居ないので、複数の場所でそのような者達が一斉に蜂起でもされたら対処しえない。

故に、その聖衣を纏って闘う闘士を育成する必要がある……かも知れない……。

「……私達の世界に関係する者が、この世界に害を及ぼすと言うのなら、私達も無関係を決め込むわけにはいきません……か…」

「ああ。どうやらそれが片付くまで、元の世界に戻るわけにはいかないだろうな……」

カノンもムウは、この世界で起こる戦いを予感した。

 

 ★☆★

 

なのははユーノと共に、プレシアの遺体を回収した後、アースラを降り、元の日常に戻っていた。

家族や友人に帰ってきたことを報告し、事件の事を振り返り、短い間だったがユーノを始め様々な出会いがあったことを思い出していた。

次元震が影響で、ユーノはそう簡単に故郷には戻れないのでその間は、高町家に厄介になることになっていた。

ムウも、暫くはこちらの世界に滞在することが決まっていた。

ムウは、カノンとは違いフェイトに協力していたわけではないし、今回の件が片付くまで自分達の世界に帰るわけにはいかなくなったからである。

その為、管理局のことはカノンに任せ、ムウは高町家に身を寄せ、情報収集をすることになった。

下手に管理局にこの話をすると、なんだか面倒なことになりかねないので、ある程度の情報が集まるまでリンディたちにも口を噤んでもらうことにした。

 

 

 

 

 

フェイトとアルフが本局に護送される前に会う時間を作ってもらったので、今、なのははフェイトと会っていた。

友達になるという約束を果たし、再会を誓う二人を、カノン達は少し離れた所で見守っていた。

「思い出に出来るもの、こんなのしかないんだけど…・・・」

「じゃあ私も……ありがとう、なのは……」

二人は再会の約束の証として、リボンを交換していた。

アルフは、そんな二人の様子を見て、もらい泣きをしている。

「良い友達が出来て良かったですね……フェイト。プレシアの事は残念でしたが……今回の事件は貴女にとってそれに匹敵するくらいかけがえのないモノをたくさん得ましたね……」

「そうだな……」

「その中でも、フェイトにとって一番大事なのは、貴方なんですよ、カノン……」

自分のマスターとなったカノンにそう言うリニス。

「………ありがとうございます……貴方は、フェイトにとってとても大事な存在です。これからもフェイトのことを気に掛けてあげてください……」

「………だからと言って甘やかすつもりはないぞ……」

苦笑しながらも、リニスの願いに応えるカノンだった。

 

〈第十三話 了〉

 


真一郎「無印編はようやく幕を降ろしたな……」

そうだね

次回からAs編に入る……前に幕間を挟みます……

真一郎「ところで、今回登場した聖衣って……」

想像通り、アニメオリジナル設定のキャラクターであるドクラデスやガイストたち幽霊聖闘士。アニメ版の氷河の師匠の水晶聖闘士や、炎熱聖闘士などを参考にしました

真一郎「なるほど、アニメオリジナル設定をネタに使うとはこういう事か……」

そう言うこと

では、これからも私の作品にお付き合いください

真一郎「お願いします」




聖衣を始めとして、結構危険そうな物まで遺産としてあったんだな。
美姫 「聖闘士じゃないと入れない結界のお蔭で持ち出されずに済んでたみたいだしね」
逆を言えば聖闘士なら持ち出せてしまうか。
美姫 「確かにね。なのはとフェイトの方は無事に済んだみたいね」
リニスとの使い魔契約もな。
美姫 「次回はどんな話になるのかしらね」
次回も待っています。



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