『時空を越えた黄金の闘士』
第八話 「フェイトの真実」
カノンが、アリサの家でアルフから事情を聞いた翌朝、なのははユーノ、アルフ、そしてカノンを伴いフェイトと対峙した。
アルフはフェイトに、もうプレシアに協力することを止める様に懇願するが、フェイトは哀しそうな顔で首を横に振った。
フェイトは、プレシアを裏切るわけにはいかなかった。
今回の事が終われば、プレシアが昔の優しい母親に戻ってくれると信じて疑わないからだ。
そんなフェイトになのはは、お互いの『ジュエルシード』を賭けて勝負することを提案した。
なのはとフェイトの出会いの切っ掛けである『ジュエルシード』。
二人の関係は、まだ始まっていない。
すべてはここから始めよう……。
そう、なのはは決意した。
なのはとフェイトの勝負、カノンは立会人として、その肩にフェレット姿のユーノが乗っており、その横に狼形態のアルフが、心配そうに二人を見つめていた。
一進一退の攻防を繰り広げる二人を……ずっと見守っていた。
しかし、フェイトを見つめるカノンの表情は、憂いに満ちていた。
★☆★
なのはとフェイトの一騎打ちは、『アースラ』のモニターからクロノ達も見守っていた。
「しかし、ちょっと珍しいよね。クロノ君がこういうギャンブルを許可するなんて……」
「まあ、なのはが勝つことにこしたことはないが、あの二人の勝負に関しては、どちらに転んでもあんまり関係ないからね……」
エイミィの質問にクロノはそう答えた。
そう、クロノの狙いは、なのはが時間を稼いでいる間に、フェイトの帰還先追跡の準備をして置くことであった。
「でも……『あの事』、なのはちゃんに伝えなくてもいいの?プレシア・テスタロッサの『家族』と『あの事故』のこと……」
「勝ってくれるに、こしたことはないんだ。今は、なのはを迷わせたくはない……それに…カノンさんには伝えてあるから……」
「……プレシア・テスタロッサの娘……確か…『アリシア・テスタロッサ』……のことですね」
クロノ達の隣にいたムウが、確認するかの様に呟く。
「そして、あの『フェイト』は……」
カノン同様、憂いに満ちた表情で、モニターに映るフェイトを見つめるムウであった。
ムウがここに居る理由は、前回の様にプレシアからの攻撃に備えるためであった。
ムウの『クリスタル・ウォール』の方が、アースラのシールドよりも遥かに防御力が高いからである。
前回は、咄嗟のことだったので、アースラにも被害が及んだが、警戒を怠っていない今ならば、プレシアの攻撃など『クリスタル・ウォール』で完全に防げるからである。
「それにしても……カノンさんにはビックリだよ……もう、飛行魔法が使える様になっている…」
「魔力量は、なのは以上なんだから、当然といえば当然かも知れないけど……」
前までは『念動力』で自身の体を浮かせていたカノンだったが、クロノから軽くレクチャーを受けただけで、魔法を理解し、飛行魔法を簡単に覚えてしまっていた。
なのはの魔力量のランクはAAA。カノンの魔力量のランクはSS……魔力量だけならアースラで最もランクの高いリンディと同レベルなのだ。
エイミィは、モニターに映るカノンを見る。
カノンの右手には、マイク位の大きさのロッド型の簡易デバイスが握られていた。
★☆★
攻防が続く中、フェイトは驚愕していた。
最初にあった頃の彼女は、ただ魔力が強いだけの素人だった。
しかし、今の彼女は違う。
こんな僅かの間に、自分と互角に戦える魔導師に成長していた。
【迷っていたら……やられる!】
なのはの周りに無数の魔方陣が出現し、そして一瞬で消えた。
その後、なのはは両手両足を光の輪で拘束された。
『ライトニングバインド』
空間に不可視の魔方陣を設置し、それに触れた対象を拘束する設置型捕獲魔法である。
「不味い!フェイトは本気だ!!」
「なのは!今、サポートを!!」
「動くな!!」
フェイトの本気を悟り、焦るアルフと飛び足そうとするユーノをカノンが制した。
「これは、なのはとフェイトの己の総てを賭けた一騎打ち。手出しすることは誰にも許されない!例え、二人に近しいお前らでもだ」
「でも、カノン!フェイトのアレは本当にやばいんだよ!!」
「それでもだ!」
カノンとて、不安は確かにある。
しかし、カノンはなのはの秘められし力を信じることにした。
かつて感じたなのはの……星矢達に似た資質を………。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。『フォトンランサー・ファランクスシフト』。打ち砕け、ファイア!」
『フォトンランサー』とは、体の周囲に生成したフォトンスフィアから槍のような魔力弾を発射する魔法である。
そして、この『フォトンランサー・ファランクスシフト』は、そのバリエーションであり、30発以上のフォトンスフィアより繰り出されるフォトンランサーの一点集中高速連射を行う一斉射撃の魔法である。
現在のフェイトにとって、最大の攻撃魔法である。
電撃がなのはを襲い、爆煙がなのはを覆い隠した。
フェイトは肩で息をしている。
この魔法は、莫大な魔力を消費するので、一度使うと後が無いほどに追い込まれてしまう。
煙が晴れ、なのはの姿が見えてきた。
フェイトの目に映ったのは、シールドを展開し、『ファランクスシフト』を完全に防いだなのはの姿だった。
「……ッた〜〜。打ち終わると『バインド』ってのも解けちゃうんだね……。今度はこっちの……番だよ!!」
なのはのデバイス『レイジングハート』から、なのはの主砲とも言える砲撃魔法『ディバインバスター』が放たれる。
それと同時に、フェイトが魔力弾を放つが、『ディバインバスター』の威力を殺すことも出来ずにあっさりと飲み込まれてしまった。
完全な直撃コース。
フェイトはシールドを展開し、防御する。
なのはも自分の『ファランクスシフト』を耐えたのだ。自分も耐えてみせる。
フェイトの防護服が裂け、ボロボロになったが、何とか耐えることに成功する……だが、既になのはは次の攻撃態勢に入っていた。
「受けてみて、『ディバインバスター』のバリエーション!」
なのはの周囲から、まるで星の光のような桃色の魔力が一箇所に集中する。
フェイトは、迎撃の準備に入ろうとするが、先程のなのはのようにバインドに拘束されてしまう。
「これが私の全力全開!『スターライトブレイカー』!!」
『レイジングハート』から、桃色の閃光が放たれ、拘束されたフェイトに襲い掛かる。
拘束されている為、先程の様にシールドを張ることも出来ない。
フェイトは、桃色の閃光に包み込まれた。
「なんつ〜馬鹿魔力!」
「うわぁ、フェイトちゃん生きているかな?」
「……フッ、やりますね…なのは……」
なのはの『スターライトブレイカー』を見て、唖然とするクロノとエイミィ。そして、称賛するムウ。
『スターライトブレイカー』の直撃を受け、意識を失ったフェイトが海へと落下していく。
「フェイトちゃん!」
なのはが慌てて追いかけるが、海に墜ちる前にカノンが抱きとめた。
「見事だったぞなのは……お前の勝ちだ。……実戦ではないから少しやり過ぎとも思うが……」
カノンの褒め言葉(少し微妙だが……)になのはは照れた。
そして、カノンに抱かれていたフェイトが目を覚ます。
「……あっ、フェイトちゃん……気が付いた?」
「……大丈夫かフェイト?」
カノンの問いに静かに頷く。
「ゴメンね、大丈夫……」
自身でしたことだが、流石にやり過ぎたと思ったのか、謝罪する。
「……カノン……、私……負けちゃった…」
「…残念だが……な」
そう言うとカノンは、フェイトの頭を撫でた。
久しぶりに撫でられ、フェイトの顔に笑みが浮かぶ。
『バルディッシュ』が、フェイトの所有する9つの『ジュエルシード』を出す。
「……飛べるか?」
フェイトは頷き、カノンの腕から離れ、自身で飛行する。
「よし!なのは、『ジュエルシード』を確保して。それから彼女を……」
「いや、来た!」
なのはに『ジュエルシード』の確保と、フェイトの保護を指示しようとしたクロノは、突如、立ち上がったエイミィの方を見てから、モニターの方に視線を向けた。
突然、上空に異変が起こり、以前と同じ雷撃が、フェイトに襲い掛かる。……が、既にそこにはフェイトの姿は無く、雷は空しく海面に落ちていく。
前回と違い、プレシアの介入を警戒していたカノンは、いつでもフェイトを救う態勢が出来ていたのだ。
『バルディッシュ』の出した、『ジュエルシード』が物質移動される。プレシアが、『ジュエルシード』を奪われまいと手を回したのだ。
しかし、この行為をクロノ達は狙っていたのだ。
その結果、プレシアの居場所が判明。リンディは転送ポートで、プレシアの本拠地に武装局員を送り、プレシア逮捕を命令した。
★☆★
時の庭園の玉座の間。
無数の魔方陣が現れ、転送された武装局員が姿を現した。
彼らの目的はその場に居る者の逮捕である。
フェイトを伴い『アースラ』に帰還したカノンたちを、リンディが出迎えた。
フェイトの腕には、手錠が付けられている。
立場的には、フェイトは犯罪者であるのでこれはやむを得なかった。
「お疲れ様。それから……、フェイトさん…初めまして……」
リンディが笑顔で挨拶するが、フェイトは待機状態に戻した『バルディッシュ』を握り絞め、俯いているだけであった。
母親が逮捕される現場を見せるのは忍びないとの理由で、リンディはフェイトをこの場から離れさせるようなのはに念話を送り、なのはもそれを了承、フェイトを自分の部屋に連れて行こうとしたとき、武装局員がプレシアを発見したとの報告が入った。
「プレシア・テスタロッサ。時空管理法違反、及び管理局艦船への攻撃容疑で貴女を逮捕します!」
「武装を解除して、此方へ」
局員の指示を聞き流し、鼻で笑うプレシアを取り囲み、そして、数人が奥の間に侵入する。
その時、プレシアの雰囲気が変化した。
局員たちが奥の間に侵入し、アースラのモニターにもその奥の間が映し出される。
そして、そこに存在しているモノを見て、なのはが、アルフが、ユーノが、そしてフェイトが驚愕した。
それは、フェイトそっくりの少女が液体の中に浮いていた。
【私のアリシアに近寄らないで!】
プレシアはそう言うと、局員達を殲滅した。
リンディが慌てて、局員達の送還を指示する。
【もう駄目ね……時間が無い…。たった9つの『ジュエルシード』で『アルハザード』へ辿り付けるか分からないけど……】
『アリシア』に縋り付くように跪くプレシア。
【でも……もういいわ、終わりにする……。この娘を失ってからの暗鬱な時間を、この娘の代わりの人形を『娘』扱いするのも……」
「ッ!?」
フェイトの表情が驚愕に染まる。
【聴いていて……貴女のことよ、フェイト】
吐き捨てるように語るプレシアの言葉に、フェイトが動揺する。
『プロジェクトF.A.T.E』
生命操作技術の一つで、『ジュエル・スカリエッティ』という男が構築した基礎理論をプレシアが発展させ完成させた。いわゆるクローニングの技術である。
この計画の最大の目的は、元となった人物の肉体と記憶の完全な複製。しかし、完全な再現は不可能であった。
『フェイト』は『アリシア』を元に造られた『人造生命体』であったのだ。
プレシアは『フェイト』を『アリシア』の偽者と言い放つ。
「……止めてよ。……お願い、もう止めてよ!」
涙を滲ませながら、なのはがプレシアに懇願する。
しかし耳に入っていないのか、プレシアはフェイトに通告した。
「最後に良い事を教えてあげるわ、フェイト……。貴女を造り出してから、ずっとね……私は貴女が『大嫌い』だったのよ!」
「ッ!?」
突きつけられたプレシアの言葉に、フェイトの目から光が消え、心身が喪失した。
〈第八話 了〉
今回は、カノンたち聖闘士の出番は殆どないな。
真一郎「ほぼ、原作どおりの展開だな」
こればっかりはね……
真一郎「ところで次回は新しい聖闘士キャラを出すんだよな?」
うん。誰かはまだ秘密
では、これからも私の作品にお付き合いください
真一郎「お願いします」
なのはとフェイトはどうにかなのはの勝ち。
美姫 「この辺りは原作通りに展開したわね」
少しカノンの助けがあったぐらいかな。
いよいよこの事件も終わり間近って感じだけれど。
美姫 「次はどうなるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」