『時空を越えた黄金の闘士』
第三話 「魔導師たち」
海鳴市に隣接する遠見市。
ここに、フェイトの拠点であるマンションがある。
カノンは一人、留守番をしていた。
フェイトとアルフは、『ジュエルシード』集めをフェイトに命じた母親のところに報告に行っていた。
『時空管理局』にいずれ接触する予定のカノンは、接触後、フェイトのことについて情報を提供することになるはずなので、余りフェイトの事情を詮索していなかった。
何の目的で『ジュエルシード』を集めているのか……そのことが管理局に知られれば、フェイトにとってマイナスになるかも知れない。
少なくとも、恩のあるフェイトが不利になるような状況には持っていく気はなかった。
それに、どうやらフェイト自身も、理由を知らないらしい。
ただし……フェイトの母親がこの世界に災厄をもたらす気なら……例え、自分の世界で無くても……フェイトを敵に回しても、カノンは戦うつもりではあったが……。
この世に邪悪が蔓延る時、必ずや現れる希望の闘士。『聖闘士』として……。
例えこの世界が、自分の世界ではないにしても……愛と正義の為に戦うのが『女神の聖闘士』の務めなのだから……。
とりあえず家事を済ませたカノンは、テレビを見ながら、もう一人の魔導師の少女のことを思い起こしていた。
白い防護服(バリアジャケット)を着た少女……名前は……高町なのは…。
カノンが彼女を最初に見たのは、海鳴温泉の近くにあった『ジュエルシード』を発見したときであった。
その前に、アルフが忠告……いや、脅迫?……をしたらしいのだが、彼女はそれでもその場に現れた。
フェイトとなのはは戦ったのだが、その時はフェイトの圧勝だった。
基本的にカノンは、フェイトの身に危険が迫らない限り、手は出さない。
フェイトがそう言ってきたので、カノンもそれを了承していたのだ。
次に見たのは、街の中にあった『ジュエルシード』を強制発動させたときである。
その時はフェイトも前回と違いかなり梃子摺っていた。
お互いのデバイスが損傷し、フェイトはデバイスを使わずに『ジュエルシード』を封印し、その場で倒れてしまった。
フェイトはなのはを『甘ったれた娘』と評したが、カノンはなのはを侮ってはいなかった。
確かに百戦錬磨のカノンから見れば、大した相手でもない。
しかし、数回の戦闘を行っただけなのに、それだけでフェイトとの実力差を縮めているなのはを見て、感心していたのだ。
次戦うとき……フェイトも勝てるとは限らないだろう。
高町なのはの目を見たカノンは思った。
あの少女の目は、あいつ等の目に似ている……と。
かつて、カノンの野望を打ち砕いた5人の青銅聖闘士たち。
『天馬星座』星矢。
『龍星座』紫龍。
『白鳥星座』氷河。
『ANDROMEDA星座』瞬。
そして、『鳳凰星座』一輝。
取るに足らない青銅の雑魚とばかり思っていたのに、海底神殿に乗り込み、海闘士七将軍を悉く倒し、カノンの野望を潰してしまったのだ。
あいつ等ほど強くはならないだろうが……高町なのはは、あいつ等……特に星矢に似ている。
真っ直ぐで、そして決して諦めない勇気が篭もった目を持っていた。
実力で言えば、一輝、小宇宙では、瞬、技量においては氷河、紫龍の方が優れている。
しかし、皆が最後にアテナを託したのは星矢であった。
アイツなら必ずアテナを救える。
そう思わせてくれる何かを星矢は持っていた。
高町なのはもいずれ……皆の期待を一身に受ける存在になる。
カノンはなんとなく、そう思っていた。
そして……フェイトの母親と戦うとき……自分は、彼女に味方しているかも知れない。
「ふむ……そろそろだな……」
フェイトが帰ってくる時間が近づいていた。
帰り次第、次の『ジュエルシード』の捜索に向かうとの事なので、海鳴市で待ち合わせることになっていた。
★☆★
「カノン……お待たせ…」
待ち合わせ場所で待っていたカノンの前に魔法陣が現れ、フェイトとアルフが転移してきた。
笑顔で声を掛けてきたフェイトを見て、カノンは違和感を感じた。
【おい、アルフ…聞こえるか?】
【……え…カノン……!?】
【……そうだ】
【魔法が使えないのに……どうして念話が出来るんだい?】
【テレパシーだ】
【テレパシー……?】
【確かに俺は魔法は使えないが……念動力《サイコキネシス》が使える。念動力の能力の中には精神感応もある。だから、お前たちで言う念話など簡単に出来る】
念動力とは、念《意思》の力で様々な能力を発揮する……ようするに超能力である。
黄金聖闘士は、全員この能力を持っている。
それは、古来より王道とも言うべき聖闘士の闘法の使い手である『獅子座』のアイオリアでさえ持っている能力である。
アイオリアは、かつて偽の教皇であるサガから、星矢たちの抹殺の命を受けグラード財団の療養所の病室に居た星矢を念動力で自分の目の前に引き摺り出したことがあるし、十二宮において、偽教皇がサガであることが明らかになったとき、黄金聖闘士たちはそれぞれが守護する宮に居ながらも、テレパシーで会話をしていたこともあった。
黄金聖闘士の中で、最も秀でた念動力を誇る『牡羊座』のムウ、最も神に近い男と謂われる『乙女座』のシャカ、正当な『双子座』の黄金聖闘士である兄、サガに次ぐ念動力をカノンは持っていた。
【そんなことよりアルフ……。フェイトに何があった?】
【……何がって!?……べ……別に……フェイトはいつものフェイトだよ……】
カノンの指摘に動揺するアルフ。
【誤魔化すな!なんでも無い様に振舞っているが、フェイトの息が荒い……肉体的に何か負担が掛かったのではないのか?】
カノンの正鵠を射た指摘にアルフは観念し、事情を話し出した。
高次元空間内にある『時の庭園』
その中で、鞭の撓る音と、苦痛に喘ぐ声が響きわたっていた。
「たったの四つ……」
バインドで拘束され吊るされているフェイトの前に、妖艶な美女が居た。
「これは……余りにも酷いわ」
彼女の名は、プレシア・テスタロッサ。
『大魔導師』の称号を持つ、優秀な魔導師である。
「……はい……。ごめんなさい……母さん……」
フェイトの防護服は既にボロボロで、その体には鞭で打たれた痣が無数に付いていた。
「いい、フェイト。貴女は私の娘……大魔導師プレシア・テスタロッサの『一人娘』。不可能なことなどあっては駄目。どんなことでも……そう、どんなことでも成し遂げなければならないの」
プレシアは冷酷な瞳で、フェイトを見据える。
「……はい…」
「こんなに待たせておいて、挙がって来た成果がこれだけでは、『母さん』は笑顔で貴女を迎える訳にはいかないの……判るわね、フェイト…」
「……はい…判ります…」
フェイトは、哀しそうな顔で答える。
「だからよ……。だから、覚えて欲しいの。もう二度と『母さん』を失望させないように……」
プレシアの持っている杖が鞭に変化し、再びフェイトの体を打ち据えた。
庭園内にフェイトの悲鳴が響く。
アルフは耳を塞ぎ、体を震わせていた。
「……何だよ。一体何なんだよ……あんまりじゃないか…あの女!」
プレシアの異常さやフェイトに対する酷い仕打ちは今に始まったことではないが、今回のは余りにも酷すぎる。
そんなにも、あのロストロギア『ジュエルシード』はそんなに大事なのか。
アルフの不信感は増すばかりであった。
【………惨いな……】
常軌を逸したフェイトの母親の行為に、カノンの表情が曇る。
【………フェイトの母親は……今までもフェイトに対して酷い仕打ちばかりしてきたけど………母親のくせになんでいつもあんなに酷い事を…・・・】
【……俺は……親というものを知らないから何とも言えないが……一般的な母親の行為ではないな…」
【親を知らない…?】
【ああ。俺は孤児でな。親の顔も覚えてはいない。身内といえば双子の兄だけだった。……その兄も数週間前に死んだがな】
【……そうなんだ……】
アルフは、思いもかけず知ったカノンの境遇に何とも言えなくなる。
【しかし、何故フェイトはそんな女に従うのだ?いくら母親と言っても……】
【アタシは理解出来ないんだけど……フェイトはあの女が好きなんだ。何でも昔は優しかったらしくて……自分が頑張れば、昔の優しい母親に戻ってくれる……って……】
【………そうか……】
カノンもアルフと同様、何処か納得が出来なかった。
★☆★
海鳴臨海公園。
『ジュエルシード』が発動した。
一本の木が、まるで生き物の様に動き、巨大な木の化け物に変わった。
高町なのはと行動を共にしているフェレットが駆けつけ、結界を張る。
辺りの景色の色が変わる。
化け物と化した木に、高町なのはが杖を向け対峙する。
その時、無数の光弾が化け物木を襲うが、化け物木に当たる前に何かに遮られる。
「生意気にバリアまで張るのかい」
「うん……今までのより強いね」
「多少だがな」
なのはが振り返った先には、黒い『防護服《バリアジャケット》』を着た少女とその使い魔。そして、なのはたちより年上の黄金の箱を背負った男性が立っていた。
フェイトとアルフ、そしてカノンである。
「それに……あの娘がいる」
フェイトは、なのはを見つめながら哀しそうに呟いた。
化け物木は、根を地面から出しなのはたちに襲い掛かってきた。
「ユーノ君、逃げて!!」
化け物木の近くにいたフェレットは、なのはの声に従いその場から離れる。
「…『アークセイバー』!」
フェイトのデバイス『バルディッシュ』が、基本形態である斧型の《デバイスフォーム》から、鎌型の《サイズフォーム》に変化する。
なのはが、飛行魔法で高く飛び上がり、なのはのデバイス『レイジングハート』もバトン状の《デバイスモード》から、先端が音叉状に変化した《シューティングモード》に変化する。
フェイトの放った圧縮魔力の光刃がブーメランの様に飛び、化け物木の根を次々と切り払う。
「…『ディバインバスター』!」
なのはの主砲とも言える直射型の砲撃魔法が、化け物木に襲い掛かる。
「貫け、『轟雷』!!」
フェイトの砲撃が化け物木に直撃し、化け物木は消滅し、『ジュエルシード』のみが残った。
「…『ジュエルシード』シリアルZ!」
「封印!」
『ジュエルシード』が閃光が包まれ、封印される。
なのはとフェイトが対峙した。
先日のように、『ジュエルシード』に衝撃を与えるのは不味い。
そう判断した二人は、戦う意思を見せた。
譲れない願い。
母の為に、『ジュエルシード』を手に入れたいフェイト。
ただの甘ったれた娘ではないことを証明し、フェイトと話し合いたいなのは。
『レイジングハート』と『バルディッシュ』を《デバイスモード》に戻し、二人はぶつかり合う……筈だった。
二人の間に魔方陣が現れ、一人の少年が転移してきた。
なのはの『レイジングハート』を掴み、フェイトの『バルディッシュ』を自身のデバイスで受け止める。
「ストップだ!ここでの戦闘は危険すぎる。『時空管理局』執務官クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか?」
〈第三話 了〉
真一郎「いきなりだな」
うん。大抵の人は次の話は、アニメの第五話を元にした話になると思っていたと思うけど……アニメ第五話と六話についてはアニメの流れそのままにするつもりだったので、カノンの回想で済ませました。
真一郎「ついに管理局と接触だな」
うん。他の方々の作品によくあるパターンである、対クロノ戦になります。
真一郎「やっぱりか」
これは譲れんからな。だが、私はけっこうクロノは好きなので、クロノの扱いはそれほど悪くはなりませんけどね。
真一郎「むしろ、クロノはカノンに対して……」
ストップ!それ以上はネタバレになる。
では、これからも私の作品にお付き合いください。
真一郎「お願いします」
今の所は原作通りで大きな変化はないかな。
美姫 「みたいね。いつ頃、カノンが動き出すのかよね」
それを楽しみにしつつ、なのはとフェイトがどうなっていくのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。