『時空を越えた黄金の闘士』
第二話 「協力関係」
カノンはフェイトを説得し、協力者となった。
いかに優秀な魔導師とはいえ、フェイトはまだ9歳に過ぎない。
しかも、純粋培養の少女である。
神すら誑かしたカノンにとって、そんな子供を言いくるめることなど造作もなかった。
「それで、お前の他にその『ジュエルシード』とやらを集めている魔導師がいると言っていたな?」
「……でも……フェイトに比べたら大したことないよ……すっごく弱っちい奴だからね。流石私のご主人様ってところだね」
目が覚めて、カノンがフェイトに協力することになったことを知ったアルフが、先程、カノンに突っ掛かったことを棚に上げて気さくに話しに割り込んできた。
「………目が覚めたか…」
「アンタがフェィトに協力するっていうなら……こっちから手は出さない……。でも、フェイトに危害を加えたら……只じゃ置かないよ」
アルフは、そう言いながらカノンを睨んだ。
先程あっさりと伸されたくせに、強気で言うアルフを見て、カノンは静かに微笑み、狼の姿のアルフの頭を撫でた。
「心配するな。……ところで、お前たちは出掛けるんじゃなかったのか?」
「「あっ!?」」
ようやく、フェイトたちは自分たちが出掛ける予定だったことを思い出した。
「そうだよ、フェイト。早く『ジュエルシード』の探索に行かなきゃ」
「そうだね……カノンさんはどうされますか?」
「……フェイト…。俺に敬語はいらん……」
「……うん…。わかったカノン」
「とにかく……何時、時空管理局とやらが来るかも知れんからな。俺も付き合おう……」
★☆★
フェイトとアルフは、飛行魔法で空を飛び、探索を行っていた。
一般人に見つからないように、認識阻害魔法を使っているが、一応、カノンはその対象から外していた。
しかし、カノンは魔導師ではないので空は飛べない。
しかし、聖闘士であるカノンにとっては、屋根から屋根へ移動することはたやすくできるので、その様にフェイトを追いかけていた。
フェイトは、ジュエルシードの探索に集中しているので、後を追うカノンのことを気遣う余裕をなくしていたし、アルフは気遣いをする気がないようである。
「……ジュエルシードの反応……ないね……」
「フェイト。ちょっと一息入れようよ」
アルフに勧められ、フェイトは近くのビルの屋上に降りた。
「一休みするのか?」
突然、カノンに声を掛けられ、フェイトとアルフは飛び上がった。
「カ……カノン!?」
「何で……ここに?」
フェイトとアルフは、空を飛べないので走ってついて来ているカノンとはけっこう距離が離れていると思っていた。
降り立ったと同時に声を掛けられるとは思いも寄らなかったのだ
「お前たちの後をついて行っただけだが……」
フェイトの飛行魔法は、かなりのスピードである。
それを、魔法も使わず、しかも走ってついて来られたことに、驚愕する。
「アンタ……一体何者なんだい?」
目の前の規格外の存在に、アルフは驚愕するしか出来なかった。
さっきも魔法を使えないのに、自分を簡単に倒してしまったことについても……。
「……お前たち、魔導師とやらは驕り過ぎている」
カノンは、呆れた顔で答えた。
「魔法を使えない者が、魔法を使える者に勝てるはずがない……と、思っているだろう」
フェイトとアルフは答えないが、その瞳がそれを肯定していた。
「言っておくが、俺をお前たちの常識で量らないほうがいい」
そんな風に言うカノンを見たフェイトは、「カノンの事をよく知りたい」……と思い始めた。
★☆★
探索により、『ジュエルシード』の方角はわかったので、明日、その方角を重点に探すことにし、3人はマンションに戻った。
「さて、そういえば食事はとっていないようだな?」
「アタシは、もう腹ペコだよ……」
「待ってて……直ぐに用意するから……」
そう言ってインスタント食品を取り出すフェイト……。
それを見て、カノンが止めた。
「若いうちから、そんな物ばかり食べているのはよくない……俺が作ろう……」
カノンは冷蔵庫を開ける。
「………食材がないな…。まさか…今までインスタントばかりか?」
「……料理は……基本的な事は学んだし……材料を切ったり、火を使うのは得意なんだけど………」
食べられないわけではないが、あまり美味しいものは作れないとのことであった。
「カノンは料理作れるのかい?」
「……ああ。一人暮らしが長いからな……料理くらい出来るようになる」
幼い頃は、兄サガと一緒に食事の準備をしていたが、サガが黄金聖闘士になって守護すべき十二宮に住むようになってからは常に自分で料理をしていた。
黄金聖闘士には従者が付くので、身の回りの世話は従者に任せればいいのだが、正当な双子座の黄金聖闘士であるサガはともかく、その予備でしかなかったカノンは十二宮に住まず、聖域の外れに居を構えていた。
故に、サガの双子の弟であることは聖域では誰も知らず、アテナとポセイドンとの聖戦で初めてその存在が明らかになったのだ。
「仕方がないな……買い出しをしてくる………時間は……8時か。殆どの店は閉まっているな」
「えっ!?まだ8時だろ……殆ど開いている筈だけど……」
「そうなのか……!?」
カノンの居た世界と、この世界は似たような歴史を辿っている。
この日本の歴史にしてもそうだ。
邪馬台国の卑弥呼。
冠位十二階と十七の憲法。
大化の改新。
藤原氏の栄華。
院政。
源平の戦い。
元寇。
南北朝の争い。
応仁の乱と戦国乱世。
関ヶ原の合戦。
島原の乱と鎖国。
黒船来航。
明治維新。
太平洋戦争。
これらの事件は当然、カノンの世界にも存在していた。
平行世界。
数々の次元世界を管理する『時空管理局』においても、その存在は研究されているが……未だに到達はしていない世界である。
そして、この世界とカノンの世界は時代がずれていた。
カノンの世界は20世紀の西暦1990年。
この世界は21世紀の西暦2004年。
その僅か14年の間に、様々な変化があったのだ。
1990年においては、食料品などを売っている店は大都会を除けば、8時を過ぎると閉店していたが、21世紀を過ぎた現在は早くても10時……コンビニの様に24時間営業の店も現れている。
20世紀の感覚のカノンは、その事を聞き驚いていた。
それにカノンは15歳の頃から余り地上には出ず、殆ど海底神殿ですごしていた。偶には地上に出ていたが、海闘士が集ってからはまったくと言っていいほど地上には出ていなかった。
故に、1990年どころか、1980年代の感覚なのだ。
「ふむ……とりあえず買い出しをしてくるから少し待っていろ」
「頼むよ……アタシはもうお腹と背中がくっついちゃうから……」
帰ってきたカノンが作った料理を食べながら、フェイトとアルフは驚愕していた。
余りにも美味しすぎるのだ。
昔、フェイトやアルフにとっても師と言えるフェイトの母親の使い魔が作ってくれた料理とはまた違った美味しさであった。
実はカノンは、かなりの凝り性であった。
美味い物を食べたい。
なら、どうすればいいか?
自分の料理の腕を上げればいい。
そう言うわけで、カノンの料理の腕は一流のコック並なのである。
★☆★
宛がわれた部屋で、カノンは改めて自分の持ち物を確認していた。
『双子座』の黄金聖衣。
何故か、聖衣櫃まであるのかは理解できないが、正直、何が起こるかわからないので、聖衣があるのは有り難かった。
そして……聖衣櫃の隣には小さな瓶が置かれていた。
その瓶の中身は……神聖なるアテナの血。『霊血《イーコール》』であった。
冥王との聖戦が始まったとき、聖域に乗り込んできたのは、サガの乱で死んだ黄金聖闘士たちであった。
彼らは、冥王からの「アテナの首を取ってくれば、死の世界から解放し、永遠の命を与える」という誘惑に乗った振りをして、聖域に乗り込んできた。
目的は、教皇しか知らない『女神の聖衣』のことを……逆賊の汚名を着てでも……伝えるために。
その最中、アテナは生きながら冥界に行くために阿頼耶識……第八感《エイトセンシズ》……を発揮するため、自らの喉を黄金の短剣で貫いたのだ。
女神神殿の床に残った血は、さすが神の血である為、普通の人間の血のように外気に触れても固まらなかった。
その血により、海皇との聖戦の折りに死に絶えた4人の青銅聖闘士の聖衣は、神の血により最強最後の聖衣として蘇った。
カノンは、アテナの御為に役立つかも知れないので、その『霊血』を瓶に入れ、持っていたのだ。
結局、使用することもなかったが……。
神の血が入っている為か、カノンがラダマンティスを倒すために放った自らを巻き込むギャラクシアン・エクスプロージョンの威力にも割れることもなく、カノンの懐に入っていたようであった。
翌日。
カノンは、フェイト、アルフと共に再び、『ジュエルシード』の探索に出掛けた。
探索の場所は……湯の町『海鳴温泉』であった。
〈第二話 了〉
何か……設定を説明する話になってしまいましたね……。
真一郎「原作の公式設定じゃない設定がたくさんあるな」
そうだな。
真一郎「例えば、カノンが料理上手だとか……『霊血』を持っていることとか……」
この話も一応、お前が主役の『真一郎、御神の剣士となる』と同じく、ご都合話だからな……つまり、私が書きたいように書く。
真一郎「まあ、ファンフィクションだし……な」
そういうこと。ちなみにカノンが『霊血』を持っているというアイデアは、THE LOST CANVAS 冥王神話で双子座のデフテロスが『先代のアテナの血』を持っていたので、そこから思いつきました。では、これからも私の作品にお付き合いください。
真一郎「お願いします」
大きな進展はなし。
美姫 「そう簡単にジュエルシードは見つからないという事ね」
カノンの現状みたいな事は分かったし、聖衣があるのは頼もしいかも。
美姫 「次回は温泉町へと探索に行くみたいだし」
どうなるかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。