『時空を越えた超戦士−Remake−』

其之十九 サイヤ人の変身

 

 睨み合う2人のサイヤ人。

 1人は、サイヤ人の名門出のエリート戦士。

 もう1人は、使い捨ての下級戦士。

 しかし、その実力は逆転し、下級戦士がエリート戦士を遥かに上回っていた。

 

「でやあぁぁぁぁぁ!!」

 

 エリート戦士……キャーベが下級戦士……バーダックに殴りかかった。

 しかし、バーダックはそれをヘッドスリップで躱すと、膝蹴りをキャーベの鳩尾に叩き込んだ。

 

「ぐえぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 たった一発――例え急所とはいえ――もらっただけにも関わらず、キャーベは悶絶した。

 

「おいおい……これでお仕舞いかよ。情けねぇな…」

 

 侮蔑を隠そうともしないバーダックに、キャーベは怒り心頭になった。

 

「下級戦士の癖に…下級戦士の癖に…下級戦士の癖に…」

 

「そんな愚痴を言うくらいならば、俺を超える努力をすればいいだけの話だろうが!」

 

 キャーベのバーダックに対する憎しみは、ベジータの|悟空《カカロット》に対する憎しみと似て非なるモノである。

 確かにどちらも本来、格下である相手に抜かれてしまった点は一緒だ。

 だがベジータは、傷つけられた矜持を取り戻すために、悟空を超えるべく高みを目指した。

 悟空をサイヤ人1だと素直に認めた後も、いつか必ず悟空に勝つ事を目標に、己を鍛え続けた。

 しかし、このキャーベは……。

 

「サイヤ人なら、己の力で語れ!」

 

「裏切り者の貴様に、サイヤ人のなんたるかを語る資格なんかねぇ!」

 

「俺はサイヤ人を裏切った覚えはない!テメーらを同族だと思ってねぇだけだ!!」

 

 キャーベの猛攻を、バーダックは涼しい顔で受け流していた。

 

「…強い……」

 

「何をやっているかよく解らないが……バーダックさんが圧倒しているのだけは判るな」

 

 サイヤ人の恐ろしさを身を持って思い知っていたフェイト達だったが、サイヤ人でもピンからキリまでいる事を悟った。

 両方とも、今まで戦ったサイヤ人に比べて、レベルが違う。

 特にバーダックは、レベルどころか次元が違い過ぎた。

 

 

 

 

 

「畜生め……やはり、使わざる得ないか…」

 

 すべての攻撃をバーダックに難無く躱されたキャーベは、息を切らせながら懐から何かを取り出した。

 それは、先ほどオニオンとブロッコが、キャーベに渡した物であった。

 

「何だそれは!?」

 

 見たところ、ゴーグルの様な形をしているが……。

 

「フフフ…これはな。俺たちのスポンサー達が開発した『ブルーツアイ』だ」

 

「…ブルーツアイ?」

 

 ブルーツという単語にバーダックは訝しむ。

 しかし、クロノ達はスポンサーという言葉を反応していた。

 

「スポンサー…だと?」

 

「バーダックから、俺たちサイヤ人の生業は聞いていないのか?俺たちサイヤ人は星の地上げを生業にしている……地上げをするには、それを買い取ってくれる者が必要不可欠だろう。お前ら管理局って奴等は相当、恨みを買っている様だな。俺たちに協力したいという組織がかなりコンタクトを取ってきたぞ」

 

 無論、その組織とは次元犯罪者の集団である。

 サイヤ人は彼らを利用すべく接触したが、彼らは魔法が使えないサイヤ人を甘く見て、徹底的に叩きのめされ、従属させられているらしい。

 たった7人とはいえ、サイヤ人は1人でもオーバーSランクの小隊一つ軽々と全滅させられる。

 そして、サイヤ人は野蛮ではあるものの、決して知能が低いわけではない。

 こと戦いに関する限り、力押しだけでなく、戦略・戦術に長けている者も多い。

 

「くっ…ただでさえ厄介なのに、それに次元犯罪者組織と繋がりを持っているとなると……かなり不味いな」

 

 次元犯罪組織がサイヤ人の下に纏まり、一大勢力となれば管理局の存亡に関わる可能性も出てくる。

 次元犯罪の数が多く、手が回らない現状ではあるが、だからといって次元犯罪者が人纏まりになって貰っても困る。

 敵の戦力を集中させず、各個撃破せよという用兵学の根本に反する。

 

「俺にとってはどうでもいい事だ。第一、ここでテメーらを片付ければ済む話だしな…」

 

「フン…そう簡単にはいかん。その為のこの『ブルーツアイ』だ」

 

「…で……結局それは何なんだ?」

 

 見たところ、ただのゴーグルにしか見えない。

 

「今日の月を見てみろ」

 

「…月だと?」

 

 キャーベに促され、バーダックは月を見上げた。

 月は半分近く陰っており、丁度、月相の18、寝待月であった。

 

「満月じゃねぇぞ……満月は当の前に過ぎたからな」

 

 満月の日に、バーダックは月を見ない様に注意していたので、よく知っている。

 

「そう、今日は満月じゃない……しかし、このブルーツアイ……『ブルーツ波増幅器』を使えば問題なくなる」

 

「何だと!?ブルーツ波増幅器だと!!」

 

 ブルーツ波とは、月から発する電磁波の事であり、満月になると1700万ゼノ以上という大量のブルーツ波が発生する。

 サイヤ人は、それを目で吸収すると尻尾に反応し、大猿へと変身する。

 特定のサイヤ人は、『パワーボール』と言う1700万ゼノ以上のブルーツ波を自分で作り出す事が出来る。

 しかし、それはエリート戦士の中でも王族とエリート戦士の中でも上位の者のみである。

 残念ながら、キャーベは名門出とはいえ、上位レベルではなかったので『パワーボール』は作れなかった。

 下級戦士でありながら『パワーボール』を作り出せる者も1人いるが……。

 

「パワーボールの場合は、貴様にも影響してしまうし、そもそも俺には使えないが……これを使えば俺のみが変身できる。何しろ一回使えば、充電しなければ再度使えないからな。新月でさえなければ、半月だろうが三日月だろうが関係なくなる……如何に貴様でも俺たちサイヤ人の切り札には敵うまい……デュワ!」

 

 キャーベは勝ち誇りながら、『ブルーツアイ』を装着し、月を見上げた。

 すると、キャーベの体か変化していき、大猿へと姿を変えた。

 

「こ……こんな……事が!?」

 

「これが……サイヤ人の切り札!?」

 

 クロノとフェイトの顔が真っ青になった。

 大猿に変身する事はバーダックに聞かされていたが、まさかこれ程の化け物とは思ってもみなかった。

 大猿と化したサイヤ人の戦闘力は10倍に跳ね上がる。

 正にサイヤ人の切り札であった。

 発せられる威圧感は、先ほどキャロが召喚したヴォルテールの比ではない。

 もし、オニオンとブロッコが大猿になっていれば、ヴォルテールの力を持ってしても勝てなかったかもしれない。

 そう思わせる何かがあった。

 

 ★☆★

 

「ぐははははっ!貴様はもうこれで終わりだ!!」

 

 大猿となったキャーベは、巨大化したその拳をバーダックに叩きつけた……が…。

 

「…なっ!?」

 

 その拳を、バーダックは片手で受け止めていた。

 

「キャーベ……俺は前にタニブとコーンに言ったはずだったが……奴等との戦いの時、俺は実力の1割も出していない……とな」

 

 タニブとの戦いの時のバーダックが出した戦闘力は5000.

 それで1割にも満たないのだ。

 いや、1割どころか1分の力も出していなかった。

 戦闘力4000のキャーベが大猿化し、戦闘力は10倍の40,000となったが、戦闘力5000が1分にも満たないバーダックに通用する戦闘力ではない。

 バーダックの体が、発せられるオーラに包まれ、コーンのスカウターが自動的にバーダックの戦闘力を計測し始めた。

 コーンのスカウターは旧型である為、23,000までしか計測できない。

 その為、スカウターは煙を噴いて壊れてしまった。

 

「そ……そんな、本当に5000で1割以下だったというの……」

 

 キャーベは元より、コーンもバーダックの言を誇張した表現だと思っていた。

 しかし、それは紛れもない事実だったのだ。

 大猿にもならずに、スカウターが計測出来ないほどの戦闘力を持っているなど…王族どころか、サイヤ人の戦闘限界を超えているとしか思えなかった。

 

「こ…こんな馬鹿な事があってたまるかぁ!!」

 

 キャーベはそのまま体重を掛け、バーダックを押し潰そうそするが、バーダックは逆にそのままキャーベの巨体を持ち上げてしまった。

 

「おりゃあ!!」

 

 そのまま、一本背負いの要領でキャーベを投げ飛ばすと、高速移動で回りこみ、顎を思い切り蹴り上げ、更に頭頂部に回りこみ、ハンマー打ちで、大地に叩きつけた。

 バーダックはそのまま、うつ伏せに倒れこんだキャーベの尻尾の付け根に、『ライオットジャベリン』を放った。

 

「ア……ガ……ガ……アァ…」

 

 『ライオットジャベリン』は、尻尾を根本から消し飛ばし、キャーベは尻尾を失った。

 尻尾を無くしたキャーベの体は、どんどん小さくなり、元の姿に戻って行った。

 

 ★☆★

 

「大猿は確かに大きなパワーアップが出来るが、尻尾を切られたりしたら元に戻っちまう…。体も大きくなりすぎる。雑魚共を殲滅するのには手っ取り早いが、自分以上の相手と戦うには勝手が悪すぎるんだよ」

 

 戦闘力が10倍になるとはいえ、それでも互角以上の敵に対しては、大猿は確かに不向きだ。

 大猿になる事で圧倒できる場合で無い限り……その巨体は敵の攻撃を受けやすくなるし、体が大きい分、動きが鈍重になってしまう。

 自分だけ大猿になれば勝てる……そう思いこんだキャーベは愚かであった。

 昔は、バーダックも重宝していた大猿化だが、今ではそれほど必要ではなくなっていたのだから…。

 

「なら、貴様にとってもはや大猿は必要ないとでも言うのか?」

 

 サイヤ人最大の特徴である大猿化を否定的なバーダックに、キャーベは信じられない気持ちだった。

 確かに、王子であるベジータは大猿を醜いという理由で嫌っていはいたが…。

 その有効性は認めていた筈だ。

 如何にエリートはおろか王族よりも上回る戦闘力を身に付けたとはいえ、それを否定するなど考えられないのだ。

 

「…良いだろう……本来ならテメエ如きには必要ねぇが……地獄への土産に見せてやろう…」

 

 そう言うとバーダックは、腰を少し落とし、両拳を握り締め、己の気を高め始めた。

 

はぁっ!!

 

 気合いを込めたと同時に、バーダックの体を包むオーラが、金色へと変化した。

 

「な……何だと!?」

 

 キャーベは我が目を疑った。

 バーダックの四方に伸びた髪の毛が逆立ち、黒髪から金髪へと変化し、瞳の色も黒目から碧眼へと変わっている。

 サイヤ人は大猿以外変身しないはずなのに……何故この様な変身が可能なのか?

 

「一体何だ…それは!?」

 

「…テメエもサイヤ人ならば、伝説を知っているだろう?」

 

「で…伝説だと……!?ま…まさ…か…!!」

 

 それはサイヤ人はおろか、他の星間種族にも伝わっている伝説。

 1000年に1度現れるという、宇宙一の超戦士。

 

「あり得ん……あれはただの伝説の筈だ。いや、例え真実だったとしても……ベジータ王子ならばまだしも、下級戦士である貴様なんかが…」

 

「俺も最初は気付いていなかったがな」

 

 キャーベの狼狽ぶりは、見ていて気の毒になりそうな程であった。

 コーンも青褪めている。

 

「貴様なんかが、伝説の超サイヤ人なんかになれるはず…が!?」

 

 信じられる否定の言葉を叫んだキャーベは、いつの間にか高速移動して間合いに入り込んでいたバーダックの掌が、眼前にあった。

 

「信じる信じないはテメエの勝手だ……あばよ!」

 

 ほぼ零距離から放たれた気功波は、キャーベの肉体を塵と化させた。

 惑星ベジータの崩壊から、異世界に跳ばされた事で生き残り、新たなるサイヤ人の王となろうとした男の実にあっけない最後であった。

 エリート戦士とはいえ、キャーベは王になれる様な器ではなかった。

 過ぎた望みと、過剰な矜持が、この男の命を縮める結果となった。








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