『時空を越えた超戦士−Remake−』

其之十六 協力関係!?

 

「ガツガツガツ!」

 

 次から次へと胃袋に納められる料理。

 

「……」

 

 カチャカチャカチャ!

 

 テーブルマナーもヘッタクレもなく、響く食器の音。

 

「モグモグモグ……おい、追加だ…もっと持って来い!」

 

 どんどんと積み上げられる皿。

 そして、それを下げ、新しい料理を作り、持ってくるのに四苦八苦しているコックと給仕。

 そんな状況を唖然と見つめる局員達。

 何故かまったく動じていない『アースラ』艦長と執務官と通信主任の3名。

 食事に夢中になっている義父の皿に苦手な人参をこっそりと移している少女……。

 気がついた時、アースラの一週間分の食料が、消費されていた。

 ちなみにクロノ、フェイト、エイミィの3人が動じていないのには理由がある。

 フェイトが保護責任者になっている少年は、小さい体に似合わずバーダックと同じくらい食べる。

 その為、多少は驚いたものの唖然とするほどではなかった。

 

「……この世界の地上本部の食料庫が無事で良かったな…御蔭でこの人が食べた分を補給できる…」

 

「そうだね。何故か他の施設はほとんど破壊されているのに食料庫だけは無事だったのは不思議だけど…」

 

 先に地上本部を襲った貝割マンと球根マンは、ほとんどの施設を破壊したものの食料庫だけには近付こうともしなかったようである。

 おかげでそこに収納されていた大量の食材は無事であり、生き残りの局員達は飢えに苦しむ事はなかった。

 

「そりゃ勿論、奴等が食う為に残していたに決まっているだろ!」

 

 同じサイヤ人であるが故に、バーダックは正確に奴等の意図に気付いていた。

 サイヤ人達が星を攻める時に移動する手段は、1人乗り丸型の宇宙ポッド『アタックボール』である。

 人ひとり分のスペースしかない『アタックボール』に一部の例外を除き大食の種族であるサイヤ人の食料などとても積み込めるモノではない。

 故にサイヤ人の食料は現地調達をするしかないのだ。

 特に今回、奴等の主目的はこの世界を制圧し、自分達の本拠地にする事なので、食料は大事にするのは当然といえるだろう。

 

「ふぅ〜…食った食った……」

 

 久しぶりのきちんと調理された料理に満足気なバーダック。

 やはり、マナーなど気にもしていなかった。

 

 ★☆★

 

「さて、約束だからな……聞きたい事があるならさっさと言いな……答えられる事だったら答えてやる」

 

 食事を終え応接室に案内されたバーダックはソファに座ると、両足をテーブルの上に投げ出した。

 その態度に眉をひそめる面々。

 初対面で次元世界の法の守護者である時空管理局に対し、こんな態度を取る者は珍しい。

 協力者ならば緊張するか、犯罪者ならば敵視するか……何かしら身構える物だが、何の気負いもなく横柄な態度を取る者など殆どいない。

 気を取り直し、クロノが質問を始めた。

 

「それでは…まず貴方や奴等は何者なのですか?」

 

 先ほどの奴等との会話で彼らが同族である事は推測がついている。

 しかし、何者なのかがわからない。

 奴等も、そして目の前の男も、魔力反応がないのは確認済みである。

 にも拘らず、魔導師を圧倒するなど、自分達の常識を逸脱している存在。

 

「俺たちは、戦闘民族サイヤ人だ」

 

 サイヤ人。

 惑星ベジータを母星とする戦闘民族。

 強靭な肉体と生命力を持ち、戦闘に特化した能力を持つ。

 外見は地球やミッドチルダの人間と殆ど変わらないが、特徴として尻尾が生えている。

 戦闘民族の名の通り、本質的に戦いを好み、星の地上げを生業とし、他の惑星を侵略し、その文明を吸収する狩猟民族でもある。

 

「星の地上げ…!?では、奴等の目的は…」

 

「ああ。この星の住人を皆殺しにして、自分達の本拠地にするのが目的だ」

 

 あまりの事に絶句するクロノ達。

 すでにこれは犯罪というレベルではない。

 完全な侵略行為だ。

 

「どうしてそんな酷い事が出来るの!?」

 

 フェイトは怒りを隠そうともせずバーダックに詰め寄った。

 

「理由なんかねぇよ……第一それはサイヤ人に限った話じゃねぇだろ……」

 

 すべての人間が平和を愛し、戦争を忌避するとは限らない。

 フェイトが育った第97管理外世界『地球』でも、侵略戦争というのは起こっている。

 ある特定の民族を虐殺しようとした独裁者も、歴史の事実として確実に存在しているのだ。

 それをサイヤ人は惑星規模で行っているだけに過ぎないのだ。

 

「……フェイト…お前にとっては辛い事だが、PT事件の事を思い出せ。あの事件の首謀者も自分の願望を成就させる為に次元断層を引き起こし、世界を滅ぼそうとした事を……」

 

 クロノの指摘にフェイトは沈黙した。

 PT事件の首謀者であるプレシア・テスタロッサはフェイトにとって母親に当たる。

 彼女は、事故で死なせてしまった愛娘を生き返らせるという妄執に囚われ、自身に優しくなかった世界を犠牲にしようとした。

 何の関わりもない管理外世界に対してさえも…。

 

「でも、お父さんはそういう事はしないんだよね?」

 

 バーダックの隣にちょこんと座っているキャロが、そう聞いてきた。

 

「昔はしていたさ。俺はサイヤ人の下級戦士だからな。王の命令には従わなければならなかったし…な」

 

 あの頃のバーダックは、惑星を攻め滅ぼす事に何の罪悪感もなく、むしろ楽しんでいた。

 しかし、フリーザに裏切られ、仲間を殺され、惑星ベジータを守れなかった事で、守れない悔しさを知った。

 攻め落とせない事よりも守れない事の方が遥かに悔しい。

 そして過去に遡り、フリーザの先祖であるチルドから惑星プラントを守りきった時の充実感は、侵略の比ではなかった。

 この経験から、バーダックはサイヤ人の中で極稀に現れる『正しい心を持ったサイヤ人』に目覚めたのだ。

 最も口と態度が悪いので、よく誤解を受けるが、キャロや惑星プラントの原住民ベリー、そして賞金稼ぎ時代にバーダックの強さに憧れを抱いた惑星ブレイヴの少年達の様な子供には慕われている。

 

【成る程、キツイ性格をしていると思ったが……】

 

【子供に対してあんな風になるんだから、それほど悪い人じゃないみたいだね……『昔』はともかくとして…】

 

 キャロに対して、ぶっきらぼうだが暖かな目を向けるバーダックを見て、クロノとフェイトは念話でそう評価を下した。

 

「それで……サイヤ人に対する事に関してなんですが……先ほど貴方は帰れとおっしゃいましたが……僕たちも立場上そうはいきません。彼らの目的がはっきりとわかった以上、撤退するわけにはいかなくなりました」

 

 タニブに襲われていた時は、その戦力差からなんとか撤退しようと考えていたが、この第6管理世界の住人を皆殺しにすると言う目的を知った以上、管理局員としてこのまま引き下がるわけにはいかない。

 

「貴方の言う通り、我々だけではサイヤ人には勝てない……貴方の足手纏いになるだけかもしれない…。しかし……管理局員としての義務を放棄するわけにはいきません……せめて貴方のバックアップくらいはさせてもらえないでしょうか」

 

 まだ執務官だった頃……母・リンディ・ハラオウンが『アースラ』の艦長であった当時の自分ならば、外部協力者に頼り切る等、とても容認できなかったが、艦長という乗組員全員の命を預かる立場となった今、ある程度の妥協は認められる様になっていた。

 管理局員としての意地を張り、出来もしない事を敢行し、皆の命を無駄に捨てさせるくらいならば、屈辱に甘んじても確実性の高い方法をと取る。

 頭の固い執務官だった昔に比べて、クロノはかなり柔軟になっていた。

 

「…そうだな…。正直テメーらの力なんざそれほど必要とはしてねぇが……条件を飲むならば協力してやってもいいぞ」

 

「条件……ですか?」

 

「ああ。俺の義娘の事だ…」

 

 キャロの頭に手を乗せ、バーダックは条件を提示した。

 キャロがこの世界の竜召喚士『ル・ルシエ族』の最後の生き残りである事。

 僅か6歳にして、二騎の竜を従える才能を持つが、その力ゆえに恐れられ、部族から追放されてしまった。

 その為、キャロはまともな教育を受ける事が叶わない。

 いかに強力な力でも、制御できなければ意味がない。

 現にキャロは、自らの感情とフリードの力を抑えられず、暴走させてしまった。

 最も、いかにフリードが暴走しようがバーダックにとってなんら痛痒に感じないが……。

 だが、このままキャロが自分の力を暴走させ続けるのは、本人にとってマイナスでしかない。

 とはいえ、門外漢のバーダックではどうする事も出来ない。

 しかし、次元世界を統べる時空管理局ならば、キャロに力の使い方を学ばせる事も可能のはず……。

 否、それくらい出来なければ、バーダックは管理局を認めるわけにはいかない。

 

「……ル・ルシエ族が恐れるほどの才……ですか…」

 

 召喚術を扱う部族の中で、ル・ルシエ族はかなり優秀な部類に入る。

 その彼らが持て余した力を制御させるのは、並大抵の事ではない。

 

「私が何とかする…」

 

「フェイト!?」

 

「私が……キャロちゃんの保護責任者になって、彼女の力を正しく使える様に教えるよ」

 

 フェイトは、大魔導師と言われたプレシア・テスタロッサの使い魔のリニスに教育されていた。

 大魔導師の名は伊達ではなく、プレシアは召喚魔法に関しても類稀な知識を有していた。

 故に、彼女の使い魔のリニスもまた、その方面の知識を持っており、それはフェイトにもしっかりと受け継がせていたのだ。

 

「私だけで手に余るようなら、なのはの力も借りるし……」

 

 フェイトの一番の親友である高町なのはニ等空尉は、優秀な戦技教導官である。

 砲撃魔導師である彼女にとって、召喚魔法は専門外ではあるが、専門外だからといって教えられないようでは戦技教導官は務まらない。

 

「解かりました。バーダックさん…貴方の条件を呑みましょう」

 

 こうして、バーダックと時空管理局の協力関係が結ばれるのだった。

 

 ★☆★

 

 バーダックとの会談からしばらくして、『アースラ』にサイヤ人襲撃の報が届いた。

 

「二箇所同時にだって!?」

 

「うん。連絡によるとこの世界の2つの大都市が同時に襲われているよ……今、サーチャーから届いた映像をモニターに出すよ」

 

 モニターに映し出されたのは、2人のサイヤ人に率いられた多数の貝割マンと球根マンによって、襲われている都市と、先にタニブと共にバーダックと戦った女性サイヤ人ともう1人のサイヤ人の2人によって、襲われている都市が映し出された。

 ご丁寧に、この都市はそれぞれ惑星の反対側に位置しているので二手に別れなければ対処出来ない。

 

「コーンと一緒にいる奴が、キャーベ……奴等のリーダーだ……そして、別行動をとっている二人は、オニオンとブロッコだな……」

 

 スカウターから計測されたオニオンとブロッコの戦闘力はそれぞれ450と500。

 

「ケッ……あいつら全然成長してね〜な…」

 

 オニオンとブロッコは、その実力は未完成であり、下級戦士としても半人前に過ぎない。

 

「よし、キャーベ達の方には俺が向かうから、オメーらはオニオン達の方に向かえ」

 

「しかし……1人で大丈夫ですか?」

 

「俺から見れば半人前だが、テメーらよりは強いぜあいつ等……」

 

 流石にバーダック1人に任せるのに抵抗を感じるクロノだったが、バーダックはそれを一蹴した。

 

「とはいえ、あいつ等なら頭数を揃えれば、戦い方次第でテメーらでも勝てる可能性はある……ならば他に手段はねぇだろ!」

 

 キャーベに対してはクロノ達がいても、役に立たないどころが返って足手纏いにしかならない。

 選択の余地はなかった。

 

「キャロ、お前は残っていろ……制御できないとはいえフリードの力はこいつ等の役に立つだろう……でも無理はするなよ」

 

「はい……お父さん…気を付けてね…」

 

「フッ…心配しなくてもキャーベ如きに遅れはとらねぇから、安心して待ってな」

 

 キャロの頭を撫で、バーダックはキャーベ達が暴れている方角に向かって飛び立った。








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