『時空を越えた超戦士−Remake−』
其之十四 恐怖のサイヤ人
キャロとようやく目を覚ましたフリードを抱えながら、多数の戦闘力が集まっている場所に駆けているバーダックは、スカウターが新たに反応した為、一端立ち止まった。
「どうしたのお父さん?」
「あれほどたくさんあった戦闘力がすべて途絶えた…」
戦闘力が270〜490だということで、おそらく貝割マンとその強化型である球根マンの大群が集まっている事を確信していた。
それ以外の――おそらくはこの星の防衛軍だろうが――反応が次々と消えていたと思ったら、今度は貝割マン達の戦闘力が減少した。
おそらく防衛軍が何かしらの手段で、携帯戦闘生物達を弱らせたのだろうと思ったら、他の者とは比べモノにならない戦闘力を持った者が現れ、携帯戦闘生物達を一掃したようだ。
「戦闘力2300……キャーべのチームメンバーでこの戦闘力ということは……ターニブの野郎だな」
キャーべは下級戦士を統括する立場にあるので、当然、そのチームメンバーは下級戦士の中でも上位に位置する者達によって構成されている。
最も、下級戦士の中でも最強の力を持つバーダックは対象外だ。
フリーザに立ち向かった時のバーダックの戦闘力は10000近くあり、エリート戦士レベルでも最上位級である。
自分よりも強い相手を部下に従えるなど出来ないし、なによりも下級戦士の分際で名門出のエリートである自分を上回るバーダックを疎ましく思っていた様だ。
「周りにいる奴等の戦闘力は……100未満の奴等が殆どか……2人だけ100を超えている奴がいるが、ターニブの相手にはならねぇな」
「きっと管理局の人たちだよ…お父さん急いだ方が…」
「これ以上のスピードは出せねぇよ。俺はともかくお前とフリードが耐えられねぇ」
まだ幼いキャロでは、これ以上のスピードで動くと、掛かる重圧に耐え切れない。
「かといって、こんな所にお前を置いていくわけにもいかねぇからな」
敵はターニブだけではない。
貝割マンや球根マンならば、竜召喚でなんとかなるかもしれないが、まだフリードの力をコントロール出来ないのだから確証はない。
ましてやサイヤ人と遭遇すれば、フリードの力を持ってしても対抗出来ない。
故に置いて行くわけにはいかないのだ。
「なるべく急ぐから、目を閉じて、しっかりと掴まっていろよ!」
★☆★
戦場は、戦慄と恐怖に包まれていた。
相手は管理局の勧告など完全に無視し、その圧倒的な暴力を振るっていた。
犠牲者は既に10人を超えていた。
最初にターニブに勧告した隊員が殺された為、取り押さえるべくシュートバレットを放ったが、ターニブは痛痒を感じていなかった。
『シュートバレット』は、圧縮魔力を弾丸状に形成し、加速させて打ち出すの射撃魔法であり、ミッド式の魔導師ならば誰もが習う基本中の基本魔法である。
基本魔法であるが故に熟練者が使えば、必殺の魔法にもなる。
当然、次元航行部隊直属の武装隊員達は、そんな者達の集まりである。
しかし、ターニブにとっては強風に飛ばされた砂利程度にしか感じていなかった。
強風に飛ばされた砂利は、確かに当たれば痛いが、ただそれだけであり、分厚いコートか何かを着れば、たいした事は無い。
「こそばゆいな……攻撃っていうのはな…、こういうのを言うんだ!」
指先から連続で放たれた光線は、防護服ごと、武装隊員たちの体をあっさりと貫通した。
アースラの艦橋のモニターには、次々と屠られる武装隊員達の姿が映されていた。
「……クロノ君。このままじゃフェイトちゃん達が……」
アースラの通信主任であり、クロノの補佐を務めるエイミィ・リミエッタが、悲痛な声を上げた。
戦闘力の違いは明らかであり、このままでは全滅する事は誰の目にも明らかだった。
管理局が誇る『金の閃光』フェイト・T・ハラオウン執務官の攻撃すら、通用していないのだから…。
「エイミィ……アースラに地上部隊の生き残りを収容させろ」
「…えっ!?」
「収容したら、次元空間に退却する……僕は、フェイト達とその時間を稼ぐ為に出る」
「そんな、危険だよ!」
クロノはフェイトと並ぶオーバーSランク魔導師である。
艦長に就任し、あまり前線に出なくなったが、魔導師ランクもフェイトのS+よりも上のSSであり、フェイトも出会った当時よりも成長したとはいえ、まだまだ彼女よりも実力は上である。
「艦長が前線に出るのは、余り褒められた行為ではないが、あの相手にフェイト達だけで時間稼ぎをさせるのは、厳しすぎる……戦力は多い方がいい…」
エイミィは気が気ではなかった。
クロノとエイミィは婚約しており、来年頭に結婚する事が決まっている。
無理はしてほしくないが、かといって義妹となるフェイトの事も気掛かりだ。
「絶対に無事に帰ってきて……」
祈る様に愛しい男を送り出すエイミィだった。
アースラともう一隻が地上本部の生き残りの収容に向かおうとする為に後退を始めた。
「おいおい、逃げるのかよ……つまらねぇぞ」
アースラを追いかけようとするターニブに、魔導師達が立ち塞がった。
既に念話で、命令は聞いていた。
自分達の役目は、アースラともう一隻が陸士達の生き残りを収容する間の時間稼ぎをすること。
まともに戦っても勝てる相手ではない事は、皆も理解している。
しかし、なんとしてでも時間を稼がなくてはならない。
皆が覚悟を決めたと同時に、援護の為に艦を降りたクロノが到着した。
「待たせたな……では何としても持ちこたえるぞ!」
10分後……。
クロノとフェイト、そしてアースラ所属の武装隊員以外は全て地に倒れ伏していた。
既に息絶えている者も数人いるが、他の者はなんとか命だけは助かっていた……が…。
「ぐおぉぉぉ!」
「足が……」
「お……俺の腕はどこだ――――!!」
「は……はひぃぃぃぃぃぃぃ!」
全身血塗れになっている者、足の骨を骨折している者、片腕が?げた者……極めつけは下腹が裂け、飛び出た腸を必死になって戻そうとしている者……。
僅か10分の間に戦場は地獄と化していた。
なんとか五体満足のクロノ達も、無傷の者は1人もいない。
纏っている|防護服《バリアジャケット》はボロボロにになっており、余りにも痛々しかった。
「いいぞいいぞ……その調子だ……もっと俺を楽しませてくれよ」
それに対しターニブはまったくの無傷であり、クロノ達の必死の抵抗を楽しんでいた。
「ば…化け物め…。ほとんどの魔法がまったく通用しないなんて……なんて奴だ」
クロノが得意とする『ブレイズキャノン』や『スティンガーブレイド』といった攻撃魔法やフェイトの得意とする『フォトンランサー』などを受けてもまるで効いていないのだ。
なんというタフさを持っているのだろうか?
もはや効きそうクロノの魔法は、二つくらいしかない。
目標の固有振動数を割り出し、それに合わせた震動エネルギーを送る事で相手を粉砕する魔法『ブレイクインパルス』くらいだが、これは相手に接触しなければ使えないし、何よりも割り出す数瞬の停止の間に反撃を受けてしまう。
いかに相手がこちらを舐めているとはいえ、数瞬とはいえ停止している相手をそのまま放っておくほど甘くはない。
もう一つは、ストレージデバイス『デュランダル』を用いる事で使用できる極大の凍結魔法『エターナルコフィン』だが、これもおそらく今回は使用出来ない。
発動まで遅すぎる為、フェイト達に時間を稼いでもらう必要があるが、おそらく持ちこたえられないだろう。
【エイミィ……収容作業はまだ終わらないのか?】
【あと5分で完了するから、なんとか持ちこたえて!】
【了解!後、『ミーティア』は負傷者を回収して治療してくれ、このまま放置するのは危険だ】
クロノは、唯一こちらに残っている次元航行艦船である『ミーティア』に指示を出した。
『ミーティア』が、転移魔法で負傷者を回収しようとしたその時……。
「しかし、周りのゴミがうっとうしいな……掃除するか」
何気なく、そう呟いたターニブは、無造作に右腕を水平に振った。
それと同時に凄まじいエネルギーが発生し、転移魔法で回収されようとしていた負傷者たちを纏めて吹き飛ばした。
「なっ!?」
「へへへっ…これでゴミが片付いて綺麗になったぜ。さあ、続きをしようぜ!」
彼らは負傷していても、手当をすれば命は助かっていたのに、何のためらいも無く殺された。
クロノが管理局に入局し、執務官、艦長として部隊を指揮してきて今まで、これほどの犠牲を出した事はなかった。
義妹のフェイトがアースラに配属になって以降は、殉職者は皆無だった。
故に今回の犠牲は、クロノの心に衝撃となって襲い掛かっていた。
そして、それ以上に衝撃を受けたのがフェイトだった。
念願の執務官になって以降、初めて部下を任務で喪ったのだ。
しかも、人間扱いされずゴミとして……。
生まれが特殊なフェイトは、人の命を蔑ろにする者を許せない。
故に、人をゴミ扱いするターニブに激しい怒りを抱いた。
「よくも…よくも……『サンダーフォール』!!」
フェイトが発生させた落雷が、ターニブに降り注いだ。
『サンダーフォール』は、天候操作魔法であり、自然現象の雷を発生させる。
つまり、魔力の帯びていない為、非殺傷設定が出来ない。
落雷時の電圧は20万〜1億ボルト、電流は1千〜20万……場合によっては50万アンペアにも達するといわれている。
人体への落雷には、直撃雷、側撃雷、歩幅電圧障害、3種類ある。
その中で最も恐ろしいのは勿論、直撃雷である。
致死率70%、よほど運が良くなければまず助からない。
しかし、自然現象の雷とはいえ、所詮、人為的に発生させる為、自然発生する雷よりも電圧が弱い。
とはいえ、人ひとりを感電死させるには充分だった。
フェイトは、相手を殺す覚悟で魔法を使った。
犯罪者とはいえ、なるべく殺さない様に非殺傷設定を持ちいるのが常だが、場合によっては殺傷設定の魔法を使わざる得ない状況もある。
今回こそ、その時なのだ。
最も今まで戦った相手とは、比べ物にならない化け物なので、落雷を受けても死なない可能性が高いが……それでもダメージは与えられる……と、思っていた…。
だが煙が晴れて、フェイトが見たのは……。
「ああ……気持ち良かった…」
右肩を回しながら、何やら恍惚とした表情をしたターニブだった。
「…歳のせいか、最近肩こりに悩まされていてな……さっきので解消されたんだ…。今度はこっちの方を頼むぜ」
左肩を指差しながら、フェイトに『サンダーフォール』を注文する。
サイヤ人にとって、AAAランクの威力を誇る落雷も電気医療程度でしかなかった。
「……そんな…」
「馬鹿な……防護服でも、雷撃を完全に防ぐ事は不可能なのに……まともに直撃して火傷一つ負っていないなんて……」
ここまで来ると、幻獣すら上回る耐久力を持っているとしか思えなかった。
こんな奴を相手にどう戦えばいいのか…。
まともに戦って勝てる相手ではない事を思い知らされた。
人の持つ最高の技術であると信じていた魔法でさえも、圧倒的な力の前には無力なのだという事を……。
「もう、あいつを倒す手段は『アルカンシェル』くらいしか思いつかん…」
「でも、『アルカンシェル』は…」
『アルカンシェル』とは、管理局が所持する艦船武装の中でも、最も威力のある魔導兵器である。
よほどの状況、相手でもない限り使用許可が降りない、正に『切り札』ともいえる。
撃ち出される弾体自体に攻撃力はないに等しいが、着弾後一定時間の経過によって発動地点を中心に100km以上の範囲で発生する空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅する魔導砲である。
第6管理世界駐留する地上本部の危機とはいえ、『アルカンシェル』が必要な程とは判断されなかったので、許可が降りないどころか、使用の要請すらしていなかった。
現に貝割マンや球根マン相手ならば、平常装備でも十分有効だったのだ。
まさか背後にこんな化け物がいるとは、想像の……否、彼らの常識の外だった。
その時、『ミーティア』の艦長から通信が入った。
【クロノ提督……下がって下さい!】
【何をするつもりだ?】
【既にこの艦の乗組員達はアースラの方に転送しました。これより敵に向かって特攻を仕掛けます!】
『ミーティア』艦長の提案にクロノは絶句した。
【馬鹿な…早まるな!】
【提督……奴の恐ろしさは解っているはずです】
認めたくない事実だが、敵は非魔導師でありながらこちらの戦力を上回っている。
こちらが全滅する危険を冒しても、奴を逮捕する事など出来るとは思えない。
奴の戦闘力はこちらの予測を遥かに上回っている。
地上の生き残りを回収して退却する事も難しく、逃げる前にやられかねない。
ならば、不殺という管理局の理念を破ってでも、奴を倒さなければならない。
先ほどフェイト執務官が覚悟を決めた様に…。
そして、『アルカンシェル』がない以上、他に方法はなかった。
【自動操縦では、特攻を仕掛けてもおそらく逃げらます……ここは有人操縦で確実に仕留めなければ……それでは失礼します】
「ま…待て!」
『ミーティア』の艦長は、止めようとするクロノを振り切り為に一方的に通信を切り、艦を前進させた。
「フィールド展開…魔力エンジン、オーバードライブ…くらえぃ化け物!!」
この出力でぶつかれば、如何な化け物でもただでは済まない筈……。
しかし、『ミーティア』の艦長も、まだまだ自分たち常識の範囲でしか、相手の力量を測れなかった。
「な…なにぃ!?」
なんとターニブは、最大千速で突っ込んできた『ミーティア』の艦首を受け止めたのだ。
正確には艦首の前に展開されているフィールド部分を……。
「なかなか思いきった事をしてきたな……だが、無駄だな!」
艦首を受け止めながら、ターニブは気功波を放った。
フィールドをあっさりと破り、気功波は『ミーティア』の艦首部分から、艦体を中央から真っ二つに分けた。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
『ミーティア』は大爆発を起こし、艦長は断末魔の叫びを上げながら炎の中に消えた。
そして、その爆発の中から無傷のターニブが姿を現した。
あの爆発の中でさえも、ピンピンしているターニブを見て、クロノ達の絶望はさらに深まった。
【おい、ターニブ…いつまで遊んでいる。さっさと戻って来い】
スカウターからキャーべの命令が届き、ターニブは不満そうな顔した。
まだまだ遊び足りないのだ。
しかし、キャーべの命令は絶対なのでしぶしぶ従う事にした。
「それじゃあ、遊びは終わりだ……一気に片付けてやる」
先ほどまでと違い、確実にフェイト達を殺す為にターニブはフルパワーのエネルギー波を撃ってきた。
フェイト達は反応すら出来ない。
エネルギー波がフェイト達に着弾する寸前……何者かが間に入り込み、ターニブの放ったエネルギー波を薙ぎ払った。
「…な…てめぇは!?」
「……久しぶりだなターニブ…」
乱入してきたのは、少女と竜を抱きかかえた男で、ターニブもよく見知っている男であった。
「バ……バーダック!?」
サイヤ人の中でも名の知られた、下級戦士でありながらエリート戦士すら上回る戦闘力を身に付けたサイヤ人戦士、バーダックであった。
後書き
真一郎「今回は、難産だったな」
頭ではイメージ出来ているのに、文章にするのに手こずり、時間が掛かってしまいました
真一郎「何度も書きなおしたもんな」
どういう風に書けば、頭のイメージを文章にできるのか、本当に難しかった
真一郎「黄金の闘士以上の力量差あるからなDBとなのはは…」
では、これからも私の作品にお付き合い下さい
真一郎「お願いします」
ターニブ、圧倒的な強さで局員たちを相手にしていたな。
美姫 「ここまで戦力に差があるなんてね」
辛うじてクロノやフェイトで時間稼ぎがやっとだもんな。
美姫 「しかも、それが相手がやる気をあまり見せてないからだものね」
これ以上ないぐらいにピンチの状況でのバーダックの登場。
美姫 「こういうシチュエーションは燃えるわね」
だな。次回は二人のサイヤ人同士の戦いか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。