『時空を越えた超戦士−Remake−』

其之十二 ル・ルシエ滅亡

 

注意、今回少しですが残酷な描写がありますのでご注意下さい。

 

 第6管理世界――アルザス地方。

 自然豊かなこの土地で今、猛獣の猛り声が響いていた。

 今まで、数多くの猟師や魔導師を血祭りに上げてきた猛獣は、人の肉の味を覚えていた。

 そして今、その極上の獲物が目の前にいる。

 その爪で引き裂き、内臓を引きずりだし、貪り食うべく、襲い掛かった。

 しかし、その爪が振り下ろされる前に、獲物は自分の眼前に近付き、無造作に放たれた蹴りが頚椎がへし折られた。

 猛獣の意識は一気にブラックアウトし、二度と目が覚める事はなかった。

 

「よし、今日の昼飯を確保したぜ!」

 

 四方八方に伸びた黒髪の男―――バーダックは、倒れた獣を片手で持ち上げ、運び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、おとうさん……お帰りなさい」

 

「キュクル〜!」

 

 狩りから戻ったバーダックを、1人の少女と小さな竜が出迎えた。

 彼女の名前は、キャロ・ル・ルシエ。

 このアルザスの地で、竜と共に暮らし使役する少数民族『ル・ルシエ』の竜召喚師である。

 傍らにいる小さな竜の名は『白銀の飛竜』フリードリヒ。

 キャロが、卵から孵して育てた彼女の『使役竜』である。

 キャロは、僅か5歳でこのフリードともう1匹の竜を使役するなど、竜召喚師として類稀な素質を持って生まれたが、その強力な力ゆえに集落を追放されてしまった。

 彷徨い歩いて幾日から過ぎ、この世界に流れ着いたバーダックと出会った。

 丁度バーダックは、狩った巨大な鳥の肉を火で炙っている最中だった。

 もう何日も食事を取っていなかったキャロは、肉の焼ける匂いに空腹を刺激され、可愛らしい腹の虫を鳴らした。

 最初は無視を決め込んでいたバーダックだったが、物欲しそうにこちらを見つめるキャロとフリードに焼けたもも肉を切り分けてやった。

 その後も、バーダックの後を付いてくるキャロ達に対し、何も言わずしたい様にさせていた。

 息子カカロットに対し芽生えた愛情、そして1000年前の惑星ベジータ……惑星プラントで出会った原生民族の少年ベリーとの交流……更には惑星ブレイヴにおいても、バウンティハンター1を誇る強さ故に、賞金稼ぎを目指す少年たちに憧憬の抱かれ、慕われていた。

 そんな経緯あり、バーダックはすっかりと『子供』対して、甘くなっていた。

 サイヤ人は本来、凶暴で残忍な性質を持つ戦闘民族なのだが、優しさや温かさを芽生えさせる者も極稀にだが、存在する。

 幼い頃に頭を打って、邪心そのものが無くなり穏やかになった|孫悟空《カカロット》は特殊な例だが……。

 居心地のよい地球で生活し家族を持つ事で、徐々に穏やかになっていったベジータが良い例である。

 表面上はぶっきらぼうだが、愛する妻ブルマや息子トランクスが危機に晒されれば、命を賭して守ろうとするだろう。

 かつて、宇宙中を恐怖に震えさせたサイヤ人……しかも正統血統の王子であるベジータが…である。

 サイヤ人は、周りの環境に影響を受け、矯正されやすい部分がある。

 最も、ベジータの場合は王子であり、サイヤ人エリート戦士1としてのプライドから、変わっていく自分が気に入らず、それを認めるまで10年以上の時が経過したが……。

 バーダックも、子供限定とはいえ、優しさと暖かさが芽生えてきていた。

 生活を続けるうちに、キャロはバーダックに懐き「お父さん」と呼ぶようになり、バーダックもキャロを娘の様に思う様になっていた。

 ベジータと違い、下級戦士であるバーダックはそれほど時間は掛からなかった様だ。

 

 ★☆★

 

 バーダックとキャロが義理の親子となって数ヶ月が過ぎた。

 今日もバーダックが狩りをして、キャロとフリードが木の実や山菜採りを行っていた。

 現在、2人と1匹がいる場所は、キャロの故郷であるル・ルシエの集落からそれほど離れてはいなかった。

 無論、離れてはいないとはいえ縄張りに入ってはいないが…。

 

「キュク…」

 

「どうしたのフリード?」

 

 木の実を採っていたフリードが何かに気付いたのか、ある方角に視線を向けていた。

 キャロも、フリードが見ている方角に目を向け、息を呑んだ。

 その方角……キャロの故郷であるル・ルシエの集落から黒煙が上がっているのだ。

 否、黒煙だけではない。

 集落を中心に、火の手が上がり、耳を住ませるとかすかに爆発音が聴こえて来る。

 明らかに、集落で何かが起こったのだ。

 いかに自分を追放したとはいえ、見知っている者が被っている災厄を見過ごせるようなキャロではなかった。

 

「行こうフリード!」

 

「キュクルー!」

 

 追放され、二度と戻る事が許されない故郷。

 しかし、そんな事は関係なかった。

 キャロは、何かが起きている故郷に向かう為、バーダックを呼びにいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ル・ルシエ族の集落は今、謎の生命体の集団に襲われていた。

 全身が青色で、人間の子供くらいの大きさの気味の悪い異形の外見の生物だ。

 このような生物は、管理局でも存在を確認していない。

 ル・ルシエの竜召喚師たちは、赤竜や飛竜を召喚し応戦するも、外見とは裏腹に並の魔導師を上回る戦闘力を持つ相手に1人、また1人と命を散らされた。

 無論、相手も何匹かは倒している。

 赤竜はともかくアルザスの飛竜は、使役竜の中でも上位に位置する戦闘力を持っているので、上手く使役できればエース級魔導師にすら匹敵する働きが出来る。

 しかし、100匹を超える数に対抗しきれずにいた。

 竜召喚師達は次々と殺され、残っているのは長老のみとなってしまっていた。

 その長老も既に致命傷を受け、余命幾許もなかった。

 

 

 

 

 

 バーダックに抱えられ、集落に到着したキャロが見たのは、無残に殺された部族の者たちの姿だった。

 そして一体の青色の異形は、奇声を上げながら何かを弄んでいた。

 それは……母体にいる状態のまだ赤ん坊にすらなっていない胎児だった。

 そして、異形の足下には腹を裂かれ息絶えた妊婦が横たわっていた。

 その光景を目の当たりにしたキャロは絶叫した。

 妊婦はキャロの母親だった。

 追放された娘に気遣いながらも妊娠している為、共に放浪する事が出来ず、泣く泣く娘を送るしか出来ず、追放される前夜、泣きながらキャロを抱きしめ、謝り続けた母だった。

 キャロの絶叫を受け、フリードは本来の姿である翼長10メートル以上の大きさの飛竜へと変身し、暴走した。

 キャロは、竜召喚師としての素質は高いが、それでもまだ6歳の少女。

 その強すぎる力を扱えず、使役竜を制御できないのだ。

 フリードの放つ|火炎砲《ブラスト・レイ》により、集落を暴れ回っていた青い異形は全て一掃されたるのだった。

 全ての異形を倒してもフリードの暴走は止まらず、その矛先が唯一の生き残りである長老に向いた時、バーダックが動いた。

 フリードの横っ面に平手打ちをかまし、フリードを失神させその暴走を鎮めた。

 絶叫を続けるキャロを優しく抱き上げ、頭を撫でる事により、キャロは正気に戻りバーダックの胸に顔を埋め、嗚咽を漏らし、そんなキャロをバーダックは優しく抱き締めるのだった。

 以前のバーダックからは考えられない行動だが、情愛に目覚めた彼にとってそれほどまでにキャロは大事な娘になっていた。

 

「それにしても何故、貝割マンがこんな所に……」

 

 集落を襲った青い異形は、バーダックにとって馴染み深い存在だった。

 

 

 

 

 

 貝割マン。

 フリーザ配下の戦士が使用している、サイヤ人の科学者が植物からバイオテクノロジーによって、生み出した携帯用戦闘生物である。

 この貝割マンは、ベジータたちが地球で使用した|栽培《さいばい》マンの試作型である。

 栽培マンの戦闘力は1200前後と、下級戦士とほぼ同等の戦闘力を誇っている為、戦闘力1000前後の戦士達には御せないので、試作型である貝割マンを用いている。

 この貝割マンの戦闘力は270〜370と初代ピッコロ大魔王の260を凌駕する戦闘力を持っているので、例えオーバーSランクの魔導師といえど、易々と倒せる相手ではない。

 とはいえ倒せない相手というわけではない。

 確かに魔導師達はオーバーSランク魔導師で亀仙人レベル、最上位のSSSランクでピッコロ大魔王レベルなので貝割マンには及ばない様に見えるが、それはあくまで基本戦闘力の話である。

 解かり易く例を挙げれば、対ラディッツ戦での悟空の基本戦闘力は412だが、かめはめ波を放った時の924まで上昇している。

 それと同じ様にピッコロ大魔王も中の都を廃墟にした爆力魔波などを使用時は、かなり戦闘力を上昇させていると考えられる。

 魔導師たちの魔法も同様で、高威力の攻撃魔法ならば充分に対抗できる……当てる事が出来ればだが…。

 

 ★☆★

 

 なんとか落ち着いたキャロは、倒れている長老の下に駆け寄った。

 

「…キャロ…か…」

 

 キャロの姿を確認した長老は、慈しみの目でキャロを見つめた。

 追放命令を破り、舞い戻ってきたキャロに対し、咎めることもせずに……。

 

「皮肉なものじゃな。強すぎる力は災いを呼ぶ……そう思ってお前を追放したのに……結果的にお前を追放したが故に滅ぶとは…」

 

 暴走していたとはいえ、自分達が対抗しきれなかった貝割マンたちは、キャロの力によって撃退できたのだ。

 

「これは我らに下った天罰かも知れん…。どのような理由であろうが、幼子を何の保障もせず追放した我らに、天が報いを与えたもうたのじゃろう……」

 

 

 キャロの力が危険とはいえ、他にも方法はあったのだ。

 時空管理局にキャロの保護を求めてもよいし、自分達で責任を持ってキャロが力を制御出来る様に力を尽くすべきだった。

 追放という安易で楽な手段をとったが故の報いなのかもしれなかった。

 

「ゆ……許しておくれキャロ…そ……そしてそこの御仁…」

 

 長老はキャロの後ろに控えていたバーダックに声を掛けた。

 

「どうやら、貴方がキャロを保護してくださっていたようですな……厚かましいが、これからもキャロの事をお頼みします…」

 

「フン。キャロは俺の|義娘《むすめ》だ!テメーらに言われるまでもねぇぜ!!」

 

 バーダックの返答を聞き、長老は安心したのか静かに息を引き取った。

 アルザスの少数民族『ル・ルシエ』。

 竜召喚師の部族は、新暦0071年に唯一の生存者を残し、その歴史に幕を降ろした。

 


後書き

 

真一郎「おいおい、いきなり原作から外れたな、まさかのル・ルシエ族滅亡かよ」

まあ、6歳児を危険だからといって何の生活の保障もせず、放り出すような部族だからな……

真一郎「ちなみに貝割マンは、昔のドラゴンボールZの家庭用ゲームの敵キャラクターだからね」

この作品のDB側敵キャラはほとんどそういうゲームからの流用です。

真一郎「オリキャラの敵も登場するけどね」

では、これからも私の駄文にお付き合い下さい。

真一郎「お願いします」






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