『時空を越えた超戦士−Remake−』
其之十一 出会い――スバル・ナカジマ
突如発生した火災に、空港内にいる人々はパニックを起こした。
入口近くにいた人達はすぐに避難する事は出来たが、奥の人々は炎に包まれ逃げ道を失っていた。
近隣の災害担当の陸士部隊が出動し、消化と救助に従事するが困難を極めていた。
なぜならば、この近隣の陸士部隊に魔導師がいなかったからだ。
地上部隊の人材不足はそれほど深刻であり、首都防衛隊所属の武装隊以外の魔導師は最高でもCランクの魔導師であり、それさえも数が少ない。
それ以外は魔力を持たない局員がほとんどあり、消化手段は魔法ではなく、消化ポンプからの放水という手段で行っている。
当然の事ながら、これ程の大火災では言葉の如く焼け石に水状態であり、殆ど効果がなかった。
しかし今回に限り、3人の高ランク魔導師の協力を得る事が出来ていた。
本局特別捜査官、『夜天の王』八神はやて一等陸尉。
次元航行部隊執務官、『金の閃光』フェイト・T・ハラオウン。
そして、航空戦技教導官、『エース・オブ・エース』高町なのは二等空尉のオーバーSランク魔導師3人である。
ハラオウン執務官と高町ニ尉の2人は休暇を利用し、親友である八神一尉の研修先に遊びに来ていた所にこの事件が発生し、休暇を返上して駆けつけ、協力を。
正に地獄に仏であった。
一方その頃、ゲンヤの娘を迎えに来た悟飯も、タクシーの中でこの火災の事を聞かされていた。
「俺は応援部隊を率いて、現場に急行する…悟飯、お前は隊舎に戻って来い」
「ゲンヤさん……娘さん達はご無事なんですか?」
「……まだ救助者の中に2人の名前はない…」
ゲンヤとしても娘の事は気掛かりだ。
しかし、部隊長として自分の娘を最優先するわけには行かない。
「……でも、俺は局員ではありません…」
「…悟飯、お前…」
「ゲンヤさん!」
「……頼む!娘達を助けてくれ!!」
ゲンヤは部隊長権限により、悟飯を民間協力者として採用し、首都上空を無断飛行する事は、禁止されているので、すぐに飛行許可を出した。
悟飯は、タクシー代を払うと舞空術で現場に急行した。
【悟飯、オラを起動させろ!】
「えっ!?」
現場に向かう悟飯に、カカロットが促してきた。
これから行くのは、火災現場。
いかに強靭なサイヤ人とはいえ、火に触れば熱いし、火傷はする。
気を体に纏えばある程度耐えられるとはいえ、火に包まれた場所に飛び込む以上万全の態勢で望んだ方がいい。
【それにお|前《めぇ》の魔法資質は戦闘よりも、どちらかといえばこういう場面に向いているから上手く救助する為にもな】
「解かりました……それじゃあ『カカロット』起動、セットアップ!!」
悟飯の声と共にカカロットが光りを放ち、悟飯を包み込むとサイヤ人の戦闘服のデザインの『|防護服《バリアジャケット》』を纏った。
カカロットの基本形態は、補助制御型のインテリジェント・デバイスだ。
しかし、状況に応じて武器の形態……つまり『アームドデバイス』の形を取る事も出来る。
カカロット27の秘密その3…インテリジェントとアームド両方を備えている。
そして、アームドデバイス時では、二つの|形態《モード》を取れ、その形態に合わせて『防護服』のデザインも変化する。
一つは、かつて悟飯がピッコロに荒野に置き去りにされた時に、ピッコロから貰った剣と同じ形状の『ソードモード』。
そして悟飯の『防護服』は、ピッコロが着ていた道着とマント……つまり、次元Vのセルゲーム時の悟飯の服装と同じデザインとなる。
そしてもう一つの『ロッドモード』は、いわゆる棒、棍の形状であり、悟飯の意思により伸縮が可能な『如意棒』の様なデバイスとなる。
この時の『防護服』は、悟空が人造人間戦から来ていた染め抜き無しの山吹色の道着と同じデザインとなる。
★☆★
少女は炎の中を彷徨い歩いていた。
空港内を探険気分で駆けていたら、突如起こった爆発で彼女の周りは炎に包まれた。
次々と起こる爆発で、火の勢いは更に増していく。
普段は元気一杯だが、亡き母や姉と違い、争う事を嫌い泣き虫な彼女は、怖い事が起これば震えるだけであった。
「お父さん……お姉ちゃん……」
エントランスホールを泣きながら父と姉の名を呼ぶ少女の真横の壁が爆発を起こした。
爆風に受け、吹き飛ばされた少女だったが、地面に叩き付けられる事はなかった。
吹き飛ばされた少女を抱きとめた少年がいたのだ。
「大丈夫?」
少女――スバル・ナカジマを抱きとめた少年は、真っ黒な髪を持ち、青色のスーツに白い鎧の様な『防護服』を纏っていた。
スバルは、その少年の顔に見覚えがあった。
前もって聞かされ、ここに来る前に父から写真を見せてもらって知った、新しい家族となる――孫悟飯と言う名の少年だった。
「君がスバルさんですね?」
悟飯の問いにスバルは、上手く口が回らず頷くだけだった。
「間に合って良かったです」
何故、悟飯がすぐにスバルの下に駆けつける事が出来たかと言うと、前もってカカロットがスバルのメディカルデータを父ゲンヤから受け取っていたからである。
スバルとその姉のギンガは、特殊な生まれの為、定期的に検査を受けている。
その事が功を奏し、データを元にスバルの生体反応を割り出し、居場所を特定したのだ。
「さあ、安全な場所に避難……何!?」
炎に包まれている為、周りが赤々としていたのに突如、音と共に影が射した。
何事かと見上げると、この広場の中央にあった巨大な女神像が悟飯達に向かって倒れてきたのだ。
スバルは恐怖の余り、目をギュッと瞑り悟飯の胸に顔を埋めた。
しかし、悟飯は慌てず女神像に向かって手を掲げ、受け止めようとしたが、女神像は桃色の数状リングによって止められていた。
「良かった。間に合った……助けに来たよ」
白い『防護服』を纏った女性が拘束魔法で、倒壊するのを阻止した様だ。
彼女は『防護服』を纏っている悟飯を一瞥すると、彼の前に降り立った。
「私は時空管理局・航空戦技教導隊所属、高町なのは二等空尉です。役儀によって質します。貴方の所属を教えてください」
彼女こそ、本局が誇る『エースオブエース』である。
彼女を称える者からは、『無敵のエース』などとも呼ばれ、彼女を恐れる者、妬む者からは『管理局の白い悪魔』又は『白い魔王』などという物騒な俗称で呼ばれているエース級の魔導師である。
なのはが、悟飯の身分を問うたのは、この現場にいる魔導師は自分と親友達を含めて10人前後であり、その全員の顔を確認していた。
しかし、悟飯の顔に見覚えはなく、管理局員ではない事が伺える。
まず有り得ないとは思うが、もしかしたらこの事件に何らかのかかわりのある魔導師である可能性がある故の質問だった。
「民間協力者の孫悟飯です。僕の事については申請されている筈です」
悟飯からの返答を聞き、なのはは対策本部に確認を取る。
【…確認が取れました。陸士108部隊のゲンヤ・ナカジマ三佐の名前で申請されています】
オペレーターからの通信を聞き、なのははホッと息を吐き、悟飯に頭を下げた。
「すいませんでした。火の勢いが激しくなっているのでこの子を連れて脱出しましょう」
所々で発生する爆発のせいで辺りの火は益々燃え上がっている。
「高町さん……でしたね。防御魔法……バリアは得意ですか?」
「えっ!?はい、私の魔法の先生が結界魔導師だったので、彼ほどではありませんがそれなりには……」
なのはの返答を聞き、悟飯はバリアをスバルと彼女自身を張ってもらうよう頼んだ。
訝しむなのはだったが、深々と頭を下げられたので、バリアを展開する。
そのバリアをカカロットが分析していた。
【このバリアの強度だと、これくらいのパワーまでなら耐えられるぞ】
カカロットは、悟飯の脳に直接、そのパワーのレベル感覚を送り込んだ。
「これくらいのパワーが出せるなら、充分ですね」
悟飯は、両腕を胸の前でクロスさせ、体に力を込める。
「…ハァ!!」
クロスした両腕を左右に広げながら、気合いを発すると、悟飯の全身から凄まじい程の衝撃波が周囲に拡散された。
「「!?」」
なのはとスバルは、今、目の前で起こった事に息を呑んだ。
悟飯の気合いと共に、辺り一面の炎が全て掻き消されていたからだ。
なのはが展開していたバリアも先ほどの衝撃で軋んでいた。
あともう少し強度が脆ければ、バリアも一緒に掻き消されていた程の威力だった。
なのはは自身のデバイス『レイジングハート』に確認したが、魔力反応はまったくなかった。
つまり、本当に気合いだけで炎を掻き消してしまったのだ。
「ここらの火は消しましたが、他の所はまだ燃えています。いつまたその火がこちらに流れ込んでくるかわかりませんから、スバルさんを避難させてください」
「ご…悟飯さんはどうするんですか?」
「スバルさんのお父さんとの約束でしてね…。ギンガさん……スバルさんのお姉さんを助けに行きますので……お願いします」
悟飯はなのはの返答を待たずに目にも止まらぬ速さで、その場を後にした。
一瞬、呆然となったなのはだったが、すぐに気を取り直しスバルを避難させる事にした。
周りの火は消えたが、悟飯の言う通り、いつまた炎に包まれるか分からないので、急いで脱出する必要かある。
なのはは、天井に向かってレイジングハートを掲げると、自分の主砲とも言うべき砲撃魔法『ディバインバスター』で、出口を作り、飛び立った。
満天に輝く星々を眺めながら、スバルは思った。
――強くなりたい……と。
今、自分を抱き空を飛翔する目の前の|女性《ひと》のように……自分の危機を間一髪で救ってくれた、これから家族となる少年の様に……。
スバルの姉のギンガの方は悟飯が駆けつけた時、既に他の救助活動をしていた魔導師に救助されているところだった。
悟飯は、その魔導師――フェイト・T・ハラオウン執務官に助けられたギンガに、妹のスバルは既に救助した事を伝え、姉妹が無事である事を既に現場に駆けつけ、部隊指揮を取っていたゲンヤに報告した。
それから、他の被災者の救助を手伝っていると、ようやく本局からの魔導師達が到着し、事件はようやく落ち着きを見せたが、今回の事件に協力した3人の本局所属の魔導師と1人の民間協力者の名前が表に出る事はなかった。
★☆★
数日後、空港火災に巻き込まれて入院していたナカジマ姉妹は無事に、退院することが決まった。
「あっお父さん…悟飯君!」
出迎えに来たゲンヤと悟飯に、スバルが嬉々として飛び付いた。
「もぅ、スバル!病院なんだからはしゃいだら駄目よ!!」
「ハハッ、もうすっかり元気だなスバル」
ゲンヤが飛びついてきたスバルを抱きかかえ、悟飯はスバルとギンガの荷物を持った。
「大丈夫?」
「ええ。これくらい軽いですよ」
いくら数日分とはいえ、二人分の荷物を軽々と持つ悟飯に、ギンガも負けていられないなと感じていた。
彼女は陸士候補生であり、母からシューティングアーツという独自の格闘技を学んでいた。
なので普通の同年代の者たちよりは、はるかに力があるつもりだったが、流石に悟飯の様にいかない。
助けられたスバルは勿論の事、ギンガも既に悟飯と打ち解けていた。
入院していた数日間、毎日見舞いに来てくれていて、しかも妹の恩人。
悟飯自身の優しい性格にも触れ、家族として受け入れていた。
【どうした悟飯?】
ナカジマ家に到着し、自分に宛がわれた部屋に入った瞬間、悟飯はため息を吐いた。
「いえ、俺は……親不孝者だな…って」
思い浮かぶは実母であるチチの事。
人造人間を倒す為に飛び出して以来、パオズ山の家には帰らなかった。
人造人間がいなくなり、向こうの世界は平和を取り戻している筈だ。
ならば、母は自分の帰りを待っているだろう。
しかし、悟飯はもう二度とチチの下に戻れない。
夫を心臓病で亡くし、息子には出て行かれ、寂しい思いをしているだろう母を残し、自分自身は新しい家族と暮らしている。
どうする事も出来ないとはいえ、悟飯は罪の意識にとらわれていた。
別の次元の自分は夢を叶えて学者になり、母の期待に応えたのに対し、この自分は母を悲しませているのだから。
チチはこれからもずっと1人――牛魔王がいるが…――でいるのだろう。
常々、働かない悟空に文句を言ってはいたものの、悟空を心の底から愛しているので、他の男と再婚などしないだろうし…。
せめて、ブルマやトランクスなどが時折チチを訪ね、慰めてくれる事を願っていた。
【すまねぇ悟飯……オラのせいだな…】
人造人間はRR軍を潰した悟空を倒す為にドクターゲロが造り出した。
そのせいで、悟飯の世界は地獄と化し、悟飯から尊敬する師や兄貴分たちを奪い去ってしまった。
カカロットのオリジナルの世界の人造人間は、悟飯の世界のとは違い、それほど悪い奴ではなかった。
それどころか18号に関してはなんとクリリンと結婚し、悟空達の仲間になっているほどだ。
それを聞いた時、悟飯は複雑な気持ちにさせられた。
自分の世界においてはクリリンの仇なのに、別の次元ではクリリンの奥さん。
気持ちの整理に苦労したものだ。
「いえ、お父さんのせいじゃありませんよ」
ドクターゲロの行動は逆恨み以外の何者でもない。
悟空がRR軍を潰さなければ、世界は彼らに支配されていた。
鼻糞を穿っただけで死刑にされたり、総帥の身長を伸ばす為に村人にドラゴンボールを強制捜索させる様な軍隊に支配されるなど碌な事にはならないだろう。
上記の件は、悟空も悟飯も知らないことだが……。
むしろ、その天才的な科学者としての才能を正しい方向に持って行っていれば、ブルマの父の様に偉大な科学者として尊敬されていただろうに…。
だから、悟空が遠因である事は否定できないが、悟空に責任があるわけじゃない。
「悟飯!遊ぼう!!」
そんなことを考えていた悟飯をスバルがダイブしてきた。
泣き虫だが、普段は元気一杯のスバルは数日入院したせいか、パワーが余りまくっている様だ。
スバルとギンガの秘密も悟飯は知らされている。
カカロットが2人のデータを受取った時に、彼女たちが普通の人間ではないことはすぐに解った。
ある意味、人造人間たちに近い存在である…と言うことを…。
しかし、奴等と同類であるとは思えない。
悟飯の知る人造人間は、その力に溺れ、殺戮を繰り返した。
スバルはその力を恐れ、使わない様にしていた。
最も、今は悟飯と高町なのはに憧れ、2人の様に強くなりたいと思っているようだが、その力を正しく使おうとしている。
そんなスバルを嫌う事など悟飯には出来なかったし、嫌う理由もない。
クリリンの奥さんになった向こうの18号も、その力を間違った方向に使わなかったのだろう。
もしくはクリリンの愛が、彼女を間違った方向に進ませなかったのかもしれない。
そう考えると、自分の兄気分だったクリリンに対する尊敬が強くなる。
「ねぇ、遊ぼうよ」
「うん。何して遊ぶ?」
自分に懐いてくるスバルに笑顔を向けながら、悟飯は思った。
(お母さん……ごめんなさい。許してくれとは言いません…。でも、どうかお元気で…)
スバルに気付かれない様に一筋の涙を流しながら、母の事を想う悟飯だった。
後書き
今回で邂逅が終わります。
真一郎「次回からは、バーダックサイドのお話です」
アルザスに飛ばされたバーダックが、どう生きていくのか?
真一郎「どの様な出会いがあるのか?」
では、これからも私の作品にお付き合い下さい。
真一郎「お願いします」
悟飯とナカジマ家の出会いか。
美姫 「まあ、状況としてはよくないけれどね」
でも、それのお蔭もあってすんなりと懐かれた部分もあるしな。
美姫 「どちらにせよ、スバルたちが無事で良かったわね」
だな。悟飯もナカジマ家入りして、次回は。
美姫 「バーダック側の話になるみたいね」
さてさて、こちらはどうしているのやら。
美姫 「気になる次回は……」
この後すぐ!