『時空を越えた超戦士−Remake−』
其之九 宇宙の帝王に連なる者
悟飯を同行させ、犯罪組織の取引現場に向かおうとする陸士108部隊。
「じゃあ、片付けますので少々お待ちください」
悟飯が火の後始末をして、視界に写るのはまだ残っている肉であった。
正直、満腹のハイヤードラゴンはともかく悟飯はまだまだ食べられる。
しかし、ここで皆を待たせるのも申し訳ないし、これがかなりの高級食材だと聞き、悟飯は残りをゲンヤ達に分ける事にした。
「…いいのか?」
「ええ。皆さんでどうぞ」
サイヤ人の血を引いている悟飯の食事量は常人を遥かに上回るが、純血サイヤ人の悟空ほどではない。
それに悟空とは違い、満腹になるまで食べなければ気が済まないというわけでもない。
そんな悟飯なので、高級食材を独り占めにしようなどと考えなかったのだ。
振って沸いた高級食材を食べられるチャンスにゲンヤの部下たちも、内心で嬉々としている。
そんな部下達の心境と、せっかくの心遣いを無にするのも失礼なので、快く受け取ることにした。
現地に到着し、突撃の準備を済ませ、機を見て突入しようとした武装隊員達だったが……。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「た…助けてくれ――――!!」
「ば…化け物だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
犯罪者たちの悲鳴が聞こえ、すぐに突入する事となった。
そこで彼らが見たのは、人型だが異形の姿をした者に次々と殺害される犯罪者たちの姿だった。
「か…管理局の人たちだな。頼む、自首するから助けてくれ!」
「もう犯罪は犯さない。だから助けてくれ!」
駆けつけた局員達に命乞いをする犯罪者たちだが、異形の者の指先から発せられるビームに脳天を撃ち抜かれ、次々と絶命していった。
その場にいた犯罪者達を殺し尽した謎の生物は踵を返し、その場から去ろうとしたが、武装隊の小隊長は攻撃の指示を出した。
二足歩行の人型とはいえ、その姿は人間とは程遠い。
どの次元世界も基本的には『ヒト』、『Homo sapiens』が万物の霊長とされ、他の動物たちと区別されている。
データベースに該当はないが、危険な生物の可能性が高く、野放しにすれば被害が出る恐れがあると判断した。
攻撃を始めようとしたその時、異形の者の全身が光に包まれると同時に、凄まじいエネルギーが周囲に放出され、武装隊員達は吹き飛ばされた。
「凄まじい気だ!一体何者だ?」
ゲンヤと共に仮設本部で待機していた悟飯だったが、強い気を感じ取りそちらに視線を向けた。
それと同時に、凄まじい衝撃波が発生し、吹き飛ばされる武装隊員たちが視界に入る。
「な…なんだ一体!?お…おい待て!どこに行くんだ坊主?」
唐突に起こった事に戸惑うゲンヤの制止を無視し、悟飯は現地に駆けつけた。
「は…速えぇ…!」
その動きは魔力資質を持たないゲンヤでは捉えられなかった。
「ま…魔力反応無し……まさか、魔法無しであんな動きをしているのか?」
魔力を持っている他の局員たちも捉えられなかったようだ…。
「とりあえず、俺たちも急行するぞ!」
我に返ったゲンヤは部下たちに指示し、悟飯の後を追うのだった。
★☆★
現地に到着した悟飯は、倒れている武装隊員に駆け寄った。
「…ほっ…。どうやら気絶しているだけだ…」
犯罪者たちと違い、どうやら武装隊員たちの命は無事だったようだ。
そして、悟飯はこの惨状を引き起こしたであろう強い気の持ち主の方に視線を向けた。
「フン。雑魚がまた1人来たか…」
その相手の姿を見て、悟飯は驚愕した。
その姿は忘れようとしても忘れられない…。
「フ……フリーザ!?」
そう、ナメック星で悟空に倒された宇宙の帝王、フリーザに酷似していた。
「…フリーザの名を知っているということは……どうやら貴様は俺と同じ世界から流れてきたようだな…」
「…フリーザじゃない……のか?」
フリーザに似ているが、よく見ると別人の様だ。
「俺の名はフローズ。確かにフリーザの同族だが、奴と一緒にされるのは心外だ。まあ、奴が今までにやって来た事を考えれば無理もないが……」
嘆息しながらフローズと名乗ったフリーザの同族は、耳に付けている機械―――スカウターのボタンを押した。
ピピピッという音がなると同時に左目を覆うレンズに何やら文字が表示されている。
スカウターとは、惑星ベジータの先住民族であるツフル人が開発した人の戦闘力を計測する装置である。
ツフル人を滅ぼしたサイヤ人は、ツフル人の文明を吸収し、同盟を組んだフリーザ軍にそれを提供したのだ。
「何!?戦闘力100,000……110,000……150,000……200,000……240,000……!?」
BOMG!!
数値が250,000に達すると同時にスカウターは煙を噴いて壊れてしまった。
「…馬鹿な……この最新型のスカウターでも計測できない程の戦闘力とは…」
250,000まで計測できる最新型のスカウターが計測できない戦闘力の持ち主など、最凶種族以外では極めて珍しい。
そもそも戦闘力が6桁代に達する者自体が希少である。
5桁代で、フリーザ軍ならば上級戦士として重宝される。
6桁ともなれば、特戦隊の隊長クラス、もしくはクウラ機甲戦隊クラスとして幹部として認められるだろう。
「どうやら雑魚ではないようだな……」
そう言うとフローズは悟飯に向けて、指先から放たれる|光弾《ビーム》
を連続で撃ってきた。
悟飯はそれをすべて手で払いのけた。
「全部、素手で払いのける……か!」
言い終わると同時にフローズは悟飯に突撃して来た。
フローズと悟飯との間に、拳と蹴りの応酬が繰り広げられる。
ようやく追いついて来て、倒れている武装隊員達を介抱していたゲンヤ達がそれを目撃した。
拳と拳が、蹴りと蹴りがぶつかり合う毎に発せられる衝撃波によって、ゲンヤ達は吹き飛ばされそうになる。
「な……!?一体これは?」
「あいつらは一体なにをやっているんだ?」
「…動きが見えない」
魔法による身体強化を用いても、闘ってる2人の動きを捉えられない。
魔法を使わずにこれ程の高速戦闘を行えるものなのか?
魔法こそ、個人が持てる最強の力。
魔導師達のその自負が打ち砕かれようとしていた。
介抱され、意識が戻った武装隊員達も、自分達がいかに無謀だったかを思い知らされていた。
「くそ……何なんだコイツのこの力は!?」
フローズは、悟飯の力に驚愕していた。
視認出来ていない魔導師達には分からないだろうが、フローズは劣勢を強いられていた。
悟飯が打ち出す拳、蹴りはフローズを圧倒していた。
フローズの『今の姿』の戦闘力は1,600,000と、フリーザの基本形態の530,000はおろか、第2形態の1,000,000、第3形態の1,550,000を上回っている。
しかし、今の悟飯は超サイヤ人に変身しなくてもフリーザ最終形態(50%)60,000,000を凌駕する強さを持っている。
カカロットからの指導によって、僅か短期間でそこまでのレベルにまで達しているのだ。
フローズは既に息も乱れ、動きが雑になっているのに対し、悟飯は息も乱さず、余裕を持って戦っていた。
(くそ……まさか、宇宙最強の種族であるこの俺を凌駕するとは……同族のフリーザ達以外でそんな事が出来る奴など……ま…まさか!?」
宇宙一を誇る自分達を凌駕する男……フローズが知っている限りその可能性のある存在は唯1人…。
「まさか、貴様がフリーザを倒したという超サイヤ人……孫悟空?」
かつて、宇宙の帝王と呼ばれ恐れられ、数々の星間種族を滅ぼし、惑星の地上げを行ってきたフリーザを倒した男。
伝説の超戦士、超サイヤ人。
「違う。俺の名前は孫悟飯……孫悟空は俺の父さんだ!」
「何ッ!?では貴様は孫悟空の息子という事か!」
自分達を超えられる可能性がある種族といえば、フリーザすらも潜在的に恐れていた戦闘民族サイヤ人。
そして、フリーザを倒した男の息子ならば、自分を凌駕しているのにも得心がいく。
勿論、自分もまだ全力を出している訳ではないが、『今のまま』では勝ち目はない。
いや、例え自分に秘められた力をフルに使っても勝てる保障はなかった。
なにしろ、今の自分はフリーザとよくて同格に過ぎない。
もし、目の前の男が孫悟空に匹敵する強さを持っているのならば、敗北するのは自分だろう。
フローズは、戦闘態勢を解いた。
「よし、今だ!取り押さえろ!!」
大人しくなったフローズに対し、武装隊の小隊長は捕縛命令を出す。
「なっ!?いけません!!」
武装隊の行動に驚き制止を掛ける悟飯。
「舐めるな!」
例え、戦闘態勢を解いてはいても、この場で悟飯以外の者に不覚をとるフローズではない。
武装隊員たちの放ったバインドで雁字搦めにされたが、少し力を入れただけで、バインドを引きちぎった。
「俺は暴れるのを止めただけで、貴様らに捕縛されるつもりはない!」
「バ…バカな!?」
「バインドを力任せに引きちぎるなんて!?」
「何て非常識!?」
確かにそれなりの魔力を持っている者ならば、引きちぎる事は難しくはないが、魔力を持たぬ者が力任せに引きちぎるなど、彼らの常識から見ればありえなかった。
★☆★
フローズは、自分の状況を悟飯達に説明した。
連中を殺したのは、自らを稀少動物扱いし、売買しようとした輩に反撃しただけに過ぎない事である事を…。
「しかし、殺す必要があるのか?」
武装隊の小隊長は、フローズが犯罪者全員にトドメを刺した事に対し、抗議する。
「後々の禍根を経つ事に何の問題がある?そもそも何故、自分よりも弱い奴等が勝手に作った法に従わなければならない?別に俺はお前らの庇護など受ける気なんぞさらさらない。別に元の世界に帰る必要性もないしな」
フローズにも確かに目的はあった。
フリーザを倒したという孫悟空と戦って勝ちたいという目的が…。
しかし、悟飯と出会い、その望みは永久に叶わない事をついさっき知った。
孫悟空は、既に死んでいるという事を……。
ならば、自分よりも弱い奴等に媚びてまで元の世界に帰る必要性などない。
「俺を従わせたければ、|力《ちから》を持って俺を屈服させろ!お前たち時空管理局のトップの手でな…」
あくまで管理局のトップが、フローズを屈服させる事が出来たなら…自分はその相手に従おう。
この世は力が全て。
どれほど理想を謳おうが、それを実行できる力無くばそれは戯言に過ぎない。
「力こそが正義」。
これを否定する者は数多くいるだろうが、「力無き正義」など何の意味も無い。
「力」と「正義」は、切っても切れない関係にあるのだ。
「言っておくが、孫悟飯を局員に仕立て上げるというのは駄目だぞ…。あくまで管理局を統べるトップが俺より強くなければな。傀儡ではない、実権を持つトップがな」
フリーザ軍は、トップのフリーザが一番強かった。
強者に率いられる組織でなければ、フローズは従わない。
確かに悟飯ならば、フローズは従ってもいいと思っている。
今の時点では間違いなく悟飯は、フローズよりも強いからだ。
しかし、組織の下っ端ならば上官の命令に従わなければならない。
悟飯自身の意思による命令ならばともかく、悟飯を介した弱者の命令など従う気になどならない。
悟飯が、管理局の――実権を伴った――トップに立ったのならば従ってもいい。
自分が悟飯よりも弱い内は……。
「俺はまだまだ強くなる!今は孫悟飯に従っても、俺がお前を超えればそれ以降は従うつもりはない」
自分が従うのは、確実に自分よりも強者に対してのみ。
フローズはそう宣言すると、そのまま飛び立って行った。
「待て!」
後を追おうとする小隊長を悟飯が制止した。
「何故止める?」
「捕らえてどうするつもりですか?あの男を捕らえるなど不可能ですよ……それこそ殺さない限り…」
あの男がフリーザと同族ならば……その気になれば、脱出する為にこの惑星ごと破壊する事も可能なのだ。
「この|惑星《ほし》を破壊するだって?そんな事……」
「出来ますよ。今までフリーザは数多くの惑星を破壊してきました……」
悟空の生まれ故郷である惑星ベジータも……フリーザによって消滅させられたのだ。
「しかし、惑星を消したりなんかしたら奴自身も宇宙空間に放り出されるではないか?」
【フリーザの種族は、どんな環境ででも生存できるんだ……例え、真空である宇宙空間でもな】
カカロットの指摘に、局員達はギョッとなった。
かつて、悟空がナメック星でフリーザと戦った時、超サイヤ人に覚醒しフリーザを凌駕した悟空を倒す為、フリーザはナメック星を破壊する選択をとった。
もし、あのときフリーザが力を抑え過ぎなければ、それで決着は着いていただろう。
いかに超サイヤ人が強靭な肉体を持っていても、宇宙空間では生存出来ない。
気でバリアを張れば、短時間ならば宇宙空間でも生存は可能かもしれないが、生存可能な惑星まではもたないだろう。
地球から火星までの距離が約78,000,000kmと、蛇の道よりも距離があるのだ。
いかに超サイヤ人の超スピードを持ってしても、気のバリアが持つまで生身で移動する事は出来ない。
「奴一人を捕らえる為にこのミッドチルダを滅ぼしますか?」
悟飯の指摘にぐうの音も出ない小隊長だった。
後書き
と、いうわけでフローズ登場
真一郎「フローズとは、トレーディングアーケードゲームの「ドラゴンボールヒーローズ」のプレイヤーの分身キャラクターであるヒーローアバターのフリーザ族の公式名である」
フリーザと同族だけど、フリーザの様な悪人ではありませんが、力の信望者であるため、アンチ管理局キャラとして登場させました
真一郎「悟飯のライバルキャラというわけか?」
いんや。それは他作品でやっているので、フローズはむしろ……
真一郎「これ以上はネタバレになるので、今の時点では明かせません」
では、これからも私の作品にお付き合い下さい
真一郎「お願いします」
フリーザの同族が登場するとは思わなかった。
美姫 「本当よね。まだ出番はありそうだけれど」
その立ち位置が気になるな。
美姫 「一体、どうなるのかしらね」
まあ、今はそれよりも今後の悟飯だよな。
美姫 「こちらはこちらでどうするつもりなのかしらね」
次回が気になる。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。