『時空を越えた超戦士−Remake−』
其之八 陸士108部隊との接触
ティアナ・ランスターとの出会いから一ヵ月後、悟飯は山を降りる事にした。
超サイヤ人に変身しても、興奮状態を克服し、戦闘力をアップしても体にかかる負担を抑えられる様になったので、これ以上は続ける必要がなくなった。
もともと、悟飯達がこの山に篭っていたのは、超サイヤ人状態で人里などにいると周りに迷惑がかかりすぎるからである。
「そろそろ、時空管理局と接触することを考えた方がいいのかな?」
【そうだな。お前は次元漂流者っちゅう立場になるからな。いつまでも管理局と無関係でいるっちゅうのもどうかと思うぞ】
「それを考えるなら、ティアナさんに着いていった方が良かったのかな…」
ティアナの亡くなった兄は管理局の局員だったのならば、当然、ティアナは局員に知り合いがいるだろう。
その人を通じて管理局と接触した方が手っ取り早かったかもしれない。
【まあ、焦る事はねぇぞ。管理局は逃げやしねぇからな…】
「そうですね。別にとくに困る事はありませんね……」
肉や魚、果物などが手に入らなくても、万が一の時は野草などを食べればいい。
つくし、タンポポ、ナズナなどはよく母・チチが卵とじや天ぷら、おひたしにして食卓に出していた。
それ以外にも、図鑑などで食べられる野草の知識があったので、ピッコロにサバイバル生活を強いられた時に、その知識を生かし、肉が取れないときなどは、木の実と共によく食べていた。
勿論、このミッドチルダの野草に関しての知識は殆どないので、毒草と間違えれば大変だが、カカロットが選別できるのでその心配もない。
現在地は、エルセア地方でも自然が豊かな地域なので、人里からは結構離れている。
所々で見かける案内板を頼りに、町の方に向かう悟飯だった。
★☆★
「この森を抜ければ、エルセアか」
悟飯は本通りも裏通りも使わず、森の中を抜けていた。
空を飛べばすぐだが、このミッドチルダでは首都クラナガンを初め、都市の上空は無許可での飛行は禁止されているらしい。
なので念のために都市部以外でも、舞空術を使う事を控えていた。
余計なトラブルを引き起こす必要もないし、足を使って歩く事も修行の内である。
悟空もかつて、筋斗雲を使わずに世界を歩いて旅をしたらしいので、それに倣う事にした。
森に入ったのは、空腹になってきたので、そろそろ食事を摂ろうと考え、食料を探す為であった。
しかし、結果としてはこの森に入った事が原因でトラブルに巻き込まれる事になるのだった。
【いやー、偶然とはいえ、いい獲物が狩れたな】
「…そうですね」
森に入ってしばらく歩いていると、いきなり猛獣に襲われたが、拳一発で猛獣は昏倒し、悟飯とハイヤードラゴンに美味しく頂かれていた。
ハイヤードラゴンの例を見ても分かる様に、動物に好かれやすい悟飯だが、獰猛で凶暴な動物はその限りではないし、その手の輩には遠慮がない。
幼い頃は、襲いかかって来る恐竜の尻尾を斬り、それを食べていたし、好き嫌いがないので食べ物ならばなんでも食べられる。
【しかし、こんな森にあんな猛獣が徘徊しているとなると……町の連中は大丈夫なのか?】
なにしろ此方を見つけた瞬間、突撃してきたのだ。
カカロットが見る限り、かなり凶暴で獰猛な動物だった。
「でも、味の方は凄く美味しいですよ……筋も固くないし、臭みもほとんどありません。凶暴なだけで肉食獣というわけではないようですね」
獰猛な動物の全てが肉食であるというわけではない。
むしろ草食動物にも凶暴なのはたくさんいるのだ。
河馬や象などは、鈍重なイメージがあるが、実はそうではない。
野生の河馬は縄張り意識が強く、自分の縄張りに侵入した者に同じ河馬だけでなく、鰐や人間にも容赦なく襲いかかってくる。
象は若い内は観光客を襲ったり、キャンプを破壊したり、自動車を壊すなどの凶行を日常的に行う。
牛なども草食動物だが、闘牛など観ればわかる通り、興奮すればかなり危険な動物といえよう。
草食動物に返り討ちにされる肉食動物も多く存在しているのだ。
話がそれてきたので戻そう。
この森はそれなりの広いが、人が入った形跡がかなりある。
おそらく、頻繁に人の出入りがあるのだろう。
だとすれば、今、食べている猛獣の襲われた者もいるのではないか?
そんな風に考えていたら……。
【悟飯!】
「わかっています」
人の気配……というよりも殺気を感じ取り、警戒態勢に入る。
どうやら、囲まれている用だ。
そして、一斉に魔力弾が悟飯にではなく、ハイヤードラゴンに向かって放たれた。
射撃魔法の基本であるシュートバレットだ。
とっさにハイヤードラゴンを庇う為に前に立ちはだかる。
基本とはいえ、立派な攻撃魔法であり、非殺傷設定なので、死にはしないが、これだけの数が当たれば一般人ならば昏倒してしまうだろう。
熟練者ならば、防護服やデバイスがなくとも、バリアタイプの防御魔法を使えは凌げるだろうが。
しかし、そうでなければ防護服を纏う前にやられてしまうだろう。
悟飯は、魔導師としては素人同然であり、それほど高い魔力資質があるわけでもないので、某喫茶店の娘の様に半年経たずに一流の魔導師になれる程ではなかった。
あくまで魔導師としては……だが…。
ようするに直撃(あた)らなければどうということはなく、前方位から放たれる魔力弾を、悟飯はすべて平手打ちで弾き飛ばした。
襲撃者達から動揺が発せられる。
躱したわけでも、防御魔法で防がれたわけでもなく、魔力を纏っていない素手で魔力弾を弾き飛ばされるなど、この世界の常識では思いもしないだろう。
その動揺を見逃す悟飯ではなく、気配がする場所に向かって右手から連続で気功弾を放ち、、周囲を囲む襲撃者達にお見舞いした。
「「「「「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
悟飯の爆裂砲火弾によって、ほとんどの襲撃者は一掃された。
「こいつらは一体…?」
倒れた連中を見る限り堅気とは思えない。
「小僧……よくも俺の手下共を!」
現れた男は防護服を纏い、デバイスを悟飯に向けていた。
【戦闘力45…魔導師ランクで言えばBランクってとこだな】
カカロットが相手の戦闘力を計測する。
魔導師の力は魔力であるため、気を探ってもどれだけ強いかは計れない。
27の秘密その2….スカウターの様に気、魔力、武装などの要素を含めた戦闘力を測る事が出来る。
「お前達は何者だ。何故、ハイヤードラゴンを襲う?」
悟飯は、まだこの世界の人間とは1人しか接触していない。
しかし、ティアナ・ランスターがこの連中と関わっているとは考えにくい。
どう見ても、堅気の人間には見えず、司法機関である管理局の執務官を目指す少女と関係があるとは考え難い。
無論、ティアナ・ランスターが実は悪人で、執務官志望はブラフである可能性もあるが…。
「貴様は、俺たちの獲物を横取りしただろう……だからその対価としてその珍しい竜を頂くためさ」
獲物……つまり、先ほど悟飯達が食べた獣の事だろう。
「あれは、俺たちのところから脱走した猛獣(やつ)でな……資産家に売れば結構高値で売れるんだ……しかし、まさか食っちまうとは思わなかったが……」
「だったら、いきなり攻撃する前に俺と話し合えばいい筈だ……いきなりハイヤードラゴンに攻撃する必要はないはずだ。友達を売る事は出来ないが、それに見合う対価くらいは用意できる……にも関わらず問答無用で襲いかかってくる……ということは…」
いくら悟飯が子供だからといって、いきなり攻撃を仕掛けるのは不自然だ。
この世界では、子供でも能力があれば一人前として扱われる。
いかに悟飯の人が良くても、目の前の堅気らしからぬ雰囲気は理解できる。
そして、問答無用で攻撃して来た事を考えれば……。
「お前達は違法な売買を手懸けている犯罪組織……そう考えるのが妥当だな」
恐らく悟飯が食べた猛獣も、彼らが密猟した動物なのだろう。
そうでなければ、町に近い森にあんな凶暴で獰猛な生き物がいたら、森の入口に猛獣注意の看板くらいある筈だ。
いかに世界が違えど、そんな一般常識すらないとは思えなかった。
確かにこの森は、余り人の手が入っていない。
しかし、まったく人が入らないわけでもないはずだ。
ならば、それなりの備えはしておくのが常識だ。
「ガキの癖に頭が回るな……そして、管理局で働くガキ共と同じ……甘っちょろい正義感を持っているようだ……な!」
喋り終えると同時に、悟飯に向かって突進してきた。
どうやら、この男は近接主体の魔導師のようだ。
悟飯が気功弾で手下達を倒したので、彼を射撃主体の魔導師だと思い、間合いを詰めようとしたのだろう。
しかし、それが思い違いだとすぐに気付かされた。
間合いを詰め、いざ悟飯に攻撃を仕掛けようとした瞬間、男の鳩尾に悟飯の拳が打ち込まれていた。
「ば…馬鹿な…バ…バリアジャケット越しから……ありえねぇ…」
物理攻撃を軽減する防護服の上からなのに、凄まじい衝撃が男の体を貫き、男は意識を失った。
意識を失った男を地面に転がすと、悟飯はある方向に視線を向けた。
「そこに隠れている奴、出て来い!この男の仲間か?」
体から発せられる気を消していないので、例え息を潜めようと悟飯から隠れ通すことなど出来ない。
「すまねぇな。けど俺たちはそいつの仲間じゃねぇよ……時空管理局の者だ」
そう言うと、茶色の制服を来た紳士が武装した者達を連れて、姿を現した。
「俺は、時空管理局陸士108部隊の部隊長のゲンヤ・ナカジマ三佐だ……お前さんが倒した組織の捜査が目的だ。だからそんな怖い目で睨みなさんなって」
悟飯は、思いもかけず時空管理局と接触することとなった。
★☆★
「この連中は、主に麻薬やロストロギアの密輸などがメインだが、保護動物の密猟や人買い、売春なども執り行う犯罪組織なんだ。なかなか尻尾が掴めなかったが、奴等の取引の情報を手に入れてな。武装隊を動かして現行犯で一斉捕縛するのが目的だったんだが……」
「じゃあ、俺がさっき食べた獣も保護動物だったんですか?」
知らずに食べたのだから、それほどの罪にはならないだろうが、この世界の法を破った事に対し、少し恐縮気味になる。
「いや、お前さんが食べたのは保護動物じゃないので、食べても大丈夫なんだが……あの獣はかなりの高級食材でな。食べたのなら分かるだろうが、美食家(グルメ)達が絶賛するほどなんだが、如何せんかなり凶暴で獰猛な獣で、しかも魔法に対する耐性もかなり強くてな。捕獲するのも命懸けだから、その値は贅沢さえしなければ一般家庭が一年間生活できるだけの額なんだ。俺も食った事はないんだよ……」
売れば凄まじい利益になる猛獣を逃がし、さらに通りすがりの子供があっさりと倒し、尚且つ食われてしまい、儲けがパーになってしまった。
しかし、よく見れば見た事がない竜を連れている。
人間に懐いている竜など、かなり希少なので、それを奪って埋め合わせようとしたのだろう。
ちなみに、ハイヤードラゴンは局員達に調べられ、不機嫌になっていたが、悟飯に頼まれたので大人しくしていた。
「辺境自然保護隊のデータベースにも、この竜に該当するデータはありません」
「そうか…ご苦労」
部下からの報告を聞き、ゲンヤは悟飯に笑いかけた。
「この竜はまだ発見されていないから、保護動物に指定されていない。だから連れていても法に触れる心配はないから大丈夫だな」
「ありがとうございます」
「それで坊主、こんな所でなにをしていたんだ。ご両親は?」
「いえ、いません。俺は貴方達にとって次元漂流者という立場になりますから」
もともと管理局と接触する気だったので、素直に自分が次元漂流者である事を明かした。
それを聞いたゲンヤは難しい表情になった。
彼は時空管理局の地上部隊であり、次元漂流者は本局の担当である。
すぐさま本局に連絡して、悟飯を保護してもらわなければならないが、今は任務中…しかも現場だ。
ここで本局を呼べば、間違いなく敵に気取られてしまうだろう。
「すまねえが担当外だからな。そちらの安全は最優先にするのでしばらく同行してもらえるか?此方の任務が終わり次第、手続きを取らせてもらうから」
こうして、悟飯は陸士108部隊と接触し、彼らと同行することとなった。
ようやく、管理局員との接触か。
美姫 「最初に会ったのはゲンヤね」
今は任務中らしいから、悟飯も同行という形になったけれど。
美姫 「この任務中に何かが起こるかしら」
一体、どうなるんだろう。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます。