『時空を越えた超戦士−Remake−』
其之七 出会い―ティアナ・ランスター
悟飯は、助けた少女を抱きながら、カプセルハウスへと向かっていた。
「あの……何処に?」
「はい。俺の家が近くにありますから、もう少し辛抱してくださいね」
少女は真っ赤になりながら頷いた。
今まで、兄やその友人たちに抱っこされた事はあるが、同年代の少年に抱かれた――しかもお姫様抱っこ――など初めてなのだ。
普段の彼女なら、強がりを言って降ろしてもらうところだが、流石に先ほど死に掛けただけあって、いつもの態度は取れなかった。
(結構、可愛い顔立ちだけど……胸板が厚いのね…)
などと、普段なら考えもしないような事を考えているのは、気が動転しているからだろう。
「そういえば、お名前を聞いていませんでしたね。俺の名前は悟飯……孫悟飯と言います」
「ティ……ティアナ・ランスター……です。こ……こちらこそ助けて貰ったのに礼も言わずに…」
ティアナ・ランスター。
彼女にとって、この出会いは、自らの運命を大きく変える分岐点となるのだった。
★☆★
「さあ、この洞窟を抜けた先にあります」
悟飯に抱かれてここまで来たティアナだったが、余りの事に呆然としていた。
今、辿ってきた道だが、この突発的な豪雨によって、もはやそれは道と呼べる物ではなくなっていた。、
経験豊富な陸戦魔導師が完全装備をして、慎重に行動してようやく通れるといった難所と化した道を、自分を抱きかかえている少年が、苦もなく通り抜けたのだ。
見たところ、自分と同い年か少し年下にしか見えない少年とは思えない程の身のこなしだった。
「どうしましたか?}
「えっ……いや、何でもないですよ……あ……あの、そろそろ降ろしてもらえますか。ここまで来たら、もう自分で歩けますから…」
言われた通り、悟飯はティアナをその場で降ろした。
先ほどまで抱きかかえられていたティアナは、まだドキドキしていたが、悟飯は平然としていた。
ティアナは、充分美少女と言える容姿だ。
悟飯くらいの年齢ならば、そろそろ異性に対し興味が出てくるころなのだが、生憎と悟飯は例外の範疇に入る。
悟飯はこれまで同年代の少女とは、ほとんど接点がなかった。
悟飯の知り合いと呼べる女性は、悟空の友人であるブルマくらいしかいない。
それに加え、悟飯は半分はサイヤ人だ。
サイヤ人は戦闘民族だけあって、異性に対する興味が皆無とは言わないが、極端に乏しい。
悟飯は純血サイヤ人ではないので、戦闘に対する欲求はないし、それなりに性欲はあるだろう。
しかし、悟飯はまだ10歳。
先述した通りそろそろ異性に対しての興味が出てくる年頃なのだが、サイヤ人ハーフである悟飯は、一般人よりも異性に対する興味に関しては遅熟なようだ。
彼が異性を意識するのは、あと1、2年は必要だろう。
「ここが、俺の家です」
目の前に建つカプセルハウスは、ティアナの想像したモノではなかった。
彼女が想像していたのは、ログハウスのような造りの家であったが、目の前の家は、角がまったくない半球状の家で、ミッドチルダではまず御目に掛かれない外観であった。
悟飯に促され、中に入ったティアナが目にしたのは……ドラゴンだった。
「ほら、ハイヤードラゴン……お客さんなんだから威嚇しない」
「クアァァ!」
ハイヤードラゴンはかつてのビッコロ同様、悟飯以外にはあまり心を開かない。
すぐに懐いた相手といえば、寝床を用意してくれた悟空くらいである。
なので、いきなり現れた見も知らぬ相手には警戒するのも仕方がないといえば仕方がない。
そんなハイヤードラゴンを諌め、暖房を掛けた。
「男物の服で悪いですが、着替えを用意しますので、シャワーでも浴びてきて下さい……バスルームはそこの扉です」
「ええ。ありがとうございます……」
この豪雨の為、ティアナはずぶ濡れであり、このままでは風邪を引いてしまう。
なので、素直にバスルームに向かった。
「じゃあ、お父さん……ちょっと行ってきます」
【どこへ行くんだ?】
「…ちょっと、川に…」
ティアナがバスルームから出てきた時、悟飯の姿が見えなかった…。
リビングのテーブルには、ティーポットが置いてあり、中には暖かなお茶が入っている。
【風呂から出てきたか?悟飯が戻るまで、それでも飲んでいろ】
突如、話し掛けられギョッとなるティアナだったが、ティーポットの横に置かれている宝玉から声が聞こえるのを見て、デバイスだと分かり、ホッと息を吐いた。
「あの……あの人は?」
【落とし物を探しにいくって言ってたぞ】
用意されたお茶を飲みながら、悟飯が戻ってくるのを待っていると、玄関の扉が開き、見覚えのあるバックを持った悟飯が入ってきた。
「それ……私の!?」
それは、川に流された筈のティアナの私物の入ったバックだった。
「テントの方は駄目でしたけど、このバックはそれほど損傷はないようでした……水浸しですけど、中身を確認して下さい」
「ど……何処から持ってきたの?」
「この山から降りた所にある水門からです……流石にこの豪雨ですから水門は閉じていますからね……上手い具合に引っかかっていましたよ」
ティアナは呆気にとられた。
確かに、山から降りた場所にこの川の水門が設置されているが、それでもかなりの距離だ。
確かにあの急流なら、すぐに水門があるところまで、流れていくだろうが……人があの距離を移動するにはそれなりの時間が掛かる。
考えられるのは飛行魔法、もしくは転移魔法だが……。
飛行魔法を使ったにしては、デバイスを持って行っていないのが妙である。
あれほどの距離をこんな短時間で往復するには、それなりのスピードが必要であり、そんなスピードをバリアジャケット無しで飛ぶのは無謀すぎる。
バリアジャケットとは、大気や温度などが劣悪な環境において、または攻撃魔法や物理的衝撃から着用者を保護する役割を持つ魔力によって構成される防護服の事で、これも一種の魔法であり、生成、維持管理などはデバイスに行わせるのが一般的である。
しかし、悟飯はデバイスを置いて行っている。
彼はデバイス無しでも、簡単に防護服(バリアジャケット)を生成できる程の魔導師なのだろうか?
まさか、生身で高速飛行しても大丈夫なくらい、頑強な肉体を持っているとは、ティアナは思いもしなかった。
バックの中身を確認したが、確かに水浸しになってはいるものの、衣服類は問題なく、食器類もアウトドア用なので、多少傷が付いたりしているものの、なんとか無事だ。
ただし、紙皿などは全滅だが……。
★☆★
「特訓……ですか?」
「ええ。来年、士官学校の入学試験を受けるから……それに備えて」
悟飯も既にカカロットから、数多に存在する次元世界を維持、管理する機関である時空管理局について教えられていた。
大まかに説明すると、軍隊、警察、裁判所を統合した組織である。
時空管理局は大まかに、次元航行部隊を擁する本局……通称“海”と各世界の治安維持の為に駐留する地上部隊……通称“陸(おか)”の二つの部隊に別れている。
彼女の夢は、亡き兄の目指した執務官になる事で、その為には本局に所属する必要がある。
その為に、兄から教わった魔法を磨こうと山篭りを敢行したとの事だ。
勿論、その影にある動機についてまでは語らなかったが……。
「持ってきた食料も無くなったし、今日帰ろうとしたら……この豪雨にやられてね」
この様な、突発的な豪雨に見舞われると、大人でも対処は難しい。
そもそも、12歳の少女が保護者を同伴せずに、こんな場所に来る事自体、無謀なのだ。
最も悟飯は4歳の頃に、血に飢えた猛獣が住み着く荒野でサバイバル生活をしていたし、人造人間を倒す為に家を飛び出し、一人で生活していたので、ティアナの行動を無謀とは思っていないが…。
「それでしたら、今日は泊まりますか?」
なので、このような提案をしてしまうのだった。
男の子と2人っきり(ハイヤードラゴンは勘定にいれてない)という事に抵抗を感じる年頃のティアナだったが、この豪雨はおそらく夜まで続くだろうから、その厚意を受ける事にした。
深夜。
起き出したティアナは、水を飲もうキッチンに向かう途中で呻き声が聴こえたので、リビングを除き込んだ。
そこには、ソファーの上で毛布に包まって寝ている悟飯が魘されていた。
カプセルハウスは簡易住宅なので、寝室は一部屋しかなく、ベットも一つしかない。
なので、悟飯は自分がリビングに寝るからと、ティアナに宛がった。
流石にそこまでしてもらう訳にはいかないとティアナは遠慮したが、女性には優しくする様に教えられた悟飯は、有無を言わさなかった。
ちなみに、これは悟空がフェミニストだからとかそういう訳で悟飯にそう教えたのではなく、悟空自身も孫悟飯じいちゃんから、そう教わったので、自分も息子にそう教えただけである。
余りにも苦しそうなので、とりあえず一度、起こそうと近付いたら、いきなり悟飯が体を起こした。
寝汗をたっぷりと掻いて、息が荒い。
「ど……どうしたの?」
「あっ……ティアナさん……すいません。昔の悪夢を見ただけですから……」
そういうと悟飯は、喉が渇いたといってキッチンに向かった。
「ソファじゃ寝苦しいのかしら……泊めてもらっているわけだし、やっぱりベットは悟飯が使った方が…」
【いや、気にするな。ベットでも一緒だ……悟飯はたまに魘されるんだ】
ティアナの呟きに、テーブルに置かれているカカロットが反応した。
たとえベットで寝ていても、悟飯は時折魘されて、夜に目を覚ます事が度々あった。
「すいません、お騒がせしてしまって……別にソファが寝苦しいわけじゃありませんよ……俺は野宿も慣れていますからね。どんなところでも寝れますから…」
キッチンから戻ってきた悟飯が、謝りながら持ってきたホットミルクの入ったカップをティアナに渡した。
それを受け取ったティアナは、ソファに腰を降ろし一口啜った。
「夢を見るんですよ……もう半年以上も前の事なんですけど……ね」
それは、あの悪夢。
父、悟空が心臓病で亡くなった半年後、南の島に現れた2人の悪魔……人造人間17号、18号。
父と同じくらい尊敬していて大好きだった師匠であるピッコロが…。
父のライバルでかつては恐ろしい敵だったが、地球に住み付き、ブルマとの間に子供を作ったベジータが…。
父の親友で、悟飯にとって兄貴分だったクリリンが…。
そして、その他の父の仲間たち……ヤムチャ、天津飯、餃子、ヤジロベーが人造人間たちに殺された。
目の前で皆が殺されていくのを、見ている事しか出来なかった自分…。
その時の恐怖と怒りが、悪夢となって悟飯に襲いかかってくるのだ。
人造人間は滅び、そしてカカロットの指導によって、今では人造人間達を超えている悟飯だが、それでもまだこの悪夢に苛まれている。
人造人間がいなくなっても、ピッコロが死んで、神様もいなくなり、ドラゴンボールが消滅した以上、死んでしまった仲間達はもう戻ってこない。
そして、別次元の悟空から聞いたドラゴンボールの忌まわしき特性の事を思えば、安易に頼るわけにもいかない。
ハイヤードラゴンと、父、悟空の人格と記憶が複製(コピー)されているカカロットがいるとはいえ、寂寥を禁じ得ないのだ。
悟飯が父を病気で喪い、仲間たちが目の前で殺された事を聞いたティアナは、人事とは思えなかった。
自分も悟飯と同じ10歳の頃に、大切な兄を喪ったのだから…。
しかも悟飯は、目の前で親しい人たちが無残に殺される様を見せ付けられたのだ。
その苦しみは、ティアナの比ではない。
悲しい事を抱えているのは自分だけではない。
そんな事は分かっているつもりだった……。
しかし、自分が悟飯の境遇なら耐えられるだろうか?
兄の死の事実だけでもあれほど苦しかったのに……目の前で大切な人が次々と殺されるのを見て……。
きっと耐えられないだろう。
自分はそれほど強くはない事を思い知らされた。
そして、そんな苦しみを背負いながらも自棄にならず、それに立ち向かっている悟飯に敬意を払うと共に、本人もまだ気付かないある感情が芽生えていた。
気が付くとティアナも、昼間は語らなかった兄の事を語っていた。
彼女も兄の葬儀の時の事を夢に見て、起きてきたのだ。
心無い上司から、犯罪者を取り逃がし殉職した兄を非難、侮辱された時の悔しさを……。
だからこそ、兄の果たせなかった夢を自分が受け継ぎ、兄の名誉を護りたいのだ。
語り終えたティアナは、悟飯を連れて寝室に戻った。
2人で寝れば、悪夢は見ないかも知れない。
もう、ティアナに羞恥は湧かなかった。
そうして、ベットに入った2人はすぐに眠りに落ち、再び悪夢に襲われる事なく、朝までぐっすりと眠るのだった。
★☆★
翌朝。
昨日の豪雨はすっかりと治まり、眩い日差しが射していた。
地盤はまだ緩いだろうからと送る事を申し出た悟飯の厚意を素直に受けたティアナは、麓まで送ってもらった。
「ありがとう悟飯……御蔭で助かったわ」
「試験、頑張って下さいね」
「難しい試験だけどね。努力しても適正がなければ落第だから……でも、例え落第しても諦めない…。私は必ず、兄の目指した執務官になってみせるわ!」
悟飯に向かって手を差し出し、悟飯もそれに応え、2人は固く握手し、再会を約束した。
悟飯は、ティアナの姿が見えなくなるまで、手を振って見送るのだった。
2人の再会は、2人が思っていたよりも早く訪れる事になる。
後書き
と、いうわけでヒロイン候補のティアナとの出会いでした。
真一郎「ティアナがそれほどツンツンしていないな」
まあ、まだ士官学校を落第してないからな……原作本編時ほど、切羽つまってないからね
真一郎「さて、次回は誰と出会うんだ?」
次にいよいよ管理局と接触させるつもりだよ、誰かは秘密
真一郎「まあ、だいたい予想はつくけどな……ヒロイン候補を考えれば…」
では、これからも私の作品にお付き合い下さい。
真一郎「お願いします」
ティアナとの出会いか。
美姫 「これがどんな影響を与えるかよね」
だな。ちょっと楽しみ。
美姫 「今回は二人の出会いって所だけれど」
次回もまた誰かが出てくるみたいだな。
美姫 「一体、誰なのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」