それは軽い口約束に過ぎなかっただろう。

 

 偶然出会った公園で、ふと成り行きのように出た話題の一つでしかなく、それに確約を得る前に相手は他の人物との会話へと移ってしまったから。

 だがあの男は覚えていた。

 再び偶然出会った翠屋でそのことを言い出されたときは正直驚いたものだ。あれほどの力を持つ者が、私を気に掛けているのかと。

 だが、いざその手合わせが決まったのならこれほどに戦いが楽しみな相手もそういない。

 あの男がリンカーコアを持っていないのはすでに観測されている。それでも魔法は使えずとも奇妙な力を使い、さらに剣腕は高町恭也を圧倒するほどに高みにある。

 そしてなにより、決して看過できぬ理由がある。

 だから私は見極めねばならない。

 

 あの男が本当に、私が認めるにふさわしいかを。

 

 

 

 

 

 

      「炎と雷」

 

 

 

 

 

 

「……なぜ、こうなった?」

 

 目の前の男――神雷が苦悩するように呟く。

 口にこそしないものの、私も多少は似たような気分ではある。

 その視線の向いている先は、上方。本来なら夜の黒に彩られる空はわずかに緑色の光を帯びている。つまるところ、ここはシャマルの張った封鎖結界の中。これにより私たちの戦闘が外部に影響を与えることはない。

 それは構わない。

 いつかの口約束――一度この男と手合わせをするという願いが叶うのだから、この程度の干渉に目くじらを立てることはない。むしろ全力を出せるという意味で歓迎すべきだろう。

 場所はなのはが毎朝魔法の練習をしている桜台の高台。そこを中心に結界は展開されている。

 戦場をその中と指定し、それ以外には制限はない。炎の魔法も雷の外法もなんでもあり。互いに持てる力の全てを出してぶつかろうという意気込み。

 

 それだけならば、神雷も不満を漏らすこともなかっただろう。

 しかし、この戦いはいつかの夜のようにハラオウン家から見物できるようになっている。そこには主はやてやテスタロッサはもちろん、他のヴォルケンリッターやなのはたち高町家の面々、さらには今夜のことを聞きつけてきた他の者達。向こうの様子は分からないから今は正確な人数は分からないが、相当な数になっているだろう。その原因が、翠屋で多くの関係者の前で今夜の話をしたことであるのは明白だ。

 そしてその観戦者こそが神雷にとって不満の種。私にもその心情は多少なりとも理解できる。それが敵と断定できない相手とはいえ、無闇に手の内を晒すことを嫌っているのだろう。

 

「……まぁいい」

 

 気にしても仕方がないと悟ったのか、独り言のようにそれだけを呟いて神雷はシュルシュルと、ゆっくり左手の包帯を解いていく。

 あの夜、雷の矢を相殺し、テスタロッサを救うために失ったはずの左手は、今傷一つない姿で現れた。

 ありえない、と顔には出さないまでも驚愕する。斬り落とした体をこうも早く、こうも完璧に治すのは管理局でも無理だろう。今さらと言えば今さらだが、それを可能とするこの男という器の縁も底も見えないことに身震いする。

 その当人は、傷一つ残っていない左手を、グッ、パッと握ったり開いたりを繰り返す。おそらく感覚を確かめているのだろう。それもすぐに納得がいったのか、最後に一度握り締めて私へと視線を移す。

 

「さて、始めようか」

「ああ」

 

 多くは語らない。そもそも、そんな言葉さえ私たちには必要ない。

 しかし――

 

「だが本当にいいのか? 私ばかりがこうも……」

 

 それ以上はどう言えばいいのか迷う。

 こちらはレヴァンティンと騎士甲冑という完全武装状態。

 それに対し神雷はいつかの夜と同じ模擬刀といつも着ている真紅のコート。

 彼我の装備にあまりに差があり過ぎる。

 

「……なにに遠慮するのか知らんが、余計な気を回す必要はない。それよりも、自身の命の心配をしておけ。俺の力は相手を殺すことしかできないからな」

「……分かった、もうなにも言うまい」

 

 なにを言っても無駄だろう。それは理解できた。

 そしてもう一つ、この男に非殺傷設定という能力はないのだろうということも。考えるまでもなく当然のことだ。それを少しでも改善するために選んだのが、今回の模擬刀ということなのだろうから。

 そう決意すると同時に、空気が変わる。

 

 直後、目にも止まらぬ速さで二人の間合いが詰まり、甲高い音を立てて刃がぶつかる。

 互いに実戦に身を置く戦士であり、戦うという前提で対峙した瞬間すでに戦闘は始まっていた。

 それは確認するまでもない暗黙の認識。その領域にいる者との戦いであると再度認識し心が昂ぶる。むしろ、これを不意打ちと言って終わるような相手なら手合わせなど望まない。

 そして二人の間で交わる刃は接着されたように不動。

 これは互いの力が拮抗しているということだが、このままでは話が進まない。ぐっと、一瞬だけのしかかるように力を込め、競り合っている刃を弾き、斬り合いに適した間合いへと移る。 

 そこから二人の間を斬撃が舞い飛ぶ。

 

 唐竹、袈裟切り、横薙ぎ、切り上げ、逆風、刺突――

 

 互いに放つ目にも止まらぬ攻撃の応酬。その全てが必倒(というよりもはや必殺)の意志を以って繰り出され、それでも十合を超え二十合を超えてなお互いに傷を負うことはない。それらを私は防御を主体に、神雷は回避だけで捌く。

 そしていつまでも続くかと思えたその攻防も、突如変化が起きる。

 

「はあっ!」

 

 気合を込めて振り下ろした剣を神雷はそれまでと同じように紙一重で回避する。その避ける動きを、そのまま回転に変えての回し蹴りが飛んできた。かろうじて受けるが不意を突かれる形だったのでわずかに体勢が崩れる。

 その隙を見逃す神雷ではない。回し蹴りの体勢からいち早く立て直し、手にした刃が袈裟切りに振り下ろされる。

 回避は間に合わない。だが――

 

《Panzerschild》

 

 間一髪でレヴァンティンが自動発生させた防御が間に合った。

 ベルカ式魔法陣の形をしたシールド系の防御魔法。このまま攻撃を反らすのが本来の使い方だが、今回は力に逆らわず後ろに飛ばされて距離を作る。

 そうして離れたのは五歩ほどの距離。次の一撃には調度いい。

 

「レヴァンティン!」

《Explosion》

 

 ガシャン、とカートリッジが一発撃発され、剣身が炎に包まれる。

 

「紫電一閃!」

 

 そのまま踏み込み、大上段から振り下ろす。腕力と魔力、さらに重力まで加えたこの一撃。それを神雷はとうとう刀で受けて防ぐが、振り下ろしは力と重さで切る西洋剣の真骨頂、そんなもので受け切れはしない。今度は押し切れる。

 そのとき――

 

「千鳥」

 

 ポツリ、と呟かれた言葉を引き金に、神雷の持つ刀身に雷が奔り、二人の持つ剣と刀、炎と雷がぶつかりあい、閃光と轟音を発する。

 その轟音の中に、キシリ、と軋む音が混じったのを聞き取った。

 その音に不吉なものを感じ、弾かれたように退がる。

 さっき以上に距離を取り、追撃に来ないことを確認し、見ればレヴァンティンの剣身に刃こぼれが一つ。それは今まさに、あの男の刀とぶつかっていた部分。

 

 競り負けた?

 

 あの瞬間、『千鳥』とあの男は呟いた。それがこの男の魔力付加(と類似する力)だろうと推測していたが、それは魔力付加したレヴァンティンをも傷つけるものとは……

 見れば神雷の持つ模擬刀にも刃こぼれはあるが、武器の質を考えればこちらの負けなのは疑いようがない。

 その動揺を察したように、神雷は告げる。

 

「……最初にお前は言ったな。本当にいいのか、と。当然だ、俺には己を託す愛刀などない」ヒュン、と模擬刀を構え直し「しかし、弘法は筆を選ばずとも言う。わざわざ得物を選ばねば戦えないようで、千年以上を戦い続けられるはずもないだろう。……それに、俺の力の真髄はまた別にある」

 

 そう言って、それを見せるように刀を離した右手から発するのは黒と銀の雷ではなく、より昏く黒いもや。

 だがそれがなにかを語ることはなく、そして見せるのも一瞬。すぐにそのもやを振り払い、柄に手を戻すと同時に高速で斬り込んでくる。

 その一撃を躱しざま、神雷の追いかけられない空中へと退避する。距離を取って一度仕切り直しだ。

 だが、後方へと高速で飛行し急速に離れつつある神雷は、届くはずのない間合いにもかかわらず、手にした刀を大きく振りかぶり――

 直感が叫ぶ。その意味するところを声にするより早くレヴァンティンがその意図を読んで炎を纏う。

 

《Sturmwinde》

「はぁっ!」

 

 神雷と同時に振り抜き、炎と衝撃波を撃ち出す。

 だが、というべきか、予想通りにその炎が途中でなにかにぶつかり相殺された。

 やはり……。あの夜何度か見た飛ぶ斬撃を放っていたか。知らなければまともに食らっていただろう。どれほどの威力かは測りかねるが、地面を斬り裂いた前例のある技だ。決して楽観できるものではない。

 そのまま十分すぎる距離が開き、地上へと降りる。

 そうして開かれた距離はミドルレンジ。これが魔導士の戦いであれば射撃戦へと移行する間合い。

 だが私はその系統の技能は低く、神雷にしても魔法が使えない以上この距離での戦闘は決して得意とは言えまい。

 ならば、もう一度剣戟の距離まで近づくというのが筋だろうが……構わない。ここから手を打って、あの男がどう対応するのか興味がある。

 

《Schlangeform》

 

 レヴァンティンを鞘に納める。ガシャ、とそのままカートリッジを一発撃発し、

 

「飛竜――」抜き放つ刃が連結刃へと姿を変え「――一閃!」

 

 ゴウッ、とレヴァンティンの剣身が炎を纏い、唸りを上げて奔る。

 刺突と魔力と炎の三要素複合砲撃級攻撃。私の持つ技の中でミドルレンジにおける決め技の一つ。

 これで――

 だがその認識は甘かったと言えよう。神雷は迫る刃に臆することなく左手をかざし――

 

 バヂヂィッ!! …………シュ〜〜……

 

「なっ!?」

 

 受け止めた?

 

 高速で飛ぶ切っ先を、雷を帯びた手で躊躇も遠慮もなく掴み取った。

 

「……これが、お前の奥の手か?」

 

 問いかける形を取ってはいるが、答えに興味はないらしい。手にしたレヴァンティンの切っ先を無造作に手放す。その手のひらはブスブスと焼け焦げているが、それだけだ。以前に一度左手を犠牲にしたところを見ているが、そのときの傷は今の比ではなかったというのに。

 そして、手放された切っ先が地に落ちるより早く、神雷は距離を詰めてきた。それはさっき距離を空けたときよりさらに迅い。それは今度は逃がさないという意思表示か。

 その迅さの前には、刃を戻しシュベルトフォルムへと変形させている余裕などない。ならば――

 

「はああ!」

 

 全力で振り上げる。一度上空へと舞い上がった刃が、その名の如く『蛇』のように襲い掛かる。

 

 シュランゲバイセン・アングリフ。

 レヴァンティンのシュランゲフォルムから繰り出す中距離範囲攻撃。変幻自在に伸びる刃があらゆる方向から敵を蹂躙する。

 

 しかし神雷はその攻撃を最小限の動きで躱し、まさに紙一重で目の前をよぎる刃に欠片も動揺することなく、手にした模擬刀を正眼に構え――

 

 ドゴォッ!!

 

 瞬間、レヴァンティンの連結刃で作られた檻が一瞬で崩された。全方位を囲っていたはずの刃の群れが、内側から弾き飛ばされたのだ。

 その現象に驚愕する暇もあればこそ、神雷は寸前まで立っていた地面を踏み砕いてその場から消え――

 

「終わりだ」

 

 予想以上に近く――手の届くほどの目の前に、神雷はいた。手にした刀を私の首に添えて止まっている。

 

 

 決着の瞬間だった。

 

 

 

      *   *   *

 

 

 ところかわってテスタロッサの家。

 

「負けた……主はやての前で負けた……主はやての前で負けた……主はやての前で負けた……」

 

 あの後、決着の形から神雷が刀を引き、互いの戦意が消えたのを見て取ったシャマルの転送魔法でこの場へと連れ出された。

 この場にいるのは主はやてとヴォルケンリッター一同にテスタロッサとなのは、そして恭也と美由希と神無、さらにはアリサとすずかまで。リンディ提督たちは来られなかったようだが、後で今回の戦闘記録を送ることになるだろう。

 

「あ〜あ、だらしねぇよな。ウチのリーダーはよ〜」

「ぐぅ……」

 

 早速、ここぞとばかりにヴィータの辛辣な言葉。しかも負け戦の後なだけに強く出れない。

 

「そんな気にせんでええよ。シグナムが強いのは十分知っとるから」

 

 そしてそれを拭う主はやての優しい言葉。しかしその心遣いが今は痛い。

 なにしろ、ああも一方的に下されるのは初めてだ。

 互いに傷らしい傷は残っていない。唯一のそれらしい傷であった、神雷が飛竜一閃を受け止めた左手はすでに痕も残さず治っている。(それが自己治癒力の恩恵というのは信じ難いが)

 使った武器を挙げるなら、神雷が使っていた模擬刀の刀身は破損が著しい。それは刃を潰してある模擬刀だが、刃があったとしてももはや斬れないだろうほどに。

 

 しかし、決着の形はあまりに明白。

 私の負けだ。

 あの『千鳥』とかいう力を使えばあと一太刀――私の首を落とすくらいは造作もないことだろう。それを寸止めにして終わらせたのもこの男の器か。それに、途中一瞬だけ見せたあの正体不明の黒いもやを使っていない。

 しかし、あのもやはいったいなんだ? かつて見たことがないほどに不吉な気配を帯びていたが……

 

「あの……神雷さん、いくつか分からないところがあったですけど質問いいですか?」

 

 訊いていいものか迷っているうちに、恭也が発言した。

 

「……? ああ、なんだ?」

「戦闘中、何度かありえない動きや技を使っていましたが、あんなこと人間にできるものかと……。……もしかして、神雷さんも魔法使いとか……?」

 

 それは私も気になる。前もって分かっていた通り、神雷は魔法を使っていない。あの攻撃に魔力の発現は見られなかったし、こちらでの記録にもなんの力も観測されていなかった。だというのに、あれはいったい――

 だが神雷は怪訝そうな顔で恭也を見返すばかり。この態度はおそらく、なにを訊かれているのか分かっていないのだろう。

 それについてどう追求しようかと考えていると、横から神無の補足が入る。

 

「神雷様。恭也たちの言っているのは、おそらく神雷様の『斬術之極』のことでしょう」

「ああ、斬月と殲界か」

 

 なんでもないことのように答える。その態度は『極』などという文字にはおよそふさわしくないくらいにくつろいでいる。

 

「斬月は……もう何度か見せただろう? ただ間合いの外を斬る斬撃、それ以上でもそれ以下でもない」

 

 確かにそれは何度か見ている。確認できているのは数える程度だが、しかしそれは決して言うほど軽いものではないだろう。

 

「殲界は、絶影の状態からの連撃。飛んでいる銃弾を微塵に切り裂いたこともある。常人の目ではまず捉えられん」

 

 それがあの最後の一瞬――ほぼ同時に、レヴァンティンの連結刃が弾き飛ばされた理由か。あの一瞬で、この男は周囲を舞う連結刃に容赦なく無数の斬撃(というよりは模擬刀だから打撃)を叩き込んでいたのだ。

 

「その絶影というのは、俺たちで言う神速みたいなもの、と受け取っても……?」

 

 再び、恭也が問う。この男は、得物は違えど同じ剣士として並々ならぬ興味を寄せているらしい。

 それにその問いの指すもの――あの高速移動は以前の恭也との手合わせでも見た覚えがある。だからこそ、恭也も気になっているのだろう。

 

「……そうだな、俺の絶影は御神に於ける神速と同義だ。極限を超える集中により自身の肉体の本当の限界を引き出す技法。ただ、俺の場合はその限界が並みの人間を遥か凌駕しているということになるが」

 

 変わらずたいしたことではないという調子だが、それは決して安易なことではない。その速度はここにいる者の中で最速。テスタロッサや恭也の『目にも止まらぬ速さ』どころではない、まさに『目にも映らぬ速さ』だった。その速度といい、その速度に順応する感覚といい、確かに並の人間では及ばない。いったいどんな謎を隠しているのか。

 とはいえ、手の内を隠すなどおかしくはない――むしろ当然とさえ言える。だが、今回ばかりはどうも落ち着かない。この男が意味もなく剣を振るうとは思えないが、それでも主はやてに危害を加える可能性を否定できない以上、放置できない問題だからだろう。

 そしてその視線に気づかない神雷ではない。

 

「……なんだ? なにか不満そうだな」

「そうだな……。私はこれでも永く生きてきたつもりだ。だというのに、お前のような奴に会ったのは初めてだ。その力といい、あの黒いもやといい。……お前、いったいなにを隠している?」

 

 その詰問に対し、意外なものを見るように黄金色の瞳が私を捉え、やがてポツリと――

 

「……それを知ることに、意味があるか?」

 

 ゾクリと、底冷えするほどに空虚な声。

 

「……ああ。それがもし主はやてに害を及ばすものであるなら、私は相応の覚悟と対処を取らねばならない」

「シグナム……」

 

 不退転の意志を込めて告げる言葉にリビングの空気が張り詰める。

 対して神雷は考えをまとめるように自身のこめかみをつつき、

 

「それがお前の言い分なら、俺が八神はやてに手を出さないと言えばそれで終わりだが……」

「それで私が納得すると思うか?」

「……しないだろうな」

 

 ふっと呆れたようにため息を吐き、他の面々も半数以上が同意するように乾いた笑いを浮かべる。

 

「だがそれで納得しないというなら、俺がなにを言おうと同じだろう? なにを言おうとも、『信じない』の一言で否定できる」

「それは私が決めることだ」

「そういうものか……」なにが面白いのかクツクツと笑い「まぁ、確かに己の意志は己だけのもの。そこにまで俺は干渉する気はないし、お前には俺を信用できないのも分かる。だが、それは逆もまた然りだ。俺がそれを話すほどお前らを信用していると思うか?」

「そう……だな」

 

 私自身、わずかでも疑心を持っているだけにその言い分を否定できず、それ以上強く出ることも封殺された感じだ。(そしてその神雷の言い分に何人か暗い影を背負っていた)

 

「それに、お前が気にする必要もないことだ。あの力を使うのは俺自身が滅殺すべき『敵』と断定した相手のみ。だから、もしお前が俺の『敵』になったそのときは――」

 

 あの力を使ってでも殺す。

 最後の一言こそ言葉にはされなかったものの、まるで告げられたかのように連想するのは容易く、その言い様には一切の淀みも迷いもない。この男はやると言ったならやる。それを確信させるだけのなにか――敢えて名を付けるなら『覚悟』だろうか――を秘めている。

 

「ふっ……まったく、手厳しいな、お前は」

「そうだな。そもそも、『鬼』相手に人の道理を重ねようというところから間違いなのだろうが……」

 

 そう言って浮かべたのは自嘲の笑み。

 その意味は分からないが、つられるように私の口元も笑みを模るように引きつり、

 

「『鬼』、か……」

 

 呟いた言葉に皆の視線が集まる。

 

「……まったく、この世界は奇怪なものだな。お前ほどではないだろうが私も永く生きた。だというのに、お前のような奴に出会ったのは初めてだ」

「当然だろう。お前の知ることだけが、この世の理の全てでもあるまい」

 

 改めてそのことを思い知る。

 それは不思議なことだ。もはやいつとも知れぬ遥か過去、夜天の魔導書の守護騎士として生み出され、それ以来この世界に流れ着くまで魔法以外の異能の力などついぞ見たことがなかった。

 だというのに、この世界はどうだ。主はやてやなのはのように突然変異で強大な魔導師が生まれることがあるということだが、魔力を一欠片も持たずとも遜色ない力を持つ者たちがいる。しかもその頂点とも言える目の前の男は、私がこれまでに培ってきた力も常識もこうも簡単に叩き壊してしまった。

 ……面白い。

 テスタロッサや恭也に出会ったときと同じかそれ以上の高揚を覚える。これほどに昂ることはそうない。

 

 それにしても、どこまでも底の見えない男だ。この男の手にかかれば、古代ベルカにおいて最強の騎士に与えられる称号――『剣聖』さえも容易く届くかもしれない。

 このように、実力については申し分なし。

 人格については……いまだ測りかねるが、先の問答でも決して不快な気にはならなかった。そして主はやてはそれこそを見てこの男を選んだ。ならばこれ以上不明瞭な理由でそれに反発するのは無粋といえよう。

 そしてこの男は不老不死だ。ゆえに疑わしいところもあるのだが、別の意味をとればそれは主はやてを遺して逝くことはないということにもなる。

 

 これだけ挙げていけばもはや異論の余地もないのではないか? まだ公的立場や信用など、至らないものもあるが決してそれでこの男という器が輝きを失うわけではない。

 

 となれば、やはり認めねばならないのか。

 認めなければならないのか。

 

 この男が主はやての想い人にふさわしい男だということを。




 さて、番外編第二弾、シグナム編、お届けしました。実は番外編中最初に書きあがった話でもあったりしますが

シグナム(以下シ)「ならば、なぜ出し惜しみをした?」

 いや、前話で決闘の約束があったでしょ。あれを先に出さないとおかしいかと思って

シ「まぁ、確かに脈絡なく戦うのもおかしいかもしれんが」

 いや、脈絡なく戦いそうな奴が言うなよ

シ「……お前が私をどう見ているか分かる発言だな」

 どの口が否定するか

シ「否定しているわけではない。……しかし、奴の強さはどれほどのものだ?」

 ん〜〜、剣士として戦えばまず作中で最強。しかし無敵というのも少し違う。神雷の天敵はなのはみたいなタイプだから

シ「どういうことだ?」

 いや、だってさぁ。空まで及ぶ高速機動、堅固な防御能力、さらには回避困難な大威力・長射程の砲撃。これだけ揃えば手札の相性、最悪だろう? 君なら空戦ができるという理由で互角以上に持ち込めるだろうが……

シ「……つまり、もっと空を飛んでいれば私は勝てていたのか?」

 さあ? 空を飛んでも結局接近戦に持ち込むならあまり変わらないし

シ「(苦笑)……違いない」

 では語ることも終わったところで、最後の方に一度だけ出てきた言葉、『剣聖』について。オリジナルの設定だから説明があった方がいいだろう。この先使うかもしれないし

シ「……そうだな。言葉面で大まかな予想はつくのだろうが」

 そういう場合は答え合わせということで。名前だけだと聖王とはなにか関わりを持っていそうだけど……

シ「そうとも限らん。古代ベルカでは『剣聖』とは『時代で最強の騎士』に与えられる称号であり、聖王に限らず『王に仕える騎士』であれば『聖騎士』の称号が与えられる。これらは似ているようで違う。……とはいえ、たいてい両方を背負う例が多いがな」

 あ〜〜、やっぱり最強ほどになれば王様のもの?

シ「そうとも言える。古代のベルカは戦乱に満ちた時代で、『王』を名のる者は他にない強力無比な力を持っていたと聞く。故に強き騎士もまた、己の主として相応しい強者を選んだ結果だろう」

 ほう。……ところで、その理屈から言えば『夜天の王』に仕えているヴォルケンリッターも『聖騎士』に分類すべきかな?

シ「いや、主はやては正式にベルカの王として認められていない。故に、我らにその称号はない」

 そういうものか

シ「ああ、そういうものだ。それと、私もリインフォースから与えられた知識としてしか知らないが、聖王に仕えた『聖騎士』は多いときでは七人いたという記録もあったらしい。その七人は『王の七騎』と呼ばれ、『夜天の魔女』や『烈火の剣精』という二つ名を与えられていたという。一度手合わせをしてみたいものだ」

 このバトルマニアめ




シグナムとバトル〜。
美姫 「にしても、やっぱり強いわね」
だな。しかし、シグナムはただ戦いたかっただけでもないみたいだな。
美姫 「やっぱり、そこも主のためなんでしょうね」
らしいと言えばらしいがな。
さて、それじゃあ、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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