1月19日 (木) PM 3:03

 

「はぁ……」

 

 今日何度目になるか分からないため息がこぼれた。それほどに今の心情は、とてつもなく重い。

 この街に来たのは神雷様を探すため。

 それは何人たりとも、否定も改定も許さない自分の目的。

 けれど世界の法則にまでそんな文句は通じない。

 

 働かざる者食うべからず。

 

 それは分かる。

 分かるんだけど――

 

「いらっしゃいませ〜〜」

 

 愛想笑いを振りまきながら思う。

 

 なんで、わたしは、こんな所にいるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

      第2話  「歓談」

 

 

 

 

 

 

 喫茶『翠屋』。

 この街の商店街のほぼ中心に位置しており、御神の剣士――高町恭也というらしい――の母である高町桃子が経営している喫茶店。雑誌に紹介されたこともあるらしく、県外からの客もいるという繁盛ぶり。

 そして、そうとは知らず、自分がこの街に来てから、適当に選んで最初に入った店。

 

 そこまではいい。

 そこまでならどこの街でも一つか二つは聞きそうな話だ。

 

 ただ、なぜ今日は、自分が店員になっているのだろうか?

 

 もう何度も脳裏をよぎった疑問がまた噴き出す。

 ここまでの旅の途中も、路銀が尽きそうなときは適当に住み込みの働き口を探して、適当に稼いでからまた旅に出る、を繰り返していた。

 そこからすれば、今の状況はそう大差ないとも言える。

 

 けれど、だ。

 この街に神雷様がいると知っていて、それでもこうして給仕に従事するというのは、なんというか、こう、もどかしい。

 闇雲に探し回っても見つからないというのはすでに経験済みだし、もし高町家に訪れたらすぐに伝えるように約は結んである。

 それでも今すぐ、自分で探しに行きたい。

 そのくせ、そんな状況にありながら、

 

「神無ちゃん。これ、2番テーブル」

「あ〜、はい。今行きます」

 

 こうも素直に従う自分に、違和感を覚えないのが不思議だ。しかもちゃん付けまでされているというのに。この辺り、桃子の人徳がなせる業か。多くの人間を見てきたが、その経験からしてもこんな人間は稀だ。こういう人間には正直、羨望と好意を覚える。

 

 それにしても――

 常に誰かの視線を感じる。その出所は一箇所ではなく、不規則に変わっている。まるで店中の人間に、代わる代わる見られているようだ。

 それは単に神無が、自分が他人の目を引き付ける存在感を持っていると理解していないだけなのだが、自分がそういう存在だと分かっていない身としてはただ困惑するばかり。

 この辺り、恭也に似ていたりする。

 

 

 カランカランとカウベルが新たな来店を告げる。

 

「いらっしゃいませ〜〜」

 

 もはや半ば自棄気味に応対の声を出す。

 

 そこに珍しい集団がいた。

 白い制服――確か、聖祥小学校の制服だったか――を着た四人組が入ってきた。学生が多い時間帯とはいえ、小学生が来るのは珍しい。というか、他にはいない。

 そしてその四人の顔ぶれもかなり神無の目を引いた。

 一人は面識がある。月村すずか。今の居候先の次女で、忍より濃い『血吸い』の血統の娘。

 もう一人、茶色い髪を二つに結っているのはおそらく桃子の子供だろう。顔立ちに面影があるし、今も桃子とそれらしく会話している。

 だが、異人の血らしいあとの二人――金髪のツインテールの娘と茶色に近い金の髪の娘は初めて見る顔だ。

 

 その四人――というか、すずかはこちらに気づく様子はなく他のウエイトレスに案内されてボックス席に入る。

 その様子を、神無は背中で感じていた。

 目で見ずとも周囲の状況を知る。それは彼女が神雷から教わった多くのことの内の一つ。実際この技法のおかげで命拾いしたことも何度もある。

 空いたテーブルから食器を下げて厨房へと持っていく。それからフロアに戻ったところで、

 

「神無ちゃん、7番テーブル、オーダーお願い」

「あ、はい」

 

 桃子に呼び止められて次の指示を受ける。注文票を片手に目的地を見て――

 そこに見知った顔を見つけた。

 

「……お待たせいたしました。ご注文はなににしますか?」

 

 引きつりそうな笑顔を必死に取り繕って尋ねる。

 

「あれ? 神無さん?」

 

 今初めて気づいたように、すずかがこちらを見上げて呟いた。そのテーブルに着いていたのはさっきの小学生四人組だった。

 

「どうしたんですか? こんな所で」

「どうしたって……人手が足りないと言われてな……」

 

 きっと今自分は遠い目をして答えていただろう。このとき思い出していたのは、ここの店長の頼み込むときの強引なくらいの押しの強さだったのだから。

 それで引き受けてしまった自分も自分だけど。

 そこで、今の会話のなにが気になったのか、金髪のツインテールの異人の子供が身を乗り出すようにして、

 

「すずか、この人が?」

「うん。たぶん、神雷さんが言ってた人」そこでようやくこっちの視線に気づいたように「あ、神無さん、紹介しますね。こちら私の友達で、アリサちゃん、フェイトちゃん、なのはちゃんです」

 

 そうやって、すずかが自分の隣から順に紹介していく。

 だが、そんなものはほとんど右から左へと聞き流していた。

 今のすずかの言葉に、決して放置できない言葉があったのだから。

 

「すずか。今、神雷と言ったか?」

「え? 言いましたけど……」

 

 なんだか怯えたように答える。それも仕方がないか。今自分は抑えようのない苛立ちを表しているだろうから。

 

「会ったのか?」

「はい……。月曜日の夕方と火曜日のお昼に」

 

 端的に発した問いに、分かりやすい答えが返ってきた。今日が木曜だから、もう二・三日も前か。

 確かに、わたしが探しているとは直接教えていなかったが……

 自分がそのことを話したのは、忍と恭也と桃子だけだ。

 それでもこんな身近に手掛かりがあったと知れば、脱力感もひとしおだろう。

 

 だが、それ以上神無が動く前に、一人が動いた。

 

「ちょっ……! なによそれ。あたしは聞いてないわよ!」

 

 そう叫んだのは茶色に近い金の髪の異人の子供――アリサ、だったか。なにやら、憤懣やるかたないといった勢いで他の三人――主にすずかを糾弾する。

 

「あ……、ゴメンね。アリサちゃんにはあの人のことは言わない方がいいと思って」

「それは! ……うん、まぁそうだけど……」

 

 尻すぼみに語気が弱まっていく。しかし、言ってることは納得しているみたいなのに、その表情はまったく納得しているように見えない。

 

 神雷様、あなたはこの娘に何をしたんですか? どうせろくでもないことでしょうけど。たまに意味不明な行動に出る奇癖、まだ治ってないんですね。

 昔を少し思い出す。あの頃の自分は、とにかく振り回されっぱなしだった。それも決して嫌ではなかったけど。

 

 ふと、視線を感じた。

 その方向に振り向くと、さっきすずかにわたしのことを訊ねた金髪の異人の子供――フェイトがその目に不屈の色を湛えて見上げていた。

 

「あの……いくつか訊きたいことがあるんですけど……いいですか?」

 

 見れば、他の少女たちも似たようにこっちを見上げている。

 

「……いいだろう。わたしも、訊きたいことがあるしな」

 

 口元が笑みを形作るのを抑えられない。ようやく、一歩でも目的へと近づける。

 横目で時計を見てみれば、ちょうどいい頃合いだった。

 

「あと十分ほどでわたしは休憩になる。それからでもいいか?」

 

 少女たちは首を揃えて縦に振った。

 

 

 

      *   *   *

 

「待たせたか?」

 

 神無は翠屋のエプロンだけを外した服装で、トレイに全員分の注文と自分の分らしいコーヒーを乗せて来た。

 その隣には、見覚えのありすぎる人物も立っている。

 

「あれ? お姉ちゃんも?」

「うん。わたしもちょうど休憩だからね。せっかくだからご一緒しようと思って」

 

 あははと、屈託なく笑いながら座る。二人ともまたすぐに仕事に戻るからか、座った席は両端の通路沿い。お姉ちゃんはわたしの隣、神無さんはなのはちゃんの隣に。

 そしてまず口を開いたのは、神無さんだった。

 

「名乗るのが遅れたな。まぁいまさらだろうが、一応。……神無、だ」

 

 それだけを名乗り、コーヒーを一口飲む。って、自己紹介ってそれだけですか?

 隣に座るアリサちゃんも同じように感じたらしく、 

 

「……ちょっと、それだけ?」

「? それ以上、何がいる?」

 

 不思議そうに首を傾げて、神無さんは問い返す。まぁ、こっちの自己紹介も名前だけだからあまり強く出れないし、アリサちゃんもその辺分かっていてか、それ以上は言わなかった。

 それ以上の反論がないことを確認して、神無さんはもう一度カップに口をつける。

 

 その仕草に見惚れる。

 改めて見ても、綺麗な人だと思う。姉もかなり美人だとは思うが、今目の前でコーヒーを飲んでいるこの人はさらにその上。たぶん、多くの人が大人の女性として理想とする姿じゃないだろうか。

 数秒、見惚れていたがいつまでもそうはいかない。神無さんは音を立てずにカップをソーサーに置いて、

 

「それで、あなたたちは神雷様に会ったというのは本当か?」

 

 単刀直入に、思いっきり威圧感を込めた声で訊かれた。

 

「あ、はい。一昨日フェイトちゃんのお弁当を届けに学校まで来ましたよ」

「は?」

「なに、それ?」

 

 神無さんとアリサちゃん、二人の怪訝そうな視線がフェイトちゃんへと向く。

 

「えっと……前の日に一日だけ、その……成り行きで家に泊めることになっちゃって……」

 

 その成り行きがなんなのかはわたしも聞いていない。たぶん魔法関係の言いにくいことなんだろうと納得しているけど。

 

「その成り行きは、聞かない方がいいか?」

「いえ、それは……。そうですね、ちょっと言いにくいことになりますから……」

 

 やっぱり魔法が関わっているのか、申し訳なさそうに言うフェイトちゃんを見て、神無さんは仕方がないというように肩を竦める。アリサちゃんは少し納得いかない風だったが、それでも収めてくれた。

 

「そう言うなら、まぁ聞くまい。……ところで、傷の具合はどうだった? 腕や胸ならすでに治っているだろうが、なにかおかしなところとかは……」

「あ! そうだったんですよね。……でも、両腕とかの傷は大丈夫みたいでしたし、あと目の方も目隠ししてましたけど普通にしてましたよ」

 

 なのはちゃんの答えに想起されるように、両目ともを隠した彼の姿を思い出す。

 その片方、右目はアリサちゃんが潰した――というか潰させられたのを見ている。それに、あの様子なら左目はそれ以前から同じことになっていたと思う。

 両目が見えないはずなのに、ああも自然に動く。しかも手すりという一本の棒の上で。難易度にすればもう最悪とか最凶とか、そんなレベルじゃないだろうか。

 だというのに――

 

「そうか……。まぁその程度なら、なんの問題もないだろう」

「え?」

 

 本当に、なんでもないように言う神無さんを皆が呆気に取られたように見詰めた。

 その視線を受けて、

 

「心眼という言葉を知らないのか? あなたたちは」

 

 思いっきり、呆れたようにため息を吐かれた。

 

「『気』の究極は世界との同化だ。そこからすれば周囲の『気』の流れを感じるなど、初歩も同然。実際、あの方はわたしと共にあったときにすでにその程度はできていた」

 

 なんでもないことのように説明する神無さんを、全員が困ったように見詰める。信じられない、というのが全員共通の本音だろう。

 そんな内心を見透かしたかのように、

 

「信じられないか?」

 

 そう言って神無さんは指揮者のように右手を上げて――

 つられるように、なのはちゃんも左手を上げた。

 

「え? あれ、なんで?」

 

 突然の奇行に、なのはちゃん自身も心底驚いている。それもそうだろう、今上げられた神無さんの右手となのはちゃんの左手は、まったく触れていなかった。

 神無さんはその反応を楽しむように眺めて、

 

「今、わたしとあなたの『気』を同調させて動かした。『気』の扱いは熟練すればこういうことだってできる」なおも不思議がるなのはちゃんを横目に「まぁ、相当な至近距離でなければできないし、操れるのは一瞬。それに拘束力は蜘蛛の糸以下だがな」

 

 言っていることはわかるような分からないような。

 でも、それが簡単なことではないことは分かる。

 

「すごいね。そんなの初めて見たよ」

「は? この程度のこと、驚くことか?」

 

 なにを基準にそう言うのでしょう?

 

「そう……、かな?」

 

 お姉ちゃんの疑念にも、ああ、と神無さんは頷き、

 

「わたしと神雷様がいるということは、つまりここは『開かれた霊穴』だろう? ならこのくらい、珍しいことではないはずだが……」

「その言葉……」フェイトちゃんが興味深そうに「神雷さんも使ってました。ここがその……『開かれた霊穴』だから色々揃っているって。どういう意味なんですか?」
 

 その質問に神無は、意外という風に片方の眉を上げて、

 

「聞いてないのか?」

「はい。わたしは知らない方がいいって……。その理由も教えてくれませんでしたけど」

 

 どこか寂しそうに、フェイトちゃんは答えた。

 

「……そうだな。あなたたちくらいの子供には、この類の話は毒にはなっても薬にはならないだろうし」

 

 あっさりと認めた。

 

「それってどういう意味ですか?」

 

 なおもフェイトはちゃん追求する。

 けれど、神無さんの口から出た答えは、

 

「神雷様が、知らない方がいいと言ったのだろう?」

「そうですけど……」

「なら、知らない方がいいというのは本当だ。あの方は偽りを口にして逃げることは決してない」

 

 はっきりと、怖いくらいの信頼を籠めた声で答えた。それが正しいと信じて疑わない、殺人さえも正義と享受してしまいそうな、そんな印象さえ受ける。

 でも、今回ばかりは、なぜかフェイトちゃんも引くことはなかった。

 

「それでも!」バン! とテーブルに身を乗り出して「教えてください……」

 

 二人、睨み合うように静止する。それはほんの数秒のことだったが、実際よりも長く感じた。

 その終わりに、神無さんはため息を一つ吐いて、

 

「落ち着け」ポンポンと頭を叩くようにしてフェイトちゃんを座らせて「そう難しい話ではない。大地の力が流れる道を霊脈と言い、その力が溜まりやすい場所を霊穴と呼ぶ。そして『開かれた霊穴』とはその力が外側に向かって働く場所だ。そこは通常ではありえないくらいに異能や特異が集まりやすくなる」

 

 異能や特異……?

 皆が同じ疑問を持ったのか、それとなく視線を交し合う。

 夜の一族や魔法使いも、その中に入るのかな?

 ……たぶん、入るのだろう。それだけでなく、自動人形や人狼もその中に入っていそうだ。

 そんなことを考える間も説明は続く。

 

 『力』と『力』は、引き寄せあう。

 それはこの世界を構成する理の一つ。

 その片方が土地のように動かないものであれば、もう片方の人の方が寄ってくる以外にない。

 そしてその作用は一度に止まらず、重複、連鎖を起こし、最後には他では考えられないくらいの『力』が集まる。

 さらに言わせれば、この『開かれた霊穴』というのはその時々によって規模も期間も変わるらしい。小さい時は家一軒の範囲で数日、大きい時は国一つを覆って数年。

 そしてここ海鳴市は、数年前から街一つ覆われているらしい。簡単な調査らしいから確信はないらしいけど。

 

 その説明を聞いていたなのはちゃんとフェイトちゃんが、やけに納得したような顔で頷いていた。

 そして、その説明の最後に、神無さんはこう付け加えた。

 

「正直に言わせてもらうなら、だ。わたしだけでなく神雷様にも会ったというのなら、あなたたちも何らかの『力』を持つ者と疑うべきかもしれないが……実際どうかな?」

 

 ジロリ、と擬音の付きそうな視線で見渡す。ここで知っているはずの夜の一族のことを言い出さないのはわたしたちへの気遣いか。

 けれど、その視線に気圧されるように、ついつい視線がなのはちゃんとフェイトちゃんへと向く。なにせ二人は魔法使いだ。神無さんの言うことの基準がどうであれ、まず間違いなく『力』を持つ者だろう。

 そして神無さんはその視線に気づいている。探るような目で二人を見ていて、それがすごく居心地の悪い空気をかもし出している。

 その空気に耐え切れなくなったようになのはちゃんが口を開き、

 

「まぁ、あなたたちが何者であるかは問わないでおこう」絶妙のタイミングでなのはちゃんの発言を遮って「ただ、一つだけ答えろ」

 

 呆気に取られている全員を置き去りに、すうっと息を吸って、

 

 

「あなたたちは、『御巫』を知っているか?」

 

 

 聞き慣れない言葉に全員が首を傾げた。

 

「なに、それ?」

「神雷様が探しているものだ。傷を癒し、病を治し、死者の蘇生すら成す、命の法則を犯す異能。聞いた話では天女の末裔とかいうことだが……」

 

 最後の言葉は自分でも疑っているような感じで説明してくれる。

 

「死者の蘇生って……。確か、神雷さんもやってましたけど……」

「ああ。あの方も『御巫』の『力』の持ち主だからな。かつては斬り落とされた腕を一夜で繋げていたくらいだ」

 

 切り落とされた腕を一夜で繋げる。

 夜の一族でもそれくらいはできる。実際、姉も一年半前に恭也に血をもらってやっていた。

 でも、今の神無さんの言い分からすると夜の一族とは違うらしい。傷と病はともかく、死者まではどうにもできない。

 というか――

 

「あの……その人はもう、その……『御巫』とかいうのを持ってるんですよね?」

「その通りだが」

「なら、なんで探してるんですか? もう持ってるなら――」

「あの方のそれは完全ではないからだ。傷を癒すことはできる。死者の蘇生もわずかな時間なら成し遂げる。だが、所詮は他人から与えられたもの。願いを果たすにはそれでは足りないと言っていた」

「足りないって……」

 

 思い出すのは、あの日屋上で彼が言った言葉。

 

――なにを犠牲にしようとも、世界を滅ぼすことになろうとも、叶えたい願いがある

 

 その願いのために、その『御巫』というものを探している? でも――

 

「ねえ。その神雷って人の、そこまでする願いってなに?」

 

 同じ疑問を持ったらしい姉が一足早くその言葉を口にした。

 

「さて、そこまでは知らないが……」そこで一度言葉を区切って「そんなものを求める理由などただ一つ、誰か生き返らせたい者でもいるんだろう」

 

 少しだけ、苛立たしげに吐かれた神雷さんの目的を聞いて、フェイトちゃんが身を強張らせた。

 その態度をちょっと不思議に思ったが、すぐに理解した。去年やったちょっと遅めのクリスマスパーティーで教えてもらったことには、魔法や次元世界のことだけでなくフェイトちゃんの出生のこともある。それを思い出してみれば今のフェイトちゃんの動揺や緊張は、当然といえる。

 だが、それに気づいているのかいないのか――この人のことだからたぶん気づいているだろう――フェイトちゃんの態度を無視して神無さんは訊いた。

 

「で、心当たりは?」

 

 全員が首を横に振った。

 でも、神無さんはその答えに落胆も安堵も見せることもなく、ただ一言。

 

「そうか」

「……やけにあっさりしてるね。いいの? そんな感じで」

「……わたし自身、『御巫』というものを信じていないからだろう。ただ、神雷様が探しているから、わたしも探す。もし本当にそんなものがあって、わたしが先に見つけれたなら、いずれあの方もそこに辿り着くかもしれない。それで再び出会えるというのなら、探しておいて損はない」

 

 釈然としない様子で神無さんは語る。

 でも、その様子だと気づいているのだろう。今聞いたばかりの自分でも気づいてしまう、決定的な穴。

 信じていないものを、どうやって見つけるのだろうか?

 

「さて」パン、と一度手を叩いて「休憩もそろそろ終わりだ。問答はここまでにしよう」

 

 え? と、時計を見るとちょうど十五分経っていた。さっきまでの会話の最中にも気を配っていたのだろうか。 

 それを気にする様子を見せず、神無さんは続ける。

 

「最近はこの街の夜は物騒だから、子供はさっさと帰れ」

 

 そうだった。

 ここ最近の海鳴市で起きている連続リンチ殺人事件。一昨日の夜に三人目の犠牲者が出たとかで、世間からは結構注目を集めている。

 殺害方法は違っているものの、いずれも凄惨なリンチを加えられてから殺されているらしいということで、警察は同一犯と見て捜査しいているとか。

 

「そうだよねぇ。……すずかはどうする? わたしと神無はバイトが終わってからノエルに来てもらうけど」

「え……っと、じゃあわたしもお姉ちゃんたちと一緒に帰るよ」

 

 そう何度も来てもらうのも悪いし。

 

「なのはちゃんたちは?」

「あ、わたしは近くですから……」

「ダメだよ〜〜、そんなこと言って油断したら。万が一ってこともあるし、恭也に迎えに来てもらいなさい」

「あ……はい。そうします」

 

 お姉ちゃんに説得されて、なのはちゃんは携帯を取り出して、たぶん家へと連絡する。 

 フェイトちゃんも一緒に送ってもらうだろうから、残るのはあと一人。

 

「アリサちゃんは――」

 

 言いながら振り返って、隣に座っている友人の異常に気づいた。

 

「アリサちゃん、どうしたの?」

「え? あ、うん、ちょっと嫌な夢見たのを思い出して……」

「嫌な夢?」

「聞かないで。忘れたいんだから」

「あ……、ゴメンね」

「いいわよ。悪いのは全部アイツなんだから……」一度ため息を吐いて「あたしは鮫島に来てもらうわ。ちょっと寄りたいところもあるし」

 

 疲れたように言う姿は、ちょっと心配を覚える。

 その様子を確認して、神無さんは、

 

「決まったのなら早めにな。陽が落ちるまでもう時間がない」

 

 そう言って立ち上がり、さりげなくわたしたちの分の伝票を取った。

 

「あ、あの――!」

「? これか? 気にしなくていい。年寄りが奢ると言うのだから、子供は素直に甘えておけ」

 

 それだけ言い残して、神無は去っていった。

 あとに残されたのは、ありえない言葉に思考停止した五人。

 

「……年寄りって?」

 

 誰からともなく呟かれた言葉に、答えてくれる人はもういない。

 

 

 


 

 

 

 さて、今回のゲストには神無をご招待。オリジナル設定の解説役、ご苦労様でした

「構わん。すべて神雷様より教わったことだ。……それより、今回はやけに時間がかかったな」

 いや、まぁいろいろあるんだよ。文章がまとまらなかったり、私用で忙しかったり。ってか最初から遅筆と断っていたはず――

「言い訳は聞かない、さっさと書け。でなければ、わたしと神雷様の再会が遠のくばかりだ」

 いや、あんたホントそればっかりだな

「当然だ。そのためだけに、わたしはここまで生きてきたのだからな。……しかし、あの娘――フェイトといったか。なぜあの子は神雷様のことをああも知りたがる?」

 ああ、それはメインヒロインだから

「ほぅ、……そうか。それは面白い冗談だ」カチャン、ヒュッ「真面目に答えろ」

 あの……首がちくちく痛いんですけど……

「真面目に答えろ」

 いや、真面目だって。本当だって。まぁ確かに、今フェイトを動かしているのは恋とか愛じゃないけど

「……本編のわたしはまだ知らないが、あの狐を神雷様の眷属にしていたな? ひょっとしてあなたは金髪幼女が好きなのか?」

 そんなことは………………………………否定できないな、うん

「そうか……、それでは仕方がないな」(汚物を見るような目)

 うわぁ……、いやでも、第二部(五年後)とか考えるなら若い方が――

「今の時点で手一杯のくせに、なに寝ぼけたことを……」

 ぐぅ……。くそぅ、これ以上傷口を広げる前に次回予告に行こう。次回はようやく、忘れられてそうなあのキャラが再登場。そして那美の大学受験の日、彼女に迫る魔の手! 乞うご期待

「しなくていいぞ。この甲斐性なしのやることだから」

 うわっ、ヒドッ!





今回はちょっとした解説かな。
美姫 「みたいね」
次回辺りで何か起こりそうな気もするけど。
美姫 「やっぱりアリサ絡み?」
うん。あの夢の内容と寄りたい所と言ってたのがちょっと気になる。
美姫 「次回はどうなるのかしらね」
また次回で。



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