化け物。

 

 そう呼ばれて生きてきた。

 

 違うものは虐げられる。

 信じれば裏切られる。

 

 それがこの世の真理とばかりに、何度も繰り返し見てきた。

 

 そうなのかもしれない。

 他にはないものをいくつも生まれ持った自分は化け物で、違うもので、裏切られるものなのかもしれない。

 黒い翼を持ち、念じるだけで炎を生み、場所を移り、物質を呼び寄せる。

 そんな自分を、どうやって人間だと言えるのか。

 でも――

 

 何故自分にこんな翼があるのか分からなかった。

 何故自分にこんな力があるのか分からなかった。
 

 神様からの贈り物などと言うなら、その神様はずいぶんとわたしを嫌ってくれているらしい。

 なぜなら、この翼と異能の力がもたらしたものは、拒絶と畏怖の視線だけだったのだから。

 その炎が最初に燃やしたものは、母親だったのだから。

 

 

 

 

 

 

      第6話  「〜黒翼〜 HGS」

 

 

 

 

 

 

  1月13日 (金)  PM 8:14

 

 ドックン。ドックン。ドックン。

 耳の奥深く、頭蓋を打ち鳴らすように、自身の脈が響く。

 熱い。あつい。アツイ。

 心臓が一つ鼓動を打つ度、業火の如き灼熱が全身を駆け巡る。

 それだけでなく、視界は霞み、景色は揺れて、目はもはや本来の役目をまったく果たしていない。

 昼前に食べた今日唯一の食事はすでにどろどろのよく分からないものになって嘔吐しており、それでも吐き気は止まず空っぽになった胃の中身の代わりに、血と胃液がこみ上げてきて喉を灼く。

 

 いつもこうだ。あの翼を出して力を使った後は決まって、この世にいながら地獄の苦痛を味わう。

 もう何度も意識を失いかけて、その度に業火の苦痛にたたき起こされた。

 その中で、かろうじて、たった一文だけ、まともな思考が動かす。

 

 今、何時だろう?

 

 この状況で考えるのは間抜けな感じだが、こうしてまだ苦しむということはつまり、まだ日付が変わっていないということだろう。いつもなら、一度意識を失って日が変わる頃には、元の状態に戻っているのだから。

 時計を確認しようと震える腕を地面について、なんとか体を起こし――

 半分ほど体が浮いたところで、ガクンと肘が折れて、立て直す暇もなく顔から地面に突っ込んだ。

 顔全体をしたたかに打ち付け、その拍子に口の中に少しの雪と砂と嘔吐物が入る。

 

「ぐ……」

 

 しかし、一瞬で雪は溶けて、口の中には砂のじゃりじゃりした感触と嘔吐物のどろどろした感触が残った。

 

「うえ……」

 

 口の中に入った異物を吐きながら、さっきとは違う、あまりにいまさらな疑問を抱いた。

 

 ここ、どこ?

 

 普通ならアスファルトか土の地面にぶつかるはずだ。なのに砂が口に入ってきた。さらに、指を動かしてみても触れるのは雪と濡れた砂。

 少し怪訝に思いながら首だけを少し持ち上げて周囲を見渡す。

 今自分がいるのは――というか倒れているのは、ヴィータと出会った砂場だった。

 転移の瞬間、行き先を指定していなかったから、無意識にここに跳んでしまったらしい。そんなことにさえ、たった今気づいた。

 瞬間、一際強い頭痛が頭蓋を打ち鳴らす。

 

「あぎ……ッ!」

 

 歯を食いしばって耐える。その頭痛もわずか――永遠とも思える数秒で引いた。

 そのおかげと言おうか、強い痛みの後で麻痺したように、なんとか思考する余裕はできた。まだ全体の苦痛は続いているが……。

 その余裕で思い出すのは、数時間前にここで行われた赤毛の少女との会話。

 なんだか困っているような、戸惑っているような、そんな顔で友達になろうかと、言ってくれた。

 嬉しかった。……と、思う。あまりに唐突過ぎて、そのときは実感が薄かったけど。

 それから一緒に遊んだ。楽しかった。ゲームというのは初めて触れたが、なかなか楽しめた。それでも楽しかった一番の理由は、『誰かと一緒に』やったからだろうけど。

 

 だからこそ、手放すべきだった。

 思い出は優しいからこそ、美しい。

 だから、真実が黒く塗りつぶしてしまう前に去ろうとした。

 なのに――

 最後に見たヴィータの表情が脳裏に焼きついて離れない。

 理解不能の空白。

 そしてその後に来るのはきっと、畏怖と拒絶。

 だから、逃げ出した。

 いつものように、恐怖の対象となって拒絶され迫害される、そんな苦痛だけの現実を見る前に。

 

 心のどこかでは願っているのだ。

 友達が欲しい。

 家族が欲しい。

 この呪われた自分を受け入れてほしい。

 

 そう願いながら手を伸ばして、そのくせ最後はなにもかも、自分自身の手で台無しにしてしまう。

 

「は、はは……」

 

 もう笑うしかない。

 結局自分はどこまで行ってもこうなのだ。

 

 もしかしたら。

 ひょっとしたら。

 次こそは。

 

 そんな希望を持ちながら、その先にあるものを求めながら、それでもいざそこに手が届きそうになると失ってしまう。逃げ出してしまう。

 

 なんでこうも弱いのか。

 なんでこうも醜いのか。

 こんなどうしようもない自分のままで、いったいなにをしようというのか。

 

 答えなど、何一つ出ない。

 いっそここで終わってしまえば、どれほど楽になれるだろうか。

 だが、それすら叶わぬ望みだと知っている。

 

 なんでわたしが、わたしだけがこんな――

 

 そこでようやく、あすかの意識は闇に落ちた。

 

 

 

  1月13日 (金)  PM 8:27

 

 夜の海鳴市を、一台の黒塗りのリムジンが走る。

 その後部座席で、アリサは物思いに耽っていた。

 今はいつものようにヴァイオリンのお稽古からの帰り道。最近――というか、あの日からは暇さえあれば同じことを考えている気がする。

 外の景色を眺めながら考えるのは、年末にやったちょっと遅いクリスマスパーティーで教えてもらった『本当のこと』。

 

 なのはとフェイトがなにかを隠しているというのはうすうす感づいていたことだったし、クリスマスイヴの夜にも少しだけその姿を見てはいたんだけど……それでもまさか、最近友達になったはやても含めて、三人が魔法なんてものに関わっているとは思いもしなかった。

 さらにすずかまで、『夜の一族』なんていう吸血鬼だと告白したものだから、もうなにがなにやら。

 

 たぶんあの日が一生で一番驚いた日になるだろう。まだ九歳なのに、それはもう確定事項として確信していた。

 あえて断っておくが、そのことでなのはたちと疎遠になる気はない。隠していたことを話してくれたということ自体は嬉しかったし、それであの四人と友達であることをどうこうする気はない。

 でも、だ。でも自分一人だけがなんの特別な力も持たない一般人で、この先大丈夫なのかという不安はある。なにが大丈夫なのかで、なにに対して感じる不安なのかさえ自分でもよく分からないけど。

 

「はぁ……」

 

 ため息。

 もう何度も同じことを考えて、結局なんの答えも出ないまま――そもそもどんな答えを出したいのかも分からないまま、思考は突き当たりに陥る。

 そんな不毛な堂々巡りの間にも車は走り、公園を横切る。

 そういえば、もう何ヶ月も前に傷ついたアルフを見つけたのはこの場所だったっけ……。

 なんとなく、そのときのことを思い出しながら流れる景色を眺めて――

 

 デジャヴ。

 

 とっさに叫んだ。

 

「鮫島。止めて!」

 

 アリサの呼びかけに応えて車が減速する。しかし、完全に止まるのを待つのももどかしく、ドアを開けて飛び出す。

 

「アリサお嬢様?」

 

 後ろから不思議そうな声が飛んでくるが、それに答えている余裕はない。雪で滑りそうになりながらも必死で走る。

 程なくして、目当ての場所へ辿り着いた。

 

 見間違いでは、なかった。

 

 女の子が一人、雪の積もった砂場にうつ伏せで倒れていた。

 歳は自分より少し下だと思う。服装はデニムのジャケットに膝丈の半ズボン。長い髪でなければ男の子と間違えてしまうかもしれない。

 だが、今見るべきはそんなことではない。

 まるで呼吸に合わせるように少女の背で黒い翼が明滅している。それが意味するものは――

 

「この子……」

 

 ひょっとして、HGS?

 

 HGS――高機能性遺伝子障害病。

 数万、数十万人に一人の割合で存在し、非常に幼児死亡率の高い先天疾患。

 

 とは言っても、アリサ自身リアーフィンを見たのは二人、話に聞くだけならあと一人は知っているので、死亡率が高いというのはどうにもぴんとこなかった。

 けれど、今この少女は……。

 少女の体に触れた雪があっという間に白い蒸気に変わっていく。

 駆け寄って額に触れてみる。

 

「熱ッ……」

 

 その手を反射的に引っ込めてしまった。

 比喩ではなく火のように熱い。これが人間の体温かと、信じられないほどだった。

 だというのに、これだけの高熱を帯びていながら、苦しそうに荒い息を繰り返し、少女はまだ生きている。

 振り返ってみれば、鮫島はまだ公園の入り口。ここに来るまでまだ少しかかりそうだ。それを待ってから次の行動をとることにしよう。救急車を呼ぶにしても、自分みたいな子供より鮫島のような大人の方が信用されるだろうから。

 以前にここでアルフを助けた経験があるからか、やけに冷静に状況を見ている自分がいる。

 そんな自分にちょっとだけ自己嫌悪を抱く。もう少し子供らしく慌てたりできないのだろうか。

 そんなことを考えて嘆息を漏らす。が、すぐに頭を振ってその考えを追い払う。今考えるのはそんなことじゃなくて――

 もう一度、少女の方に目を向ける。よく見てみれば、全身は汗だくでびしょ濡れ。さらに自分の吐いたらしいもので顔を汚している。

 とりあえず、それを拭ってあげようとハンカチを取り出して、抱き上げ――

 

 軽っ。

 

 いくら小さい子供だからって、ここまで軽いのはありえないだろう。

 あれこれと驚くことばかりだが、それで手を止めるわけにもいかない。背中を支えながら首を俯かせるようにして、口の周りを拭ってやる。その間も少女は苦しそうに荒く呼吸を繰り返すだけだ。

 

「アリサお嬢様」

 

 ようやく、後ろから鮫島が追いついてきた。

 いつかのように、振り返りながら叫ぶように命じる。

 

「鮫島! 救急車呼んで。この子、病院に連れてかないと」

 

 

 

  1月13日 (金)  PM 8:58

 

 海鳴大学附属病院。

 ここは海鳴市で最大の総合病院であり、高町家や八神はやての行きつけの病院でもある。

 そのG病棟――遺伝子科の病棟でフィリス・矢沢は今夜、書類の整理をしていた。

 

「ふぅ……」

 

 疲れを吐き出すように息を吐いて、一度伸びをする。その拍子に窓の外の闇が目に入り、すぐに視線を戻した。

 暗闇は怖い。今ではずいぶんとマシになってきたが、昔――組織から保護され、さざなみ寮に預けられた当初は、突然停電になったくらいで能力を暴走させていた過去もあるくらいだ。

 それは幼い頃に体験したあの出来事――『実験』と称した殺し合いを思い出してしまうから。今でも鮮明に思い出せる。自分の手で殺した、自分と同じ顔をした姉妹たち。

 これはきっと、一生拭い落とせないトラウマとして、自分を苛むのだろう。

 それでもいい、――というか、それも仕方ない。

 だからこそ、自分は医者という道を選んだのだ。

 兵器として人を殺すために与えられた力で、一人でも多くの命を救う。

 それが自分を作った人たちと、自分の運命への仕返し。

 

 ――とまぁ強がってみても、そう簡単に克服できないものはあるわけで。

 やっぱり誰か付き添ってもらった方がよかったかな……。

 そう考えて、すぐさまその思考を振り払う。ただでさえ、童顔、幼児体型のせいで私服で街を歩くと中学生に間違われることもあるのだ。これで暗闇が怖いからとか言ったら、もう威厳などこれっぽっちも残らない。本当のことを話せば別だろうけど、それはそんな簡単に話せる秘密ではない。

 

「……さてと」

 

 いつまでも沈んでいるわけにもいかない。書類に手を伸ばし、続きを再開しようとして――

 救急車のサイレンが聞こえた。

 普段なら気のせいで片付けたかもしれない。ここG病棟は附属病院の中で一番玄関から遠い。結果、音も届きにくい。

 しかし今日は違う。

 雪の夜の静けさを破って聞こえたのは、しっかりと、間違いようもなく、サイレンの音だった。

 自分も行くべきかと思い腰をわずかに浮かすが、今日の当直の当番の人たちならそう心配は要らないだろう。それに、もし手が必要なら連絡してくるだろうし。

 そう暢気に考えて浮かせた腰を下ろし、魔法瓶からココアをカップに注いで、

 内線が鳴った。

 驚いてカップを取り落としそうになる。それをなんとか掴み直して机に置き、三回目のコールで取った。

 

「はい、フィリス・矢沢です」

 

 この病院に矢沢は二人いるので、フルネームで名乗る。が、受話器の向こうからそれすらもどかしいと言わんばかりに声が響く。

 

「…………えっ? あ、はい。分かりました、すぐ行きます」

 

 会話を終え、受話器を置く。

 さっきの救急車で運ばれてきた患者さんは、どうやらHGSらしい。

 そして、今日当直の先生では遺伝子科は専門外。しかしフィリスは、自分自身がHGSである関係もあって、遺伝子関係の治療も学んでいる。

 そういった流れでのヘルプの要請だった。

 

 やや駆け足気味に救急車の搬入口の方へ行く。おそらく当直の先生たちもこっちへと誘導してくれているだろう。このまま行けばすぐに鉢合わせになる。

 思ったとおりだった。角を一つ曲がったところで向こうから走ってくる一団があった。ストレッチャーを囲むように救急隊員と医師と看護婦が何人かこっちへ来る。

 その後に続いて、聖祥小の制服を着た女の子が付いてきていた。その女の子とは面識がある。高町家を通して顔見知りの少女――アリサ・バニングスだった。

 なぜ彼女が付いてくるのか分からないが、今すべきはそれを考えることじゃない。

 

「患者の容態は?」

「患者は意識不明。通報からすでに三十分ほど経過しており、途中体温が五十度近くまで上昇しています」

「! すぐにCIUに運び込んでください。それと――」

 

 付き添いで付いてきていた看護婦に、解熱系の薬品を何種類か薬品庫から取ってくるように頼む。何種類か、というのはどの薬品が効果があるのか、今の段階では判断できないからだ。体質によっては効果が薄かったり、最悪逆効果だったりする。特に、患者がHGSとなれば、その可能性は顕著なものになる。

 一通りの指示を出して、自分もまたCIUに向かおうとして――

 白衣の裾を引っ張られた。

 振り返ってみれば、不安に彩られた少女の顔が、まっすぐに見上げていた。

 

「フィリス先生……」

 

 助けられるのか、とその目は問い掛けている。

 答えなど、決まっている。

 

「大丈夫。絶対に助けて見せます」

 

 そのために、今自分はここにいる。

 そう答え、すでに少女が運び込まれたCIUへと向かった。

 

 

 何時間か経った。

 処置を終えて廊下に出ると、救急隊員の人たちはもう撤収していた。

 残っているのは少女が一人とその付き人らしい初老の男性だけ。

 その少女――アリサは、フィリスの姿を認めるなり、弾かれたように駆け寄ってくる。

 

「先生、あの子……」

「大丈夫。体温は下がりましたし、呼吸もだいぶ落ち着いてきました。もう峠は越えたようです」

 

 その報告にアリサはほうっと息を吐いて、

 

「よかったぁ……」

 

 その様子から、少女が心から心配していたと理解する。優しい子だ。たぶん、まだ名前も知らない――しかもHGSの子供をこうまで心配してあげられるのは、そう簡単なことじゃない。……さざなみ寮や高町家に関わっていると忘れそうな事実だけど。

 

「それで、いったいどういった理由であの少女は苦しんでいたのでしょうか?」

 

 初老の男性が問いかけてきた。

 

「あ、はい。それは――」

 

 あの子供の異常発熱の原因は、HGSのリアーフィンの放熱能力の不足。いったいどんな能力の使い方をしたのか分からないが、それによって体内に生まれた熱量をそのまま保持し続けてしまった結果ああなった。こうまで自虐的な副作用はフィリスの知る限りフィアッセ以来の二人目だ。

 と、そういったことを説明して、二人は納得したように頷いた。

 

 けど、そこから先、説明を躊躇う部分をどうしようかと迷う。

 人間は体温が四十二度を超えると死ぬとされている。

 それは人体を構成するタンパク質が、四十二度で変質してしまうからだ。こればっかりは人体の構造的な問題で、精神論でどうにかなるものでもない。最初に五十度と聞いたときは、正直手遅れかと思ってしまったくらいだ。

 

 でも、あの少女は生きていた。

 一応体温を測ってみたところ、最大で五十六度。人間は通常、三度も体温が上がれば耐えられないのに、それをはるかに通り越して二十度も高い。とても人間が耐えれる体温じゃない。

 

 そこまで考えて、気づく。

 そもそも、その前提から彼女は違うのかもしれない。人間の遺伝子はまだ全てが解明されているわけでもなく、HGSはその変異体。ならば、本来耐えられない温度にも耐えられるように体の構造さえ違っているのでは、と推測できる。……多少苦しい理屈だけど。

 

「フィリス先生?」

「えっ? あ、はい?」

 

 どうやら考え込んでしまったらしい。怪訝そうな顔で二人ともがこっちを見ていた。とりあえず、その居心地の悪い空気を誤魔化すように周囲を見渡して――

 見れば時計はすでに十一時を回っている。こんな小さな子供をいつまでも引き止めておける時間ではない。

 

「アリサちゃん。もう遅いですから、今日は帰った方がいいですよ。ご両親も心配するでしょうし」

「でも……」

 

 それ以上はなにも言えないまま、不安そうな顔がフィリスと少女のいる部屋の間を何度も通る。

 

 自分がいてもなにもできないことは理解している。

 でも、だからといって放り出していくのも納得できない。

 

 そんな葛藤が見て取れる。

 その様子を微笑ましく見ながら、かがみこんで目線の高さを合わせて、できるだけ安心させるように、

 

「大丈夫ですよ。この子のことは、私が責任を持って診ますから。目が覚めたら、すぐに連絡します」

「…………はい」

 

 長い逡巡の末、ようやく頷いてくれた。

 それを確認してから、付き人らしい初老の男性に視線を送る。言葉を交わさずとも、心得たというように頷いて、

 

「さあ、アリサお嬢様、帰りましょう」

 

 背を押して誘導するように連れて行く。玄関まで見送るその間もアリサは、不安そうに何度も振り返っていた。リムジンに乗り込んでからも、窓を開けて、

 

「フィリス先生。あの子、お願いします」

「はい。任せてください」

「アリサお嬢様、出しますよ」

 

 そう一声かけてから、リムジンが動き出す。

 その車が見えなくなるまで見送ってから、ポツリと呟く。

 

「いいな……」

 

 それが不謹慎だと分かっていても、少しばかりの羨望を覚えてしまう。あんなにも心配してくれる誰かがいる。それをかつての自分と比べてしまうから。

 目を閉じて、外の冷たい空気を吸い込む。そのまま数秒止まってから目を開き、

 

「さてと……」

 

 思考を切り替える。いつまでも弱音を吐いてはいられない。あの少女は今は一度安定したが、いつ容態が急変してもおかしくない。少なくとも今夜の間は付きっ切りで看病する必要があるかもしれない。

 ……今夜は眠れないかもしれませんね。

 そんなことを考えながら、院内へと戻った。




 祝、通算十話到達おめでとードンドンパフパフオーイエー(棒読み)

 

 ……なんか虚しい。

 だってねぇ、多い人は百話以上投稿していて、この作品自体も(まだ確定はしていませんが)全八章で八十話ぐらいいくんじゃね? って感じですから(さらに言うとそれが第一部で別に第二部の構想もあり)、十話くらいで騒いでもねぇ……

 

 それはそれとして、十話目にしてようやく(高町家以外で)とらハとリリカルのキャラが接触しました。せっかくそういうことができる舞台を使っているんですから、もっと積極的に絡ませるべきだと思うんですよ。ただ、参考にできる世界融合型のクロス作品が他にそう多くないので、難しいのも事実ですが。(平行世界型は多いんですけどねぇ)

 まあ、そういった弱音や泣き言はなしの方向で頑張っていきます。(ただ、何人くらいがこれを読んでくれているのかといった疑問は消せないんですが……)

 

 では、いつものように解説を。

 

・あすか視点

 

 HGSのオリキャラで、しかも孤児であることを示す部分です。

 とらハに出てくる四人、もしくは五人のHGSキャラは全員が治療中だからかそう激しい症状は見てませんが、実際これくらい苦しむんじゃないかと思います。

 というのが理由の一つとして、実はこのキャラ、最大瞬間出力ではここまでのオリキャラ中一、二を争うくらい強いです。なのでマイナス面としてこれくらいの副作用を持ってもらおうと。

 

・アリサ視点

 

 読んでもらえば分かるでしょうが、一部思いっきりなのは第一期第十話とダブってます。

 ……なんでこうなったんでしょう。割りと初期――かなり昔からこのシーンを使うと考えていたのですが、きっかけが思い出せません。

 それに対して、それと一緒に考えていたはずの今後のあすかの物語の方は見る影もなく変わってしまっています。ここでアリサを出す必要があるのかってくらいに。

 物語は生き物って言葉を痛感しています。

 

・フィリス視点

 

 言わせてもらうなら、私は最近病院を利用した覚えがないです。ついでに、ドキュメント番組とかも見ません。

 なので、深夜の急患とかどんな風に運ばれてくるかさっぱり分かりません。

 もしおかしな表現とかありえない行動とかあったらごめんなさい。

 

 本当に、経験って大事ですよね。

 





フィリス先生の登場と、アリサの登場。
美姫 「あすかも羽持ちだし、これからの展開がちょっと気になるわね」
うんうん。受け入れられないと思っているあすかだけど。
美姫 「ここからどうなっていくのかしら」
次回も気になる所。
美姫 「けれどもその前に、二桁の大台、おめでとうございます!」
ございます!
目指せ、三桁(笑)
美姫 「人の事よりも、まずは自分の事をしようね♪」
目、目が笑ってないよ……。
美姫 「それでは、また次回を待ってますね〜」



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