『死』の克服。

 それは本来、決して犯してはならない、世界の禁の一つ。

 

 世界は常に流転している。

 

 生から死へ。

 死から生へ。

 

 それでも、『死』が生者にとって絶対の終焉であり永劫の別れである以上、誰しも『死』を望みはしない。

 だから、一度でも『死』を克服しようものなら、人間は二度と『死』を受け入れなくなるだろう。

 それが悪意ある凶刃であれ、偶然の事故であれ、自然の寿命であれ――

 もう一度、もう一度と、代価の支払える限り、何度でも『死』を否定するだろう。

 

 そうして世界の流転は乱される。

 だからこそ、人間は『死』を克服してはならない。

 

 

 克服してはならない、はずだったのに……。

 

 

 

 

 

 

    第1章   「役者は集う」

 

      第1話  「〜神雷〜 一夜明けて」

 

 

 

 

 

 

  1月10日 (火)  AM 4:16

 

 高町家の朝は早い。

 

 恭也と美由希は朝の鍛錬。

 桃子は翠屋の仕込み。

 晶とレンは交代だが朝食の用意。

 以前は朝に弱かったなのはも、魔法に出会ってからは毎朝の練習がある。

 

 それでも、この時間はまだ誰もが眠りについているはずだった。

 

 そんな時間に恭也は起きて動き出していた。この時間は普段の早起きよりさらに早い。というか、気持ちが昂ぶってほとんど寝れなかっただけなのだが。

 

 部屋を出て、廊下を歩きながら昨夜のことを思い出す。 

 十年前に死んだはずの父――高町士郎が帰ってきた。

 そんなこと誰かに言えば怪訝な目で見られそうだが、本当なのだから仕方がない。

 実際に、話をしてみて確信した。その人物が間違いなく、恭也の知る高町士郎であると。

 

 恭也自身、この世の不思議にはいくつか触れている。

 HGS。夜の一族。自動人形。退魔士。妖狐。さらには異世界の魔法使い。

 だから、今回のことも、その一つだろうとわりとあっさり受け入れることができた。

 桃子や美由希も、久しぶりの、ありえない再会に対して戸惑いつつも普通に接しようとしていた。ただ、なのはだけはどう話しかければいいか分からないみたいだったが。

 

 あの後父さんは、母さんとなにか話をして(シュークリームを食べれないというのが残念そうだった)、その後で鍛錬の様子を見てもらって(触れることができないからと仕合うことはできなかったけど)、

 そうして、最後に二人だけで話があるからと、見張りについていた久遠まで遠ざけて彼の所へと行ってしまった。

 

 それで別れだというのは、なんとなく察していた。

 最初から聞かされてはいたのだ。

 そこにいることができるのは夜明けまでだと。

 それでも、少しだけ期待していたのかもしれない。

 高町士郎がまだこの世にいると。

 

 だけど、庭にいたのは白い髪の青年――神雷ただ一人だけだった。

 ……訂正。その傍には久遠が狐の姿で寝ていた。

 とりあえず、起こしていいものかと迷いながら、庭を半分ほど近づいた所で、彼の右目が開かれた。

 

「早いな……」

 

 その声は少しだけ、意外という風であった。これだけ朝早ければ当然かもしれないけど。

 というか、その朝早くから当然のように応対しているこの人はなんなのだろう。死にかけのくせに。

 しかし、そんな内面を表に出さないようにして青年に問いかける。

 

「あの……父さんは……」

「もう逝った」

 

 あっさりと答えが返ってきた。

 

「……そうですか」深呼吸を一回。それで気持ちを落ち着けてから「これ、お返しします」

 

 そう言って差し出すのは、昨夜桃子が渡されたガラスの修理費用の札束。

 

「いくら必要か分からないので、とりあえず十万抜かせてもらいましたが……」

「構わん。どうせ使うあてのない金だ」

 

 ならなんで持ってるんですか、と訊きたくなるほどあっさりと答えが返る。今の世の中、金ほど必要な物はないだろうに。

 それでも彼は震える手で、恭也の手から札束を受け取った。それをどうするか少し考えるそぶりを見せて、結局腰帯に突っ込む。

 それで彼はもう恭也に対して興味を失ったようだが、恭也の方はそうはいかない。

 

「……一つ訊いてもいいですか?」

「……答えれることならな」

「あなたは、いったい何者ですか?」

「……その疑問はどこから来る?」

 

 ギロリ、と擬音が付きそうな勢いで金色の瞳だけが振り向く。

 

「父さんの話によれば、あなたは二十年前に父さんに勝っている。でも、あなたはそんなに……」

 

 どう言ったものか。さすがに、初対面同然の相手に老けているとかいないとか言うのは失礼ではないだろうか。

 だが、彼は恭也の考えを見透かしたかのように、

 

「つまり、俺の歳が分からない、と?」

「……はい」

 

 本当はそんなことではないのだけど、それも決して間違いではない。それにその答えでこの人の正体に見当がつくなら儲けものだ。 

 そしてその問いに対する彼の答えは、

 

「悪いが、自分がいつ生まれたかなんて知らないし、歳を数えたりもしてないから正確なところは知らない。まぁ、少なくとも三十はとうに過ぎてるだろうよ」

 

 どこか投げやりな調子で神雷は答えた。

 

「そうですか……」

 

 その呟きに安堵の響きが混じっていたのは否めない。久遠のことがあるから、とんでもない年齢を言い出すのではと思っていたがどうやら杞憂らしい。でなければ三十なんて数字は使わないだろう。

 だけど、残念なところもある。今の答えでは彼の正体にさっぱり見当がつかない。

 いったいどう訊けば求める答えを聞きだせるかと恭也が思案していると、

 

「それにしても……」神雷は笑うように口元を歪め「親子揃って同じ問いとはな」

「親? ……父さんも?」

 

 考えられない話ではない。士郎もこの問いへと至る話し合いの場にいたのだから。

 それでも、不思議な気分だ。恭也にとって士郎は、目指すべき目標だ。いずれは士郎と同じように、本格的にボディガードの仕事をやるようになるかもしれない。

 その父と、意図せず同じ問いを投げ掛けたとは。

 そんなむず痒い感慨にふけっていると、不意に声がかけられた。

 

「俺からも一つ訊いていいか?」

 

 突然のことで、わずかに反応が遅れる。

 

「……なんですか?」

「もしもあの時、俺が不破士郎を殺していたら、今となにが変わっていた?」

 

 それは、昨夜の士郎の話にあった二十年前のことだろうか。

 言われて、少し考えてみる。

 

 恭也は、あの日旅に出ていることはなく、御神の宗家を襲った爆弾テロに巻き込まれて死んでいただろう。

 美由希は、遠い親戚に預けられ、御神流に関わることなく、美沙斗は死んだものとして生きていただろう。

 桃子は、士郎と出会うことはなくなり、今頃他の誰かと結ばれていたかもしれない。

 なのはにいたっては、生まれてくることさえできなかった。

 

 高町家だけでこの有様だ。

 さらにフィアッセは士郎が死んだ時の爆弾テロで死んでいただろうし、晶やレンなど、どうなっていたのか想像もつかない。

 それだけではなくもっとたくさん、何人もの人生が、今と違うものになっていたのではないだろうか。

 

 そこまで考えて恐怖すら覚える。

 遠い昔――自分が生まれる前のたった一つの分岐。

 それが今、こんなにも大きな意味を持っているなどと当時の誰が想像できただろう。

 

「その様子からすると、少しは意味があったということでいいか」

 

 実際には少しどころではないのだが、彼は恭也の様子からそう判断した。

 

「さて、そろそろ……」

 

 どうしようというのか、錆びた機械のように、軋む音さえ聞こえそうな遅々とした動きで立ち上がる。

 それからゆっくりと、太極拳を連想させる遅さで、五本の指を全部バラバラに、複雑に動かし、その間も手首、肘、肩の関節を曲げ、伸ばし、捻りと腕の動きを確かめるように動かす。

 まずは右腕、そして次に左腕。

 そして最後にぐっと両の拳を握って、こう評した。

 

「とりあえず、神経の接続に間違いはない」

 

 間違いないって……。

 それは決定的におかしいと思うのだが、どうおかしいかはっきりと指摘できない。

 

 いや、そうでもないか。もし彼が『夜の一族』だとしたら、このぐらいのこと朝飯前だろう。一年半ほど前に忍が腕を切り落とされたときは、恭也の血を使って一晩を待たず完治していたのだ。

 それだけではなく、『夜の一族』は普通の人間よりも長命だという。ならばこの二十歳前後にしか見えない若作りも、過去に久遠に関わったということも、なんとなく納得がいく。

 

 そうやって恭也が自分の中で理屈を立てて納得する間に次の動作に移っていた。

 

 片足を引きずるようにして小太刀と羽織が落ちている場所へと進む。拾い上げた小太刀を腰帯の背中側に逆さに差し、真紅の羽織がふわりと広がる。両腕はまだ不自由なはずなのに、それは自然と腕が通る。

 それから袖の中から黒い布を取り出して、頭に巻きつける。それを目元でちょっといじって調整。どうやら昨夜潰された左目を隠すためらしい。

 

 その隙だらけの、殺気もなにもない背中を見て少し複雑な気分になる。彼は背中を惜しげもなくさらし、恭也の存在をまるで気にかけてもいない。

 それは恭也を敵と見なしていないからか、それともそれでも軽くあしらえるという自信の表れか。

 両方当てはまりそうなので考えるのをやめる。他人の考えなど、自分が考えたところで分かるはずもない。

 

 そういえば――

 思い出した。この人は(本人たちの弁を信じるなら)二十年前に父を倒しているんだった。

 剣を握ったその日から、ずっと追いかけ続けてきた父の背中。

 そのさらにずっと先に、彼はいる。

 剣士として、その高みがどれほどのものなのか興味が湧いた。

 だからこそ、その言葉は必然だった。

 

「よろしければ、手合わせをしてもらえますか?」

 

 だがその求めの答えは応でも否でもなく、不審の視線。

 

「いいのか?」

 

 バチンッと弾ける音。昨晩ほどに激しくはないものの、十分脅威となる雷を纏い、

 

「神雷の二つ名は伊達じゃない。今の俺でも、お前一人殺すくらい手間ですらないぞ」

 

 隻眼が恭也を捉える。その瞳にあるのは敵意でも殺意でもなく、全てを呑み込むような虚無。

 ゾクリ、と全身が粟立つ。それだけで、まばたきどころか呼吸まで止められてしまった。

 それは一切の不純物のない、純粋な恐怖。

 蛇に睨まれた蛙の気持ちを過不足なく味わう。この場合は鬼に睨まれた人間だが。

 

 どれだけそんな時間が経っただろうか。ふっと息を吹き、肩の力が抜かれた。それに伴い彼の周囲を奔っていた雷も消える。

 

「俺は探し物があるから、しばらくこの街にいることになる。体が治った後なら剣士として相手してやる」

 

 その目にはもう、先ほどまでの虚無はない。かといって今の言葉は親切や慈悲からきたものでもない。

 それは彼にとってただの気まぐれに過ぎないと、なんとなく感づくのは難しいことではなかった。

 それから数秒、互いに視線を逸らすことをせず、言葉を発することもなく、時間が流れた。

 

 だが、その膠着も長くは続かなかった。

 

 突如、神雷は恭也に対する興味を失ったように、ふいと視線をはずし、去ろうとする、

 

「あ……あの、ちょっと!」その背中を呼止めて「久遠になにか言っていかないんですか?」

 

 そう言って視線を向けるのは、今なお眠り続けている子狐。

 他の誰もが戸惑いと不審しか抱けない中で唯一人、久遠だけは歓喜を以って彼を出迎えていた。二人の間にどんな過去があるのかまだよく分からないが、挨拶もなしに去るのは納得できない。

 だが、神雷は言う。

 

「覚悟のない奴に、重荷を背負わせる気はない」

 

 どういう意味だろう。

 そんな内心が顔に出ていたのか、彼はさらに言葉を重ねる。

 

「せっかくだから言伝を頼もうか」そのまま恭也の返事を聞く前に「次に出会ったとき、契約を果たしてもらう、と」

「……どういう意味ですか?」

「伝えれば分かる」

 

 それだけを言い残し、今度こそ、彼は現れたときの逆戻しのように、闇の中へと消えていった。

 

 

 

  1月10日 (火)  AM 5:07

 

 高町なのはは自室のベッドで憂鬱に沈んでいた。

 いつもならもう、魔法の練習に起きている時間。今日もまた、その習慣で目を覚ましてしまった。

 

 でも今日は、練習に行く気になれなかった。

 レイジングハートが手元にないからとか、監督役のユーノくんがいないからとか、そんなことではなく、

 

 もしも部屋の外に出て、『おとーさん』に会ってしまったら、どんな顔をしたらいいのか分からないから。

 

 きっとあの人は、本当におとーさんだったのだろう。おかーさんもおにーちゃんもそう言ってたから、たぶん間違いない。

 

 でも、わたしのおとーさんは、わたしが生まれる前にフィアッセさんを守って死んじゃったって聞いてた。

 今よりもっと小さい頃はおとーさんがいないことを不満に思っていたりもしたけれど――

 でも、おかーさんがいて、おにーちゃんがいて、おねーちゃんがいて、晶ちゃんもレンちゃんもいて、アリサちゃんやすずかちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、ユーノくんもクロノくんもエイミィさんも。それだけじゃなくて、他にもいっぱい――

 こんなにたくさん、わたしの周りには家族が、友達がいる。いてくれる。だから寂しいなんて思わないようにした。

 

 なのに出会ってしまった。

 

 なんの予告も兆候もなく、たった一晩だけという期限付きで。

 

 そんな風にして、死んだはずの父に会えて嬉しいかと訊かれれば――

 よく分からない、というのが正直な感想。その人が本当に『おとーさん』だとしても、自分にとっては初対面の男の人でしかなくて、親しくなってもそれは一晩の夢でしかなくて――

 だから、どんな顔をして、どんなことを話せばいいのか分からなかった。

 

 それに――

 

 フェイトちゃんは、お母さん――プレシアさんに、もう会うことができない。

 クロノくんも、十一年前の闇の書事件でお父さんを亡くしたと聞いている。

 

 そんな二人の前で、自分だけ死んだはずのおとーさんと話をするのはズルいと思った。

 

 でも――

 

 目を閉じる。

 その瞼の裏の闇に鮮明に思い出せる、視線を逸らしたときの士郎の寂しそうな微笑み。

 それが自分のせいなのだと思うと、胸が痛くなる。

 

 いつだってがんばってきた。強くなると。

 後悔しないように。

 今の自分を誇れるように。

 

 なのに――

 

 なのに今、胸に残るのは、ただ後悔と自己嫌悪のみ。

 

「ごめんなさい……」

 

 ただそれだけ、呟くことしかできない。

 

 他にどうすればいいのかなんて、分からなかった。

 

 

 

      *   *   *

 

 周囲を包む光が消え、その先にはついさっきまでとまったく違う景色が広がる。

 もう何度も体験した次元転移を繰り返し、アースラブリッジの転送ポートへと辿り着いた。

 すると、その到着に気づいたのか、艦長席に座っていたリンディが振り返った。

 

「あら。二人とも、遅かったわね」

 

 とは言っても、遅刻というほどに遅れているわけではなく、事前に連絡しておいた到着予定時刻よりいくらか遅れているだけである。

 ただ、いつもならきっちりと時間通りに動くクロノが遅れたというのが珍しいというだけだろう。それを証明するように、リンディの表情は咎めるというよりからかう雰囲気満載だ。

 

「ええ。ちょっと問題がありまして――」

「エイミィ」世間話のノリで口走りそうになった同僚を一言で止めてから「艦長、報告したいことがあります」

「どうしたの?」

 

 雰囲気で察したのだろう、からかう雰囲気から一転、戸惑う様子になる。休暇明けに出勤してきて、いきなりそう言われれば誰だってそうだろう。

 

「実は――」

 

 そこで気づいた。

 ブリッジにいるスタッフの何人かが、こちらの様子を伺っている。

 

「……とりあえず、場所を変えてもよろしいでしょうか?」

「? ええ、いいわよ」ブリッジを振り返り「皆、少しの間お願いね」

 

 まばらに返事が返ってくる。その声を背に受けながら、リンディはクロノたちの先に立って艦長室の方向へ歩き出した。

 

 その背中を追いながら考える。

 

 ブリッジにいたアースラスタッフ――に限らず、この艦の乗員のことは信用している。

 信用しているが、それでも人の口に戸は立てられない。今回の件は、最低でも方針が決まるまでは内密に進めるべきだと思う。

 噂に聞いた話だが、現在あの世界は管理局では結構注目を集めているらしい。

 当然だ。一年にも満たない期間でジュエルシードと闇の書を巡る二つの事件の中心地となり、そしてその際に高町なのはと八神はやて、二人の高位魔導士まで輩出した世界だ。注目を浴びない方がおかしい。

 

 そしてその世界に今度は、死者蘇生やひょっとすると時間移動までできる人物が現れた。

 そんな話が表に出回れば、管理局全体がどう動くか、とても想像できない。

 

 艦長室についてから、そういった考察も含め昨夜の一連の出来事を報告し終え、リンディの口からまず出た言葉は、

 

「そう……。そんなことがあったの……」頬に手を当てて「それで、フェイトさんの様子は?」

 

 やはりまずそこが気になるらしい。自分たちもそれが気になって、出発が遅れたのだし。

 

「本人は気にしていない風を装っていますが、やっぱり動揺はしてるみたいです。今朝もなんだか元気がなかったみたいですし……」

 

 エイミィが答えた。クロノ自身の印象もそんな感じだ。

 ……いや、ちょっと違うか。

 単に元気がないというより、目を離すと自分の考えに深く沈んでしまうような感じだった。その様子は、歩いててもちゃんと前が見えているかと心配になるほど危なっかしい。

 

「二人には、なにかあったらどんなときでもすぐに連絡するように言っておきました。あまり無理はしないでいてくれるといいんですけど……」

 

 正直、それでも不安はある。

 フェイトの方は余計な心配はかけまいとして連絡せずにいるかもしれないからだ。あの少女は誰かに迷惑をかけることを良しとしない節がある。こっちは迷惑なんて思っていないのに。

 だが、アルフの方は連絡してくるだろう。彼女はなによりフェイトを優先する。もしあの人がなにかしてきたら黙ってはいまい。

 それにフェイトもあれで、嘱託魔導士の資格を持つAAAランク魔導士だから自分の力で対処できるかどうかくらいは判断できるだろう。それすらできないようなら、執務官を目指すなんてまだ早い。

 その辺りは当人たちの判断を信じるとしよう。

 

 それより、今こちらが考えるべきは――

 

「今回の件、艦長は、どうすべきと判断しますか?」

 

 クロノの質問に、リンディは熟考して、

 

「……私より先に、現場に立ち会った執務官の意見から聞きたいわね」

 

 そう言ってクロノを見詰める目は、さっきまでのフェイトを心配していた優しい母親の目ではなく、時空管理局の提督であり、このL級八番艦アースラの艦長としての目。

 ならばこそ、自分も執務官として最適な答えを返そう。ごくりと唾を飲んでから発言する。

 

「僕が彼について知っているのは昨晩だけなので確定はできませんが、それに限って言えば、彼の行動は僕たちがどうこうできるものではありません」

 

 それは当然の理屈だ。

 彼のやったことは、不法侵入と死者蘇生と器物損壊、あとは決闘くらいだろうか。

 それくらいであれば、それを裁くのは現地の司法機関――警察や裁判官だ。時空管理局の出る幕ではない。

 だけど――

 

「ですが、彼のした事は魔法でも説明がつかないものもあります。もしかしたら、またなんらかのロストロギアが関係している可能性も否定できません」

 

 そう。

 死者蘇生など、どんな魔法をもってしてもできるはずがない。かの大魔導士――プレシア・テスタロッサでさえ、アルハザードなどという伝説にすがってしまったのだから。

 そうなると考えられるのはジュエルシード以上に厄介なロストロギアの存在。

 そしてそれに対処するべきは、自分たち時空管理局の人間。

 相手が管理外世界の住人なのでどれだけ干渉していいものかは分からないが、それでも警戒は最大級にするべきだと思う。

 

「そうね。話を聞いた印象だと、そう考えられるわね」

 

 トントンと指先で膝を突付きながら黙考。それから仕方がないと言わんばかりにため息を一つ吐き、

 

「当分アースラはあの世界を中心に活動して、情報収集に努めましょう。その間、その人の動向は現地の魔導士に監視を任せます」

 

 はっきりと、それを決定としてリンディは言った。

 現地の魔導士ということは、なのはやフェイトだけでなくはやてたちにも協力を要請するつもりらしい。それに反対する気はない。彼女たちの力なら役不足などということはまずないだろう。

 

「それと、二人とも。当面その人のことはなるべく、他の皆には伏せておいてちょうだい」

 

 余計な混乱を出さないように、か。それは言われるまでもない。

 

「了解しました。艦長」

 

 敬礼をして、艦長室から退出する。

 

 当面の方針は決定した。

 あとは、どんな秘密と結末が待っていようとも、最後までやり遂げるだけだ。

 

 

 


 今回から新章『役者は集う』が始まります。

 ここでは章題のとおりに、オリキャラがとらハやリリカルのキャラと関わりを持っていく過程を描いていく予定です。

 

 ……気がつけばまた一週間で書き上げてしまった。その分突貫で分かりにくい文章になっているかもしれませんが。

 前回投稿時、恭也視点の四分の一も書けてなかったからもっと遅れると思っていたのですが……不思議だ。

 

 まぁ、それは置いといて、簡単に解説を。

 

 ・恭也視点

 

 神雷に対し一番興味と警戒を持っていそうなキャラとして起用しました。

 恭也は神雷の異常な治癒力と一年半前の忍を結びつけて『夜の一族』の可能性を疑っています。(というかすでに確信しています)
 そして剣士として最高峰とも言える高みへの興味から手合わせを申し込み、しかしそれはまた後日と延期されました。この二人が再び出会うとき、どんな物語と戦闘が展開されるか、あまり期待せず待っていてください。

 

 ちなみにこの物語では、忍からは恭也と那美に、すずかからはなのはとフェイトとアリサとはやてに『夜の一族』のことを教えている設定です。

 

 ・なのは視点

 

 前話でなのはが士郎と話さなかったことに対する言い訳みたいな文章ですね。

 いや、実際投稿した後になって、なのはのキャラだったらこれはないのでは? とか思ったんです。

 『なのはは初めて会う父に戸惑いつつも興味深々で話しかけ、しかし士郎は見たことのない自分の子供に対しどう接していいか分からない』とかそういう展開の方がありそうだな、と。

 しかし修正版書くにもどう直せばいいか見当もつかず、さらに面倒くさいという理由でこっちの文章を採用。

 

 ・クロノ視点

 

 神雷の『夜の一族』ともう一つ、『未知の魔導士』の可能性を疑うキャラです。

 プレシアという死者蘇生を求める前例を知っているので、より一層その先入観を持ちやすいかと。そういう理由ではフェイトもそうですが、それはまた別の話で。

 そしてこれにより、時空管理局や八神家を動かす伏線が張れたわけです。よかったよかった。(どう動かすかさっぱり考えてないけど)

 それにしても――『魔法』。

 ああ、なんて素晴らしき言葉。どんな不思議もこの二文字だけで説明できてしまうのですから。

 

 とまあこんな感じです。

 ……解説という言葉の意味を勘違いしてるような気がするのは私の気のせい?

 

 

 あと、話をイメージしやすいようにオリキャラの外見的特長を表記しておきましょう。経歴や戦闘能力はまた後になりますが。

 

 まずはすでに登場している神雷から。

 

 身長  179cm  、体重 74kg

 外見年齢  二十歳前後(正確な年齢は不明)

 髪  ざんばらに刈られた新雪のような純白

 目  満月のような黄金

 その他  膝丈まで裾のある真紅の羽織を常に着ており、その下はシャツ、ズボン、靴まで全部黒一色。

 





この章で殆どのキャラたちが出揃うのかな。
美姫 「タイトルからするとそんな感じはするけれどね」
さてさて、管理局も何やら動き出しそうな感じだけれど。
美姫 「一体、どうなっていくのかしらね」
うーん、本当にどうなるんだろうか。
美姫 「それは次回以降ね」
だね〜。
美姫 「それじゃあ、また次回をお待ちしてます」
ではでは。



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