第三幕 森
あのカードの勝負から数ヶ月が過ぎた。ジョンソンを小屋に匿ったミニーはそこから動かなかった。そして彼をつきっきりで懸命に看病した。
その介あって彼は順調に回復した。そして傷も癒え彼はミニーに別れを告げ小屋を後にすることになった。
面白くないのはランスや他の者達である。盗賊の首領は捕まえられずミニーも彼につきっきるでポルカに出て来ないからだ。
「糞っ、忌々しい野郎だ」
ランスは吐き捨てるように言った。
ここはポルカのある町から離れた森である。そこに男達はいた。
馬は木に止めてある。そして切り株に腰を下ろし休息をとっている。
皆厚いコートを羽織っている。そして火を囲んでいる。
「ニック、さっきの話は本当だろうな」
ランスは火を見ながら向かいにいるニックに対して言った。
「ええ、本当ですよ」
ニックは棒で火をかきたてながら答えた。
「あの男を捕まえたらあっしからもお金を出しますよ。十週間分のチップをね」
「それはいいな」
彼はそれを聞いて凄みのある笑みを浮かべた。
「当分酒にも煙草にも困りそうにない」
「安いものですよ。あいつが捕まるんなら」
ニックは棒を脇に置いて言った。
「そうだな。ミニーの小屋でぬくぬくとしていたあいつが捕まるんならな」
男の一人が言った。
「そうだろう。あいつだけは絶対に生かして帰してはいけない」
ランスは一同に説き聞かすように言った。
「盗賊は縛り首、それは西部の掟だからな」
「そうだ、一人たりとも逃がしちゃいけない」
木に背をもたれさせて立っていた男が言った。
「さもないと俺達がやられる」
男達は口々に言った。
「そういうことだ。小屋にいる時は手が出せないがそこから出たら俺達のものだ」
ランスは酷薄な顔になった。
「捕まえて今までの罪を償わせてやる。この木のどれかに吊るしてやるからな」
「そうだな、早く吊るしたいものだ」
男達は口々に言った。
辺りはまだ暗い。寒く陽も差してはいない。
しかしそこに陽が差してきた。森の中も明るくなってきた。
「太陽か」
ランスは朝陽を確かめて呟いた。
「これで奴を隠す夜の闇は消え去った」
その時遠くから声がした。
「アッシュビーか」
彼は声のした方を振り向いて言った。
「おうい旦那」
アッシュビーがやって来た。
「どうした、見つかったか」
ランスは彼に対して問うた。
「今怪しい奴を見つけてな。それを伝えようと思って来たんだ」
「そうか、奴かな」
ランスはそれを聞いて言った。
「多分な。馬に乗っているし」
「そうか、よし」
ランスはニヤリ、と笑った。
「いたぞ、間違いない!」
遠くから声がした。
「どうやらアッシュビーの言う通りだったみたいだな」
ランスは自信に満ちた声で言った。
「逃がすな、追い詰めろ!」
どうやら追う方も馬に乗っているらしい。動きが速い。
「さて、と」
ランスはゆっくりと立ち上がった。
「縛り首の準備でもするか」
数人その言葉に動いた。
アッシュビーはそんな彼を黙って見ていた。
「ん、どうした俺の顔に何かついているか?」
「いや」
彼はランスに問われた。
「どうもあんたが変わったみたいな気がしてな」
「俺が!?」
ランスはそれを聞いて眉を上げた。
「ああ。あの男がポルカに来た時からな。俺の気のせいだといいんだが」
「かもな」
ランスはそれを聞いて表情を暗くさせた。
「しかし今はこうするしかない」
彼は声まで暗くさせて言った。
「銃は使うな、生け捕りにしろ!」
遠くからまた声がした。
「そうだ、生け捕りにしろ」
ランスはそれを聞いて言った。
「そうでなければ意味がない」
彼は暗い笑みを浮かべて呟いた。アッシュビーはそれを見て顔を顰めた。
「俺も行く」
彼はそう言ってその場を離れようとした。それ以上ランスのそんな顔を見たくなかったからだ。
「ああ」
ランスはそれを了承した。
「頼むぞ」
「わかった」
アッシュビーは側に繋いであった自分の馬に乗った。そしてその場を後にした。
「ミニー、今度はあんたの番だ」
ランスは遠くへ行くアッシュビーを見ながら呟いた。
「俺はカードでしてやられた。その仕返しだ」
そして葉巻を取り出した。
「やられたらやりかえせ、西部の鉄の掟だ」
そう言いながらも彼の顔は晴れなかった。
「たとえそれが天が許さなくてもな」
罪悪感に満ちた声だった。それは自分でもわかっていた。
「そしてラメレス、貴様だけは地獄に送ってやる」
彼はそこで表情をキッとさせた。
「貴様のせいでこうなったのだからな」
その時遠くから再び声がした。
「よし、追い詰めたぞ!」
ランスは周りの者に対して問うた。
「縄の方はどうなっている!?」
「もう出来てますよ」
一人が言った。見ればそうである。
「ならいい。もうすぐだな」
彼は遠くに見える木に掛けられた縄を見て言った。
「あの男が腐った果実になる時は」
「よし、もう逃げられねえぞ!」
暫くしてまたもや声がした。
「保安官」
ソノーラがやって来た。息を切らしている。
「どうやらいい話のようだな」
ランスはその様子を見て言った。
「ああ、捕まった」
「よし」
ランスはそれを聞いてニッ、と笑った。
「これであの男もおしまいだな」
「ああ」
ソノーラはそれに対して答えた。
「しかし骨が折れたよ」
「だろうな。見つかってからやけに時間がかかった」
「手強かった。まるで猟犬に追い詰められたコヨーテみたいだった」
「奴も必死だからな。そうなるだろう」
ランスはそれを聞いて言った。
「しかしな」
彼はそこで顔をソノーラから離した。
「これで奴もおあしまいだな」
その眼の向こうには縄があった。
「さあ、早く来い!」
声がした。
「来たな」
ランスはその声に再び振り返った。
「ミニー、見ておくがいい」
彼はミニーの小屋がある方へ顔を向けて呟いた。
「あんたの愛しい男はこれで最後だ」
そして葉巻を捨てた。足でその火を消す。
「今から盗賊に相応しい褒美を与えてやる!」
声は次第に近付いて来ている。
「恨むのならあの男を恨むんだな。逃げ遅れたあの男を」
やがて声の主である一団が見えてきた。皆歓声をあげ誰かを引き立てている。
その男も見えた。ジョンソンである。腕を後ろで縛られ小突かれながら引き立てられている。
「さあ歩け、もっと早くだ!」
アッシュビーが言った。ジョンソンは顔を顰めている。
「俺は約束を守った。潔く引き下がった」
あの時のカードの勝負が脳裏に甦る。
「だが今回はそれとは違う」
彼は再び呟いた。
「あの男は逃げられなかった。そして捕まった」
それはその通りであった。
「そうなればどうなるか、西部に住んでいたら嫌でもわかることだ」
一団はもうすぐそこまで来ていた。アッシュビーがこちらに走しって来た。
「俺は掟に従っているだけだ。この西部のな」
自分に言い聞かせる様に言った。
「しかし・・・・・・」
彼はここで表情を再び暗くさせた。
「何故だ、どうしても気が晴れない」
そこへアッシュビーがやって来た。
「おう、やっと連れて来たぜ」
「ああ、有り難う」
ランスはそれに対し言葉を返した。
「で、もう準備は・・・・・・ああ、もう出来ているな」
「ああ、手際良くやってくれた」
ランスは縛り首の用意をした男達を親指で指し示しながら言った。
「じゃあいいや。おっ、来たぜ」
ジョンソンが引き立てられて来た。彼はランスを睨み付けていた。
「久し振りだな」
ランスは勝ち誇った声で声をかけた。
「・・・・・・そうだな」
ジョンソンは言葉を返した。声には媚も諂いも無かった。強い声だった。
「大したものだな。この状況でそんな態度を取れるとは」
「生憎な。伊達に盗賊の頭をやっていたわけじゃない」
「うむ、盗賊だな、確かに」
ランスはその言葉に対し頷いて言った。
「だとすればわかっているな」
「・・・・・・・・・」
ジョンソンは答えなかった。
「これからどうなるか」
ランスは言った。
「覚悟は出来ている」
ジョンソンは言った。
「よし、いい度胸だ」
ランスはそれを聞いて言った。
「その度胸に免じてせめて苦しまずにしてやる。感謝しろ」
「そうだ、この人殺しが」
誰かが言った。
「それは違う」
ジョンソンはそれに対し反論した。
「俺は人は殺しちゃいない」
「嘘をつけ!」
皆それに対しいきり立った。
「俺は嘘は言わない」
ジョンソンは再び反論した。
「俺は確かに盗賊だ、だが誇りもあるんだ。その誇りにかけて嘘は言わん」
「・・・・・・そうか」
ランスはそれを落ち着いた態度で聞いていた。
「だがポルカに入ったのは店の金を盗むつもりだったのだろう」
彼は問うた。
「・・・・・・最初はそうだった」
ジョンソンは白状するように言った。
「しかし何故盗まなかったんだ!?」
ソノーラが尋ねた。
「それは・・・・・・」
ジョンソンはそれを問われ逆に口篭もった。
「ミニーを見たからか?」
そこでソノーラは再び尋ねてきた。
「それは・・・・・・」
ジョンソンは答えられなかった。だがそれは肯定であった。
「そうか」
彼はそれを見て頷いた。
「どちらにしろあんたはここでは何も盗まなかったんだな」
「ああ」
ジョンソンはそう言って頷いた。
「だがそれが何になるというんだ!?」
彼を引き立てている男達が騒ぎだした。
「ソノーラさん、だからあんたは甘いって言われるんだ!」
「そうだそうだ、盗賊は縛り首にしろ!」
「久し振りに腐った果実を見たいんだ!」
彼等は興奮していた。そして口々に叫ぶ。
「皆まあそういきり立つな」
ランスは彼等を宥めた。
「ラメレス、行くぞ」
「ああ。だが少しだけ話させてくれ」
「何をだ!?」
ランスはそれを聞いて顔を顰めた。
「まさか命乞いではないだろうな」
「そんな見苦しいことはしない」
彼はランスを見据えて言った。
「そうか。だがな、皆御前を早く絞首台に送りたくてしょうがないんだ」
見れば皆激しい憎悪の目で彼を見ている。
「そうか・・・・・・」
ジョンソンはそれを見て諦めた。しかしソノーラが言った。
「まあ待て、罪人も最後には神父様に懺悔する機会が与えられる。彼にもそれ位認めてやろう」
「しかし・・・・・・」
皆彼の提案を拒絶しようとした。だがソノーラはそんな彼等に対して言った。
「俺達は神様を信じているだろう?ならそれ位いいじゃないか」
神を持ち出したことが決定打となった。
「まあちょっとだけなら・・・・・・」
彼等は渋々ながらもそれを承諾した。
「いいかい、ランスの旦那」
彼はランスに対しても尋ねた。
「ああ、だがほんの少しだけだぞ」
彼もそれを認めた。
「そういうことだ。ラメレス、話してみろ」
ソノーラはジョンソンに顔を向けて言った。
「すまない」
ジョンソンは彼に礼を言った。
「俺はもう心残りは無い。いつかはこうなるとわかっていたからな」
彼はランスやソノーラの方に身体を向けて話しはじめた。
「だが一つだけ心残りがある」
彼は少し俯いて言った。
「ミニーのことだ」
それを聞いたランスは顔を顰めた。
「彼女のことで頼みがある。彼女には俺がどうやって死んだか絶対に教えないでくれ」
「わかった、それは約束する」
ソノーラはそれを聞いて言った。
「皆もそれは誓ってくれるな」
そして彼は仲間達の方を振り向いて言った。
「あ、ああ」
彼等は戸惑いながらもそれを了承した。
「ラメレス、この通りだ。それは安心してくれ」
そして彼はあらためてジョンソンに対して言った。
「・・・・・・有り難う」
ジョンソンは再び礼を言った。そして言葉を続けた。
「彼女は俺が無事に何処かへ旅立ったと信じているんだ。そして俺がいつかまた帰って来ると信じている。その想いだけは決して壊したくはないんだ」
彼はさらに続けた。
「だが俺は今から死ぬ。ミニーに別れを告げずにな。ミニーは俺の荒んだ生活の中で唯一つ見つけた花だった」
「・・・・・・話は終わったか」
ランスはそれを聞いて言った。
「ああ、もうこれで終わりだ」
「そうか」
そして彼はジョンソンに歩み寄った。
「行くぞ」
「わかった」
そして縄がかけられている木の下に向かった。
男達はその周りを取り囲んだ。ランスは腕を組んで見ている。ソノーラは縄の下に来たジョンソンに対して問うた。
「目隠しはいるか?」
「いや、いい」
ジョンソンはそれを断った。そして台に登ろうとする。その時だった。
「待って!」
不意に誰かの声がした。若い女の声だ。
「まさか・・・・・・」
皆その声にハッとした。思わず動きを止めた。
「ミニーだ」
誰かが言った。見ればミニーが馬に乗ってこちらにやって来る。
その手には拳銃がある。それをこちらに向けている。
「おい、どうする・・・・・・」
ニックが一同に対して問うた。彼女がここに何をしに来たか誰もわかっていた。
「どうするって・・・・・・」
どうしていいかわからなかった。咄嗟にランスが叫ぼうとした。
「いいから早く・・・・・・」
その時だった。ミニーが拳銃を撃った。
それは縄を撃った。縄は根本から落ちた。
ミニーがやって来た。馬から飛び降りまだ煙を出している拳銃を構えながらこちらに来る。
「まさかここに来るとはな」
ランスは彼女を見据えて言った。
「一体誰がこんなことを!?」
彼女はジョンソンの方に歩み寄りながら問うた。だが誰も答えようとはしない。
「法の裁きだ」
ランスは彼女から目を離さずに答えた。
「あんたが法ですって!」
彼女はそれを聞いて激昂した。
「よくもそんなことを!」
「おい、俺が保安官だと知ってそんなことを言うのか!?」
ランスはそれでも引き下がらない。ホルスターに手をかけようとする。
「抜いてごらんなさい、そうしたらあんたの心臓を撃ち抜いてやるから!」
ミニーは狙いを定めて言った。半ば叫んでいた。
「クッ・・・・・・」
これには流石にランスも動けなかった。ミニーはその間にジョンソンの前に来た。
「おい」
ランスは周りの者に顔を向けて言った。
「ミニーを何処かへ連れて行け。女一人どうだというんだ」
だが誰も動けなかった。力や数の問題ではなかった。
「やれるものならやってごらんなさい」
彼女は彼等を睨んで言った。
「あたしがどうなろうとこの人には指一本触れさせないわ」
彼女は振絞るようにして声を出した。
「さあ、最初に死にたい人は誰?」
その声を聞いて動ける者はいなかった。誰一人として動けなかった。
二人後ろから近付こうとする。だがミニーに睨まれ動けなくなった。
「やらせない」
ミニーはあくまでジョンソンを守ろうとする。それを見たソノーラが前に出て来た。
「皆、もういいじゃないか」
そして彼はミニーとジョンソンを取り囲む仲間達に対して語りかけた。
「ミニーが我々にしてくれたことを思えば。それを考えると彼を見逃すこと位何でもないじゃないか」
「・・・・・・・・・」
一同はその言葉を聞いて沈黙した。
「なあハリー、御前だってそう思うだろう?」
彼は赤い髪の男に対して語りかけた。
「御前が鉱山で怪我をして死の淵を彷徨っていた時に彼女は御前を付きっきりで看病してくれた。そして妹さんが見えた時も彼女が案内してくれたよな」
「・・・・・・ああ」
その赤い髪の男は顔を俯けながらも頷いた。
「トリン、手紙を書いた時のことは覚えているよな」
今度はくすんだ金髪の若い男に対して言った。
「御前は字はあまり読めない。そんな御前に彼女は優しく教えてくれた。だからあの手紙が書けたんだったよな」
「そうだ・・・・・・」
その男も頷いた。
「御前も、御前も」
彼は周りにいる男達に顔を向けながら言った。
「皆ミニーに恩を受けている筈だ。当然この俺もその恩を今返さなくて何時返すというんだ?」
誰も答えられなかった。ソノーラの言葉に誰もがその心を揺るがせていた。
「アッシュビー、あんたも俺と同じ意見だよな」
彼はアッシュビーに対して話を振った。
「それは・・・・・・」
「あんたはいつも言っていた。西部の男は恩は決して忘れないと。だったら今その恩を返そうじゃないか」
「しかし・・・・・・」
彼も容易には言えなかった。
「俺達は確かに荒くれ者だ。しかしそんな俺達だって人間だ。人間ならこういった時にはどうするべきかわかるだろう!?」
「・・・・・・・・・」
ソノーラの言葉は熱を帯びてくる。だが皆まだ頷けない。
「そんな荒くれ者の俺達に優しく世話になってくれたミニー、彼女の為に今動こうじゃないか」
「ソノーラ・・・・・・」
ミニーとジョンソンは彼のその真摯な言葉に心を打たれた。
「ラメレスだって人を殺しちゃいない。しかもここでは何も盗んじゃいない。だったら何も問題はないじゃないか」
「そう、だよな」
誰かがポツリ、と言った。
「ここでは何もしていないんだ、だったら問題ないじゃないか」
皆ソノーラの話に次第に賛同していった。
「しかしランスが言った、あいつは捕まえなくてはならないと」
皆ランスの方を見る。彼は一言も語ろうとはしない。
「確かに彼は正しい。しかし・・・・・・」
彼等は自らの良心に問うた。
「俺達は自分の心に逆らうことは出来ないんだ」
「そうだ、神様の御心には逆らえない」
彼等は次第にその心の奥底に宿るものに心を委ねだしていた。
「皆、そうだろう!?」
ソノーラはまた言った。
「ニック、あんたもその筈だ。あんたもミニーには色々と助けてもらってきたじゃないか」
「そ、そうだな」
ニックもその言葉に頷いた。
「今はミニーの為に俺達は動こうじゃないか」
彼はまた言った。そして再び一同を見る。
「・・・・・・そうだな」
アッシュビーが言った。
「俺はソノーラの意見に賛成する。ミニーあんたを助けるよ」
「アッシュビー・・・・・・」
それを聞いたミニーとジョンソン、そしてソノーラの顔が明るくなった。
「俺もだ」
ニックが続いた。
「ミニーにはポルカに雇ってもらってから色々と世話になったしな。あんたに雇ってもらわなかったら俺は今頃のたれ死んでいただろうからな」
「有り難う・・・・・・」
ミニーとジョンソンは彼に対し礼を言った。
「俺もだ」
また一人賛同した。
「俺も」
そしてまた一人。それは次第に拡がっていく。
遂には皆ソノーラの意見に賛同した。ランスは俯いてそれを黙認している。
「これであんたは自由だ」
ソノーラはそう言うとジョンソンに近付いた。そして手を自由にしてやった。
「ソノーラ、済まない」
ジョンソンは彼に対して礼を言った。
「いや、俺のおかげじゃない」
彼はそれに対し首を横に振った。
「ミニーのおかげだ」
彼はミニーに顔を向けて言った。
「ミニー・・・・・・」
ジョンソンはミニーに顔を向けた。
「ジョンソン・・・・・・」
彼女もミニーを見た。
「有り難う」
そして彼女を強く抱き締めた。彼女も彼を同じように抱き締める。
「これからあんた達はどうするんだい?」
ソノーラは二人に対して尋ねた。
「それは・・・・・・」
二人は口篭もったがやがて答えた。
「悪いけれどここを去るわ。そしてソレダードへ戻るわ」
「盗賊達は解散する。彼等ももうこんなことはしたくないと言っていたし」
「そうか。じゃあこれからは二人で暮らしていくんだな」
「・・・・・・ええ」
ミニーはソノーラの言葉に答えた。
「これからはずっと一緒よ」
「ミニー・・・・・・」
ジョンソンはその言葉に目頭を熱くさせた。
「じゃあこれでお別れだな」
アッシュビーがそれを聞いて言った。
「もう二度と会えないだろうね」
ニックが寂しそうに言った。
「ええ。だけど貴方達のことは一生忘れないわ」
ミニーは彼等に対して言った。
「ミニーと再会することが出来たこのカルフォルニア・・・・・・。どうして忘れられるというんだ」
ジョンソンも言った。
「もう二度と帰っては来ないんだね」
一同の中の一人が言った。
「ええ。だけど心のは永遠に残るわ」
「それならいい」
皆が言った。
「それだけで充分だ」
「・・・・・・有り難う」
二人は彼等に礼を言った。そして馬に乗った。
ジョンソンが手綱を握る。ミニーはその後ろに乗った。
「貴方達と共に過ごした時のことは永遠に」
「ソレダードにいてもそれは永遠に」
ジョンソンとミニーは彼等に対して言った。
「ああ、何時までもな」
皆それを見送った。ジョンソンは手綱を動かした。
馬がいななく。そして歩きはじめた。
「それじゃあ」
「ああ、さようなら」
そして二人は最後に皆に対して、そしてカルフォルニアに対して告げた。
「さようなら、私達のカルフォルニア!」
二人はもう振り返らなかった。そのまま遠くへ去って行く。
すぐに森の向こうへ消えた。皆それを何時までも見送っていた。
「・・・・・・これで良かったのか」
ランスはそれを遠くから見つめながら一人呟いた。
「ミニーは勝ち取ったんだ、己の幸せを」
そう言って懐から葉巻を取り出した。
「俺の負けだ。俺は結局単なる卑怯者に過ぎなかった」
うなだれて葉巻に火を点けようとする。その時横から誰かが火を差し出した。
「・・・・・・ソノーラか」
彼はその火を差し出した男を見て言葉を出した。
「あんたは卑怯者なんかじゃないよ」
彼は微笑んで言った。
「フン、よしてくれ」
ランスはその言葉に対し申し訳なさそうに言葉を返した。
「おれがあの男を捕まえようとしたのは事実だ。俺もそれはもみ消さんさ」
「だがあんたはミニーの願いを聞き入れた」
「・・・・・・・・・」
ランスはその言葉に沈黙した。
「カードもいかさまだとわかって退いた。ミニーが来た時も撃とうと思えば出来た。あんたの腕ならな」
「かもな」
彼はしらばっくれるように言った。
「しかし退いたし撃たなかった。それはあんたがミニーの心に打たれたからさ。あんたは卑怯者でも冷血漢でもない」
「・・・・・・・・・」
「それは皆よくわかっているよ」
「・・・・・・有り難う」
ランスは葉巻を吸い煙を噴き出した。それは朝の森の中に漂いすぐに消えていった。
西部の娘 完
2004・3・26
めでたし、めでたし。
美姫 「ミニー、良かったわね」
うんうん。ジョンソンが捕まった時はどうなるかと思ったけれど。
美姫 「本当に面白かったわ」
本当に。
美姫 「投稿、ありがとうございました〜」
ございました。