『ピーターラビット』
第四十一話 キツネどんのお話U
キツネどんはこの時お家でぼやいていました、それはどうしてかといいますと。
「折角の休日だというのに」
「パブに行くお友達がいないのね」
「そうなのだよ」
こう奥さんに言います。
「こんなに悪いことがあるだろうか」
「あるでしょ」
あっさりとです、奥さんはご主人に答えました。
「人間に怒られたりとか」
「マクレガーさんの畑に間違えて入ってかい」
「そうなるとかね」
「あの人はとにかく怒りん坊だからな」
「そう、だからね」
「飲みに行く友達が見付からないよりもかい」
「悪いことはあるわよ」
こうご主人に言うのでした。
「それこそ」
「そうかも知れないが」
それでもとです、キツネどんは奥さんに反論しました。お家の中のテーブルに座って右手で頭の杖にしてぼやいています。
「しかしだよ」
「飲みに行きたいのね」
「誰かとね」
是非にというのです。
「いないかな」
「誰でもいいのかしら」
「友達ならね」
「それじゃあお店に行ったらいいでしょ」
そのパブにというのです。
「今から」
「一緒に行く人がいないから言っているんだがね」
「行けばいるわよ」
そのパブにというのです。
「誰かがね」
「随分と適当だね」
キツネどんは実際にそうした口調の奥さんに言いました。
「聞く限りだと」
「けれどパブはそうした場所でしょ」
「私みたいな暇な男が言って飲む場所だというのだね」
「そう、だからよ」
まさにそうした場所だからだというのです。
「もうふらりと行ってね」
「それで相手がいればだね」
「絶対に誰かいるわよ」
「それでその人と飲めばいいか」
「ええ、そうしたらいいでしょ」
「そこまで言うのなら」
それならとです、キツネどんは奥さんの言葉に頷いてでした。
パブにまずは一人で行くことにしました、そして森のパブに入るとでした。
蛙のフィッシャーどんがいてそれで言ってきました。
「ああ、キツネどんじゃないか」
「ああ、フィッシャーどんか」
「あんたも飲みに来たのかい?」
「折角の休日だからね」
お仕事のことを一切気にしなくてお酒が飲める、そうした日だからだというのです。
「それでだよ」
「わしと同じ理由だな」
「ただ、一緒に飲みに行ける人がいなかったけれど」
「それもわしと同じだな」
「何だ、理由は全部同じだな」
「そうだな」
フィッシャーどんはキツネどんに笑顔で応えました。
「じゃあ同じ事情の者同士で」
「一緒に飲むか」
「そうしようか」
「では最初は」
何を飲むか、キツネどんは言いました。
「エールを飲もうか」
「実はわしも今来たばかりでだよ」
「飲んでいないか」
「今席に座ったばかりだよ」
まさにその時だったというのです。
「それで注文しようとしたら」
「私が来たんだね」
「そうだよ、ではお互いエールを頼んで」
「そこから飲んでいくか」
「そうしようか」
「つまみは適当に頼んで」
お酒のあてはというのです。
「飲もうか」
「そうしよう」
二匹でこうお話してでした。
エールで乾杯をしてソーセージやお魚のフライで楽しみました、キツネどんはフィッシャーどんとしこたま飲んで。
すっかり酔ってお家に戻りました、そこで奥さんにパブの中でフィッシャーどんと会って二匹で楽しく飲んだとお話しますと。
奥さんはキツネどんにこう言いました。
「そうでしょ、パブはそうしいた場所なのよ」
「行くとかい」
「誰かがいてね」
そうしてというのです。
「一緒に飲めるものよ」
「私と同じ理由で飲みたい人がだね」
「村の生きものの誰かがね」
「それでなんだね」
「そうよ、だから行ってみたらって言ったのよ」
「そういうことだね」
「ええ、じゃあいいわね」
ご主人にあらためて言いました。
「今度もこうした時はね」
「まず行ってみることが大事か」
「そうよ」
「誰かがいるのかい、しかし万が一いなかったらどうか」
「その時はその時よ」
奥さんの返事はここでもあっさりしたものでした。
「もうね」
「私だけだね」
「飲むといいのよ」
「一人で飲んでも楽しいからだね」
「実際にあなたも楽しめるでしょ」
「言われてみればそうだよ」
「お酒はそうしたものよ」
一人で飲んでも誰かと飲んでも楽しめるというのです。
「だからいいわね」
「その時はその時でかい」
「飲めばいいのよ」
「そういうものなのかな」
キツネどんはテーブルに座って紅茶を飲みます、すっかり酔っていますがミルクティーの味が身体に染み渡る感じです。
「結局は」
「難しく考えないでね」
「それでか」
「そう、飲めばいいのよ」
こう言ってでした、奥さんは晩ご飯の用意に入りました。キツネどんはその奥さんのお手伝いを申し出ましたが酔っているからと言われて断られてテーブルに戻ってまた紅茶を飲んで本も読みながら酔いを醒ましました。
キツネどんのお話U 完
2020・6・10