『ティギーおばさんのお話U』





 ティギーおばさんはこの日は洗濯のお仕事はありませんでした、ですがそれでも大忙しでした。それはどうしてかといいますと。
 おばさんは今はお米で餅をついています、日本の道具であるという臼や杵を使ってそうしているのですが。
 子供達にです、おばさんは腰を抑えつつ言いました。
「あんた達お父さん知らないかい?」
「お父さん?」
「お父さんならお外に行ったきり帰ってこないよ」 
 子供達はこうおばさんに答えました。
「さっき出て行ったけれど」
「五分位前だった?」
「お散歩に行ったのかしら」
 おばさんは子供達のお話を聞いてまずはこう思いました。
「そんなこと後にしてくれたらいいのに」
「お父さんいつも決まった時間にお散歩行くよね」
「普段はお仕事から帰った時でね」
「それで今日はお休みだけれど」
「大体今行くよね」
「こうした時は手伝って欲しいわ」
 子供達にお餅をひっくり返してもらいながら言うのでした。
「お餅つきって大変だから」
「というか何でお母さんお餅なんてついてるの?」
「パンとかジャガイモがあるのに」
 子供達はその自分達のお母さんに首を傾げさせて尋ねました。
「お餅なんてついて」
「わざわざお米まで買って」
「この前食べさせてもらった固いお餅が凄く美味しかったのよ」
 おばさんは首を傾げさせる子供達にその理由をお話しました。
「だからよ」
「それでなんだ」
「お餅をついているのね」
「そうよ、これが凄く美味しいから」
 また言うおばさんでした。
「自分でも作ってね」
「それで食べるの」
「固くなってから」
「そう、だからね」
「今作って」
「それで後で食べるのね」
「そうするわよ、けれど太ってるせいかしんどいわね」
 お餅をつくのを少し止めてです、おばさんは自分の腰を左手の前足でとんとんと叩きながら言いました。
「もう少し痩せや方がいいかしら」
「太り過ぎはよくないしね」
「やっぱりね」
「そのことも考えないとね、けれどうちの人は真面目なのはいいけえど」
 それでもとです、おばさんはまた言いました。
「こうした時は手伝ってくれてね」
「それからお散歩行って欲しいのね」
「お餅つきが終わったから」
「そうよ、お父さんだって食べるでしょうし」
「そうよね」
「お父さんも手伝わないとね」
 子供達はかわりばんこにお餅をひっくり返しながら自分達のお母さんに応えます、そうしておばさんは自分の太った身体にいささか苦労しながらお餅をついてでした。
 やっとお餅をついてです、その後で。
 おばさんはついたお餅をお家の中の乾燥している場所に置きました、そのうえで一服の紅茶を飲んでいるとです。
 そこでご主人が帰ってきました、おばさんはご主人がお家に帰るとむっとしたお顔でこう言いました。
「ちょっと、お散歩もいいけれど」
「どうしたのかな」
「お餅ついてたのに」
 そうしていたのにというのです。
「あんたがいないから苦労したわ」
「ああ、そうだったんだ」
「そうだったじゃないわよ、本当に大変だったから」
「それなら言ってくれたらよかったのに」
 ご主人の返事は気軽なものでした。
「そうしたら手伝っていたよ」
「そう言う前にお散歩に行ったでしょ」
 おばさんはとても甘いミルクティーを飲みながらご主人に言います。お茶の傍にはクッキーがあります。
「全く。いつもそうなんだから」
「いやいや、それでもね」
「それでも?」
「うん、お散歩に行った時にね」
 見ればご主人があるものを持っています、そしてそれを奥さんに出しました。それは一体何かといいますと。
「パン屋さんでチーズが安くてね」
「チーズが?」
「そう、ウォッシュチーズがね」
「ウォッシュチーズね」
 実はおばさんはウォッシュチーズが大好きなのです、他のチーズも好きですがウォッシュチーズは特になのです。
 それでおばさんは紅茶を飲むことを一旦止めてご主人に尋ねました。
「買って来てくれたのね」
「そうだよ、食べるかな」
「ええ、是非ね」
 おばさんはご主人に身を乗り出さんばかりにして答えました。
「頂くわ」
「それじゃあね、今から出すから」
 ご主人もこう言ってウォッシュチーズを出します、そのチーズを奥さんに出すとすぐにでした。
 おばさんはそのチーズをすぐに手に取って包みを開いてでした。食べはじめました。そうしてチーズを食べながらご主人に言いました。
「今回は許してあげるわね」
「いや、たまたまね」
 ご主人はまた奥さんに言います。そうしながら奥さんの隣の席に座って自分で紅茶をカップの中に淹れます。
 そして紅茶を一口飲んでです、また言うのでした。
「安かったから」
「それで買ってきただけなの」
「奥さんが好きだしね、子供達の分もあるよ」
「あの子達の分も買ってきてくれたの」
「そうだよ、家族だからね」 
 このことは当然だというのです。
「買ってきたよ」
「そうしたのね」
「僕の分も買ったしね」
「じゃあ皆で食べられるわね」
「そうだよ、後で皆でも食べようね」
「それじゃあね」
 おばさんは笑顔で応えました。
「今はもう食べるのを止めて」
「後でだね」
「皆で食べるわ」
「晩ご飯の時にでもね」
「そうしましょう」
「あとお餅だけれど」
 お父さんはそちらのお話もしました。
「ついたのは君だし」
「どうしたの?」
「まだこねてないよね」
「そのまま置いて後で切るつもりだけれど」
「ああ、切ると石みたいに硬いから」
「その硬さがいいんじゃない」
「いや、それはね」
 ご主人は自分の奥さんに答えました。
「あまりにも硬くて包丁傷めるから」
「切るのに使ったら」
「だから駄目だよ、今のうちに粉をつけて小さくこねた方がいいよ」
「それじゃあ」
「いや、奥さんがついたから」
 それでというのです。
「僕がこねるよ」
「そうしてくれるの」
「そうだよ、だから奥さんはね」
「休んでいていいのね」
「そうしていてね」
「じゃあね」
「うん、一杯飲んですぐにこねるよ」
 こう言って実際にでした、ご主人は紅茶を一杯飲んでからお餅をこねました、そうして家族皆で彫弩よい大きさで硬くなったお餅を食べて美味しい思いをしました。


ティギーおばさんのお話   完


                2019・6・2








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