『ジェレミー=フィッシャーどんのお話U』
ジェレミー=フィッシャーどんは今はピーターラビットのお父さんと一緒に釣りをしていました、ですがこの時にです。
ピーターラビットのお父さん、フィッシャーどんがご主人と呼ぶこの人はフィッシャーどんにこんなことを言いました。
「フィッシャーさん、ここで一回危ない目に遭いましたよね」
「ああ、鱒に襲われた時ですね」
フィッシャーどんもこう返します、一緒に川辺に座って釣りをしながら。
「あの時は本当に危なかったですよ」
「マクレガーさんの畑に行った時みたいに」
「あの人は相変わらずみたいですね」
マクレガーさんと聞いてです、フィッシャーどんはこう返しました。
「そうですね」
「ええ、相変わらず私達が畑に行きますと」
「犬が出て来てですね」
「ご本人も出て来て」
そうしてというのです。
「追っ払うならまだいいですが」
「捕まえようとしてきて」
「若し捕まればですよ」
その時はといいますと。
「わかりますよね」
「パイですね」
「そうなります」
「それはわし等蛙もですか」
「蛙は皮を剥がれて塩胡椒をかけて焼かれて」
そうしてというのです。
「食べられるみたいですよ」
「そうなんですか」
「アメリカじゃそうして食べるらしくて」
「最近じゃこの辺りでもですか」
「そうして食べるらしいですよ」
「それは難儀なお話ですね」
フィッシャーどんはご主人のお話を聞いて少し震えてから言いました、釣りは続けていますがお二人の針はぴくりともしません。
「出来ればです」
「勘弁して欲しいですね」
「全く以て」
「そうですよね」
「いや、こうして釣りをしていても」
「若しマクレガーさんみたいな人が来れば」
「逃げた方がいいですね」
「私もそう思います、若しもです」
ご主人はフィッシャーどんに真剣なお顔でお話します。
「こちらにマクレガーさんが来れば」
「その時はですね」
「もうすぐにですよ」
それこそというのです。
「逃げるか隠れますよ」
「そうしないと駄目ですね」
「あの人は本当に怖い人ですから」
この辺りの動物達にとってはです。
「もう動物と見ますと」
「畑を荒らす悪い奴としか思いませんね」
「そうした人ですから」
だからだというのです。
「もうですよ」
「逃げますよね」
「はい」
まさにというのです。
「それか隠れます」
「どっちかですね」
「私はまだパイになりたくないですから」
「私も塩焼きになりたくないですよ」
「お互いそうですね」
「はい、それならですよ」
若しここにマクレガーさんが来たらとです、二匹でお話しながらそのうえで今は釣りをしました。やがて二匹共それなりに釣ってです。
これでお互い今日の晩ご飯だけでなく明日のお昼の分まであるだろうという位になったのを見てでした、フィッシャーどんはご主人に言いました。
「ではもう」
「はい、いい頃合いですね」
ご主人も頷いて応えます。
「それでは」
「もうこれで」
「去りますか」
「そうしましょう」
こうお話してです、帰ろうとしましたら。
目の前にそのマクレガーさんが来ました、二匹はそれでびっくりして水辺の草陰に隠れました。ですが。
フィッシャーどんはマクレガーさんの様子を見てです、首を傾げさせつつお隣にいるご主人に言いました。
「あの、何か」
「どうしました?」
「ご主人の様子がおかしいですよ」
こう言うのでした。
「どうにも」
「と、いいますと」
「はい、何か」
マクレガーさんを見ながらご主人にお話します。
「酔っぱらっていて足がふらふらで」
「そういえば」
ご主人はフィッシャーどんのお話を聞いてマクレガーさんを見ました、すると実際にでした。
マクレガーさんは右に左にふらふらと歩いています、お顔は真っ赤で表情もいつもと全く違います。
そのマクレガーさんを見てです、フィッシャーどんはまた言いました。
「お酒かなり飲んでますね」
「そうですね」
ご主人も見て頷きます。
「あれは」
「いや、いつも怒ってる人が」
動物を見るとです。
「ああなるとは」
「驚きの光景ですね」
「全くです」
「我々には気付いてないですね」
「では通り過ぎるまで」
「このまま隠れていましょう」
二匹でお顔を合わせてこうお話してでした。
フィッシャーどんもご主人も草陰に隠れたままマクレガーさんを見ていました、すると目の前を狐どんが通ってもです。
何もしません、それどころかこんなことを言いました。
「おう、お前も飲んで楽しくなれよ」
「えっ、あの人があんなことを言うなんて」
いつも追い掛けられているご主人が驚きの声をあげました。
「まさか」
「こんなことはなかったですよね」
「いつも怒鳴って物騒なことを言う人ですよ」
畑に来る動物達にです。
「そんな人がですよ」
「あんなことを言うことは」
「まさかですよ」
フィッシャーーどんに驚きのお顔のままお話します。
「本当に」
「そうですよね」
「ですが」
それでもというのでした。
「そうであるなら」
「それならですか」
「私達はもう今は」
「はい、すぐに退散してもいいですね」
「そうですね」
こうお話してでした、そのうえで。
フィッシャーどんとご主人はすぐにそれぞれのお家に帰りました、そしてフィッシャーどんはお家で奥さんにこのマクレガーさんのことをお話しますと。
奥さんは普通にです、フィッシャーどんに言いました。
「そりゃあの人だって畑を離れてしかも飲んでいたらね」
「ああなるのかい?」
「畑はあの人の食い扶持よ」
何といってもというのです。
「守るのは当然でしょ」
「言われてみればそうか」
「あんただって虫の牧場や釣り場は大事にしてるじゃない」
「わし等の食い扶持だからね」
「それと一緒よ、それで酔っぱらって機嫌がいいならね」
そうした状態ならというのです。
「余計によ」
「そういうものか」
「そうよ、じゃあね」
あらためて言う奥さんでした。
「今日は釣ったお魚をパイと塩焼きにするから」
「そちらの料理にするのかい」
ご主人とのお話でパイや焼く、ご主人がそうお話したことを思い出して少しどうかというお顔になるフィッシャーどんでした。それでこう奥さんに言うのでした。
「何かな」
「何かあるの?」
「いや、何でもないよ」
フィッシャーどんは奥さんにこのお話をしても大したことはないだろうと思って言いませんでいた。マクレガーさんのことをあっさり言われた後だったので。
それで晩ご飯にパイと塩焼きその他のおかずやパンを食べました、お魚のお料理はとても美味しいものでした。
ジェルミー=フィッシャーどんのお話U 完
2019・4・3