『子猫達のお話』





 ミトンとモペットはお兄さんのトムが遊んでいるおもちゃを見てこんなことを言いました。
「お兄ちゃんが今遊んでるおもちゃ何かね」
「不思議なおもちゃよね」
「ステッキに糸で丸い球が付けられてて」
「ステッキの先に丸い球にある穴に突き刺す先っちょがあって」
「そのステッキの左右と持つところの付け根に球を置く場所があって」
「そこに棒を入れたり置いたりして遊ぶのよね」
 そうしたおもちゃだというのです。
「あのおもちゃ何かしら」
「一体何て名前かしら」
「私あんなおもちゃ見たことがないわ」
「私もよ」
 二匹でこうしたお話をしていました、そしてです。
 二匹で、です。こうもお話しました。
「お兄ちゃんにあのおもちゃの名前聞いてみる?」
「そうしてみる?」
「そうね、一体何て名前なのか」
「見たこともないおもちゃだし」
「お兄ちゃんに聞いてみよう」
「そうしよう」
 こうお話して実際にトムにおもちゃの名前を聞くことにしました。トムはこの時お家の中でそのおもちゃで遊んでいましたが。
 妹達に聞かれてです、トムはこう答えました。
「これはけん玉だよ」
「けん玉?」
「けん玉っていうの」
「うん、日本のおもちゃでね」
「あの海の向こうの国ね」
「広い大陸の東の先にある」
「そう、その国のおもちゃなんだ」
 こう二匹にお話するのでした。
「面白いおもちゃだよ」
「何か難しそうね」
「穴を先に入れたり置く場所に置いたり」
「そうして必死にやってるけれど」
「お兄ちゃんも中々上手にいてないし」
「そうなんだ、これがとても難しくてね」
 トム自身上手にいっていないことを認めます、嫌々ながらも。
「中々ね」
「幾らやっても」
「上手にいってないの」
「何か凄く上手な人がいるらしいけれどね」
 こうも言ったトムでした。
「この森には」
「そうなの?」
「凄い上手な人がいるの」
「そうなの」
「この森に」
「誰かまでは僕も知らないけれど」
 それでもというのです。
「凄い人みたいだよ」
「けん玉の名人なの」
「そうした人なのね」
「うん、僕はまだはじめたばかりで」
 やっても殆ど入れることはおろか置くことも出来ません。
「難しいって思ってるよ」
「その凄く上手な人って誰かしら」
「つまりけん玉名人ね」
「名人さんが何処の誰なのか」
「凄く気になるわね」
「この森の誰かなのは間違いないから」
 それはと言うトムでした。
「よかったら探してみたら?」
「そうね。それじゃあ」
「探してみるわね」
 妹達はお兄さんに答えました、そしてです。
 早速二匹でお家を出てそのけん玉名人は誰なのか探すことにしました、ミトンはここでモペットにこんなことを言いました。
「ねえ、名人っていうからにはね」
「どうしたの?」
「多分ね」
 こう前置きしてお話するのでした。
「大人の人よ」
「大人の人なの」
「だって名人っていうからにはね」
「かなりやり込んでいて」
「私達やお兄ちゃんよりもずっとね」
 子供である自分達よりもというのです。
「やり込んでいてね」
「そうして名人になったから」
「だからね」
「その名人さんはなのね」
「大人よ」
 このことは間違いないというのです。
「そうだと思うわ」
「じゃあ大人の人達に聞いていくのね」
「そうすればわかると思うわ」
 けん玉名人が誰かということをです。
「そうしていきましょう」
「それじゃあ」
 モペットはミトンの言葉に頷きました、そして二匹で森の中の大人の生きもの達に聞いていきました。
 ですが殆どの人がけん玉を知っていてもこう言うのでした。
「ちょっとね」
「僕もけん玉は知ってるけれど」
「それでもね」
「あれはとても難しいからね」
「名人なんてとても」
「いってないよ」
 とてもというのです。
「穴に入れることはおろか」
「左右や後ろに置くこともね」
「まず出来ないよ」
「あんな難しいおもちゃはないよ」
「ちょっと間違えたら球が頭に当たるしね」
 こうしたことを言う人もいました、けん玉を知っていてもそれを得意な人は誰もいませんでした。
 特に狐どんは二匹にこんなことを言いました。
「あれだけ難しい遊びはないよ」
「お兄ちゃんも難しいって言ってますけれど」
「そこまでなんですか」
「そうだよ、僕も子供の頃は結構したけれど」
 それでもというのです。
「穴に入れたことも置いたことも一度もね」
「ないんですか」
「そうなんですか」
「そうなんだ。あれの名人ね」
 そう言われるとでした。
「誰かな、この森にいるとは僕も聞いたけれど」
「狐さんもご存知ないですか」
「そうなんですか」
「ちょっとね」
 実際にというのです。
「知らないよ」
「そうですか」
「どなかたかご存知ないですか」
「君達もけん玉をするのかな」
 狐どんは二匹にこう聞いてきました。
「そうするのかな」
「ううん、そうしたことは」
「特に」
 別にと答えた二匹でした。
「ないです」
「別に」
「そうなんだ、しようと思えばね」
 その時はというのです。
「相当苦労をしてやっとね」
「出来る」
「そんなものですか」
「左右のどっちかに置くことがね」
 けん玉で一番簡単と言われているそれがというのです。
「ようやくだよ」
「そんなに難しいんですか」
「けん玉って」
「いや、あんな難しい遊びはないよ」
 またこう言った狐どんでした。
「君達のお兄さんっていうとトム君だね」
「はい、そうです」
「今けん玉に夢中なんです」
「苦労すると言っておくよ」
 けん玉を上手にしようと思えばというのです。
「そのことは言っておくよ」
「そうした遊びなんですね」
「とても難しい遊びなんですね」
「それで名人はどなたか」
「狐さもご存知ないですか」
「うん、ただ日本なら」
 けん玉を生み出したこの国ならとです、狐どんは二匹にこんなこともお話したのでした。今度は上機嫌で。
「揚げは素晴らしいね」
「お豆腐を揚げたお料理ですね」
「フライとは違った感じに」
「あれは最高に美味しいよ」
 揚げについてはにこにことしてお話する狐どんでした。
「本当にね」
「それで、ですか」
「狐さんは揚げが大好きなんですか」
「あれを好きなだけ食べられるなら」
 それこそ狐どんです。
「日本に永住したいね」
「そこまで揚げがお好きですか」
「日本に住みたい位に」
「あの美味しさ、日本の人達はよくあんなものを考えついたよ」
 こうまで言う狐どんでした。
「それで今夜もね」
「その揚げを召し上がられるんですね」
「そうされるんですね」
「そうするよ、楽しみだよ」
 最後は揚げのことをお話した狐どんでした、そしてです。
 二匹はけん玉名人をさらに探しました、ですがそれでもけん玉名人は見付からず夕方になってしまいました。
 夕方になるとです、ミトンもモペットもお互いにお話をしました。
「もう夕方だから」
「お家に帰りましょう」
「暗くなるまでに帰らないと」
「子供はね」
 二匹がいつもお母さんに言われていることです、二匹はとてもいい娘達なのでお母さんに言われたこともしっかりと守っているのです。
「だから帰りましょう」
「お家にね」
「そしてね」
「晩御飯を食べましょう」
 こうお話をしてです、そのうえで。
 二匹はお家に帰りました、そしてトムにけん玉名人のことをお話しました。するとトムは二匹にこう言いました。
「見付からなかったんだ」
「ええ、そうなの」
「ちょっとね」
「狐さんはあんな難しいものないって仰ってたし」
「お兄ちゃんも苦労するってね」
「他の人達もけん玉は知っていても」
「難しいって言ってたから」
「そうなんだ、じゃあ誰なのかな」
 トムはそのお話を聞いて思うのでした。
「森のけん玉名人って」
「明日また探すわ」
「そうしてみるわ」
 二匹は諦めずにトムに言いました。
「だからね」
「絶対に見付けるから」
「じゃあね」
 それならとです、トムも妹達に言いました。
「明日からは僕もね」
「一緒に来てくれるの」
「けん玉名人探しに」
「うん、僕が言いだしたからね」
 だからだというのです。
「一緒に行くよ」
「そうしてくれるの」
「お兄ちゃんも」
「二匹で探すより三匹で探した方が見付かりやすいよね」
 こうした考えもあってです。
「だからね」
「うん、行こうね」
「三匹でね」
 妹達もこうお兄さんに答えます、こうして明日からは三匹で森のけん玉名人を探すことになりました。
 そうしたことをお話しているとです、お父さんがお家に帰ってきました。
「只今」
「お帰りなさい」
 まずはお母さんがお父さんに挨拶をしました。
「今から御飯作るわね」
「うん、待ってるよ。それまでの間は」
 御飯が出来るまではというのです。
「お茶でも飲もうなら」
「あっ、じゃあ今からお茶淹れるわ」
「そうするわ」
 ミトンとモペットがお父さんにすぐに言ってきました。
「紅茶でいいわよね」
「ミルクティーで」
「勿論だよ、お茶といえばね」
 それこそと言うお父さんでした。
「第一はね」
「ミルクティーよね」
「お父さんの場合は」
「イギリスだからね」
 だからだというのです。
「勿論お茶はね」
「ミルクティーで」
「そちらね」
「それを飲ませてもらうよ」
 こうしたお話をしてでした、そのうえで。
 お父さんは二匹が淹れてくれたそのお茶を飲もうとテーブルに向かってそこに座ろうとしました。ですがここで。
 ふとです、そこでテーブルの上にトムがさっきまで遊んでいたけん玉を見てこんなことを言いました。
「おや、けん玉かい」
「お父さんもけん玉知ってるの」
「そうなの」
「子供の時はよく遊んだよ」
「そうだったの」
「お父さんもけん玉で遊んでたの」
「そうだよ、こうしてね」
 そのけん玉を取って言うのでした。
「遊ぶんだ」
「あっ」
 見ればです、お父さんはけん玉を手に取って遊びはじめるとです。 
 まさに縦横自在にです、けん玉の球を左右そして後ろに置いて先にも入れます。それは一度も外れません。
 ただ立ってやるだけでなくです、座っても寝ても逆立ちしてもです。どんな姿勢になってもです。
 一度も外さず思ったところに置いて入れてみせます、トムも二匹もそんなお父さんを見てびっくりしました。
 そしてです、トムが妹達に言いました。
「けん玉名人ってね」
「そうね、お父さんね」
「お父さんのことだったのね」
「想像もしなかったけれど」
 それでもというのです。
「けん玉名人はお父さんだったの」
「意外だわ」
「本当にね」 
 実際にとです、ミトンもモペットも言います。
「お父さんがけん玉名人なんて」
「まさかね」
「けれど凄いわね」
「そうね」
 今度は背中に手を置いてけん玉をするお父さんですがそうしても一度も外すことはありません。
「まさにけん玉名人」
「凄いわ」
「昔に比べて動きが遅いかな」
 けれどお父さんはこう言うのでした。
「随分していなかったし」
「えっ、そう言うの?」
「そこで」
「遅いって」
 子供達は三匹共お父さんの今の言葉にびっくりしました。
「一度も外さないのに」
「絶対に置いて入れてるのに」
「それでもなんだ」
「昔はこれの倍の速さで出来たんだ」
 そうだったというのです。
「それがだからね」
「凄いわね、お父さん」
「そうよね」
 とてもと言う二匹でした。
「こんなに上手なのに」
「まだ遅いって」
「昔はどんなのだったか」
「一体」
「今も名人だけれど」
「昔はもっとなのね」
「まあ随分遊んだからね」
 お父さんはけん玉を続けつつこうも言いました。
「だからね」
「これ位は出来る」
「そうなるの?」
「いつもやってるとね」
 絶対にというのです。
「出来る様になるよ」
「狐さんはとても難しいって仰ってたけれど」
「それでもなの」
「毎日時間をかけてやってるとね」
 他のことと同じくというのです。
「絶対に出来る様になるからね」
「お父さんみたいに」
「そうなれるの」
「お父さんも最初は全然出来なかったよ」
 そうだったというのです。
「普通に立ってやってもね」
「置くことも入れることも」
「全然出来なかったの」
「そうだよ、一度もね」
 それこそというのです。
「けれどそれがだから」
「出来る様になるから」
「名人になれるの」
「じゃあ僕もかな」
 トムも言いました。
「名人になれるのかな」
「ずっと時間をかけてやっていればね」
 そうなるとです、お父さんはトムに答えました。
「絶対にね」
「それじゃあ」
 トムはお父さんの言葉に笑顔で頷きました、そしてミトンとモペットも彼女達でお話をしました。
「けん玉名人も見付かったし」
「お父さんがそうでね」
「よかったわね」
「その人も見付かって」
「今日も楽しい一日だったわ」
「本当にね」
「さて、もうすぐ御飯かな」
 こうも言ったお父さんでした。
「じゃあ皆いいかな」
「うん、今からだね」
「御飯ね」
「その用意ね」
「それをしてね」
 そのうえでというのです。
「皆で御飯を食べよう」
「今日の晩御飯は何かしら」
「楽しみよね」
 ミトンとモペットは二匹でこうお話をしました。
「お母さんのお料理ってとても美味しいから」
「楽しみよ」
「じゃあ今から皆で用意を手伝おう」 
 お父さんはもうけん玉を置いています、そのうえで子供達に言います。
「そうした方が早く食べられるからね」
「そうだね、じゃあ皆でお皿やお料理を出そうね」
「そうしましょう」
「今からね」
 子供達皆で応えます、そうして家族皆で晩御飯の用意をしてそのうえで美味しく食べるのでした。楽しい一日の終わりに。


ピーターラビット第二十六話   完


                2017・8・24



灯台下暗しだな。
美姫 「本当よね」
まさか探し人がお父さんとは。
美姫 「でも、楽しそうで何よりね」
だな。今回も楽しませてもらいました。
美姫 「投稿ありがとうございました」



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