『ティギーおばさんのお話』





 ティギーおばさんは誰もが知っている通り針鼠です、ですからその身体中の針の毛を使って刺繍をしたりもしています。ただ本職は洗濯屋さんです。
 ですが最近です、おばさんは刺繍の依頼の方が多くてです、頼みに来たリビーおばさんにこんなことを言いました。
「最近皆私に刺繍の依頼ばかりしてくるわね」
「あら、そうなの」
「ええ、洗濯よりもね」
 本職のそちらよりもというのです。
「どうしてかしら」
「たまたまじゃないかしら」
 リビーおばさんはこうティギーおばさんに返しました。
「それはね」
「たまたまかしら」
「というか洗濯の依頼は減っているかしら」
「そう言われると」 
 ティギーおばさんはリビーおばさんの言葉を聞いてです。
 最近の洗濯の依頼を思い出してです、こう答えました。
「特にね」
「減っていないわね」
「ええ、別にね」
 そうだというのです。
「そっちは相変わらずよ」
「そう、つまりね」
「洗濯はそのままで」
「刺繍の依頼が増えたのよ」 
 リビーおばさんはティギーおばさんにお話しました。
「そうなったのよ」
「そういうことね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「そう感じたのよ」
「刺繍の方が多いって」
「そう、それで刺繍が多いということは」
 リビーおばさんはこのことからもティギーおばさんに言いました。
「針の数には注意してね」
「私の毛の針のことね」
「そう、あまり使い過ぎると針も減るでしょ」
「まあそれはね」
 ティギーおばさんも否定しません。
「減っていくわね」
「そうでしょ、だからね」
「毛は生えかわったりするけれど」
「あまり急に抜くとね」
 それこそというのです。
「やっぱり減るから」
「それでなのね」
「貴女も注意してね」
「そうね、毛はまた生えるけれど」
 鼠や猫といった森の生きもの達はそうなのです、毛はすぐに一杯生えてきます。ですがあまりにもすぐに抜き過ぎるとです。
「生えるまでの間はね」
「毛が少なくなってね」
「寒くなるから」
「だから気をつけろってことね」
「服を着ていても寒い時があるでしょ」
「ええ、やっぱりね」
「そうした時に困るから」
 それでというのです。
「貴女も注意してね」
「わかったわ、そうするわね。ただ」
「毛は使うわね」
「どうしてもね」
 このことはどうしようもないとです、ティギーおばさんは言います。
「お仕事があったらね」
「というかお仕事があれば」
「そう、絶対にね」
「毛は使うわね」
「だからどうしようもないわよ」
 毛を使うことはというのです。
「そこはね」
「それでも大事にしないと」
「毛はなくなる」
「そう、注意してね」
「そうね、ちょっと考えてみるわね」
「わかったわ」
 ティギーおばさんはお友達の言葉に頷きました、ですが。
 やっぱり毛は使ってしまいます、お仕事があれば。
 ですがティギーおばさんもリビーおばさんの言葉には聞くところがありました、それでどうしたものかと考えていました。
 それで、です。ご主人に相談してみました。
「刺繍のお仕事をしてたら毛が減るけれど」
「その毛をどうするか」
「ええ、どうしたものかしら」
「そのことだね」
「何かいい考えない?」 
 食後のお茶を楽しみながらです、一緒にお茶を飲んでいるご主人に相談しました。
「それで」
「ううん、僕の毛を貸そうか」
「いいわよ、人の毛を借りることは好きじゃないから」
「だからいいんだ」
「それはね、折角の申し出だけれど」
「じゃあ」
「他に考えないの?」
「そう言われると」
 難しい顔で返したご主人でした。
「困るね、僕も」
「どうしたものかしらね」
「とりあえず毛は大事に」
「大事になの」
「そう、一本一本大事に使う」
「そうすればね」
 それこそというのです。
「どうかな」
「大事にっていうけれど」
「それでもだね」
「使うものは使うわよ」
「そうだよね、お仕事があれば」
「それは仕方ないわよ」
「ううん、使うものは使う」
「また生えるにしても」
「困ったね、それは」
「ええ、本当にね」
 夫婦でお話してもです、それでもでした。
 答えは出ませんでした、ティギーおばさんはそれでこの日は子供達を寝かした後はご主人と一緒に寝ました。
 その次の日朝御飯を食べてからご主人をお仕事に子供達を学校に送り出してからお部屋のお掃除をしましたが。
 ここで、です。ティギーおばさんはあることに気付きました。
「抜け毛多いわね、私の毛もね」
 お掃除をすればご主人の毛も子供達の毛も多いです、こうしたことは毛の質や色や匂いでわかります。 
 それで、です。その毛をお掃除しているうちにでした。
 ふとです、ティギーおばさんは思いついてでした。 
 そのうえで、です。その毛を集めてです。一旦洗ってから刺繍に使うのでした。
 そのお話を聞いてです、リビーおばさんはお仕事の依頼をしにティギーおばさん本人にこう言ったのでした。
「お掃除して集めた針もなの」
「そう、使ってみているの」
「そうしたのね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「今はかえってストックが出来たわ」
「抜け毛ってね」
「そう、多いでしょ」
「かなり抜けるわ」
 リビーおばさんは自分の前足を見ました、この前のブラッシングでも相当な毛が出ました。
「少しでね」
「そうでしょ、それは私もでね」
「それでなのね」
「抜けた毛を集めて使うことにしたの」
「それならいいわね」
「そうでしょ、しかもちゃんと洗ってから使ってるから」
 そうしているからというのです。
「奇麗よ」
「それじゃあ」
「思う存分使えるわ」
「そこまで考えて使うのは流石ね」
「それじゃあ今から依頼受けるわ」
「ええ、今日はこの服が破れたから」
 リビーおばさんは自分の白い夏服を出しました。
「お願いするわね」
「すぐに縫うわね」
「それじゃあね」
 こうしてでした、ティギーおばさんはその服を受け取ってそうしてすぐに用意している針を使って刺繍をするのでした。針は一杯あるのでもう心配はいりませんでした。


ティギーおばさんのお話   完


                       2016・4・9



まさか自分の毛を使っているとは。
美姫 「確かにそれなら限界があるわね」
まあ、その辺りの問題も解決したみたいだけれど。
美姫 「良かったわね」
今回も投稿ありがとうございます。
美姫 「ありがとうございました」



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