『ティギーおばさんのお話』





 ピーターラビットはです、ある日お父さんとお母さんに言いました。
「上着がもう」
「ああ、破れてな」
「もう古くなってるわね」
「この上着もう駄目かな」
 自分のその青い上着を見せての言葉です。
「長い間着ているし」
「そうね」
 お母さんがピーターの言葉に応えます。
「その上着もね」
「新しい上着欲しいよ」
 ピーターはお母さんにあらためて言いました。
「もうね、色は同じ色でね」
「青い上着ね」
「そうしたいけれど駄目かな」
「それじゃあティギーおばさんのところに行って来なさい」
 お母さんはピーターにこう言いました。
「今からね」
「あの人のところにだね」
「うん、行って来て」
 こう言うのでした。
「そして服をね」
「仕立ててもらって」
「新しい服にしてもらいなさい」
「それじゃあこの服と同じじゃないの?」
「生地は同じだけれどね」
 それでもというのです。
「服は新しいものになるのよ」
「そうなんだ」
「それかもうその生地でも駄目なら」
 その時はといいますと。
「ティギーさんに新しい服を作ってもらうわ」
「そうしてもらうんだね」
「そうね、私も一緒に行くわ」
 お母さんはここで考えを変えました。
「貴方と一緒にね」
「それじゃあ」
「そう、今からね」
「今からなんだ」
「そうしてね」 
 それでというのです。
「あの人とお話するから」
「それじゃあだね」
 ここでお父さんも言って来ました。
「僕はお留守番だね」
「お願い出来る?」
「任せてくれよ」
 お父さんはお母さんに笑顔で答えました。
「あの娘達を寝かして僕はね」
「どうするの?あなたは」
「まあ紅茶でも飲みながらね」
 そうしながらというのです。
「お留守番の時を楽しんでおくよ」
「そうするのね」
「外には出ないから」
 お父さんはこのことも約束しました。
「安心してね」
「ええ、最近どうもね」
「うん、マクレガーさんがね」
 人間の農家のあの人がです。
「機嫌が悪いから」
「この辺りをお散歩していてね」
「僕達を捕まえようとしてくるから」
「捕まったら大変よ」
 それこそです。
「私達なら肉のパイにされるわ」
「あの人何でも食べるからね」
「そう、兎でも鳥でもね」
「だからね」
「私達も裏道を通って行くから」
 マクレガーさんが知らないその道をというのです。
「用心してね」
「そうしないとね」
「本当に肉のパイになるわ」
 マクレガーさんに捕まってです。
「気をつけておくわ」
「そういうことでね」
 夫婦でこうしたお話をしてでした。
 お母さんはピーターを連れてお家を出ました、木の下に掘った深くて長い穴のお家の玄関からお顔を出してです。
 きょろきょろと周りを見回してからです、ピーターに言いました。
「大丈夫よ」
「マクレガーさんいないんだね」
「ええ、いないわ」
 そうだというのです。
「狐も蛇もね」
「烏も?」
「ええ、いないわ」
 怖い鳥もというのです。
「大丈夫よ」
「そうなんだ、それじゃあ」
「行きましょう」
 こうピーターに言うのでした。
「裏道を通ってね」
「マクレガーさんの知らない道をだね」
「あの人ここ暫くこの辺りをお散歩するから」
「何でかな」
「何でかって?」
「いや、ちょっとね」
「ちょっとよね」
「うん、少しね」
 こう言うのでした。
「あの人奥さんと喧嘩して」
「それで最近機嫌が悪いんだ」
「そうなの、それであの人のストレス解消の方法がね」
「お散歩でなんだ」
「この辺りも歩いているのよ」
「お家の近くを歩いていればいいのに」
 ピーターはしみじみとして言いました。
「そうしないんだね」
「あの人の気分次第だから」
 何処を歩くかということはというのです。
「だから私達が言ってもね」
「仕方ないんだ」
「諦めるしかないわ」
 そうしたことはというのです。
「もうね」
「そうなんだね」
「じゃあ行きましょう」
 お母さんはピーターにあらためて言いました。
「これからね」
「うん、それじゃあね」
 ピーターも応えてです、そのうえで。
 親子で裏道を通ってでした、ティギーおばさんのお家まで行きました。そしてそのお家まで来てなのでした。
 お母さんはピーターのその上着を針鼠であるおばさんにお見せしてです、そのうえでおばさんに対して尋ねました。
「どうかしら」
「ああ、この服はね」
 おばさんは丸眼鏡をかけてその服を見ながら答えました。
「もうね」
「駄目なのね」
「仕立てなおしてもね」
 そうしてもというのです。
「着られないよ」
「そうなのね」
「ええ、だからもうこの服はね」
「どうすればいいかしら」
「服としては使えないわ」
 つまり着られないというのです。
「とてもね」
「じゃあ新しい上着を」
「色は何がいいんだい?」
 おばさんは今度はピーターに尋ねました。
「それで」
「うん、青だよ」
 その色にするというのです。
「その色にしてね」
「わかったよ、青の上着だね」
「あるの?」
「これでどうだい?」
 おばさんはピーターに応えてです、そうして。
 一着の青い上着を出してきました、おばさんはその上着を見せながら言うのでした。
「丁渡いい具合に一着作ったんだよ」
「そうだったんだ」
「そう、この服でどうだい?」
「いいデザインだね」
 ピーターはその上着を見て言うのでした。
「しかも新しいし」
「気に入ったみたいだね」
「うん、凄くいい服だよ」
 ピーターはおばさんに上機嫌で答えました。
「とてもね」
「よし、気に入ってくれたんならね」
「お母さん、この服にしていい?」
 ピーターはお母さんにも尋ねました。
「そうして」
「いいわよ、貴方が気に入ったのならね」
「それじゃあね」
「ええ、ただね」
 服は決まりました、ですが。
 お母さんは難しいお顔になってです、おばさんにこう言うのでした。
「ただね」
「元の上着だね」
「どうしたものかしら」
「もう着られないよ」
 おばさんはお母さんにこのことをはっきりと答えました。
「破れてるだけじゃなくてね」
「もう古くて」
「随分着たんだね、本当に」
「そういえばね」
 言われてみればです、お母さんにしてみても思うのでした。
「この子この上着相当着ていたわ」
「そうだろうね」
「だからなのね」
「もうね」
 それこそというのです。
「着られないよ」
「そうなのね」
「捨てるかい?」
 おばさんはお母さんにこう尋ねました。
「もう」
「それじゃあ勿体無いかしら」
 お母さんは首を右に傾げさせておばさんに答えました。
「ただ捨てたら」
「けれどもう着られないよ」
「それでもね」
「まだ何とかしたいんだね」
「どうしたものかしら」
「じゃあ雑巾にしてみるかい?」
 ここでおばさんはお母さんにこう提案しました。
「この服を」
「雑巾に」
「そうしてみたらどうかい?」
「あっ、いいわね」
 言われてみればでした、お母さんも頷きます。
「それも」
「そうだよね、じゃあ早速ね」
「今からなの」
「この上着を雑巾にするね」
 こうお母さんに言うのでした。
「今から」
「いいの?だってお金は」
「ああ、サービスだよ」
 上着のお金は関係ないというのです。
「だから気にしなくていいよ」
「そうなのね」
「そう、じゃあいいね」
「その上着を」
「これから雑巾にするね」
 こうお母さん兎に言うのでした。
「それじゃあね」
「お願いするわ」
 お母さんもそれならと応えてです、そのうえで。
 そのお身体からです、早速。
 針を取ってでした、すぐに。
 まち針や糸針に使ってです、鋏と糸も出して。
 早速上着をばらして雑巾の形にしてでした、何枚かの雑巾にしてしまいました。その雑巾を持って来てなのでした。
 そしてです、お母さんにその雑巾達を渡して言いました。
「どうぞ」
「有り難う」
「こうすればね」
「もう使えなくなった上着も」
「そう、役に立つよ」
「いい使い方ね」
「服は着られなくなってもね」
 それで終わりではないのです。
「まだあるんだよ」
「こうしてなのね」
「雑巾にしてもいいし」
「他の使い方もあるのね」
「そして最後の最後まで使えるんだよ」
「やっぱり捨てなかったことはよかったのね」
「そうだよ、私もそう思うよ」
 おばさんはお母さんに確かな顔でお話するのでした。
「じゃあ最後の最後まで使ってね」
「そうさせてもらうわね」
 こうお話をしてでした、そのうえで。
 お母さんは新しい上着を着たピーターにです、その雑巾達を手にしてそのうえでこう言いました。
「じゃあ帰りましょう」
「うん、それじゃあね」
「いいものも貰えたから」
「雑巾がなんだ」
「そう、これがね」
 まさに雑巾がというのです。
「いいものよ」
「何か何でもない気がするけれど」
 ピーターにとってはです、雑巾といってもです。
「普通の」
「あら、そう思うの」
「だって雑巾なんて」
「幾らでも手に入るっていうのね」
「そうじゃないの?」
「それが違うのよ、いいものを貰えたから」
 また言う先生でした。
「だからいいのよ」
「そうなの」
「じゃあいいわね」 
 また言うお母さんでした。
「お家に帰りましょう」
「また来てね」
 おばさんが笑顔で見送ってでした、そのうえで。
 二匹はまた裏道を通ってお家に帰りました、お父さんと妹達は皆のんびりとお留守番をしていました。そのお父さんがです。
 お母さんが手にしている雑巾を見てです、こんなことを言いました。
「また雑巾なんか」
「貰って来てっていうのね」
「うん、どうなのかな」
「どうかなってね」
「何かあるのかな」
「いえ、あの子の上着をなのよ」
 もうお菓子を食べているピーターを見ながら言うのでした。
「もう着られないっていうから」
「新しい服を買って」
「それでね」
「その古い上着をなんだ」
「雑巾にしてもらったのよ」
「捨てればよかったんじゃないかな」
 お父さんは首を傾げさせてお母さんに言いました。
「雑巾なんて」
「市場で売っていてっていうのね」
「しかも安いじゃない」
 これがお父さんの考えでした。
「幾らでも買えるのに」
「いえ、違うのよ」
「どう違うのかな」
「何でも最後の最後までね」
 それこそというのです。
「使ってこそじゃない」
「そうなんだ」
「何でも最後の最後まで使う」
「無駄使いはしないんだ」
「そう、無駄使いは大敵よ」
 家庭の、というのです。
「だからしないの」
「そういうことなんだ」
「わかってくれたかしら」
「ううん、話は聞いたけれど」
 それでもと言うお父さんでした。
「何かね」
「違うっていうのね」
「これ位本当に買えばいいのに」
「そういうものじゃないの」
「少しでも節約しないとなの」
「そう、駄目なのよ」
 お母さんはお父さんに強く言うのでした。
「こうしたことから節約して」
「ちゃんとしてっていうのね」
「家計は成り立つのよ」
「主婦も厳しいね」
「厳しいけれど」
 それでもというのです。
「当然のことよ」
「主婦ならだね」
「これ位は当たり前のことよ」
「そいうなんだね、結婚前は」
 お父さんはここで二人が付き合いはじめた時のことを思い出してそれでこんなことを言ったのでした。
「そうしたことは言わなかったのに」
「結婚すれば変わるのよ」
「女の子は?」
「お母さんになるから」
 女の子からです、そうなるからというのです。
「そうしたことも覚えていくのよ」
「それで変わるんだね」
「そういうことよ」
「じゃあ雑巾のことは」
「何よりのことよ」
 こう笑顔で言うのでした、そしてその雑巾で早速テーブルの上を拭いてお掃除をはじめるお母さんでした。


ティギーおばさんのお話   完


                                2014・12・13



新しい上着を買って。
美姫 「もう着れなくなった物を雑巾として再利用と」
立派なお母さんだな。
美姫 「確かにね。子供やお父さんはいまいち理解していなかったけれどね」
ほのぼのとして良いお話でした。
美姫 「本当に。投稿ありがとうございます」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る