『カルアシ・チミーのお話』





 カルアシ・チミーはハイイロリスです。奥さんと一緒に巣で暮らしています。
 そのチミーがです、ある日奥さんに巣の中でこんなことを言いました。
「たまには何処かに行かないか?」
「旅行に?」
「旅行みたいに大袈裟なものじゃなくてもだよ」
「お外に出てなのね」
「ピクニックでもしないか?」
 こう奥さんに提案するのでした。
「少し遠くまでいってな」
「ピクニックね」
「そうだよ、そこに行かないか?」
「そうね、言われてみればね」
 奥さんもご主人の言葉に考える顔になって応えました。
「私達最近食べものばかり集めて」
「他に何もしていないな」
「この森は食べるものには困らないけれど」
「それでもな」
「万が一ってことがあるのよね」
「食べるものは急になくなったりするからな」
 チミーさんも奥さんもこのことをいつも気にしているのです、それで二匹にしてみれば随分広い巣の中にいつも大量の木の実を溜め込んでいます。
 最近溜め込むことにばかり夢中になってだったのです。
「そればかりになっていたな」
「そうだったわね」
「だからたまにはな」
「そのことを忘れて」
「ああ、外に遊びに行こう」
「ピクニックにでも」
「というかピクニックに行かないか?」
 チミーさんは奥さんと話しているうちにそちらに自然に傾いてきています。
「ここはな」
「ピクニックにするのね」
「どうだ?いいだろ」
「食べものとジュースを持って行って」
「そして外に出よう」
「具体的には何処に行くの?」
 奥さんはご主人に場所のことも尋ねました。
「それで」
「行く場所か」
「そう、ピクニックに行くのはいいけれど」
「確かに場所も大事だな」
「そこは何処にするの?」
「ちょっとな」
 そう言われるとでした、ご主人は前足を組んで考えるお顔になりました。
「考えていなかったな」
「そうだったの」
「外に出ることも今はじめて思いついたしな」
 場所までは考えていなかったのです。
「だからな」
「そこまではだったのね」
「ああ、考えていなかったよ」
「あら、じゃあそのことも考えないとね」
「何時行くかもな」
 そのこともだというのです。
「まだ考えていないよ」
「本当にまだ何も考えていないのね」
「そうなんだよ、実はな」
 こう奥さんに返します。
「決まったのはピクニックに行くことだけだな」
「他は何も、ね」
「決まってないな、そうだな」
 チミーさんは奥さんとお話しながらこう言いました。
「日は三日後な」
「早速ね」
「どうせ食べものは一杯あるんだ」
「一日位集めることを休んでも大丈夫だし」
「それに何時休んでもいいしな」
「すぐに集める必要がないからね」
 その食べものをです。
「だからね」
「ああ、日は三日後な」
 これで行く日は決まりました、そして次はでした。
「後はな」
「ええ、後は何処に行くかだけれど」
「丘に行くか」
「丘のところに行ってなのね」
「そこまで行ってな」
 そして、というのです。
「景色を観て楽しもうか」
「そうするのね」
「ああ、どうだ?」
 あらためて言うチミーさんでした。
「それで」
「そうね、丘の上に行くのならね」
「いいだろ」
「ええ、いいと思うわ」
 奥さんもご主人の提案に賛成するのでした。
「それならね」
「よし、それじゃあな」
「行きましょう、三日後ね」
「丘の上までな」
「そうしましょう」
 こうしたことをお話してでした、そのうえで。
 二匹は三日後に備えて用意をはじめました、とはいってもバスケットの中に食べものとジュースを集めるだけですが。
 その中で、です。奥さんは巣の中でバスケットに色々と入れながらご主人ににこにことして言うのでした。
「ピクニックも久しぶりね」
「そうだろ、本当に」
「若い時は時々行ってたけれど」
「結婚する前はよく行ったな」
「ええ、デートもしたし」
「それが結婚してからはな」
「全然だったわね」
 奥さんもこのことに気付いて言うのでした。
「そういえば」
「ああ、そうだったな」
「結婚してからは私達そういうことしなくなったわね」
「全くな」
 本当にそうしたことをすることがなくなったのです。
「本当にな」
「何でかしらね」
「わしも御前も食べものを集めることが好きだからな」
「それにばかり気がいって」
「ああ、それでな」
「そればかりになってしまったわね」
「それでだな」
 だからというのです。
「ずっと何処も行っていなかったな」
「思えば寂しいことよね」
「全くだ」
 チミーさんは夫婦の過去を振り返り残念に思うのでした。
「折角結婚したのにな」
「結婚したら毎日一緒にいられてね」
「何時でもな」
「それで何処にでも二匹で行けると思っていたのに」
「そうはならなかったな」
「お仕事ばかりで」
「食べものを集めることばかり考えてな」
 本当にそうしたことばかり考えてだったのです、二匹共。
「今まで何処にも行かなかった」
「そうなっていたわね」
「だからな、こう思ったらな」
「ピクニックに行こうって決めたらね」
「行こうな」
「絶対にね」
 二匹で楽しく準備をするのでした、ですが。
 そのピクニックに行く日になるとでした、これがです。
 雨でした、チミーさんは巣の穴から雨を見てがっかりして奥さんに言いました。
「雨が降るとはな」
「残念ね」
「こんな残念なことはない」
 これ以上はないまでにというお言葉でした。
「折角二匹で行こうと思っていたのにな」
「それがね」
「雨が降るなんてな」
「そうね、折角だったのに」
「今日はどうする?」
 ご主人は一緒に巣の穴からお外に降る雨を見ている奥さんに尋ねました。
「それで」
「それでも雨が降っていたらね」
「どうしようもないか」
「行くことは出来ないわ」
 到底、というのです。
「だから今日はね」
「諦めてか」
「また今度にしましょう」
「それしかないな」
「そう、だって雨だから」
「外にも出られないな」
 ご主人もわかっていました、ですがそれでも奥さんに聞いたのです。どうするかを正式に決める為にそうしたのです。
「濡れるだけだ」
「だからね」
「休むか、今日は」
「寝ていましょう、巣の中で」
「そうするか」
「そうしましょう」
 こうしてでした、チミーさんと奥さんはこの日は巣の中で寝ました。残念ですがそうするしかなかったからです。
 そしてその次の日にです、ご主人はお外を見て奥さんに尋ねました。
「今日はな」
「晴れてるわね」
 奥さんもお外を見つつご主人に応えます。
「それならね」
「行けるな」
「行きましょう」
 奥さんから言うのでした。
「用意は出来てるし」
「それじゃあな」 
 ご主人も奥さんの言葉に頷いてでした、そのうえで。
 一緒にでした、お外に出てピクニックをはじめました。その入口でピーターのお父さん兎に出会いました。
 お父さん兎は夫婦にです、挨拶をしてから尋ねました。
「これから何処に行かれるんですか?」
「ええ、丘の上までピクニックに」
「遊びに行きます」
「ああ、ご夫婦で」
「はい、行ってです」
「遊んできます」
「それはいいですね」
 お父さん兎はご夫婦の返事を聞いて笑顔で言うのでした。
「私達も今度行きますか」
「そちらはお子さん達と」
「はい、あの子達と一緒に」
 奥さんとだけではなくというのです。
「行って来ます」
「それは何よりですね」
「夫婦で行くだけでなく」
 それに加えてというのです。
「やはり子供達も連れなければ」
「駄目ですね」
「そうです、どうしても」
「子供がいるとやはり」
「あの子達が主役です」
 そうなるというのです。
「親は引き立て役です」
「どうしてもそうなるのですね」
「そうなんですよ、ですから」
「では」
「はい、あの子達と一緒に行って来ます」
 こうしたことをお話してでした、夫婦はお父さん兎と別れました。そして。
 チミーさんと奥さんは一緒になのでした、丘の上に向かっていきます。その途中でチミーさんは奥さんに笑顔で言いました。
「楽しいな」
「ええ、そうね」
「普通に歩いているだけなのにな」
「二匹でね」
「たったそれだけのことでな」
「いつも一緒にいるのに」
 食べものを集める時もです、一緒ですと狐や蛇が出て来た時にすぐに気付いてお互いに危機を脱出出来るからです。
「それでもな」
「外に出て遊びに出るだけで」
 本当にそれだけのことです、しかしなのです。
「違うわね」
「気分がな」
「こんなにいいものなんだな」
「結婚するまではこうして一緒だったけれど」
「それでもな」
「ええ、違うわ」
 奥さんはご主人の言葉に笑顔で応えます。
「とても楽しいわ」
「ずっと忘れていたな」
「こうした楽しい気持ちをね」
「全く、仕事仕事だとな」
「こうしたことを忘れてしまうわね」
「家に帰っても何をするかというと」
 それこそです。
「食べて飲んで寝る」
「それだけだから」
「味気ないにも程がある」
「今思うとね」
「それがよくわかった」
 こうしてお外に出て、です。
「わし等はつまらない夫婦生活をしていたよ」
「遊ぶこともしないでね」
「時々でもこうしないとな」
「本当に味気のない」
「つまらない生活になる」
「それがわかったわね」
 実際にお外にピクニックに出て、です。
「これまで何をしていたかっていうと」
「仕事は大事なんだがな」
「生きる為にね」
「けれどそれだけだとな」
「味気ない」
 今思うとそうなのでした、そしてなのでした。
 二匹で丘の上に向かいます、雨上がりの森の中は草木やお花に水滴が残っていてそれがきらきらと光っています。
 そのきらきらも見てです、奥さんは言うのでした。
「こうして見ていると」
「ガラスみたいだな」
「うふふ、そう言うのね」
「ガラスの小さいもので飾られたな」
「そういう感じっていうのね」
「これまで雨上がりは雨上がりでな」
 そして、というのです。
「何とも思わなかったけれどな」
「こうしてピクニックをしていると」
「全然違うな」
「ただの雨上がりの水滴もな」
「ただの水滴じゃないみたいだな」
「そうね、いつも喉が渇いたらね」
 お仕事である食べものを探して集める時はです。
「あの水滴を飲んでるけれど」
「こうしているとな」
「何か飲めないわね」
「奇麗だからな」
「あそこまで奇麗だと」
 今はそう見えるのです、普通の水滴でもです。
「飲めないわ」
「これまで普通に飲んでいたけれどな」
「これからも飲めるけれど」
 食べものを集める時もです。
「今はね」
「飲めないな」
「置いておきましょう」
「見ているだけにしてな」
「先に進んでいきましょう」
「おっと、そういえばな」
 ここでご主人はあることに気付きました、その気付いたことは何かといいますと。
「丘の上に行ってもな」
「あっ、水滴があってね」
「それで座っても濡れるかもな」
「そうだったわ、そうなっていたら困るわね」
「どうする?そうなっていたら」
「何か敷きもの探す?」
 これが奥さんの提案でした。
「途中で」
「人間が落としていったか」
「そう、そうしたものを拾ってね」
 そして、というのです。
「使う?」
「あればいいけれどな」
 その敷きものがです。
「ビニールか何かな」
「ビニールね」
「人間はよくビニール落としていくからな」
「何時でも落ちてるでしょ」
「ああ、本当にな」
 森の中にです、それこそいつも落ちています。普段は二匹にとっても他の動物達にとっても邪魔なものでしかありませんが。
 それでもです、今はこう言うのでした。
「見つかればいいな」
「使えるからね」
「普段は邪魔なのにな」
「今だけはね」
「違うな」
「だから見付けましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 二匹はビニールを探しました、しかし。 
 ビニールが見付かりません、奥さんはビニールを探しても見付からないことについてご主人に大してこうしたことを言いました。
「ちょっとね」
「見付からないな」
「いつもは見付かるのに」
「今日はな」
「どうするの?探す?」
「そうだな」
 ここでこう言ったご主人でした。
「まだ探すか」
「そうするのね」
「結局それしかないだろ」
「濡れない為には」
「ビニールだったらな」
 それこそ、というのです。
「普通にある筈だがな」
「普段はね」
「それが今日ばかりはな」
「どうしようかしら」
「探そう、一緒に」
 そうするしかないとお話してでした、二匹はまだ探すのでした。そのうえで一緒に探してそうしてなのでした。
 奥さんがビニールを出します、そして言うことは。
「やっと見付けたわ」
「ああ、あったんだな」
「ここにあったわ」
 小さな木の端にです、二匹が座れる位のビニールがあったのです。
 そのビニールを見てです、また言うのでした。
「何処にあると思ったら」
「こんなところにあったのか」
「普段は本当にすぐに見付かるのに」
「今日ばかりはどうしてなんだ?」
 首を傾げさせて言うご主人でした。
「中々見付からなかったな」
「こうしたこともあるのね」
「今日に限ってな、それじゃあな」
「このビニールの水滴を拭いてね」
「行くか」
「ええ、そうしましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 二匹でビニールを収めてです、ご主人はあらためて言いました。
「それじゃあね」
「行くか、あらためて」
「そうしましょう」
 奥さんがご主人に言うのでした。
「それで丘の上で」
「お弁当を食べてな」
「そしてな」
 そうしてなのです。
「それからはな」
「帰るだけね」
「お家にな」
 その巣にです。
「たったそれだけのことでもな」
「妙に楽しいわね、今日は」
「全くだ、いいものだ」
「そうね、かなり久しぶりに行ってみたけれど」
「うきうきするな」
 その心がというのです。
「普通にしているだけなのにな」
「二匹で丘の上まで歩いていくだけで」
「水滴が奇麗に見えて」
「ビニールも中々見付からなくて」
「少しいらいらしたな、ビニールは」
 それは、でした。
「見付からなくて」
「いつもはすぐに見付かるのにね」
「こうしたこともあるんだな」
「そうね、けれど何はともあれね」
「ああ、もう心配ごともない」
 それで、というのです。
「行こうか、丘の上に」
「あそこでお弁当を食べましょう」
「そうしような」
 夫婦で楽しくお話をしてでした。
 チミーさんと奥さんは一緒に丘の上を目指しました、そして遂にその丘の上まで着いてです。その見晴らしのいい場所に拾ったあのビニールを敷いてです。
 二匹でお弁当を食べはじめました、奥さんは景色を楽しみつつお弁当を食べながらそのうえでご主人に言いました。
「ただのお弁当だけれど」
「いつもお昼に食べているな」
 チミーさんも景色を楽しみながらお弁当を食べています、奥さんと同じものごとを楽しみながら応えるのでした。
「そうした普通のお弁当だけれどな」
「こうして食べているとね」
「違うな」
「ええ、美味しいわ」
 とても、というのです。
「普段以上に」
「全くだ、これでエールがあればな」
「言うことなしっていうのね」
「エールも持って来ればよかったか」
「それはお家に帰ってからよ」
 奥さんはご主人にジュースが入ったコップを差し出しながら言いました。ジュースは水筒の中に入れていたのです。
「晩御飯の時にね」
「その時か」
「そう、だからね」
「今はだな」
「ジュースを楽しみましょう」
 エールではなくこちらをというのです。
「そうしましょう」
「そうだな、たまにはな」
「ジュースもいいものでしょ」
「確かにな、甘いものもいいな」
 そうした飲みものもというのです。
「弁当も美味いし」
「景色も奇麗で」
「この丘もよく来るけれど」
「ピクニックで来るとな」
「また違うわね」
「そうだな、だからな」
 ご主人は笑顔で応えるのでした。
「また来ような」
「一緒にね」
「暫くしてからな」
「ここにピクニックにね」
「夫婦でするピクニックもいいものだ」
 このことがわかったのです。
「だからな」
「ええ、また近いうちにね」
 ピクニックをしようとお話してでした、二匹は今はピクニックを楽しむのでした。そしてまたピクニックをしようと約束しました。


カルアシ・チミーのお話   完


                              2014・10・14



今回はリスの夫婦のお話か。
美姫 「夫婦で仲良くピクニックね」
うん、ほのぼのとしているな。
美姫 「予定日は生憎の雨だったけれどね」
翌日には晴れたし、他には特に問題もなくて良かったな。
美姫 「そうね。今回も楽しませてもらいました」
ではでは。



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