『ヒキガエルのジャクソンさんのお話』
ヒキガエルのジャクソンさんは蛙なのでお水、それも奇麗なお水が大好きです。それでお友達のアマガエルのアーサーさんにいつも言っていました。
「わしがここにいる理由はな」
「お水が奇麗だからだね」
「そう、それでなんだよ」
湖の草と草の間にいてお話するのでした。
「ここにいるんだよ」
「そういうことだね、ただね」
「ただ?何じゃ?」
「この湖は確かにお水は奇麗だけれど」
それでもとです、アーサーさんはジャクソンさんに言うのでした。
「その分水鳥が多いし」
「連中か」
「水鳥は怖いよ」
アーサーさんは目を顰めさせてジャクソンさんに言っていきます。
「僕達を見たらすぐに食べようとするから」
「うむ、確かにな」
「鴨もいれば鷺もいて」
「この湖は本当に鳥が多いな」
「それにだよ」
鳥以外についてもです、アーサーさんは言います。
「蛇もいて狐もいて」
「怖いものばかりだな」
「そうした連中が一杯いるからね」
この湖にはというのです。
「危険な場所ではあるよ」
「だからというのじゃな」
「うん、それでもここにいるのかな」
「確かにここは危険な連中も多い」
その水鳥や蛇達です、蛙にとってまたとない天敵である。
「しかし水が奇麗じゃ」
「それで好きなんだね」
「こんなに水が奇麗な場所があるか」
こうも言うジャクソンさんでした。
「わしは知らんぞ」
「ううん、言われてみればね」
「御前さんも知らんな」
「そんなに他の場所に行ってないけれどね」
それでもと返すアーサーさんでした。
「僕もここよりお水が奇麗な場所は知らないよ」
「だからじゃよ」
「ここにいるんだね」
「水鳥や蛇はやり過ごす」
襲って来てもというのです。
「そうするからな」
「だからいいんだ」
「そういうことじゃよ、しかし本当にな」
「水鳥や蛇は多い場所だよ」
「そのことには注意せねばな」
「さもないと食べられるからね」
アーサーさんはこのことだけはと言うのでした。
「ジャクソンさんだって食べられたくないよね」
「食べられたい奴なぞいるか」
「そうそう、あと人間の子供も怖いね」
「人間か」
「僕達を捕まえて悪いことしようとするから」
「確かにのう、その中でも人間の子供はな」
「下手をしたら水鳥や蛇より性質が悪いよ」
アーサーさんは彼等のことを話しても怖がっています。
「人間の子供はね」
「何処にでも出て来るしのう」
「全くだよ、木だって登るし」
「増える一方じゃしな」
「だからね、お互いに気をつけようね」
くれぐれも、と言うアーサーさんでした。
「人間の子供にも」
「そうじゃな、わしも御前さんもな」
「そういうことでね」
二匹でお話してでした、そうしてです。
ジャクソンさんとアーサーさんは虫を食べてお腹を満たしました、そして次の日も湖の岸辺でゆったりとしていました。
ですが急にです、茂みの方が騒がしくなってきました、それを聞いてです。
周りの他の蛙達がです、急に騒ぎだしました。
「蛇!?」
「狐じゃないかな」
「いや、アナグマかも」
「鼬かも知れないよ」
こうした天敵達ではないかとです、皆疑いました。ですが。
出て来たのは人間です、しかも。
まだ小さな子供でした、その子供達を見て蛙達はまた言いました。
「うわ、蛇よりも酷いかもね」
「人間だよ、しかも子供だよ」
「これはまずいよ」
「捕まったらそれこそ」
「逃げよう」
「うん、湖の中に入ろう」
「それにね」
皆で湖の方を見ます、そこにはです。
今は水鳥達もいません、それでなのでした。
皆あらためてです、こう言いました。
「うん、水鳥もいないし」
「逃げても大丈夫だね」
「あそこに行けばね」
「人間の子供は湖の中まで来ないし」
「安全だよ」
「じゃあ逃げよう」
「あっちの方にね」
こうお話してでした、すぐにです。
皆湖の方に逃げようとします、しかしここで。
何とです、これまでいなかった筈の水鳥がでした。
鴨達が湖の方に何羽も来てです、泳ぎはじめました。蛙達はその鴨達を見て物凄く嫌なお顔になりました。
そして、です。今度はこう言い合うのでした。
「あそこに行ったら」
「鴨の御飯にされるよ」
「鴨って虫以外にも食べるからね」
「それこそ僕達もね」
「美味しく食べようとするから」
「だからね」
「ここはどうしよう」
あらためて話す彼等でした、そしてです。
ジャクソンさんがです、皆にこう言いました。
「こうなれば仕方ない」
「仕方ない?」
「っていうと?」
「うむ、ここに隠れよう」
湖の奥の方に行かずに、というのです。
「あそこに行けば食われてしまう、しかしな」
「ここにいればなんだ」
「隠れていれば」
「うむ、子供に見付からないとな」
人間の子供にです、見れば二人の男の子です。
「助かるからな」
「そういえばここは」
アーサーさんも言います、今自分達あいる周りを見回して。
「水草も長くて多いから」
「隠れるには充分じゃな」
「うん、水草の間に入って」
そしてというのです。
「お水の中に身体を隠していればね」
「やり過ごせるぞ」
「それじゃあそうしようか」
「鴨も人間がいれば」
その子供達がです。
「近寄って来ぬしな」
「人間って水鳥にも悪さするからね」
「かえってそれも好都合かもな」
「それじゃあだね」
「皆ここは隠れよう」
アーサーさんにも他の皆にも言った言葉です。
「そうしてやり過ごそう」
「うん、じゃあね」
「皆隠れよう」
「この草と草の間に」
「そうしてお水の中に入って」
「そのうえで」
こうしてでした、皆でなのです。
水草と水草の間、それもお水の中に入ってでした。隠れました。そのうえで人間の子供達をやり過ごすことにしたのです。
その中で、です。アーサーさんは隣にいるジャクソンさんにこっそりとなのでした。お水の中にちょっとお顔を出して子供達の動きを見ながら尋ねました。
「若しもだよ」
「若しもというと?」
「人間の子供に捕まったらどうなるのかな」
「だからあれじゃろ」
「食べられるより酷いことになるんだね」
「人間は怖いぞ」
それこそ水鳥や蛇達と同じ位か下手をすれば彼等以上にです。
「油断したら踏み潰されるしのう」
「そうそう、無駄に大きいからね」
「わし等では勝てん」
人間にはです。
「だからな」
「ここは隠れていてね」
「そしてやり過ごすしかないわ」
「ううん、水鳥も怖いけれど」
「人間も怖いわ」
「僕達には勝てない相手って多いね」
「幾ら集まってもな」
そうしてもというのです。
「人間には勝てん」
「だから隠れるしかないね」
「全くじゃ、しかし」
「しかしって?」
「若しもここに人間達が来たら」
その時はというのです。
「皆動かん方がいいぞ」
「動いたら気付かれるからだね」
「だからだね」
「そうじゃ、動かん方がいい」
だからだとです、ジャクソンさんはアーサーさんだけでなく他の皆に対してもこう言ったのです。
「隠れていることじゃ」
「よし、それじゃあ」
「じっとしていよう」
「何があっても動かない」
「人間達が何処かに行くまで」
「ここの水草は茂っておる」
このことも言うジャクソンさんでした。
「それにわし等は水の中に殆ど隠れておる」
「見付かることはだね」
「ないね」
「動かんかったらな、人間の足が来ても水の中に潜ってかわせばいい」
そうしてというのです。
「だから出来るだけ動かんことじゃ」
「じゃあジャクソンさんの言う通りね」
「動かないでいくよ」
「人間の足が来たらかわす位で」
「それ位にしてね」
「そうすればかえって見付からんのじゃよ」
こう皆に言ってでした、ジャクソンさん自身です。
動かないでそのままじっとしていました、その間にです。
人間の子供達は湖のその水草のところに来ました。そして子供達は子供達であれこれとお話をしていました。
「何もいないね」
「そうだね」
「何かいるって思ったけれど」
「全然何もいないね」
「蛙もね」
他ならぬジャクソンさん達のことです。
「折角ここまで来たのに」
「今日は何もいないね」
「鴨があっちにいるよ」
子供の一人が湖の真ん中の方を指差して言いました。
「あっちにね」
「あっ、いるね」
「けれどね、今はね」
その鴨達がいることがわかってもでした。
「あっちまでは行けないね」
「うん、無理だね」
それはとです、子供達は残念そうにお話しました。
「船がないからね」
「船があってもね」
「お兄ちゃん達がいないからね」
「僕達じゃ船は漕げないからね」
「オールはね」
「折角水鳥がいるのに」
「あっちまでは無理だよ」
こう残ねそうに言うのでした。
「今はね」
「じゃあ仕方ないね」
「うん、水鳥は諦めよう」
「他の生きものを探そう」
「けれどね」
子供達は子供達なりに自分達の周りを見回します、ですが。
足元に一杯いる筈の蛙達に気付きません、そして。
子供のうちの一人がです、もう一人に残念そうに言いました。
「いないよ」
「やっぱり?」
「何か見えた?」
「いや、全然」
この子もこう言うのでした。
「何もね」
「水草しかないね」
「そうだね、しかも随分長くて茂っていて」
「中々先に進めないし」
「若しここに蛇でもいたら」
長靴を履いた靴で苦労しながら水草と水草の間を進みながら言います。
「噛まれたりしたら」
「大変だね」
「ここにはこれ以上入らない方がいいんじゃない?」
こう言うのでした。
「もうね」
「それがいいかな」
「山の方に戻って兎でも探そう」
「兎?すばしっこいから見付からないよ」
「それでもだよ、ここには何もいないよ」
「だからだね」
「うん、もうここは帰ろう」
こうお話してなのでした、そのうえで。
子供達はその場を後にしました、そしてです。
蛙達はほっとしてお水から身体を出してでした、こうお話しました。
「よかったね」
「うん、助かったよ」
「一時はどうなるかって思ったけれど」
「どっかに行ったね」
「ここからいなくなったね」
「ジャクソンさんの言う通りにしたらね」
隠れて動かずにしていたらというのです。
「やり過ごせたね」
「逃げるよりずっとよかったね」
「水鳥にも襲われなかったし」
「よかったよ、本当に」
「皆無事でいられたよ」
「そうじゃろ、下手に動くよりもな」
ジャクソンさんも言うのでした。
「隠れている方がよい時もあるのじゃ」
「それが今だね」
「今だったっていうんだね」
「そういうことじゃ、動けば見付かる」
それこそです。
「相手も馬鹿ではないからな」
「けれど隠れて動かずにいたら」
「かえってなんだね」
「見付からないものなのじゃよ」
その方がというのです。
「こうしてな」
「そういうことなんだね」
「隠れている方がいいんだ」
「下手に動くよりも」
「その方が」
「それが今だったのじゃよ」
まさにというのです。
「いや、よかったわ」
「そうだね、じゃあ」
「無事やり過ごせたし」
「雁も何処か行ったし」
「後はね」
「ここでゆっくりしよう」
「そうして楽しもう」
こうそれぞれお話するのでした、そしてです。
アーサーさんもです、ジャクソンさんにこう言いました。
「今回はジャクソンさんのお陰だね」
「うむ、わしの考えでいってよかったな」
「若し逃げていたらかえって駄目だったね」
「人間の子供に捕まるかな」
若しくはでした。
「鴨に食われておったな」
「そうなっていましたね」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「ここに隠れていてよかったな」
「そうだね、じゃあまたこうした時が来たらね」
「知恵を出すぞ」
「頼むよ」
こうお話するのでした、そしてです。
蛙達はけろけろと鳴きながらその場にいてゆっくりとした時を過ごすのでした。厄介なことを乗り切った後で。
ヒキガエルのジャクソンさんのお話 完
2014・9・13
今回はのんびりというよりもハラハラドキドキって感じだな。
美姫 「見つかるか、見つからないかね」
蛙たちにとっては一大事だしな。
美姫 「ジャクソンのお蔭でどうにか助かったみたいだし、良かったわね」
だな。水鳥もいなくなって、この後はのんびりと過ごすみたいだし。
美姫 「そうね。それじゃあ、この辺で」
ではでは。