『チミー=ウィリーのお話』
チミー=ウィリーは田舎ねずみです。いつものどかに暮らしています。一度町に出たことがあるにはありますが。
「あまりね」
「馴染めなかったんだね」
「うん、そうなんだ」
彼と同じ田舎ねずみのお友達にこうお話します。
「僕にはね」
「町は賑やかじゃないの?」
お友達は首を傾げさせてチミーに尋ねました、二匹で物陰でパンをかじりながら。
「それでとても楽しいんじゃ」
「いや、確かに賑やかだけれど」
「それでもなんだ」
「猫が一杯いてね」
「えっ、猫が!?」
猫と聞いてです、お友達は仰天して言いました。
「一杯いるんだ」
「そうなんだ」
「猫が一杯いるなんて」
「怖いよね」
「怖いものなんてものじゃないよ」
お友達は真っ青になってチミーに言います。
「だって猫っていったら」
「僕達の天敵だからね」
「烏や蛇、鼬も怖いよ」
「けれどその中でもね」
「猫が一番だよ」
一番怖いというのです。
「あんな怖いものないのに」
「その猫が一杯いるんだ」
「それは怖過ぎるよ」
「しかも他にもね」
「他にもあるんだ」
「見たこともない食べものもね」
「どんな食べものなの?」
お友達はそれがどういったものか気になって尋ねました。
「それって」
「何か本当に色々あって」
「名前はわからないんだ」
「口でも説明出来ないよ」
「とにかくここにある食べものとは違うんだ」
「全くね」
こうお友達にお話します、パンをかじりつつ。
「もう何が何だかわからない位に」
「変な食べものばかりなんだ」
「そうなんだ」
「食べものも気になるけれど」
お友達はまだお顔が青いです、それで言うことはといいますと。
「猫が一杯いるのならね」
「怖いよね」
「君よく助かったね」
「今でも思い出すと身震いするよ」
鼠としてです、どうしてもそうなってしまうのです。
「だから二度と行きたくないんだ」
「その気持ちわかるよ」
「何かこの辺りも最近ね」
チミー達が住んでいる村もです、近頃。
「人が多くなってきて」
「新しいものが増えてきてね」
「お家も立派になって鉄の車がどんどん走ってるけれど」
「それでもね」
「猫も町程多くないから」
チミーも猫のことを念頭にお話しています。
「だからいいよ」
「食べものも美味しいし」
「知っているものがね」
「紅茶だってね」
お友達は紅茶を飲みつつそれについて言いました。
「あるしね」
「うん、やっぱり僕にとってはね」
「ここが一番だね」
「町に行かなくてもね」
それでもというのです。
「ここで充分幸せに過ごせるよ」
「そういうことだよね、やっぱり」
「うん、そうだよ」
その通りとお話しつつお友達と楽しくパンを食べて紅茶を飲むのでした。チミーは本当に満足しています。
そのチミーにです、ある日のこと。
ピーターラビットが来てです、こう言ってきました。
「ねえチミーいいかな」
「どうしたの?」
「うん、これからお茶を飲もうって思ってるんだけれど」
「お茶?」
「今日はもう飲んだかな」
そこはどうかというのです。
「どうかな」
「飲んだけれどね」
チミーはピーターに正直に答えました。
「それでもお茶ならね」
「君お茶好きだからね」
「うん、大好きだよ」
チミーは目を輝かせてピーターに答えました。
「だから何杯でもね」
「それはいいことだね。じゃあお茶菓子はね」
「何かな」
「僕はスコーンを用意しておくよ」
ピーターはこれを用意するというのです。
「それでいいかな」
「じゃあ僕はね」
チミーもお茶菓子を用意します、それはといいますと。
「サンドイッチがあるから」
「それを持って来てくれるんだね」
「ピーターもそれでいいよね」
「僕サンドイッチ好きだよ」
ピーターはにこりと笑ってチミーに答えます。
「それじゃあね」
「一緒にね」
「お茶を飲もう」
こうお話してでした、チミーとピーターは一緒に紅茶を飲むことにしました。その場所はピーターのお家の近くの木の傍でした。
そこに来てすぐにでした、お茶を淹れて。
サンドイッチやスコーンを食べます、そうしながらピーターはチミーにあることを尋ねてきました。その尋ねることはといいますと。
「チミーって一回町に行ったことがあるよね」
「ピーターもそのこと聞くんだ」
「他にも誰かから聞かれたのかな」
「うん、同じ田舎ねずみのお友達にね」
聞かれたというのです。
「さっきお茶を飲んでいる時にね」
「そうだったんだ」
「町はね、僕には合わなかったよ」
「そうなんだ」
「猫が一杯いるから」
「ふうん、猫ねえ」
猫と聞いてもです、ピーターは特に怖がる様子もありません。そのうえでお茶を飲みながらチミーに言うのでした。
「君達は猫が大の苦手だからね」
「姿を見るだけで震えるよ」
「僕も猫は苦手だけれどね」
「君達も悪戯されるからね」
「うん、だから苦手だけれど」
それでもとです、ピーターは比較的落ち着いたお顔のままチミーに言います。
「君達程にはね」
「怖くないよね」
「むしろ狐さん達の方が怖いよ」
「うわっ、狐はね」
狐はです、鼠にとってもでした。
「僕も怖いよ」
「そうだよね、僕は猫よりも狐だよ」
「いつも気にしてるよね、ピーターは」
「そうだよ、こうしてね」
耳をぴんとさせての言葉でした。
「狐さん達の足音とかをね」
「聞いているんだね」
「若し足音がしたりしたら」
その時あというのです。
「すぐに逃げるよ」
「僕もだよ」
「けれど猫はね」
チミー達田舎ねずみ程はというのです。
「怖くないよ」
「そこは身体の大きさの違いだね」
「そうだね。それで町にはなんだ」
「猫が一杯いるんだ、だからね」
「町は嫌なんだね」
「そうそう、あとね」
お友達にお話したことをピーターにもお話するのでした。
「もう一つあるんだ」
「何?それは」
「食べものだよ」
このこともお話するのでした。
「それも全然違って見たこともないものをね」
「一杯あるんだ」
「それもね。何かね」
どうかというのです。
「ごちゃごちゃしていたり妙な匂いがして」
「美味しいのかな」
「食べてみたけれど」
それでもというのです。
「僕には合わなかったよ」
「そうだったんだ」
「だからこっちに帰って来てね」
「もう行く気はないんだ」
「うん、僕はずっとここにいるよ」
それこそというのです。
「町には行かないよ」
「そうなんだ」
「ピーターはどうなの?」
自分のことをお話してからです、チミーは彼に尋ねました。
「町に行きたいの?」
「いや、僕もね」
お話を聞いてです、ピーターはチミーに答えました。
「あまりね」
「行きたくないんだ」
「あまり行こうとも思わないね」
「僕のお話を聞いたからかな」
「そうじゃなくてね」
ピーターはどうしてそう思うのかをです、チミーにお話しました。。
「ここが充分楽しいからね」
「だから町に行こうと思わないんだ」
「そうなんだ」
それでだというのです。
「僕は町に行こうと思わないよ」
「ここで満足しているんだ」
「というかここで足りないものってある?」
スコーンをかじりつつです、ピーターはチミーに尋ね返しました。
「僕達がいるこの場所に」
「そう言われるとね」
「ないよね」
「そう、ないよ」
足りないものはとです、チミーも答えます。
「僕もそう思うよ」
「そうだよね、だからね」
「町に行こうと思わないんだ」
「行ったことはないけれどね」
それでもだというのです。
「チミー程じゃないけれど僕も猫は苦手だしね」
「ここにも猫はいるけれどね」
「けれど町はずっと多いんだよね」
「びっくりする位いるよ」
「そんなに多いんだ」
「もうどれだけいるかわからない位にね」
チミーは今も身震いしつつピーターに答えます。
「いるからね」
「じゃあいいよ」
余計にと答えたピーターでした。
「怖い思いはここでもあるし」
「色々とね」
「狐さんに人間さん達とかね」
「そうそう、人もね」
「町は多いんだよね」
「人が一番多いんだ、それにね」
チミーは町の人達のこともお話します。
「皆ここの人達よりずっと僕達を嫌っていて」
「攻撃してくるんだ」
「僕達が病気、ペストの元凶だったってね」
「ペスト!?」
ピーターがはじめて聞く言葉です、それで目を瞬かせてチミーに問い返しました。
「それって何かな」
「僕もよく知らないけれど」
「病気なんだね」
「随分悪い病気みたいだよ」
「その悪い病気がなんだ」
「僕達に原因があるとか」
そう言われてというのです。
「襲い掛かって来るんだ、寄ってたかってね」
「それは大変だね」
「猫以上にね」
「それじゃあ」
「そう、それでね」
だからだとです、また言うチミーでした。
「そのこともあるから」
「町には二度と行かないんだ」
「そんな病気知らないよ」
ペストなんて、というのです。
「本当にね」
「そうだよね、僕もはじめて聞いたし」
「僕いつも身体を綺麗にしてるよ」
毎日水浴びをしてです。
「それで悪い病気とか」
「持ってる筈がないね」
「それでそんなこと言われたら」
「行きたくなくなるね」
「町にはね」
まさにそうだというのです。
「だからね、僕はね」
「もう二度とだね」
「ここから出ないよ」
つまり町に行かないというのです。
「本当にそうするよ」
「それがいいと思うよ、僕もね」
「ピーターもそう思うね」
「本当にね」
心からと答えるピーターでした。
「お茶も美味しいしね」
「そうそう、お茶もね」
チミーもそのおちゃのことをお話します。
「町のお茶はね」
「それはどうだったの?」
「変わらないよ」
「味がだね」
「香りもね」
それもというのです。
「変わらないよ」
「紅茶は同じなんだ」
「僕はそう感じたよ」
「田舎も町も紅茶は同じなんだね」
「スコーンもサンドイッチもね」
食べているものもというのです。
「やっぱり同じだよ」
「逆に猫や人が多くて変な食べものが多くて」
「居辛い場所だよ」
「僕達は少ないんだね」
ピーターは兎達についても尋ねました。
「野兎は」
「いないよ」
「いないの!?」
「兎はいるよ」
兎自体はいるというのです。
「けれど野兎じゃなくて穴兎でね」
「ああ、あの人達だね」
「それで皆人に飼われているんだ」
「ううん、そのことも残念だね」
「そうだよね、とてもね」
「そういうのを聞いても残念に思うよ」
兎として町の兎のことを聞いてもだというのです。
「町はいい場所じゃないね」
「僕達にとってはね」
「町って何なのかな」
ピーターは首を傾げさせてこうも言いました。
「危ないだけの面白くない場所なのかな」
「ここで充分だよね」
「本当にそう思うよ。じゃあ」
「それじゃあだね」
「ここにいてね」
そしてと言うのでした。
「ずっと楽しく生きていたいね」
「僕達同士でね」
「紅茶も飲みながらね」
「そうだね、しかしこのお茶美味しいね」
チミーはお茶を飲みつつその味についてあらためて言いました。
「ピーターのお家のお茶かな」
「そうだよ。お父さんお気に入りのね」
「そうしたお茶だね」
「今飲んでいるのはストレートだけれど」
つまり何も入れていないお茶です。見ればとても綺麗な紅色をしています。見ているだけでとても美味しそうです。
「普段はここにね」
「ミルクだね」
「それを入れて飲んでるよ」
「やっぱり紅茶にはミルクだね」
「とても新鮮なね」
「僕もそう思うよ」
チミーもです、ミルクティーがいいというのです。
「やっぱり紅茶はそれだよ」
「その通りだよ。ただ最近ね」
「最近って?」
「ほら、日本って国があるよね」
「ああ、イギリスから随分と遠い」
「その国のお茶もあるよね」
ピーターはチミーにそのお茶のお話をするのでした。
「緑茶だったかな」
「緑茶ねえ」
「ここでも飲めるよ」
町でなくともというのです。
「随分渋いけれどね」
「渋い?まずいのかな」
「いや、これが美味しいんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「今度飲んでみる?」
「そうだね。美味しいのならね」
是非にと答えるチミーでした。
「飲ませてもらうよ」
「お店でも買えるからね」
「ここでも買えるんだ、やっぱり」
「その日本のお茶もね」
「じゃあ余計にね」
それでと言うチミーでした。
「ここから出る理由はないね」
「そうしたものも飲めるのならね」
「ここにいれば皆がいて町よりずっと安全で楽しく遊べてお茶も飲める」
「いいことばかりだよ」
「これで満足だよ」
「全くだね」
こうお話するのでした、そうして二匹でお茶を楽しんだのでした。
それが終わってからです、ピーターはチミーに言いました。
「じゃあ次はね」
「その日本のお茶をだね」
「飲もうね」
「僕も買ってみるよ」
その日本の緑茶をというのです。
「今日にでもね」
「あっ、それもいいね」
「そうだよね、ここで買えるのならね」
それならというのです。
「買って飲んでみるよ」
「最初はその渋さにびっくりするかも知れないけれど」
「それでもだね」
「凄く美味しいから」
「紅茶とどっちが美味しいかな」
「どっちも美味しいよ」
これがピーターの返答でした。
「紅茶も緑茶もね」
「そうなんだ、どっちもなんだ」
「そうなんだ、どっちがより美味しいかは言えないよ」
「成程、そうなんだ」
「後はチミーの好き嫌いだけだよ」
緑茶がお口に合うか合わないかだけというのです。
「だから一度ね」
「買って飲んでみるよ」
「淹れ方は紅茶と違うけれどね」
「そこはお店の人に聞けばわかるよね」
「うん、それでわかるから」
そのこともというのです。
「だから買ってみてね」
「自分で確かめて」
「そうするといいよ」
こうお話するのでした。
「緑茶はね」
「わかったよ、そうするよ」
チミーも答えます。
「楽しみにしながらね」
「そういうことでね」
ピーターも応えます、二匹は楽しく紅茶を楽しみました、そしてその後で解散しました。そうしてお家に帰ってから。
チミーは町の方を振り向きました、そのうえでお母さんに言いました。
「僕ずっとここにいるからね」
「もう何処にも行かないのね」
「ここは充分楽しいからね」
だからだというのです。
「満足しているからね」
「それでなのね
「うん、僕ずっとここにいるから」
こう言ってお顔を町の方から離してなのでした、そのうえで。
チミーはお母さん、そしてお父さんと一緒にお家での楽しい時間を過ごすのでした。それは彼にとってこのうえなく楽しいものでした。
チミー=ウィリーのお話 完
2014・6・15
ねずみから街の話を聞いたみたいだけれど。
美姫 「興味は少しだけあったけれどって感じね」
まあ、元々街に行くつもりはないみたいだしな。
美姫 「やっぱりピーターたちは今の方が良いみたいね」
だな。今回はチミーとお茶会というお話だったな。
美姫 「そうね。今回も楽しませてもらいました」
ではでは。