『マクレガーさんのお話』





 マクレガーさんは人間です、もう結構なお歳でお髭はすっかり白くなっています。奥さんと二人で農家をしています。
 そのマクレガーさんが困っていることがあります、それは何かといいますと。
「またか」
「ええ、またなのよ」
 お家の中で、です。奥さんが困ったお顔でマクレガーさんにお話していました。今はお茶の時間で紅茶をクッキーを食べながら飲んでいます。
「動物達が来てね」
「畑を荒らしていたのか」
「ええ、野兎やら穴熊がね」
「全く、困った奴等だな」
「特に野兎がね」
「あの野兎達は一家なのか?」
 マクレガーさんは首を傾げさせてこう言いました。
「つがいと小さいのが四匹いるな」
「何度か一度に来てるわね」
「一番大きな兎いるだろ」
 ここでこう言ったマクレガーさんでした。
「あいつはオスだろうな」
「つまり一日家のお父さんね」
「あいつを捕まえ損ねたからな、前に」
「あの兎が一番すばしっこいからね」
「一番大きいのにな」
 それでもだというのです。
「すばしっこくてな」
「捕まえたらあれよね」
「ああ、パイにしような」
 つまり兎肉のパイにしてやるというのです。
「それで夕食にしてやる」
「捕まえた時はね」
「覚悟していろ、しかしな」
「ええ、時々だけれどね」
「兎なり穴熊が出てだな」
「畑を荒らしていくから」
「何とかしないとな」
 マクレガーさんは紅茶を飲む手を止めて腕を組んで言いました。
「ここは」
「そうね、どうしたものかしら」
「少し考えるか」
 マクレガーさんは真剣に考えだしました、そしてです。
 紅茶を飲み終えてから奥さんと一緒に畑に出ました、そのキャベツや蕪、人参や玉葱といったものを育てている畑達を見て言うのでした。
 今は兎も穴熊もいません、しかしです。
 それでもです、こう言うのでした。
「よく見ればな」
「どうしたの?」
「案山子を忘れていたな」
「あっ、そういえば」
「この前壊れてな」
「そのままだったわね」
「ああ、だからな」 
 それでだというのです。
「案山子を作ってな」
「動物達を寄せないのね」
「それは案山子がいないとな」
「動物もどんどん来るわね」
「そうだよ、じゃあ今晩にでも作るぞ」
「わかったわ、私も手伝うから」
「頼むな」
 こうしてです、マクレガーさんはまずは案山子を作りました。そのうえで畑に案山子を一つ置きました、ですが。
 次の日の朝です、畑を見て回りますと。
「案山子を置いた辺りはやられてないけれどな」
「他の場所はね」
「ああ、やられてるな」
「そうね、結構ね」
「動物共もやってくれるな」
「向こうも馬鹿じゃないわね」
「これでは駄目だ」
 マクレガーさんは全部の畑を守りたいのです、お家の畑を。
 それでなのです、こう奥さんに言うのでした。
「やられた場所があるならな」
「それじゃあ他の辺りにも」
「案山子を置く、そうしよう」
「増やすのね」
「とりあえず適当なものがあるからな」
 案山子を作る道具はあるのです、幸いなことに。
「幾つも置いてな」
「そうしてなのね」
「全部の畑を守ろう」
「わかったわ、じゃあ今晩もね」
 奥さんも頷いてなのでした、そしてです。
 マクレガーさんはこの夜も案山子を作りました。今度は幾つも作りました。そうしてそれぞれの案山子を畑の中に一定の間隔で置くのでした。
 そうしてみるとです、畑の被害は相当に減りました。人参や玉葱にしてもです。しかしそれでもなのでした。
 荒らされていました、それでマクレガーさんは今も苦いお顔で奥さんに言うのでした。
「やられているな」
「かなり減っていてもね」
「やられていることはやられているぞ」
 被害を完全になくしたいマクレガーさんにとっては困ることなのです。
「まだな」
「ジャガイモのところもね」
「連中も食わないといけないからか」
「人間も恐れないっていうのね」
「そうなるな、これはな」
「どうしたものかしら」
「案山子だけじゃ駄目か」
 マクレガーさんはこうも言うのでした。
「それに兎や穴熊だけじゃないからな」
「烏とかね」
「鳥連中もいるからな」
 動物は兎や穴熊だけではないのです、鳥もいるのです。
 だからです、マクレガーさんは彼等のことも考えて奥さんにお話しました。
「あいつ等は夜は来ないが」
「昼はね」
「案山子で完全でないのなら」
「どうしたものかしら」
「さてな、少し考えるか」
 またこう言うマクレガーさんでした。
「何がいいか」
「ううん、案山子は見せるものよね」
 奥さんはここで案山子のことを言いました。
「そうよね」
「ああ、それはな」
「そうよね、目よね」
「案山子は見せて驚かせるものだからな」
「目で完全でないのならね」
「まだあるか、あるとしたら」
「耳はどうかしら」
 こう自分のご主人であるマクレガーさんに言うのでした。
「音ね」
「音か」
「そう、音ね」
 音を立ててはどうかというのです。
「ほら、この前日本からここに観光に来た人いたわね」
「ああ、あの若いお兄さんか」
「そう、あの人がうちの畑見て静かだって言ってたから」
「日本の畑は五月蝿いのか」
「音を立てるのかもね」
「じゃあそのことを調べてみるか」 
 ここまで聞いてこう言ったマクレガーさんでした。
「日本の畑をな」
「誰か知ってる人いるかしら」
「村長さんが昔日本に旅行に行ったことがあるからな」
「じゃあ村長さんに聞いて」
「ああ、そうしてみるな」
 こうしてでした、マクレガーさんは村長さんとお話をして日本の畑のことを聞きました。そして次の日の朝早速でした。
 畑の周りに棒を挿し込んでそこに細いロープをかけました、そしてです。
 そこに木の板を幾つも連ねました、奥さんはそのロープや木の板を見てマクレガーさんに首を傾げさせて尋ねました。
「何なの、それ」
「ああ、これがな」
「日本の畑にあるものなの」
「そうらしいな」
「それで音を鳴らしてなのね」
「兎共を追っ払うらしい」
「へえ、日本人って色々と工夫するって聞いてたけれど」
 奥さんもこのことは聞いています。
「そういうこともするのね」
「ああ、だからわしもな」
「村長さんから教えてもらったのね」
「実際にしてみるな」
 こう奥さんに答えながらです、マクレガーさんは作っていきます。
「これで大丈夫ならいいな、後な」
「後って?」
「目も付けるな」
「目!?」
「ああ、目だよ」
 こう言って出してきたのはです、人の頭程もあるかなり大きな目の模様が描かれたボールの様なものでした。
「案山子と棒もロープでつないでな」
「そこにそれを吊るすのね」
「そうするよ」
「動物は目を怖がるのね」
「日本人はそう言うんだ」
「じゃあそれも吊るして」
「防ぐな」
 動物達をというのです。
「音も付けて、目も置いてな」
「そうしてなのね」
「完全にな」
 それこそ、というのです。
「畑を守るぞ」
「完全になの」
「当たり前だ、この畑はわし等のものだぞ」
 だからだというのです、マクレガーさんは奥さんに怒った口調になって言います。
「それならだ」
「全部誰にもなのね」
「動物達にやるものか」
「それでなのね」
「連中が来たら音が鳴る仕掛けも置くしな」
「目も置いてね」
「万全にするんだよ」
 その備えを整えているというのです。
「こうしてな、とにかくな」
「お野菜を全部守って」
「食って余ったら売ってな」
 お金も必要だからです、マクレガーさん達にも生活があるのです。
 だからです、とにかくお野菜を完全に守るのでした。
 こうしてです、マクレガーさんは音を鳴る仕掛けを置いて目の模型も吊るしました。そうして万全の備えを敷きました。
 その畑を見てです、ピーターラビットはお家に帰ってお父さんに言いました。
「お父さん、マクレガーさんのところの畑だけれど」
「ああ、かなりな」
「人が多くなったよね」
 案山子がです、彼等にはそう見えるのです。
「しかも音が鳴るし」
「おかしな目もあってな」
「何か怖いよ」
「これまでは時々マクレガーさんか奥さんが出て来るだけだったのにな」
「それが今ではああだよ」 
 だからだというのです、ピーターラビットは。
「どうしたものかな」
「危ないな、お父さんも穴熊さんと一緒に見たけれどな」
「あの畑をだね」
「ああ、あの畑はな」
「近寄らない方がいいかな」
「そうだな、止めておこう」
 お父さんはこう自分の息子に言いました。
「もうな」
「じゃあマクレガーさんのお家は」
「ゴミ箱だけ漁ろうか」
「あそこだね」
「あそこでキャベツとか人参を漁ろう」
「何か寂しいね、それだと」
「しかし仕方がない」
 それもだと言うお父さんでした。
「あの畑の状況だとな」
「近寄れないから」
「ああ、それでな」
「わかったよ、それじゃあゴミ箱だけ漁るね」
「その時もマクレガーさんには注意するよ」
「うん、わかったよ」
 ピーターラビットはお父さんの言葉に答えました、そうしてなのでした。
 ピーターラビットの一家も他の動物達も畑には殆ど近寄らなくなりました。マクレガーさんの畑は平和になりました。
 しかしです、平和は完全に訪れた訳ではなく。
 ゴミ箱は荒らされました、それでなのでした。
 マクレガーさんは荒らされたゴミ箱を見てです、奥さんにまた苦いお顔で言いました。
「全く、畑が無事でもな」
「それでもね」
「ああ、ゴミ箱はな」
「こんな有様ね」
「全く、あいつ等もやるものだ」
「畑が無事になってもね」
 それでもだとです、奥さんも言うのでした。
「ゴミ箱を漁って来る様になったわね」
「どうしたものかな」
「ううん、犬もいるから」
「犬に番をさせるか?しかしあいつはな」
「畑にいるわよね」
「そうだ、あいつには仕事がある」
 その畑の番です。
「あれがあるからな」
「ゴミ箱にはなの」
「そうだ、回せないぞ」
「畑の被害はなくなったけれどね」
「安心は出来ん」
 こと畑のことだからだというのです。
「あいつは畑だ」
「じゃあゴミ箱は」
「ゴミ箱に覆いをかけるか」
「そうしようかしら」
「ああ、とにかくここもな」
 ゴミ箱もというのです。
「何とかしないとな」
「あれもこれもよね」
「全くだ、畑を持っているとな」
 マクレガーさんと奥さんの糧です、ですがそれを持っているとというのです。
「動物に悩まされる」
「どうしてもね」
「これは仕方がないか」
「そうみたいね」
「しかしな」
 それでもだと言うマクレガーさんでした。
「ここで何とかしないとな」
「ゴミ箱もね」
「さて、今度はどうするかだ」 
 マクレガーさんはまた考えるのでした、そしてです。
 奥さんにです、こう言いました。
「覆いをかけるか」
「やっぱりそれね」
「ああ、さもないと荒らされ放題だからな」
「残飯やり何やらを荒らされてね」
「ここが汚くなる」
 だからゴミ箱を荒らされたくないのです。
「畑に行けなくなっただね余計に荒らされる様になったからな」
「そうね、ここも何とかしないといけないし」
「覆いをかけるか、ゴミ箱に」
「そうしましょう」
 こうお話してでした、今度はゴミ箱に覆いをかけて荒らされることを防ぐことにしたマクレガーさんでした、ですがそれでも動物達は来てです。
 またです、こう奥さんに言うのでした。
「ここにも鳴りもの置くか」
「そうするの?」
「ああ、そうしようか」
「何でも鳴りものね」
「仕方がないだろう、荒らされるからな」
「あれ結構五月蝿いのよね」
「五月蝿くないと効果がないだろう」
 不満そうに言う奥さんにこう返すマクレガーさんでした。
「それならな」
「じゃあここにも」
「鳴りものを置くな」
 木のそれをというのです、マクレガーさんと動物達の戦いはこうした感じでさらに続くのでした。


マクレガーさんのお話   完


                              2014・4・15



まさにいたちごっこといった感じだな。
美姫 「動物も生きるためには食べないといけないしね」
とは言え。畑を荒らされるのも困るしな。
美姫 「一応、ごみ箱の方にも色々としたみたいだけれど」
一体、どうなったのか。
美姫 「流石にここまでされたら、他の場所に行くかしらね」
当人たちにとっては問題かもしれないが、楽しいお話でした。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ではでは。



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