『ピーターラビットのお母さんのお友達のお話』





 これはピーターラビットがまだ生まれる前のお話です。
 その頃お母さんはまだ少女と言っていいお年頃でした、巣である穴の中で御飯の人参を食べているとお母さんのお母さん、お祖母さんにこう言われたのです。
「あんたもそろそろね」
「そろそろって?」
「そう、いいお年頃よね」
 こうお母さんに言ってきたのです。
「もうね」
「結婚してっていうのね」
「そうよ。もうそろそろ結婚してね」
 お祖母さんは自分の方に振り向いてきて耳をぴんと立てているお母さんに言います。
「身を固めて」
「子供も生んで」
「あんたの家庭を持ちなさい」
 こう言うのでした。
「相手を見付けてね」
「相手ねえ」
「今誰かいないの?付き合ってる子とか」
「いないわ」
 あっさりとです、お母さんはお祖母さんに答えました。
「特にね」
「やれやれね。相手がいないって」
「駄目かしら」
「駄目も駄目よ」
 言うまでもないことだというのです、このことは。
「全く、あんたは」
「あんたはっていうけれど」
「とにかくね」
 また言うお祖母さんでした。
「もうあんたもいい歳なのよ」
「結婚する、ね」
「お母さんも丁度あんたと同じ頃だったわ」
 それこそというのです。
「お父さんと結婚したのよ」
「あら、そうなの」
「そうよ。だからあんたもね」
 結婚しなさいというのです。
「いいわね」
「そう言われても」
 どうかとです、お母さんは困った感じのお顔になってお祖母さんに言いました。そのお母さんのお母さんにです。
「どうもね」
「結婚しようって思えないの?」
「まだそんな歳じゃないって思ってたわ」
「今日からそれが変わったのよ」
「今日からなの」
「そう、そうした歳になったから」 
 だからだというのです。
「いいわね、相手見付けなさいよ」
「見付からなかったらどうするの?」
「その時はお母さんがいい相手を紹介するわ」
 その時はその時でだというのです。
「そうするからね」
「そうなのね。徹底してるわね」
「徹底してるも何も結婚して家庭を持たないと」 
 とてもだというのです。
「駄目でしょ」
「それはそうよね」
 お母さんもわかっていました、兎も家庭を持ってこそです。
「それじゃあ」
「そう、お外に出て」
 相手を見つけてきなさいというのです、こうしてお母さんは半ば強引にお外に出されて相手を見付けることになりました
 それでお外に出て他の兎達を見て回ると。特にです。
 これといった雄兎が見えません、それで一緒にいたお友達にこう言うのでした。
「何か誰もね」
「一緒に見えるっていうの?」
「誰もこれといって」
 相手がいないというのです。
「特にね」
「そうなのね」
「そうなの、お母さんにそろそろ結婚相手見付けろって言われたけれど」
「私もよ」
 お友達もそう言われたというのです。
「お母さんにね」
「あんたもなのね」
「そうなの、けれどね」
「これといった相手が見付からないのね」
「私の好みは黒い毛並みの人だけれど」
 お友達はお母さんに自分の好みもお話しました。
「けれどね」
「黒兎ね」
「今いないわね」
「そうね、赤や茶色の兎はいても」
「お家にいる兎は別だから」
 野兎である自分達とはというのです。
「穴兎だから」
「そうそう、また違うわよね」
「だから野兎の中から探してるけれど」
「それでもね」
 相手がいないというのです、その黒兎が。
 それで、です。お友達は困ったお顔でお母さんに言いました。
「だからちょっとね」
「今はなのね」
「そう、他のところに行くわ」
 今自分達がいる場所とは別の兎の集会場にというのです。
「そうするわ」
「そうね、じゃあ私も」
「あんたもなのね」
「あんたと一緒に行くわ」
 お母さん狐はこうお友達に言いました。
「そうするわ」
「そうなのね、じゃあここから」
「何処に行こうかしら」
「お池の方に行きましょう」
 そこにも兎の集会場があるからです。お池の傍には美味しい草も一杯あります。それでそこにも集まるのです。
「あそこにね」
「そうね、ただ」
「ただ?」
「最近あそこに狐が出るっていうけれど」
「あっ、狐は別の場所に行ったわ」
 兎にとってとても怖い狐達はというのです。
「だから心配しないで」
「そうなのね。それじゃあ」
「ええ、今からね」
 こうお話してでした、お母さんはお友達と一緒にお池の集会場に行きました。するとそこにも兎が一杯いました。
 その中で、です。お友達は一匹の黒い雄兎を見て目をきらきらとさせて言いました。
「あの人いいわね」
「あんたの好みよね」
「ええ、凄くね」
 こうお母さんに答えるのでした。
「動きも速いし」
「あの人に声をかけてみるの?」
「そうしようかしら。けれど」
「けれど?」
「若しもよ」
 ここで、です。お友達は戸惑って言うのでした。
「もう彼女がいたら」
「告白してもね」
「断られるわよね」
「そうなるわね。けれどね」
「言わないとよね」
「何もはじまらないわよ」
 お母さんは自分の横で小さくなってうずくまってしまったお友達に顔を向けて優しく声をかけるのでした。お友達として。
「そうしないとね」
「そうよね。それじゃあ」
「若し怖いのならね」 
 それならというのです。
「私が一緒にいるけれど」
「そうしてくれるの?」
「そう、そうするわよ」
 こうお友達に言うのでした。
「それならどうかしら」
「悪いわね、そうしてくれるの」
「お友達だからね」
 それは当然だというのです。
「いいわよ」
「悪いわね、それじゃあ」
「ええ、今からね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 お友達はお母さんに付き添われて二匹で一緒にその黒兎のところに来ました、そうしてです。
 お母さんがそっとです、お友達に言いました。
「じゃあね」
「ええ、今からね」
「頑張るのよ」
 優しく言葉で背中を押しました、それを受けて。
 お友達は勇気を振り絞って黒兎に尋ねました。
「ええと、今付き合ってる兎は」
「いないよ」
 黒兎は明るい声でお友達に答えました。
「一人なんだ」
「そ、そうなの」
「それでお袋に言われてるんだ」 
 黒兎は笑ってお友達に言います。
「早く相手を見付けろって」
「そうなのね、じゃあ」
 ここまで聞いてほっとしてでした、そのうえで。
 お友達はごくりと息を飲んでからです、黒兎に言いました。
「よかったら私と」
「君と?」
「そう、付き合ってくれないかしら」
「僕でいいのかな」
 告白を受けてです、黒兎はこうお友達に問い返しました。
「家には何もないよ」
「何もなくても」
 それでもだというのです。
「私貴方が気に入ったから」
「だからなんだ」
「貴方さえよかったら」
 おずおずとです、黒兎に言うのでした。
「私と一緒に」
「うん、じゃあね」
 黒兎も笑顔で応えます、こうしてお友達は交際相手を見付けることが出来ました。まずはここからでした。
 お友達は黒兎と楽しく跳ね回って遊びました、お母さんはその二匹を優しい目で見守りました。そしてお友達は跳ね回りの後でお母さんのところに戻ってきました。お母さんはそのお友達に顔を近付けて言いました。
「よかったわね」
「うん、本当にね」
 お友達もとても嬉しそうな声で応えます。
「交際がはじめられたわ」
「まだ結婚は約束していないのよね」
「それはね」
 まだです、兎の結婚は早いですがそれでも流石に会ってすぐにという訳にはいかないのです。だからです。
 お友達もまだ結婚の約束はしていません、ですが。
「けれどこのままいったら」
「結婚よね」
「ええ、そうなりそうよ」
「本当によかったわね」
 お母さんも笑顔で応えます。
「相手が見つかって」
「そう思うわ」
 お友達もとても嬉しそうに応えます、幸せの中で。
 それで二匹はそれぞれのお家に戻りました、すると。
 お祖母さんはお母さんからお話を聞いてです、まずは呆れてこう言いました。
「あんたのことは?」
「あっ、そのことはね」
「忘れたのね」
「今思い出したわ」
「何をやってるのよ」
 お祖母さんはその呆れた顔でお母さんに言うのでした。
「一体」
「一体っていっても」
「忘れたからっていうのね」
「仕方ないじゃない。それに次があるでしょ」
「まあそれはそうだけれど」
「だったらね」
 お母さんはとてもあっさりとお祖母さんに言葉を返します。
「私は次見付けるから」
「呑気ね」
「呑気だと駄目なの?」
「狐や狼から逃げる場合以外はいいわ」
 そうした時は必死で逃げなさいというのです。さもないと大変なことになってしまうからです。
「それにおかしな相手と一緒になったら」
「大変よね」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「今はそれでもいいわ」
「そうよね、それじゃあね」
「それでもよ。本当にあんたは」
 まだ言うお祖母さんでした、やっぱり呆れているお顔で。
「早いうちに相手を見付けなさいよ」
「わかってるわ、また集会場に行くから」
「それでよね」
「ええ、相手は探すわ」
「そうしなさい、それで自分のお家を持ちなさい」
「そうするわ」
 こうしたお話をしたのでした、お母さんも若い時はこんなのでした。ピーターラビットも妹さん達も知らないお母さんでした。


ピーターラビットのお母さんのお友達のお話   完


                           2014・1・16



お母さんがまだお母さんになる前の話みたいだな。
美姫 「みたいね」
のんびりした性格っぽいが。
美姫 「まあ、慌てる必要もないと思っていたのかもね」
いやてっきり、初めは二人の出会いかと思ったが。
美姫 「そうじゃなかったわね」
だな。お友達の方だったな。
美姫 「まあ、お祖母さんの心配はあったけれど、今はお父さんと一緒になっているしね」
その辺の話もあったりするのかな。
美姫 「どうかしらね」
今回もほのぼのと読ませてもらいました。
美姫 「次回も待っていますね〜」
ではでは。



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