『ピーターラビットのお父さんのお話』





 これは少し昔のお話です、まだピーターラビットもピーターの妹さん達もまだ小さかった頃のお話です。お父さんはお母さんに巣の中でこう言いました。
「今からちょっと遊びに行って来るよ」
「遊びにって何処になの?」
「うん、マグレガーさんのお家のところにね」 
 そこに行くというのです。
「遊びに行って来るよ」 
「マグレガーさんのところって」
 その場所に行くと聞いてです、お母さんは困った顔でお父さんにこう言いました。
「危ないわよ」
「マグレガーさんご夫婦はヒステリックだからね」
「そうよ、それに兎が大好物なのよ」
 兎のお肉がです。
「だから捕まったりしたら」
「食べられるかも知れないね」
「絶対にそうなるわ」
 だからだとです、お母さんはお父さんを止めようとします。
「折角今日は休日だから」
「休めばいいっていうんだね」
「ここでね」
 巣の中でだというのです。
「そうした方がいいわよ」
「そうは言ってもね、グラハム君と約束したんだ」
「あそこに遊びに行こうって?」
「そうなんだ、だからね」
「お付き合いなのね」
「だからいいだろう?」
 お父さんはお母さんに頭を下げて頼み込みました。
「行っても」
「仕方ないわね。けれどね」
「くれぐれもマクレガーさんにはだね」
「そう、気をつけてね」
「わかってるよ、僕もパイにはなりたくないからね」
 お父さんもこうお母さんに言います。
「食べられない様にするよ」
「頼むわよ」
「うん、じゃあね」
 こうしたことをお話してからです、お父さんは巣から出てグラハムさんと待ち合わせをしました。そうしてなのでした。
 グラハムさんからです、こう言ってきました。
「じゃあ今からね」
「マクレガーさんのところに行ってだね」
「遊ぼう、あのお家の畑のお野菜美味しいからね」
「レタスが美味しいんだよね」
「そう、それと蕪の葉っぱがね」
 それも美味しいとです、グラハムさんはお父さんに今からとても楽しそうに言います。
「だから行こうね」
「うん、ただ女房に言われたけれど」
「奥さんにかい」
「あそこは危ないから気をつけろってね」
 お父さんは自分の奥さんに言われたことをグラハムさんにそのままお話します。
「そう言われてるけれど」
「気をつけるのは当然だね」 
 そのことはグラハムさんもわかっています、それでお父さんにこう言うのでした。
「さもないと捕まってね」
「食べられるからね」
「僕だって食べられたくはないよ」
 グラハムさんもでした、そうなりたくないのは。
「だからね」
「気をつけてね」
「遊びに行こう」
 こうお話してでした、お父さんとグラハムさんは二匹でマクレガーさんの畑に行きました。するとそこには様々な野菜がありました。 
 レタスにキャベツ、人参に蕪にです。美味しそうなお野菜が一杯あります。グラハムさんはその野菜達を見て耳を立てて自分自身も立って言いました。
「どれも美味しそうだね」
「そうだね、それじゃあね」
「何を食べようかな」
「レタスがいいかな」
 お父さんは緑の綺麗なレタス達を見て言います。
「あれかな」
「そうだね、あれがいいかな」
「人参もいいね」
「じゃあレタスを食べた後は人参を食べよう」
 グラハムさんは今度は人参畑を見てお父さんに応えました。
「そうしようね」
「それでマクレガーさんが来たら」
「その時は逃げよう、出来れば見つかる前にね」
「そうしようね」
 お父さんはグラハムさんとお話をしてです、そしてでした。 
 二匹でこっそりとレタス畑に行きました、そうしてまずはレタスをかりかりとかじります。そのレタスの味はといいますと。
「美味しいね」
「そうだね」
 お父さんはレタスをかじりながら同じレタスをかじっているグラハムさんに応えます。
「前のレタスより美味しいね」
「いい肥料使ってるのかな」
「そうみたいだね」
「マクレガーさんのレタスは前から美味しいけれど」
「今は特にだね」
「そうだね」
 こう二匹でお話しながらレタスを楽しみます、そして。
 レタスを一個食べ終えてからです、グラハムさんはお父さんに目を輝かせて言いました。
「じゃあ今からね」
「いよいよだね」
「人参を食べよう」
 兎の一番の大好物のそれをだというのです。
「そうしよう」
「そうだね、それじゃあね」
 こうお話してでした、二匹で人参畑に向かいます。
 そして人参を掘り起こして一個食べます、その人参もでした。
「これも美味しいね」
「そうだね」
「本当にマグレガーさんいい肥料使ってるね」
「変えたんだね、いい肥料に」
 肥料がよくなりとお野菜もよくなる、そういうことです。
「だからこの人参もね」
「いいよね」
「じゃあこれも食べて」
「後はね」
 何を食べようかというのでした。
 そうしたお話をしながらです、グラハムさんはお父さんに尋ねました。
「大丈夫かな」
「マクレガーさんだね」
「うん、あそこ見て」
 マクレガーさんのお家の方を見ます、するとです。
 家で買われている犬がこちらを見ています、グラハムさんはその犬を見てお父さんに対して言ったのです。
「犬が気付いたかも」
「じゃあまずいかな」
「今のうちに逃げた方がいいかな」
「そうかも知れないね」
 お父さんはこうグラハムさんに言いました。
「今はね」
「そうだね、じゃあ」
「逃げようか」
「その方がいいかもね、じゃあね」
「うん、犬が吠えないうちにね」
「そうしよう」
 こうお話してでした、二匹が逃げようとすると。
 犬が吠えました、そしてその声を聞いてです。
 マjクレガーさんが飛んで来ました、その手には猟銃があります。その猟銃を見てです、グラハムさんはお父さんに逃げました。
「ここは一直線に逃げないでね」
「ジグザグに逃げようか」
「あそこの茂みまでね」
 グラハムさんは少し離れている茂みを指し示しました。
「逃げよう」
「そうしよう、じゃあね」
 二匹で頷き合ってでした。 
 お父さんとグラハムさんはジグザグに動いて逃げます、その後ろから。
 猟銃の音が聞こえてきます、まるで雷が落ちたみたいです。
 そしてです、拳銃が地面をえぐります。それを見てです。
 グラハムさんはお父さんにです、必死に駆けながら言いました。
「わかってると思うけれどね」
「うん、猟銃にはね」
「当たらないようにしてね」
「当たったら終わりだからね」
 お父さんも必死に駆けながら応えます、ジグザグに駆けながら。
「だからだね」
「そう、逃げようね」
「それじゃあね」
「茂みまで逃げたら」
 お父さんは今の目的地の茂みを見つつ言いました。
「とりあえず猟銃は心配しなくていいけれど」
「マクレガーさんから僕達は見えなくなるからね」
「うん、いいけれど」
 それでもだとです、お父さんは言います。
「問題はね」
「犬だよ」
 後ろから犬の吠える声がまだ続いています、しかもです。
 その声が近くに寄ってきています、つまりそれは。
「マクレガーさん放したよ、犬を」
「そうみたいだね」
「だから捕まったらね」
「やっぱり終わりだね」
 猟銃の弾に当たった時と同じ様にです。
「僕達は犬かマクレガーさん達に食べられるよ」
「どっちがいいかな」
「どっちも嫌だよ」
「うん、僕もだよ」
 それはどちらもです、二匹の意見は一致していました。
「それじゃあね」
「うん、今はね」
 こう言ってです、そしてなのでした。
 二匹はジクザグに、必死に駆けつつ茂みに向かいます。猟銃の音がまた聞こえてきてお父さんの近くに落ちます。しかしです。 
 お父さんには当たりません、お父さんは必死に駆けつつ言います。
「よかったよ」
「うん、当たらなかったね」
「何とかね、じゃあね」
「もうすぐだよ」
 茂みにです、グラハムさんも駆けつつ言います。
「あそこまでね」
「そうだね、あそこまで行ったら」
「猟銃の心配はなくなるから」
 そのことが安心になります。
「けれどね」
「うん、後はね」
「そう、犬だよ」
 猟銃の心配はなくなってもです、それでもです。
 まだ犬がいます、その犬についてはです。
 お父さんはグラハムさんにです、こう言いました。
「どうしたらいいかな」
「そうだね、ここはね」
「うん、どうしたらいいかな」
「とりあえず茂みの中を進んでね」
 そうしてだというのです。
「後はね」
「後は?」
「穴があればね」
 二匹は兎です、兎だからこそです。
「そこに入ってね」
「やり過ごすんだね」
「あの犬は大きいからね」
 二匹の何十倍もの大きさです、かなり大きなマスチフ犬です。
「僕達が入る様な穴には入られないから」
「うん、だからだね」
「安心していいから」
 それでだというのです。
「そこまで行けばね」
「穴だね」
「穴は何処かにあるよ」
 絶対にだというのです。
「だからね、そこまで行ってね」
「犬をやり過ごせばだね」
「僕達は助かるよ」
 絶対にだというのです。
「そこまで逃げよう」
「うん、じゃあね」
 お父さんはグラハムさんの言葉に頷きました、そうしてです。 
 二匹は何とか茂みまで辿り着きました、後ろからマクレガーさんの無念そうな声が聞こえてきました。ですが。
 まだ犬の声が聞こえてきます、それでなのでした。
 二匹は茂みの中、草が鬱蒼と生い茂っている中もジグザグに駆けていきます。その中においてなのでした。
 お父さんは匂いを頼りにです、今は姿が見えないグラハムさんに言いました。
「穴、あるかい?」
「いや、ないよ」
 グラハムさんの声が返ってきました。
「こっちにはね」
「そうなんだね」
「そっちはどうかな」
「いや、こっちもね」
お父さんも言葉を返します。
「まだ見つからないよ」
「犬はまだ来てるよ」
 グラハムさんはこのことも言ってきました。
「それはわかるよね」
「うん、気配を感じるよ」
 確かにです、駆ける時の息の音も聞こえてきそうです。
「確かにね」
「そうだよね、だからね」
「犬をやり過ごす為に」
 まさにその為にです。
「穴を見つけないと」
「そう、何処かないかな」
「若しかしたら」
 ここで、です。お父さんはふと思いました。
「茂みを超えて森に入るとね」
「そこにだね」
「うん、木が一杯あるから」
 そしてその木にというのです。
「木の下に穴熊さんが掘ってそのまま置いてある穴があるから」
「そこに入るんだね」
「あの犬は大きいから穴熊の穴にまで入られないから」
 マスチフ犬はとても大きいです、それで穴熊の穴、それが小さいものなら入ることが出来ないのです。
「そこに入ろう」
「そうだね、それじゃあね」
「まずは茂みを越えて」
 お父さんは今も必死に駆けながらグスタフさんに言います。
「それからだよ」
「よし、じゃあね」
 グスタフさんも声で頷いてきました、そうしてです。 
 お父さんとグスタフさんは何とか茂みを越えました、そして森の中に入り。
 森に入ってすぐの木の下に穴を見つけました、その時にはお父さんとグスタフさんは無事に合流出来ていました。
 その穴を見てです、グスタフさんが言ってきました。
「丁度いいね」
「うん、穴熊の穴だよ」
「穴熊がまだ中にいるかな」
 ここでふとです、グスタフさんはその可能性を考えました。
「あそこに」
「そうかも知れないね、けれど」
「それでもだね」
「うん、穴熊は僕達を食べないからね」
 この森の穴熊達はそうです、木の実等ばかり食べているのです。
「だから中に飛び込んでもね」
「嫌な顔はされてもだね」
「食べられはしないよ」
 最悪の心配はないのです。
「だからね」
「中に入っても大丈夫だね」
「うん、それに今はね」
 犬の気配は今も近付いてきています、猶予はありません。
「何とか逃げないとね」
「駄目だからね」
「穴の中に入ろう」
 お父さんはグスタフさんに言いました。
「すぐにね」
「よし、じゃあね」
 グスラフさんはお父さんの言葉に頷きました、そうして。
 二匹はその穴の中に飛び込みました、そして穴の奥まですぐに潜り込みました。するとです。
 穴の外から犬の声が聞こえてきました、グルルととても恐ろしそうです。
 グラハムさんはその声を聞いてです、お父さんに言いました。
「いるね、外に」
「うん、僕達を探してるね」
 お父さんもグラハムさんに応えて言います。
「間違いなくね」
「そうだね、僕達がここにいるってことは」
「わかると思うよ、犬の鼻は凄くいいからね」
 それこそ兎のものとは比べものにならない程です、だからです。
「僕達のこともね」
「すぐにわかるね」
「うん、だからね」
 それでだというのです。
「暫くはここにいないとね」
「危ないね」
「幸いここには穴熊もいないし」
 見ればいません、今は留守なのかもう使っていない穴なのかはわかりませんが。
「暫くはここにいよう、犬も入って来れないし」
「そうだね、それじゃあね」
 グラハムさんもお父さんの言葉に頷きます、そしてでした。
 二匹は穴の奥で息を潜めて隠れました、耳だけそばだてて。
 犬の声は穴の入口からずっと聞こえています、それを聞いて二匹は犬が自分達がここにいることがわかったことがわかりました。
 だから余計に息を顰めました、するとです。
 遠くからマクレガーさんの声が聞こえてきました。
「おい、もう帰るぞ」
「ワン」
 犬はご主人の言うことを聞くものです、それでなのでした。
 犬もお父さん達を諦めるしかありません、それで今はお父さん達が隠れている穴の前から去りました。犬の気配が遠くに消え去っていったのを確認して。
 そしてでした、お父さんはグラハムさんにそっと囁きました。
「行ったみたいだね」
「うん、そうだね」
「僕達助かったみたいね」
「けれどね」
 それでもだとです、グラハムさんは慎重な声でお父さんに言います。
「油断は出来ないよ」
「そうだね、じゃあ」
「そっと外に出てね」
 そうしてだというのです。
「入口を確かめてね」
「それからだね」
「お家に帰ろう」
「それぞれのね」
 こうお話してなのでした、二匹はそっと入口の方に出てです。
 きょろきょろと周りを見回します、ちゃんと耳も立てて音も聞き逃しません。
 そうして犬も他の危険な生き物もいないことを確かめてからです、二匹は顔を見合わて頷き合ってからそれぞれのお家に帰りました。
 お父さんはお家に帰ってお母さんに今日起こったことを全部お話しました、ピーターや子供達はもう皆ぐっすりと寝ています。
「いや、本当に危なかったよ」
「そうね、よく無事だったわね」
「マクレガーさんは猟銃を持って来たしね」
「それにあそこの犬も出て来たのね」
「それでもね、何とかね」
 助かったというのです。
「本当に運がよかったよ」
「ええ、だからね」
「マクレガーさんのところに行くのは止めた方がいいね」
「もう少し運が悪かったらね」
 その時はだというのです。
「食べられていたわよ」
「そうだね」
「パイにされていたわよ」
「そういえばマクレガーさんって兎のパイが好きだったかな」
「人間は皆好きよ」
 お母さんはお父さんに怖い声でこう言いました。
「だから私もあそこには行かないから」
「その方がいいね」
「さもないとね」
 それこそです、捕まるか撃たれるかすれば。
「食べられるわよ」
「そうなったら終わりだからね」
「子供達にも言っておきましょう」
「うん、あそこには行かない様にねってね」
「そのことはね」
 こう二匹で言うのでした、お父さんは何とか肉のパイにならずに済みました。ピーター達もマクレガーさんのところには行かない様厳しく注意されたのでした。


ピーターラビットのお父さんのお話   完


                             2013・11・17



ピーターラビットって名前は聞いた事があったけれど。
美姫 「お話もあったのね」
みたいだな。うさぎのほのぼのした話かと思ったけれど。
美姫 「猟銃や食べられるとか」
意外にもリアルな部分もあるなんてな。
美姫 「短編の形で進むのかしら」
どうなのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る