『新オズのかかし』
第四幕 小公子
使節団は四姉妹の国から今度は小公子の国に来ました、この国は伯爵さんが主を務めている領地が国家となったものでして。
農園や牧場があって皆のどかに暮らしています、国民の人達のお家があってです。
色々なお店があって見事なお屋敷があります、そのお屋敷の正門の前に来てかかしは皆にこう言ったのでした。
「この国が小公子の国なんだよ」
「そうなんですね」
「この国がなんですね」
「小公子の国ですね」
「何か領地っていう感じですね」
「この国は」
「そうだよ、小公子のお祖父さんがね」
この人がというのです。
「小公子の前にオズの国に来て」
「そうしてですね」
「領主さんになって」
「そしてその後で、ですね」
「小公子さんも来られて」
「一緒に住んでおられるんですね」
「そうだよ」
かかしはナターシャ達五人の子供にお話しました。
「この国でね」
「そうですか」
「街や村があるんじゃなくて」
「所々にお家があって」
「欧州の領地って感じですね」
「漫画や童話に出て来る」
「そうなんだ、そしてこの国にだよ」
かかしはさらに言いました。
「小公子がいるよ」
「そうだね、それで彼は今何処にいるのかな」
樵はかかしに尋ねました。
「それで」
「このお屋敷の中だよ」
かかしは樵にも答えました。
「僕達がこれから中に入るね」
「そうなんだね」
「だからね」
それでというのです。
「今からね」
「お邪魔するんだね」
「そうしようね」
こうお話してでした。
皆で鉄の柵に覆われた見事なお庭とその向こうにある立派なお屋敷を見ながら正門のところにある赤いボタンを押そうとするとでした。
門の方から奥に向けて開きました、そしてすぐに門の上のガーゴイルの石像から声がしてきました。
「今からかそちらに向かいます」
「その声は」
「はい、セドリックです」
こうかかしに言ってきました。
「今からお伺いしますので」
「待っていればいいんだね」
「はい」
そうだというのです。
「お待ち下さい」
「それではね」
かかしが頷いてでした。
使節団の皆も待つことにしました、するとです。
すぐに小柄で金髪のとても立派な服と帽子を身に着けた男の子が来てです、一行に頭を下げて挨拶をしました。
「ようこそいらっしゃいました」
「こちらこそ」
使節団の代表であるドロシーが応えました。
「お邪魔させてもらうわ」
「はい、それでは」
「これからね」
「何かとご覧になって下さい、お屋敷の中にです」
セドリックは笑顔でこうも言いました。
「皆さんお待ちです」
「伯爵さんがね」
「お祖父様とお母さんがです」
「おられるのよね」
「はい」
そうだというのです。
「僕は」
「オズの国に来て」
「一緒に暮らしています」
「そうよね、それじゃあ」
「案内させて頂きます」
こうお話してでした。
皆で一緒にです、小公子に案内されてでした。まずは左右対称で薔薇や菖蒲、百合や菫で彩られてお池や噴水がある庭園を通ってでした。
見事な宮殿を思わせるゴシックなお屋敷の前に来ました、そうしてお屋敷の中に入るとその中はでした。
「久し振りに来たけれど凄いね」
「そうだね」
臆病ライオンとジャックはお屋敷の中を見回してお話しました。
「お屋敷の中も」
「古風な木造建築で」
「ダークブラウンの色でね」
「しっかりした造り方で」
「凄くいいね」
「本当にね」
「階段だって立派で」
そちらも観てお話するのでした。
「手すりの真鍮も金色でね」
「隅から隅までお掃除されていて」
「清潔でね」
「しかも上品で」
「絵も飾られていて」
「いい風景画だね」
「白いカーテンも清潔感があるしね」
こうお話するのでした、そして古風な十九世紀の灯を模した蛍光灯がところどころにあって左右に扉が連なっている廊下の中を進んでです。
一行は応接間に案内されました、そこにグレーの髪とお洒落でかつ上品な口髭を生やして赤いベストと白いブラウスにダークグレーのスラックスと青いネクタイと黒い靴を身に着けたお年寄りの男の人と出会いました。
お年寄りは微笑んでです、一行に挨拶をしました。
「お待ちしていました」
「お久しぶり、伯爵さん」
ドロシーはこの人にも笑顔で挨拶をしました。
「お元気そうね」
「はい、この通りです」
伯爵さんは笑顔で応えました。
「満足に歩けて乗馬もゴルフもです」
「楽しめているのね」
「テニスも水泳も」
そうしたスポーツもというのです。
「若い頃の様に」
「そうなのね」
「いや、外の世界ではです」
その頃はといいますと。
「痛風で辛かったですが」
「足が痛くて」
「もうそよ風でも当たると」
その時はといいますと。
「痛くて仕方なかったですが」
「今はなのね」
「健康そのもので」
そうした状態でというのです。
「スポーツを楽しめて孫もいまして」
「幸せなのね」
「心から」
とても明るい充実した笑顔での返事でした。
「そうです」
「それは何よりね」
「はい、そして」
さらにお話するのでした。
「今回は来て頂いて何よりです、我が国をです」
「見ていいのね」
「隅から隅まで」
「それでは案内もしてくれるかしら」
「是非共」
「僕もご一緒させてもらって宜しいでしょうか」
小公子も言ってきました。
「この度は」
「勿論よ」
ドロシーは小公子にも応えました。
「それではね」
「はい、まずはお屋敷の中を案内させてもらいますね」
「宜しくね」
「そうだね、僕達はこのお屋敷のことを知っているけれど」
ドロシーの足元にいるトトが応えました。
「けれどね」
「それでもね」
「ナターシャ達は違うからね」
「それでよ」
だからだというのです。
「今回はね」
「まずはお屋敷の中をだね」
「セドリック達に案内してもらって」
そうしてというのです。
「それからね」
「あらためてだね」
「そう、お庭も案内してもらって」
「国の中もね」
「そうしてもらいましょう」
「それじゃあね」
トトはドロシーの言葉に頷きました、そうしてでした。
一行はお屋敷の中を案内してもらいました、その中は臆病ライオンとジャックがお話した通り古風な木造建築で清潔で上品でいてです。
「古風でね」
「何か落ち着いてるね」
「充実していて」
「静かで」
「雰囲気がいいわね」
「ははは、これが十九世紀のイギリスだよ」
伯爵さんは案内しつつナターシャ達五人に笑ってお話しました。
「気に入ってもらえたみたいだね」
「はい、とても」
「これが当時のイギリスですね」
「貴族の人のお屋敷ですね」
「凄くいいですね」
「ずっといたい位です」
「そう言ってくれて嬉しいよ、君達はこの国に来たのははじめてだが」
それでもと言う伯爵さんでした。
「気に入ってくれたならね」
「嬉しいですか」
「伯爵さんも」
「そうなんですね」
「僕達がこのお屋敷を気に入って」
「そうなんですね」
「わしの家だからね」
だからだというのです。
「やっぱりだよ」
「気に入るとですね」
「好きになるとですね」
「それで、ですね」
「嬉しいですね」
「そう言われると僕達もですし」
「自分の家を好きになってもらうと嬉しいのは誰でもだよ」
まさにというのです。
「もうね」
「そういうことですね」
「実際にいいお屋敷です」
「広いですし立派ですし」
「何かと充実していますし」
「凄くいいお屋敷です」
「しかしここはずっと暗いお屋敷だった」
伯爵さんはここでこんなことを言いました。
「残念だが」
「セドリックさんが来られるまで」
「それまでですね」
「このお屋敷は暗かった」
「伯爵さんと使用人さん達だけおられて」
「そうだったんですね」
「この子が来たからだよ」
伯爵さんは前を歩きながら自分の隣にいるセドリックを微笑んで観てお話しました。
「一変したんだよ」
「そうですね」
「その時からですね」
「このお屋敷が変わったのは」
「本当に一変しましたね」
「セドリックさんが来られて」
「わしはずっと暗く怒ってばかりだった」
その時のことを思い出して言うのでした。
「痛風でな」
「何か凄く痛いんですよね、痛風って」
ナターシャは痛風と聞いてこう言いました。
「どうも」
「足の親指の付け根がですよね」
ジョージも言います。
「物凄く痛くなるとか」
「万力で締め付けられるみたいで」
恵梨香はその傷み方のお話をしました。
「凄いって」
「それからちょっと人と肩が当たったりそよ風が当たっても」
そうなってもと言うカルロスでした。
「痛むって」
「それでまともに動けなくなって」
神宝も伯爵さんに言いました。
「大変なんですよね」
「そうだった、しかしそれもだよ」
その痛風もというのです。
「今はないしね、しかもセドリックがいるから」
「伯爵さんもですね」
「とても明るく暮らせていますね」
「そうなんですね」
「このオズの国に来て」
「そうなんですね」
「そうなのだよ」
まさにというのです。
「有り難いことにね」
「そうですか」
「それは何よりですね」
「痛風でなくなって」
「セドリックさんもおられて」
「それで明るくなれて」
「明るくかつ優しく寛容になれた」
また小公子を見て言うのでした。
「セドリックが来てくれてから」
「若しもだね」
かかしも言ってきました。
「セドリックが来なかったら」
「わしはずっとです」
「痛風で苦しんでいて」
「陰気で怒ってばかりでいてでした」
「そうして生きていたね」
「面白いことなぞ何も感じず」
そうであってというのです。
「本当に下らない」
「そんな人生だったね」
「そうでした、しかし」
「それがだね」
「この子が来てから」
今もセドリックを見て言いました。
「一変して」
「それでだね」
「幸せに過ごせる様になって今は」
「オズの国でだね」
「こうして一緒に暮らしています」
また小公子を見て言うのでした。
「嬉しいことに」
「嬉しいんだね」
「心から」
そうした笑顔でのお返事でした。
「左様です」
「お祖父様が笑顔で僕も嬉しいです」
セドリックも言います。
「本当に」
「そうだね」
「はい、何よりです」
「君は笑顔が大好きだね」
「皆の笑顔が。優しさと明るさが」
そうしたものがというのです。
「本当にです」
「大好きだね」
「そうなんです、アメリカから来てよかったです」
「オズの国もだね」
「大好きです」
まさにというのです。
「本当に」
「そうだね、それではね」
「これからもですね」
「お祖父さんと一緒にね」
「オズの国で暮らしていきます」
こうしたお話をしながらです。
お屋敷の中を案内してもらってでした、お花とお水が豊かな黄色い葉も奇麗なお庭を案内してもらってです。
お国の中もとなりましたがここでお昼の時間になってです。
皆実際にお昼ご飯を食べました、お外で食べましたが。
「ああ、ビーフステーキだね」
「はい、メインは」
伯爵さんは魔法使いに答えました、お外の木のテーブルに皆で座ってそのうえで楽しく食べています。
「そうです」
「そうだね」
「それにです」
ビーフステーキに加えてです。
「鱈のムニエルにサラダに蕪とセロリとブロッコリーのスープです」
「コンソメスープだね」
「付け合わせに茹でたジャガイモで」
見ればそれもあります。
「パンもあります」
「いいね」
「そう言ってくれて何よりです、飲みものはミルクに」
それにでした。
「ワインもあります」
「赤ワインだね」
「そうです、セドリックはワインは飲めないですが」
「ミルクが大好きで」
小公子も言ってきます。
「いつも飲んでいます」
「それで二人で乾杯もです」
「よくしています」
「ううん、何かね」
ジャックはそんなお二人特に伯爵さんを見て言いました。
「伯爵さんが昔陰気な人だったとか」
「思えないわよね」
「全くね」
ドロシーにまさにと答えました。
「明るくて温厚で上品な」
「人好きのする紳士さんね」
「最初にお会いした時から」
まさにその時からというのです。
「そう思っているよ」
「私もよ。けれどね」
「昔は違っていたね」
「そうだったのよ」
「伯爵さんご自身が言う様に」
「そうだったのよ」
これがというのです。
「本当にね」
「そうなんだね」
「陰気でいつも怒っておられて周りにも冷たい」
「今と全く逆な」
「そうした人だったんだよ」
「それが変わったんだね」
「セドリックが来てからね」
まさにその時からというのです。
「そうなのよ」
「凄く変わったんだね」
「そうよ」
まさにというのです。
「本当にね」
「それは凄いね」
「そう、凄いでしょ」
ドロシーも思うことでした。
「まさにお孫さんとお会いして」
「それからだね」
「何もかもが変わったのよ」
「素敵な出会いだったんだね」
「ええ、伯爵さんが変わって」
そうなってというのです。
「領地の人達もね」
「変わったんだね」
「そうなのよ」
「今この国はとてものどかで」
臆病ライオンはステーキを一枚ぺろりと平らげました、それからすぐにお代わりを持って来てもらって言いました。
「明るいけれど」
「それがね」
「セドリックが来るまではだね」
「暗くてね」
「今とは真逆だね」
「そうした国だったのよ」
「それが全て変わったんだね」
「明るくてのどかで」
そうであってというのです。
「隅から隅まで充実した」
「そうした国になったんだね」
「セドリックが隅から隅まで見て」
そうしてというのです。
「領地の全ての人を見てお話をして」
「色々だね」
「理解して思いやって」
「伯爵さんにお話するから」
「こうしたね」
「とてものどかで明るい」
「いい領地になってね」
そうしてというのです。
「それでね」
「オズの国でだね」
「いい国になっているのよ」
「そういうことだね」
「若しも」
ジャックはこんなことを言いました。
「セドリックが来なかったら」
「その時は酷いままでした」
伯爵さんが応えました。
「まことに」
「暗いままだったんだ」
「はい」
まさにというのです。
「まことに」
「そうなっていたんだね」
「私は暗く沈んでいて」
「何かあるとすぐに怒って」
「常に不機嫌で」
そうであってというのです。
「喜びや楽しさを感じず」
「生きていったんだ」
「家や領地の者達にも冷たく」
「何かね」
ジャックは伯爵さんのそのお話を聞いて言いました。
「オズの国ではとても考えられない」
「そうした人生ですね」
「喜びも楽しさもなかったんだよね」
「はい」
まさにというのです。
「そうでしたしセドリックが来なければ」
「絶対にそんな人生送りたくないね」
「ですがセドリックが来てくれて」
そうなってというのです。
「一変しました」
「こんなに明るくなったんだね」
「そうでした」
「お祖父様はとてもいい人ですよ」
セドリックはとても明るい笑顔で言いました。
「誰にとっても」
「そうなったのは全てセドリックのお陰です」
伯爵さんは優しい笑顔で言いました、そんな和気藹々として明るい状態でお昼ご飯を食べました。そうしてです。
その後は領地の中を巡りましたが愛犬と一緒に皆を案内してくれるセドリックは今も伯爵さんと一緒にいつつこんなことを言いました。
「お母さんもいて」
「あっ、あの人だね」
魔法使いはその人のことを言われて頷きました。
「あの人は確か今は」
「はい、お屋敷に住んでいまして」
「一緒にだね」
「今丁度麦畑に行っていて」
そうしてというのです。
「畑仕事をしている人達のお手伝いをしています」
「そうなんだね」
「お母さんは色々なお仕事をするんです」
セドリックはお母さんのお話をさらにしました。
「畑仕事だけでなく」
「他にもだね」
「ものを運んだり書類のお仕事をしたり」
「何でもするんだ」
「お掃除もお洗濯も」
そうしたものもというのです。
「何でもです」
「そうなんだね」
「アメリカにいた時と同じで」
そうであってというのです。
「本当にです」
「何でもするんだね」
「そうなんです」
「じゃあ今から麦畑に行こうか」
そうしようとです、魔法使いは提案しました。
「セドリックのお母さんがいるね」
「そうしていいですか」
「うん、セドリックにとって大切な人だね」
「お祖父様と同じ位」
その伯爵さんを見て答えました。
「そうです」
「そうだね」
「それじゃあ」
「はい、これから」
「麦畑に行こうね」
こうお話してでした。
皆でその麦畑に行きました、するとそこで農家の人達がとても楽しそうに明るく働いていてその中にです。
ウィンキーの黄色のつなぎの作業服を着たとても優しい感じの大人の女の人がいてそうしてでした。
その人は刈った麦藁を整理する中で一行を見て言いました。
「ドロシー王女ですか」
「ええ、お久し振り」
「すいません、お仕事中で正装でなくて」
「いいわ、お仕事の時はね」
ドロシーは畏まるセドリックのお母さんに微笑んで応えました。
「作業服が正装だから」
「いいですか」
「むしろ進んでお仕事をしていてね」
そうしていてというのです。
「素晴らしいですか」
「そう言わせてもらうわ」
「そうですか」
「ええ、だからね」
それでというのでした。
「気にしないで」
「王女がそう言われるなら」
「セドリックもよくです」
伯爵さんはドロシー達にお顔を向けて言いました。
「国のこうした仕事をです」
「手伝っているんだ」
「そうです」
樵に答えました。
「今日は私と一緒に皆さんの案内をさせてもらっていますが」
「普段はなんだ」
「母親と一緒で」
「お国の色々なお仕事をなんだ」
「自分から進んで」
そうしてというのです。
「しています」
「それは立派だね」
「よく遊んでよく学んで」
「よく働いているんだね」
「とても明るく楽しく」
「そうなんだね」
「まさにです」
こうも言う伯爵さんでした。
「太陽です」
「この国にとって」
「そうです」
樵にとても赤売り笑顔でお話します。
「セドリックは」
「成程ね、伯爵さんにとってセドリックは掛け替えのない存在で」
「この国にとってもです」
「全てを照らしてくれる太陽だね」
「その通りです」
「この国は小公子の国という名前だけれど」
かかしはうんうんと頷きつつ言いました。
「まさにそうだね」
「国家元首は私ですが」
「セドリックが全てを照らしてくれるから」
「小公子の国です」
「そうだね」
「まことに」
「そうだね、本当に全てが照らされていて」
「明るいですね」
「そして何もかもがいいよ、藁だってね」
かかしはその麦藁も観て言いました、黄色いそれ等を。
「素晴らしく質がいいよ」
「そうそう、君の身体の中身は藁だからね」
「だから藁の品質はよくわかるよ」
かかしは樵に答えました。
「本当にね」
「誰よりもだね」
「そう言っていいよ」
実際にというのです。
「オズの国でもね」
「そうだね、じゃあね」
トトがここでかかしにこうしたことを言いました。
「これから入れ替える?」
「藁をなんだ」
「身体の中のね」
「あの藁達は刈り立てで新鮮だしね」
「丁度いいんじゃないかな」
「いいですね」
セドリックも言ってきました。
「それなら今から」
「藁を入れ替えるんだね」
「かかしさんの中の」
「そうするといいんだ」
「はい、そして」
それにというのです。
「快適にされては」
「そう言ってくれるなら」
かかしはセドリックの好意にそれならと頷きました。
「今からね」
「そうしましょう、それに」
「それに?」
「かかしさんの今の藁ですが」
身体の中にあるそれはといいますと。
「使わせてもらっていいですか?」
「藁は藁で色々使えるからね」
「はい、ですから」
それでというのです。
「今からです」
「そうしていいんだね」
「はい、そして」
それにというのです。
「かかしさんは快適になってくれますか」
「それではね」
かかしは笑顔でまた頷きました、そうしてです。
セドリックと彼のお母さんから刈り立ての藁を受け取って自分で藁を入れ替えました、かかしの服のボタンを開けまして。
そこにある古い藁を出して新しい藁を入れます、そうしてあっという間に身体の中の藁を全部新しいものにしますと。
「動きやすいね」
「すぐに終わりましたね」
ナターシャは楽しそうに動くかかしに言いました。
「入れ替えは」
「それもお一人でされましたね」
恵梨香も言います。
「まず古い藁を全部出して」
「そこに新しい藁を入れて」
そうしてと言う神宝でした。
「ボタンを閉めて終わりでしたね」
「身体の中に藁がなくても動けましたね」
カルロスはこのことを言いました。
「服のままで」
「藁がなくても動けるんですね」
ジョージは目を瞠って言っていました。
「そうなんですね」
「うん、こうしてね」
まさにとです、かかしはナターシャ達五人に笑顔で応えました。
「いつも替えてるんだよ」
「お一人で、ですか」
「そうされてるんですね」
「身体の中の藁を替える時は」
「そうなんですね」
「それもすぐに」
「そうだよ」
まさにというのです。
「他の人の手はかけないよ」
「それ位は、ですけれど」
「かかしさんはお一人でされますか」
「凄いですね」
「他の人にあれしろこれしろなんて言わないで」
「ご自身だけでなんて」
「それがかかし君だよ、誰かに気遣いをさせることはね」
樵が五人に言いました。
「ちゃんとしてるよ」
「そう言う君だってだね」
かかしはその樵に突っ込みを入れました。
「油を差して磨くことも」
「うん、この身体の隅から隅までね」
「君はしているね」
「そうしてだよ」
まさにというのです。
「誰にも手をかけさせることはないよ」
「それじゃあお互い様だね」
「そうだね」
「こうした人達だから」
ナターシャはそれでと言いました。
「皆好きなのね」
「そうよね」
「かかしさんも樵さんもね」
「オズの国で屈指の人気者だけれど」
「その心もあってだね」
「そうよ、二人共とてもいい人達だから」
二人の一番の友人であるドロシーもお話します。
「人気があるのよ」
「そうですね」
「それは当然ですね」
「とてもいい人達ですから」
「人気者なのも当然ですね」
「オズの国でも」
「そうよ、しかも人気があってもそれを嬉しく思って」
そうであってというのです。
「好きでいてくれる皆の為にもっと頑張ろう」
「そう思いますね」
「お二人共そうですね」
「そうして動かれますね」
「オズの国の人達の為に」
「いつもそうですね」
「そうした二人を見てね」
そうしてと言うドロシーでした。
「私もお手本にしているのよ」
「それを言うと僕もだよ」
「僕だってそうだよ」
かかしも樵もドロシーに言います。
「ドロシーはとても立派だからね」
「とてもいい娘だからね」
「ドロシーの様にしよう」
「そうなろうって思ってね」
そうしてというのです。
「頑張っているよ」
「お手本にしているよ」
「オズマもここにいる臆病ライオンもトトもジャックも魔法使いさんもね」
「皆もだよ」
「そう、オズの国って皆素晴らしい人達だから」
それでと言うトトでした。
「本当にいいお手本になるよ」
「お手本になる人が一杯いたら」
それならと言うかかしでした。
「その人達を皆見てね」
「そうしてだね」
「その素晴らしいところを参考にして」
「何でもやっていくことだね」
「そうして自分を高めていくんだよ」
そうすべきだというのです。
「お互いにね」
「それって確か」
トトはかかしの今の言葉を聞いて言いました。
「切磋琢磨って言うね」
「そうだよ」
かかしはトトにその通りと答えました。
「まさにね」
「そうだよね」
「本当にね」
「だから人もね」
「オズの国ではどんどんよくなるね」
「その人のいいところをありのまま見て」
そうしてというのです。
「素直に凄いと思ってね」
「自分もああなりたいと思ってだね」
「お手本にして」
そうしてというのです。
「努力する」
「そうしていくからね」
「オズの国はね」
「皆いい人達ななんだね」
「宝石はどうして宝石になるか」
「磨かれてだからね」
「そう、石がね」
普通のそれがというのです。
「磨かれてね」
「宝石になるね」
「だからね」
そうであるからだというのです。
「人はお互いを見て認め合って」
「そうありたいと思って」
「努力してね」
そうしていってというのです。
「よくなるよ、人もそうで」
「僕達生きものもで」
「誰もがね」
「よくなっていくね」
「そしてものもね」
こちらもというのです。
「造るにしても」
「人が造ったものを素直に凄いって認めて」
「そうしてね」
「その凄いものをだね」
「自分もだよ」
まさにというのです。
「造る、もっといえば」
「その凄いと思った以上のものを造る」
「努力してね」
「そうすることだね」
「そしてよくなっていくんだ」
「その通りですね」
セドリックはかかしの言葉に目を輝かせて頷きました。
「人やものを見てまずは素直に凄いって思って」
「認めてね」
「自分もこうなろうと努力することですね」
「羨まずね」
「何かオズの国にいますと」
セドリックは今はオズの国の住人です、それでこう言うのでした。
「自然と羨むことは」
「なくなるね」
「そうなるって言われています」
「君はそうした気持ちはないね」
「羨んだり妬んだりですね」
「元からね」
「そうですね、僕はそうです」
かかしに実際にと答えました。
「人を羨んだり妬んだり」
「しなくて素直に凄いって認めて」
「自分もそうなりたいと思って」
「努力するね」
「そうします」
「それがいいんだよ」
「そうですね」
「だからね」
それでというのです。
「君はどんどんよくなっているんだ」
「そうですか」
「かつてのラゲドー氏はね」
前のノーム王だったこの人はといいますと。
「ずっと羨んだり妬んだり」
「そうしたことばかりでしたね」
「憎んで嫌ってね」
「よくない人でしたね」
「そうした気持ちばかりで」
そうであってというのです。
「人のいい部分を見てもそうした感情を抱くばかりで」
「自分もそうなろうとはですね」
「全くね」
それこそというのです。
「思わない」
「そんな人でしたね」
「だから悪いことばかりして」
「嫌われていて」
「オズの国に関わる人の中で数少ない嫌われ者で」
そうであってというのです。
「よくなろうと努力することもね」
「なかったですね」
「そうだったよ」
「そうですか」
「だからね」
それでというのです。
「あの人自身も幸せじゃなかったよ」
「嫌われてもいて」
「そうだったんだ」
「そうですか」
「今は違うけれどね」
「嫌われていないですね」
「素直で優しさも知った」
そうしたというのです。
「立派なオズの国の住人にだよ」
「なりましたね」
「そうだよ」
まさにというのです。
「本当にね」
「いいことですね」
「以前の私と同じなのでしょうね」
伯爵さんはラゲドー氏のお話をお聞いて思いました。
「暗くて怒ってばかりで楽しまず」
「貴方も羨んだり妬んだり」
「人の幸せに思っていました」
「そうだったんだ」
「そうでしたので」
だからだというのです。
「あの人のお話を聞きますと」
「そう思うんだね」
「昔の自分とです」
「似ているとだね」
「はい、ですから余計にです」
またセドリックを見て言うのでした。
「あの人について思います」
「昔の自分と似ているから」
「そう感じますので」
それ故にというのです。
「昔の様になってはならないと」
「思うんだね」
「暗い気持ちにいることは」
そうなることはといいますと。
「それだけで不幸です」
「そうだね」
かかしもその通りだと答えました。
「明るい方がね」
「やはりいいですね」
「それに限るよ」
「全くです」
伯爵さんはその通りだと答えました。
「私もです」
「そう思うからこそ」
「ですから今は」
「明るくだね」
「なることが出来て」
そうであってというのです。
「まことにです」
「幸せだね」
「セドリックは私の幸せです」
彼自身がというのです。
「まことに。ですから」
「これからもだね」
「オズの国で」
かかしにセドリックを見つつお話します。
「幸せにです」
「暮らしていくね」
「そうしていきます」
そうお話する伯爵さんの笑顔はとても明るく輝いているものでした、そこに暗いものは全くありません。皆はその笑顔を見て自分達も笑顔になりました。