『新オズのリキティンク』




                第五幕  人が多くて

 お昼はお話していた通りはりはり鍋でした。 
 鯨と菜っ葉が沢山入っただしのお鍋ですが。
「これって」
「美味いであろう」
「ええ、驚く位にね」
 アン王女はリンキティンク王に笑顔で答えました、そこには驚きも入っています。そのうえで答えたのです。
「美味しいわ」
「うむ、他にもあるぞ」
「鯨のお料理が?」
「お刺身にさらしにベーコンにじゃ」 
 さらにというのです。
「揚げものもあるぞ」
「色々あるのね」
「鯨と言ってもな」
 一口にです。
「色々あるのじゃ」
「それで今はなのね」
「このお鍋にじゃ」
 はりはり鍋にというのです。
「そうしたお料理もじゃ」
「食べればいいのね」
「そうじゃ、そちらも注文するか」
「いいわね、それではね」
 笑顔で応えてでした。
 他の皆もそれならと頷いてでした、そうした鯨料理も注文されて運ばれました。そうしてなのでした。
 鯨のベーコンを食べてです、クッキーは言いました。
「これはまた」
「美味いであろう」
「はい、珍味ですね」
「豚のベーコンもよいがじゃ」
「鯨のベーコンもですね」
「この通りじゃ」
「美味しいんですね」
「左様」
 リンキティンク王は自分も鯨のベーコンを食べつつ言います、赤い縁から白い脂身になりそこから黒いお肉となっています。
「これはこれでのう」
「こんなものもあるんですね」
「これはまた」
 カエルマンはさらしくじらを食べて目を丸くさせています。
「いいね」
「さらしくじらもだよね」
 ボボ王子はカエルマンに応えました、縁が黒くて他は白くで何処かふわふわとした外見のそれを食べている彼に。
「美味しいよね」
「うん、とてもね」
「こうしたお料理にも出来て」
「しかも美味しいのがだね」
「鯨なんだよ」
「いやあ、前にも食べたことがあったけれど」
 魔法使いは揚げものを食べつつ言います。
「やっぱりいいね」
「鯨もーーですーーね」
「うん、これもまただよ」
 チクタクに笑顔で答えます。
「美味しいんだよ」
「それはーー何よりーーですーーね」
「全くだよ、オズの国にずっとなかったことが」
 鯨料理がというのです。
「和食や中華もだけれどね」
「残念ーーですーーか」
「全くだよ、食べものはね」 
 何といってもというのです。
「美味しいものが沢山あってだよ」
「量もーー種類もーーですーーね」
「いいからね」
 だからだというのです。
「こうしてね」
「鯨もーーですーーね」
「食べられて何よりだよ」
 こう言うのでした。
「本当にね」
「何か」 
 ナターシャは鯨のお刺身を食べて言います、他の四人もそうしています。
「お魚のものとはまた」
「違うね、けれどね」
 カルロスが言いました。
「これはこれでね」
「美味しいよ」
 ジョージも言います。
「かなりね」
「こんな食べものもあるんだね」
 神宝は味と食感を楽しんでいます。
「成程ね」
「外の世界では食べたことがあるけれど」
 日本人の恵梨香はそうでした。
「やっぱり美味しいわ」
「そうね、ただね」
 ナターシャはさらに言いました。
「まさかこうしたものまでお刺身にするなんて」
「日本人は凄いのう」
「そうですね」
 リンキティンク王が応えました。
「鯨までお刺身にするなんて」
「お魚だけと思ったら」
「それがな」 
 こうナターシャに言うのでした。
「海の幸ではあるが」
「お魚じゃないですから」
「それをな」
「お刺身にすることは」
「全く以てな」
「凄いです、しかし」
 ここで、でした。ナターシャは。
 少し考えるお顔になってこうも言いました。
「外の世界でのことですが」
「どうしたのじゃ?」
「はい、日本は鯨を食べたらいけないって」
「これをか」
「言われていたそうです」
「何でじゃ」 
 リンキティンク王は首を傾げさせて言いました。
「こんな美味いものを」
「人間の次に頭がいいからと」
「それなら牛が人間の次に頭がいいと食べぬのか?」
 首を傾げさせたままこうも言いました。
「そうなのか?」
「それは」
「オズの国でもインド系の者は食べぬ者が多いがのう」
「宗教的な理由で」
「うむ、ヒンズー教徒は牛を食えぬのう」
「はい、絶対に」
 ナターシャもそれはと答えました。
「出来ないです」
「しかしそうでないとな」
 ヒンズー教徒でないと、というのです。
「牛を食べぬ者は菜食主義者でもないとな」
「あと嫌いでもないとですね」
「おらぬな」
「そうですよね」
「幾ら人間の次に頭がよかったとしても」 
 仮に牛がそうだったとしてもというのです。
「食べぬ者はそうでもないとな」
「ヒンズー教の人か」
「菜食主義か嫌いでもないとじゃ」
「いないですね」
「そうであろう、しかしな」
 リンキティング王はさらにお話しました。
「鯨を食べる者は外の世界では少ないのじゃな」
「はい、日本とです」 
 それにとです、ナターシャは答えました。
「あとはノルウェーとかアイスランドとか」
「少しであるな」
「はい」
「殆どの国の者は食わんな」
「そうです」
「それで食わん国の者が言うならな」
 それならというのです。
「それはよくないぞ」
「そうなんですね」
「自分が食べないからと言ってじゃ」
 そうであってもというのです。
「他の人に食べるなと言うことはな」
「よくないですか」
「試しにわしが牛肉を食べんでじゃ」
 リンキティンク王はお鍋の菜っ葉や鯨をぽん酢で食べつつ言います。
「お主達に食べるなと言うとどうじゃ」
「困ります」
「そんなこと言われても」
「僕達皆牛肉好きですから」
「幾ら王様が食べなくても」
「どんな理由でも」
 ナターシャ達五人は皆それはというお顔になって答えました。
「人間の次に頭がよくても」
「牛肉美味しいですから」
「ステーキもハンバーガーも」
「何にしても美味しいですから」
「そう言われたら」
「そうじゃな、自分は食べないから人も食べなくてもよく」
 そうしてというのだ。
「どんな理由でも食べるなと言うことはな」
「よくないですか」
「それは間違いですか」
「してはいけないことですか」
「自分がそうだから他人もそうしろと押し付けることは」
「どんな理由でも」
「左様、食べ過ぎると数が減るというのなら」
 それならというのです。
「ちゃんと調べてな」
「そうしてですか」
「減らない様に食べればいい」
「そうすればいい」
「全部食べるなと言うと」
「よくないですか」
「何でも外の世界では生きものの数は減り過ぎても増え過ぎてもよくないね」 
 王子はさらしくじらを食べつつ応えました。
「そうだね」
「はい、そう言われています」
「どっちでも自然のバランスが崩れる」
「そうなりますから」
「そこは注意しないといけないって」
「バランスが大事だって」
「鯨もそうだね、増え過ぎるなら食べて」
 そうしてというのです。
「調整することだけれど」
「食べるなって言うとですか」
「そこがおかしくなりますか」
「だからですか」
「そう言うとですね」
「かえってよくないんですね」
「そうだよ、そこがね」
 何といってもというのです。
「大事だからね、だから鯨もね」
「食べるなって言うとですか」
「よくないですか」
「環境の意味でも」
「かえってですね」
「それもまたですね」
「そうだよ、何かね」
 どうにもというのです。
「外の世界ではそれがわかっていない人が多かったみたいだね」
「その様じゃな、また誰かに言われて根拠なく食べないことはな」 
 またリンキティンク王は言いました。
「よくないぞ、だからな」
「それで、ですね」
「こうして僕達が鯨を食べても」
「いいんですね」
「それも美味しく」
「そうしても」
「そうじゃ、わしは誰が何と言ってもじゃ」
 そうされてもというのです。
「根拠なくじゃ」
「食べないことはないですか」
「鯨も牛も」
「そうされますか」
「王様は」
「そうしたお考えですか」
「お菓子を食うなと言われるとじゃ」
 大好物のそれをというのです。
「何故じゃと聞いて根拠を出されて自分で調べてじゃ」
「そうされてからですか」
「食べない様にするぞ」 
 こうナターシャに答えました。
「わしはな」
「鯨も同じですね」
「日本人もな」
 外の世界のこの人達もというのです。
「そうじゃ」
「最近は食べる様になったそうです」
「そうなったか」
「堂々と」
「ならよい、それで食べるなと言っていた人達はどうしておる」
「何も出来ないでいます」  
 ナターシャははっきりとした声で答えました。
「日本に」
「言うだけであったか」
「どうも前から」
「恰好悪いことじゃ、何も言わない相手だから言えてな」
「いざ行動に移されるとですね」
「何も出来ん、そんな風にはなりたくないわ」
 リンキティンク王ははっきりと答えました。
「笑えぬわ」
「全くですね」
 王子もそれはと応えました。
「鯨は美味しくて食べると笑えますが」
「そうした者はな」
「笑えないですね」
「うむ、そうはなりたくないわ」
 リンキティンク王は王子にも答えました。
「全くな」
「そうですよね」
「わしは笑いたいのじゃ」
「それも心から」
「ならじゃ」
「そうしたことはですね」
「せぬ」
 絶対にというのでした。
「わしはな」
「王様らしいですね」
「うむ、格好良さとかは求めぬが」
 それでもというのです。
「明るさと陽気さとな」
「笑いはですね」
「求めるからのう」
「それも心から」
「そんなことはしたくしな」
「なりたくもないですね」
「何があってもな」
 本当に心から言いました。
「それならじゃ」
「こうして鯨料理を食べて」
「楽しみたいわ、さて食べ終わったらじゃ」
 午後のこともお話しました。
「今度は何処に行こうかのう」
「神社はどうかな」 
 魔法使いが言ってきました。
「住吉の」
「あちらか」
「今お祭りをしているそうだよ」
「何っ、祭りとな」 
 そう聞いてです、リンキティンク王は。
 目の色を変えてです、魔法使いに言いました。
「もうそれならじゃ」
「行くね」
「他に選択肢があるか」
 それこそというのです。
「何と言ってもじゃ」
「お祭りはだね」
「最高に楽しいものの一つであるからな」 
 だからだというのです。
「午後はじゃ」
「そちらにだね」
「行こうぞ」
「ではね」
「ほっほっほ、楽しみじゃ」
 リンキティンク王は心から言いました。
「午後ものう」
「それは何よりだね」
「いや、いつも笑えることはな」
 これはといいますと。
「何よりもじゃ」
「いいことだね」
「うむ」
 まさにというのです。
「最高のことじゃ」
「そしてお祭りもまた」
「楽しめてじゃ」
 そうなってというのです。
「笑顔になれるからのう」
「いいね」
「うむ、ではな」 
 それならというのです。
「行こうぞ」
「お祭りにもね」
「そうしようぞ」
 心から言ってでした。
 今ははりはり鍋をはじめとした鯨料理に舌鼓を打ちました、そうしてです。
 午後は実際に街にあるとても大きな神社に行きました、そうしてそこで様々な出店が並んでいるお祭りに参加しますと。
 街の多くの人達が参拝をして出店のものを飲んで食べて楽しんでいます。そしてリンキティンク王もでした。
 たこ焼きを買ってです、はふはふと食べて言いました。
「やっぱりじゃ」
「たこ焼きだね」
「この街でこうした場所ではじゃ」 
 カエルマンに食べつつ応えます。
「まずはのう」
「たこ焼きですね」
「これを食べずしてじゃ」 
 それこそというのです。
「はじまらんは」
「そこまでのものだね」
「そう思うぞ」
 たこ焼きはというのです。
「わしはな」
「確かに美味しいね」
 カエルマンもたこ焼きを食べて言います。
「この食べものは」
「そうであろう」
「手軽に食べられてね」
「しかも食べやすくてな」
「実に美味い」
「そうだね」
「だからじゃ」
 それ故にというのです。
「こうした時はじゃ」
「食べるんだね」
「そうしてな」
 さらに言うのでした。
「他のものもじゃ」
「食べるね」
「たい焼きもよいな」
 こちらもというのです。
「甘いものもな」
「甘いものといえば」
 ここでクッキーが言ってきました。
「みっくちゅじゅーちゅが」
「美味いであろう」
「はい、とても」
「あと冷やしあめもよいぞ」
 見ればリンキティンク王の飲みものはこちらでした。
「実にな」
「美味しいんですね」
「うむ」
 実にというのです。
「甘くてのう」
「凄い甘さですね」
「その甘さがじゃ」
 凄いと言えるまでのというのです。
「実にじゃ」
「いいんですね」
「そうじゃ、ではな」
「冷やしあめもですね」
「飲もうぞ」
「では後で」
「冷やしあめもじゃな」
 クッキーに尋ねました。
「飲むな」
「そうします」
「それではな」
 冷やしあめをまた飲んで言います。
「そうしようぞ」
「わかりました」
「いや、しかし」
 王子も言ってきました。
「ここはです」
「どうしたのじゃ?」
「たこ焼きには炭酸では」 
 飲みものはというのです。
「やはり」
「そっちか」
「はい、ですからラムネやサイダーをです」
「飲むとよいか」
「僕としては」
「確かによいのう」 
 リンキティンク王も否定しませんでした。
「そちらも」
「そうですね」
「しかしな」
「それでもですか」
「わしは今はじゃ」
「冷やしあめですか」
「この徹底した甘さがよい」
 冷やしあめのことを満面の笑顔でお話しました。
「実にのう」
「それで、ですか」
「今はじゃ」
「冷やしあめなんですね」
「それを飲んでおる、しかしラムネやサイダーもな」
「飲まれますね」
「またな」 
 今度はたこ焼きを食べて言いました。
「そうしようぞ、では次はな」
「たこ焼きを食べた後は」
「お化け屋敷に入ろうか」
「お化け屋敷、あれだね」 
 カエルマンは皆から少し離れたところにある大きな出店を指差して言いました、そうしてお話するのでした。
「あそこにだね」
「入ってのう」
「楽しむんだね」
「そうじゃ」
 そうするというのです。
「お化け屋敷も楽しいからのう」
「怖がることも何か」
 クッキーも言ってきました。
「スリルがあって」
「よいうのう」
「はい、それもまた」
「何かがいきなり出て来るとな」
 そうなると、というのです。
「驚くからな」
「それで、ですね」
「それも楽しむのじゃ」
「オズの国だからね」
 魔法使いは笑って言ってきました。
「中にいる妖怪は本物だしね」
「あっ、そうですね」
「オズの国ですから」
「妖精も妖怪もいますから」
「そうしたお国なので」
「お化け屋敷にいる妖怪達もですね」
「本物だよ、ただ妖怪もね」
 その彼等のことをです、魔法使いはさらにお話しました。
「楽しい人達だけれど」
「はい、それでもですね」
「いきなり出られるとですね」
「やっぱり怖いですね」
「どんな人達もそうで」
「妖怪もですね」
「そうだよ、ただ怖いにしても」
 それでもというのです。
「面白いからね」
「だからですね」
「今からですね」
「お化け屋敷にも入って」
「そうしてですね」
「楽しむんですね」
「そうしようね」
 笑顔でお話してでした。 
 皆でそのお化け屋敷に入りました、そうするとです。
 暗くておどろおどろしい日本の自然や建物の中にです。
 色々な妖怪達がいて驚かしてきます、それを見てアン王女は洗って言いました。
「いや、いきなり出て来てね」
「驚きーーますーーね」
「このスリルがね」
 チクタクに笑顔でお話します。
「いいわね」
「そうーーですーーね」
「驚いたりすることも」
 こうしたこともというのです。
「これはこれでね」
「楽しいーーですーーね」
「そうなのよね」
「だからテーマパークでもじゃ」
 リンキティンク王も驚いて笑いつつ言います。
「お化け屋敷があるのじゃ」
「驚いてそれを楽しむためにだね」
「そうなのじゃ、実に楽しいぞ」
 リンキティンク王はお化け屋敷の中でもお腹を抱えて笑って言います。
「こうした場所もな」
「ここかなり本格的ですが」
 恵梨香が言ってきました。
「本物の妖怪さん達がいるだけじゃなくて」
「広くて雰囲気も出ていて」 
 ジョージも言います。
「凄いですね」
「テーマパークの遊園地にも負けてないです」
 神宝は断言しました。
「本当に」
「出店のものとは思えないですね」
 こう言ったのはカルロスでした。
「本格的です」
「けれどそれだけあってです」
 ナターシャは四人の考えを代表して言いました。
「楽しめますね」
「そうであろう、わしにはピンときたぞ」
 まさにというのです。
「ここはよいとな」
「いやあ、リンキティンク王の直感は凄いね」 
 カエルマンも目を笑わせて言ってきました。
「楽しめることを瞬時に察するそれは」
「特に笑えることでじゃな」
「うん、何かとね」
「それじゃ、それでじゃ」
「今はだね」
「そうじゃ、こうしてな」
「お化け屋敷をだね」
「楽しんでおるのじゃ」
「成程ね」
「うむ、ではな」
「引き続ぎだね」
「お化け屋敷を巡ってな」
 そうしてというのです。
「楽しもうぞ」
「それではね」 
 楽しくお話をしてでした。
 皆でお化け屋敷を巡りました、そうして驚くことを楽しんででした。
 出口から出た後で神社の中を回って参拝もして絵馬や破魔矢、お守りももらっておみくじも引きますと。
「大吉じゃ」
「僕もです」 
 王子はリンキティンク王に笑顔で応えました。
「いいことばかり書かれています」
「よいのう」
「私もです」
「僕もです」
「僕もでした」
「私も大吉でした」
「僕だって」 
 ナターシャ達五人もでした、そして他の皆も大吉で。
 魔法使いがです、笑顔で言ってきました。
「オズの国のおみくじや占いは絶対にだよ」
「大吉ですか」
「そうなんですね」
「それが出るんですね」
「誰が引いても」
「何処でもですね」
「そうだよ、幸せに包まれている国だからね」
 それでというののです。
「おみくじとかで出るものもね」
「大吉しかない」
「そうなんですね」
「オズの国ですと」
「それで大吉が出て」
「その通りになるんだね」
「そうだよ、だから安心して引けるんだ」
 そのおみくじもというのです。
「そうなんだよ」
「あのーーです」
 チクタクもおみくじを引いています、そのうえで言うのでした。
「私はーーです」
「何と出たの?」
「はいーー楽しいーー乗りものにーーです」
 王女に答えます。
「出ましーーた」
「楽しい乗りもの?」
「その様にーーです」
「何かしら」
「ああ、それはじゃ」
 リンキティンク王はそう聞いて言いました。
「あれじゃな」
「あれーーとーーいいますーーと」
「チンチン電車じゃな」
「チンチン電車?」
「街の中を走る鉄道じゃ」
 それだというのです。
「この街にはそれが走っておる場所もあるのじゃ」
「そうーーですーーか」
「オズの国にも幾つかあるのう」
「そうーーでしょうーーか」
「あれじゃ、路面電車じゃ」
 ここでこうチクタクにお話しました。
「それをこの街ではじゃ」
「チンチン電車とーーですーーか」
「呼んでおるのじゃ」
 そうだというのです。
「これがな」
「そうーーですーーか」
「それでお主がそう言ったし」 
 自分が引いたおみくじを見てです。
「それならな」
「これからはーーですーーね」
「そうじゃ、チンチン電車にじゃ」
 それにというのです。
「乗ろうぞ」
「それーーでは」
 チクタクも頷きました、一行はこうお話してです。
 神社を出て少し離れた場所にあるそのチンチン電車の駅に入ってです。
 そのうえで乗ってその動きや車窓からの景色を観ました、そうしてチクタクはこんなことを言いました。
「いいーーですーーね」
「そうじゃのう、周りはな」
 リンキティンク王も街並みを観て言います。
「家もアパートもマンションもな」
「いい感じーーですーーね」
「うむ、町工場や店もあってな」
 そうしてというのです。
「よいのう」
「そうーーですーーね」
「いやあ、人がいて生きている」 
 王子も目を細めさせて述べます。
「それが出てです」
「いいのう」
「この街は」
「人が何処でもな」
 まさにというのです。
「活気よく楽しくな」
「暮らしていますね」
「そうした街でな」
 それでというのです。
「実にじゃ」
「風情がありますね」
「活気があって親しみやすいな」
「そうしたものがですね」
「うむ、だからな」 
 それでというのです。
「今はわしもな」
「楽しまれていますね」
「そうじゃ」
 まさにというのです。
「心からのう」
「それは何よりですね」
「この明るさと賑やかさは最高じゃ」
「お日様の様に明るいですね」
「そうじゃ、それとじゃ」
「それと?」
「あそこにこの前観客席におった人がおるぞ」
 ここで、でした。リンキティンク王は。
 道を歩いている痩せて眼鏡をかけた角刈りの人を見て言いました。
「あの人じゃ」
「あの漫才師の」
「うむ、この辺りに住んでおるか」
「そうかも知れないですね」
「漫才師の人もこの辺りに住んで折るか」
「身近ですね」
「道理で親しみやすい筈じゃ」
 こう言うのでした。
「飾らなくて」
「そうですね」
「それがこの街や」
 丁度ここで、でした。
 面長で丸い目の飄々とした感じの男の人が言ってきました、スーツが似合っていて何処かサラリーマン風です。立って右手に吊り革を握っています。
「飾らんし親しみやすいな」
「そうなのじゃな」
「わし生まれは東京やけどな」 
 それでもというのです。
「育ちで住んでるとこはな」
「大阪であったか」
「あそこでな、ほんま最高の街や」
 リンキティンク王に笑って言うのでした。
「そやから今もや」
「オズの国に来てもか」
「ここにおるんや」
「そうなのじゃな」
「わしは最初はお笑いやっててや」
 外の世界にいた頃はというのです。
「それで俳優もやってた」
「そうであったか」
「同心やったり刑事やってたわ」
「色々やっておったか」
「大阪に住みながらな」
 そのうえでというのです。
「やってたわ」
「成程のう」
「それで今はお笑いに戻ってる」 
 この街ではというのです。
「歌も歌うで」
「多芸じゃのう」
「そやろか、あとや」
「あと?」
「わしの名前は知らんか」
「初対面じゃからのう」
 それでと言うのでした。
「知らぬわ」
「そうやな、わしは藤田まことっちゅうんや」
「そうなのか」
「それでさっきの人は横山やすしっていうんや」
 その人の名前もお話します。
「まあ生きてた頃は色々あった人やが」
「今はか」
「オズの国で楽しくやってるわ」
「それは何よりじゃな」
「また二人で漫才やるやろ」
 この人は笑ってこうも言いました。
「わしもお笑いやってるしな」
「今はじゃな」
「そっちに戻ってな、しかしな」
 ここでこうも言ったのでした、笑って。
「ところてんはこの街に限るわ」
「あの甘いものじゃな」
「そや、あれ他の日本の街やとちゃうで」
「わしはこの街のところてんしか知らんぞ」
「そうなんか、それがな」 
 リンキティンク王の言葉を受けてお話しました。
「他の街やと酢をかけて食べるんや」
「ところてんにか」
「そうなんや」
「いや、ところてんには黒蜜じゃ」
 リンキティンク王は言いました。
「それで葛にもじゃ」
「それはこの街でのことでや」
「他の日本の街では違うのか」
「外の世界で言う関西やとそやけどな」
 黒蜜で食べるがというのです。
「それがや」
「日本の他の地域ではか」
「そうなってるんや」
「ううむ、ところてんを酢で食うか」
「それでわしも知らんでな」
 それでというのです。
「そのところてん食うてびっくりしたわ」
「味が違ってか」
「腐ってるって思ったわ」
 笑ってこう言うのでした。
「ほんまな」
「うむ、蜜と酢では全く違う」
 リンキティンク王も頷きます。
「それではな」
「わかるやろ」
「驚くのも無理はない」
「ほんまはじめて食べたさかいな」
「それまでところてんはか」
「蜜のもんしか食ってへんかったからな」
 だからだというのです。
「酢のもん食うてや」
「腐っておるとか」
「ほんま思ったわ」
「あの、ところてんはです」
 ナターシャも言ってきました。
「蜜ですよね」
「そうそう、黒蜜」
「やっぱりそれよ」
「お酢のも売ってるけれど」
「そっちだよね」
 五人でお話します。
「何といっても」
「甘くて美味しくて」
「それで食べやすくて」
「ところてんっていうと」
「やっぱり黒蜜よ」
「そう言うのが関西や」
 藤田さんは五人にも笑顔でお話します。
「ほんまな、けどな」
「それでもですか」
「日本の他の地域では、ですか」
「お酢ですか」
「それで食べるんですね」
「ところてんは」
「そや、それが食文化の違いや」
 それになるというのです。
「わしもそれがわかったわ」
「ううむ、日本も地域で何かと違うのじゃな」
 リンキティンク王もしみじみと思いました。
「そうなのじゃな」
「そうですね、オズの国もです」
 王子も言ってきました。
「地域によってです」
「何かと違うしのう」
「そのことを考えますと」 
 まさにというのです。
「外の世界の日本もです」
「地域ごとに違ってもな」
「当然ですね」
「全くじゃ」
「ええ、しかしです」
 王子は先生とお話してでした。
 藤田さんにお顔を向けてです、笑ってこう言いました。
「しかし先程のところてんを召し上がられて」
「腐ってるってのはやな」
「面白いですね」
 笑って言うのでした。
「とても」
「そう思われると勝ちや」
 藤田さんも笑って応えます。
「まさにな」
「そうなんですね」
「お笑いやってるとな」
「自分のお話したことで面白いと思われる」
「笑ってもらうとな」
 そうなると、というのです。
「それこそがや」
「勝ちですね」
「そや、誰に勝ったかっていうとな」
「誰にでしょうか」
「そこはわからんけどな」
 このことも笑って言うのでした。
「そやけどな」
「勝ちましたか」
「そや、笑ってもらったら」
 自分のネタでというのです。
「それでや」
「お笑いは勝ちですか」
「ああ、人に笑ってもらったら」
 魔法使いが言ってきました。
「それ自体がね」
「勝ちやな」
「そうだね、私もマジックをするから」
「あんたはそれで有名やな」
「元々手品師だったしね」
「マジシャンやな」
「今も魔法はそうしたものが多いし」
 魔法使いが使う魔法はです。
「それで笑ってもらったり喜んでもらったら」
「勝ちやな」
「そうだね、つまり誰かに勝つんじゃなくて」
 そうではなくてというのです。
「笑ってもらう」
「そのこと自体がやな」
「勝ちだね」
「そやな、お客さんに笑ってもらったら」
 そうなったらというのです。
「もうそれがな」
「勝ちだね」
「そういうことや」
 魔法使いに笑ってお話しました。
「そやからわしもや」
「勝ちを目指してるんだね」
「いつもな、時代劇も刑事もんもええが」 
 そうしたドラマもというのです。
「この街におったらな」
「お笑いだね」
「元々そっちの人間やしな」
 ご自身はというのです。
「そやからな」
「お笑いでだね」
「勝ってくで」
 こう言うのでした。
「そういうことでな、ほなわしはここで降りるけどな」
「お家が近くなのかな」
「そや、それでや」
「次の駅でだね」
「降りるで、ほなまた」
「機会があればね」
「会おうな」 
 笑顔で言ってでした。
 藤田さんは次の駅で降りました、その藤田さんを見送ってです。
 リンキティンク王は庶民的で活気のある街並みも見て言いました。
「ほっほっほ、ああした人もおるとわかると」
「尚更ですか」
「この街が好きになったわ」
 こうナターシャに答えました。
「活気があって飾らない街並みにな」
「ああした人がおられるなら」
「好きにならずにいられぬ」 
 こう言うのでした。
「まことにのう」
「そうですね、じゃあ今は」
「このチンチン電車に乗ってな」
 そうしてというのです。
「社葬も楽しもうぞ」
「わかりました」
 ナターシャも他の子達も笑顔で応えました、そうしてです。
 皆でチンチン電車の小旅行も楽しみました、それもまたいいものでした。








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