『オズの木挽きの馬』
第十二幕 牧場に戻って
遂にレッド牧場が見えてきました、それで木挽きの馬は言いました。
「遂にだね」
「ええ、旅も終わりね」
恵梨香は木挽きの馬に応えました。
「今回の旅も」
「そうだね、楽しい旅だったけれど」
「それも終わりだね」
「本当に」
「そう、ただね」
「ただ?」
「一つの旅が終わっても」
それでもというのです。
「またね」
「次の旅がはじまるね」
「そうなるから旅が終わったことを楽しんで」
恵梨香はオズの国のその言葉を言いました。
「次の旅がはじまるまではね」
「その旅がどんなものか考えて」
「そしてね」
そのうえでというのです。
「楽しんでね」
「次の旅がはじまったら」
「その旅を楽しむのよ」
「つまり全部楽しむんだね」
「そうすればいいわね」
「そうだね、じゃあ」
木挽きの馬は恵梨香に言いました。
「これからもね」
「楽しんでいくわね」
「そうするよ」
恵梨香に牧場を見ながら言います、そしてです。
皆で一緒にでした、牧場に入りますと。
牧場の人達が出てきて迎えてくれました、そこにはです。
ドロシー達もいました、グリンダはドロシーを見て言いました。
「帰ってきたわ」
「ええ、お帰りなさい」
ドロシーはグリンダに笑顔で応えました。
「待っていたわ」
「そうなのね」
「三人でね」
「いや、色々楽しい旅だったそうだね」
かかしが一行に言ってきました。
「今回も」
「そして今旅が終わってね」
樵も言いました。
「次の楽しみに入るよ」
「そうね、それでね」
グリンダは皆に言いました。
「黄金の羊も一緒よ」
「只今」
黄金の羊は牧場の人に挨拶をしました。
「理由と行き場所言わずに出て御免なさいね」
「全く、何ていうか」
「今度から気をつけてくれよ」
「心配したからね」
「今度からはちゃんと理由と行き場所言って旅に出てくれよ」
「そうしてね」
牧場の人達は黄金の羊にやれやれという顔で言いました。
「本当にね」
「今度からは」
「さもないと皆心配するから」
「オズの国だから危険はないけれど」
「それでも何処に行ったのかってなるから」
「わかったわ、今度からそうするわね」
黄金の羊も約束しました、これで彼女のことは一件落着となりました。そうなるとドロシーは皆に言いました。
「じゃあ今からね」
「今から?」
「さっき牧場の人とお話したけれど」
モジャボロに応えて言います。
「これからバーベキューを食べましょう」
「ああ、バーベキューだね」
「それを焼いてね」
そうしてというのです。
「皆で食べましょう」
「いいね、ここでバーベキューを食べたら」
どうかとです、モジャボロはドロシーに笑顔になって答えました。
「美味しいよ」
「そうでしょ」
「じゃあ今からだね」
「皆で焼いて」
そしてというのです。
「食べましょう」
「それじゃあね」
「そしてね」
それでというのです。
「お酒もあるから」
「ああ、そちらもなんだ」
「ジュースもあるわよ」
「どれも楽しめるんだね」
「そうなの、サラダもあるし」
こちらもというのです。
「今から皆で楽しみましょうね」
「いいね、皆が帰って来たお祝いでもあるね」
「そうよ」
ドロシーはモジャボロの弟さんに笑顔で言いました。
「私もね」
「僕達が帰ってきて」
「無事に旅を終えてね」
「やるべきことを果たしたことをお祝いする為に」
「牧場の人達とお話して」
そしてというのです。
「べーべキューをしようってね」
「なったのね」
「そうよ、ただね」
「ただ?」
「何時帰って来るかはね」
それまではというのです。
「そろそろと思っていたけれど」
「今とまではなんだ」
「そこまでは考えていなかったわ」
「成程ね」
「けれどね」
「僕達が帰ってきたから」
「皆で楽しみましょう」
そのバーベキューをというのです。
「そうしましょう」
「それじゃあね」
弟さんも頷きました、それでです。
皆でバーベキューを出してそれを食べはじめました、お肉は牛肉に豚肉、鶏肉にラムにマトンとあります。
ソーセージもあります、ガラスの猫はそのソーセージを見て言いました。
「いつも思うけれどね」
「どうしたのかな」
「ソーセージって面白いわね」
かかしの問いに答えました。
「腸の中にお肉入れて作るなんてね」
「ああ、そのことだね」
「よく考えたわね」
「そうだね、これも知恵だね」
かかしはガラスの猫に答えました。
「一つの」
「ただ腸を捨てるんじゃなくて」
「中に残ったお肉を入れてね」
「それで作ってよね」
「食べるからね」
「面白いわね」
「言われてみればそうだね」
かかしも頷いています。
「確かに」
「僕も生身の時はよく食べたよ」
ブリキの樵も言ってきました。
「ソーセージは」
「好きだったのね」
「うん、だからね」
それでというのです。
「ビールと一緒にね」
「食べていたのね」
「そうだったんだ」
実際にというのです。
「楽しかったよ」
「そうなのね」
「今は何も食べる必要がないから食べたいとは思わないけれどね」
「面白いとは思うでしょ」
「そのことは変わらないよ」
「ソーセージ美味しいよ」
こう言ったのは神宝でした、見れば実際にソーセージを食べています。
「こうして焼いても煮てもね」
「ソーセージは煮ても美味しいよ」
ジョージもソーセージを食べつつ言います。
「こうして焼いても美味しいしね」
「形も大きさも色々だけれど」
カルロスはコーラを飲みながら言いました。
「どれも美味しいよ」
「マスタードやケチャップを付けてもいいわよ」
ナターシャはフォークでソーセージを取りながら言いました。
「そうして食べてもね」
「そういえば皆ソーセージも沢山食べてるね」
木挽きの馬も言いました。
「焼いてね」
「ええ、美味しいからね」
恵梨香が答えました。
「だからね」
「それでだね」
「皆ね」
「実際に食べているんだね」
「そうよ、本当に美味しいから」
「そうなんだね」
「私も好きだし」
恵梨香は自分のお皿にそのソーセージを入れながら言いました、見ればとても大きな赤い色のソーセージです。
「これにマスタードを付けてもいいし」
「ケチャップもだね」
「両方でもね」
それでもというのです。
「いいのよ」
「どうしても美味しいんだね」
「ソーセージはね」
「お肉もいいわよ」
ドロシーはよく焼けたラムを林檎ソースに付けて食べながら言いました。
「こちらもね」
「ああ、林檎ソースもいいね」
モジャボロはそのソースを見て言いました。
「じゃあ次のソースはね」
「林檎ソースにするのね」
「やっぱり僕は林檎が好きだからね」
ドロシーに笑顔でお話します、今はウスターソースで牛肉を食べていますがそれでもというのです。
「だからね」
「それでよね」
「そう、次はね」
まさにというのです。
「林檎ソースで食べるよ」
「わかったわ、それじゃあね」
「僕はソースはそのままだけれど」
弟さんはこう言いました。
「ビールをね」
「飲みたいのね」
「どんどんね、バーベキューにはビールだよ」
見ればもうお顔は赤くなっています。
「よく冷えたそれをね」
「飲むのね」
「うん、大きなジョッキに入れて」
そうしてというのです。
「一気にね」
「それじゃあ」
ドロシーは弟さんの言葉に頷いてでした。
弟さんにビールが並々と注がれたジョッキを差し出しました、そうしてにこりと笑って言いました。
「どうぞ」
「ああ、有り難う」
「私は今は葡萄のジュースを飲むけれど」
「僕はビールだね」
「それを飲んでね」
そうしてというのです。
「楽しみましょう」
「それじゃあね」
「ええ、お互いにね」
こう言ってです、ドロシーは実際に葡萄ジュースを飲みました。
皆飲んで食べて楽しんでいます、するとです。
黄金の羊が牧場の北の方を見て言いました。
「十二人位来たわよ」
「十二人?」
「ええ、北の方にね」
木挽きの馬に答えました。
「来たわよ」
「あれは」
木挽きの馬はその北を見ました、するとです。
そこには幸村さんと十勇士の人達がいました、大助さんに忍犬もいます。
「幸村さん達だね」
「あら、そうね」
恵梨香も北を見て言いました。
「あの人達は」
「うん、まさかね」
「ここでお見掛けするなんてね」
「何時何処で誰に会うかわからないね」
「本当にそうね」
「幸村さん達も呼びましょう」
グリンダはこう提案しました。
「そうしましょう」
「そうしてですね」
「幸村さん達もね」
「バーベキューを楽しんでもらうんですね」
「そうしてもらいましょう」
恵梨香に赤いワインを飲みながら言いました。
「パーティーは人が多い方が楽しいわね」
「はい、確かに」
「だからね」
それでというのです。
「今からね」
「幸村さん達もですね」
「ここにお呼びしてね」
そうしてというのです。
「楽しみましょう」
「それじゃあ」
「僕が呼んでくるね」
恵梨香が頷いて木挽きの馬が言ってきました。
「そうするね」
「行ってくれるのね」
「幸村さん達の方にね」
「そうしてお話して」
「来てもらうよ」
「それじゃあね」
こう言ってでした。
木挽きの馬は幸村さん達の方に行ってでした、そうしてお話をするとです。
幸村さん達は皆のところに来ました、するとです。
幸村さんは皆を代表して挨拶をしてです、あらためて言いました。
「宴に呼んで頂けるとは何と有り難いこと」
「いえ、ここでお会いしたのも縁よ」
ドロシーは幸村さんに笑顔で言いました。
「だからね」
「遠慮なくですか」
「楽しんで」
バーべーキューのパーティーをというのです。
「お肉はどんどん出せるしお酒もね」
「出してくれますか」
「そう、だからね」
「左様ですか」
「十勇士の人達は日本酒をお好きというけれど」
恵梨香はさらに言いました。
「そちらもね」
「出してくれますか」
「ええ、お米のお酒もね」
「尚更有り難い」
「それじゃあね」
「楽しませて頂きます」
幸村さんは礼儀正しく応えてでした。
十勇士の人達と一緒にお肉を食べてお酒を飲みました、十勇士の人達は自分達も楽しみながら幸村さんの周りにいつもいます。
それで幸村さんにお肉やお酒をどんどん差し出します。
「ささ殿どうぞ」
「お召し上がり下さい」
「お飲み下さい」
「何でも申して下さい」
「是非させて頂きます」
「いつも済まない」
幸村さんは十勇士に笑顔で応えます、そうしてです。
十勇士の人達と一緒に楽しみます、恵梨香はその光景を見て言いました。
「十勇士の人達って本当に幸村さんを慕っているのね」
「ずっとああなんだよね」
「ええ、十勇士といえばね」
木挽きの馬に答えます。
「もう幸村さんと一緒にずっとね」
「生きてきたんだね」
「そうした人達なのよ、けれどね」
「けれど?」
「こうして実際に見てみると」
幸村さんと十勇士の人達をです。
「凄いものがあるわね」
「十勇士の人達が幸村さんをこれだけ慕っているってことがわかってだね」
「ええ、そう思ったわ」
「そうなんだね」
「これはね」
恵梨香はさらに言いました。
「本物の絆ね」
「そうだね」
「十勇士の者達はそれがしが生まれるずっと前から父上と一緒にいまして」
大助さんも言ってきました。
「それで、です」
「ああしたですか」
「絆を持っています、そしてそれがしにもです」
大助さんは恵梨香にお話しました。
「あの者達はいつも忠義を尽してくれます」
「大助さんにもですか」
「オズの国でもそうしてくれています」
「そうなんですね」
「そして父上との絆は」
それはといいますと。
「あの通りです」
「絶対のものがあるんですね」
「主従であり」
そしてというのです。
「義兄弟であり友でありますから」
「三重の絆ですね」
「そしてそれがしとも主従であり」
大助さんにもというのです。
「義理の親達であり友である」
「そうした関係ですか」
「はい」
まさにというのです。
「我等の関係は」
「大助さんとも絆は強いんですね」
「そうです」
実際にというのです。
「何かとよくしてもらっています」
「物凄く忠誠心の強い人達なんですね」
「あれ以上の忠義者達はいないかと、それに」
「それに?」
「困っている者がいれば決して見捨てず」
「助けるんですね」
「十人全員が」
そうするというのです。
「あの者達は」
「そうですか」
「ですから」
それでというのです。
「あの者達は尚更です」
「いい人達ですか」
「曲がったことは決してせず義を忘れない」
「そうした人達ですか」
「左様です」
まさにというのです。
「あの者達は」
「だからヒーローなんですね」
「そうですね、右大臣様もお救いしましたし」
「間一髪だったんですね」
「本当に危ないところでしたが」
それでもというのです。
「あの者達がいてくれたので」
「秀頼さんも助かったんですね」
「そうなりました」
「そのこともよかったですね」
「歴史では右大臣様も父上もそれがしもあの戦で亡くなったことになってますが」
それがというのです。
「実はです」
「何とかですね」
「あの者達が必死に働いてくれて」
「右大臣様をお助けして」
「今まさに陥ちようとしている大坂城から出て」
脱出してというのです。
「薩摩まで逃れ」
「秀頼さんはそこで一生を過ごされたんですね」
「左様です」
「それで皆さんは」
「薩摩に逃れ落ち着いたら海に出て世界を旅しました」
そうしたというのです。
「長い旅の後戻り後は静かに」
「過ごされましたか」
「父上も十勇士の者達も」
「そうだったんですね」
「そして今はです」
「こうしてオズの国におられるんですね」
「そうなのです」
大助さんは恵梨香に笑顔でお話しました。
「そして日々修行と学問に励んでおられます」
「幸せなんですね」
「これ以上はないまでに」
「それは何よりですね」
「大助様もお強いですぞ」
忍犬が言ってきました、忍者屋敷の番をしていた時と同じく毅然としていて立派な物腰でお話をします。
「武芸十八般を備えられ」
「それでなのね」
「十勇士の方々と並ぶまでに」
「そんなにお強いんですか」
「左様です」
「それが凄いですね」
「まことに、それでなのですが」
忍犬はこうも言いました。
「恵梨香殿は羊の肉も召し上がられていますね」
「ええ、美味しいわね」
「左様ですね」
「ラムもマトンもね」
「それは何より、ただ日本では」
恵梨香達のお国ではというのです。
「牛肉や豚肉と比べて」
「それでお魚ともね」
「どうしてもあまり食べないので」
それでというのです。
「殿もあまり召し上がられないです」
「お肉は食べてもね」
「そうなのですが」
「オズの国ではよく食べるわ」
恵梨香は忍犬に答えました。
「私はね」
「そうですか」
「美味しくね」
「羊は見たこともありませんでした」
大助さんはこう言いました。
「日本にいた時は」
「そうだったんですね」
「豚も薩摩ではじめて見て」
そしてというのです。
「羊は日本では」
「昔の日本ではいなかったんですね」
「はい、いたかも知れませんが」
それでもというのです。
「殆ど」
「そうでしたか」
「ですが食べてみますと」
大助さんはマトンの焼いたものを食べながら言いました。
「美味しいですね」
「そうですよね」
「あと日本の料理ではお寿司も好きで」
「お寿司ってね」
ここで木挽きの馬が言いました。
「昔の日本じゃなかったんだよね」
「あっても馴れ寿司で」
大助さんは木挽きの馬にお話しました。
「握り寿司や巻き寿司とはまた違います」
「そうだったんだよね」
「ですから」
それでというのです。
「私達は日本では食べたことがないです」
「そうだったんだね」
「オズの国ではじめて食べました」
「いや、お寿司の美味なこと」
幸村さんも言いました。
「この上なし」
「そうなんだね」
「拙者も大好物でござる」
「お寿司そこまで好きなんだ」
「そして天麩羅も」
このお料理もというのです。
「好物です」
「そちらもだね」
「左様です、ですが」
「天麩羅もなんだ」
「拙者は日本ではあまり」
「そうだったんだね」
「お刺身もでしたし」
こちらのお料理もというのです。
「山国に生まれ育ち生ものは」
「何か色々日本のお料理と縁がなかったんだ」
「左様でした、ただ餅等は好きで」
こういった食べものはといいますと。
「今も同じです」
「食べているんだ」
「そうしています」
「お餅ね」
お餅と聞いてドロシーは言いました。
「私も好きよ」
「左様ですか」
「日本のお餅も好きで」
そうしてというのです。
「中国のお餅もね」
「あの小麦粉を練って焼いた」
「韮餅とかね」
「あちらのお餅もよいですな」
「それも好きなの」
林檎ソースで豚肉を食べながら言いました。
「私は」
「どちらも美味しいので」
「それでね」
「基本わし等は何でも食う」
清海さんは笑って言いました。
「戦の場にずっとおったしな」
「お陰で好き嫌いなしじゃ」
佐助さんも清海さんに負けない位大きなお声で笑いました。
「今もな」
「今ではお刺身も食うぞ」
小助さんは生ものもと言います。
「それも大好物じゃ」
「海のものでも食う」
海野六郎さんの言葉です。
「今のわし等はな」
「殿と同じものを食せるならそれで満足」
才蔵さんは微笑んで言いました。
「そもそも」
「殿は必ず私達と同じものを召し上がられます」
伊佐さんはこのことをお話しました。
「それが何よりも嬉しいです」
「我等はしがない忍の者なれど殿と共にある」
望月六郎さんはこう言いました。
「これだけで喜びの極み」
「しかも殿は寝食を共にされているので」
十蔵さんも笑顔です。
「我等は何と果報者か」
「その殿に好き嫌いがなければ」
鎌之介さんは言いました。
「我等も同じ」
「殿と同じなればあらゆるものは美味」
甚八さんは言い切りました。
「まずいものなぞ一切なし」
「いや、凄い絆だね」
かかしは十勇士の人達のお言葉に唸りました。
「幸村さんと十勇士の人達のそれは」
「これだけの絆があればこそだね」
樵も言います。
「今も一緒なんだね」
「こんなに絆の強い人達はいないよ」
モジャボロも言うことでした。
「本当にね」
「オズの国には色々な人がいるけれど」
弟さんはお兄さんに続きました。
「この人達の絆は特に凄いね」
「そうね、だからヒーローなのね」
ガラスの猫も言いました。
「日本人の間で」
「十人の人達は強いだけじゃないから」
恵梨香は皆にお話しました。
「この凄い絆もね」
「魅力なのね」
「そうなんです」
恵梨香はドロシーにも答えました。
「この人達は」
「そういうことね」
「十人で幸村さんを助けて盛り立てて」
「そして幸村さんも必死だから」
「もう全てを賭けてでしたから」
こうドロシーにお話しました。
「される人なので。曲がったことはしないですし」
「ここまでよく言われるとは思っていませんでした」
幸村さんご自身も言います。
「拙者は」
「そうなんですか」
「拙者は山国の田舎者。長い間浪人もしていましたし」
「ですが上田城でも大坂の陣でも」
「働いたと」
「それがあまりにも素晴らしくて」
恵梨香は幸村さんにお話しました。
「ですから」
「ううむ、皆そう言ってくれるが」
「私達は皆幸村さん大好きですよ」
ヒーローのこの人がというのです。
「十勇士の人達も大助さんも」
「少なくとも凄いことをされましたよ」
このことはカルロスが言いました。
「テレビでも漫画でもゲームでもわかります」
「確かに負けましたけれど」
それでもとです、ナターシャは幸村さんに言いました。
「目的は果たされましたし」
「それで誰も言う筈ないです」
神宝も言いました。
「悪くなんて」
「オズの国におられるのも当然ですよ」
ジョージも微笑んで言います。
「素晴らしいことをされた立派なヒーローですから」
「ならいいが」
「はい、それで幸村さんは忍術も使われるそうですが」
恵梨香は幸村さんに今度はこう尋ねました。
「大坂の陣でも」
「実は使っていた」
「そうだったんですね」
「それは大御所殿も察しておられたがな」
「家康さんもですか」
「見破らせなかった」
その忍術をというのです。
「どの術もな」
「色々な忍術を使われますか」
「五遁の術をはじめとしてな」
「水遁の術も火遁の術もですか」
「使える、拙者は自ら忍術を使って」
そうしてというのです。
「戦ってきた」
「それであのお強さだったんですね」
「拙者は強いか」
「とても。槍捌きも」
「槍は一番得意だが」
武芸の中でというのです。
「あれはよい武芸だ」
「剣道よりもですか」
「間合いがあるからな」
それでというのです。
「よく鍛錬して」
「戦いでもですか」
「使った、大助にも教えている」
「父上の槍は天下一本でして」
大助さんも幸村さんのその槍についてお話します。
「凄いものがあります」
「やっぱりそうなんですね」
「はい、今も鍛錬に励まれていますし」
「腕を上げられていますか」
「そうなっています、それに水練に馬術も」
この二つの武芸もというのです。
「日々励んでおられます」
「そちらもですか」
「いざという時に泳げない馬に乗れぬのでは話にならぬので」
幸村さんは言いました。
「それ故に」
「水練に馬術はですか」
「槍術以上に励んでおります」
「そうですか」
「毎日泳ぎ馬に乗り」
そうしてというのです。
「鍛錬を積んでおります」
「そうですか」
「あと近頃は車を運転したり」
自動車をというのです。
「自転車にも乗っています」
「あれっ、結構文明的だね」
木挽きの馬はここまで聞いて言いました。
「幸村さん達も」
「うむ、オズの国の中にいて」
「そうしたこともなんだ」
「親しんでいる」
「そうなったんだね」
「テレビも観るしスマホも持っている」
幸村さんは木挽きの馬に微笑んで言いました。
「楽しんでいますぞ」
「本当に文明的だね」
「最初は箱の中の絵が動くと驚きました」
「そうそう、テレビってね」
木挽きの馬も頷きます。
「最初見たらね」
「箱の中の絵が動きますな」
「喋ってね」
「これは何かと思いました」
「僕も最初そうだったよ」
「木挽きの馬殿もですな」
「実に。ただ」
ここでこう言った木挽きの馬でした。
「昔のテレビって今のテレビとはね」
「ああ、違っていましたな」
「テレビも時代によって変わるよ」
「その様ですな」
「オズの国のテレビは最初からカラーだったけれどね」
それでもというのです。
「やっぱりね」
「時代と共にですな」
「変わっているよ」
「そういえば外の世界のテレビは最初白黒で」
恵梨香も言いました。
「それで真空管でね」
「何か中々画面が出なかったんだよね」
「私そう聞いてるわ」
恵梨香は木挽きの馬に答えました。
「昔のテレビはね」
「外の世界はそうだね」
「ええ、それがオズの国では」
「テレビはそうだったよ」
「そこはオズの国ね」
「そうなんだ」
木挽きの馬も答えました。
「最初からカラーですぐに画面が出たのは」
「そこは違うわね」
「映画もそうだったしね」
「オズの国はお伽の国だから」
こう言ってきたのはドロシーでした。
「魔法の力もあるから」
「だからだね」
「外の世界よりもね」
「文明が進んでいたりだね」
「もっと凄いことにもね」
その様にもというのです。
「なるのよ」
「それがオズの国だね」
「そうなの」
ドロシーは今度は葡萄ジュースを飲みつつ木挽きの馬に答えました。
「外の世界の技術がね」
「もっと凄いものになるんだね」
「そうよ」
「そこは流石オズの国だね」
「そしてスマートフォンも」
これもというのです。
「凄い機能が一杯あるわね」
「ここまでのスマートフォンは外の世界にないです」
恵梨香が答えました。
「本当に」
「そうなのね」
「はい、本当に」
実際にというのです。
「他にはないです」
「そうなのね」
「それと」
「それと?」
「動画も面白いですね」
「ああ、オズの国の動画サイトの」
ドロシーも頷きました。
「あそこにあげられる動画も」
「そうですよね、つぎはぎ娘も動画投稿していますし」
「あの娘の歌とダンスは凄いから」
「それで、ですよね」
「幸村さん達は動画視聴するのかしら」
黄金の羊はふと思いました。
「そうなのかしら」
「観ていますぞ」
幸村さんは黄金の羊に微笑んで答えました。
「それがし達も」
「そうですか」
「そちらでも学問も出来ますし」
それにというのです。
「面白い漫画やアニメもあるので」
「幸村さん達もそういうの観るの」
「はい」
そうだというのです。
「毎日観ています」
「成程、じゃあね」
黄金の羊は幸村さんのお話を聞いて頷きました。
「幸村さん達が動画を投稿することはあるかしら」
「今まで考えませんでした」
「そうだったの」
「言われるまで」
「そうなのね」
「まあ拙者達は観る方で」
それでというのです。
「自分達では」
「興味ないの」
「動画を投稿するよりも」
それよりもというのです。
「これまで通りです」
「学問や武芸になの」
「励むつもりで」
そう考えていてというのです。
「暮らしていきます」
「そうなのね、忍術の動画を投稿したら面白いのに」
「ははは、確かに」
「それでもなのね」
「それを披露して人気を得たり注目されることも」
そうしたこともというのです。
「別にと思うので」
「それでなのね」
「そうしたことも」
特にというのです。
「いいです」
「人気者になったり注目されることもなの」
「興味がないので」
「そうなのね」
「修行と学問に励んでいきます」
「それも楽しみなのね」
「それがし達にとっては」
こう黄金の羊にお話しました。
「そうなのです」
「わかったわ、あとね」
「あと?」
「幸村さん飲んでるわね」
見れば焼酎を一杯また一杯と飲んでいます。
「本当にお酒好きなのね」
「こちらは昔からで」
「それでなのね」
「今もこうして」
笑顔で杯のお酒を飲みつつ言いました。
「飲んでおります」
「お肉を肴にして」
「左様です、今では牛肉も」
かつては食べ慣れていなかったこれもというのです。
「この通りですぞ」
「楽しんで食べて」
「肴にしております」
お酒のそれにというのです。
「よいですな、あとお酒もビールやワインも」
「飲むの」
「そういう時もありますぞ」
「そうなのね」
「確かに一番好きなのはこちらですが」
焼酎だけれどというのです。
「他のお酒もまた」
「ワインもお好きですか」
恵梨香は幸村さんに尋ねました。
「そちらのお酒も」
「実は」
「そうですか」
「ではです」
今度は牧場の人が言ってきました。
「ワインも如何でしょうか」
「飲んでよいですか」
「はい」
実際にというのです。
「よければ」
「それでは」
「いや、幸村さんが幸せなら」
恵梨香が言いました。
「私もです」
「嬉しいんだね」
「大変な戦いをされていたから」
木挽きの馬に答えました。
「幸村さんが幸せならね」
「いいんだね」
「ええ、本当にね」
「今回の旅は日本に触れる機会が多かったけれど」
木挽きの馬は恵梨香の今の言葉を受けて考えるお顔になりました、そうしてそのうえで恵梨香に言葉を返しました。
「面白かったよ」
「忍者にお相撲にお侍に」
「頓智にね。色々触れられてね」
「私もよ、今回の旅も素敵だったわ」
恵梨香は木挽きの馬に笑顔で応えました。
「本当にね」
「うん、オズの旅だったね」
「ええ、それでね」
「それで?」
「今は旅を終えたお祝いでね」
「こうしてだね」
「飲んで食べて」
そうしてというのです。
「楽しむわ」
「そして僕はその皆を見てね」
「楽しむわね」
「それがいいわ」
ここでポリクロームが言ってきました。
「私も踊ってね」
「楽しむのね」
「そうするわ」
「そうなのね。今回の旅は貴女とも一緒になれたし」
「面白かったわね」
「ええ」
とてもというのでした。
「私達もね」
「それは何よりね、それはそうとね」
「どうしたの?」
「私も今度幸村さん達に忍術を教わってみようかしら」
「いいね、じゃあ僕もね」
木挽きの馬もポリクロームの言葉を聞いて言いました。
「忍術を教えてもらおうかな」
「拙者達でよければ」
幸村さんは木挽きの馬達に笑顔で応えました。
「そうさせて頂きます」
「それじゃあね」
「はい、ではその様に」
「そうしたら僕は何になるのかな」
「忍馬ね」
恵梨香が答えました。
「その時は」
「忍馬だね」
「ええ、忍術を身に着けた馬だから」
だからだというのです。
「そうなるわ」
「いい名前だね、じゃあ忍馬になるよ」
木挽きの馬は恵梨香に笑顔で応えました、皆は彼のその言葉を聞いてでした。
それならなってねと笑顔で言いました、木挽きの馬は絶対にと言ってその場で足をパカパカと鳴らしました。後に忍馬になって尚更走るのが速くなりました。
オズの木挽きの馬 完
2020・11・11