『オズの木挽きの馬』
第十幕 黄金の羊
もうすぐ黄金の毛の羊がいる場所に辿り着くというところで、でした。一行は休みました。もう夜なのでそうしました。
「あと少しでもね」
「夜になればですね」
「夜に歩くのは足元が危ないから」
グリンダは恵梨香にお話しました。
「だからね」
「ここは焦らないで、ですね」
「そう、羊はその場所にずっといるそうだし」
それならというのです。
「もうね」
「落ち着いてですね」
「そのうえでね」
そうしてというのです。
「今日は休みましょう」
「晩ご飯を食べて」
「そしてね」
そのうえでというのです。
「近くのお池で身体も洗って」
「歯を磨いてですね」
「寝ましょう」
「そうしますね」
「ゆっくりとね、そして明日ね」
「黄金の羊のところにですね」
「行きましょう」
こう言うのでした。
「是非ね」
「わかりました」
「そしてね」
「そして?」
「今日の晩ご飯はね」
グリンダはそちらのお話をしました、もう道の横にテントを出してテーブル掛けを囲んで座っています。
「お寿司がいいかしら」
「お寿司ですか」
「今回の旅は日本にまつわることが多いでしょ」
「だからですか」
「今夜のお料理も」
それもというのです。
「日本のものがいいかしらと思ってなの」
「お寿司ですか」
「どうかしら」
「いいですね」
恵梨香はグリンダに笑顔で答えました。
「私お寿司大好きですし」
「僕もです」
「僕も好きです」
「お寿司にしましょう」
「異議なしです」
ジョージ達四人も言います、そして。
モジャボロも弟さんもこう言いました。
「いいね、お寿司なんて」
「素敵なご馳走だよね」
「それじゃあね」
「今夜はお寿司にしよう」
「僕達は構わないよ」
木挽きの馬はこう言いました。
「別にね」
「私もよ、食べる必要はないから」
ガラスの猫も言います。
「だからね」
「好きなもの食べたらいいよ」
「皆が好きなものをね」
「それじゃあ決まりね、今から出すわね」
グリンダも笑顔で頷いてでした。
お寿司を出しました、鮪にハマチ、鮭に鰯に秋刀魚にコハダ、鰻に穴子、海胆にイクラに数の子にです。海老や鳥貝、赤貝に貝柱もあって。
他にはトロやカジキ、アワビもあります。かなり豪華です。
その中の納豆巻きを見て木挽きの馬は言いました。
「僕は何も食べないけれど」
「どうしたの?」
恵梨香は河童巻きを食べつつ言いました、他には玉子もあります。
「一体」
「いや、納豆ってね」
「その食べものがっていうの」
「最初見て驚いたよ」
こう恵梨香に言うのでした。
「食べものなのかって」
「そうよ、美味しくて栄養があるのよ」
恵梨香は木挽きの馬に答えました。
「凄くね」
「そうなんだよね」
「私も好きよ、納豆」
「そうなんだね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「納豆は日本でも嫌いな人多いのよ」
木挽きの馬にこのこともお話しました。
「実はね」
「この外見と臭いでだね」
「どっちもかなり凄いから」
それでというのです。
「嫌いというか食べられない人もね」
「多いんだね」
「そうなの」
「私も最初聞いて驚いて」
ナターシャは蛸を食べつつ言います。
「見てもっと驚いたわ」
「中国にも臭いの強い食べものあるけれど」
神宝は鯵を食べながらお話します。
「納豆はまた凄いよ」
「日本の食べものの中でも一番凄いかな」
ジョージはしめ鯖を食べて言いました。
「臭いでは」
「物凄い臭いで糸も引いていて」
カルロスは烏賊のげそを食べています。
「これ食べもの?ってなるよ」
「納豆は世界でも有名になっていても」
それでもと言う恵梨香でした。
「見たら皆驚くのよね」
「ええ、実際驚いたわ」
「今僕達が言った通りにね」
「噂には聞いていても」
「その目で見ると尚更だよ」
四人で今は茶わん蒸しを食べている恵梨香に言いました。
「納豆については」
「梅干しとか海苔も凄いけれど」
「納豆はもう別格で」
「その目で見たら」
「そうなのよね、けれどこれで食べたら」
そうしたらというのです。
「美味しいのよね」
「これがあっさりしているんだよね」
モジャボロはその納豆巻きを食べています。
「随分と」
「そうなんですよね」
「外見と臭いは凄くても」
「ご飯にもよく合って」
「あっさりした味で」
「食べやすいですね」
「一度食べてみたら」
そうしたらというのです。
「これはこれでいいよ」
「僕は冷やしうどんと混ぜて食べることもあるけれど」
弟さんは鰯を食べながら言いました。
「あれがね」
「美味しいですね」
「おうどんとも合うね」
「あっさりした味でよく絡むので」
「おうどんにも合うね」
「そしてご飯にも」
「そうですね、ですから私もよく食べます」
そうしているというのです。
「納豆は」
「納豆とお魚をお味噌を食べるからかしら」
ここで言ったのはガラスの猫でした。
「日系人が頭がいいのは」
「日系人って頭いいの?」
「オズの国ではそう言われているわ」
「そうなのね」
「僕もよく聞くよ、日系人は頭がいいってね」
木挽きの馬も言ってきました。
「オズの国でね」
「ううん、私はそう思わないけれど」
「そしてその理由はね」
「納豆なのね」
「そしてお魚に」
そのお寿司のネタ達を見ながらの言葉です。
「お味噌だね」
「これね」
グリンダは赤味噌のそのお味噌汁を飲んでいます、茶わん蒸しだけでなくこちらも出して楽しんでいるのです。
「美味しいわよ」
「そうしたものを食べているから」
「日系人って頭いいの」
恵梨香はあらためて言いました。
「そうなの」
「そう言われているよ」
「皆変わらないわよ」
ここでこう言ったのはグリンダでした、今もお味噌汁を飲んでいます。
「どの国の人でもね」
「頭がいいかとかはないんだ」
「そうよ、誰も努力次第でね」
それでというのです。
「頭はよくなるのよ」
「そうなんだ」
「お勉強をすればね、あと食べものでは」
「頭はよくならないんだ」
「どうなのかしら。身体にいいものをバランスよく食べれば」
それでというのです。
「身体は健康になって」
「頭もなんだ」
「よくなるんじゃないかしら」
「納豆は関係ないんだ」
「あるといえばあるわね」
グリンダは木挽きの馬に答えました。
「納豆はお豆でしょ」
「大豆だね」
「お豆は凄く身体にいいから」
「それでなんだ」
「食べると凄く身体にいいから」
「それで納豆もなんだ」
「そうよ、お味噌だってね」
今グリンダが飲んでいるお味噌汁のそれもというのです。
「元は大豆だから」
「身体にいいんだ」
「そうよ、そして魚介類はね」
「身体にいいね」
「カロリーは少なくて血を奇麗にしてくれて」
そうしてというのです。
「良質な蛋白質だから」
「身体にいいんだ」
「そうなのよ」
「つまり身体にいいものをいつも食べることだね」
「そうすればね」
「健康になって」
「頭もよくなるのよ」
こう木挽きの馬にお話しました。
「つまりはね」
「納豆やお魚やお味噌に限らないんだ」
「そうよ、大事なことは」
それはといいますと。
「身体にいいものをね」
「バランスよくだね」
「沢山食べることなのよ」
「成程ね」
笑顔で頷く木挽きの馬でした、そして。
お寿司を楽しく食べる恵梨香達を見て言いました。
「皆身体にいいものを沢山食べてね」
「ええ、そうするわね」
恵梨香が笑顔で答えました。
「是非ね」
「それも美味しくね」
「そうして楽しんでいる私達を見て」
「僕も笑顔になるよ」
「私もよ、ただエリカだと」
ガラスの猫はオズの国にいる生身の猫の友達のことを言いました。
「お寿司見たらいつも飛びついてくるわね」
「エリカは生身だからね」
木挽きの馬が答えました。
「だからだよ」
「食べる必要があって」
「それでね」
その為にというのです。
「猫だからね」
「お魚が好きなのね」
「それでだよ」
「お寿司も好きなのね」
「それも大好きなんだよ」
「そういうことね」
「ええ、そしてね」
「そして?」
「もう一つね」
木挽きの馬はさらに言いました。
「エリカは好きなものがあるよ」
「何かしら」
「鶏肉だよ」
「ああ、あのお肉ね」
「エリカはあちらも好きだよ」
そうだというのです。
「だからね」
「鶏肉のお料理も好きね」
「うん、そうだね」
「あの娘も好きな食べもの多いわね」
「ただドロシー達に随分言われて」
それでというのです。
「何でも、それこそ小さな生きものを見たら食べようとか」
「そうしたことはしなくなったわね」
「そのことはいいことだよ」
木挽きの馬は言いました。
「本当にね」
「皆にとってもエリカにとってもね」
「何でも最初ドロシー王女とオズの国に来た時のエリカはね」
「小さな生きものを見たら食べたがって」
「トラブルメーカーだったからね」
「その頃のお話は有名ね」
ガラスの猫も知っていることでした。
「私も聞いているわよ」
「そうだね」
「だからね」
それでというのです。
「今のエリカはね」
「出されたものばかり食べるから」
「いいのよね」
「本当に」
「それでお寿司もね」
「好きで」
「見たら飛びつくわね」
そのお寿司を見つつ木挽きの馬にお話しました。
「今だって」
「そうなっているね」
「絶対にね、私は違うけれどね」
「同じ猫でもね」
「食べるそのお顔を見て」
そしてというのです。
「皆のね」
「楽しむね」
「そうしているわ、しかし」
ここで、でした。
ガラスの猫は日本酒を飲んでいるモジャボロさんと弟さんを見て言いました。
「お寿司ってお酒にも合うのね」
「お魚だからね」
モジャボロは笑顔で答えました。
「だからね」
「それでなのね」
「日本酒に合うんだ」
「お魚には日本酒なの」
「白ワインもいいけれど」
「日本酒もなのね」
「やっぱり和食にはね」
お寿司も和食で、というのです。
「このお酒だよ」
「日本酒ね」
「しかもね」
弟さんは日本の赤く塗られた木製の幅の広い杯を手に言います。
「ガラスのコップで飲むよりも」
「木の杯でなのね」
「飲むとね」
そうすればというのです。
「尚更ね」
「美味しいのね」
「そうなんだ」
実際にというのです。
「これがね」
「そうなのね」
「これは僕の好みだけれど」
弟さんは飲みながらお話しました。
「日本酒はね」
「木の杯ね」
「これで飲むのが一番だよ」
「それであんたもそうして飲んでいるのね」
「うん、最高だよ」
お酒をどんどん飲みながらの言葉です。
「こうして飲むとね」
「僕はガラスのコップで飲んでいるけれど」
モジャボロは弟さんより勢いよく飲んでいます。
「それでもね」
「木の杯がなの」
「絵になるね」
見ていてというのです。
「本当に」
「そうなのね」
「だからね」
「弟さんがそうして飲んでいても」
「いいと思うよ」
こうガラスの猫にお話しました。
「僕は」
「そういうことね」
「じゃあこのままね」
「お酒を飲んで」
「お寿司も食べて」
そうしてというのです。
「楽しむよ」
「いい笑顔よ」
モジャボロと弟さんのお顔を見ての言葉です。
「あんた達、そしてね」
「皆もだね」
「お寿司や他の食べものや飲みものを楽しんでね」
そうしてというのです。
「そうなっているわ」
「だってお寿司も茶わん蒸しもお味噌汁も美味しくて」
恵梨香がガラスの猫に言います。
「それでね」
「そのうえでなのね」
「そうなっているわ」
「そうなのね」
「今日もお腹一杯飲んで食べて」
そうしてというのです。
「身体も奇麗にしてね」
「寝るのよね」
「そうするわ」
こうガラスの猫に答えました。
「私は」
「そうなのね」
「ええ、じゃあ明日は」
「いよいよよね」
「黄金の羊さんと会いましょう」
恵梨香はにこりと笑って言いました、そしてです。
皆はその夜身体を奇麗にしてからゆっくりと休みました、そうして次の日の朝日の出と一緒にご飯を食べまして。
そのうえで出発すると森の中で、でした。
黄金に輝く毛を持つ羊がいました、恵梨香はその羊を見て言いました。
「うわ、本当にね」
「毛が金色だね」
「まるで黄金を糸にしたみたいよ」
こう木挽きの馬に言いました。
「これは」
「凄く奇麗だよね」
「ええ」
こう木挽きの馬に答えました。
「本当にね」
「ここにいてくれたね」
「私約束は守るわ」
黄金の羊が言いました、若い女の人の声でした。
「ちゃんとね」
「ここで待っていてくれたんだ」
「そうよ、特に用事もなかったし」
こう木挽きの馬に答えました。
「だからね」
「それでなんだね」
「ええ、待っていてね」
それでというのです。
「楽しく食べて寝てね」
「そうしていたんだ」
「そうしていたわ、旅は満喫したし」
それでというのです。
「もうね」
「満足しているんだね」
「凄くね」
こう木挽きの馬に言いました。
「私は」
「それは何よりだね」
「じゃあ牧場に帰って」
そうしてというのです。
「後はもうそこでゆっくりよ」
「そうするんだね」
「あの、勝手に外出したから」
恵梨香が黄金の羊に言いました。
「牧場の人にはね」
「謝らないと駄目っていうのね」
「そのことはね」
「それはわかっているわよ」
黄金の羊は恵梨香に答えました。
「私もね」
「そうなのね」
「ふと思いついて出てね」
牧場をというのです。
「それでここまで一気に来て」
「それで気付いたのね」
「ええ、悪いことをしたってね」
その様にというのです。
「思ったから」
「それでなのね」
「牧場に戻ったら」
その時はというのです。
「ご主人にちゃんと謝るわ」
「そうしないとね」
「駄目よね」
「ええ、じゃあね」
「今からね」
「牧場に帰りましょう」
恵梨香は黄金の羊に言いました。
「今から」
「それじゃあね」
「帰りはこのまま道を引き返すのかな」
モジャボロは旅路のことをお話しました。
「そうするのかな」
「行きも楽しかったけれど帰りもだね」
弟さんはお兄さんの言葉に応えました。
「旅を楽しむんだね」
「そうするのかな」
「それがいいわね、急がないし」
グリンダはモジャボロの言葉に頷きました。
「それならね」
「それじゃあだね」
「今回はね」
「このままだね」
「道を引き返して」
そうしてというのです。
「帰りましょう」
「ではね」
「いいわね、帰りの道も楽しいものになるのは間違いないから」
ガラスの猫も賛成しました。
「そうしましょう、ただ佐助さんがいた川は」
「あそこは少し離れたところに橋があるのよ」
グリンダがすぐに答えました。
「だからね」
「それでなのね」
「そう、安心していいわ」
「普通に渡れるのね」
「そうよ」
こう言うのでした。
「私達はね」
「渡し守の人と舟がなくても」
「安心していいわ」
「そうなのね」
「じゃあ帰ろう」
木挽きの馬も言いました。
「これから」
「ええ、そうしましょう」
黄金の羊も応えました。
「これから」
「君がそう言ってくれて何よりだよ」
「それじゃあね」
「牧場に戻ろうね」
こうお話してでした。
皆は一緒にでした、帰り道に着きました。すると。
皆前の青空に虹がかかっているのを観ました、恵梨香はその虹を観ながら言いました。
「オズの国ってよく虹が出るわね」
「雨上がりでなくてもね」
神宝が応えました。
「出るよね」
「それもあの虹七つも連なっているけれど」
ジョージも言います。
「ああした虹もよく出るね」
「虹が連なるなんて外の世界じゃ滅多にないのに」
こう言ったのはカルロスでした。
「オズの国じゃいつもだね」
「しかもあの虹は渡れるし」
ナターシャもその虹を観ています。
「素敵なのよね」
「若しかして」
恵梨香はこうも言いました。
「あの虹はポリクロームの虹かしら」
「ああ、あの人のだね」
「有り得るね」
「ポリクロームは虹を造るしね」
「虹の精だから」
「だからね」
それでとです、恵梨香は四人にお話しました。
「あの虹はね」
「それなら虹に声をかけてみよう」
木挽きの馬はこう提案しました。
「そうすればわかるよ」
「ポリクロームを呼ぶの?」
「あの虹に向かって」
「そうすればわかるんだ」
「若しポリクロームが造ったものならポリクロームが出て来る」
「そう言うのかな」
「うん、だからね」
それでというのです。
「今からね」
「あの虹に向かって」
「ポリクロームの名前を呼ぶ」
「そうすればいいんだ」
「それじゃあ今から」
「ポリクロームを呼ぶのね」
「そうしてみようね」
こう言ってでした、木挽きの馬は五人と一緒にでした。
虹に向かってポリクロームの名前を呼びました、するとお空からそのポリクロームがゆっくりと舞い降りてきてです。
皆の前に出て来てこう言ってきました。
「ここで何をしているのかしら」
「実はね」
木挽きの馬がお話しました。
「こうした事情でね」
「そうだったのね」
「それで今はね」
「ここにいるのね」
「そして君が虹を造ったのかって思って」
それでというのです。
「呼んだんだ」
「そういうことね」
「今はここで虹を造っていたんだ」
「そうして遊んでいたの」
ポリクロームは木挽きの馬に答えました。
「そうしていたの」
「やっぱりそうだったんだね」
「ええ、それでね」
「それで?」
「貴方達牧場に戻るのよね」
木挽きの馬から聞いたことをそのまま聞き返しました。
「そうするのよね」
「そうだよ」
「私も一緒に行っていいかしら」
こう木挽きの馬にお願いしてきました。
「これから」
「君もだね」
「今は他にすることもないし」
「虹を造って遊んでいたんじゃ」
「それもそろそろ終わるつもりだったの」
そうだったというのです。
「かなり造ったから」
「そうなんだね」
「お家に帰ろうと思っていたけれど」
「僕達に会ったし」
「それでね」
だからだというのです。
「これからね」
「じゃあ一緒にね」
「行きましょう」
「また賑やかになったわね」
恵梨香はポリクロームの参加ににこりと笑って言いました。
「ポリクロームも来てくれて」
「そういえばポリクロームと会うのって久し振りだね」
「一緒に旅をするのも」
「じゃあこれも縁だし」
「一緒に行きましょう」
ジョージ達四人も続きました。
「それじゃあね」
「ポリクロームとも一緒にね」
「牧場に戻って」
「その間の旅を楽しもうね」
「そうすればいいわね、オズの国の旅って」
恵梨香のお顔はにこりとしたままでした。
「何時何があるかわからないから」
「いいよね」
「それが全部楽しいことだから」
「だから最高なんだよ」
「オズの国の旅の素晴らしいところよ」
「そうよね、じゃあ宜しくね」
恵梨香はポリクロームにあらためて言いました。
「これから」
「こちらこそね」
「じゃあ旅を進んでいきましょう」
ポリクロームも入ってでした。
皆は帰り道を進んでいきます。そしてその川に着いてです。
皆はグリンダが言った橋を観ました、するとその橋の前に立札があってこの一文が書かれていました。
「はしを渡ってはいけないって」
「そう書いてあるね」
モジャボロは一文を読んだ木挽きの馬に続きました。
「間違いなく」
「あの、橋なのにね」
「はしを渡っていけないって」
「変なこと書いてあるね」
「この橋修理中なのかしら」
ガラスの猫も首を傾げさせました。
「若しかして」
「そうは見えないわね」
黄金の羊は橋を見て言いました。
「別に」
「丈夫そうだね」
木挽きの馬は橋を見てあらためて言いました。
「木製にしても」
「ええ、というかオズの国の橋って壊れないでしょ」
「一旦造ったら期限まではもつよ」
「それで期限が来たら修理するのよね」
「その筈だよ」
「何ならね」
ここでポリクロームが言ってきました。
「私が虹を出して」
「それを橋にしてだね」
「渡ったらどうかしら」
「それがいいかな、けれどね」
木挽きの馬は首を傾げさせつつまだ橋を見ています、そのうえでの言葉です。
「この橋本当にね」
「ええ、私が見てもね」
「丈夫そうだね」
「日本の橋の造りで」
それでというのです。
「丈夫そうよ」
「奇麗な橋だね」
「本当にね」
「ああ、これはね」
ここで恵梨香が言ってきました。
「頓智よ」
「頓智?」
「ええ、それよ」
こう木挽きの馬に答えました。
「それよ」
「頓智なんだ」
「はしって書いてあるでしょ」
「確かにね」
「はしははしでもね」
それでもというのです。
「『端』なのよ」
「『橋』じゃなくて?」
「『端』なのよ」
こうなるというのです。
「一休さんの頓智よ」
「一休さんってあの小坊主さんだね」
「あの人もオズの国に来られているのね」
「お寺にいてまだ子供だけれど凄い学問があって頭の回転が早い」
「凄い人よね」
「あの人のなんだ」
「多分だけれど」
恵梨香は木挽きの馬に言いました。
「将軍様も一緒におられるわね」
「いるよ、立派な服を着ていてね」
「お公家さんの服よね」
「日本のね、お顔立ちもそうで」
木挽きの馬は恵梨香にその人のこともお話しました。
「いつも一休さんと遊んでいるよ」
「ムキになってよね」
「砕けた人で僕達にも気軽に接してくれるけれど」
「大人気ない人よね」
「いつも一休さんと遊んでいるけれど」
それでもというのです。
「ムキになってるよ」
「そうよね」
「その将軍様のなんだ」
「あの人が日本におられた時にね」
その時にというのです。
「こうした悪戯をしたのよ」
「そうだったんだ」
「それで一休さんに橋の真ん中を渡られて」
「『端』じゃなくてだね」
「勝負に負けて地団駄踏んだのよ」
「その頃から大人気ない人だったんだ」
「政治では凄いことをした人だけれど」
それでもというのです。
「ちょっとね」
「そうした人だったんだね」
「遊ぶことについては」
実際にというのです。
「すぐムキになってね」
「大人気なくだね」
「必死に遊ぶ人なのよ」
「面白い人よ」
グリンダも将軍様について笑顔でお話しました。
「あの人は」
「オズの世界でもですか」
「ええ、今は能も楽しんでいて」
日本のこの舞台にというのです。
「そうして頓智でもね」
「一休さんと遊んで」
「楽しんでいる人よ、それじゃあ」
「はい、今からですね」
「橋を渡りましょう」
「その真ん中をですね」
「『端』を渡らなければいいのよね」
恵梨香に笑顔で尋ねました。
「そうなのよね」
「はい、本当に」
「それならね」
「今からですね」
「真ん中を歩いて渡りましょう」
「それじゃあ」
「いや。面白いお話ね」
黄金の羊も言いました。
「こうしてね」
「言葉で遊ぶことはよね」
「ええ、面白いわ」
「言葉って面白いわよね」
「それで遊ぶことも出来るわね」
「そうね、ただその将軍様って」
黄金の羊はその人のお話もしました。
「本当に大人気ない人なのね」
「そうなの、実際にね」
「子供相手にムキになの」
「遊んでいつも負けてね」
「地団駄踏むのね」
「それでまた勝負を挑んで」
一緒に遊んで、です。
「負けるのよ」
「懲りない人ね」
「そうなのよね、だから凄い人の筈なのに」
それでもというのです。
「大人気はね」
「ないのね」
「そうなの」
「オズの国の大人で一番大人気ない人かしら」
グリンダも将軍様について言いました。
「あの人は」
「オズの国で、ですか」
「リンキティンク王とはまた違った意味でね」
「大人気なくて」
「いつも一休さんとムキになって遊んでるから」
「それで子供に負けてですか」
「物凄く悔しがって」
そうしてというのです。
「地団駄踏むから」
「文字通りにですね」
「オズマやドロシーも仕方ない人ねってね」
「笑っておられますか」
「ええ、けれど心から楽しんでいるわ」
グリンダは恵梨香に答えました。
「将軍様もね」
「そうなんですね」
「だから毎日一休さんと遊んでいるのよ」
「勝負を挑まれて」
「それで楽しく過ごしているのよ」
「将軍様ご自身がそうならいいわね」
ポリクロームはそれで納得しました。
「それじゃあ」
「そうだね」
木挽きの馬はポリクロームの言葉に頷く増した。
「その人がそうなら」
「それでね」
「うん、じゃあ橋を渡ろうね」
その真ん中をと言ってでした。
皆で橋の真ん中を渡って進みました、するろと橋は何ともなくとても丈夫で皆無事に渡れましたが。
橋を渡ると日本の仏教の小坊主の姿の人が黄色と白の見事なお公家さんの服を着たお顔立ちも公家風の大人の人に言っていました。
「ほら将軍様僕以外の人も渡れましたよ」
「うう、また余は負けたのか」
「だって言葉でわかりますから」
「はしのことはか」
「これ位は何でもないですよ」
「おのれ、また負けたのか余は」
「だから言ったじゃないですか」
「余は悔しいぞ」
「あの小坊主さんが一休さんね」
ポリクロームはその小坊主さんを見て言いました。
「そうね」
「それで大人の人が将軍様ね」
ガラスの猫も言いました。
「そうね」
「絶対にそうね」
「そう、一休さんと将軍様よ」
恵梨香も答えます。
「将軍様は足利義満さんっていうの」
「そうしたお名前なのね」
「日本の凄く偉い人で」
それでというのです。
「日本を治めていたけれど」
「そうだったの」
「そう、そしてね」
「今はなのね」
「ああしてね」
「一休さんといつも遊んでいるのね」
「そうなの」
こうお話しました。
「そしてそれがね」
「オズの国でもっていうのね」
「そういうことよ」
「成程ね」
「ええい、また明日じゃ」
将軍様はキンキン声で言いました。
「一休、明日ことはお主に勝つぞ」
「はい、ではまた明日」
こうしたお話をしてでした。
一休さんと将軍様は帰ってしまいました、恵梨香はそのお二人を見て言いました。
「あの人達がね」
「一休さんと将軍様だね」
「そうなの、日本のお話でもね」
木挽きの馬にお話します。
「ああしてね」
「毎日遊んでいるんだね」
「それで将軍様が負けているの」
「しかもムキになっているんだ」
「そうなの」
「成程ね」
「ああした人だから」
それでというのです。
「観ていて飽きないのよ」
「面白い人だね」
「将軍様って偉い人なのに」
「随分大人気なくて」
「それでまだ子供の一休さん相手にね」
「必死に遊んで」
「楽しく過ごしているのよ」
そうしているというのです。
「あの人は」
「本人が楽しいならいいね」
「ええ、じゃあ橋は渡ったし」
「それでよね」
「これからもね」
まさにというのです。
「あの人達は頓智、知恵比べをしてね」
「楽しんでいくんだね」
「そうなるわ、じゃあね」
「うん、橋は渡ったし」
「先に進んでいきましょう」
「それじゃあね」
木挽きの馬は恵梨香の言葉に頷いてでした。
皆と一緒に先に進んでいきました、黄金の羊と会って合流した一行は牧場に向かってどんどん歩いていきました。