『オズの木挽きの馬』
第七幕 川添いを歩いていると
恵梨香達は黄金の毛の羊が行った森に向かっていきます、その中でふと右手に川を見ました。川岸は小石になっていますが。
その小石の川岸から音が聞こえました、その音はといいますと。
「何かシャリシャリって聞こえるね」
「そうね」
ガラスの猫は木挽きの馬の言葉に応えました。
「川の方から」
「何かな」
「どうもこれは」
モジャボロもその音を聞いて言います。
「豆を研ぐ様な」
「そんな音だね」
弟さんも言います。
「聞いてると」
「そうだね」
「ううん、これって」
恵梨香がここで言いました。
「小豆を研ぐ音かしら」
「小豆?」
「ええ、日本ではお菓子によく使うお豆なの」
木挽きの馬に答えました。
「おはぎとかたい焼きとかにね」
「ああ、餡子だね」
「それに使うの、羊羹にもね」
「色々使うんだね」
「そうしたお豆だけれど」
恵梨香はさらに言いました。
「それが川の方から聞こえるなら」
「聞こえるなら?」
「これは妖怪かしらね」
「日本の妖怪かな」
「そうじゃないかしら」
「おっ、気付いたか」
ここで川の方から声がしました。
「わしのことに」
「その声は」
「ははは、前に山の方で会ったな」
頭の上のところが剥げて昔の日本の服を着たお爺さんの姿をした妖怪が川の方に出てきました、それの妖怪が恵梨香に笑顔で言ってきました。
「そうだったな」
「確か小豆洗いさんよね」
「そうじゃ、覚えていてくれたか」
「あの時も凄く楽しかったからね」
恵梨香は小豆洗いににこりと笑って答えました。
「だからね」
「そうか、それは何よりじゃ」
「それでどうして今はここにいるのかしら」
「いや、川辺でな」
そこでというのです。
「皆で遊ぼうと話してな」
「それでなの」
「魚を鍋にして食ってな」
「お酒も飲んでだよ」
今度は垂れ耳の三毛猫に似た妖怪が出てきました。
「楽しもうって話をしたんだよ」
「そういう君は」
カルロスはその妖怪を見て言いました。
「すねこすりだね」
「そうだよ」
妖怪の方も答えました。
「おいらの名前はそうさ」
「ははは、わざわざここまで皆で旅行に来てな」
今度は四角い顔で白い着物と長い髪の毛のお婆さんの姿の妖怪でした。
「鯉を食おうって話になってのう」
「砂かけ婆ね」
ナターシャはそのお婆さんの妖怪を見て言いました。
「貴女は」
「そうじゃよ」
砂かけ婆はナターシャに温和な笑顔で答えました。
「砂を出せるぞ」
「あの山から皆で楽しくここまで旅をしてばい」
今度はひらひらと飛ぶ布に顔があって両手がある妖怪です。
「今度は鯉こくばい」
「一反木綿」
神宝はその妖怪の名前を言いました。
「貴方もいるんだ」
「そうばい、ここの鯉は美味かとで」
一反木綿は神宝に笑顔で応えました。
「皆で来たばい」
「いや、刺身も食おうか」
今度は蓑と赤ちゃんの前かけを着たお爺さんの姿の妖怪でした。
「揚げてもよいのう」
「子泣き爺だね」
ジョージはその妖怪を見て言いました。
「いや、久し振りだよね」
「そうじゃのう、お前さん達も元気そうじゃな」
子泣き爺も上機嫌です。
「それは何よりじゃ」
「早く鯉を釣って」
巨大な壁の妖怪が言ってきました、小さな目と手足があります。
「食べよう」
「そうだよな、鯉がないとはじまらないし」
川獺はこう言いました、ちゃんと人間の服を着ています。
「早く釣ろうか」
「釣るまでもないよ」
今言ったのは猫又でした。
「あたしの妖力で川から出してね」
「それでその鯉をだね」
「調理したらいいんだよ」
「おいらの手にかかればすぐに捕まえられるよ」
河童はこう言いました。
「釣るまでもないよ」
「それはおいらもだけれどさ」
川獺は河童にこう返しました。
「釣り自体を楽しむこともね」
「いいっていうんだ」
「釣りも楽しいじゃないか」
「そういえば君釣りも好きだね」
「だからそっちも楽しみたいんだけれど」
「いや、もう早く食べようよ」
から傘はこう言いました。
「鯉をね」
「ほんまここの鯉は美味いさかいな」
狒々は川の中にいる鯉達を見て言いました。
「はよ食いたいわ」
「何か皆鯉に熱心だね」
木挽きの馬は日本の妖怪達の様子を見て思いました。
「本当に」
「そうね、鯉って確かに美味しいけれど」
恵梨香は首を傾げさせて言いました。
「そんなにここの鯉は美味しいのかしら」
「ここの鯉はカドリングで一番美味しい鯉なの」
グリンダが恵梨香にこのことをお話しました。
「オズの国でも評判なのよ」
「そうなんですか」
「だからね」
「妖怪さん達もですか」
「日本の妖怪の山からわざわざ来て」
はるばる旅をしてです。
「食べるのよ」
「そうなんですね」
「それだけの味だからね」
「そうなんです、あんまりにも美味しいって聞きまして」
河童がグリンダに答えました。
「それで是非にってです」
「そんなに美味しいならよね」
「旅をして」
そしてというのです。
「そこまで行って食べてみようって」
「お話してなのね」
「ここまで来ました」
「そうだったのね」
「それで鯉こくにしてです」
そのお料理にしてというのです。
「食べようって考えています」
「お刺身や揚げものにもして」
「お刺身はあらいですね」
「鯉は洗うからよね」
「食べる前に一旦」
「それでよね」
「はい、そう言います」
河童はグリンダにこのこともお話しました。
「それで今からです」
「鯉を獲って」
「それで食べるつもりです」
こう考えているというのです。
「いよいよ」
「お酒もあるぞ」
子泣き爺は笑顔で一升瓶を出してきました。
「それで皆で飲むぞ」
「いいよね、じゃあ早速鯉を獲ろうか」
「皆も一緒にどうかな」
すねこすりは恵梨香達に誘いをかけました。
「おいら達と一緒に鯉を食べる?」
「皆でなのね」
「ここで会ったのも何かの縁だからな」
こう恵梨香に言います。
「パーティーは人が多い方が楽しいし」
「そのこともあって」
「ああ、あんた達もどうかな」
「そのことは」
「宜しくお願いするわ」
グリンダが答えました。
「それならね」
「じゃあこれから」
「鯉を獲りましょう」
こうお話してです、妖怪達はそれぞれのやり方で鯉を獲ってです。恵梨香達は周りの山菜やお豆腐を採ってでした。
食材をあっという間に揃えて調理もして食べはじめました、頂きますをしてから食べるとこれがでした。
恵梨香は鯉こくの鯉を食べて言いました。
「これは確かに」
「美味いのう」
「本当に」
砂かけ婆に答えました。
「凄くね」
「噂通りじゃ」
「ここの鯉は特別にね」
「美味いのう、大きいしな」
「脂もよくのっていて」
「そうじゃな」
「特にね」
モジャボロはあらのところを食べて言いました。
「この部分がね」
「お魚はあらのところも美味かとよ」
一反木綿がお空から言ってきました。
「だからばい」
「こうしたところもだね」
「しっかりと食べるばい」
「そうだね」
「頭も美味しいよ」
弟さんは鯉のそこを食べています。
「こちらもね」
「そう、お魚は頭も美味しい」
塗り壁の目は優しく笑っています。
「食べるところも多くて」
「そうだよね」
「だからこうして」
「お鍋に入れたりして」
「食べる」
「そうなんだね」
「日本ではお味噌汁やお吸いものでも食べるから」
恵梨香はこのことをお話しました。
「頭のところもね」
「そうなのね。あらのところも頭もこんなに美味しいのね」
グリンダも食べながら言います。
「お魚は」
「鯉もなんです」
「そうなのね」
「何かね」
ここで言ったのは木挽きの馬でした。
「皆物凄く美味しそうだね」
「実際に美味しいよ」
から傘はお箸とお碗を手に答えました。
「鯉は美味しいけれど」
「ここの鯉はだね」
「特に美味しいからね」
それでというのです。
「本当にね」
「美味しくて」
「皆楽しんでるんだよ」
「そうなんだね」
「そして私達はその皆の笑顔を見て楽しむ」
ガラスの猫は恵梨香のすぎ右から言いました、彼女の右には木挽きの馬がいて二匹共座ってそこにいます。
「そういうことね」
「そうなるね」
川獺が答えます。
「君達は食べないからね」
「そして飲みもしないわ」
「そうした身体だからね」
「皆の笑顔がね」
それがというのです。
「私達の食べものであり飲みものでね」
「ご馳走だね」
「そうなのよ」
「そのご馳走をね」
木挽きの馬も言います。
「楽しんでいるよ」
「そうじゃな、あとな」
小豆洗いが言いました。
「まだな」
「まだっていうと」
「実はわし等にもう一人来ておるんじゃが」
「ここにいる人達が今いる妖怪さん達の全部じゃないんだ」
「もう一人おる」
「それは誰かな」
「妖怪博士じゃ」
この妖怪だというのです。
「元は人間でな」
「人間も妖怪になるんだね」
「日本ではな、元々は漫画家でな」
そのお仕事をしていた人でというのです。
「ずっとわし等のことを描いて親しんでおってな」
「それで妖怪になったんだ」
「そうした人じゃ、人としての天寿を全うして」
そしてというのです。
「今ではじゃ」
「妖怪になっていてなんだ」
「わし等と一緒にここまで来たが」
「近所のお家に呼ばれてね」
川獺が鯉のあらいを食べつつ言ってきました、山葵醤油に付けて食べてそうしてお酒も飲んでいます。
「ずっとおいら達のことお話しているんだ」
「そうなんだ」
「だからね」
「今はだね」
「ここにはいないよ」
「その妖怪博士さんって」
恵梨香は揚げたものを食べながら言いました。
「まさか」
「恵梨香は知ってるのかな」
「漫画家さんって聞いたから」
それでとです、恵梨香は木挽きの馬に答えました。
「心当たりがあるの」
「そうなんだ」
「日本じゃ有名な人で」
それでというのです。
「私も知ってるわ」
「そうした人なんだ」
「ええ、その人が来られたら」
それならというのです。
「私も言うわ」
「そうするんだね」
「絶対にね」
「お前さん達は何を飲むのかのう」
子泣き爺がお酒を飲みつつ言ってきました。
「わし等は酒じゃが」
「やっぱりジュースか」
砂かけ婆も言います。
「そっちか」
「ええ、サイダーにね」
グリンダが言ってきました。
「オレンジや林檎のジュースをね」
「出してくれますか」
「今から」
「そうしてくれるんですね」
「じゃあお願いします」
「頂きます」
恵梨香達五人が応えました。
「サイダーもジュースも大好きです」
「丁度欲しいと思ってました」
「それじゃあお願いします」
「出してくれたら嬉しいです」
「食べながら飲ませてもらいます」
「それではね」
こうお話をしているとでした。
その場所に今の外の世界の服をラフに着こなして眼鏡をかけた少し面長のアジア系の人が来ました。
その人を迎え入れてです、妖怪達は言いました。
「この人が妖怪博士だよ」
「わし等の新しい仲間じゃよ」
「その人は」
恵梨香は妖怪博士を見て言いました。
「漫画家の」
「そう、漫画家だったよ」
妖怪博士も恵梨香に答えました、見れば左手はありません。
「戦争から帰ってね」
「そうしてですね」
「ずっと描いていたよ」
「そうでしたね」
「戦争で左手をなくしてね」
そしてというのです。
「ずっと描いていたんだよ」
「妖怪の漫画をですね」
「妖怪以外にも沢山描いていたよ」
「そうだったんですか」
「けれど妖怪の漫画が一番多いね」
妖怪博士は恵梨香に笑顔でお話しました。
「僕は」
「やっぱりそうなんですね」
「もうずっと妖怪に親しんでいたから」
人間だった時はです。
「人間の人生を終えたらね」
「妖怪になられたんですね」
「そしてオズの国にもいるんだ」
「そうなんですね」
「妖怪になれてよかったよ」
妖怪博士は恵梨香にこうも言いました。
「本当にね」
「この方ってね」
「うん、日本でも有名な漫画家さんだよね」
「作品が何度もアニメ化されて」
「伝説の人よ」
ジョージ達四人も言いました。
「世界中の妖怪に詳しくて」
「自分でも妖怪を生み出して」
「もう妖怪のことなら世界一」
「そこまで知っている人だよ」
「そんな凄い人なんだね」
木挽きの馬は子供達の言葉を聞いて驚きました。
「妖怪博士さんは」
「ええ、本当に凄い人よ」
恵梨香は木挽きの馬にサイダーを飲みながら答えました。
「この人はね」
「そうなんだね」
「もう妖怪のことなら何でもご存知で」
「そして妖怪にまでなった」
「そんな人なのよ」
「いや、僕は凄くないよ」
妖怪博士は穏やかな笑顔で言いました。
「ただ妖怪が好きなだけだよ」
「そうなんですか」
「妖怪が好きでね」
それでというのです。
「いつも親しんでいただけだよ」
「そうですか」
「本当にそれだけだよ」
「けれど世界中の妖怪を知っているなんて」
神宝は言いました。
「凄いですよ」
「日本の妖怪だけじゃないですよね」
ナターシャは妖怪博士に尋ねました。
「ご存知なのは」
「そこまで妖怪を知っているなんて」
カルロスは鯉こくを食べながら唸りました。
「そうそういないですか」
「世界でもそんな人がそういるのか」
ジョージも言います。
「本当に」
「オズの国でも一番の妖怪通でね」
モジャボロは鯉のあらいを食べながらジョージ達にお話しました。
「ムシノスケ教授も教わっている程だよ」
「あの人がですか」
「それはまた凄いですね」
「ムシノスケ教授が教わるなんて」
「オズの国で一番の学者さんが」
四人はこのことを聞いて驚きました。
「本当に妖怪に詳しいんですね」
「じゃあもうオズの国の妖怪のこともですね」
「全部ご存知なんですね」
「そうなんですね」
「いや、学べば学ぶ程ね」
妖怪博士がお話しました。
「学ぶことが増えるのが学問だね」
「だからですか」
「妖怪のこともですか」
「学ぶときりがない」
「そうなんですか」
「そうなんだ」
これがというのです、恵梨香達五人の子供達に言いました。
「本当にね、だからね」
「全部ご存知でない」
「そうなんですか」
「妖怪博士さんにしても」
「そうなんですね」
「妖怪のことを」
「オズの国の妖怪の皆のこともね」
それはというのです。
「まだまだだよ」
「オズの国って人がどんどん増えていってるしね」
ガラスの猫がこのことを言いました。
「だから妖怪もよね」
「うん、妖怪は外の世界でも増えていっていてね」
妖怪博士はガラスの猫にも答えました、今はお酒を美味しそうに飲んでいます。飲むことも食べることもお好きみたいです。
「そしてね」
「オズの国でもよね」
「だからね」
それでというのです。
「本当にね」
「学んでもなのね」
「さらにね」
「学ぶべきことが増えるのね」
「そうなんだ」
「成程ね」
「だからオズの国は面白いんだ」
そうだというのです。
「ずっと楽しめるからね」
「ええ、ただ妖怪のことは」
グリンダはここでこう言いました。
「私も最初はあまり知らなかったの」
「そうだったんだ」
「ええ、ドロシーが最初にこの国に来た頃はね」
こう木挽きの馬にお話しました。
「オズの国が皆に知られる様になった頃はね」
「それからなんだ」
「次第に妖怪の皆も増えていって」
そしてというのです。
「私もね」
「学んでいったんだ」
「そうなの」
「成程ね」
「いや、本当にオズの国はね」
まさにというのです。
「面白い国よ」
「グリンダから見てもだね」
「そうよ、私も妖怪のことをね」
「学んでいくんだね」
「そうするわ」
木挽きの馬に鯉の頭のところを食べつつ答えました。
「是非ね」
「妖怪っていっても色々だからね」
から傘が応えました。
「本当にね」
「ええ、皆それぞれ違うわね」
「僕達を見ればわかるね」
「よくね」
グリンダはから傘に答えました。
「本当に」
「そうだよね」
「そして不思議な人達ね」
「不思議だからオズの国にいてもね」
木挽きの馬はこう言いました。
「おかしくないね」
「オズの国はお伽の国だから」
また妖怪博士が言ってきました。
「僕達もね」
「今いるね」
「僕達は日本の妖怪だけれどね」
「オズの国はアメリカが反映されるから」
「アメリカに日本人が移住してね」
「アメリカに日本文化が入るとだね」
「僕達も入るんだ」
そうなるというのです。
「こうしてね」
「そうだね」
「というかオズの国には日本の街もあるね」
「あの大阪だね」
「日本の街があるのもいいことだよ」
妖怪博士は今は鯉のあらいを食べています、そのうえでの言葉です。
「本当に」
「そうだよね」
「日本の食べものも食べられるしね、カレーライスだってね」
「妖怪博士さんカレーライス好きなんだ」
「好きな食べものの一つだよ」
実際にというのです。
「本当に」
「そうなんだね」
「僕はライスカレーって言ってたよ」
「カレーライスをだね」
「そうだったよ」
「あの」
恵梨香は妖怪博士にここで尋ねました。
「一ついいですか?食べもののことで」
「何かな」
「妖怪博士さんの漫画で人魂の天麩羅がありますね」
「ああ、あれだね」
「何か凄く美味しそうですけれど」
その人魂の天麩羅がでる。
「実際に食べられるんですか」
「うん、別に食べても人魂は死なないしね」
「死なないんですか」
「魂だからね、魂は不滅だからね」
それでというのです。
「死なないよ」
「そうですか」
「そしてね」
「そして?」
「食べると一時でもお顔がなくなるね」
「あっ、そうなっていますね」
「だから食べることはね」
このことはというのです。
「あまりお勧め出来ないね」
「お顔が魂からふわっと出て」
「それでね」
「そうですか」
「そう、ただね」
「ただ?」
「味はね」
これはといいますと」
「アイスクリームみたいでね」
「アイスクリームですか」
「あれそっくりだね、バニラのね」
こちらのアイスでというのです。
「凄くね」
「美味しいんですね」
「そうなんだ」
「そうですか、何か漫画を読んでいますと」
「美味しそうだね」
「はい」
恵梨香は妖怪博士に答えました。
「見ていますと」
「ははは、人魂は美味いぞ」
子泣き爺はお酒を飲みつつ言ってきました。
「実にな」
「そうなのね」
「ただ、本当にな」
恵梨香にこうお話します。
「食べるとお顔がな」
「魂になってお口から出るから」
「それがあるからな」
「食べるとなのね」
「あまりよくはないのじゃ」
「そうなのね」
「しかしまた美味くてのう」
砂かけ婆も言ってきました。
「時々食べたくなるのじゃ」
「そうなのね」
「実際にアイスクリームみたいでな」
バニラのそれでというのです。
「よいぞ」
「アイスクリームね」
「バニラのな」
それだというのです。
「バニラのアイスが好きならな」
「余計にいいのね」
「そうじゃよ」
「まあ人魂も死なないしばい」
一反木綿はひらひらと飛びながら言いました。
「お顔も戻るからばい」
「いいのね」
「まあちょっとなくなるだけばい」
お顔がというのです。
「それだけばい」
「お顔がないと見えないけどな」
小豆洗いは笑って言いました。
「口だけになるから」
「つまりのっぺらぼうだよ、まあのっぺらぼうは見えてるけれどね」
ろくろ首は飲みながら言います。
「ちゃんとね」
「目がなくても」
「そうなの、あれでね」
実はというのです。
「見えてるのよ」
「そういえば」
「ちゃんと動いているわね」
「それで相手を見てお話しているわ」
「のっぺらぼうはそうなのよ」
目がないけれどというのです。
「見えてるのよ」
「そうなのね」
「けれど人魂を食べるとね」
その時はというのです。
「見えなくなるからね」
「注意しないと駄目なのね」
「くれぐれもね」
「まあ目がないとね」
木挽きの馬も言います。
「困るしね」
「だろ?人魂はそこを注意しないと駄目なんだよ」
すねこすりが木挽きの馬に応えました。
「よくな」
「僕は食べなくてもだね」
「覚えておいてくれよ」
「わかったよ」
「まあわしはアイスならな」
小豆婆は笑って言いました。
「バニラよりもな」
「小豆が中にあるのがいいな」
小豆はかりも言いました。
「何といっても」
「そうじゃな」
「それはな」
「小豆の妖怪だからな」
「どうしてもな」
「だからかき氷にしても」
「宇治金時だよ」
これがいいというのです。
「何といっても」
「宇治金時は最高じゃ」
小豆洗いも言います。
「本当にな」
「やっぱり小豆の妖怪だと好きなのね」
恵梨香は小豆洗い達のお話を聞いて思いました。
「実際に」
「その通りじゃ」
小豆洗いは恵梨香に答えました。
「小豆を使ったお菓子は大好きじゃ」
「何よりもかしら」
「鯉や他の食べものも好きじゃが」
「第一はなのね」
「小豆を使ったお菓子じゃよ」
「じゃあデザートは羊羹がいいね」
妖怪博士は小豆洗い達の考えを聞いて言いました。
「それがいいね」
「羊羹いいよね」
河童は妖怪博士のその言葉に頷きました。
「あのお菓子もね」
「そうだよね」
「じゃあ鯉とお酒の後は」
「羊羹にしよう」
「羊羹、あれはいいね」
「そうだね、兄さん」
モジャボロの兄弟は羊羹と聞いて笑顔になりました。
「味もいいし」
「食感もよくて」
「本当にね」
「美味しいお菓子だよ」
「小豆があってお砂糖があってな」
小豆婆が言ってきました。
「そしてお餅があればな」
「お汁粉かだね」
「善哉が出来るぞ」
こう弟さんにお話するのでした。
「これまたよい、白玉でもな」
「いいね」
「うむ、お餅もいいがな」
「どちらも小豆に合うね」
「だからよい、兎に角小豆はいいのじゃ」
お酒を飲みつつ小豆のよさをお話するのでした。
「まことにな」
「それでだね」
「羊羹もよくてな」
そしてというのです。
「後で皆で食べようぞ」
「そうしようね、僕は羊羹も好きだから」
妖怪博士はにこにことして鯉こくのあらの部分を食べつつ言いました。
「楽しみじゃよ」
「妖怪博士さんにしてもじゃな」
「とてもね」
「羊羹は戦艦の中でも造っていたって聞きましたけれど」
恵梨香は妖怪博士に尋ねました。
「本当ですか?」
「大和ではそれが出来たんだ」
「そうだったんですか」
「ラムネも造れたよ」
「ラムネもですか」
「それで艦内で楽しんでいたんだ」
そうだったというのです。
「皆でね」
「そうだったんですね」
「うん、甘いものもいいよね」
「はい、本当に」
「昔の日本は甘いものっていうとね」
そうしたものになると、というのです。
「小豆を使ったものが多くてね」
「それで、ですね」
「羊羹もね」
「大和の中で、ですね」
「造れる様にして」
そしてというのです。
「皆食べていたんだ」
「そうなんですね」
「オズの国には甘いものが一杯あるけれど」
塗り壁が言ってきました。
「羊羹もあるね」
「どら焼きもお汁粉も」
「それがいいね」
とてもというのです。
「本当に」
「ええ、それじゃあ」
「皆で羊羹も楽しもう」
塗り壁も言ってでした、皆は実際に鯉料理の後は羊羹を食べました。そこで川獺はこんなことを言いました。
「食後の羊羹最高だよ」
「お酒を飲んでいてもね」
河童も食べつつ言います。
「それでもね」
「そうだよね」
「羊羹食べてお茶飲んだら」
「それだけで幸せになれるね」
「そうだね」
「確かにね」
グリンダも羊羹を食べつつ言います。
「デザートの羊羹は素敵ね」
「お茶も飲んで」
恵梨香は笑顔で羊羹を食べて言いました。
「そうしますと」
「それだけでね」
「幸せになれますね」
「オズの国にはね」
「暫くなかったんですよね」
「ええ、日本のお菓子だからね」
それでというのです。
「暫くはね」
「なくて」
「そんなお菓子があること自体ね」
「知らなかったんですね」
「そうだったけれど」
それがというのです。
「今はね」
「こうしてですね」
「食べているわ、昔のオズの国はケーキやクッキーはあっても」
それでもというのです。
「羊羹もどら焼きもなくて」
「小豆のお菓子は」
「もっと言えば杏仁豆腐やゴマ団子もなかったの」
「限られていたんですね」
「それが今ではよ」
「どれもですね」
「食べられて」
それでというのです。
「美味しくね」
「楽しんでおられますか」
「クリームやチョコレートやシロップもいいけれど」
「小豆もですね」
「美味しいからね」
「それで、ですね」
「そちらも楽しんでいるわ」
「それは何よりです」
妖怪博士はグリンダのその言葉に笑顔になって言いました。
「やっぱり小豆は日本にとって欠かせないものなので」
「お菓子を作るにあたってね」
「そうです、たい焼きにも使いますね」
「たい焼きも美味しいわね」
「ですから」
それでというのです。
「お好きでいてくれたら」
「それでなのね」
「僕達も嬉しいです」
日本の妖怪達もというのです。
「ですから鯉料理も日本酒も楽しんでもらえたら」
「小豆のお菓子もね」
「そうされて下さい」
「そうさせてもらうわ」
グリンダは妖怪博士に笑顔で応えました、そうして他の皆と一緒に羊羹も楽しみました。一行は川辺で日本の妖怪達と思わぬ楽しい時間を過ごすことが出来ました。