『新オズのオジョ』




                第六幕  関羽雲長さん

 一行はマンチキンからカドリングに至る黄色い煉瓦の道をどんどん進んでいきます、そしてカドリングとの境に近付いたところで。
 神宝は皆にいよいよというお顔で言いました。
「もうすぐですね」
「関羽さんのお屋敷ね」
「そこに着きますね」
「ええ、ただいつもは落ち着いている貴方がね」
 オズマはその神宝に言いました。
「随分はしゃいでいるわね」
「やっぱり関羽さんにお会い出来るとなると」
「それならなのね」
「いてもたってもいられなくて」
 それでというのです。
「ですから」
「そうなのね」
「はい、是非です」
 こう言うのでした。
「関羽様にお会いしたいです」
「今からなのね」
「そう考えています」
「神宝は本当に関羽さんが好きなのね」
 このことはビリーナもわかることでした。
「ヒーローに会いたい子供みたいというか」
「そのものだよ」
「そうよね」
「中国人にとって関羽様はヒーローだから」
「孫悟空さん達と並ぶ」
「あと岳飛さんや他にも多くの人がいるけれど」
 そうした人達の中でもというのです。
「関羽さんは特にだから」
「それでなのね」
「そう、僕もお会いしたいんだ」
 早くというのです。
「そう考えているよ」
「そういうことね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「孫悟空さんにはお会い出来るかは」
「そのことは運次第じゃないかな」
 ボタンがこう答えました。
「その人のことは」
「そうなんだ」
「僕はそんな気がするよ」
「あの人もオズの国に住んでいるけれど」
 オズマがお話しました。
「この近くにお家はないの」
「そうなんですね」
「ウィンキーの山奥にね」 
 そこにというのです。
「猪八戒さんや沙悟浄さんと一緒にね」
「住んでおられるんですね」
「そうよ、あと三蔵法師さんもオズの国におられるわよ」
 この人もというのです。
「西遊記の人達はね」
「皆さんおられるんですね」
「ええ、だからお会いしようと思えば」
 その時はというのです。
「お会い出来るわよ」
「そのことも嬉しいですね」
「中国からの人だと花木蘭さんもおられるし」
「あの人もですか」
「水滸伝の人達もね」
「百八人の人がですね」
「おられて孫十三娘さんも包青天さんも」
 この人もというのです。
「おられるから」
「色々な人がおられますね」
「オズの国だから」
 お伽の国だからだというのです。
「どの人もおられるのよ」
「そうですか」
「それでね」
「それで、ですか」
「お会いしたいならね」
「お会い出来ますね」
「そのことを覚えておいてね」 
 オズマは笑顔で言います、ですが。
 ここでふと恵梨香が言いました。
「三蔵法師さんって女の人だと思ってたわ」
「どうしてーーですーーか」
「日本のドラマでそうだったからなの」
 チクタクに答えました。
「だからなの」
「それは日本だけだから」
 ナターシャがくすりと笑って言いました。
「他の国では違うわよ」
「何故か日本ではそうだけれど」
 カルロスもそのことを言います。
「実際は違うから」
「三蔵法師は男の人だよ」
 ジョージもしっかりと言います。
「原作でもそうだよ」
「三蔵法師は紛れもなく男の人で」
 こう言ったのは神宝でした。
「玄奘さんというんだ」
「凄く立派な人だったね」
 オジョもこの人のことを知っています。
「わざわざインドまで仏教の経典を取りに行った」
「はい、そうした人でして」
「物凄い苦難を乗り越えてね」
「それで経典を手に入れました」
 神宝も言います。
「本当に素晴らしい人です」
「そう思うと頭がいいだけでなくて」
「勇気もある人ですね」
「そうだね」
「逞しいイメージがあるんですが」
「そうだね」
「それが日本ではです」
 この国ではというのです。
「女の人、凄く奇麗な人で」
「驚いたんだね」
「かえって」
「国によって三蔵法師も変わるんだね」
「そうですね」
「最近では関羽さんもだね」
 この人もとです、オジョはこれからお会いする人のお話もしました。
「女の人になってるね」
「はい、驚いたことに」
「あのことも凄いね」
「関羽さんが凄く可愛い女の子になるなんて」
 このことはというのです。
「このことも有り得ないです」
「その有り得ないことが起こるのが日本だね」
「そうですね」
「ただオズの国の関羽さんは男の人だから」
 ビリーナはこのことははっきりとお話しました。
「安心してね」
「はい、とても大きくて立派なお鬚を生やした」
「武将さんだからね」
 こう神宝に言います、そしてです、
 皆がマンチキンとカドリングの境、青い草原から赤い草原に変わるその境目が見えるところに至るとでした。
 道の左に中国風のお屋敷、壁に囲まれたそれが見えました。オズマはそのお屋敷を見て皆にお話しました。
「あのお屋敷がね」
「関羽様のお屋敷ですね」
「そうなのよ」
 こう神宝にお話します。
「あのお屋敷の中か桃園におられることが多いわ」
「あそこですね」
 お屋敷の隣に広い桃の木の林があります、そこを見て言いました。
「あそこが桃園ですね」
「そうよ」
「関羽様は桃がお好きなのは理由がありますからね」
「桃園で誓い合ったのよね」
「そうです、劉備さんと張飛さんと」
 この人達と、というのです。
「義兄弟の誓いをしました」
「そうだったわね」
「だからですね」
「関羽さんはオズの国でも桃がお好きなのよ」
「桃園がですね」
「そして召し上がることもね」  
 こちらもというのです。
「お好きよ」
「それは桃が神聖なものだからですね」
「中国ではそうね」
「魔を祓うとも食べると長生きするとも言われています」
「霊力のある果物ね」
「ですから」
 だからだというのです。
「桃はいいものです」
「それで孫悟空さんもお好きだけれど」
「関羽様もですね」
「お好きよ」
「ではーーです」 
 チクタクがここで言いました。
「まずはーー桃園にーー行きまーーしょう」
「お屋敷に入る前になのね」
「そこーーおられるーー気がーーしますーーので」
 だからとです、チクタクはオズマに答えました。
「ですーーから」
「それじゃあまずは」
「はいーー行きまーーしょう」 
 こうしてでした、皆で桃園に入りますと。
 桃林の中央に卓と椅子があってでした。
 緑の中国の服とズボン、鎧と兜を着けたとても大きな人がいました。赤いお顔で切れ長の目にとても長いお鬚を生やしています。
 その人を見てです、神宝は満面の笑顔で言いました。
「この方がです」
「関羽さんだね」
「そうだよ」
 ボタンにも答えます。
「この方がね」
「前にお会いしたことあったけれど」
「立派だよね」
「うん、物凄く大きくて」
 ボタンも答えます。
「長いお鬚を生やしているね」
「そのお鬚もなんだ」
 胸まであるそのお鬚もというのです。
「関羽様の特徴なんだ」
「そうなんだね」
「それで美髯公とも言われているんだ」
「お鬚が奇麗だからなんだ」
「それでなんだ」
 まさにというのです。
「だからね」
「そうも呼ばれていて」
「特徴の一つでもあるんだね」
「そのお鬚がね」
「成程ね、じゃあ今から」
「関羽様に挨拶しよう」
「それじゃあね」
「これは」
 神宝達がお話した時にです、その関羽さんがです。
 とても男らしい声を出しました、そしてオズマ達を見ますと。
 立ち上がってです、そうして左の拳を右の平手で包んで胸の前に置いて頭を垂れて挨拶をしました。
「オズマ姫、ご機嫌麗しゅう」
「こんにちは、関羽さん」
「今日は何のご用件でしょうか」
「実はね」 
 畏まる関羽さんに事情をお話しました、そのうえでこうも言いました。
「その途中にお会いしたくてね」
「来られたのですか」
「そうなの」
「左様でしたか」
「ええ、それでね」
 オズマは神宝達五人を手で指し示してお話しました。
「この子達がね」
「オズの国の名誉市民の子達ですね」
「そうなのよ」
「そうですか、お話は聞いていましたが」
 関羽さんはもうお顔を上げています、見れば本当に身長は二メートルを超えていてとても逞しい身体つきです。
「はじめてお会いします」
「では挨拶をしてくれるかしら」
「はい、それがしの名前は関羽雲長」
 関羽さんは微笑んで神宝達に名乗りました。
「姓は関、名は羽、字は雲長というんだ」
「はじめまして」
 五人も笑顔で挨拶を返してそれぞれ名乗りました。関羽さんはその名乗りが終わってから五人に笑顔で言いました。
「君達と会いたいと思っていたんだよ」
「そうなんですか?」
「僕達とですか」
「お会いしたいと思っていたんですか」
「そう思っていてくれていたなんて」
「夢みたいです」
「ははは、夢じゃないよ」 
 関羽さんは優しく笑って答えました。
「君達のことはオズの国では有名だしね」
「そうなんですね」
「オズの国の名誉市民としてね」
 こう神宝に答えます。
「それでそれがしもだよ」
「僕達のことをご存知で」
「そして会いたいとね」
「思っていたんですか」
「オズの国と外の世界を自由に行き来出来るなんて」
 このことがというのです。
「とても素晴らしいことだからね」
「それで、ですか」
「それがしも知っていてね」
 それでというのです。
「お会いしたいと思っていて」
「それで、ですか」
「今こうしてお会い出来て嬉しいよ」
 とても優しい笑顔でのお言葉でした。
「それがしもね」
「関羽様にそう言って頂けるなんて」
「どうしたのかな」
「僕達も嬉しいです」
「そうなんだね」
「関羽様みたいな方に言ってもらえるなんて」
「いや、それがしはそう言われる様な人ではないよ」 
 関羽さんは自分を憧れの目で見る神宝にこう返しました。
「一介の武辺でしかないよ」
「一介のですか」
「そう、本当に凄いのは義兄上でオズマ姫だよ」
「そうなんですね」
「我が義兄上にして主君であられる劉備様でね」
「オズマ姫ですか」
「そうだよ、それがしは仕えているだけで」
 それでというのです。
「偉くとも何ともないんだよ」
「そうですか」
「うん、日々武芸と学問の鍛錬をして今はオズの国と皆に何かあったら及ばずながらね」
「力を使われますか」
「そうした存在なのだからね」
「そうですか」
「あと義兄上もオズの国におられるけれど」 
 その劉備さんもというのです。
「今は天界におられるよ」
「オズの国のですか」
「道教の神々がおられる場所にね」
「それで関羽様も神様ですよね」
「そうされているね」
「それでも天界にはおられないんですね」
「天界に行く時もあるけれどね」
 それでもというのです。
「それがしはこの国に馴染んでしまって」
「それで、ですか」
「基本オズの国にいるんだ」
 オズの国の上のお空にではなくというのです。
「ここに家を置いてうえでね」
「そうでしたか」
「快適だよ、美味しい食べものやお酒もふんだんにあるしね」
 このこともあってというのです。
「いい国だよ」
「そうですね、オズの国は本当にいい国ですね」
「孫君も言っているよ」
「孫君、孫悟空さんですね」
「うん、ただ彼はやんちゃだからね」
「オズの国でも屈指の悪戯者なのよね」
 オズマも笑って言います。
「あの人は」
「そこが困りものですね」
「最初の頃は今より遥かに凄かったのよね」
「天界で大暴れしまして」
 関羽さんはオズマにその時の孫悟空のお話をします。
「たった一人で天界を滅茶苦茶にしました」
「それも凄いことよね」
「それで釈尊が出られて暫く石の中に閉じ込めました」
「お釈迦様ね」
「あの方に」
「そう思うと今の彼は丸くなったわね」
 ビリーナも言います。
「やんちゃって言葉で済む位だから」
「そうね」
 オズマはビリーナにも応えました。
「今のあの人は」
「オズの国では愛されているし」
「そのやんちゃさも含めてね」
「そうよね」
「それがしも髭を引っ張られたり縛られたりしますので」
 関羽さんは苦笑いで言いました。
「その悪戯には困っています」
「そのお鬚をなんだ」
「そうなんだよ」 
 関羽さんはボタンが指差しそのお鬚を左手でさすりながら答えました。
「それがし自慢のこれをね」
「孫悟空さんそんなことするんだ」
「それがしが油断していたらだよ」
「そうなんだね」
「それがしも並の相手なら絶対に悪戯はされないが」
「それはどうしてなの?」
「何かされる前に気付いて対するからだよ」
 だからだというのです。
「それでだよ、しかし孫君はそれがしと同じ位強いからね」
「気付かれない様にしてくるんだ」
「だからだよ」
「油断していたら悪戯されるんだ」
「寝ている時とかにね」
 そうした時にというのです。
「不覚を取ってしまうよ」
「関羽鮫にそう出来るって凄いね」
「全くだね」
「流石と言うべきかな」
「孫悟空さんならではかしら」
「あの人じゃないと出来ないわね」
 神宝達五人も言います。
「そんなことは」
「相手が関羽さんだと」
「というか関羽さんに隙あるかな」
「ないと思えるけれど」
「孫悟空さんならわかるのかな」
「そう、それがしも隙は見せていないが」
 それでもというのです。
「やはり寝ている時はね」
「寝ていてですね」
「隙が出来る」
「そしてその時にですか」
「孫悟空さんは仕掛けてくるんですね」
「そうなんですね」
「他の相手なら気付くよ」
 寝ていてもというのです、流石関羽さんです。
「それですぐに起きるけれど」
「孫悟空さんも気配を消しますか」
「それで近寄ってきて」
「それで、ですか」
「悪戯してくるんですね」
「お鬚とかにも」
「そうだよ、困ったことだよ」
 ついついぼやく関羽さんでした。
「彼にはね」
「オズの国でそんなこと出来る人ってあの人位でしょ」
 ビリーナはその関羽さんに言いました。
「流石にね」
「うん、けれどね」
「それでもなのね」
「彼の悪戯を防げる時はあっても半々でね」
「後の半分でなのね」
「やられてしまうんだ」
 悪戯、それをというのです。
「無念だよ」
「というかあんな人の悪戯半分防げるって凄いですよ」
 オジョはこう考えました。
「むしろ」
「関羽さんでないとね」
 ビリーナも言います。
「半分でも無理よ」
「オズの国一の悪戯者と言ってもいいわね」
 オズマはぼやく様にして言いました。
「孫悟空さんは」
「そうでしょ、あの人の悪戯を半分でもさせないことは」
「関羽さんならではね」
「本当にそうよ」
「何しろお一人で天界を荒らし回ったから」
「物凄く強いしね」
「すばしっこくて頭の回転も速くて」
 それでというのです。
「器用だから」
「そんな人の悪戯防げる人は」
 それこそというのです。
「半分でもね」
「関羽さんだけよ」
「その半分が困ったもので」
 関羽さんはその切れ長の目、鳳眼と言われるその目を困ったものにさせてそのうえでお話するのでした。
「髭をくくられたり顔に落書きされたり」
「そうされるからですか」
「それがしも困るのだよ」
 オジョに答えました。
「どうにも」
「そうですか」
「流石に髭を切ったり焦がしたりはしないがね」 
 そうした悪戯はしないというのです。
「そこまではね」
「その奇麗なお鬚をですね」
「何でも切ったり焦がしたりするには勿体ない」 
 関羽さんのお鬚はというのです。
「そうしたものだと言ってね」
「孫悟空さんもそこはわかってるんですね」
「あとモジャボロさんのお鬚も」
 オズの国のもう一人のお鬚が有名な人です。
「そうするには勿体ない」
「だからですね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「悪戯はしないよ」
「そうですか」
「そう、だからね」 
「切ったり焦がしたりまではですね」
「しないんだよ」
「いいことです、本当に」
 オジョも言うことでした。
「孫悟空さんもわかっておられるんですね」
「悪戯好きでも悪人ではないからね」
「孫悟空さんは」
「これは猪八戒さんも沙悟浄さんもだよ」
 三人共、というのです。
「だからね」
「それで、ですね」
「オズの国にもいるんだよ」
「そうですね」
「猪八戒さんは随分食べて女の人が好きだけれど」
 それでもというのです。
「憎めないよ」
「そうしたところがかえって」
「あと沙悟浄さんの生真面目さもね」
 このこともというのです。
「いいものだよ」
「そうなんだね」
「そう、ただね」
「ただ?」
「本当に孫悟空さんの悪戯好きはね」
 どうしてもという口調でした。
「困ったことだよ」
「私やドロシーには何もしないのよね、あの人」
 オズマはこれまでの孫悟空さんとのことを思い出して述べました。
「実は」
「そうなんですか」
「ええ、何でもお釈迦様みたいな方とか言ってね」
 こうオジョにお話します。
「それでなのよ」
「何もしないんですね」
「私達にはね」
 オズの国一の悪戯者でもというのです。
「不思議とね」
「そうですか」
「もういつも悪戯しているけれど」
 それでもというのです。
「しないわね、ただオズの国の人気者なのよね」
「大人気ですよね」
「そうよね」
「愛される人です」
「悪戯好きでも愛嬌があって気さくであっさりしていてね」
「好かれる性格ですね」
「だからね」
 そうした人だからだというのです。
「あの人はね」
「愛されていますね」
「大人気でね」
「本当にそうですね」
「それがしも実は嫌いではなく」
 悪戯をされる関羽さんにしてもです、
「友人として交流をしている」
「関羽さんもですね」
「左様、悪人ではなく親しいやすいので」
 そうした人だからだというのです。
「そうしている」
「そうですか」
「また会えばな」
 その時はといいますと。
「酒を酌み交わしたい」
「そうなのですね」
「あの御仁は特に桃が好きであるし」
「桃も食べてですし」
「話をしたいものだ」
 こうお話するのでした。
「機会があれば」
「その時はですね」
「またな」
「それでなのですが」
 神宝が関羽さんに声をかけました。
「関羽様これから予定がありますか」
「予定か」
「はい、何かありますか」
「これといってなくてな」
 それでとです、関羽さんは神宝に答えました。
「暫く学問と鍛錬に励もうと思っている」
「そうですか」
「しかし君達は中華街に行くのだな」
「カドリングの方の」
「あちらには孫悟空君達もよく来るし」
 それにというのです。
「梁山泊の諸君もだ」
「来るんですか」
「よくな」
 そうするというのです。
「だからな」
「それで、ですか」
「彼等に会いたくなった」
「それじゃあ」
「一緒に行かせてくれるか」
 中華街までの旅にというのです。
「そうさせてくれるか」
「是非共」」
 オズマはにこりと笑って関羽さんに答えました。
「関羽さんがそうしてくれるなら」
「それでは」
「ええ、ではね」
「宜しくお願いします」
 またです、関羽さんは胸の前で左手を拳にして右手の平に包みました。そうして頭を下げて言うのでした。
「これより」
「それじゃあね」
「うわ、関羽さんがご一緒されるなんて」
 カルロスも驚きました。
「凄いことになったね」
「うん、三国志の世界でも屈指の英雄だしね」
 神宝も言います。
「凄い人とご一緒出来るよ」
「関羽さんまでオズの国におられると思っていなかったけれど」
 それでもとです、恵梨香は言いました。
「ご一緒に旅も出来るなんて」
「夢みたいね、いえ」
 ナターシャはこう言いました。
「オズの国ならではね」
「お伽の国だから」
 それでとです、神宝も言います。
「こうしたこともあるんだね」
「ではーーですーーね」
 チクタクは神宝に応えました。
「これからーーは」
「関羽様も一緒だよ」
「素晴らしいーーことーーです」
「本当にね」
「あの、それじゃあだね」
 ボタンも関羽さんに言いました、一緒に冒険の旅に出ることになったこの人に対して。
「関羽さんは赤兎馬に乗って」
「今から呼ぶよ」
「それで青龍偃月刀もだね」
「使うことはないにしても」
 それでもというのです。
「持って行くよ」
「そうするんだね」
「それがしはこの二つもあってこそだから」
 だからだというのです。
「持って行くよ」
「そうするんだね」
「赤兎馬に乗って」
 そしてというのです。
「青龍偃月刀にも乗って」
「行くんだね」
「赤兎馬っていいますと」
 神宝がまた言いました。
「一日に千里を走るんですよね」
「左様、当時の中国の単位で」
「当時の一里が四百メートルですから」
「おおよそ四百キロだよ」
「凄い距離を走りますね」
「馬としてはね」
「そうですよね」
 関羽さんに応えました。
「それだけ進めたら凄いです」
「それが今は一時間で千里になったのだよ」
「一時間で四百キロですか」
「しかも疲れ知らずで」
 それだけ走ってもというのです。
「しかもお空も海の上も中も地の中もだよ」
「進めますか」
「そう出来る様になったのだよ」
「凄い馬になったんですね」
「だからだよ」
 それでというのです。
「外の世界の赤兎馬とはまた違うよ」
「本当にさらに凄い馬になりましたね」
「オズの国はお伽の国だから」
 それでというのです。
「さらに凄くなったんだよ」
「そういうことですね」
「ではだよ」
「これからですね」
「青龍偃月刀を出して」
 そしてというのです。
「赤兎馬にも乗るよ」
「そのうえで」
「君達の旅に同行させてもらうよ」 
 こう言ってでした。
 関羽さんはまずは青龍偃月刀をその手に出しました、とてつもない巨大な薙刀を思わせる刃を持つ両手に持つ柄の長い武器でした。
 そして赤兎馬の名を呼ぶとです、全身燃える様に赤く見事な金色の鬣を持つ大きな馬が来ました。もう鞍も手綱も鐙もあります。
 その馬を見てオジョも言いました。
「これが赤兎馬ですね」
「それがしの友の一人だよ」
「そうなんですね」
「はじめまして」
 その赤兎馬も言ってきました、低くて逞しい男の人の声です。
「赤兎馬です」
「礼儀正しいね」
「関羽様にお仕えしていますので」
 それでというのです。
「それに相応しい気品を心掛けています」
「それで口調もだね」
「丁寧なものをです」
 そうしたものをというのです。
「心掛けています」
「そうなんだね」
「左様であります」
「成程、しかし大きいね」
 オジョは赤兎馬の大きさについても言いました。
「馬にしても」
「それがしはこの大きさなので」
 関羽さんも言ってきました。
「普通の大きさの馬では乗れないので」
「だからですか」
「赤兎馬でないと」
 これだけ大きくないと、というのです。
「充分に乗れない」
「身体が大きいとそうしたこともあるんですね」
「というか関羽さんみたいに大きい人そういないでしょ」
 ビリーナが言ってきました。
「そうでしょ」
「そう言われるとね」
「そう、だからよ」
「赤兎馬みたいに大きな馬じゃないとだね」
「関羽さんは乗れないわ」
「それがしならば」  
 赤兎馬も言います。
「主殿もです」
「乗れるんだね」
「左様であります」
「緑の服の関羽さんが赤兎馬に乗ると絵になるね」
 ボタンが言いました。
「本当に」
「そう言ってくれますか」
「実際にそう思うから」
 だからだというのです。
「僕も言うよ」
「その言葉光栄の極み」
 赤兎馬はボタンに礼儀正しくお礼の言葉を述べました。
「まことに。ではです」
「それじゃあだね」
「主殿をこれからも乗せさせて頂きます」
「そうして進んでいくんだ」
「オズの国の何処でも」
「じゃあまずはね」
 オズマは笑顔で言いました。
「お昼になったから」
「それで、ですね」
「皆でご飯を食べましょう」
 神宝に応えました。
「今からね」
「はい、それでお昼ご飯は」
「そうね、火鍋はどうかしら」
「四川料理ですか」
「それを出して」
 そしてというのです。
「皆で食べましょう」
「そうしますか」
「ええ、辛いけれど」
「美味しいですね」
「だからね」 
 これからというのです。
「出すわね」
「それでは」
「では関羽さんも」
 オズマは関羽さんもお食事に誘いました。
「旅の間はね」
「食事はですか」
「ご一緒してね」
「有り難いお言葉、それでは」
 関羽さんも応えました、そうしてでした。
 皆で火鍋それにご飯も出して食べました、飲みものはお茶でしたが関羽さんはお酒も飲みました。紹興酒をどんどん飲んで、です。
 物凄い勢いで食べます、それで言うのでした。
「いや、まことに美味で」
「火鍋も美味しいわね」
「それがしも好きです」
 羊肉もお野菜もどんどん食べていきます。
「この辛さが」
「それでお酒もよね」
「好きで」 
 言いつつ飲んでもいます。
「この通り失礼しています」
「失礼じゃないわ、遠慮はね」
 これはというのです。
「オズの国では無用だから」
「それで、ですね」
「どんどん食べてね」
「それでは」
「やっぱりお身体が大きいから」
 オズマは関羽さんのそのお身体も見て言いました。
「食べる量もね」
「多いと」
「そうなるわね」
「しかもいつも鍛錬をしているんですよね」
 オジョはこのことを言いました。
「関羽さんは」
「うむ、赤兎馬に乗り青龍偃月刀を振り」 
 実際にというのです。
「体術に水練も」
「されていますか」
「そうしているのだよ」
「常にお身体を動かされていて」
 そしてというのです。
「学問で頭の運動もされて」
「どうしてもいつもお腹が空いて」
「尚更ですね」
「普段からこの食欲だよ」
「そうなんですね」
「ただ飲むことは」
 こちらはといいますと。
「それがしより義弟の張飛の方が凄い」
「張飛さんはもっとですか」
「今は天界にいて」
 そしてというのです。
「義兄上を我が友朝雲殿、馬超殿、黄忠殿と共に守っている」
「そうなんですか」
「そこに孔明殿と?統殿もおられてな」
 そのうえでというのです。
「張飛もいる」
「そしてその張飛さんはですか」
「それがし以上に飲む」
「張飛さんの酒好きは凄いですからね」  
 神宝も言ってきました、見れば皆お箸です。赤兎馬は草をビリーナはお米を食べていてチクタクは皆の笑顔を見ています。
「それで、ですね」
「飲むと止まらない、そして困ったことに」
「酒癖が悪いですね」
「このことが困ったことだ」
 こう神宝にお話します。
「我が義弟ながら」
「そのことずっと同じですね」
「うむ、どうしたものか」
 こうも言う関羽さんでした。
「義兄上もよく注意されているがな」
「張飛さんは何処か梁山泊の人達に似ているわね」
 こう言ったのはオズマでした。
「そういえば」
「それがしもそう思います」
「そうよね」
「強いですが短気で荒っぽく」
「それでいて気風がよくて侠気があって」
「しかもそうしたところもあるので」
 酒癖が悪いというのです。
「それがしもです」
「そう思っているのね」
「梁山泊にいてもおかしくないと」
 実際にというのです。
「その様に」
「関羽さんは折り目正しいけれど」
 幾ら飲んでも乱れないです、礼儀正しくて謹厳な物腰はそのままで表情も全く変わることがありません。
「張飛さんは違うわね」
「また好きで」
 そのお酒がです。
「何かとです」
「心配なのね」
「外の世界にいた時から」
 まさにその時からというのです。
「常に気にかけています」
「義兄弟だから」
「はい、まあ天界では周りに多くの人がいて腕の立つ人も多いので」
 それでというのです。
「義弟も止められている様ですが」
「張飛さんも強いけれど」
「それがし以上に強いですが」
 張飛さんはというのです。
「ですが」
「張飛さんと同じだけ強い人がいるのね」
「天界には」
 だからだというのです。
「安心しています」
「暴れてもなのね」
「止められると」
「というか張飛さんって関羽さんより強いんだ」
「左様、武芸では」 
 関羽さんはボタンに答えました。
「それがしより遥かに」
「どんなに強いのかな」
 ボタンは想像が出来ませんでした。
「一体」
「想像がしにくいね」
「そうだね」 
 オジョの言葉にも頷きます。
「どうも」
「全くだね」
「会えばわかる」
 これが関羽さんのお返事でした。
「その時に」
「じゃあお空に行けばいいね」
「天帝のおわす場所に」
 そこにというのです。
「行けばいい」
「ひょっとしたら寝たら」
「ああ、君はそうだったな」 
 関羽さんはボタンの今の言葉に彼の特徴から言いました。
「寝たらだったな」
「うん、寝ている時と全く別の場所にいる時があるから」
「それでだったな」
「若しかしたらね」
「天帝のおられる宮殿にも」
「行けるかも」
 寝てそうしてというのだ。
「若しかしたら」
「面白い体質だ」
「そうだよね」
「気球や飛行船でも行けるけれど」
 オズマはオーソドックスな方法を出しました。
「けれどボタンはひょっとしたらね」
「そうですよね」
 オジョはオズマのその言葉に頷きました。
「行けるかも知れないですね」
「じゃあ行けたらね」
 オズマはその時のことをお話しました。
「張飛さん達に宜しくね」
「そうさせてもらうよ」
 ボタンは笑顔で言いました、そして。
 火鍋の中の茸を食べて言いました。
「僕辛いのあまり得意じゃないけれど」
「貴方のものはあまり辛くしたのよ」
「だから食べられるんだね」
「そうよ、だから沢山食べてね」
「そうさせてもらうよ」 
 こう言ってです、ボタンは実際に火鍋を楽しみました。そして火鍋と一緒に甘いジュースも楽しみました。
 一行は関羽さんと一緒になってです、そうしてカドリングに向かうのでした。楽しい旅はまだまだ続きます。








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