『オズのハンク』
第七幕 メジェドの手掛かり
ハンクとベッツイ、カエルマンにクッキー、ボタンよポリクームそしてカルロス達五人はピラミッドの中の冒険を続けていました。その中を冒険してどんな場所かその目で確かめることと一緒にでした。
メジェドという神様を探し続けています、その中で。
一行は今度はセト神の祭壇に辿り着きました、すると大柄で逞しい身体にツチブタの頭を持っている神様が強い声で一行に言ってきました。
「待っていたぞ」
「あれっ、僕達が来るってわかっていたんだ」
「我が友トト神から連絡があった」
「それで知ってるんだ」
「わしがセト神である」
神様は自分からハンク達に名乗りました。
「太陽神ラーを守り民達を砂漠の嵐からも守護する神である」
「守り神なんだね」
「うむ、覚えておいてくれると有難い」
「誰かを守るから力が強いんだね」
「戦う必要もあるからな」
「そうなんだね」
「そしてここでは」
オズの世界のピラミッドではといいますと。
「君達も守っているぞ」
「僕達もなんだね」
「そしてピラミッドに住んでいる者達もな」
「オズの国は安全だけれど」
「安全でもだ」
それでもというのです。
「オズの国もこれまで攻められてきたではないか」
「ノーム王とか妖魔達にだね」
「今は彼等も穏やかな性格になったが」
「過去のことを考えると」
「やはり守る力が必要でそうでなくてもトラブルが起これば」
ピラミッドの中でというのです。
「力が必要ならな」
「貴方が働くんだね」
「我が友トト神と共にな」
「それで貴方もいるんだね」
「このピラミッドの中にな、尚トトは知恵を出す」
あの神様はというのです。
「エジプトの神々一の知恵者だからな」
「あの神様は力も強いよね」
「うむ、わしの次にな」
「そして知恵者でもあるんだね」
「そうだ、わしは知恵ではトト神に負ける」
セト神はこのことも認めるのでした。
「そうであるが」
「力はだね」
「わしの方が上だ、そして共にである」
「ピラミッドを守っているんだね」
「左様、あとオズの世界ではわしは兄上とは別に何もない」
「ええと、お兄さんっていうと」
「オシリス神だね」
カエルマンがここで言ってきました。
「そうだね」
「その通りである」
「エジプトの神話では仲が悪いみたいだけれど」
「オズの国では違うである」
「仲がいいんだね」
「そこまではいかないであるが」
仲がいいかというと、というのです。
「わしはここにいて兄上も兄上の祭壇におられて滅多に会わないであるからな」
「けれどだね」
「左様である」
まさにというのです。
「それはである」
「仲が悪いかというと」
「そうでもないである、妹とも」
「イシス神ともだね」
「左様である」
その通りだというのです。
「仲は悪くないである、お二人の子供のホルス神ともである」
「成程ね」
「わしはあくまでこのピラミッドの守護神である」
この立場は変わらないというのです。
「そしてトトとはである」
「仲がいいんだね」
「親友と言っていいである」
ここまでの存在だというのです。
「共に偉大なるラーを守護しているであるからな」
「そのラー神がこのピラミッドの主かな」
ボタンはセト神にこのことを尋ねました。
「そうなのかな」
「そうである、ホルス神も重要であるが」
「ラー神がだね」
「このピラミッドの偉大なる主神であられる方はな」
まさにというのです。
「あの方だけなのだ」
「セト神はラー神がお好きなのね」
ポリクロームはここでセト神に言いました。
「そう思ったけれど」
「敬愛している」
「そうなのね」
「心からな、そして我が友トト神も同じだ」
「ラー神を敬愛しているのね」
「そうだ」
その通りだというのです。
「我等はな」
「そうなのね」
「だからお守りしているのだ」
「貴方とホルス神は」
「そうだ、だが」
「だが?」
「君達のことは聞いていると言ったな」
「ええ、トト神からね」
「メジェド神を探しているそうだな」
「そうなの」
その通りだとです、ポリクロームはセト神に答えました。
「実はね」
「そうだな、あの神は祭壇を持たないでだ」
「ピラミッドの中を動き回っているのよね」
「そうだ、しかも実は姿を消すことも出来る」
「そうなの」
「自分がそうしたいと思えばな」
その時はというのです。
「それが出来るが普段はだ」
「姿を消さないの」
「だからこのピラミッドの中を歩いているとな」
そうすればというのです。
「会える」
「そうなのね」
「あくまで運がよければだが」
「運がよくじゃなくて」
トロットはセト神にどうかと返しました。
「実際にね」
「会いたいのだな」
「そう、今回の冒険で確実に」
「そうか、だがその為の手掛かりはな」
「貴方は持っているの?」
「残念だが持っていない」
セト神はこうトロットに答えました。
「わしも暫く会っていない」
「そうなの」
「どうもな、だが」
「それでもなのね」
「そうだ、だから君達の力にはなれない」
こうトロット達に言うのでした。
「まことに申し訳ないが」
「申し訳なくはないわ」
「いいのか」
「ええ、私達は面白いと思ってね」
「探しているからか」
「いいわ、それに貴方が悪いんじゃないから」
このことはしっかりと断りました。
「別にね」
「いいのだな」
「そうよ、私達で探していくわね」
「これからもだな」
「そうするわ、お姿のことはわかっているし」
「頭からすっぽり布を被ってだ」
セト神がメジェド神の姿のお話をします。
「足だけでな」
「頭と身体が一つになっている感じよね」
「そうだ、かなり変わった姿だからな」
「すぐにわかるわね」
「あの様な姿をした神は他にはいない」
セト神は断言しました。
「少なくともエジプトの神にはな」
「そうよね、やっぱり」
「他の神話の神々を全て知ってる訳ではないが」
それでもというのです。
「エジプトの神々ではな」
「あの神様だけね」
「うむ、多くはわしやトト神やバステト女神の様にな」
「人の身体でだね」
ハンクが応えました。
「そしてだね」
「そうだ、動物の頭を持っている」
「そうだよね」
「人の姿を持っている神もいるが」
頭もというのです。
「あの様な姿をした神はな」
「他にはいないね」
「そうだ、だからだ」
「探すのは楽だね」
「かなり目立つからな」
それだけにというのです。
「君達にもだ」
「すぐにだね」
「会える」
それが出来るというのです。
「だから探すことだ、手掛かりを求めつつな」
「そうさせてもらうね」
「その様にな、それとだ」
セト神はハンク達にこうしたことも言いました。
「君達はお腹が空いていないか」
「お腹が?」
「よかったらサラダをご馳走するが」
このお野菜をというのです。
「どうだ」
「サラダなんだ」
「レタスをな、わしはレタスが大好物でだ」
「そうだったんだ」
「だからサラダもだ」
レタスを多く作るこのお野菜もというのです。
「大好きなのだ」
「そうなんだね」
「それでどうだ」
「そうね、私達はサラダ以外も食べるけれど」
トロットが応えました。
「それでよかったら」
「それはわしもだ」
「丁度お昼の時間だし」
「それならだな」
セト神はトロットに笑顔で応えました。
「これからだな」
「一緒にね」
「レタスを食べよう」
こう言ってでした、そのうえで。
皆で一緒にお昼ご飯を食べました、セト神が出してくれたレタスを中心としたサラダはとても美味しくて皆はそれと他の肉料理も楽しみました。それから皆はセト神と別れて冒険を再開しました。そうしてです。
ハンクは歩きつつこう言いました。
「いや、セト神もいい神様だったね」
「気さくで頼もしくてね」
ジョージが笑顔で応えました。
「いい神様だったね」
「怖い神様って話があったけれど」
神宝も言います。
「そんなことはなかったね」
「何かとお話してくれてね」
ナターシャもセト神に親しみを感じています。
「親切だったわね」
「ええ、ツチブタのお顔も表情豊かで」
恵梨香はセト神のお話をしました。
「親しみやすい神様だったね」
「オズの国ではそうなんだね」
カルロスはこの国のことから思うのでした。
「怖い神様はいないんだね」
「そうよ、オズの国ではね」
トロットが五人に答えました。
「怖い神様はいなくて」
「セト神もですね」
「いい神様なのよ」
「そうなんですね」
「そう、その神様のいい面が出て」
トロットはカルロスにお話します。
「それでね」
「いい神様になるんですね」
「そうよ、だからセト神もね」
「外の世界では悪い神様とされていても」
「その一面があるかも知れないけれど」
それでもというのです。
「オズの国では違うのよ」
「そういうことですね」
「そうよ、それとね」
「それと?」
「これはエジプトの神様だけじゃないから」
「他の神様達もですか」
「オズの国は神様も多いの」
トロットはカルロスにこのこともお話しました。
「オズの国はアメリカが反映されるでしょ」
「はい、その時代の」
「アメリカは世界中から人が来るわね」
「それでその人達の信仰もですね」
「信仰、つまり神様も来るから」
「だからですね」
「神様もね」
「世界中の神様が来て」
「そしてね」
そのうえでというのです。
「オズの国もなのよ」
「世界中の神様が集まっているんですね」
「そうよ、エジプトの神様もいれば」
このピラミッドの中にいる神様達にです。
「それにね」
「他の神話の神様もいるんですね」
「ギリシアや北欧の神様もいれば」
それにというのです。
「中南米の神様もいて」
「アステカやインカの」
「そして日本や中国の神様もね」
そちらの国々の神々もというのです。
「いるのよ」
「そうなんですね」
「そしてどの神様もね」
「いい神様なんですね」
「悪い一面が消えてね」
それがあってもというのです。
「そうなっているのよ」
「そうですか、そういえば」
ここでカルロスはあることを思い出しました、それは何かといいますと。
「ヨルムンガルドもいましたね」
「海にいたでしょ」
「はい、リバイアサンも」
「オズの国で楽しく過ごしてるでしょ」
「平和に」
「北欧神話ではヨルムンガルドは怖い神様みたいだけれど」
「何か世界を滅ぼす戦いに出て来るんですよね」
カルロスはこのことは知っていました。
「北欧神話の」
「そう、それでもね」
「オズの国ではですね」
「その滅びるということがないし」
「悪い一面がなくなるので」
「それでね」
そうした世界だからというのです。
「本当にね」
「平和なんですね」
「そうよ」
その通りだというのです。
「オズの国でもね」
「そうなんですね」
「だからセト神もね」
「いい神様なんですね」
「そうよ、あと本当に色々な神様がいるから」
「そういえば関羽さんも」
カルロスはこの人のことも思い出しました。
「神様でしたね」
「そうなっているわね」
「オズの国にあの人もいますけれど」
「あの人はオズの中でもかなり有名な神様よ」
そうだというのです。
「力も強いね」
「そうした神様ですね」
「武芸と学問と商売の神様よ」
「人が神様になったんですね」
「中国でそうなったから」
だからだというのです。
「オズの国でもなのよ」
「神様としてですね」
「オズの国にいるのよ」
「関羽さんは凄い神様だよ」
ハンクはにこりと笑って言いました。
「強くて優しくて約束を絶対に守って学問好きで」
「約束を守る神様なんだね」
「絶対にね、子供達には特に優しいんだ」
「ベーブ=ルースさんみたいだね」
「あの人もオズの国にいるけれど」
この偉大な野球選手もというのです。
「関羽さんもいてくれてね」
「神様としてだね」
「僕達と一緒にいるよ」
そうだというのです。
「あの人もね」
「そうだね、あの人とはまた」
「絶対に会えるよ」
「そうなんだね」
「その時を楽しみにして」
そしてというのです。
「過ごしていこうね」
「それじゃあね」
「オズの国でね」
こうしたお話をしつつ一行は先に先に進んでいきます、すると今度は左右に多くの壁画が描かれた場所に来ました。
その壁画の場所に来てです、カルロス達五人は言いました。
「この壁画もね」
「エジプトだよね」
「あの国って感じがするね」
「文字でもあるし」
「エジプトらしいわね」
「そうだね、エジプトっていうとね」
ハンクも五人に応えます。
「こうしたね」
「壁画もだよね」
「あと文字もね」
「絵と文字が一緒になってて」
「壁にこうして描かれてる」
「それもエジプトだよね」
「そうだね、僕はエジプトに行ったことがないけれど」
それでもというのです。
「あの国の趣があるね」
「そうだね、ただ何て書いてあるのかな」
「ううん、これは」
ここでカエルマンが皆にお話しました。
「皆楽しんでいるかなとかここの楽しみ方はとか」
「そうしたことをなんだ」
「書いているよ」
「そうなんだね」
「明るい励ましの言葉ばかりで」
それでというのです。
「悪いことはね」
「書いていないんだ」
「そうだよ」
こうハンクに答えます。
「呪いとかは書いていないし」
「不吉なことはだね」
「難しいこともね」
そうしたこともというのです。
「書いていないよ」
「そうなんだね」
「意味がわからないと何かと思っても」
「何を書いているかわかれば」
「そう、すぐに意味がわかってね」
それでとです、カエルマンはハンクにまた答えました。
「それでね」
「そのうえでだね」
「安心出来るよ」
「文字はそういうものだね」
「うん、意味がわからないと」
この場合はというのです。
「誰でも身構えるね」
「本当にね」
「けれどね」
「それがだね」
「意味がわかると」
「すぐにだね」
「何を書いているのかもわかって」
カエルマンはさらに言いました。
「安心出来るよ」
「だから僕達もだね」
「そう、私が読めるから」
古代エジプトの絵文字をです。
「安心出来たね」
「よくね」
「意味がわかれば」
それでというのです。
「本当にね」
「安心出来るね」
「何でもね」
「まあね、文字はね」
トロットもこう言います。
「意味がわかれば」
「怖くないね」
「ええ、読めればね」
「そう、読めるとね」
本当にというのです。
「それでね」
「怖くなくなるわね」
「そういうものだよ、知らないわからないと」
「それだけで怖くなるわね」
「けれど知ってわかれば」
それでというのです。
「怖くなくなるんだ」
「そういうことね」
「そう、だからね」
「知ることは大事なのね」
「とてもね」
カエルマンはトロットに確かな声でお話しました。
「そうなんだよ」
「だからカエルマンさんは知っていって」
「案山子さんも教授さんもだよ」
オズの国で知恵者、知識人と言われる人達はというのです。
「色々とね」
「物事を知って言ってるのね」
「学びもしてね」
「そういうことね」
「この文字もね」
そして壁画もというのです。
「オズの国では悪い言葉は書かれなくても」
「何を書いている、描いているのかってね」
「思うね」
「けれど知っていたら」
「この通りだよ」
まさにというのです。
「何でもないってわかったりもしてね」
「安心出来るってことね」
「うん、しかしね」
「しかし?」
「この壁画にはメジェド神はいないね」
皆が今探している神様はというのです。
「まだね」
「そうね、伝え聞く雄型はね」
「見ないね」
「そうよね」
「まあピラミッドの冒険はまだまだ続くし」
「それならね」
「焦らずね」
そうしてというのです。
「ピラミッドの中を歩いていって」
「そうしてよね」
「探していこう」
「それがいいわね」
「今の私達はね」
こう言ってでした、一行はピラミッドの中をさらに歩いて回っていきました。その中で今度はライオンの頭に人間の女の人の身体の女神様の祭壇に来ました。そこではライオンが群れでくつろいでいます。
その女神様は低めの女の人の声で名乗りました。
「あたしがハトホルだよ」
「ハトホル女神ですね」
「そうだよ」
カルロスに笑顔で答えます。
「ライオンの頭に驚くね」
「はい、ただ」
「ただ。何だい?」
「女神様なのに」
それでもというのです、カルロスが言うことは。
「鬣がありますね」
「ああ、雄ライオンの頭だね」
「頭はそうなんですね」
「そうだよ、あたしは女神だけれどね」
それでもとです、ハトホル女神は自らお話しました。
「雄ライオンの頭なんだよ」
「そうですよね」
「そこがまた面白いね」
「はい、雌ライオンじゃないんですね」
「やっぱりライオンはあれだね」
「鬣ですか」
「それがないとね」
どうにもというのです。
「勇ましくて恰好いいってね」
「ならないからですか」
「だからね」
「貴女の頭はですね」
「女神だけれど」
それでもというのです。
「この通りなんだよ」
「そういうことですか」
「何かそうなりますと」
女神なのに雄ライオンの頭ならとです、恵梨香が言いました。
「男装の麗人みたいですね」
「そうだね、言われてみると」
ジョージは恵梨香のその言葉に頷きました。
「ハトホル様はそうなるね」
「性別は間違いなく女の人だし」
神宝は女神様のお身体を見ます、それは誰がどう見ても女の人のものです。
「頭がそうであるだけで」
「男らしいお顔の女の人もいるし」
ナターシャはこうも言いました。
「女の人にお鬚が生えたりとか」
「ああ、ロシアはそうだったね」
ハンクはナターシャの今のお話に頷きました。
「寒いからお鬚が生えるんだね」
「女の人でも寒いとお鬚が生えるのね」
ポリクロームはこのことをはじめて知りました。
「そうなのね」
「うん、僕もそう聞いてるし」
「ナターシャもそう言ってるし」
「実際にオズの国のロシア系の女の人は」
オズの国は現代のアメリカが影響するのでロシア系の人もいます、それでロシア系の女の人もいるのです。
「うっすらとだけれどね」
「お鬚があったりするのね」
「よく見たらね」
「お鬚はね」
ここで言ったのはクッキーでした。
「実は女の人にもあって」
「やっぱりそうなんだ」
「時々剃ってる人もいるわよ」
「そこは男の人みたいだね」
「ええ、だからね」
「女の人にお鬚があってもだね」
「私は不思議に思わないし」
クッキーはさらに言いました。
「ハトホル様に鬣があっても」
「おかしくないんだね」
「そう思うわ」
「恰好いいだろう?」
ハトホル女神は自分の鬣を右手で触りながら笑って言いました。
「この鬣は」
「うん、凄くね」
ボタンが答えました。
「恰好いいよ。それでね」
「それで。どうしたんだい?」
「ここにメジェド神は来たの?」
ハトホル女神に率直に言うのでした。
「それで」
「いや、最近は来てないよ」
ハトホル女神の返事も率直なものでした。
「あたしの祭壇にはね」
「そうなんだ」
「あいつは風来坊でね」
女神様は笑ってこうも言いました。
「もうこのピラミッドの中をね」
「歩き回ってるんだ」
「そう、だからね」
それでというのです。
「あたしのところに来たのはちょっと前で」
「最近はだね」
「来てないんだよ」
そうだというのです。
「だからあんた達が探していてもね」
「力になれないっていうんだね」
「そうさ、悪いね」
「悪くないよ」
ボタンの返事はあくまで率直です、何も包み隠さずそのうえで穏やかに言うのがこの子の言い方なのです。
「本当にね」
「そうなんだね」
「そうだよ、だって最近来てないんだよね」
「そうだよ」
「それは女神様の責任でないしそれで知らないのもね」
このこともというのです。
「女神様の責任じゃないから」
「悪く思わなくていいんだね」
「別にね」
「ならいいよ、じゃあね」
「それじゃあ?」
「これから飲むかい?」
ハトホル女神は盃を出してきました、古代エジプトのそれにはビールが並々と注がれています。そうしてそのビールを手に言うのです。
「お酒をね」
「ビールだね」
「ビールじゃなかったらジュースもあるよ」
神官の人達がジュースが入った杯を出してきました、見れば真っ赤でそれでいて透明感のあるジュースです。
「柘榴のね」
「柘榴のジュースは」
カルロスはそのジュースを見て女神様に応えました。
「結構ありますね」
「オズの国にはだね」
「はい、それで女神様もですか」
「ビールも好きだけれどね」
「この柘榴のジュースもですか」
「好きでね」
それでというのです。
「よく飲むんだよ」
「そうなんですね」
「私達は子供だからビールは飲めないわ」
トロットがこのことを断りました。
「お酒はね」
「じゃあアルコールの入ってないね」
「そうしたビールをですか」
「飲むかい?」
「それなら」
トロットは女神様に笑顔で答えました。
「飲めます」
「じゃあそっちのビールを出すよ」
アルコールの入っていないものをというのです。
「是非ね」
「そうですか」
「そして味はね」
「味は、ですか」
「ビールの味はですか」
「そうよ」
こうも言うのでした。
「ビールの味も楽しむかい?」
「ビールの味っていうと」
またボタンが言いました。
「どんなのかな」
「飲んだことはないのかい?」
「わかんなーーい」
ボタンはハトホル女神にこう返しました、いつもの返事です。
「僕覚えてないよ」
「そうなんだね」
「うん、どうだったかな」
「じゃあ今から飲んでみるかい?」
「具体的にはどんな味なの?」
「苦いね」
女神様はボタンに笑って答えました。
「はっきり言って」
「苦いの?」
「その苦さが美味いんだよ」
「苦いならいいよ」
ボタンはあっさりと答えました。
「それならね」
「そう言うんだね」
「うん、だって僕苦いの苦手だから」
それでというのです。
「いいよ」
「そうなんだね、嫌ならね」
それならとです、女神様に気さくに応えて言いました。
「いいよ」
「そうなんだね」
「そういう奴は柘榴のジュースを飲むといいよ」
こちらをというのです。
「それならね」
「それじゃあね」
「他の子もどっちでもね」
「好きなのを飲んでいいんだね」
「そうだよ」
是非にというのです。
「お酒でもノンアルコールのビールでもね」
「柘榴のジュースでもね」
「飲んでいいよ」
こう言うのでした。
「好きなのをね」
「じゃあ僕は柘榴のジュースにするよ」
「私もそちらにするわ」
ポリクロームもこちらでした。
「苦いものは苦手だから」
「そうだよね」
「柘榴のジュースにするわ」
「じゃあ私もね」
「私もそちらに」
トロットとクッキーもでした。
「させてもらいます」
「柘榴のジュースの甘酸っぱさがいいから」
「僕もそれにします」
「僕も柘榴のジューにします」
「僕もです」
「私もそちらにします」
「私もです」
カルロス達五人もでした、そしてです。
ハンクはこう言いました。
「僕はアルコールのないビールにね」
「そっちにするんだね、あんたは」
「酔いたくはないけれど」
それでもというのです。
「ビールの味自体は嫌いじゃないから」
「じゃあ桶に入れて出すね」
「あっ、有り難う」
「あんたが飲みやすい様にね」
「私はお酒のビールをいいかな」
カエルマンはこちらでした。
「私は飲めるからね」
「だからだね」
「よかったらね」
「ははは、あたしに遠慮は無用だよ」
女神様はカエルマンに豪快に笑って答えました。
「だからね」
「ビールをだね」
「柘榴のジュースもそうだけれど」
「ビールもだね」
「好きなだけね」
それこそというのです。
「飲んでいいよ」
「それじゃあ」
「そしてね」
さらに言う女神様でした。
「心ゆくまで楽しんでからね」
「冒険に出ればいいのね」
「そうだよ、じっくりと楽しんでいきな」
ビールを飲みつつトロットに言うのでした。
「このピラミッドをね」
「ええ、今もそうさせてもらってるけれど」
「これからもだね」
「そうさせてもらうわ」
「そういうことでね、それとね」
「それと?」
「いや、あんた達いい飲みっぷりだね」
トロット達のジュースの飲み方を見て言うのでした。
「ビールを飲んでる面子もね」
「いや、このビールは美味しいよ」
カエルマンはジョッキのビールをごくごくと飲みつつハトホル女神に答えます、実に美味しいとです。
「本当にね」
「そうなんだね」
「うん、それにね」
「それに?」
「酔いが回ってきたね」
「ははは、酔えばそこからね」
女神様はカエルマンの今のお話に笑って返しました。
「さらにだよ」
「飲むものだね」
「そうさ、飲めば飲む程ね」
まさにというのです。
「いいものだからね」
「だからだね」
「どんどん飲んで」
そしてというのです。
「しこたま酔うものだよ」
「それがビールの飲み方だね」
「あたしはいつもそうだよ、とにかくお酒が好きでね」
そしてというのです。
「中でもビールがね」
「大好きなんだね」
「そうさ、だからね」
「今もだね」
「こうしてビールを飲んで」
「さらに飲んで」
「しこたま酔うんだよ」
こう言って実際の飲む女神様でした。
「心ゆくまでね」
「そうするんだよ、あとおつまみに」
ここで女神様は皆の前に新たなものを出しました、それは大蒜をよく利かせた鶏肉のお料理にパンやお菓子でした。
そうしたものを出してです、こう言うのでした。
「こっちも遠慮なくね」
「大蒜の匂いがいいね」
「エジプトでは昔から食べていたんだよ」
その大蒜をというのです。
「だからね」
「それをたっぷりと利かした」
「お料理をね」
それをというのです。
「出したんだよ」
「そうなんだね」
「だからあんた達もね」
カエルマンにさらに言うのでした。
「好きなものを食べるといいよ」
「ではね」
「実はビールも昔から飲んでいてね」
「エジプトでもだね」
「古代のね」
その時のというのです。
「ビールはその頃からあってね」
「女神様は飲んでたんだね」
「そうさ、その頃から大好きだよ」
こうハンクに答えるのでした、見れば女神様に使える神官さん達もライオン達も飲んでいます。そうして食べはじめてもいます。
「それでラー様に暴れた時に飲まされてね」
「それでだったんだ」
「暴れるのを止められたこともね」
「あったんだ」
「そうだったよ、あの時は失敗だったね」
笑いながら言うのでした。
「思えば」
「暴れたら駄目だよね」
「今は反省してるよ、ただね」
「ただ?」
「オズの国で暴れることはね」
このことはといいますと。
「ないからね」
「そういえばセト神も」
カルロスはここで先に祭壇で会った神様のことを思い出しました。
「エジプトでは」
「あいつはまた特別ね」
「乱暴だったんですか」
「もうね」
それこそというのです。
「機嫌が悪いとね」
「暴れたりですか」
「してね、色々悪い風にもね」
「言われてたんですね」
「あいつから直接そんな話を聞いたね」
「はい、確かに」
「こっちの世界じゃ別に悪いことはしないけれど」
オズの国ではというのです。
「それでもね」
「昔のエジプトではですか」
「本当にね」
実際にというのです。
「あいつも乱暴者で」
「ハトホル様もですか」
「そう、暴れてね」
それでというのです。
「そうしてね」
「ラー神にですか」
「止められたこともね」
「あったんですね」
「お酒を飲まされてね」
「そうしたこともあったんですね」
「そうだったんだよ、こっちの世界では本当に暴れないけれど」
それでもというのです。
「飲むのはね」
「エジプトにおられた時と同じで」
「こうしてね」
「お好きなんですね」
「大好きなんだよ」
こう言ってまた飲むのでした。
「本当にね」
「そうなんですね」
「だからね」
「今もですね」
「よく飲んで」
そしてというのです。
「楽しもうね」
「僕達はジュースですが」
「そのジュースもね」
こちらもというのです。
「楽しめばいいよ」
「それじゃあ」
「そしてね」
「食べることもですね」
「遠慮なくね」
そうしてというのです。
「楽しめばいいよ」
「それじゃあ」
「そしてね」
さらにというのでした。
「もっと飲もうね」
「それじゃあ」
「そう、後ね」
「後?」
「あんた達が探してるメジェドはね」
この神様のこともお話するのでした。
「本当に風来坊だからね」
「だからですね」
「何時出会うかはわからないよ」
「ピラミッドの中を動き回っているんですね」
「そうなっているからね」
だからというのです。
「まあ運がよければだね」
「本当にそうなんですね」
「だからね」
「僕達は、ですね」
「ピラミッドの中を歩いて」
「そうしていって」
「出会うことを願うか、後は」
ハトホル女神は飲みつつカルロスにこうも言いました。
「ラー神のところに行ったら」
「ピラミッドの主の」
「そう、あの方のところに行って」
「そしてですねね」
「そう、そして」
そのうえでというのです。
「聞けばいいんじゃないかい?あいつはあたし達には風来坊でも」
「それでもですね」
「ラー神には忠実だからね」
「主神だからですね」
「あの方の言うことだけは聞くし、それに」
カルロスにさらにお話するのでした。
「慕ってるしね」
「ラー神を」
「それで連絡もいつも取ってるみたいだからね」
「だからですか」
「ラー神に聞けば」
古代エジプトのそしてこのピラミッドの主である神様にというのです。
「わかるかもね」
「じゃあ最後は、ですね」
「ずっと会えなかったらね」
ピラミッドの冒険の間というのです。
「その時はね」
「ラー神のところにですね」
「行くといいよ」
「それじゃあ」
カルロスはハトホル女神の言葉に頷きました、そうして一行はジュースやビールを飲んで食べてです。
そのうえで女神様と別れて次の場所に向かうことにしました、この時にトロットは皆にこんなことを言いました。
「ずっと探しながら冒険するけれど」
「それでもだね」
「ええ、最後はね」
こうハンクに答えます。
「ラー神のところに行って」
「そしてだね」
「メジェド神の連絡先を教えてもらいましょう」
「それじゃあね」
「それと」
トロットはさらに言いました。
「カエルマンさんかなり飲んだけれど」
「酔ってないね」
「足取りは確かね」
「私はお酒が強くてね」
そのカエルマンが笑って答えました。
「だからね」
「かなり飲んだけれど」
「それでもね」
これ位はというのです。
「大丈夫だからね」
「そうなのね」
「安心してくれ給え」
「ええ、じゃあこのままね」
「冒険を続けるね」
「そうさせてもらうわ」
トロットはカエルマンにも笑顔で答えました、そうして皆で迷宮であるピラミッドの中を進んでいくのでした。