『オズのエリカ』
第六幕 蜂蜜の農家
一行は森でのお話通り晩御飯にお寿司を出しました、そうしてエリカがお寿司を食べつつこんなことを言いました。
「一つ思うことはね」
「思うことは?」
「ええ、握り寿司食べてるけれど」
エリカは今実際にそれを食べています。
「それでもね」
「それでも?」
「巻き寿司も欲しいわね」
「それも出してるじゃない」
「いやいや、納豆巻きがないでしょ」
このお寿司がというのです。
「それを食べたいんだけれど」
「それじゃあ出すわね」
早速こう言ってでした、そのうえで。
アンは実際にテーブル掛けの上に納豆巻きを出しました、エリカはその納豆巻きを見てそうして言いました。
「これよ、これ」
「貴女納豆巻き好きだったの」
「あの独特のねばねばした感じがね」
まさにというのです。
「隙なのよ」
「そうなのね」
「そう、それでね」
さらに言うエリカでした。
「私お寿司っていうとね」
「納豆巻きがないとなの」
「もの足りないのよ」
「そうなのね」
「そう、そしてね」
「納豆巻きを食べて」
「満足するのよ」
「ううん、納豆巻きはね」
ここで言ったのはジョージでした、彼は普通の鮪の握りを食べています。
「美味しいけれどね」
「匂いがね」
神宝はハマチの握りを食べています。
「凄いからね」
「あれは慣れるには相当に時間がかかったよ」
カルロスは鮭の握りを食べつつ苦笑いになっています。
「僕達全員ね」
「ええ、恵梨香は別にして」
ナターシャは秋刀魚を食べつつ言いました。
「私達にとっては辛かったわ」
「私も最初その匂いにびっくりしたわよ」
恵梨香はその納豆巻きを手に取っています。
「幼稚園の時にはじめて食べたけれど」
「僕も最初びっくりしたよ」
「そうだよね」
臆病ライオンと腹ペコタイガーも言いました、納豆について。
「あの匂いには」
「どうにもね」
「最初何かって思って」
「食べものかってね」
そこまでだというのです、ですが。
二匹も納豆巻きを食べてそして言うのでした。
「味はいいんだよね」
「これがね」
「そう、納豆巻きはね」
まさにと言うエリカでした。
「お寿司の中でも絶品よ」
「貴女は最初から好きみたいね」
「ええ、大好きよ」
アンにもこう答えます。
「だから食べてるのよ」
「そうなのね」
「そう、それでね」
「お寿司を食べる時は」
「これもないと駄目なのよ」
納豆巻きもというのです。
「是非ね」
「そうなのね、私も一個いえ」
「そう、一貫でしょ」
エリカは寿司の数え方について言いました。
「そうでしょ」
「そうだったわね」
「そこは間違えたら駄目よ」
「そうなのよね、お寿司はね」
どうにもというのです。
「そうした数え方よ」
「そうなのよね」
「私も最初知らなかったし」
「そもそもお寿司自体が」
「最初はオズの国になかったし」
「それで最初一個二個って数えていたわ」
そうだったというのです。
「それが日系の住人の人に教えてもらってね」
「変わったのよね」
「そうなのよ、本当にね」
そこはというのです。
「これにはびっくりしたわ」
「お寿司ならではの数え方よね」
「まさにね」
「それがわかるかわからないかで」
「お寿司への理解が変わるのよね」
「これを通っていうらしいわね」
「日本ではそうみたいですよ」
ジョージがアンに応えて言います。
「お寿司への知識も含めて」
「通かどうかよね」
「それがわかるみたいです」
「そうよね」
「ですから」
それでというのです。
「僕もそこは全くです」
「貴方は通じゃないのね」
「とてもですよ」
そこは笑って言うジョージでした。
「僕なんか」
「とてもなのね」
「通なんてものじゃないです」
それこそというのです。
「とても」
「そうなのね」
「はい、通っていうと」
「私もとても」
そのお寿司の国の恵梨香が言ってきました。
「そんなにお寿司食べていないから」
「もうお寿司を長年食べてきて」
カルロスが思うにはです。
「何から何までわかっている」
「そんな感じの人のことみたいね」
ナターシャもこう考えています。
「通っていうのは」
「日本人はお寿司でも何でも通がいるけれど」
神宝が言うにはです。
「もう粋とかと同義語にもなってる感じがするしね」
「粋、ねえ」
粋と聞いてこう言ったエリカでした。
「それはダンディズムなのかしら」
「そんな感じがするわね」
アンはエリカのその言葉に応えて言いました。
「中国の風流というか」
「何か恰好いいね」
「そんな感じがするわよね」
「ええ、聞いているとね」
「そうかもね」
実際にと言ったアンでした。
「通っていうと」
「粋とね」
「そんな風な感じで」
「恰好よさもある」
「そんな風よね」
「ううん、何かね」
また言うジョージでした。
「そんな風がするね、僕も」
「あれじゃないの?」
また言うエリカでした。
「その恰好よさを身に着ける」
「それがだね」
「知識と一緒にね」
「それが粋かしら」
「そうかもね」
「ううん、何ていうか」
また言うエリカでした。
「深いわね」
「そうだよね」
「そうした粋についても」
「お寿司についても」
「深い食べものだっていうけれど」
「随分なものが感じるわね」
「随分過ぎて」
ここで言ったのは腹ペコタイガーでした。
「そうおいそれと食べられない気がするよ」
「そうよね、ただね」
「気にせずにだね」
「食べればいいでしょ」
こうも言ったエリカでした。
「だって食べないとわからないから」
「だからだね」
「食べてね」
そしてというのです。
「そうして理解していけばいいでしょ」
「食べるのに恐れ多いとは思わないで」
「ごく普通にね」
そうすればというのです。
「そうよ。というかあんたね」
「僕は?」
「そう、食べ方がね」
それがというのです。
「只の大食いよ」
「だって僕腹ペコだから」
名前通りのというのです。
「もうお腹一杯食べたいから」
「そこでまた腹ペコタイガーの名前通りになのね」
「食べないと」
それこそというのです。
「もう何も出来ないからね」
「だからなのね」
「お腹一杯食べて」
そしてというのです。
「それでやっと満足出来るから」
「それでお寿司もっていうのね」
「うん、まだまだ食べて」
そしてです。
「お腹一杯にならないとね」
「駄目なのね」
「だからこうして食べているんだよ」
「僕もだよ」
臆病ライオンも腹ペコタイガーに負けない位食べて言います。
「お腹一杯食べないとね」
「あんたもよね」
「駄目だよ、けれどかな」
「そう、そのどんどん食べる感じはね」
それはというのです。
「粋じゃないわよ」
「そうかな」
「そうなのかな」
「そうよ、どうも通の粋な食べ方はね」
今度は海胆を食べつつ言うエリカでした。
「違うみたいよ」
「じゃあどんな食べ方なのかな」
「どんどん食べるんじゃないんだ」
「そうみたいよ、多分ね」
ここでエリカが言う言葉はといいますと。
「渡しみたいな食べ方よ」
「何で君の食べ方が通かな」
「そこでそうなるのかな」
「だって私はもうそのままね」
エリカ自体がというのです。
「恰好いいからよ」
「恰好いい、粋だから」
「通になるんだ」
「そうに決まってるわ」
根拠なく言うのでした。
「私はね」
「そうなのかな」
「それが違うんじゃないかな」
「今ちょっと聞いてみるわね」
ここで、でした。アンがです。
スマホでオズの国一の学者であるムシノスケ教授に連絡を取って尋ねました、それから皆に言いました。
「それぞれみたいよ」
「それぞれ?」
「それぞれっていうと」
「だから人それぞれでね」
それでというのです。
「粋って思えばね」
「それでなのね」
「粋でいいみたいよ」
「そうなの」
「教授が言うにはね」
「ああ、あの人がなの」
「そう、粋っていうのはね」
それはというのです。
「もうその人が一番恰好よくて美味しくただ礼儀作法は守ってお寿司に対しての知識はしっかりと備えて」
「そしてなの」
「食べることで」
「私の食べ方じゃないの」
「貴女がそう思っていたらね」
それでというのです。
「それでいいみたいよ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
「その人がそう思ってるとなのね」
「いいみたいよ」
「成程ね」
「だから貴女もね」
他ならないエリカもというのです。
「粋と自分で思うならね」
「粋なのね」
「それでいいみたいよ」
「成程ね」
「そしてね」
さらにお話するアンでした。
「お寿司は元々ファーストフードだから」
「お昼にあんたが食べたハンバーガーみたいに」
「ええ、ハンバーガーみたいにね」
「ファーストフードだったの」
「そう、江戸時代の日本で出店で売られていたの」
「あら、じゃあクレープみたいね」
そう聞いてこのお菓子を思い出したエリカでした。
「フランクフルトとかね」
「そういうのと同じね」
「そうだったのね」
「だからね」
それでというのです。
「特にね」
「気取ることもなく」
「食べてもね」
そすちえもというのです。
「いいみたいよ」
「成程ね」
「だから通でなくても粋でなくても」
「いいのね」
「そうしたものみたいね」
「ううん、何かお寿司っていうと」
エリカの思っていたところではです。
「もっとね」
「特別なご馳走だったのね」
「ええ、異国から来たね」
「確かに日本から来たけれど」
それでもと言うアンでした。
「日本から来たファーストフードと思えば」
「いいのね」
「そんなものみたいよ」
「ううん、イメージ違うわね」
「というかイメージ変わったでしょ」
「ええ」
まさにと言うのでした。
「今でね」
「そうでしょ、私も最初聞いてね」
「驚いたのね」
「そうなのってね」
実際にというのです。
「思ったわ」
「そうよね、やっぱり」
「私も特別なお料理と思っていたわ」22
アンにしてもです。
「本当にね」
「それが違うなんてね」
「ええ、本当にね」
「意外よ」
「ええ、ただね」
「それはそれでね」
「あるわよね」
こうしたこともというのです。
「お料理も時代や国で違うから」
「そうよね」
「そう、じゃあね」
「私は私の粋で食べるわ」
「そうするのね」
「そのままね」
「じゃあ僕もね」
ジョージもこう言いました、
「そうしてね」
「食べるのね」
「そうするよ」
「じゃあ僕もだよ」
「僕もそうするよ」
腹ペコタイガーと臆病ライオンも言いました。
「そしてね」
「美味しく食べるよ」
「じゃあ僕もね」
「僕もそうするよ」
「私もね」
「それじゃあ私も」
ジョージ以外の四人の子供達も言いました、そしてです。
皆で楽しくお寿司を食べました、そのうえでこの日も身体を奇麗にしてからゆっくりと休みました。
それで次の日も冒険をするのですが。
その時にです、一行の周りに一匹のミツバチが飛び過ぎました。それでこの時は誰も思わなかったのですが。
ミツバチの方からです、こう言ってきました。
「あれっ、アン王女かな」
「ええ、そうよ」
アンがその通りだと答えました。
「私がアン=アンヤコレヤよ」
「そうですよね、どうしてここに」
「それはね」
アンはミツバチに自分達の旅のことをお話しました。ミツバチはここまで聞いてそうして言いました。
「だからウィンキーの国からですね」
「カドリングに来ているのよ」
「そうですか、王女のお国は蜂の間で評判なんですよ」
「それはどうしてなの?」
「いえ、果物は花が咲きますよね」
実になるその前にです。
「そのお花からいい蜜が採れるって」
「それでなの」
「はい、有名です」
そうだというのです。
「私達の国でも」
「そうだったのね」
「はい、そしてです」
さらに言うミツバチでした。
「それでなんですが」
「それで?」
「実は私の巣は近くにありますが」
「あっ、蜂蜜がなのね」
「どうもね」
これがというのです。
「思う様のものが出来ないのです」
「いい蜂蜜がなの」
「それで今巣全体で悩んでいます」
そうした状況だというのです。
「どうしたものかと」
「そうなのね」
「それでなんです」
「私と会ったから」
「はい、よかったらですが」
アンの前に来て言うのでした。
「ちょっと助言なんかを頂けたら」
「いいハチミツをどうして作るのか」
「はい、お願い出来ますか」
「私でよかったら」
一呼吸置いてからです、アンは答えました。
「だったらね」
「それでは」
「ええ、今からね」
「私達の巣に来て下さい」
「お花っていうと」
ここで言ったのはエリカでした。
「その辺りに一杯あるでしょ」
「そうだよね」
「一杯あるよね、お花は」
臆病ライオンと腹ペコタイガーも言いました。
「この辺りに」
「そうだよね」
「それはね」
「この周りにも」
「いや、それがです」
「それが?」
「それがっていうと?」
「この辺りのお花から蜜を取っても」
そうしてもというのです。
「どうもです」
「いい蜂蜜が出来ないんだ」
「そうだっていうんだ」
「そんな気がするのです」
どうにもというのです。
「だから私達も困っています」
「あら、どんなお花からも蜜が採れるでしょ」
エリカはミツバチのお話を聞いて言いました。
「それこそ」
「いえ、それがです」
「そうでもないの」
「はい、どうにも」
これがというのです。
「だからです」
「私達にもなのね」
「お話しているのです」
悩んでいてというのです。
「この様に」
「そうなのね」
「とりあえずはね」
ここでアンが言いました。
「まずは貴方の巣まで案内してね」
「わかりました」
こうしてでした、ミツバチはアン達を自分の巣がある森の中に案内しました。そうして着いたところは森に少し入ったところで。
そこにとても大きな蜂の巣が赤い大樹にぶら下がっていました、ミツバチはそこに来ると皆に言いました。
「ここが私の巣でして」
「それでなのね」
「蜂蜜を作っていてもです」
「いい蜂蜜が出来ないのね」
「納得出来るものが」
「それはこの巣のどのミツバチ達が言ってるのかしら」
「はい、どうか皆のお話を聞いて下さい」
こうアンに言います、そしてでした。
アンは蜂の巣から出て来たミツバチ達にお話を聞きました、するとです。
どのミツバチ達も同じことを言いました、特に女王バチはこう言いました。
「本当に何かです」
「ハチミツの味になのね」
「満足していないのです」
「そうなのね」
「何が悪いのでしょうか」
女王バチはアンに困ったお顔で言うのでした。
「私達にはわかりません」
「どのお花から蜜を採ってるのかしら」
アンは女王バチに尋ねました。
「それで」
「この森と周りの場所のお花達からです」
「その全てのお花からなの」
「はい、蜜を採っているのですが」
「満足のいく味になの」
「なっていないのです」
「そうなのね。じゃあね」
アンはここまで聞いてから女王バチに言いました。
「お願いがあるけれどいいかしら」
「お願いといいますと」
「ええ、貴女達の蜂蜜を舐めさせて」
こう言うのでした。
「そしてね」
「味を確かめてですか」
「何がよくて何が悪いのかをね」
「確かめてくれますか」
「そうさせてもらうわ」
「わかりました」
女王バチも頷きました、そしてです。
アンは巣の蜂蜜を少し舐めさせてもらいました、そのうえで女王バチに少し考えているお顔になって言いました。
「美味しいわ」
「そうですか」
「ええ、ただね」
それでもというのです。
「物足りない感じがね」
「しますか」
「貴女達が満足していない理由がわかったわ」
「そうですか」
「何かが足りないのよ」
この巣の蜂蜜にはというのです。
「どうもね」
「では私達が納得していないことは」
「わかったわ」
「そうですか」
「ええ、ただね」
「それでもですか」
「何が足りないのか」
このことはというのです。
「どうもね」
「わからないですか」
「ううん、何が足りないのかしら」
「あのね」
ここでエリカが言ってきました。
「お花から蜜を採ってるのよね」
「はい」
女王バチはエリカにも答えました。
「そうです」
「あらゆるお花から採ってるのよね」
「そうです、この森にあるお花と」
「森の周りのお花から」
「蜜を採っていますが」
「それでもなのね」
「どうもです」
困った感じで項垂れて言う女王バチでした、他のミツバチ達より大きなお身体がそうなってしまっています。
「これが」
「満足出来る結果が出なくて」
「困っています」
「そうよね、だったらね」
「だったら?」
「ちょっと採っているお花言ってみて」
蜜をというのです。
「今思ったけれど」
「お花の種類をですか」
「ええ、そうしてくれるかしら」
「それでは」
女王バチは頷いてでした、そのうえで。
実際にエリカ達に蜜を採っているお花の種類を言っていきました。
「まつは菖蒲です」
「菖蒲ね」
「はい、菫に」
このお花もというのです。
「百合、チューリップ、マーガレット、デイジー、ヤグルマギク、ダリア、クローバーにです」
「他には?」
「苺、近くの農家からです」
「あら、美味しそうね」
「それと菊、蒲公英もです」
このお花もというのです。
「梅や桜、桃も」
「いい感じじゃない」
「それに林檎や無花果、枇杷、葡萄、梨とです」
「果物が多いのね」
「甘いですから」
だからだというのです。
「こうしたお花からもです」
「蜜を採ってるのね」
「はい」
まさにというのです。
「そうしています」
「いい感じね」
「そうですよね」
「ええ、他にはどうかしら」
「カボチャからも」
「ジャックね」
「あの方ですね」
「それもいいわ、他は?」
「これだけです」
ここで女王バチのお話は終わりました。
「花は」
「あれっ、何か足りないわね」
ここでエリカもこう言いました。
「確かに」
「そうだね、足りないものは」
それは何かとです、ジョージも言いました。
「何かな」
「ううん、大事なお花が欠けている様な」
恵梨香もこう言います。
「これは」
「そうだね、とても大事なお花が欠けている気がするよ」
神宝も同じ意見でした。
「何か一つね」
「ええと、何かしら」
ナターシャも首を傾げさせています。
「そのお花は」
「皆が知っているお花じゃないかな」
カルロスもそこがわからないです。
「これは」
「うん、何かとてもね」
「有名なお花が欠けているよ」
臆病ライオンと腹ペコタイガーもこのことはわかりますが。
「けれどね」
「それが何かがわからないよね」
「あら、こんなの簡単じゃない」
ですがアンがここでこう言いました。
「皆一つ忘れてるわよ」
「あんたはわかるの」
「ええ、道理で足りない筈よ」
こうまで言うアンでした。
「これでわかったよ」
「それは何なの?」
エリカはアンに怪訝な顔で尋ねました。
「一体」
「薔薇よ」
アンはエリカに笑顔で答えました。
「薔薇がないでしょ」
「あっ、そういえば」
エリカは言われてはっとなりました、そして他の皆もです。アンの今の言葉にエリカと同じお顔になりました。
そしてです、こう言うのでした。
「そういえばね」
「うん、薔薇がなかったよ」
「そうだったよ」
「何かが足りないって思っていたら」
「薔薇だったわ」
「ええ、薔薇はオズの国のあちこちにあるけれど」
それなのにと言うアンでした。
「この辺りには薔薇がないの?」
「あります」
すぐにです、女王バチはアンに答えました。
「薔薇は。ですが」
「それでもなの」
「はい、薔薇には棘がありますね」
「まさかと思うけれど」
棘と聞いて聞き返したアンでした。
「その棘が怖くて」
「それでなんです」
「薔薇からはなの」
「蜜を採るどころか」
「近寄ることもなの」
「していないです」
「大丈夫よ」
アンは女王バチに笑顔で言いました。
「それは」
「大丈夫ですか?」
「ええ、何ならね」
それこそと言うのでした。
「その薔薇に皆で行きましょう」
「薔薇園にですか」
「そしてね」
「薔薇の花に寄って」
「蜜を採ればいいのよ」
「棘が刺してきませんか?」
先程のミツバチが恐る恐るアンに尋ねてきました。
「そんなことをしても」
「大丈夫よ」
アンはそのミツバチに笑顔で答えました。
「触らないといいから」
「そうですか」
「ええ、薔薇の棘はね」
「自分から刺してくることはですか」
「してこないわ、絶対にね」
まさにというのです。
「だからね」
「安心してですか」
「ええ、近寄ってね」
そのうえでというのです。
「蜜を採りましょう」
「それなら」
女王バチはアンの言葉を聞いてでした、そのうえで彼女に言いました。
「今から薔薇園に案内しますので」
「そしてよね」
「薔薇の棘が刺して来ないかどうか」
「ええ、実証してみせるわ」
笑顔で言ったアンでした、こうして一行は今度は女王バチを筆頭とするミツバチ達に森の中の薔薇園に案内してもらいました。
そこでは紅い薔薇達がとても奇麗に咲き誇っています、アン達はその薔薇達を見てうっとりとしていますが。
ミツバチ達は近寄ろうとしません、アンはその彼等に笑顔で言いました。
「じゃあ今からね」
「はい、薔薇にですね」
「近寄ってですね」
「本当に棘が刺して来ないかどうか」
「実証してくれるんですね」
「そうさせてもらうわね」
是非にと言ってでした、そのうえで。
アンは実際に薔薇園に近寄りました、するとです。
実際に薔薇の棘達はアンが近寄っても自分達から刺すことはありませんでした、薔薇自体が動くことすらありません。
アン以外の誰が近寄ってもでした、全くです。
薔薇は動きません、それを見てミツバチ達は口々に言いました。
「ひょっとして」
「本当に?」
「薔薇の棘は刺さないの?」
「そうなの?」
「見ての通りよ。薔薇はハエトリ草じゃないのよ」
アンがここでまたミツバチ達に言います。
「だからね」
「棘があってもですか」
「動かなくて」
「自分達から刺すことはですね」
「ないんですね」
「ええ、そうよ」
その通りだというのです。
「だからね」
「僕達もですか」
「皆で近寄っても」
「そうしてもですね」
「ええ、安全よ」
無事に蜜を採れるというのです。
「だから安心してね」
「それじゃあ」
「そうさせてもらいます」
「今から」
「ええ、そうしてね」
「それなら」
ここで、でした。女王バチがです。
ミツバチ達の群れから出て薔薇に向かいます、ミツバチ達は女王バチのその動きを見てびっくりして言いました。
「女王様、危ないです」
「女王様に何かあれば」
「大丈夫です、まずは女王である私が示さなければ」
そうしなければというのです。
「巣の主ですから」
「だからですか」
「まずはですか」
「女王様が」
「はい、行きます。それにアン王女達は何もありません」
今もです、アン達は薔薇の傍それこそお花や葉に触れていますが誰も刺されていません。薔薇達を触りつつにこにことしています。
その薔薇達を見てです、女王バチはさらに言うのでした。
「ですから」
「これからですか」
「女王様がですか」
「薔薇の蜜をですか」
「採ります。オズの国では女王バチも蜜を採れますから」
それでと言うのです、そして実際にでした。
女王バチは薔薇のお花に寄って蜜を採って群れに無事に帰りました、ミツバチ達は自分達の女王を見て驚きました。
「あっ、確かに」
「実際にですね」
「ご無事でしたね」
「何もありませんでしたね」
「そうですね」
また言う女王バチでした。
「ですから」
「これで、ですね」
「我々もですね」
「蜜を採れるのですね」
「薔薇の蜜を」
「はい、薔薇の蜜を採って」
女王バチはミツバチ達に言いました。
「それを私達の蜂蜜に入れてみましょう」
「わかりました」
「そうしましょう」
こうしてでした、ミツバチ達は一斉に薔薇のお花に寄って蜜を採りました。誰も棘には刺されませんでした。
そしてアン達と一緒に巣の方に戻って薔薇の蜜を蜂蜜に入れてみました。それをアンに舐めてもらうと。
アンは女王バチににこりと笑って言いました。
「ええ、これならね」
「いいですか」
「満足出来る味よ」
「では」
ここで女王バチもその蜂蜜を舐めてみました、するとです。
「これは確かに」
「満足出来る味よね」
「はい」
その通りと言うのでした。
「とても」
「そうよね、これならね」
「はい、まことにです」
「満足出来る味でね」
「楽しくです」
まさにというのです。
「味わえます」
「そうした味になったわね」
「そうですか、薔薇の棘は刺さないのですね」
「自分達からはね」
「私達はそうだと思い込んでいましたが」
「実は違うのよ」
それがというのです。
「何処かで間違えたお話だと思うけれど」
「そうでしたか」
「だからね」
さらに言うアンでした。
「これからはね」
「はい、先程の通りにですね」
「薔薇のお花からもね」
「蜜を採って」
「そうしてね」
そのうえでというのです。
「満足出来る蜜を作ってね」
「そうしていきます」
女王バチはアンに確かな声で答えました、そして他のミツバチ達と一緒に一行にミツバチをふんだんにご馳走してお礼を言いました。
アン達はそのうえでミツバチ達と別れて元の黄色い煉瓦の道に戻りました、ですがその時になのでした。
ふとです、エリカがアンに言いました。
「薔薇の棘が動くとかね」
「そのことはね」
「何でそう思ったのかしら」
「風か何かで動いたのを見てね」
「それでなの」
「思い込んだじゃないかしら」
アンはこうエリカに答えました。
「それでじゃないかしら」
「そうなの」
「よくあるお話でしょ」
「ええ、オズの国では自分から動く植物も多いしね」
「そのこともあるしね」
「風が吹いて動くのを見れば」
それこそとです、エリカも言いました。
「そう思うこともね」
「有り得るわね」
「そうよね」
「だからあのミツバチ達もね」
「棘が刺してくると思って」
「怖がってね」
そしてというのです。
「私達が来るまでね」
「近寄らなかったのね」
「それで薔薇の蜜が採れなくて」
「蜂蜜も物足りなかったのね」
「そうだと思うわ、まああの巣の蜂蜜はああしてね」
「色々なお花から蜜を採って」
「そうして作っているからね」
それならというのです。
「あそこで薔薇もないとね」
「よくないのね」
「一種類のお花から採る蜂蜜もあるけれど」
「そこは色々ってことね」
「ええ、オズの国ならではね」
そうした蜂蜜の採り方だというのです。
「そこは」
「そうね、本当にね」
「いや、しかしね」
「これで解決してね」
「よかったわ」
笑顔で言うアンでした。
「本当に」
「そうよね」
「それでね」
エリカにさらに言いました。
「これからね」
「ええ、蜂蜜もご馳走になったし」
「それもたっぷりとね」
「だからね」
蜂蜜を舐めたからというのです。
「今私凄く元気よ」
「そうでしょ、蜂蜜は元気が出るのよ」
「舐めたらね」
「だからね」
「元気よくね」
「先に進んでいきましょう」
是非にというのでした。
「そうしましょう」
「それじゃあね」
「さて、何だ咬んだでね」
「あと少しでグリンダのお城だね」
臆病ライオンと腹ペコタイガーはこのことをここで言いました。
「今回の旅も色々あったけれど」
「目的地まであと少しだね」
「そうね、物凄く一杯あったけれど」
アンも二匹に応えて言います。
「今回は順調にいってるわね」
「うん、有り難いことにね」
「そうなってるね」
「トラブルもなくて」
それでというのです。
「もう少しでグリンダさんのお城ね」
「さて、グリンダに伝えるわよ」
エリカも言います。
「カドリングに猫の国を建てたいってね」
「そうするのね」
「ええ、そしてね」
「女王は貴女ね」
「そこは決まってるわ」
エリカにとっては当然のことでした。
「だって私が建国するって思って動いてるんだから」
「それでよね」
「ええ、私以外には誰も務めらないわ」
オズの国の他の猫達にはというのです。
「それこそね」
「そうした考えが貴女ね」
「私ならではでしょ」
「ええ、じゃあグリンダさんにお許しを貰って」
「建国するわよ」
猫の国、自分が女王の国をというのです。こうしたお話をして意気揚々とグリンダのお城に向かう一行でした。