『オズのエリカ』
第一幕 悪戯猫の思い付き
エリカはエメラルドの都の宮殿に住んでいる猫ですが猫らしく気まぐれで我儘で悪戯好きな性格です。
それで今もです、宮廷のメイド長であるジュリア=ジャムに怒られていました。
「また悪戯をして」
「悪戯って?」
「そうよ、いきなり私を引っ掻いてきたでしょ」
宮殿の中でお仕事をしているジュリアにそうしてきたのです。
「それも急に」
「私の傍を通ったからよ」
だからと返すエリカでした。
「それで挨拶としてね」
「爪を出してきたっていうの」
「ほんの挨拶よ」
左の後ろ足で耳の後ろを掻きながら言うエリカでした。
「別に怒ることないでしょ」
「怒るわよ、急にそんなことをしてきたから」
「ジュリアは相変わらずすぐ怒るわね」
「私じゃなくても怒るわよ」
「そうかしら」
「そうよ。そもそも貴女はね」
さらに言うジュリアでした。
「その悪戯好きの性格を何とかしなさい」
「だから悪戯じゃないわよ、挨拶よ」
「それを自覚しないのが悪いのよ」
「やれやれめ」
「しかも我儘で気まぐれで」
エリカの子の性格についても言うのでした。
「それじゃあ皆に怒られっぱなしよ」
「私怒られても気にしないから大丈夫よ」
「そこで気にしないのが悪いの」
「あら、そうなの」
「そうよ。本当に困った娘ね」
ジュリアはむっとして言います、ですがそう簡単にどうにかなるエリカではなありません。それで、です。
この日も王宮で好き勝手に暮らしていましたがその中でビリーナと会ってこんなことを言われました。
「これからまたなのよ」
「あんたの国に戻るの」
「ええ、そうしてね」
そのうえでというのです。
「政治をしに行くのよ」
「あんた女王様だからね」
「皆のね」
その鶏の国のというのです。
「私が産んだ子供達から出来た国だしね」
「それでお子さんやお孫さん達の面倒を見るのね」
「そうよ、政治をしてね」
そのうえでというのです。
「そうしてくるわ」
「成程ね。あんたのお国ね」
「私が女王様で旦那さんがね」
「王様だったわね」
「よくいってるわよ」
お国の政治はというのです。
「とてもね」
「それはいいわね。けれど鶏の国ね」
エリカはビリーナのお話を聞いて思うのでした。
「何かいいわよね」
「物凄くいいわよ」
ビリーナはエリカに笑顔で答えました。
「こんないいものそんなにないわよ」
「自分の国を持ってその国を治めていくことは」
「そうよ。誇りを持ってしっかりと政治をすることはね」
「いいものなのね」
「女王として言うわ」
鶏の国のというのです。
「本当にいいわよ」
「そうなのね」
「そうよ。じゃあまたね」
ビリーナはこう言って自分の国に出発しました、そうして今度は鶏の国の女王としての執務にあたるのでした。
ですがエリカはそのお話を聞いて思いました、それでその思ったことを今度はドロシーに言うのでした。
「私思ったけれど」
「何を思ったの?」
「さっきビリーナと話したんだけれど」
ドロシーにこのことも言うのでした。
「彼女国を持ってるでしょ」
「お子さんやお孫さん達の国をね」
「その国のことを聞いてね」
そしてというのです。
「私も国を持とうと思ったのよ」
「貴女もなの」
「そう、どうかしら」
「そう思うことはいいけれど」
それでもとです、ドロシーは自分が座っている席のテーブルのところにちょこんと座って自分にお話するエリカに応えました。
「貴女が国を建ててなの」
「ええ、女王様になってね」
そうしてというのです。
「治めていこうと思うけれど」
「止めた方がいいんじゃないかしら」
ドロシーはエリカのお話をここまで聞いて思いました。
「それは」
「どうしてなの?」
「だって貴女気まぐれだから」
そうした性格だからというのです。
「しかも我儘だし」
「あら、だからというの」
「おまけに飽きっぽいし」
「そうした性格なの、私って」
「自覚ないの?猫はそうした傾向は強いけれど」
生きものとしてそうだというのです。
「貴女は特にね」
「そうした性格なの」
「猫の中でも特にその傾向が強いわ」
「というとオズの国の他の猫やガラスの猫よりも」
「ずっとね」
エリカのそうした性格の傾向はというのです。
「強いから」
「だからっていうのね」
「ええ。国を建てることも政治をしていくことも」
そうしたことはというのです。
「どうしてもね」
「難しいっていうの」
「そう思うけれど」
どうにもというのです。
「貴女はね」
「そんなものかしら」
「ええ。それでもなの?」
「私は思うのよ」
「自分の国を建てないのね」
「猫の国をね」
「そうなのね」
ドロシーはエリカに難しい顔で応えました。
「貴女が女王となって」
「そうよ。いいでしょ」
「だからさっきも言ったけれど」
「私はそういうことに向いていないっていうの」
「そう思うわ。貴女はこの王宮にいて」
そのうえでというのです。
「これまで通り楽しく暮らしていくべきじゃないかしら」
「そうかしらね」
「ええ。そういえば猫の国はないけれどね」
オズの国にはです。
「それでもね」
「だったら余計によ」
「そうした国を建てたいの」
「ええ、オズの国にないのならね」
そう思うと余計にというのです。
「思ったわ」
「好奇心を持ったのね」
「その通りよ」
「猫は好奇心も強いから」
「私もそうでしょ」
「それもかなり強いわ」
猫のそうした一面も強いのがエリカです、とにかく猫の個性がとても強く出ているのがこの娘なのです。
「貴女は」
「それはいいことね」
「よし悪しよ。貴女はよくトラブルも起こすし」
「ドロシーと出会ってオズの国に来た時から?」
「そうよ。今だってね」
オズの国の住人になってからずっとというのです。
「そうだから」
「私の好奇心もなの」
「どうかと思うわ。けれど言っても聞かないわよね」
「思いついたらやるのが私よ」
右の前足を出してそれでドロシーを指差す様にして言うエリカでした。
「そうでしょ」
「猫は意志が強くもあるのよね」
「いいものばかり持ってるでしょ」
「気まぐれで我儘で悪戯好きで飽きっぽいのはいいことかしら」
「全部そうよ」
エリカが思うにはそうなのです。
「だからいいのよ」
「何でもいい風に考えるわね」
「それも私でしょ」
「ええ、猫でね」
それでというのです。
「貴女はそのこともかなり強いわ」
「つまり私は何でも強いのね」
「猫の性格がね」
「それだけ私が凄い猫だってことよ」
「本当に何でもそう思うから」
「言ってもっていうのね」
「ええ。仕方ないわね」
「じゃあ決まりね」
ドロシーの言葉を聞いてそれならと応えたエリカでした。
「これから猫の王国を建てるわよ」
「それで何処に建てるの?」
「そうね。小さな国が一杯あるから」
だからだというのです。
「カドリングの国にするわ」
「あの国の中に建てるの」
「陶器の国やジグゾーパズルの国みたいにね」
カドリングの国の中にあるこうした国々と共にというのです。
「街を城壁で囲んでね」
「そのうえでなのね」
「猫の国を建てるわよ」
「それじゃあね」
そこまで聞いてです、ドロシーはエリカに言いました。
「まずはグリンダにね」
「あの人になの」
「カドリングの国の中に国を建てる許可を貰って」
それからだというのです。
「いいわね」
「わかったわ。しかしね」
「しかし?」
「私がいいって言ってもなのね」
「それで国は建てられないわよ」
「グリンダが許してくれないと駄目なのね」
「カドリングの国に建てるのでしょ」
このことから言うドロシーでした。
「だったらね」
「グリンダの許可が必要なのね」
「ええ、それでね」
さらに言うドロシーでした。
「オズマの許可もね」
「必要なのね」
「そうよ。あの娘からもね」
「じゃあこれからオズマに会うわ」
「そうしてね。建国はかなり大きなことだから」
それでと言うドロシーでした。
「その国の元首だけでなくてね」
「オズマの許可も必要なの」
「オズの国の国家元首のね」
この人のものもというのです。
「だからね」
「ええ。じゃあまずはオズマのところに行くわね」
「それじゃあね」
こうしてでした、エリカはその足でオズマのところに行ってオズマにお話しましたがするとでした。
オズマはいいと答えましたがそれでもこの娘もこう言うのでした。
「貴女がなのね」
「ええ、猫の国の女王様になるわ」
「どうなのかしら」
このことはというのでした。
「果たして」
「あら、貴女もそう言うの」
「だってね」
エリカを見つつ言うのでした。
「貴女はね」
「性格がなの」
「とても猫の性格が出ているから」
「オズマもそう言うのね」
「言うわ。本当にね」
オズマもドロシーと同じ表情をして言うのでした。
「貴女とのお付き合いも長いし」
「それだけによく知っているのね」
「ええ。その貴女がなのね」
「そうよ。カドリングの方にね」
「猫の国を作るのね」
「そう考えているのよ」
「建国のことはいいとして」
それでもと言うオズマでした。
「その後のことよ、問題は」
「私が女王でいいのかっていうのね」
「ええ。どうなのかしら」
「言うわね。私位女王に向いている猫はいないよ」
「そう言える根拠は?」
「私が言っているのよ」
それならというのです。
「それの何処に疑う余地があるのよ」
「わからない理屈ね」
「私は嘘は言わないでしょ」
「それがそう言える根拠なのね」
「そうよ。だったらいいわね」
エリカはオズマにも全く謙遜することなく言うのでした、この辺りの物怖じしないところもエリカでしょうか。
「私は猫の国の女王になるわ」
「まあ建国のことはいいわ」
オズマはこのことはいいとしました。
「じゃあ今からね」
「カドリングに行ってよね」
「そう、グリンダに会ってね」
そのうえでというのです。
「あの人にも許可を得てね」
「そうして来るわね」
「道中貴女だけだと心配だから」
エリカだけだと、というのです。
「一緒に連れて行く人を選びましょう」
「そうね。私のお供にね」
「お供なの」
「だって女王になるのよ」
それならというのです。
「お供になるでしょ」
「何かそう言うのも猫らしいわね」
オズマはあらためてエリカがとても猫らしい猫だと思いました、性格にその猫らしさがとても強く出ているとです。
「けれどそれでもね」
「お供はなのね」
「ええ、一緒に行かないとね」
「じゃあ僕達が行こうか」
「そうしようか」
ここで名乗りを挙げたのは臆病ライオンと腹ペコタイガーでした。
「王宮にはオズマとドロシーがいてね」
「しっかりと守って」
「それなら僕達が行ってね」
「エリカを助けるよ」
「そうしてくれるかしら。じゃあ貴方達と」
それにと言うオズマでした。
「後は誰かしら」
「あの五人の子達をお供にしたいわ」
エリカはふと思ってオズマに言いました。
「そうするわ」
「思い付いて言ったのね」
「そうよ。思い浮かんだのよ」
やっぱり猫らしくそうなったというのです。
「だからね」
「あの子達もなのね」
「呼ぶわ」
「今あの子達は外の世界にいるけれど」
「だったら呼べばいいのよ」
オズの国にというのです。
「簡単なことじゃない」
「急に呼んでいいのかな」
「あの子達にも都合があるけれど」
「都合ってオズの国でどれだけ過ごしても外の世界じゃ一瞬のことじゃない」
エリカは五人のことを考えた臆病ライオンと腹ペコタイガーにも胸を張って平然と言い切るのでした。
「だったらいいじゃない」
「それはそうだけれどね」
「何かエリカが言うと我儘に聞こえるよ」
「実際に我儘だしね」
「今回のこともね」
「それも猫らしいでしょ。だったらいいのよ」
開き直るというかはそれが当然という態度でした。
「じゃあ今からね」
「ええ。あの子達も呼ぶわ」
こうしてでした、オズマは携帯を出して恵梨香の形態に連絡を入れました。この時恵梨香達はお昼休みでしたが。
オズマのメールを受けてです、恵梨香はすぐに他の子達を集めて言いました。
「オズマ姫から招待が来たわ」
「オズの国になのね」
「ええ、来てってね」
こうナターシャに答えました。
「招待が来たわ」
「オズマ姫から直接の正体って珍しいわね」
「うん、そうだよね」
神宝もこう思いました。
「それは」
「いつもひょんなことからあっちに行ったり僕達からお邪魔してるけれど」
カルロスも首を傾げさせて言います。
「オズマ姫からって珍しいね」
「何かあるのかな」
ジョージもこう言いました。
「急に誰かの旅が決まって」
「それのお供?」
「その誰かが是非にって言って」
「それでかな」
「そうなのかな」
「そうかもね。けれど招待してもらったから」
オズマから直々にというのです、ジョージは四人にこのことを言いました。
「これからオズの国に行こうか」
「ええ、そうね」
「大学の時計台の方に行って」
「あの青い渦を通って」
「そうして行こうね」
「そうしようね」
ジョージは皆に応えてでした、四人を連れる形でまずは大学の方にある時計台に向かってそこの青い渦に五人が順番で一人ずつ入ってでした。
オズの国に来ました、するとでした。
出て来たのはエメラルドの都の王宮の中ですぐにオズマに言われました。
「いらっしゃい。実はエリカのお願いでね」
「それで、ですか」
「貴女達を招待したの」
オズマはこうジョージ達にお話しました。
「このオズの国でね」
「それじゃあ今回の冒険は」
「そうよ、私のお供よ」
エリカが五人の足元からジョージに答えました。
「あんた達のことを思い浮かべてね」
「それでなんだ」
「あんた達もって思って呼んだのよ」
「僕達も一緒だよ」
「お供させてもらうよ」
臆病ライオンと腹ペコタイガーも言ってきました。
「だからボディーガードは任せてね」
「護りは万全だよ」
「うん、頼りにさせてもらうよ」
ジョージは二匹の素晴らしい獣達に笑顔で応えました。
「今回もね」
「うん、じゃあね」
「楽しい冒険にしようね」
「さて。冒険のまとめ役は誰がいいかしら」
オズマはこのことも考えました。
「私とドロシーは今は公務で都を離れられないし」
「そうなのよね。ベッツイはカエルマンさんの方に行っていてね」
「トロットは王立大学に行っていて」
「ロバのハンクとキャプテンビルもそれぞれ一緒で」
「二人がいないから」
「誰がいいかしら」
「魔法使いさんも今はクマセンターに出張中だしモジャボロさんもだし」
王宮にいる頼りになる人が今は一緒に冒険に行けないのです。
それでオズマもドロシーもどうしようかと考えました、勿論ジュリアも王宮でのお仕事があって冒険に行けないです。
それで、でした。二人はどうしようかと思ってここはかかしとブリキの樵にお願いしようと思いましたが。
ここでまたです、エリカが言いました。
「一人いるじゃない」
「一人って?」
「誰なの?」
「ほら、アン王女よ」
アン=アンヤコレヤだというのです。
「あの娘に来てもらえばいいのよ」
「それでなの」
「貴女の旅のまとめ役にっていうの」
「そうよ。私が選んであげるわ」
旅のお供にというのです。
「だからいいでしょ」
「また本人の都合聞いてないけれど」
「いいのかな」
「いいのよ。じゃあすぐに本人に言いましょう」
「わかったわ。けれど今回本当にね」
オズマはぼやきつつ形態を出して言いました。
「貴女の我儘とか思い付きが目立つわね」
「それで何か悪いことになってるの?」
「我儘さが気になるわ」
平然としたままのエリカに言うオズマでした、そしてです。
オズマはアンにもメールを送りました、すると快諾してくれたのでオズマはすぐに木挽きの馬に言いました。
「悪いけれどね」
「迎えに行くんだね」
「ええ。貴方に乗ればね」
それでというのです。
「ここまで風に乗ったみたいに来られるから」
「わかったよ。じゃあ今からね」
「アン王女の国に行ってきて」
「そうするね」
こうして木挽きの馬が行きました、これで後はアン王女が来てくれるだけとなりましたがドロシ―の足元にいるトトがふと言いました。
「そういえばつぎはぎ娘とガラスの猫は何処かな」
「あの娘達はハイランドとローランドに行ったわ」
「あの二国になの」
「そうなの。エメラルドの都の使者でね」
「それで今はいないんだね」
「それでね、私達も今は王宮を離れられないの」
沢山の人が外に出ているからです。
「それで今回の冒険もね」
「誰にまとめ役になってもらおうって困ってたんだね」
「そうなの」
まさにそれが為にというのです。
「それでだったのよ」
「成程、そうだったんだね」
「ええ。ただアン王女が行ってくれるなら」
「それでだね」
「安心出来るわ」
「そうだね。あの人もかなり冒険慣れしてきたからね」
「冒険に必要なものは全部持ってるし」
食べものも飲みものも何でも出してくれるテーブル掛けにしてもそうです、アン王女も今はそうしたものを持っています。
「だからね」
「あの人が一緒なら」
「エリカも大丈夫よ」
「何か私一人だと余程心配なのね」
「だって猫一匹よ」
それでと言うドロシーでした。
「それならよ」
「私だけだとなの」
「ええ。しかも貴女しょっちゅう何かやらかすし」
このことがあって余計にというのです。
「心配だからよ」
「これだけ大勢一緒なの」
「そうよ。アン王女に臆病ライオンと腹ペコタイガーがいて」
まとめ役と頼りになる二匹の獣達にです。
「ジョージ達も一緒ならね」
「それでっていうのね」
「心配はいらないわ」
「やれやれね。私はそんなに心配なのね」
「貴女だけじゃ放っておけないわ」
とてもというのです。
「だから言うのよ」
「本当に難儀な話ね」
「難儀も何もね」
それこそというのです。
「貴女はよ」
「困った娘だっていうの」
「そうよ。もっと大人しくて静かだったら」
そうした猫ならというのです。
「私も心配しないのに」
「私も同じよ」
オズマも言ってきました。
「貴女位よくも悪くも猫らしい猫はいないから」
「心配だっていうのね」
「貴女だけで冒険に行かせられないわ」
そうだというのです。
「だから今回のメンバーを集めたのよ」
「全く。どうしたものかしら」
「どうしたものかしらじゃなくて少しは大人しくすることよ」
このことがエリカにとって必要だというのです。
「貴女はね」
「何度も言うけれど心配無用よ」
「とてもそうは思えないわ」
何度でも言うと言わんばかりのオズマでした、そうしたお話をしているうちに木挽きの馬が王宮に戻ってきました。その背中にはアン王女がいます。
そしてそのアンが馬から降りてオズマに敬礼してから言いました。
「今回は誘ってくれて有り難う」
「ええ。じゃあ悪いけれどね」
「カドリングに行くのね」
「グリンダのところにね」
「この娘の建国の承認ね」
アンはここでエリカを見ました、それでこの娘も言うのでした。
「この娘が女王になるのね」
「猫の国のね」
「大丈夫かしら」
「あら、貴女もそう言うのね」
「言うわよ。だって貴女はね」
それこそというのです。
「悪戯好きで気まぐれで我儘で飽きっぽいから」
「だからっていうのね」
「本当に大丈夫かしらってね」
その様にというのです。
「思うわ」
「杞憂ね。皆に言うけれど」
「杞憂じゃないわね」
アンはそこはきっぱりと否定しました。
「私も貴女の性格はよく知ってるから」
「それでそう言うの」
「そうよ」
その通りだというのです。
「建国はいいとして国家元首はね」
「別の猫がいいっていうのね」
「そう思うわ。他の誰かにね」
「私が建国するから私が女王になるのは当然でしょ」
「やれやれね。まあとりあえず今からね」
アンはエリカのあくまでそう言うことにやれやれと思ってそれでまずは冒険の旅に出発することにしました。
「グリンダさんのお城に向かいましょう」
「待って、もう夕方だから」
ここでオズマが止めました。
「だからね」
「それでっていうの」
「ええ。出発はね」
それはというのです。
「明日にした方がいいわ」
「そうね。今出発してもね」
アンも周りを見ました、見ればもうお日様の光はすっかり赤く弱いものになっていました。影も随分と長いものになっています。
「都を出てすぐに休憩になるわね」
「エメラルドの都からカドリングに入らないうちにね」
「だったらね」
「別に急がないから」
そうした用件でもないからというのです。
「だからね」
「ええ、それじゃあね」
「出発は明日ね」
「今日は王宮でゆっくりしてね」
「お風呂に入って夕食を楽しんで」
「そうしてね」
オズマはアンににこりと笑って言いました。
「是非ね」
「わかったわ。それじゃあね」
「ええ、貴方達もね」
オズマはジョージ達五人にも声をかけました。
「休んでね」
「はい、それじゃあですね」
「今日はこれからお風呂に入ってですね」
「御飯も食べて」
「そうしてゆっくりして」
「ぐっすりと寝ればいいんですね」
「そうよ。そして明日にね」
ぐっすりと寝た後でというのです。
「アン達と一緒に出発してね」
「そうさせてもらいます」
五人はオズマににこりと笑って答えました、そうしてでした。
このことも決めてでした、この日は皆で一緒に王宮で楽しみました。お風呂に入って美味しいご馳走も堪能してです。
そうしていました、ですがここでエリカが五人に言いました。
「明日からカドリングに行くけれど」
「うん、カドリングに行くのは」
「最近暫くなかったわね」
「そうよね」
「だから楽しみだよ」
「あの国に行くことが」
「私が思いつかなかったらよ」
五人を連れて行こうと、というのです。
「あんた達はカドリングに行けなかったわ」
「そうだね、それに君との冒険もね」
ジョージが誇らしげに言うエリカに突っ込みを入れました。
「暫くなかったね」
「そういえばそうね」
エリカも言われて気付きました。
「私あんた達と冒険に出るの久し振りね」
「そうだよね」
「あるにはあったけれど」
「久し振りなのは確かだね」
「そうよね。そう思うとよく思い付いたものだわ」
エリカは自分に感心する様にして言いました。
「猫の国を建国しようって」
「そう思わないとだね」
「今回の冒険のこともなかったし」
「僕達と一緒に行くことも」
「なかったわ。いや思い付かないとね」
「本当にそうだね。これは神様のお導きだね」
「いえ、あたしが思い付いたからよ」
だからと言うエリカでした。
「それでなのよ」
「僕達がカドリングに一緒に行くことになったっていうんだ」
「そうよ」
「ううん、何かその考えはね」
「駄目だっていうの?」
「ちょっと身勝手じゃないかな」
「そうよね」
恵梨香もこう言います。
「前から思っていたけれどね」
「エリカは我儘なのよね」
ナターシャはエリカを困ったお顔で見ています。
「どうにも」
「そうだよね、猫はそうした生きものにしても」
神宝もエリカにどうかと言います。
「エリカはちょっと際立っているよ」
「ここまで我儘で自分本位なのは」
最後にカルロスも言います。
「猫でもそうはいないよ」
「それで悪戯好きで気まぐれで飽きっぽいから」
ジョージはエリカのそうしたところも指摘します。
「エリカは困るんだよね」
「そこを何とかしないと」
「ちょっと大変よ」
「前から騒動も起こしてきたね」
「だったら気をつけないと」
「気をつけるって言われても元々の性格よ」
それでと言うエリカでした。
「だったらね」
「そうした性格もなんだ」
「直せないっていうの?」
「というか直す気がないの?」
「もうそのままの性格でいいとか」
「そう言うの?」
「そうよ。私はもうこれでいいわよ」
今の性格で、というのです。
「とても猫らしいんだから」
「いや、猫らしいといってもだよ」
それでもと返すジョージでした。
「エリカは極端だから」
「猫としての性質がなの」
「強過ぎるんだよ」
このことが問題だというのです。
「どうにもね」
「それが困るっていうのね」
「そうだよ。僕達はそんなに迷惑していないけれど」
「他の人達がなの」
「エリカ最初にオズの国に来た時も騒動起こしたよね」
「魔法使いさんの子豚達ね」
魔法使いさんが可愛がっていて手品にも協力してくれている子豚達です、魔法使いにとっては可愛い友人達でもあります。
「あの子達ね」
「一匹食べたとか食べなかったとか」
「確かに食べたかったけれど食べなかったわよ」
「今でもだよね」
「ええ。けれど疑われたわね」
「あれはエリカが悪いよ」
疑われたことはというのです。
「そもそもね」
「疑われる様な行動をしたからかしら」
「そうだよ」
その通りだというのです。
「だから疑われたんだよ」
「それが問題なのね」
「あの時もそうだったしね」
「そういえば他にもあったわね」
「色々とね」
引き起こした騒動はというのです。
「だからもっと大人しくしないと」
「猫らしくなくなれっていうの?」
「そうは言わないけれど」
それでもというのです。
「自重っていうのかな」
「自分を抑えろ」
「あらゆる意味での猫らしさをね」
「抑えろっていうのね」
「うん、そうしないとね」
それこそというのです。
「女王になってもね」
「その国に騒動を起こすの」
「そうなるよ。エリカはね」
ジョージは自分の目の前に座っているエリカにさらに言いました、テーブルの上にちょこんとした感じで。
「ガラスの猫よりずっとそうだからね」
「だって生身だからね」
「生身の猫だからだね」
「余計にそうなのよ」
「まあ僕から見れば同じ猫かな」
そこはこう返したジョージでした。
「エリカもガラスの猫もね」
「あら、そうなの」
「うん、猫は猫だよ」
「あっちはガラスの身体を随分誇りにしてるけれどね」
「エリカも生身の身体を誇りにしてるよね」
「その通りよ。とても奇麗でしょ」
自分の身体を舐めて奇麗にしつつ言うエリカでした。
「自慢にするのも当然だって思うでしょ」
「そこも猫らしいね」
「このこともなの」
「うん、その凄く猫らしいところをね」
どうにもと言うのでした。
「抑えていくべきだと思うよ」
「私はそうは思わないけれどね」
結局こう返すエリカでした、誰に何を言われても自分は自分ということは本当に猫らしいと言うべきでしょうか。