『オズのガラスの猫』
第八幕 ドラゴンの虫歯
オズマ達は香辛料を手に入れる為に煉瓦の道をさらに進んでいきます、その中でオズマは一行に笑顔で言いました。
「そろそろよ」
「お百姓さんのお家にですね」
「そう、着くわ」
ナターシャにも笑顔で答えました。
「そうなるわ」
「そうですか、いよいよですね」
「それで香辛料を手に入れてね」
「それからですね」
「猫の国に行くのよ」
そうするというのです。
「そしてその香辛料を出したお料理を出して」
「犬の国の人達と一緒に食べてもらって」
「仲良くなるのよ、犬だってね」
「はい、お魚を食べないことはないですから」
「だからね」
それでというのです。
「食べてもらうわ、きっとね」
「最高のお魚と最高の香辛料を使ったお料理なら」
「食べるわ」
そうだとです、オズマは確信を以て答えました。
「必ずね」
「そうですね、まず最高のお魚は」
「見付けたからね」
「河豚、ですね」
「色々美味しいお魚はあるけれど」
それでもというのです。
「今回はね」
「河豚ですね」
「あのお魚に決まったから」
「だからですね」
「河豚を出しましょう、そしてね」
「河豚に合う調味料ですね」
「それを選ぶことになるわ、ただね」
ここで微妙なお顔になって言うオズマでした。
「お料理によってね」
「河豚に合う香辛料はですね」
「変わるわね」
こう言うのでした。
「河豚は美味しくて癖がないから」
「癖がないからですね」
「そのお料理によってね」
「どんな香辛料にも会いますね」
「そうなのよね」
「昨日食べたアクアパッツァですと」
カルロスが言ってきました。
「大蒜にも合いましたし」
「お刺身だったら山葵が合いますね」
神宝は和食のお話をしました。
「そうですし」
「生姜醤油だと唐揚げにいけますよ」
ジョージはこちらのお料理をお話に出しました。
「こちらも」
「あと天婦羅ですと天つゆに紅葉おろしですね」
恵梨香はこの揚げものにはこれと言いました。
「何か河豚はお料理によって」
「色々合う調味料が変わりますね」
「お鍋ですと」
ナターシャは河豚鍋、つまりてっちりのお話をしました。
「あれですね、ぽん酢にそれこそ」
「何でも入れられるわね」
「はい、紅葉おろしも生姜も」
「おろし生姜ね」
「それとゆずも」
「ああ、ゆずもあるわね」
「日本はこちらも使います」
香辛料の様にです。
「ですから」
「そうよね、河豚はあっさりしているからムニエルもいいでしょうけれど」
「ムニエルの時は」
「胡椒も使えるわね、あとカルパッチョの時も」
「そうですよね」
「マスタードだってお料理次第で合うでしょうし」
「そう考えますと」
ナターシャは河豚に合う調味料について思うのでした。
「もうそれこそ」
「色々あるわね」
「お料理によって」
「どうも河豚はね」
「色々な香辛料が使えるお魚ですね」
「ええ、ただ調味料はね」
そちらはといいますと。
「もうあっさりとね」
「お醤油かですね」
「それね」
「もうあれですね」
「お醤油が第一ね」
何といってもと言うオズマでした。
「アクアパッツァやカルパッチョだと違うけれど」
「和食系の場合は」
「お醤油よ、それでアクアパッツァとかだとね」
「オリーブオイルですね」
「あれよ、もうあっさりとね」
「お醤油かオリーブオイルで、ですね」
「味付けして食べるべきよ」
そうなるというのです。
「あっさりした味のお魚だから」
「余計にですね」
「そうなるわ、しかし河豚をどうして食べるかなんて」
それこそとです、ここでオズマは思わずくすりと笑って言いました。
「考えることになるなんてね」
「思いも寄らなかったわよね」
「ええ、私がオズの国の主になった時は」
それこそとです、オズマはガラスの猫にも応えました。
「思いもしなかったわ」
「河豚ってお魚を知ってもいなかったわね」
「全くよ」
もうその時点でというのです。
「そんなお魚がいること自体がね」
「想像の範疇外だったわね」
「本当にね」
実際にというのです。
「けれどそれがね」
「今ではね」
「日系人がオズの国で多くなってね」
「その食文化もアメリカに浸透して」
「オズの国に影響を与えてきているから」
だからだというのです。
「こうしてね」
「あんたも考える様になったのね」
「そうよ、河豚についてもね」
「お寿司も食べる様になったし」
「そうそう、そういえばお寿司も」
このお料理のお話もするオズマでした。
「出せるわね」
「猫の国に行ってね」
「犬の国の人達にもね」
「そうね、あれもね」
「いいお魚の料理よね」
「あたしもそう思うわ」
ガラスの猫はこちらのお料理に太鼓判を出しました。
「あれも河豚使えるわよね」
「ええ、そうよ」
「だったらね」
「お寿司もよね」
「出せばいいわ、それにお寿司ならね」
こうも言うガラスの猫でした。
「他のネタのも出せばいいのよ」
「鮪とか鮭も」
「全部ね、というか猫の国の人達どんなお魚料理出したのか」
「それがなのね」
「かえって知りたいわ。癖のあるお魚を出したんじゃないの?」
それこそというのです。
「犬の国の人達には合わないみたいな」
「そうかもね、実際に」
「だったらね」
「もうそれでなのね」
「失敗だったのよ、犬の国の人達がお魚料理に馴染みがないなら」
「食べやすいものをよね」
「出さないとね」
こうオズマに言うのでした。
「そもそもね」
「そうそう、だからよね」
つぎはぎ娘も言ってきました。
「河豚にしたのよね」
「ええ、美味しくて食べやすい」
「そうしたお魚がいいと思ってね」
「河豚にしたけれど」
「いきなり何を出したのかしらね、猫の国の人達」
「そのことはまだ私も知らないけれど」
「鏡で見なかったの?」
「そこまではなの」
「成程ね、まあどうせね」
こう言ったつぎはぎ娘でした。
「とんでもなく癖の強いお魚出したのよ」
「そうしたお料理を」
「きっとそうよ」
「物凄い匂いがきついとか」
ガラスの猫がこう言ってきました。
「そんなのかしらね」
「匂いね」
「そう、どんなのか知らないけれど」
「ひょっとして」
ここでナターシャが言うことはといいますと。
「あれを出したのかしら」
「あれっていうと?」
「シュールストレミングかしら」
「何、それ」
「スウェーデンの缶詰なの、お魚の」
ナターシャはガラスの猫にお話しました。
「中で発酵させたね」
「そんなのがあるの」
「これが物凄く臭いっていうのよ」
「臭いの」
「もうとんでもなくね」
「ひょっとしてそれかな」
ジョージも言いました。
「アメリカにはスウェーデン系の人もいるし」
「だったらスウェーデンの食べものもあるわね」
恵梨香も言います。
「スウェーデン系の人がいるなら」
「あの缶詰のことは僕も聞いてるけれど」
流石は五人の知恵袋の神宝です。
「凄いっていうね」
「それを出してかな」
カルロスも言いました。
「犬の人達怒っちゃったのかな」
「そうみたいね」
ここでオズマは王宮にいるドロシーに連絡をして事情を確認してもらってから返事をしてもらいました、すると実際にでした。
「何でもスウェーデン系の猫の国の人もいて」
「それでなんですか」
「ええ、その缶詰を出してね」
シュールストレミング、それをというのです。
「犬の国の人達びっくりしてね」
「その結果」
「仲が悪くなったそうよ」
「そうでしたか」
「私もあの缶詰のことは聞いたことがあるけれど」
「私も聞いただけですが」
「物凄いものらしいわね」
こうナターシャに言うのでした。
「本当に爆発物みたいな」
「匂いも凄くて」
「そうよね」
「あんなのを出したら」
それこそというのです。
「大騒ぎにもなります」
「そうよね」
「むしろならない方がおかしいです」
それこそというのです。
「本当に」
「理由はわかったわ、猫の国の人達もね」
「いきなりそんなのを出したら」
「騒動になるのも当然だわ」
「そうですよね」
「謎は解けたわね」
つぎはぎ娘が踊りながら言ってきました。
「じゃああたし達がね」
「ええ、河豚と香辛料を使ったね」
「美味しいお料理を出せば」
「きっと上手くいくわ」
オズマはつぎはぎ娘に確信を以て答えました。
「何があってもね」
「そうよね」
「ええ、河豚は癖がないし」
「どんなお料理でも美味しくて」
「色々な香辛料にも合ってね」
「その香辛料が最高ならね」
「きっと犬の国の人達もね」
必ずというのです。
「食べて喜んでくれるわ」
「絶対に」
「そりゃいきなりそんなもの出されたら」
シュールストレミングをというのです。
「誰だってびっくりするわ」
「そうなるのね」
「本当にね」
「あとです、鮒寿司も匂いがきついです」
日本人の恵梨香はこのお料理をお話に出しました。
「滋賀県の方にある」
「お寿司なのね」
「はい、馴れ寿司っていう時間をかけて作るお寿司で」
「時間をかける、発酵させるのね」
「そうするんです」
「というと納豆みたいなものかしら」
「近いかも知れないです、これも凄い匂いがします」
こうオズマにお話するのでした。
「オズの国にはないかも知れないですが」
「ちょっと聞かないわね」
「お寿司ーーと言えばーーです」
チクタクも言います。
「あの握り寿司ーーか巻き寿司ーーか」
「そうしたのよね」
「はい−−ちらし寿司ーーもありますーーが」
チクタクはオズマとオズの国にあるお寿司のお話をしました。
「鮒寿司ーーは」
「馴れ寿司というのもね」
「ないーーです」
「キビアみたいなものかしら」
こうも考えたオズマでした。
「イヌイットの人達のね」
「そうかもーー知れないーーですーーね」
「そうよね、まあ船寿司のことはわからないから置いておくけれど」
「お祖父ちゃんが好きなんですが私は匂いがきつくて」
それでと言う恵梨香でした。
「食べていないです」
「そうなのね」
「はい、どうも」
「そうしたお料理があるのはわかったわ、けれど本当にね」
「シュールストレミングはないわね」
ガラスの猫も言いました。
「全く、猫の国の人達も変なことしたわ」
「失敗よね」
「あの人達が好きかも知れないけれど」
「いきなり出すことはね」
「あそこまで癖の強いものはね」
流石にというのです。
「失敗よ」
「本当にそうね」
「全く、普通にムニエルとかお刺身ならよかったのに」
心から思うガラスの猫でした。
「食べないあたしでもわかるわ」
「むしろ貴女は食べないからかしら」
「突き放して冷静に考えられるっていうのね」
「そうかも知れないわね」
「ええ、あたし食べることに思い入れはないの」
食べる必要がないからです」
「それも一切ね」
「そうよね」
「だからこそなのね」
「冷静に考えられてね」
「意見を言えるのね」
「そうかも知れないわね」
こう言うのでした。
「本当に」
「それならそれでいいわ」
実際に極めて冷静に言うガラスの猫でした。
「皆の役に立つことを言えるならね」
「それならよね」
「あたしもそれでいいわ」
「ええ、じゃあこれからもね」
「食べない立場からね」
「意見を言ってね」
「そうさせてもらうわ」
オズマにいつもの態度で言いました。
「これからもね」
「是非ね、それとね」
「それと?」
「いえ、ここから先のことは知ってるわね」
「ええ、あのドラゴンがいるわね」
「今は大丈夫かしらね」
「どうかしらね」
オズマの今の問いには首を傾げさせて返すガラスの猫でした。
「治っていたらいいけれどね」
「本当にね」
「ドラゴンっていいますと」
ナターシャは二人のお話を聞いて聞きました。
「一体」
「ええ、この先にドラゴンが住んでいる洞窟があって」
「それで、ですか」
「虫歯なのよ」
「そうなんですか」
「甘いものが好きでね」
「ひょっとして」
ドラゴンのそのことを聞いてです、ナターシャは言いました。
「泉で、ですね」
「そうなの、あそこでいつもジュースを飲んでお菓子や果物を食べていたら」
「それで、ですか」
「虫歯になってね」
「それで虫歯が痛んで」
「困っていたの」
そうだったというのです。
「そのドラゴンはね」
「そうだったんですね」
「それがどうなったかね」
「そのことをお話していたの」
ガラスの猫もナターシャにお話しました。
「あたし達はね」
「そうだったのね」
「前に冒険に行った時に会って」
「虫歯の相談を受けたの」
「それでお医者さんに行くってお話をしていたけれど」
歯医者さんにというのです。
「それがどうなったか」
「歯医者さんに行ってたらいいわね」
「ええ、あたしはならないけれどね」
「虫歯はね」
「辛いっていうわね」
「そうみたいよ、私も虫歯になったことはないけれど」
ナターシャはガラスの猫に落ち着いた口調でお話しました。
「乳歯も永久歯もね」
「ああ、あんた達そういえば」
「そう、歯がね」
自分のお口を指差してお話するナターシャでした。
「生え替わる頃でもうね」
「全部なのね」
「生え替わったわ」
そうなったというのです。
「無事にね」
「僕もだよ」
「僕も全部生え替わったよ」
「僕もそうなったから」
「私も」
四人共でした、歯が生え替わったというのです。
「皆ね」
「そうなったみたいだね」
「歯が揺れて困るんだよね」
「歯が生え替わる時は」
「成程ね、そんな風なの」
ガラスの猫は五人のお話に考えるお顔になりました。
「歯が生え替わるって」
「そうなのよ、まず生え替わる歯が揺れてきて」
ナターシャはそのガラスの猫に詳しいお話しました、その歯が生え替わる時を。
「そしてその歯が抜けてね」
「次の歯が生えるのね」
「永久歯がね」
「そうなるの」
「人間は子供の時に生え替わるの」
「それであんた達は皆なのね」
「生え替わったの、そうしてね」
そのうえでというのです。
「私達は皆なの」
「生え替わってそうして」
「ぐらぐらすることもなくなったわ、歯が」
「よかったわね、それは」
「ええ、それでそのドラゴンさんは」
「虫歯になってね」
「苦しんでいたのね」
ナターシャもこのことがわかりました。
「そうだったのね」
「痛かったらしいわ」
「というか甘いものを食べたら」
それならと言う神宝でした。
「ちゃんと磨かないとね」
「そうそう、普通の食べものの時も磨かないといけないのに」
カルロスもこう言います。
「よくそう言われない?言われるとね」
「毎日寝る前は絶対に歯磨きをするってね」
ジョージも歯磨きのお話をします。
「言われるよね」
「しっかりした人は三食後絶対に磨くのよね」
恵梨香はそうした人のことを思うのでした。
「そうよね」
「そのドラゴンさんは歯磨きをしてなかったのね」
ナターシャはこう予想しました。
「そうだったのね」
「そうでしょうね、まあ歯磨きもね」
また言うガラスの猫でした。
「あたしにとってはね」
「縁のないものね」
「そうよ、だって食べないしね」
「飲まないし」
「歯と舌はお喋り専用よ」
「そうそう、歯がないとお喋りもね」
「しにくいみたいだしね」
こうナターシャに返すのでした。
「これがどうも」
「そうよね」
「ええ、じゃあこれからね」
「そのドラゴンさんとなのね」
「会うことになるでしょうね」
「ドラゴンといっても別に怖くないからね」
つぎはぎ娘が言ってきました。
「安心してね」
「オズの国のドラゴンだから」
「そう、大きな身体をしているけれど」
「優しいのね」
「穏やかな性格だからね」
「紳士ーーです」
チクタクもそのドラゴンのことをお話します。
「あの方ーーは」
「紳士なのね」
「そうーーです」
「ジェントルマンのドラゴンよ」
また言うつぎはぎ娘でした。
「だから安心してね」
「それじゃあ」
つぎはぎ娘達に言われるまでもなくです、五人はオズの国のドラゴンならと特に心配していませんでした。そうしてです。
先を進んでいくと、でした。煉瓦の道の横で巨大なテーブルと椅子を出してそこに着席してフォークとナイフを使って食べている黄色い鱗の大きなドラゴンがいました、ガラスの猫はそのドラゴンを見てです。すぐに声をかけました。
「お久しぶり」
「おや、ガラスの猫殿ではありませんか」
「ええ、そうよ」
「お久しぶりです、そしてオズマ姫も他の方々も」
ドラゴンは一行を見回しました。
「お久しぶりです、そして初対面の方々ははじめまして」
「初対面っていうと」
「左様、貴殿達です」
ドラゴンはナターシャにも丁寧に応えました。
「オズの国の名誉市民の方々ですね」
「そうですけれど」
「お話は聞いております、私はイエロードラゴンのトミーといいます」
「トミーさんですか」
「左様です」
こう名乗るのでした。
「以後お見知り置きを」
「こちらこそはじめまして」
ナターシャも他の子達も挨拶をしました、そしてです。
五人はトミーに挨拶をしました、その挨拶が終わってからです。
オズマはステーキを食べているトミーに尋ねました。
「今はお食事中ね」
「はい、こうしてです」
「ステーキを食べているわね」
「巨大牛のステーキです」
それだというのです。
「それを楽しんでいます」
「そうよね」
「はい、そしてです」
さらにお話をするトミーでした。
「サラダとスープ、パスタとお魚料理もです」
「もうなのね」
「楽しんでおりました、全てシーフードでした」
「海の幸を食べていたの」
「そうしていました、そして」
「鯨のステーキもなのね」
「楽しんでいました」
そうだったというのです。
「シーフードサラダに伊勢海老のスープ、イカ墨のスパゲティに鮭のムニエル」
「そして鯨のステーキなのね」
「そうでした、ですがデザートはケーキでして」
「ケーキなのね」
「苺と生クリームのケーキです」
トミーはオズマににこりと笑ってお話します。
「どれも食べることが楽しみです、全てドラゴンのサイズですし」
「ドラゴン用の食事ね」
「その量です」
見ればステーキは鯨のかなり大きなものですがその横のジャガイモとかはもう一個一個がかなり巨大です。
「あのものを大きくするライトに当てて」
「ああ、魔法使いさんが発明したね」
「あの魔法のライトにお料理を当てて」
「そうして食べているのね」
「左様です」
「そうしてるのね」
「あのライトはいいですね」
トミーはオズマににこにことして言うのでした。
「人間の料理も楽しめます」
「そうよね、貴方達ドラゴンはどうしてもね」
「身体が大きいので」
トミーの大きさは二十メートルはあります、相当な大きさです。
「ですから」
「それでよね」
「普通のものは中々食べられないですが」
それがというのです。
「あのライトを使えば」
「人間のものもね」
「食べられます」
そうだというのです。
「それも美味しく」
「そうね、じゃあね」
「はい、ケーキも楽しくです」
まさにというのです。
「食べます」
「それはそうとして」
ここでガラスの猫はトミーに尋ねました。
「あんた虫歯はどうなったのかしら」
「はい、あの後歯医者さんの治療を受けまして」
「治ったのね」
「はい、そしてです」
「今は何ともないのね」
「それでもう二度と虫歯になりたくないので」
こう思ってというのです。
「毎日歯を磨いています」
「そうしてるのね」
「以前は磨いていませんでしたが」
「それで甘いものを飲んで食べてで」
「虫歯になりましたが」
それがというのです。
「痛くて苦しんで困ったので」
「もう二度と虫歯になりたくないのでよね」
「はい、今は食事の後はです」
「絶対になのね」
「歯を磨いています」
毎食後というのです。
「そうしています」
「それは何よりね」
「それで今はもう」
「虫歯にならずに」
「食事、甘いものもです」
「楽しんでいるのね」
「虫歯の心配もなく」
トミーはガラスの猫ににこにことしてお話をします。
「そうしています」
「それは何よりね」
「もう虫歯の心配はありません」
まさにというのです、そしてです。
トミーはガラスの猫にこうも言いました。
「虫歯程もう二度とならないと誓えるものはないですね」
「そんなに痛くて困るの」
「寝ている時も痛んで」
そうなってというのです。
「物凄くです」
「辛いのね」
「はい、ですから」
それでというのです。
「二度と思います」
「そこはあたしにはわからないことね」
「あたしもね」
「私もーーです」
ガラスの猫だけでなくつぎはぎ娘とチクタクもでした。
「食べないーーですーーから」
「そうした歯でもないしね」
「縁がないことね」
「そうですね、しかし私も他のオズの国の方々も」
オズの国でも大抵の人はというのです。
「大抵は」
「食べるからね」
「歯磨きが必要です、食事を楽しめるなら」
「歯磨きはなのね」
「必要です、そのことを認識しました」
虫歯になってというのです。
「そうなりました」
「そうなのね」
「はい、まことに」
「ううん、何か食べることにまつわることはね」
ガラスの猫は首を傾げさせて言いました。
「あたしはわからないわね」
「そこは人それぞれですね」
「そうよね、ただね」
「そうしたことはですね」
「別にね」
これといってというのです。
「あたしは何とも思わないわ」
「羨ましいとはですね」
「あたしは誰も何も羨まないの」
トミーにもこう言うのでした。
「だってあたしのこのガラスの身体は最高だから」
「それで、ですね」
「このことにいつも満足しているから」
それもこれ以上はないまでにです。
「だからね」
「誰かを、何かを羨むことはですね」
「羨むって言葉は知ってるわ」
このこと自体はというのです。
「それでもね」
「羨むという感覚は」
「さて、どんなものかしらね」
首を傾げさせて言うのでした。
「あたしは感じたことはないわ」
「それはあたしもだけれどね」
くるくると踊りながら言うつぎはぎ娘でした。
「羨むってどんな感情かしらね」
「嫉妬とかいうけれどね」
「それがどういった感情かはね」
「想像もつかないわ」
あくまで言葉だけのことだというのです。
「あたしにとっては」
「そうよね」
「別にね」
これといってというのです。
「思わないわ」
「そうよね」
「どうもね」
「それは非常にいいことです」
二人にこう言ったトミーでした。
「誰かを羨んだり妬むことは」
「よくないのね」
「そこから性格が歪むので」
だからだというのです。
「よくありません、ただ」
「ただ?」
「他の人やものをいいと思いそうなろうと努力することは」
こうしたことはというのです。
「いいことです」
「そうなのね」
「はい、そのよさを認めて近付くことは」
「いいことなのね」
「そうしたことは」
「あたしは誰かや何かをいいと認めることはするわ」
「あたしもよ」
ガラスの猫もつぎはぎ娘もでした。
「あんたの奇麗な黄色のお肌もね」
「その恰好いい身体もね」
「ちゃんと認められるわ」
「しっかりとね」
「それはいいことですね」
トミーは二人の返事ににこりと笑って返しました。
「お二方のいいところです」
「そうよね、じゃあね」
「あたし達はこのままでいくわね」
「是非共」
「まああたしはいいものを認めてもそうなろうとは思わないわ」
ガラスの猫はそれはないというのでした。
「だってあたしは常に誰よりも何よりも最高なのよ」
「だからですか」
「これ以上いいものはないから」
自分自身がというのです。
「だからね」
「よくなろうとはですか」
「思わないわ、今の最高の維持をすることはあっても」
「維持ですか」
「そうよ、この最高の状態を常に維持しようと思っているわ」
現にそのガラスの身体をぺろぺろと舐めて奇麗にしています。
「それでもね」
「そうしたことはですね」
「ないわ」
「あたしもよ、あたしも最高だから」
つぎはぎ娘もこう言うのでした。
「だからね」
「他の誰かや何かみたいになろうとはですね」
「全く思わないわ、羨むことも妬むこともないけれど」
「なろうともですね」
「思わないわ、あたしも最高だから」
ガラスの猫と同じ様にです。
「思わないわ」
「左様ですか」
「全くね」
それこそというのです。
「ガラスの猫と同じくね」
「それが貴女達ということですね」
「その通りよ、それであんたは今は」
「はい、ここでです」
今度はワインを優雅に飲みつつ言うドラゴンでした、巨大なガラスのグラスの中のワインはウィンキーの黄色い黄金を溶かして透けさせたみたいに奇麗なものです。
「食事を楽しみます」
「そうするのね」
「そして食事の後は」
「歯を磨くのね」
「そうします」
こちらも忘れないというのです。
「しっかりと」
「わかったわ、じゃあね」
「はい、またお会いしましょう」
「そうしましょう」
つぎはぎ娘が挨拶をしてでした、そのうえで。
一行はトミーと別れて旅を再開しました、オズマは晩御飯に海鮮鍋を出してから皆に言いました。
「いよいよ明日はね」
「はい、香辛料ですね」
「あれを貰えるんですね」
「明日着くから」
だからだとです、オズマは五人に答えました。
「楽しみにしておいてね」
「わかりました、あとですが」
「あと?」
「今日のお鍋は凄いですね」
ナターシャはお野菜にお豆腐に糸蒟蒻にです、鮭や鱈、海老や牡蠣や蛸や烏賊が入ったお鍋を食べながらオズマに言いました。
「魚介類が一杯入っていて」
「そうよね、このお鍋はね」
「また特別ですね」
「海鮮鍋の中でもね」
特にというのです。
「豪勢なものを出したの」
「そうでしたか」
「私も食べたくなって」
それでというのです。
「出したの」
「牡蠣も入っていて」
「美味しいでしょ」
「とても」
実際にその牡蠣を食べつつ応えるナターシャでした。
「素敵な味です」
「そうよね、だからね」
「このお鍋をですね」
「思いきり楽しんでね」
食べてそうしてというのです。
「私もそうするし」
「それじゃあ」
「こうしたお鍋もいいわよね」
「そうですね、色々な魚介類が楽しめて」
「鮭や鱈もね」
そうしたものを食べつつ言うオズマでした。
「素敵な味よね」
「幾らでも食べられそうです」
ナターシャは今度は鱈を食べて言いました。
「本当に」
「実際にこのお鍋はね」
「凄く沢山食べられそうだね」
「物凄く美味しいからね」
「色々な味が楽しめて」
ナターシャ以外の四人もこう言います。
「いや、本当に魚介類はいいわ」
「色々なお料理もあるし」
「健康にもいいし」
「素敵だね」
「そうね、ただね」
ここでこうも言ったナターシャでした。
「幾ら美味しくてもやっぱりシュールストレミングを出したのは失敗ね」
「そうね、流石にね」
オズマもそれは、というのでした。
「それはないわ」
「そうですよね」
「全く、奇想天外にしても」
「それが過ぎますね」
「オズの国は奇想天外が常でも」
それでもというのです。
「その質と内容がね」
「過ぎますね」
「ええ、本当に」
それこそというのです。
「私もあの缶詰は食べたことがないけれど」
「噂によりますと」
「爆弾だから」
そこまで強烈なものだからというのです。
「お魚初心者の人達に出したらね」
「喧嘩にもなりますね」
「貴方達でもびっくりするでしょ」
「はい」
ナターシャはオズマに五人を代表して答えました。
「絶対にそうなります」
「そうよね、けれどね」
「私達はですね」
「お魚の、魚介類の本当のよさをね」
「犬の国の人達に知ってもらって」
「猫の国の人達と仲直りしてもらいましょう」
「わかりました」
ナターシャも頷きました。
「その為にも」
「まずは香辛料を手に入れましょう」
「最高の調味料を」
「色々あるけれど」
香辛料と一口に言ってもです。
「それをね」
「貰ってそうして」
「猫の国に行くのよ」
「面白い旅もここで一つの目的地に到達ね」
ガラスの猫は背伸びをしつつ言いました。
「そう思うと面白いわ」
「そうね、目的を一つ達成したらね」
「その分だけ満足感があるでしょ」
「ええ」
その通りだとです、ナターシャはガラスの猫に答えました。
「私にしてもね」
「じゃあね」
「ええ、香辛料を手に入れましょう」
一行はさらに道を進んでいきました、そうしてガラスの猫の言う目的地の一つに意気揚々として向かうのでした。