『オズのジュリア=ジャム』




                第七幕  眠り草の草原

 蜂蜜を楽しんだ一行は意気揚々とさらに東に向かいました、その人魚の国までです。
 その途中にです、ジャックがこんなことを言いました。
「目的の一つが達成出来てよかったね」
「うん、とてもね」
 ジャックの横にいるモジャボロがにこにことして応えました。
「よかったよ」
「そうだよね」
「さて、次はね」
「人魚の国だね」
 かかしと木樵は次に行く場所に思いを馳せています、黄色い煉瓦の道を歩きつつ左右の青い草原を見回しながら。
「あの国に行って真珠を見せてもらって」
「また楽しもうね」
「そうね、何か蜂蜜までも色々あったけれど」
 ジュリアは今回の冒険でこれまで起こったことを振り返って言いました。
「次は人魚の国ね」
「オズの国の人魚さん達ですが」
 ジョージがふとこんなことを言いました。
「食べるのはお魚や海藻ですよね」
「海にいるとそうなるよね」
 カルロスも言います。
「やっぱり」
「貝や海老もあるし」
 恵梨香はこうしたものもお話に出しました。
「烏賊や蛸、雲丹もね」
「海の幸が中心ね」
 ナターシャは考えるお顔になっています。
「海にいるから必然的に」
「じゃあ海鮮麺とか海老餃子とかそんな感じで」
 神宝は中華料理を思うのでした、自分のお国のそれを。
「豪勢な感じですね」
「お刺身もある?」
「フライや天麩羅も?」
「あとお鍋ね」
「姿焼きもありそうね」
 ジョージ、カルロス、恵梨香、ナターシャの順に言いました。
「お塩を利かして」
「お醤油あるかしら」
「新鮮な魚介類をそうして食べるのかな」
「海藻とかもね」
「そうよ、人魚の人達のお食事はシーフード主体よ」
 ジュリアも五人にその通りだとお話します。
「海藻サラダやお刺身にムニエル、フライやお鍋もあって」
「やっぱりそうですか」
「そうよ、もう海の幸が凄く美味しいの」
 ジュリアは神宝に笑顔でお話しました。
「勿論海鮮麺や海老餃子もあるわ」
「やっぱりそうですよね」
「炒飯もね」
 中華料理の基本中の基本と言われているこのメニューもというのです。
「しっかりとね」
「海鮮炒飯ですね」
「そうよ」
「それは楽しみですね」
「神宝は海の幸も好きよね」
「はい、大好きです」 
 実際にとです、神宝はジュリアに答えました。
「海の幸はどれも」
「そうよね」
「ただ、僕は広東生まれじゃなくて」
 中国の南の方です、香港もこちらにあります。
「天津ですから」
「確か中国の北の方よね」
「はい、そちらです」
「天津は海の幸はそんなになのね」
「海に面していますけれど」
 それでもというのです。
「広東や上海と比べますと」
「違うのね」
「やっぱり広東の方がずっと美味しいです」
「そうなのね」
「中国で海の幸はそちらです」
「広東のものが一番美味しいのね」
「そうなんです、ただオズの国の海の幸は何処も美味しいですから」
 目を輝かせてです、神宝は言いました。
「楽しみですね」
「そうだよね、どんなのかな」
「人魚の国に行って食べたいね」
「早くね」
「そうしたいわ」
 ジョージ達四人も笑顔で言います。
「日本にいると海の幸をよく食べるけれど」
「オズの国のも美味しいからね」
「今すぐにも人魚の国に行ってそしてね」
「早く食べたいわね」 
 こうしたことを笑顔でお話していました、そしてです。
 五人は自然と足を速めましたがジュリアは五人ににこりと笑って声をかけました。
「焦る必要はないわよ」
「焦ってもですか」
「何にもならないですか」
「そうよ、歩いて行くことは変わりがないから」
 だからだというのです。
「今急いでも特に早くはならないわ」
「だから焦らずですか」
「落ち着いて、ですね」
「これまで通り行くんですね」
「人魚の国まで」
「そうするんですね」
「そうよ、ゆっくりと行きましょう」
 にこにことして言うジュリアでした。
「焦ってこけたら何にもならないわ」
「そうですね、それじゃあ」
「これまで通りの速さでいきます」
「焦っても仕方ないですしね、確かに」
「じゃあ歩く速さを戻して」
「普通に歩いていきます」
「そうしましょう、それでね」
 ジュリアは周りを見つつこうも言いました。
「お昼になればね」
「はい、その時はですね」
「御飯ですね」
「海の幸のお話をしたけれど」
 それでもというのです。
「そちらは人魚の国に来た時のお楽しみにして」
「それで、ですね」
「今はですね」
「そう、後に取っておいてね」
 その人魚の国に着いた時のです。
「今はお肉メインでいいかしら」
「それじゃあですね」
 神宝はお肉と聞いてこう言いました。
「豚バラ煮込みとか」
「あのお料理ね」
「あれはいいですよね」
「ええ、美味しいわね」
「豚肉がじっくりと煮られていてお醤油と生姜とかで味付けされていて」
「とろりとしていてね」
「物凄く美味しいんですよね」
 神宝はにこにことして言います。
「そういうのにするんですね」
「あとは鶏肉とかもね」
「家鴨どうですか?」
「家鴨ね」
「はい、家鴨料理も美味しいですから」
「そうね、家鴨もいいわね」
 ジュリアはこちらにも乗り気でした。
「卵にしても」
「ピータンですね」
「ええ、そちらもね」
「じゃあそういうのにしますか」
「そうしましょう」
「それじゃあ」
「しかし、中華料理は多彩だね」 
 ここでモジャボロが言いました。
「本当にね」
「ええ、そうよね」
 ジュリアはモジャボロにも頷いて応えました。
「何かとね」
「海の幸を使ったり豚肉も家鴨もあってね」
「味付けも色々で」
「面白いね」
「他べていて飽きないわ」
「全くだね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「いえ、豚肉のお料理は多いけれど」 
 ここでこんなことを言ったジュリアでした。
「牛肉は少なくないかしら」
「豚肉を使ったお料理と比べるとだね」
「そうじゃないかしら」
「そういえばそうだね」
「うん、確かにね」
 ジョージとカルロスもこのことに気付きました、二人のお話を聞いていて。
「中華料理ってそうだね」
「牛肉のお料理は豚肉程多くないね」
「羊や鶏肉とか使っていても」
「海の幸も何でも食材は使うけれど」 
 恵梨香とナターシャは女の子同士でお話します。
「それでもね」
「牛肉は思ったより少ないわね」
「農業で使っていたからね」 
 牛をとです、その中国人の神宝が皆に言いました。
「だからだよ」
「そうだね、食べたらもうそれで終わりだからね」 
 かかしもここで言います。
「折角田畑で頑張ってもらうのにね」
「はい、ですから他の家畜に比べて食べなかったんです」
 神宝はかかしにも答えました。
「牛は」
「オズの国でもそうだしね」
 木樵は遥か遠くに見えてきた牧場を見ていました、そこでは乳牛達がのどかに柵の中で過ごしています。
「田畑で働いてもらったりミルクを出してもらう牛はまず食べないよ」
「本当に食べたらそれで終わりだから」 
 ジャックも言いました。
「そういうことだね」
「馬もそうなのよね」 
 ジュリアはこの生きもののお話も出しました。
「田畑で使うわね」
「馬もあまり食べないです」
 神宝はジュリアにまた答えました。
「中国では」
「やっぱりそうよね」
「本当に豚肉主体です」
「そうよね」
「あと最近は乳製品を他べて牛乳も飲みますけれど」
「昔はなのね」
「殆どの人が口にしませんでした」
 そうしたものもというのです。
「遊牧民の人達だけでした」
「中国の殆どの人達は食べなかったのね」
「そうでした」
 実際にというのです。
「そちらもでした」
「そうなのね」
「本当にです」
 実にとです、また言った神宝でした。
「中国でも全然じゃないですけれど食べられないものもありますよ」
「そういうことね」
「確かに色々なものを食べますけれどね」
 このことは事実にしてもというのです。
「あまり食べないものもありますので」
「乳製品もそうなのね」
「そうでした、最近までは」
「牛乳も」
「そうです」
「美味しいのに」
「食べる習慣もなかったんです」
 牛乳や乳製品をというのです。
「長い間、ただ今は飲んで食べます」
「その牛乳や乳製品もなのね」
「今はそうなりました」
「食生活が変わったのね」
 中国でもというのです。
「そうなのね」
「はい、本当に」
「オズの国もそうで中国も同じね」
 ジュリアはしみじみとして言いました、そうしたお話をしつつ道を進んでいきます。そしてお昼御飯に豚バラ煮込みや北京ダッグを食べてでした。
 午後にまた出発しようとしたところでジュリアは地図を見ながら皆に言いました。
「皆これから困った場所に行くわよ」
「困った場所?」
「といいますと」
「ええ、眠り草が生えている場所があってね」
 それでというのです。
「その草を摘み取らないといけないの」
「あれっ、煉瓦のところにはないんですか?」
「この道の近くには」
「ないけれどその草のせいで近くの人達が傍を通って寝てしまうから」
 だからというのです。
「私達で摘み取ってね」
「皆が困らない様にする」
「そうするんですね」
「そうよ、皆が困らない様にすることが政治だから」
 ジュリアは五人にこうしたこともお話しました。
「だからね」
「あえて言ってですね」
「そして摘み取って、ですか」
「皆が困らない様にする」
「そうしておくんですね」
「そうよ、いいわね」
 五人にあらためて言うのでした。
「そうするわよ」
「うん、ただね」
 ここでモジャボロがジュリアに言いました、それも考えるお顔になって。
「それはいいとして」
「それでもよね」
「うん、問題はね」
「眠り草に近付いたらね」
「僕達は寝てしまうから」
「このことが問題ね」
「そう、そのことについてはどうするのかな」
「マスクをして、って考えてるけれど」
 ジュリアは摘み取る時にそれを付けてというのでした。
「どうかしら」
「マスクだね」
「眠り草で眠るのはその匂いとかのせいだから」
「お鼻やお口から吸わない様にしたらいいね」
「そうしたらって思ってるけれど」
「花粉と一緒だね」
 かかしが言ってきました。
「つまりは」
「ええ、そうよ」
「そうしたものを吸い込まない様にしたら」
「もう寝ないで済むわ」
「それじゃあだね」
「ええ、じゃあ皆でマスクをして」
 そうしてというのです。
「摘み取りましょう」
「ゴーグルもした方がいいね」
 かかしはまた言ってきました。
「それもね」
「目もなのね」
「花粉は目からも入るよね」
「ええ、確かに」
「だからね」
「摘み取る時はなのね」
「ゴーグルもしてね」
 そうしてというのです。
「目も守って」
「そうしてなのね」
「摘み取るべきだと思うよ」
「そうね、確かに花粉は目からも入るから」
 ジュリアもかかしのその言葉に頷きました。
「それじゃあ」
「ゴーグルもだね」
「付けましょう」
「僕達は心配無用だよ」
 今度は木樵がジュリアに言いました。
「そうしたことについてはね」
「貴方達は寝ることがないから」
「そうしたものはいらないよ」 
 マスクもゴーグルもというのです。
「一切ね」
「じゃあ私とモジャボロさんと神宝達五人ね」
「そうなるね」
「とにかくね」
「寝たら元も子もないから」
 そうなってしまってはというのです。
「対策はしっかりしないとね」
「そうだよ」
「ただ、三人がいてくれるから」
 ジュリアはそのかかしと木樵、ジャックを見て言いました。
「有り難いわ」
「僕達は絶対に寝ることがないからだね」
「ええ、そうよ」
 その通りとです、ジュリアはジャックににこりと笑って答えました。
「私達はガードが必要だけれどね」
「僕達は違うからね」
「何があっても動けるから」
「だから任せてね」
「頼りにさせてもらうわ」
「是非共ね」
「そういえばオズの国でかかしさん達のそうしたことが凄く大きいですね」
 神宝はジュリアからマスクとゴーグルを受け取りつつ思いました。
「とても」
「そうでしょ、食べなくて寝なくて休まなくていいから」
「はい、何があっても」
「だからその分ね」
「皆を助けてくれてますね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「私達はかかしさん達にどれだけ助けてもらったかわからないわ」
「これまでの多くの出来事で」
「本当にね」
「今回もそうですね」
 ジョージはかかし達をじっと見ています。
「僕達に若し何かあっても」
「そうだね、かかしさん達がいてくれたらって思ったら」
 カルロスも彼等を見ています、本当に頼れるといった目で。
「心強いよね」
「今回もそうなのよね」 
 ナターシャもそうした目でかかし達を見ています。
「いつもだけれど」
「私達もどれだけかかしさん達に助けてもらってるかしら」
 最後に恵梨香が言いました。
「寝なくていい、休まなくていいってことに」
「いやいや、こうした身体の仕組みだから」
「別にそんなに凄くはないよ」
 かかしも木樵も自分達のそうした活躍や身体の仕組みに特に驕ることはありません、このことはジャックも同じです。
「それでやるべきことをしているだけだし」
「褒められることでもないよ」
「別にね」
「何でもないよ」
「そう言われるところがかえって凄いです」
 神宝はそのかかし達に言いました。
「本当に」
「おやおや、そうなのかい?」
「そう言ってくれるんだ」
「はい、そうです」
 こう返すのでした。
「今回のことといい」
「ううん、別にね」
「僕達はそう思わないけれどね」
「僕達が思っているということで、それじゃあ」
「うん、今からね」
「その眠り草のところに行こうね」
 こうしてです、皆で眠り草のところに向かいました。そして草が生えているその場所に向かいながらです。
 ジュリアは五人とモジャボロに笑顔で言いました。
「じゃあそろそろね」
「マスクとゴーグルをだね」
「付けましょう」
 モジャボロに答えました。
「そうしましょう」
「それじゃあね」
「それでお仕事が終わった後は」 
 それからのこともです、ジュリアはお話しました。
「ちゃんと服や髪の毛は払っておきましょう」
「花粉と一緒だね」
「そう、草の粉で眠くなるから」
「だからだね」
「それは払っておきましょう」
 服や髪の毛に付いたそれをというのです。
「そうしましょう、それとね」
「それと?」
「このことは皆よ」
 さらに言うジュリアでした。
「かかしさん達もね」
「ああ、僕達は寝ることがなくてもね」
「それでも草の粉は付くからね」
「あの草のお花の粉がね」
「そう、だからよ」
 ジュリアはかかし達三人にもにこりと笑ってお話しました。
「ちゃんとね」
「わかったよ」 
 ジャックはジュリアに納得した声で答えました。
「それじゃあね」
「そうしてね」
「是非ね、それじゃあ今から」
「うん、行こうね」
「いよいよね」
 眠り草への対策を充分に用意して講じてでした、一行はその眠り草が生えている場所に向かいました。するとです。
 そこには結構な数の人と生きもの達がぐっすりと寝ていました、森の中の少し開けた草原の中に咲き誇っている菫に似た花達を囲む様にして。
 その花達を見てです、神宝はこう言いました。
「奇麗ですよね」
「そうよね」
 ジュリアは神宝のその言葉に頷きました。
「奇麗なことは奇麗なのよ」
「それでもですよね」
「ええ、問題はね」
「花粉で寝てしまうことですね」
「何といってもね」 
 このことだというのです。
「だから私達もここに来たし」
「そうですよね」
「じゃあいいわね」
「はい」 
 確かな顔で、です。神宝も他の四人の子供達もジュリアの言葉に頷きました。
「それじゃあ今から」
「摘み取るわよ」
 ジュリアは自分からでした、眠り草のところに行ってでした。そのうえで率先して草を抜いていきます。ここで、でした。 
 モジャボロはジュリアに続いた皆に対して自分もその中に入っているその中でこう言ったのでした。
「根元から抜かないとね」
「あっ、そうですよね」
「そうしないとまた生えますね」
「同じことになりますね」
「そうだよ、植物は何でもそうだけれど」
 モジャボロはこうお話するのでした。
「根元が残っているとね」
「また生えますね」
「そうなりますよね」
「だからですね」
「ちゃんと根元までですね」
「抜くんだよ、こうしてね」 
 実際にでした、モジャボロは。
 草を抜きました、草は生えている部分の付け根を掴んで抜くとあっさりと抜けました。モジャボロは抜いてから笑顔で言いました。
「うん、楽に抜けるね」
「あっ、そうですね」
「根元まですぐに抜けますね」
「何か思ったより楽ですね」
「簡単に抜けますね」
「草の数は多いですけれど」
「土が柔らかいのよ」
 どうして楽に抜けるのかです、ジュリアは五人にお話しました。
「だからよ」
「それで、ですね」
「草も簡単に抜けるんですね」
「それも根元まで」
「そうなんですね」
「そうよ、確かに草の数は多いわ」
 本当に咲き誇っています。
「けれど一本一本は楽に抜けるから」
「だからですね」
「慎重に抜いていってですね」
「全部抜くんですね」
「そうするんですね」
「そうしていきましょう、それとね」 
 ジュリアは五人にさらにお話しました。
「抜いた草は一つの場所にまとめておきましょう」
「一つの場所にですか」
「まとめておくんですか」
「そうするんですね」
「そうよ、そうしておきましょう」
 こう言うのでした。
「いいわね」
「一つの場所に集めてどうするのかな」
 ジャックがジュリアにその理由を聞きました。
「それで」
「ええ、集めて燃やすの」
「ああ、それで花粉の元をだね」
「絶つの」 
 だからだいうのです。
「そうするつもりなの」
「成程ね」
「こうすれば問題はないわね」
「うん、そうだね」
「じゃあいいわね」
「わかったよ、僕もね」
 見ればジャックも一つ一つ真面目に草を抜いています、十人共熱心に草を抜いていて怠けることはありません。
「集めるね」
「集める場所は少し離れたところで」
 ちょっとそうした場所を見てです、ジュリアは皆にお話しました。
「そこに一つにして」
「そうしてだね」
「全部抜いてからね」
「燃やすんだね」
「そうしましょう」
「じゃあ抜いて」
「ええ、それからよ」 
 こう言ってです、ジュリアは早速抜いた草をその離れた場所に置きました。他の皆もそこに置いていってです。
 するとです、あっという間にでした。抜かれた草達はそこに堆く積まれました。その草達を見ながらです、木樵はこんなことを言いました。
「競争しないかい?」
「競争?」
「競争っていいますと」
「誰が一番沢山抜けるのかをね」
 こう皆に言うのでした。
「競争しないかい?」
「あっ、一本一本ですね」
「抜いていってですね」
「誰が一番沢山抜けるかね」
「競争するんですね」
「そうするんですね」
「そうだよ、勿論根元まで抜いてね」 
 このことは忘れないというのです。
「そうしてだよ」
「一本残らず抜くんですね」
「この草達を」
「そうしたらどうかな、抜いた草のカウントは自分でして」
 そしてというのです。
「誰が一番沢山抜いたか競おうね」
「面白いですね」
「それじゃあそうしましょう」
「今からですね」
「そうして抜いて」
「そしてですね」
「そう、それからね」
 あらためて言う木樵でした。
「一番沢山抜いた人にはご褒美があるということでね」
「そうね、それじゃあそのご褒美はね」
 ジュリアは抜きながら木樵のその提案に笑顔で応えました。
「面白いものがいいわね」
「というと?」
「ええ、一番沢山抜いた人には私がお花の冠を作るから」
 近くに咲いている眠り草以外のお花達を見ての言葉です。
「それを頭に飾るということで」
「いいね、それは」
「ええ、それじゃあね」
「今からだね」
「皆で競争しましょう」
「はじめようね」
 木樵が笑顔で応えてでした、そのうえで。
 皆は草を抜く競争をしました、一本一本確実に抜きながら。そしてあっという間に一本残らず抜きましたが。
 優勝者はです、誰かといいますと。
「やっぱりですね」
「ジュリアさんが一番でしたね」
「だってもう動きが違いましたから」
「凄く速くて」
「手慣れていて」
「ジュリアはいつも王宮で草毟りをしているからね」
 かかしが言いました。
「だから慣れているんだね」
「そのせいかしら」
「うん、君が一番だったのもね」
「そういえば最初からですね」 
 神宝も言いました。
「ジュリアさん凄い勢いで抜いていましたね」
「やっぱり慣れていると違うよ」
 かかしはまた言いました。
「それだけね」
「私は特に急いでいなかったけれど」
「だからいつもしているからだよ」
「草毟りに慣れているっていうのね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「だからね」
「それでなのね」
「君がトップになったんだ」
「そうなのね」
「じゃあ全部抜いたし一つにまとめたし」
「後はね」
「燃やしてだね」
 その眠り草達をです。
「そうしてだね」
「ええ、後はね」
「冠を作るんだね」
「私が私の為に作るのね」
「それは嫌かな」
「ううん、自分の為に作ることは」
「抵抗があるとか?」
 かかしがジュリアに尋ねました。
「やっぱり」
「どうもね」
「そうしたことは別にね」
「気にしなくていいの?」
「そう思うよ」
 かかしはこうジュリアい言いました。
「別にね」
「それじゃあ」
「うん、今からね」
「眠り草を燃やしてね」
「それが完全に終わってから」
「花飾りを作るわ」
 その冠をというのです。
「そうするわね」
「そうしようね」
「そしてね」
 ジャックが言うことはといいますと。
「大事なことはね」
「大事なこと?」
「うん、燃やした後だよ」
「あっ、火を使うから」
「水でちゃんと消しておこうね」
「そうね、ちゃんとそうしておかないとね」
「火事の元だから」
「お水も用意しておこう」
「けれどお水は」 
 神宝達はお水と聞いて周りを見回しました、ですが。
 お池や川といったものはなくて、です。それで言うのでした。
「近くにないですね」
「そうしたものは」
「じゃあどうしますか?」
「お水は必要ですが」
「どうやって用意しますか?」
「それは簡単よ」
 ジュリアは首を傾げさせた五人に笑顔で答えました。
「テーブル掛けからバケツ一杯のお水を幾つか出せばいいのよ」
「あっ、飲み水として出すそれをですか」
「出してですね」
「そしてそのうえで、ですね」
「そのお水を使うんですね」
「それで消すんですね」
「そうすればいいのよ」
 こう五人に言うのでした。
「お水はお水だからね」
「成程、確かに」
「そうすれば問題ありませんね」
「いや、面白いやり方ですね」
「そうすれば本当にいいですね」
「こうした時は工夫よ」
 そちらに頭を使えばいいというのです。
「だから、いいわね」
「はい、わかりました」
「本当にこういうことも工夫ですね」
「工夫をすればですね」
「出来てきますね」
「そうよ、じゃあお水を出すから」
 こうしてです、実際にでした。
 ジュリアはテーブル掛けを出してそこから幾つものバケツに入れたお水を出してです。そうしてそのお水ででした。
 眠り草を燃やした火を消しました、そうして言いました。
「これで後はね」
「花飾りで、ですね」
「ジュリアさんご自身にご褒美ですね」
「草を全部摘み取ったから」
「ええ、それをするわ」
 今からというのです。
「そうするわ」
「わかりました」
「じゃあお花で飾って」
「そうしてですね」
「また出発ですね」
「そうするわ」
 こう五人に応えてでした、そのうえで。
 ジュリアは手早い動きでお花達を取ってそれを絡み合わせて花飾りを作りました。緑の茎や蔦を中心にしてです。
 白や赤、青、黄色に紫、橙に桃色の花達で飾られたその月桂冠の形の冠を被ってです。ジュリアは皆に尋ねました。
「似合ってるかしら」
「うん、とてもいいよ」
「よく似合ってるよ」
「可愛い感じだね」
「その頭が眩しく見えるよ」
 かかしと木樵、ジャックにモジャボロが言いました。
「暫くそのままでいたらどうかな」
「冠を被ったままね」
「冒険したらどうかな」
「悪くないと思うよ」
「そうかしら」
 ジュリアは四人の言葉に少し笑顔になって応えました。
「似合ってるのも意外だけれど」
「いえいえ、よく似合ってますよ」
「とても似合ってます」
「何か妖精みたいで」
「お花の妖精みたいです」
「いい感じですよ」
 今度は神宝達五人がジュリアに言いました。
「今回は冒険の間ずっと付けていてもいいんじゃ」
「妖精さんみたいですから」
「お花がとても似合っていて」
「どのお花もとても奇麗ですし」
「そのままでいいと思います」
「貴方達もそう言うのなら」
 それならと返したジュリアでした。
「それじゃあね」
「はい、そうされた方がいいです」
「ジュリアさんにとっても」
「今回の冒険はこのままいきましょう」
「これから最後まで」
「そうしましょう」
「それじゃあそうするわね」
 ジュリアは頷いてでした、そうしてです。 
 花飾りを頭に飾ったままです、皆と一緒に森を後にしました。そうしてこれまでよりも意気揚々とした感じで言うのでした。
「何か不思議な気持ちよ」
「不思議ですか、やっぱり」
「そうよ、花飾りのお陰でね」
 神宝にその花飾りに手を当てつつ答えました。
「凄くね」
「嬉しいんですね」
「そうなの、こうしたこと自分でしたことははじめてだから」
「花飾りを作られてですか」
「自分で飾ったことはね」
「だからですか」
「いつもオズマ姫やドロシーにもらってね」
 そしてというのです。
「飾ってもらったことはあったし花飾りを作ってね」
「それを他の人に差し上げたことはですね」
「あったけれど」
 それでもというのです。
「自分で自分にははじめてだったわ」
「けれどですね」
「それがね」
「嬉しいんですね」
「自分で作って自分で飾ったりすることも」
 このこともというのでした。
「悪くないですね」
「じゃあこれからは」
「ええ、こうしてね」
「ご自身で、ですね」
「やってもみるわ」
「そうですか」
「さて、それじゃあ日が落ちるまで進んで」
 東、人魚の国までです。
「それからはね」
「晩御飯ですね」
「そうよ、今晩は何を食べようかしら」 
 ジュリアはここで腕を組んで考えてです、それから言いました。
「パスタどうかしら」
「スパゲティですか」
「それですか」
「ええ、オリーブオイルと大蒜を沢山使って」
 そしてというのです。
「チーズも用意して」
「チーズもあるとね」
 神宝に言いました。
「スパゲティは凄く美味しくなるでしょ」
「だからですね」
「そう、チーズも用意して」
「それで何のスパゲティですか?」
「トマトをかなり使ったミートソースよ」
 そのスパゲティというのです。
「パンも用意して。それとデザートはフルーツの盛り合わせで」
「いいですね」
「それと飲みものはミルクね」
 ジュリアはドリンクのことにも言及しました。
「それにしましょう」
「いいですね」
「やっぱりスパゲティ美味しいですよね」
「オリーブと大蒜もあれば余計に」
「それにチーズもあれば最高です」
「もう言うことはありません」
 五人も言います、そしてです。
 皆で十歳位そのスパゲティとミルク、それにデザートのフルーツの盛り合わせを食べるのでした。そうしてです。 
 食べている時にです、神宝はこんなことを言いました。
「麺類でもパスタとね」
「中国の麺とはよね」
「はい、また違いますよね」
 こうジュリアに言うのでした。
「何かと」
「そうよね」
「素材も同じ小麦なのに」
「またね」
「おうどんも小麦粉から作るけれど」
 恵梨香もフォークでスパゲティを食べながら言うのでした。
「パスタやラーメンとは全然違うのよね」
「マカロニやフェットチーネでもね」
 ジョージはこうしたパスタをお話に出しました。
「スパゲティとはまた違うし」
「そうそう、パスタっていっても色々でね」
 カルロスは五人の中で一番勢いよく食べています。
「それぞれ味が違うんだよね」
「そうなのよね、それぞれでね」
 ナターシャも言うのでした。
「食べている感じが全然違うわ」
「そうなのよね、それでね」
 ジュリアも言うのでした。
「その違いを感じるのも楽しいよね」
「そうなんですよね」 
 神宝はジュリアに応えました、勿論食べながらです。
「スパゲティはスパゲティで」
「マカロニやフェットチーネもね」
「それぞれの違いがあって」
「同じパスタでもね」
「それぞれの味を楽しむのもいいですよね」
「本当に」
 こうそれぞれお話してでした。
 そうしてです、神宝は一皿食べてからもう一皿食べますがここでミルクではなく赤ワインを飲んでいるモジャボロに尋ねました。
「モジャボロさんはパスタの時はワインですね」
「うん、この組み合わせがね」
「一番なんですね」
「僕としてはね」
 実際にモジャボロはワインも楽しんでいます。
「やっぱりこれだね」
「パスタには赤ワインですね」
「うん、この組み合わせの美味しさを知ったら」
 それこそというのです。
「こんなにいいものはないよ」
「そうなんですね」
「もう病み付きになるよ」
 そこまでというのです。
「本当にね」
「そうなんですね」
「うん、君達もアルコールのないワインを飲みながらどうかな」
「ミルクもいいにしても」
「こちらも美味しいよ」
「そうなんですね」
「何かね」
 ジュリアがここで言うことはといいますと。
「大人人はパスタを食べる時はワインって人が多いのよね」
「実際にそうだね」
「ええ、美味しいのかしら」
「美味しいよ、気持ちよく酔えるしね」
「そうなのね」
「あとパスタの時は飲まないけれど」
 こうも言ったモジャボロでした。
「りんご酒もいいよ」
「シードルね」
「うん、このお酒も大好きなんだ」
「モジャボロさんは林檎大好きだから」
「そうだよ、このお酒も好きだよ」 
 ワインもいいですがというのです。
「こちらもね」
「そうなのね」
「そう、まあ何時でも飲めるからね」
 りんご酒もというのです。
「またね」
「ええ、じゃあ次の御飯の時にね」
「りんご酒ね」
「出してくれるかな」
「わかったわ、それじゃあね」
「それを出すわ」
「そうさせてくれたら嬉しいよ」
 こうしたことをお話するのでした、そしてです。
 皆でスパゲティを楽しむのでした、それはとてもいい時間でした。



草を毟って花冠を作ったり。
美姫 「本当に旅を楽しんでいるわね」
だな。特に問題もないみたいだし、良い事だよ。
美姫 「人魚の国へはもうすぐかしら」
そちらも楽しみだな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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