『オズのアン王女』
第十幕 黄金の林檎とグリンダの来訪
皆とカリフ王は食事の後皆で一緒にウーガブーの国で遊びました、王様は運転手の人には自由にする様に言ってです。
ジョージ達とスポーツをしました、そのスポーツはバスケットボールですが。
カリフ王は思った以上に俊敏でバスケが好きなジョージも驚きました。
「動き速いですね」
「ははは、驚いたかい?」
「アメフトだけじゃないんですね」
「こちらも結構好きでね」
「よくやっておられて」
「そうなんだ」
得意な方だというのです。
「余もな」
「そうなんですね」
「実はスポーツも好きなんだ」
そちらもというのです。
「それも球技が特にね」
「じゃあサッカーもですね」
カルロスは自分が大好きなこの球技のことを尋ねました。
「お好きですね」
「うん、それもね」
「やっぱりそうですか」
「卓球はどうですか?」
神宝はこの球技について尋ねました。
「そちらも」
「お風呂上がりによくするよ」
「何か本当に色々と」
ナターシャもお話を聞いて言いました、この娘と恵梨香はスカートのままですがちゃんと下にスパッツを穿いて参加しています。
「スポーツお好きですね」
「ノームの人達は戦いからですね」
恵梨香はラゲドー王の頃のことを思い出しています、そのうえでの言葉です。
「スポーツで身体を動かす様になったんですね」
「戦争なんかするよりも」
実際にというカリフ王でした。
「スポーツをした方がずっと身体にいいしね」
「そう、汗をかいて気持ちもすっきりするし」
ドロシーもこう言ってきました。
「戦争よりもスポーツよ」
「そうだね」
「そちらに情熱を向けたらいいのよ」
「我々もそのことに気付いたんだよ」
カリフ王はドロシーにも言いました。
「自然とね」
「そうなのね、それと」
「それと?」
「いや、こうしたお外でのバスケットはね」
それはとです、ドロシーはウーガブーの国の中にある田畑のど真ん中にあるバスケットコートとその周りの田畑を見回しました、ボールが外に出て田畑に入らない様にちゃんととても高い金網で覆われています。
「やっていて気持ちがいいわ」
「はい、体育館でのバスケットボールもいいですが」
「こちらもーーですね」
大尉とチクタクも参加しています。
「青空の下ですることもです」
「清々しいーーです」
「そうなのよね」
「だからここにコートを造ったのよ」
審判役のアンも言ってきました。
「丁度場所も空いてたし」
「だからですね」
「それで置いて、ですね」
「皆楽しんでいる」
「そうなんですね」
「今の私達みたいに」
「そうよ、私もこうして楽しんでるわ」
こうジョージ達五人にも言うのでした。
「明るくね」
「そして汗をかいて」
「そう、三時のティータイムも楽しんで」
「またやるのね」
「そうよ、ただ三時からは別の遊びをしない?」
アンは考えながらドロシーに提案しました。
「そうしない?」
「そうね、それもいいわね」
ドロシーもアンのその言葉に頷きました。
「バスケだけでも飽きるから」
「三時の後はじっくりとね」
「じっくりと?」
「この国を見て回りましょう」
こう言うのでした。
「ウーガブーの国をね」
「僕達を案内してくれるんですか」
「貴方達がこの国にここまで長くいてくれることははじめてだから」
それでとです、アンはジョージに答えました。
「だからね」
「それで、ですか」
「この国の名所を案内させてもらうわ、ただ」
「ただ?」
「小さな国だから」
自分のお国をこうも言ったアンでした。
「すぐに案内も終わるわね」
「そうですか」
「まあそれでもじっくりと見て回ればいいわ」
「それじゃあ」
「ええ、晩御飯まではね」
「そうするんですね」
「そして晩御飯は」
アンはこの時のこともです、ジョージ達にお話しました。
「黄金の林檎が出るから」
「凄く楽しみにしています」
「そうしておいてね」
こうしたことをお話してでした、皆でです。三時までバスケットボールをしてそうしてティータイムの後はウーガブーの国の中を案内してもらって。
そのうえで宮殿で晩御飯となりました、するとです。
デザートに黄金の林檎があります、ジョージ達はその林檎を見て笑顔で言いました。
「いよいよだね」
「黄金の林檎を食べられるね」
「デザートにあるから」
「デザートの時には」
「食べられるわね」
「ええ、けれどまずはね」
アンは気持ちが逸る皆に笑顔で言いました。
「コースを食べましょう」
「今晩はロシア料理なのね」
ドロシーはそのお料理を見て言いました。
「濃いサラダにボルシチ、ピロシキに」
「そう、鱒のフライにね」
「ビーフストロガノフ、あとロールキャベツね」
ロシア風のロールキャベツです、コースのメニューに書かれています。
「コースで出してくれるのね」
「そうよ」
「じゃあ最後の最後で」
「黄金の林檎よ、私も食べるわ」
「そうするのね」
「もう一個食べたらね」
それでというのです。
「どんなものを食べてもお腹が痛くならないのよ」
「そこまで凄いのね」
「万能の霊薬でもあるから」
「それでなのね」
「海老やお蕎麦が駄目な人でも」
「食べても平気になるの」
「一ヶ月はね」
その間はというのです。
「まさにね」
「それだけ凄いのね」
「味も別格だし」
「そうそう、だから私もなのよ」
「おじさんとおばさんの結婚記念日のプレゼントにしたのね」
「そうよ」
まさにというのです。
「美味しいだけじゃないから」
「そしてその林檎を」
「皆で一個ずつ食べるのよ」
その林檎をというのです。
「いいわね」
「わかりました」
「ではまずはコースを食べましょう」
こうしてでした、皆はです。
まずはサラダやボルシチを順番よく食べました、それからいよいよデザートの黄金の林檎となった訳ですが。
その林檎を食べてです、ジョージはびっくりしたお顔で言いました。
「これは」
「うん、凄いよ」
「こんな美味しい林檎はじめてだよ」
神宝とカルロスも言います。
「蜂蜜よりも甘くて」
「すっきりとした酸味もあって」
「食べた後あっさりしてるわ」
「これだけ甘いのにしつこくないわ」
ナターシャと恵梨香も言います。
「歯ざわりもしゃっきとしてて」
「それでいて硬過ぎなくて」
「想像していたよりもずっと美味しいよ」
また言ったジョージでした。
「これは本当に凄いよ」
「普通の林檎よりもね」
アンも黄金の林檎を食べつつ言います。
「遥かに美味しいのよ」
「本当にそうなんですね」
「そう、そしてね」
さらに言うのでした。
「これを食べたらね」
「凄く元気になるんですね」
「ええ、万能の霊薬でもあるから」
「それでなの」
「そう、普通の林檎も栄養の塊だけれど」
「黄金の林檎はですね」
「普通の林檎よりも遥かによ」
それこそというのです。
「栄養があってね」
「一個食べただけで」
「物凄く元気になれるのよ」
「アレルギーも」
「一個食べたら」
まさにそれだけでというのです。
「一ヶ月はどんなアレルギーもよ」
「意味がないんですね」
「そうなるの」
「そこまで凄いんですね」
「うん、この林檎は何時食べてもいいね」
カリフ王も食べつつ言います。
「美味しいよ」
「そうでしょ」
「滅多に食べられないこともあって」
「余計になのね」
「いいね」
「稀少価値ね」
「それもあるよ」
実際にとです、カリフ王は言うのでした。
そして黄金の林檎のキラキラと輝いている皮を見て言うのでした。
「金みたいだね」
「そうでしょ、皮はね」
「黄金そのものに見えるよ」
「黄金の林檎は伊達じゃないよ」
「そうね、黄金だけの価値があるね」
「その通りだね」
また言ったカリフ王でした。
「いいものだよ、それとだけれど」
「それと?」
「何か気にしていることがあるかな」
アンのお顔を見てです、カリフ王は尋ねました。
「今ね」
「ええ、実はね」
アンはカリフ王の言葉を受けてです、予言のことをお話しました。そのうえでカリフ王に対してこうも言いました。
「カリフ王が来たことがね」
「その予言なのか」
「そうも思ってるけれど」
「余が来たことが」
「それじゃないかしらって思ってるけれど」
「それじゃあそれではないか?」
カリフ王はアンの言葉に考えるお顔で答えました。
「実際に」
「カリフ王はそう思うの?」
「余はそう思うがね」
「じゃあそれかしら」
「そうではないか」
またこう言ったカリフ王でした、黄金の林檎を食べつつ。
「ではいいか」
「そうね、悪いことが起こることは」
「オズの国ではないしな」
「ではそれかしら」
「そう思うが」
「じゃあね」
それならと言ったアンでした。
「もうこのことを考えることもね」
「ないのではないか」
「そうなるかしら」
「うむ、では明日またな」
「皆で遊んで楽しんで」
「過ごすか」
「そうね、王様は明後日よね」
アンは自分からもカリフ王に尋ねました。
「お国の方に」
「帰るぞ」
「そうするわね」
「うむ、その時まで楽しもう」
「そうしましょう」
アンはこの時は予言はカリフ王が来たことだと納得してでした。そのうえで考えることを止めました。そしてドロシーと一緒にお風呂に入ってサウナの中で言いました。
「カリフ王とお話したけれど」
「晩御飯の時にそうしていたわね」
「予言はね」
「やっぱりカリフ王が来たこと?」
「そうじゃないかしら」
「じゃあもう」
「予言のことは終わりで」
「それでね」
まさにというのでした。
「いいかしら」
「このことは終わりね」
「そう思うけれどね」
「そうね」
少し考えてです、ドロシーもアンに答えました。
「私もね」
「ドロシ−王女もそう思うの」
「貴女のお話を聞いたらね」
「そう思えるのね」
「ええ」
そうだというのです。
「私もね」
「そうなの、ただ」
「ただ?」
「まあ用心はね」
「しておいた方がいいのね」
「そう、確かに終わったお話だけれど」
それでもというのです。
「自分でそう思ってるだけってあるわよね」
「そうね、実はってことが」
「だからね」
「ここで油断しないで」
「何が起こってもね」
「いい様にはなのね」
「心構えはしておいてね」
こう言うのでした。
「私もそうしておくし」
「私もなのね」
「そうしておくべきだと思うわ」
「わかったわ」
アンはドロシーのその言葉に頷きました。
「それじゃあ」
「心構えはなの」
「しておくわ」
こう言ってでした、そのうえで。
アンは確かなお顔になりました、そうしてドロシーにあらためて言うのでした。
「終わったこと、けれどね」
「若し何かがあってもね」
「それで狼狽したりしないわ」
「そうしてね」
「何といっても私はこの国の国家元首だから」
「ウーガブーの国の」
「だからね」
その心構えは確かにあります、アンの中にもオズマと同じ芯があるのです。
「しっかりしていくわ」
「頑張ってね」
「是非ね、それじゃあね」
「そういうことでね」
こうしたお話をしてでした、アンはサウナの中で言いました。
「それでこのサウナだけれど」
「サウナがどうかしたの?」
「いえ、こうして汗をかいてね」
そしてというのです。
「一日凄く動いた後でまた汗をかいて」
「そしてよね」
「水風呂にも入ってまたね」
「このサウナに入って」
「そうしてるとね」
アンは身体全体から汗をかきながらドロシーにお話しました。
「気分もよくなるわね」
「そうね、身体も奇麗になるし」
「身体の中から」
「サウナって凄く汗をかくから」
まさにそれで、というのです。
「いいのよね」
「徹底的にね」
「徹底的に汗をかいて」
「身体の中までね」
「悪いものも出すし」
所謂老廃物と言われるものをです。
「それがいいのよね」
「そうそう」
「それとね」
「お湯のお風呂も入って」
「そちらもいいのよね」
勿論こちらも楽しむのです。
「薬膳湯もね」
「そちらもね」
ここで、です。アンはその薬膳湯にこうも言いました。
「今日の薬膳湯はシャンパン湯よ」
「昨日のワイン風呂とはまた違うわね」
「そう、ワインと言えばワインだけれど」
「シャンパンだからね」
「また別ね」
「入った時の感覚も」
それもというのです。
「シャンパンの泡でね」
「また違うわね」
「だから今日はその泡の感覚もね」
「楽しんで」
「そうしてね」
「わかったわ」
ドロシーもにこりと笑ってです、アンに応えました。
「それじゃあね」
「二人でね」
「楽しみましょう」
こうお話してでした、二人はシャンパンのお風呂も入りました。
泡立っていてしかもいい香りのお風呂に入ってです、ドロシーは一緒に入っているアンにこうしたおkとを言いました。
「シュワシュワってね」
「くるでしょ」
「泡のお風呂らしくてね」
「この感覚がいいのよね」
「そうね」
アンににこりとして言いました。
「素敵な感じよ」
「香りもいいし」
「アンはこのお風呂が一番好きなの?」
「ううん、そう言われると」
「そうでもないの」
「このお風呂も好きだけれど」
それでもというのです。
「他のお風呂も好きだし」
「ワイン風呂も」
昨日のお風呂もです。
「好きなの」
「あのお風呂もよかったわね」
「ええ、林檎風呂もあるし」
「林檎ね」
「林檎のエキスが入ったね」
「ひょっとして」
ドロシーはアンのその言葉を聞いて彼女に笑顔で尋ねました。
「アンが一番好きなお風呂は」
「そうかも知れないわ」
アン自身否定しませんでした。
「林檎だからね」
「やっぱりそうなのね」
「林檎の香りも好きだし」
「それでなのね」
「林檎のお風呂大好きよ」
「じゃあ林檎のお風呂の日は」
「じっくり楽しみたいわ」
アンもにこりと笑って言います、そうしたお話をしてでした。
お風呂を楽しんでこの日は終わりました、次の日朝御飯の後皆で今日は何をして遊ぼうかとお話をしていますと。
そこにです、何とです。
ウーガブーの国に向かってバラバラと音がしてきました、それで皆でお外の方に出てみますと。
お空に赤い丸い形のヘリコプターが飛んできていました、ドロシーはその色とヘリコプターの前にある紋章を見て言いました。
「あれはカドリングのヘリコプターよ」
「カドリングっていうと」
「そう、多分だけれど」
こう前置きしてです、ドロシーはアンに言いました。
「グリンダのヘリコプターよ」
「魔法使いグリンダの持っている?」
「そう、ヘリコプターよ」
それだというのです。
「あれはね」
「あの人ヘリコプターも持ってるの」
「そう、オズの国の魔法と科学を使ってね」
「造ったのね」
「オズマ、魔法使いさんと一緒によ」
「そうだったの」
「オズマも同じものを持っているわ」
ヘリコプター、それをというのです。
「エメラルドの都のものは緑でね」
「エメラルドの都の色ね」
「もう三機、青と黄色、紫のものもあるわ」
オズの国それぞれの色です。
「そして赤いヘリコプターはね」
「カドリングの国にあって」
「グリンダが持っているの」
「成程ね、それじゃあ」
ドロシーのお話を聞いてです、アンは言いました。
「あのヘリコプターにはグリンダさんが乗ってるの?」
「どうかしら、グリンダならね」
オズの国の偉大な魔法使いである彼女ならというのです。
「ヘリコプターに乗らなくても」
「普通になのね」
「ここまで来られる筈だから」
それもすぐにです。
「ヘリコプターで来ないと思うわ
「それじゃあ」
「ええ、あのヘリコプターにはね」
「グリンダさんは乗っていないのね」
「そういえば私達は」
ナターシャはその赤いヘリコプターを見上げつつ言いました。
「グリンダさんには」
「あまりお会いしてないわね」
恵梨香も言います。
「そういえば」
「色々な人達に会ってるけれど」
オズの国のです、神宝も言います。
「グリンダさんにはね」
「これまであまりお会いしてなくて」
カルロスもこれまでオズの国に来た時、今も含めて思い出して言いました。
「お話したこともね」
「なかったね、今回もなのかな」
最後にジョージが言いました。
「グリンダさんにはお会い出来ないの」
「どうかしら、とにかくね」
ドロシーは五人にはこう言うのでした。
「あのヘリコプターはカドリングの国のもので」
「グリンダさんが送られたことは間違いないです」
そうだとです、大尉も五人にお話します。
「そのことは」
「誰がーー乗ってーーおられるか」
チクタクが言うことはといいますと。
「降りられてーーからーーですね」
「ううん、降りてくる場所は」
トトはヘリコプターの動きを見てその場所を分析しています。
「国の入口だね」
「そうね、じゃあそっちに行きましょう」
アンはトトの言葉を受けて皆に言いました。
「今からね」
「じゃあそうしましょう」
ドロシーがアンのその言葉に応えてでした、そのうえで。
皆は村の入口に向かいました、そうしてそこに行くとです。ヘリが着陸してでした。そこから出て来た人はといいますと。
赤い詰襟のボタンや肩章は金色で軍服に膝までのスカートとブーツ、奇麗な帽子を付けた奇麗な女の人の兵隊さんが出て来ました。
その兵隊さんがです、アンに敬礼してから言ってきました。
「お久しぶりです、アン王女」
「あら、貴女は確か」
「はい、カドリング軍のレッド=エサカ大佐です」
黒髪をロングヘアにしていて黒い大きな目は切れ長です。お人形さんみたいなお顔で小柄で楚々とした外見です。
そのレッド大佐がです、アンに言ってきました。
「今日は我が主グリンダの使者として来ました」
「あの人からの」
「グリンダ様は明日来られますので」
「この国に?」
「アン王女とノーム王にお話したいことがあるとのことです」
「余にもか」
「はい」
大佐はカリフ王に微笑んで答えました。
「左様です」
「グリンダさんの力なら余が何時何処にいるのかもわかるからか」
「ノーム王にもです」
「お話したいことがありまして」
「それでなのか」
「はい、明日この国に来られます」
ウーガブーの国にというのです。
「そうされます」
「そうなのね」
「明日か」
「それで私は先にお知らせする使者としてです」
その立場として、というのです。
「ヘリコプターで来ました」
「そうだったの」
「はい、お騒がせしたでしょうか」
「いえ、別にね」
アンは大佐に微笑んで答えました。
「驚いていないわ」
「そうであれば何よりです」
「こちらこそね」
「あと、いいですか?」
ジョージは大佐のお顔を見ながら本人に尋ねました。
「一つ気になったことがありますが」
「何でしょうか」
「大佐はアジア系ですね」
ジョージが尋ねたのはこのことでした。
「それもお名前から日系の方ですよね」
「はい、そうです」
その通りだとです、大佐はジョージににこりと笑って答えました。
「私は日系人です」
「やっぱりそうですね」
「アメリカには日系の人もいますので」
「だからですよね」
「私の様なものもいます、我が軍の元帥はアフリカ系の方ですし」
「アメリカの大統領と同じですね」
「その様ですね」
大佐は二人に笑顔でお話しました。
「そちらのお国も」
「そういえばオズの国も最初は」
その時のことはです、大尉は言いました。
「白人しかいませんでした」
「そうでしたね」
「そう、それがです」
今のオズの国はといいますと。
「アジア系、アフリカ系、ヒスパニックとです」
「色々な人が一緒にいますね」
「五つの国全てに」
「中華街もありますし」
「かなり変わりましたね」
「そうですよね」
「ドロシー王女が最初に来られた頃はです」
大尉はその時のこともお話しました。
「実はもっと違っていました」
「そうだったの?」
「はい、色々な人達もです」
「あの時よりなの」
「少なかったです、非常に」
「そうだったの」
「かかしさんも木樵さんもおられなくて」
今ではオズの国では誰でも知っている人達です、ドロシーと同じく。
「同じ様な人達ばかりでした、それぞれの国で」
「私がはじめて来た時も白人ばかりだったけれど」
「それが変わってきましたね」
徐々にです。
「オズの国は」
「何時の間にかね」
「ネイティブの人達もですね」
「見たことがなかったわ」
「ですが今はです」
「あの人達もいて」
そしてです。
「幸せにね」
「楽しく過ごされていますね」
「随分変わったわ」
本当にでした、オズの国もまたです。
「そしてジョージ達も来て」
「はい、オズの国は更に多彩になりましたね」
「そして大佐もなのね」
「そうです、日系人です」
大佐もドロシーに応えます。
「この通り」
「アメリカにも日系人がいるから」
「私もここにいます」
「そうね、じゃあ」
「これから宜しくお願いします」
「こちらこそね」
「それで、だけれど」
ここで、です。アンが大佐に言ってきました。
「貴女はこの国に留まるの?」
「はい、使者として来て」
そしてというのです。
「グリンダ様を護衛します」
「そうするの」
「今日は私一人です」
「そして明日になのね」
「グリンダ様は瞬間移動でこの国に来られます」
大佐は移動方法もお話しました。
「明日の朝に」
「今日はーー来られないーー理由は」
チクタクは大佐にこのことを尋ねました。
「どうしてーーでしょうーーか」
「はい、お仕事がありまして」
「カドリングーーで」
「そうです、ですから」
だからだというのです。
「今日は無理なのです」
「わかりーーました」
「それでは」
「明日ーーですーーね」
「お待ちして下さい」
「では余はグリンダさんと会おう」
カリフ王はここまで聞いて言いました。
「そうするとしよう」
「はい、是非です」
「グリンダさんとしてもだな」
「そうして欲しいです」
「そしてだな」
「グリンダさんとお会いして下さい」
「それではな」
こうしてでした、皆でです。
この日は大佐のお話を詳しく聞くことにしました、まずはそれからでした。
大佐とは宮殿の会議室でお話してでした、アンは詳しいお話を聞いて言いました。
「グリンダさんが来られてからなのね」
「はい、詳しいことはです」
「お話してくれるの」
「アン王女にもカリフ王にも」
二人共、というのです。
「お話したいことはです」
「その時になのね」
「されるとのことです」
「そうなのね、わかったわ」
「では私はです」
ここで大佐は生真面目な声で言いました。
「今日は皆様の警護をさせて頂きます」
「いえ、いいわよ」
アンは大佐の言葉にすぐに言い返しました。
「別に」
「そうですか」
「だって兵隊さんなら私の国にもいるし」
それにというのです。
「しかもね」
「しかも?」
「貴女はお客さんだから」
だからというのです。
「そんなことはしなくていいわ」
「それでは」
「一緒に遊びましょう」
アンは大佐ににこりと笑って答えました。
「今日はね」
「遊びですか」
「遊ぶわよね、貴女も」
「遊びと言われましても」
戸惑った声で、でした。大佐はアンに答えました。
「私はそうしたことは」
「しないの?趣味は?」
「読書、音楽鑑賞、仕事の勉強に乗馬、そしてヘリコプターの操縦です」
「あら、遊びはないの」
「剣術の稽古は日課してしていますが」
「フェンシングね」
「はい、ですがスポーツは乗馬と剣術だけで」
やっぱり生真面目な感じで言います。
「他は」
「剣道は?」
アンはふとこちらも尋ねました。
「しないの?」
「私が日系人だからですか」
「ええ、だからふと思ったけれど」
「剣道もしないです」
大佐はまた答えました。
「そちらも」
「そうなのね」
「フェンシングはしますが」
「剣術はそちらなのね」
「はい、他はしません」
「それと乗馬ね」
「そうです」
本当にこれだけだというのです。
「私は」
「それはまた、けれど球技や他の遊びは出来るわよね」
「自分ではそう思いますが」
「ならいいわ、一緒に楽しみましょう」
「遊びをですか」
「色々あるから」
遊びと一口に言ってもです。
「楽しみましょう」
「それでは」
大佐はアンに生真面目に応えました、そのうえで皆と一緒に遊びはじめましたが今日の遊びはウーガブーの国の花園で隠れんぼでした。
薔薇や菫、菊に菖蒲に牡丹に向日葵とです。色々なお花が壁の様に飾られているその中を隠れんぼしていますが。
鬼役のアンは皆を次々に探し出して言いました。
「後は大佐だけだけれど」
「僕まで見付けるなんてね」
アンの足元からトトが言ってきました。
「お花の下の方に隠れていたのに」
「草木の中にね」
「それで見付けるなんてね」
「いえ、わかったわ」
「すぐに?」
「貴方の毛の色でね」
アンのそれでというのです。
「わかったわ」
「そこも考えて物陰に隠れたけれど」
「私にはわかったわ」
「どうしてなのかな」
「だってここは私の国で」
それでというのです。
「生まれてからずっと国の隅から隅までね」
「見て回ってるからかな」
「そう、毎日ね」
そうして国の状況をチェックしているのです、アンは毎日絶対に一度はそうして国の状況を把握していてそのうえで政治を行っているのです。
「だからね」
「それでなんだね」
「そうよ、わかるわよ」
「他の皆もですね」
ジョージは今その場にいる皆も見て言いました。
「アン王女に見付かってしまいましたが」
「ええ、ただね」
「大佐だけは」
「いないわね」
「このお庭におられる筈ですが」
「どうしてかしら」
首を傾げさせてまた言ったアンでした。
「見付けられないのかしら」
「まさか忍者みたいに」
ここで大尉はこんなことを言い出しました。
「隠れているとか」
「日本のーーですね」
チクタクは忍者と聞いて両手を忍者の結ぶ印にしました。
「そちらーーですーーね」
「日本の忍者は有名ですからね」
カルロスも実は忍者には憧れています。
「強くて素早くて格好よくて」
「手裏剣を投げて分身の術を使って」
神宝は忍者の術のお話をしました。
「何といっても隠れることが上手です」
「日本といえば武士か忍者ですよね」
ナターシャも日本に来るまではこう考えていました。
「その忍者ですね」
「まさか大佐は忍者でもあるので」
日本人の恵梨香もこう考えるのでした。
「隠れるのが上手でしょうか」
「そうかも知れないわね」
ドロシーも大佐が忍者である可能性を考えました。
「それじゃあ相当隠れるのが上手かしら」
「そうね、少なくとも私がまだ見付けていないから」
だからと言ったアンでした。
「隠れることは相当に上手ね」
「じゃあそれが何処か」
「少し考えてみるわね」
自分と同じく鬼役のドロシーに言います。
そして少し考えてです、ドロシーに言いました。
「これまで物陰や足元を見てきたわね」
「隠れる場所としてね」
「薔薇の草花を使った壁の向こうとか」
「そうしたところをね」
「けれどね」
「けれど?」
「上はどうかしら」
アンは利発そうに笑ってドロシーに尋ねました。
「木の上は」
「あっ、木の上は」
ドロシーも言われてはっとなりました。
「確かに」
「これまで見ていなかったわね」
「そうでしょ、だからね」
「木の上をなのね」
「見て行きましょう」
「それじゃあ」
「ここはね」
あらためてでした、アンとドロシーはです。一緒に木の上を見ました。花の園にはそうした木々もあるからです。
そして見るとです、一際高い林檎のまだお花が咲いていない木の中にでした。
大佐が隠れていました、アンはその大佐を見上げて笑顔で言いました。
「見付けたわよ」
「わかりましたか」
「ええ、気付いたわ」
「ここならと思ったのですが」
大佐は木の中から跳んででした、そうして。
スカートの中が見えない様に脚にぴったりと付けて身体を丸めてくるくると回転させてです。両膝を折って着地しました。
それから立ち上がってです、こう言いました。
「花の園で今は木の上にはお花が咲いていないので」
「お花に注目してね」
「人を探すにしましても」
それでもというのです。
「木の上となりますと」
「私もそう思ったわ」
「しかしですか」
「けれどちょっと考えなおしたのよ」
「しかしここで、ですね」
「木の上もかもって思ってね」
「そしてその通りだったということですか」
大佐は少し苦笑いになって述べました。
「驚きです」
「よく考えたわね」
「隠れることもです」
まさにとです、大佐はアンに答えました。
「軍人は時として必要ですから」
「忍者みたいに?」
「はい」
大佐はアンにはっきりとした口調でまた答えました、このことも軍人らしいです。
「そうです」
「そうなのね」
「私は忍者ではないですが」
それでもというのです。
「しかしです」
「隠れることはなのね」
「心掛けています」
「時に応じて」
「そしてそうしていましたが」
「正直私もね」
アンはその大佐にこう言いました。
「今回は見付けられるかどうか」
「自信がなかったですか」
「いえ、自信はあったわ」
そちらはというのです。
「ちゃんとね、けれどね」
「それでもですか」
「何処に隠れたのかって思ったわ」
「この花園の中の」
「この中にいることは間違いないから」
今回のかくれんぼはこの花園の中で行われることは決まっていたからです、約束は破らないことはオズの国の法律の大事なことの一つです。
「それで下にいないのなら」
「上ですか」
「ふとドロシーとお話して気付いたから」
「見付けられたということですね」
「そうよ」
「わかりました、私も訓練が足りませんね」
「いえ、本当に見付けることが難しかったから」
だからとです、アンは大佐に言葉を返しました。
「貴女は凄かったわ」
「そうですか」
「本当にね」
「やはり最後まで見付からないことがです」
大佐は悔しそうに言いました。
「いいので」
「軍人としては?」
「ですからまことに残念です」
「ううん、大佐は真面目ね」
「騎士かお侍さんみたいね」
ドロシーもその大佐を見て言いました。
「大佐は」
「そうですね、何かです」
カルロスもそんな大佐を見てドロシー達に言いました。
「大佐ってそうした感じですよね」
「生真面目で完璧主義で礼儀正しくて」
ナターシャは大佐のそうした気質を理解しています、よく見たうえで。
「本当に騎士かお侍さんみたいですね」
「剣術や馬術がお好きみたいですし」
神宝は騎士やお侍のすることと大佐が好きなことが一緒であることから言います。
「その通りですね」
「物腰も」
恵梨香は大佐の折り目正しくぴしっとした仕草を見ていました。
「そうですし」
「軍服も奇麗ですしね」
ジョージは大佐のよくアイロンがけがされていて埃一つないそれを見ています、ブーツも実に奇麗に磨かれています。
「完璧な位に」
「軍服等の手入れは怠っていません」
大佐はその生真面目な声でジョージ達に答えました。
「毎朝自分でアイロンをかけて磨いて埃を落としています」
「うわ、凄いですね」
「ご自身でされてるんですか」
「アイロンがけも靴磨きも」
「全部ですか」
「それも毎朝」
「身だしなみがよくなくては」
また五人に言った大佐でした。
「軍人として示しがつきません」
「本当に騎士かお侍みたいね」
アンはそんな大佐のお言葉を聞いて微笑んで言いました。
「けれどそうした感じもいいですね」
「そうですか」
「それも大佐の個性だから」
「だからですか」
「いいと思うわ、ではね」
ここまでお話してでした、アンは大佐も含めて皆で遊び続けました。この日はこうして皆で遊んででした。そのうえで。
明日のグリンダの訪問のことをです、カリフ王達と夜のお風呂の後でお話しました。
「さて、グリンダさんが来られたら」
「うむ、皆でな」
カリフ王が笑顔で応えました。
「おもてなしをしよう」
「カリフ王もお客さんだから」
「余もか」
「おもてなしを受けて」
そうして欲しいというのです。
「貴方もこのままね」
「そうか、ではな」
「その様にね」
「さて、明日も楽しみですね」
「はいーー全くーーです」
大尉とチクタクも言います。
「グリンダさんとお会いするのは久し振りです」
「お話したいーーですーーね」
「ええ、おもてなしの用意は出来たから」
この日のうちにです、ドロシーはこのことをお話しました。
「明日もね」
「楽しみましょう」
「グリンダも入れてね」
ドロシーはにこやかに笑ってアンに応えました、そして皆でこの日も笑顔でベッドに入ってぐっすりと眠りました。
本当に予言は終わったのか。
美姫 「うーん、どうかしらね」
グリンダが来るみたいだし、まだ分からないか。
美姫 「その二人が来るという予言だったとか」
それなら良いけれどな。
美姫 「このまま何事もなく終わるのかしら」
次回も気になります。
美姫 「次回を待っていますね」
ではでは。